特許第6978024号(P6978024)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6978024
(24)【登録日】2021年11月15日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】制震ダンパー
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/06 20060101AFI20211125BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20211125BHJP
   F16F 15/067 20060101ALI20211125BHJP
   F16F 1/12 20060101ALI20211125BHJP
   F16F 1/06 20060101ALI20211125BHJP
   F16F 3/04 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   F16F15/06 G
   E04H9/02 351
   F16F15/067
   F16F1/12 N
   F16F1/06 Z
   F16F3/04 Z
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2021-105911(P2021-105911)
(22)【出願日】2021年6月25日
【審査請求日】2021年8月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599148226
【氏名又は名称】株式会社エンドレスアドバンス
(73)【特許権者】
【識別番号】521279550
【氏名又は名称】小林 明
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 典子
(72)【発明者】
【氏名】花里 功
(72)【発明者】
【氏名】小林 明
【審査官】 杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−282342(JP,A)
【文献】 実開昭54−069287(JP,U)
【文献】 特開2019−199888(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0183802(US,A1)
【文献】 特開2020−029925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/06
E04H 9/02
F16F 15/067
F16F 1/12
F16F 1/06
F16F 3/04
F16F 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒(2)と、
前記外筒(2)の内部に軸方向に所定の距離を空けて配置された第1及び第2の軸受部(5A,5B)と、
前記第1及び第2の軸受部(5A,5B)により軸方向に摺動自在にそれぞれ支持された第1及び第2のシャフト部(3A,3B)であって、各々の一端(31a,31a)同士は互いに離間して対向すると共に、前記第1のシャフト部(3A)の他端(31b)は前記外筒(2)の一端から突出する一方、前記第2のシャフト部(3B)の他端(31b)は前記外筒(2)内に位置する、前記第1及び第2のシャフト部(3A,3B)と、
前記第1及び第2のシャフト部(3A,3B)の前記一端(31a,31a)同士を連結する連結部と、
前記第1及び第2のシャフト部(3A,3B)にそれぞれ設けられた第1及び第2のばね受皿部(6A,6B)と、
前記第1の軸受部(5A)と前記第1のばね受皿部(6A)との間及び前記第2の軸受部(5B)と前記第2のばね受皿部(6B)との間でそれぞれ支持される第1及び第2のコイルばね(4A,4B)と、
制震対象物に取り付けるために、前記第1のシャフト部(3A)の他端(31b)に設けられた第1の取付部(32)及び前記外筒(2)の他端(2b)に設けられた第2の取付部(23)とを有する制震ダンパー。
【請求項2】
前記第1及び第2のコイルばね(4A,4B)の各々の初期荷重をそれぞれ調整するために、前記第1のばね受皿部(6A)の前記第1のシャフト部(3A)に対する軸方向位置、及び、前記第2のばね受皿部(6B)の前記第2のシャフト部(3B)に対する軸方向位置をそれぞれ調整する第1の調整手段を有する、請求項1に記載の制震ダンパー。
【請求項3】
前記1の調整手段が、
前記第1及び第2のシャフト部(3A,3B)の各々の一端(31a,31a)近傍にそれぞれ形成された外螺子(34,34)と、
前記外螺子(34,34)の各々と螺合するように前記第1及び第2のばね受皿部(6A,6B)の各々にそれぞれ形成された内螺子(63,63)とを有する、請求項2に記載の制震ダンパー。
【請求項4】
前記第1の調整手段が、
前記第1及び第2のシャフト部(3A,3B)の各々の一端(31a,31a)近傍にそれぞれ形成された径方向外向きのフランジ部(35,35)と、
前記第1及び第2のばね受皿部(6A,6B)の各々と前記フランジ部(35,35)の各々との間にそれぞれ挿入された所定の軸方向長さをもつ円筒カラー部材(8,8)とを有する、請求項2に記載の制震ダンパー。
【請求項5】
前記第1及び第2のコイルばね(4A,4B)の各々の初期荷重をそれぞれ調整するために、前記第1及び第2のシャフト部(3A,3B)の各々の前記連結部に対する軸方向位置をそれぞれ調整可能な第2の調整手段(7)を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の制震ダンパー。
【請求項6】
前記第2の調整手段(7)が、
前記第1及び第2のシャフト部(3A,3B)の各々の一端(31a,31a)と前記連結部における軸方向の第1及び第2の端部の各々とをそれぞれ螺合する螺合手段である、請求項5に記載の制震ダンパー。
【請求項7】
前記螺合手段が、
前記第1及び第2のシャフト部(3A,3B)の各々の一端から軸方向にそれぞれ穿設された凹部内の内螺子(33,33)と、
前記連結部における前記第1の端部に形成され前記第1のシャフト部(3A)の内螺子(33)と螺合する第1のボルト部(72)と、前記第2の端部に形成され前記第2のシャフト部(3B)の内螺子(33)と螺合する第2のボルト部(73)とを有する、請求項6に記載の制震ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物に取り付けられる制震ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
地震による揺れを軽減するために建築物の柱と梁の間、床と天井の間などに配置される制震ダンパーが知られている。一般的な制震ダンパーであるオイルダンパーでは、筒体に充填されたオイル中をピストンが摺動することによって、建築物の揺れを減衰させる(特許文献1、2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−097586号公報
【特許文献2】特開2011−163380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
制震ダンパーとしてオイルダンパーを使用する場合、以下のような問題点がある。
・オイルダンパーは、オイルの界面活性剤の劣化により耐年数が確保できない。
・長期使用(例えば10年程度)によりオイルシールが劣化することによってオイル漏れが発生する。オイルシールは、作動時に潤滑性能を確保することから、非作動期間が長くなる制震ダンパーではシールの貼り付きや劣化が起きやすい。その結果、震災時に作動するときにオイル漏れを生じる。
・高圧ガス封入、オイル封入されているため、建物火災の際には破裂、炎上の危険性がある。また、湿気や使用状況により内部に錆が発生することでも破損、劣化につながる。
・オリフィスを有するオイルダンパーは、初期の作動時から直ちに荷重(減衰力)が立ち上がらない。またオイル制御のオリフィスは、大径になるほど初期の荷重の立ち上がりが安定しない。
【0005】
以上のことから、オイル式の制震ダンパーでは、耐久性と作動性能を確保することが困難であった。本発明は、上記の問題点に鑑み、耐久性と作動性能を確保できる制震ダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題を解消するべく、本発明は、以下の構成を提供する。括弧内の数字は、後述する図面中の符号であり、参考のために付するものである。
− 本発明の態様は、制震ダンパーであって、外筒(2)と、
前記外筒(2)の内部に軸方向に所定の距離を空けて配置された第1及び第2の軸受部(5A,5B)と、
前記第1及び第2の軸受部(5A,5B)により軸方向に摺動自在にそれぞれ支持された第1及び第2のシャフト部(3A,3B)であって、各々の一端(31a,31a)同士は互いに離間して対向すると共に、前記第1のシャフト部(3A)の他端(31b)は前記外筒(2)の一端から突出する一方、前記第2のシャフト部(3B)の他端(31b)は前記外筒(2)内に位置する、前記第1及び第2のシャフト部(3A,3B)と、
前記第1及び第2のシャフト部(3A,3B)の前記一端(31a,31a)同士を連結する連結部と、
前記第1及び第2のシャフト部(3A,3B)にそれぞれ設けられた第1及び第2のばね受皿部(6A,6B)と、
前記第1の軸受部(5A)と前記第1のばね受皿部(6A)との間及び前記第2の軸受部(5B)と前記第2のばね受皿部(6B)との間でそれぞれ支持される第1及び第2のコイルばね(4A,4B)と、
制震対象物に取り付けるために、前記第1のシャフト部(3A)の他端(31b)に設けられた第1の取付部(32)及び前記外筒(2)の他端(2b)に設けられた第2の取付部(23)とを有する。
− 上記態様において、前記第1及び第2のコイルばね(4A,4B)の各々の初期荷重をそれぞれ調整するために、前記第1のばね受皿部(6A)の前記第1のシャフト部(3A)に対する軸方向位置、及び、前記第2のばね受皿部(6B)の前記第2のシャフト部(3B)に対する軸方向位置をそれぞれ調整する第1の調整手段を有することが好適である。
− 前記1の調整手段が、
前記第1及び第2のシャフト部(3A,3B)の各々の一端(31a,31a)近傍にそれぞれ形成された外螺子(34,34)と、
前記外螺子(34,34)の各々と螺合するように前記第1及び第2のばね受皿部(6A,6B)の各々にそれぞれ形成された内螺子(63,63)とを有することが好適である。
− 前記第1の調整手段が、
前記第1及び第2のシャフト部(3A,3B)の各々の一端(31a,31a)近傍にそれぞれ形成された径方向外向きのフランジ部(35,35)と、
前記第1及び第2のばね受皿部(6A,6B)の各々と前記フランジ部(35,35)の各々との間にそれぞれ挿入された所定の軸方向長さをもつ円筒カラー部材(8,8)とを有することが好適である。
− 上記態様において、前記第1及び第2のコイルばね(4A,4B)の各々の初期荷重をそれぞれ調整するために、前記第1及び第2のシャフト部(3A,3B)の各々の前記連結部に対する軸方向位置をそれぞれ調整可能な第2の調整手段(7)を有することが好適である。
− 前記第2の調整手段(7)が、
前記第1及び第2のシャフト部(3A,3B)の各々の一端(31a,31a)と前記連結部における軸方向の第1及び第2の端部の各々とをそれぞれ螺合する螺合手段であることが好適である。
− 前記螺合手段が、
前記第1及び第2のシャフト部(3A,3B)の各々の一端から軸方向にそれぞれ穿設された凹部内の内螺子(33,33)と、
前記連結部における前記第1の端部に形成され前記第1のシャフト部(3A)の内螺子(33)と螺合する第1のボルト部(72)と、前記第2の端部に形成され前記第2のシャフト部(3B)の内螺子(33)と螺合する第2のボルト部(73)とを有することが好適である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、オリフィスがなくかつオイル及び高圧ガスを用いない制震ダンパーが実現され、耐久性と作動性能を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1(a)は、制震ダンパーの第1の実施形態の一例の概略側面図であり、(b)は(a)のI−I概略断面図である。
図2図2は、図1に示した制震ダンパーの建築物への設置例を示した図である。
図3図3は、図1(b)のII部分の拡大図である。
図4図4は、図1(b)のIII部分の拡大図である。
図5図5(a)(b)はシャフト部の側面及び底面を、(c)(d)(e)(f)はばね受皿部の側面、縦断面、平面及び底面を、(g)(h)はターンバックル部材の平面及び側面を概略的に示した図である。
図6図6は(a)(b)は筒本体及び筒固定ブラケットの側面を、(c)(d)(e)(f)は軸受部の側面、縦断面、平面、底面を、(g)はコイルばねを概略的に示した図である。
図7図7は、制震ダンパーの作動時の状態を模式的に示す概略断面図である。
図8図8(a)は、図3と同様の図であり、制震ダンパーの第2の実施形態の一例を示す。(b)は円筒カラー部材の平面図、(c)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施例を示した図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。なお、説明の便宜上、図面の上下方向を本発明の制震バンパーの上下方向として説明するが、このことは、本発明の制震バンパーの取付方向を鉛直方向に限定するものではない。また、対称的に配置される同一形状の構成要素の細部構造には同じ符号を付している。
【0010】
図1(a)は、制震ダンパーの第1の実施形態の一例の概略側面図であり、(b)は(a)のI−I概略断面図である。図1に示すように、制震ダンパー1は、外郭の大部分を形成する外筒2を有する。外筒2は、主要な構成要素を収納する円筒状の筒本体21と、筒本体21に取り外し可能に連結された下部の筒固定ブラケット22とから構成されている。筒固定ブラケット22は、一例として、円錐台状の外郭を有しておりその内部は空洞である。
【0011】
外筒2の筒本体21の内部には、軸方向に所定の距離を空けて第1の軸受部5Aと、第2の軸受部5Bが、筒本体21に固定されて配置されている。環状の軸受部5Aと5Bは互いに同じ形状であり、鏡像対称に対向して配置されている。上側の第1の軸受部5Aは、筒本体21の上端開口に、下側の軸受部5Aは、筒本体21の下端近傍に位置している。
【0012】
さらに、筒本体21の内部には、上側の第1のシャフト部3Aと、下側の第2のシャフト部3Bとが軸方向に配置されている。略円柱状のシャフト部3Aと3Bは互いに同じ形状であり、鏡像対称に対向して配置されている。シャフト部3Aは、軸受部5Aを貫通しており、軸受部5Aにより軸方向に摺動自在に支持されている。シャフト部3Bは、軸受部5Bを貫通しており、軸受部5Bにより軸方向に摺動自在に支持されている。
【0013】
外筒2の筒本体21の中央領域において、シャフト部3Aと3Bの各々の一端31a同士は、互いに離間して対向している。上側のシャフト部3Aの他端31bは、外筒2の筒本体21の一端2aから上方に突出している。一方、下側のシャフト部3Bの他端31bは、外筒2の筒固定ブラケット22の内部空間に位置している。
【0014】
さらに、シャフト部3Aと3Bの互いに対向する一端31a同士を、ターンバックル部材7が連結している。ターンバックル部材7は、シャフト部3Aと3Bの一端31a同士を連結する連結部の一例である。詳細は後述するが、ターンバックル部材7は、シャフト部3A、3Bの互いに対向する一端31a同士の間の距離を調整可能な方式で、シャフト部3A、3Bとそれぞれ連結されている。
【0015】
さらに、シャフト部3A及び3Bの各々の一端31a、31aの近傍には、その周囲を取り囲むように環状の第1のばね受皿部6A及び第2のばね受皿部6Bがそれぞれ設けられている。ばね受皿部6Aと6Bは互いに同じ形状であり、鏡像対称に対向して配置されている。
【0016】
さらに、軸受部5Aとばね受皿部6Aとの間には第1のコイルばね4Aが支持されており、一方、軸受部5Bとばね受皿部6Bとの間には第2のコイルばね4Bが支持されている。コイルばね4Aと4Bは、同じ形状を有することが好ましい。コイルばね4Aと4Bは、外部荷重のない初期状態のとき所定の圧縮状態で設置される。初期状態においてコイルばね4A、4Bにかかる荷重を「初期荷重」と称する。詳細は後述するが、コイルばね4A、4Bの各々の初期荷重は、それぞれ独立して調整可能である。
【0017】
さらに、制震対象物である建築物に取り付けるために、制震ダンパー1の両端に取付部が設けられている。第1の取付部32は、外筒2の一端2aから突出したシャフト部4Aの他端31bに設けられており、第2の取付部23は、外筒2の他端2bすなわち筒固定ブラケット22の下端に設けられている。
【0018】
図2は、図1に示した制震ダンパー1の建築物への設置例を概略的に示した図である。ここでは、制震ダンパー1が柱110と梁120との間に方杖のように斜めに取り付けられている。第1の取付部32と第2の取付部23が、適宜の取付器具100を介して梁120と柱110にそれぞれ固定される。取付部32、23と取付器具100とは、通常、回動可能に連結されている。地震により柱100及び梁120が揺れると、制震ダンパー1は軸方向に伸縮することができ、それにより揺れを抑制する。
【0019】
図3は、図1(b)のII部分の拡大図である。図4は、図1(b)のIII部分の拡大図である。図5(a)(b)はシャフト部3A(取付部32を含む)の側面及び底面を、(c)(d)(e)(f)はばね受皿部6A、6Bの側面、縦断面、平面及び底面を、(g)(h)はターンバックル部材7の平面及び側面を概略的に示した図である。図6は(a)(b)は筒本体21及び筒固定ブラケット22(取付部23を含む)の側面を、(c)(d)(e)(f)は軸受部5A、5Bの側面、縦断面、平面、底面を、(g)はコイルばね4A、4Bを概略的に示した図である。これらの図を参照して、制震ダンパー1の構成をさらに詳細に説明する。
【0020】
図3及び図5(a)(b)に示すように、シャフト部3Aの一端31a近傍の周面には外螺子34が所定の範囲に形成されている。一方、図3及び図5(c)〜(f)に示すように、環状のばね受皿部6Aの貫通孔内に内螺子63が形成されている。外螺子34と内螺子63が螺合することによって、ばね受皿部6Aをシャフト部3Aに取り付けられる。
【0021】
また、ばね受皿部6Aをシャフト部3A上で回すことによって、ばね受皿部6Aのシャフト部3Aに対する相対的な軸方向位置を調整することができる。ここで図3を参照すると、外部荷重のない初期状態では、ターンバックル部材7の軸方向中点Mと軸受部5Aとの間の距離(L0+L1+L2)は一定である。ばね受皿部6Aをシャフト部3A上で回したとき、距離L1と距離L0が変化する(距離L2は一定)。例えば、距離L1が大きくなると距離L0が小さくなり、コイルばね4Aがより圧縮される。この調整によって、コイルばね4Aの初期荷重を調整することができる。
【0022】
なお、ばね受皿部6Aの位置調整は、シャフト部3A及びばね受皿部6Aを外筒2に収納する前に行う。調整後は、その調整位置を保持するために、ばね受皿部6Aの側壁を貫通する固定孔64に固定螺子65をねじ込む。これによりばね受皿部6Aはシャフト部3Aに固定され一体化される。なお、ばね受皿部6Aの調整位置の保持手段は、図示の例に限られない。
【0023】
ばね受皿部6Aは、大径部61と小径部62とを有し、大径部61の肩部が、コイルばね4Aの一端が載置されるばね受面61aとなる。また、大径部61の直径は、外筒2の内面に嵌合する大きさである。これにより、ばね受皿部6Aは、シャフト部3Aが外筒2内で軸方向に動くときのガイドの役割を果たす。
【0024】
コイルばね4Aの他端は、軸受部5Aにより支持される。図6(c)〜(f)に示すように軸受部5Aは、外筒2の内面に嵌合する直径を有する。軸受部5Aと外筒2との固定は、螺子又はCリングなどを用いることができる。軸受部5Aの軸受孔51をシャフト部3Aが摺動自在に貫通している。軸受部5Aの一端が、コイルばね4Aの他端を支持するばね受け面52を形成している。
【0025】
なお、上述した構成は、下側のシャフト部3B、コイルばね4B、ばね受皿部6Bに関しても同じである。ばね受皿部6Aのシャフト部3Aに対する位置調整と同様に、ばね受皿部6Bのシャフト部3Bに対する位置調整も可能であり、それぞれの位置調整は独立して行うことができる。
【0026】
さらに、図3及び図5(a)(b)に示すように、シャフト部3Aの一端31aから軸方向に凹部が穿設されており、その凹部内に内螺子33が形成されている。シャフト部3Bについても同じである。一方、図3及び図5(g)(h)に示すように、ターンバックル部材7には、円柱状の中央頭部71から互いに反対向きに同じ長さで延在する第1のボルト部72と第2のボルト部73が形成されている。シャフト部3Aの内螺子33と第1のボルト部72が螺合する一方、シャフト部3Bの内螺子33と第2のボルト部73が螺合する。ターンバックル部材7の2つのボルト部72と73の螺子は互いに逆巻き、すなわち右螺子と左螺子であることが好ましい。
【0027】
シャフト部3Aを回すことによって、シャフト部3Aのターンバックル部材7(その中点M)に対する相対的な軸方向位置を調整することができる。このとき、シャフト部3Aと一体にばね受皿部6Aも軸方向に移動するので、この位置調整によってもコイルばね4Aの初期荷重を調整することができる。図3を参照すると、シャフト部3Aをボルト部72に対して回したとき、距離L2と距離L0が変化する(距離L1は一定)。例えば、距離L2が大きくなると距離L0は小さくなり、コイルばね4Aがより圧縮される。
【0028】
同様に、シャフト部3Bを回すことによって、シャフト部3Bのターンバックル部材7(その中点M)に対する相対的な軸方向位置を調整することができる。このとき、シャフト部3Bと一体にばね受皿部6Bも軸方向に移動するので、この位置調整によってもコイルばね4Bの初期荷重を調整することができる。
【0029】
このように、シャフト部3A、3Bの各々のターンバックル部材7に対する位置調整は、それぞれ独立して行うことができる。なお、シャフト部3A、3Bをターンバックル部材7に対して回す調整は、外筒2の筒本体21内に各構成要素を収納する前及び収納した後のいずれのときでも行うことができる。
【0030】
なお、シャフト部3A、3Bの各々の一端31a、31aと、ターンバックル部材7の両端部72、73の各々とをそれぞれ螺合する手段は、図示の例に限られず、多様な形態があり得る。
【0031】
図4に示すように、シャフト部3Bの他端31bは、筒本体21の下端から突出して筒固定ブラケット22の内部空間に位置する。シャフト部3Bが軸方向に移動するとき、他端31bはこの内部空間内で移動する。図6(a)(b)に示すように、筒本体21と筒固定ブラケット22とは、例えば螺子24、25により螺合されており、着脱可能である。シャフト部3A、3B及びターンバックル部材7を筒本体21内に収納した後にシャフト部3Bを回す調整を行うときは、筒固定ブラケット22を取り外した状態で行う。
【0032】
制震ダンパー1の組立方法の一例は、以下の通りである。しかしながら、組立方法はこれに限られない。
(i)シャフト部3Aにばね受皿部6Aを取付けて位置調整する。同様に、シャフト部3Bにばね受皿部6Bを取付けて位置調整する(初期荷重の第1段階の調整)。
(ii)上記(i)のシャフト部3A、3Bとターンバックル部材7とを連結する。例えば、シャフト部3A、3Bをターンバックル部材7に最も深くねじ込んでおく。
(iii)外筒2の筒本体21に軸受部5Bを固定し、コイルばね4Bを挿入し、上記(ii)で連結した部材を挿入し、コイルばね4Aを挿入した後、軸受部5Aを固定する。
(iv)シャフト部3Aと3Bをそれぞれ回して位置調整する(初期荷重の第2段階の調整)。
(v)筒本体21に筒固定ブラケット22を取り付ける。
【0033】
図7は、制震ダンパーの作動時の状態を模式的に示す概略断面図である。説明の便宜上、制震ダンパー1を上下方向に設置している。図中に、外部荷重のない初期状態における制震ダンパー1の上端位置H及び下端位置Lと、ターンバックル部材7の中点Mを示している。
【0034】
初期状態の制震ダンパー1のコイルばね4A、4Bは、所定の初期荷重を負荷された圧縮状態にある。双方のコイルばね4A、4Bは、ターンバックル部材7の中点Mの位置を保持するように互いに押し合っている。制震ダンパー1は、コイルばね4A、4Bの各々に設定された初期荷重を超える圧縮荷重が外部から負荷されたときに直ちに収縮を開始する。
【0035】
図7では、便宜上、下端位置Lを基準位置とし、上端位置Hに振動する外部荷重がかかる状況を示している。制震ダンパー1が収縮するとき、シャフト部3A、3Bは下方に移動し、コイルばね4Bがさらに圧縮される。また、引張荷重が負荷されたときは、制震ダンパー1が伸長し、シャフト部3A、3Bは上方に移動し、コイルばね4Aがさらに圧縮される。圧縮されたコイルばねは、復元力により元の状態に戻ろうとする、すなわちターンバックル部材7の中点Mを初期位置に戻そうとする。これにより制震作用が行われる。
【0036】
図8(a)は、図3と同様の図であり、制震ダンパー1の第2の実施形態の一例を示している。第1の実施形態とは異なり、シャフト部3Aの外螺子及びばね受皿部6Aの内螺子は形成されていない。第2の実施形態では、シャフト部3Aの一端31a(又は一端の近傍でもよい)から径方向外向きに突出するフランジ部35が形成されている。そして、フランジ部35と対向するばね受皿部6Aの端面との間に円筒カラー部材8が挿入されている。図8(b)は円筒カラー部材8の平面図、(c)は側面図である。円筒カラー部材8の軸方向長さL3により、ばね受皿部6Aのシャフト部3Aに対する相対的な軸方向位置が決まる。したがって、軸方向長さL3を適切に選択することでコイルばね4Aの初期荷重を設定できる。
【0037】
反対側のシャフト3Bについても同様であり、フランジ部35とばね受皿部6Bとの間に円筒カラー部材8が挿入されている。なお、2つの円筒カラー部材8、8の長さL3は異なっていてもよい。それにより、コイルばね4Aと4Bの初期荷重を独立してそれぞれ設定することができる。
【0038】
本発明の制震ダンパーにおいて、上述した各実施形態におけるばねの初期荷重の調整手段は、必須ではない。ばねの初期荷重の変更が不要な場合、所望する一定の初期荷重を実現する部品設計を行えばよく、調整手段は不要である。したがって、別の実施形態として、上述したターンバックル部材7に替えて、シャフト部3Aと3Bの互いに対向する一端31a同士を単に連結するだけの連結部とすることもできる。その場合、シャフト部3Aと3Bの互いに対向する一端31a同士の距離は、常に一定となる。また、その場合、シャフト部3A、連結部、及びシャフト部3Bが一体部品であってもよい。
【0039】
同様に、別の実施形態として、ばね受皿部6Aのシャフト部3Aへの取付位置及びばね受皿部6Bのシャフト部3Bへの取付位置を変更不能とし、所定の位置に固定することもできる。その場合、ばね受皿部6A、6Bは、例えば、シャフト部3Aと3Bの周面からそれぞれ環状に突出するフランジ部としてもよい。
【0040】
以上に説明した本発明の制震ダンパーによれば、以下のような作用効果が得られる。
2つのコイルばね4A、4Bの初期荷重を独立してそれぞれ設定できるので、コイルばね4A、4Bは、各自の初期荷重を超える外部荷重がかかったときに0.01m/s時から順次動き始めることができる。よって、瞬時に初期往復運動に対して荷重が上昇する。
【0041】
シャフト部3A、3Bのターンバックル部材7に対する軸方向位置の調整は、制震ダンパーの組み立て後にも行うことができるので、状況に応じて必要な初期荷重を上げたり下げたりすることができる。
【0042】
コイルばね4A、4Bの設計(端部形状、不等ピッチなど)によっても荷重特性の調整が可能である。
【0043】
内部にオイルを使用しないことから、界面活性剤の劣化によるオイル性能低下、シール劣化による性能低下が起きず、対応年数を大幅に伸ばすことができる。オイルオリフィスを有しない点でも耐久性に優れている。また、高圧ガスを使用しないため、高温下での使用や火災等の際の破裂を回避できる。さらに、可燃性オイルを採用しないため、火災時の燃え広がりを回避できる。耐食性のある材料を用いることによって、長期間の使用を可能とすることができる。
【0044】
以上に説明した本発明の構成は、本発明の主旨に沿う限りにおいて、多様な変形形態が可能であり、それらの変形形態についても本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
1 制震バンパー
2 外筒
2a 一端
2b 他端
21 筒本体
22 筒固定ブラケット
23 取付部
24、25 固定螺子
3A、3B シャフト部
31a 一端
31b 他端
32 取付部
33 内螺子
34 外螺子
35 フランジ部
4A、4B コイルばね
5A、5B 軸受部
51 軸受孔
52 ばね受面
6A、6B ばね受皿部
61 大径部
61a ばね受面
62 小径部
63 内螺子
64 固定孔
65 固定螺子
7 ターンバックル部材(連結部)
71 中央頭部
72 第1ボルト部
73 第2ボルト部
8 円筒カラー部材
100 取付器具
110 柱
120 梁
【要約】
【課題】耐久性と作動性能を確保できる制震ダンパーを提供する。
【解決手段】外筒2と、外筒2内に配置された軸受部5A,5Bと、軸方向に摺動自在に支持され各々の一端31a,31aが互いに対向すると共に、シャフト部3Aの他端31bは外筒2の一端から突出する一方、シャフト部3Bの他端31bは外筒2内に位置するシャフト部3A,3Bと、シャフト部3A,3Bの互いに対向する一端31a,31a同士を連結する連結部と、シャフト部3A,3Bに設けられたばね受皿部6A,6Bと、軸受部5Aとばね受皿部6Aとの間及び軸受部5Bとばね受皿部6Bとの間でそれぞれ支持されるコイルばね4A,4Bと、制震対象物に取り付けるために、シャフト部3Aの他端に設けられた取付部32及び外筒2の他端に設けられた取付部23とを有する制震ダンパー。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8