(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6978039
(24)【登録日】2021年11月15日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】保全工法用防護スーツシステム及び該保全工法用防護スーツシステムに用いられる防護スーツ
(51)【国際特許分類】
A41D 13/002 20060101AFI20211125BHJP
A62B 17/00 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
A41D13/002 105
A62B17/00
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-145473(P2017-145473)
(22)【出願日】2017年7月27日
(65)【公開番号】特開2019-26951(P2019-26951A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年6月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】503055554
【氏名又は名称】ヤマダインフラテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】山田 博文
(72)【発明者】
【氏名】山田 翔平
【審査官】
▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭63−189266(JP,U)
【文献】
実開昭53−159197(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/00−13/12
A41D20/00
A62B 7/00−33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼構造物の保全工法で着用する防護スーツを備えた保全工法用防護スーツシステムであって、
前記防護スーツと、
前記防護スーツ内に清浄な空気である外気を呼吸用として導入する外気導入手段と、
を備え、
前記防護スーツは、
下端が着脱用に開放されて下端開口部が形成され、着用者の頭部を被覆する頭部被覆部と、着用者の胴体部を被覆する胴体部被覆部と、着用者の腕部を被覆する腕部被覆部とを少なくとも含み、かつファスナーを備えない上半身形状であり、
前記頭部被覆部の少なくとも正面には、視界確保用透明部が形成されており、
さらに、前記外気導入手段を介して当該防護スーツ内に外気を導入するための外気導入
孔部と、
当該防護スーツ内の空気を排出するための排気部と、
前記下端開口部に形成され、着用者の腰部に弾接する収縮部と、
前記腕部被覆部に形成された、着用者の手首から先が突き出される手首開口部と、
前記手首開口部に形成され、着用者の手首に弾接する収縮部と、
を具備し、
前記防護スーツの外表面が、耐水性かつ耐汚染性を有しており、
前記外気導入手段は、前記外気導入孔部に挿通される挿通管で外気を前記防護スーツ内に導入するものであり、前記挿通管は、着用者が前記防護スーツ内で頭部に装着した防具の外周に沿って当該防具の外側面に被せられて被着される環状部を有し、当該環状部における前記挿通管の管壁に形成された複数の貫通孔部から下向きに外気が排出されるものであり、
前記外気導入手段は、据え置き型で複数の防護スーツに清浄な空気を供給するものである
ことを特徴とする保全工法用防護スーツシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に鋼構造物の保全工法で着用する防護スーツを備えた保全工法用防護スーツシステム、及び該保全工法用防護スーツシステムに用いられる防護スーツに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋼構造物の保全工法において、ブラスト処理工程等で発生する粉塵を吸い込むことを防止するために、例えば特許文献1に開示されているような電動ファン付き呼吸用保護具(防塵マスク)等を着用して作業を行う場合がある。このような構成は、一般的には、鼻孔と口許を覆うと共に隙間から粉塵等が進入することを防止するためにある程度顔に密着させる必要があることから、ベルト等を後頭部に回して取り付ける。
【0003】
また、例えば特許文献2に開示されているような防護服も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−75157号公報
【特許文献2】特開2017−20134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような粉塵マスクにあっては、頭部の動きが阻害されたり、頭部が重くなったりして作業者の首に負担がかかるものであった。また、フィルターを介して呼吸用の外気を導入する構成は、フィルターの詰まりによって外気導入が遮断されるおそれがあり、改善の余地がある。
【0006】
また、特許文献1のような粉塵マスクは目を被覆するものではないため、別途防塵メガネ等を着用する必要があった。
【0007】
また、特許文献2のような防護服は、防護服内部に粉塵等が進入することを防止するために防護服内部の空気圧を外部よりも高い陽圧とすると、脚部が陽圧により膨張して、作業しにくくなるという問題があった。さらに、つなぎ服状の防護服は一人で着脱することが困難であり、着脱時に他人に手伝ってもらう必要があるという問題もあった。
【0008】
そこで本発明は、一人で着脱することができ、着用者の動きを阻害することのない保全工法用防護スーツシステム及び該保全工法用防護スーツシステムに用いられる防護スーツを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、鋼構造物の保全工法で着用する防護スーツを備えた保全工法用防護スーツシステムであって、前記防護スーツと、前記防護スーツ内に外気を導入する外気導入手段と、を備え、前記防護スーツは、下端が着脱用に開放されて下端開口部が形成され、着用者の頭部を被覆する頭部被覆部と、着用者の胴体部を被覆する胴体部被覆部と、着用者の腕部を被覆する腕部被覆部とを少なくとも含み、かつファスナーを備えない上半身形状であり、前記頭部被覆部の少なくとも正面には、視界確保用透明部が形成されており、さらに、前記外気導入手段を介して当該防護スーツ内に外気を導入するための外気導入孔部と、当該防護スーツ内の空気を排出するための排気部と、前記下端開口部に形成され、着用者の腰部に弾接する収縮部と、を具備し、前記防護スーツの外表面が、耐水性かつ耐汚染性を有していることを特徴とする保全工法用防護スーツシステムである。
【0010】
かかる構成にあっては、着用者の上半身を前記下端開口部から上半身を前記防護スーツ内に挿入して着用するものであるために他人の補助が不要となり、一人で着脱することができる。また、前記防護スーツ内に清浄な空気が導入されるために、別途、重装備な防塵マスクや防塵メガネ等を着用する必要がなく、着用者の頭部や首に負担をかけることがない。また、前記下端開口部に着用者の腰部に弾接する収縮部が形成されているため、外部の粉塵等が前記防護スーツ内部に入ることを防止できると共に、ファスナーを設けて着脱時に開いたり閉めたりする必要がなくなるため、構造を簡素化することができる。また、前記防護スーツ内に導入される外気は着用者の上半身部分を循環して前記排気部から排出されるため、防護スーツ内に熱が篭ることがなく熱中症を予防することもできる。さらに、前記防護スーツの外表面が、耐水性かつ耐汚染性を有しているため、例えば粉塵中の鉛が着用者の汗等に溶け込んで着用者の身体を汚染するといったおそれがない。
【0011】
また、前記外気導入手段は、前記外気導入孔部に挿通される挿通管で外気を前記防護スーツ内に導入するものであり、前記挿通管は、着用者が前記防護スーツ内で頭部に装着した防具の外周に沿って被着される環状部を有し、当該環状部における前記挿通管の管壁に形成された複数の貫通孔部から下向きに外気が排出される構成が提案される。
【0012】
かかる構成にあっては、着用者の顔に常時新鮮で清浄な空気を供給することができる。また、顔に供給された空気が触れることによって体温を下げ、熱中症を効果的に予防することができる。
【0013】
また本発明は、前記保全工法用防護スーツシステムに用いられることを特徴とする防護スーツである。
【0014】
前記防護スーツは一人で着脱できる。また、重装備となる防塵マスクや防塵メガネ等を別途着用する必要がない。また、防護スーツ自体の構造が簡素であるため、低コストで生産可能である。さらに、熱中症を予防することもできると共に、着用者の皮膚から有害物質が取り込まれることを防止することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の保全工法用防護スーツシステムは、前記防護スーツを一人で着脱できる効果がある。また、着用者の頭部や首に負担をかけない効果がある。また、熱中症を予防する効果がある。さらに、有害物質による汚染を防止する効果がある。
【0016】
本発明の防護スーツは、一人で着脱できる効果がある。また、着用者の頭部や首に負担をかけない効果がある。また、熱中症を予防する効果がある。さらに、有害物質による汚染を防止する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第一実施例にかかる保全工法用防護スーツシステムを説明する概要説明図である。
【
図2】第二実施例にかかる保全工法用防護スーツシステムを示し、(a)は概要説明図であり、(b)は環状部を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明にかかる保全工法用防護スーツシステム及び防護スーツを具体化した実施例を詳細に説明する。なお、本発明は、下記に示す実施例に限定されることはなく、適宜設計変更が可能である。
【0019】
〔第一実施例〕
防護スーツ10は、
図1に示すように、着用者の頭部を被覆する頭部被覆部11と、着用者の胴体部を被覆する胴体部被覆部12と、着用者の左右の腕部を被覆し、端部が開口して着用者の手首から先が突き出される手首開口部14を備えた左右一対の腕部被覆部13,13と、を備えた上半身形状を有している。
【0020】
また、胴体部被覆部12の下端は着脱用に開放されて下端開口部15が形成されている。そして、下端開口部15には環状のゴムひも16が取り付けられた収縮部17が形成されている。同様に、腕部被覆部13の手首開口部14には、環状のゴムひも16が取り付けられた収縮部17が形成されている。
【0021】
また、頭部被覆部11の正面には、着用者の視界を確保するための視界確保用透明部20が設けられている。なお、視界確保用透明部20は、ブラスト作業に耐えうる厚手の透明フィルム材料で構成されている。
【0022】
さらに、胴体部被覆部16には防護スーツ10内に外気を導入するための外気導入孔部21が形成されている。
【0023】
また、胴体部被覆部12の上端部には防護スーツ10の内外を貫通する排気部としての貫通孔22が設けられており、貫通孔22の外側にはフィルター23が取り付けられている。
【0024】
防護スーツ10は合成繊維や天然繊維を用いた布地からなり、外表面が耐水コーティング、及び耐汚染コーティングが加工されている。なお、要求される耐水性は水分が防護スーツ10の外表面から内部に進入しない程度であればよい。また、要求される耐汚染性は外気が防護スーツ10の外表面から内部に進入しない程度であればよい。防護スーツ10の材料やコーティング技術に関しては、従来の技術を好適に適用可能である。
【0025】
また、防護スーツ10には、手首開口部14、下端開口部15、外気導入孔部21、及び貫通孔22以外に、内外に通じる開口や連通路は形成されていない。しかも、防護スーツ10には、着用時に使用するものであって、布地を分離又は結合するファスナーも備えていない。
【0026】
ここで、防護スーツ10を着用する際には、防護スーツ10の下端開口部15から着用者の頭部及び両腕部を差し入れ、着用者の頭部を頭部被覆部11内部に配し、着用者の両手をそれぞれ腕部被覆部13,13に通すと共に手首から先を手首開口部14から突き出す。下端開口部15は着用者の腰部に配置して収縮部17を腰部に弾接する。加えて、手首開口部14が着用者の手首に密着して手首開口部14が閉塞するように図示しない作業用手袋を装着する。
【0027】
その後、使用に際してはHEPAフィルター等を介して清浄な空気を生成する外気導入手段30から、図示しないホースを介し外気導入孔部21を通して防護スーツ内に清浄な空気を導入して防護スーツ10の内部を陽圧にする。導入された空気は着用者の呼吸用とされると共に着用者の上半身表面を循環して貫通孔22から外部に排出される。
【0028】
なお、防護スーツ10と外気導入手段30とによって保全工法用防護スーツシステム1が構成されている。
【0029】
上記の保全工法用防護スーツシステム1にあっては、防護スーツ10が着用者の上半身のみを被覆する上半身形状であり、ファスナーを備えていないため着用者本人のみで着脱可能である。また、下半身に陽圧がかからないため、下半身が膨張してしまって作業性が悪くなることがない。また、防護スーツ10内に清浄な空気が常時導入されるため、空気が循環して着用者の熱中症を予防することができる。また、防塵マスク等は安全上、補助的に装着してもよいが、重装備なものは不要であるため着用者の頭部や首に負担をかけない利点がある。また、耐水及び耐汚染コーティングが加工されているため、有害物質の浸透汚染が防止できる。
【0030】
〔第二実施例〕
第二実施例にあっては、挿通管であるホース41の一端を防護スーツ10の外気導入孔部21に取り付け又は挿通し、ホース41の他端には
図2(a)に示すように、防護スーツ10を着用した着用者Aの頭部に装着した防具(ヘルメット)Bの外周に沿って被着される環状部42が接続されている。環状部42には
図2(b)に示すように複数の貫通孔部43が形成されており、貫通孔部43はヘルメットBに被着された状態で下向きになるように調整されている。
【0031】
かかる構成にあっては、貫通孔部43から外気導入手段30によって生成された清浄な空気が下向きに排出されるため、着用者Aの顔周辺には常時新鮮な空気が供給される。
【0032】
また、顔周辺の空気が常時循環するために着用者Aの顔周辺の熱気を和らげ、効果的に熱中症を予防することができる。
【0033】
各部の寸法形状は適宜自由に選択可能である。例えば頭部被覆部11の全体を透明な合成樹脂製のものとして視界を大きく確保する構成としてもよい。また、外気導入孔部21及び排気部である貫通孔22の位置は特に限定されない。また、外気導入手段30は例えば据え置き型で複数の防護スーツ10に清浄な空気を供給するものであってもよいし、これとは別に例えば着用者の腰部にベルト等で固定して着用者の移動の自由を確保する手段であってもよい。また、防護スーツ10の外表面に作業工具を収容可能なポケットや、作業工具を引っ掛ける係止部を別途設けても構わない。また、手首開口部14にも着用者の手首に弾接する収縮部17を形成してもよい。収縮部17はゴムひも16以外の弾性部材によって拡縮するものであっても構わない。また、より望ましくは、作業者はマスクCを補助的にしていてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 保全工法用防護スーツシステム
10 防護スーツ
11 頭部被覆部
12 胴体部被覆部
13 腕部被覆部
14 手首開口部
15 下端開口部
16 ゴムひも
17 収縮部
20 視界確保用透明部
21 外気導入孔部
22 貫通孔(排気部)
23 フィルター
30 外気導入手段
41 ホース(挿通管)
42 環状部
43 貫通孔部
A 着用者
B 防具