【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
[参考例1]1層からなる細胞培養装置を用いたヒトiPS細胞の培養
1.ヒトiPS細胞の準備
ヒトiPS細胞系統(253G4)は、京都大学iPSCリサーチアンドアプリケーションセンターから入手した。
【0068】
2.ヒトiPS細胞の培養
次いで、ヒトiPS細胞(253G4)1×10
6個を1層のプレート(培養面積:632cm
2、成長因子低減マトリゲルで被覆されたプレート)(Thermo Fisher Scientific社製)に播種した(
図3A参照)。培養液としては、改変Stem Fit培地(味の素社製)120mLを用いて、1日おきに交換した。
【0069】
なお、改変Stem Fit培地の組成としては、21種のアミノ酸、10種のビタミン、5種の微量ミネラル及び塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含む7種の成長因子である。21種のアミノ酸としては、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−システイン、L−グルタミン酸。L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン及びL−バリンである。10種のビタミンとしては、L−アスコルビン酸、コバラミン、ビオチン、葉酸、I−イノシトール、ナイアシンアミド、D−ペンチテン酸カルシウム、ピリドキシン、リボフラビン及びチオアミン塩酸塩である。5種の微量ミネラルとしては、硫酸銅(II)、硫酸鉄(II),硝酸鉄(II)、硫酸亜鉛及び亜セレン酸ナトリウムである。改変Stem Fit培地では、通常のStem Fit培地と比較して、大量培養のために、ほとんどの成分を8倍量含有している。
【0070】
また、正常ガスインキュベーター中で7日間培養した。次いで、培養後の細胞を収集し、成長因子低減マトリゲルで被覆されたプレート上で改変Stem Fit培地(味の素社製)(10μMのY27632(和光純薬工業社製)含有)に細胞を再懸濁した。次いで、Vi−Cell細胞カウンター(Beckman Coulter社製)を用いて、細胞数を計測した。7日後の細胞数は、7.9×10
8個(3.0×10
5細胞/cm
2)であり、細胞の増殖効率は187倍であった。なお、ヒトiPS細胞の増殖効率とは、細胞培養装置への播種細胞数に対する、7日後の細胞培養装置中の合計細胞数の割合である。
【0071】
3.ヒトiPS細胞の形質確認
(1)アルカリフォスファターゼ(ALP)染色
Leukocyte Alkaline Phosphatase kit(シグマ社製)を用いて、「1.」で7日間培養したヒトiPS細胞を染色した。結果を
図3Bに示す。
【0072】
図3Bから、全てのコロニーにおいてALP陽性であり、多能性状態が保たれていた。また、
図3Bに示すように、ヒトiPS細胞はプレート全体にわたって均一に培養されていた。
【0073】
(2)未分化幹細胞マーカーの検出
「1.」で7日間培養したヒトiPS細胞を4%パラホルムアルデヒドで20分間固定した。次いで、細胞を0.1%Triton X−100(シグマ社製)を用いて、室温で5分間浸透させた。次いで、一次抗体として、以下のa)〜c)を用いて4℃で一晩インキュベートした。
a)マウス抗TRA1−60(Millipore社製)の1/200希釈物
b)マウス抗TRA1−81(Millipore社製)の1/200希釈物
c)マウス抗SSEA4(Millipore社製)の1/200希釈物
【0074】
次いで、細胞をn0.1%Tween20を含むPBSで3回洗浄した。次いで、二次抗体として、Alexa Fluor 488/594抗マウスIgGを用いて、室温で1時間インキュベーションした。
【0075】
次いで、Hoechst 33342(Thermo Fisher Scientific社製)で核染色した。蛍光顕微鏡(Axio Observe、Carl Zeiss社製)を用いて、染色細胞を検出した。結果を
図3Cに示す。上は明視野での画像であり、下は蛍光検出画像である。
図3Cにおいて、上及び下共に、スケールバーは100μmである。
【0076】
図3Cから、すべてのコロニーにおいて、未分化幹細胞マーカーの強い発現が観察された。
【0077】
以上のことから、1層からなる細胞培養装置を用いた2D培養系がヒトiPS細胞における多能性の維持に適していることが強く示唆された。
【0078】
[実施例1]4層からなる細胞培養装置を用いたヒトiPS細胞の培養
1.ヒトiPS細胞の準備
参考例1の「1.」と同様に、ヒトiPS細胞系統(253G4)を準備した。
【0079】
2.ヒトiPS細胞の培養
次いで、ヒトiPS細胞(253G4)1×10
6個/1層(合計4×10
6個)を4層のプレート(培養面積:632cm
2×4層=2528cm
2、成長因子低減マトリゲルで被覆されたプレート)(Thermo Fisher Scientific社製)に播種した(
図4A参照)。培養液としては、改変Stem Fit培地(味の素社製)500mL/4層を用いて、1日おきに交換した。また、多層ガスインキュベーター(MG−70M、TAITEC社製)(以下、「AGV」と称する場合がある)を用いて、1層当たり50mL/分の速度で5%CO
2含有ガスを積極的に通気しながら、細胞を37℃で7日間培養した。また、対照として、正常ガスインキュベーター(以下、「NGV」と称する場合がある)を用いて、細胞を37℃で7日間培養した。次いで、培養後の細胞を収集し、成長因子低減マトリゲルで被覆されたプレート上で改変Stem Fit培地(味の素社製)(10μMのY27632(和光純薬工業社製)含有)に細胞を再懸濁した。次いで、Vi−Cell細胞カウンター(Beckman Coulter社製)を用いて、細胞数を計測した。
【0080】
その結果、4層からなる細胞培養装置を用いたヒトiPS細胞の増殖効率は、179倍であり、1層からなる細胞培養装置を用いた場合(187倍)と、ほぼ同等であった(
図4B参照)。
【0081】
3.ヒトiPS細胞の形質確認
(1)未分化幹細胞マーカーの検出
「1.」で7日間培養したヒトiPS細胞を4%パラホルムアルデヒドで20分間固定した。次いで、細胞を0.1%Triton X−100(シグマ社製)を用いて、室温で5分間浸透させた。次いで、一次抗体として、以下のa)〜d)を用いて4℃で一晩インキュベートした。
a)ウサギ抗NANOG(ReproCELL社製)の1/200希釈物
b)マウス抗OCT4(Santa Cruz Biotechnology社製)の1/200希釈物
c)マウス抗TRA1−60(Millipore社製)の1/200希釈物
d)マウス抗SSEA4(Millipore社製)の1/200希釈物
【0082】
次いで、細胞を0.1%Tween20を含むPBSで3回洗浄した。次いで、二次抗体として、Alexa Fluor 488/594抗マウスIgG、又は、Alexa Fluor 488/594抗ウサギIgGを用いて、室温で1時間インキュベーションした。
【0083】
次いで、Hoechst 33342(Thermo Fisher Scientific社製)で核染色した。蛍光顕微鏡(Axio Observe、Carl Zeiss社製)を用いて、染色細胞を検出した。結果を
図4Cに示す。左は明視野での画像であり、右は蛍光検出画像である。
図4Cにおいて、左及び右共に、スケールバーは100μmである。
【0084】
図4Cから、すべてのコロニーにおいて、未分化幹細胞マーカーの強い発現が観察された。
【0085】
4.培養液中のバイオプロファイル分析
AGV又はNGV条件下での培養開始から3、5及び7日後の培養液中のCO
2分圧(pCO
2)、O
2分圧(pO
2)、pH、グルコース濃度及びグルタミン濃度を、BioProfile 400 Analyzer(Nova Biomedical社製)を用いて測定した。結果を
図4Dに示す。
【0086】
図4Dから、培養液中のCO
2分圧は、AGV条件下では、培養開始から3、5及び7日後のいずれの時点でも安定であった。一方、NGV条件下では、培養液中のCO
2分圧は、時間の経過とともに有意に増加した。
【0087】
また、いずれの条件下でも、培養液のpHは低下し、培養液中のO
2分圧は有意に変化しなかった。また、いずれの条件下でも、培地中のグルコース濃度及びグルタミン濃度は、時間の経過とともに著しく減少した。
【0088】
[実施例2]10層からなる細胞培養装置を用いたヒトiPS細胞の培養
1.ヒトiPS細胞の準備
参考例1の「1.」と同様に、ヒトiPS細胞系統(253G4)を準備した。
【0089】
2.各層におけるCO
2透過性の確認
10層からなる細胞培養装置に2LのPBS(20mgのフェノールレッド含有)を満たし、多層ガスインキュベーター(MG−70M、TAITEC社製)を用いて、1層当たり50mL/分の速度で5%CO
2含有ガスを37℃で1時間積極的に細胞培養装置内に通気した。また、開始から10分毎に写真を撮影した。結果を
図5に示す。
【0090】
図5から、AGV条件下では、PBS中のフェノールレッドから1時間後には、赤色から黄色に変化していた。このことから、培養液中に十分にCO
2が供給されることが確かめられた。
【0091】
3.ガス交換速度の確認
AGV条件下では、10層からなる細胞培養装置に多層ガスインキュベーター(MG−70M、TAITEC社製)を用いて、1層当たり50mL/分の速度でN
2ガスを積極的に通気した。また、NGV条件下では、10層からなる細胞培養装置を低酸素状態(1%O
2)下に静置した。AGV条件下及びNGV条件下の10層からなる細胞培養装置の第5層に、センサチップ(SP−PSt3−YAU−D5、PreSens社製)及び光ファイバ(POF−1MSA、PreSens社製)を配置した。Fibox 3(PreSens社製)を用いて、層内の酸素濃度を測定した。結果を
図6A(AGV条件下)及び
図6B(NGV条件下)に示す。
【0092】
図6Aから、AGV条件下では、4時間でガス交換が完了した。一方、
図6Bから、NGV条件下では、24時間の間に、ガス交換が完了することができなかった。
【0093】
4.ヒトiPS細胞の培養
次いで、ヒトiPS細胞(253G4)1×10
6個/1層(合計1×10
7個)を10層のプレート(培養面積:632cm
2×10層=6320cm
2、成長因子低減マトリゲルで被覆されたプレート)(Thermo Fisher Scientific社製)に播種した(
図7A参照)。培養液としては、改変Stem Fit培地(味の素社製)1200mL/10層を用いて、1日おきに交換した。また、多層ガスインキュベーター(MG−70M、TAITEC社製)(以下、「AGV」と称する場合がある)を用いて、1層当たり50mL/分の速度で5%CO
2含有ガスを積極的に通気しながら、細胞を37℃で7日間培養した。また、対照として、正常ガスインキュベーター(以下、「NGV」と称する場合がある)を用いて、細胞を37℃で28日間培養した。なお、ヒトiPS細胞は、1週間(7日)毎に、D−PBSで洗浄し、細胞分散剤として、Accutase(登録商標)(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、継代した。
【0094】
また、培養開始から7、14、21及び28日後に細胞を収集し、成長因子低減マトリゲルで被覆されたプレート上で改変Stem Fit培地(味の素社製)(10μMのY27632(和光純薬工業社製)含有)に細胞を再懸濁した。次いで、Vi−Cell細胞カウンター(Beckman Coulter社製)を用いて、細胞数を計測した。AGV条件下及びNGV条件下での10層からなる細胞培養装置を用いたヒトiPS細胞の細胞数の経時変化を
図7Bに示す。また、AGV条件下及びNGV条件下での培養開始から7日後のヒトiPS細胞の増殖効率を
図7Cに示す。
【0095】
図7Bから、AGV条件下では、NGV条件下よりも、ヒトiPS細胞の増殖が安定していた。
【0096】
図7Cから、AGV条件下では、培養開始から7日後のヒトiPS細胞の細胞数が1.7×10
9個であり、NGV条件下よりも44%程度細胞数が多かった。
【0097】
5.ヒトiPS細胞の形質確認
(1)未分化幹細胞マーカーの検出
実施例1の「3.」の(1)と同様の方法を用いて、AGV条件下で培養したヒトiPS細胞について、未分化幹細胞マーカー(NANOG、OCT4、TRA1−60及びSSEA4)を検出した。結果を
図7Dに示す。
図7Dにおいて、上及び下共に、スケールバーは100μmである。
【0098】
図7Dから、すべてのコロニーにおいて、未分化幹細胞マーカーの強い発現が観察された。
【0099】
6.培養液中のバイオプロファイル分析
実施例1の「4.」と同様の方法を用いて、AGV条件下及びNGV条件下での培養開始から3、5及び7日後の培養液中のCO
2分圧(pCO
2)、O
2分圧(pO
2)及びpHを測定した。結果を
図7Eに示す。
【0100】
図7Eから、実施例1と同様に、いずれの条件下でも、培養液のpHは低下した。一方、O
2分圧は、実施例1とは異なり、NGV条件下で有意に減少した。
【0101】
また、CO
2分圧は、AGV条件下では、通常の10cmディッシュを用いた培養と同様に、安定していることが確認された。一方、NGV条件下では、CO
2分圧は、培養開始から3日後では、AGV条件下でのCO
2分圧よりも顕著に低く、時間の経過とともに有意に増加した。
【0102】
以上のことから、10層からなる細胞培養装置を用いたヒトiPS細胞の培養において、AGV条件下であることにより、ヒトiPS細胞を効率的に培養できることが明らかとなった。
【0103】
[実施例3]1層、4層又は10層からなる細胞培養装置を用いたヒトiPS細胞由来の心筋細胞の製造
1.ヒトiPS細胞の準備
参考例1の「1.」と同様に、ヒトiPS細胞系統(253G4)を準備した。また、ヒトiPS細胞系統(201B7及びFf14)についても、京都大学iPSCリサーチアンドアプリケーションセンターから入手した。ヒトiPS細胞系統(253G4、201B7及びFf14)をそれぞれ、分化誘導開始の4日前にNGV条件下にて1層又は10層のプレート(成長因子低減マトリゲルで被覆されたプレート)(Thermo Fisher Scientific社製)に播種し、AGV条件下にて、4層又は10層のプレート(成長因子低減マトリゲルで被覆されたプレート)(Thermo Fisher Scientific社製)に播種し、分化誘導開始日に細胞が90%コンエンスに達するように予め培養した(
図8A参照)。
【0104】
2.ヒトiPS細胞の心筋細胞への分化誘導
次いで、B27(インシュリン不含(−))(Thermo Fisher Scientific社製)、6μMのCHIR99021(和光純薬工業社製)及び1ng/mLの骨形態形成タンパク質4(R&D Systems社製)を含むRPMI(和光純薬工業社製)に培養液を交換し、1日間培養した。次いで、分化誘導開始から1日目から2日目までは、B27(インシュリン不含(−))を含むRPMIに培養液を交換して、培養した。次いで、分化誘導開始から3日目から5日目まで、B27(インシュリン不含(−))及び5μMのIWR1(Sigma−Aldrich社製)を含むRPMIに培養液を交換して、培養した。次いで、分化誘導開始から6日目に、B27(インシュリン不含(−))を含むRPMIに培養液を交換して、培養した。次いで、分化誘導開始から7日目に、5%ウシ胎児血清(FBS、Hyclone社製)含有MEMαに培養液を交換して、培養を維持した。次いで、分化誘導開始から10日目に、ViCell(Beckman Coulter社製)を用いたトリパンブルー染色により、解離した単細胞の数及び細胞生存率を評価した。結果を
図8B(細胞生存率)及び
図8C(細胞数)に示す。なお、
図8Cにおいて、「non−CMs」とは、心筋細胞へ未分化の細胞の数を示し、「CMs」とは心筋細胞に分化した細胞の数を示す。
【0105】
図8Bから、いずれの条件においても、細胞生存率は95%以上であった。
【0106】
図8Cから、1層(NGV条件下)、4層(AGV条件下)又は10層(AGV条件下)の細胞培養装置を用いた場合において、ヒトiPS細胞から分化誘導後の総細胞数は、それぞれ1.5×10
6個、6.7×10
8個及び1.5×10
9個であった。
【0107】
3.代謝選択によるヒトiPS細胞由来の心筋細胞の精製
分化誘導開始から12〜14日目に、ヒトiPS細胞由来の分化細胞からB27(インスリン不含(−))含有RPMIを除去し、D−PBSとともに3分間インキュベートした。次いで、0.25%トリプシン−EDTA(ナカライタスク社製)を用いて、細胞を解離させた。次いで、解離した細胞を回収し、5%FBS含有MEMαに懸濁し、1型コラーゲン被覆15cmディッシュ(IWAKI社製)、フィブロネクチン被覆15cmディッシュ(シグマ社製)、又は、フィブロネクチンが被覆された1層の細胞培養装置(Thermo Fisher Scientific社製)に播種した。次いで、5%FBS含有MEMαを用いて、1〜2日間培養した。次いで、5%FBS含有MEMαを除去し、D−PBSとともに3分間インキュベートした。次いで、グルコース不含及びグルタミン不含DMEM(味の素社製)(4mM L−乳酸及び0.1%BSA(Thermo Fisher Scientific社製)含有)に培養液を交換して、3〜6日間培養した。なお、培養液は、2〜3日毎に交換し、死細胞を排除した。この代謝選択により精製されたヒトiPS細胞由来心筋細胞を凍結保存し、免疫蛍光染色及びFACS分析に用いた。
【0108】
4.分化効率の評価
分化誘導開始から10日目に細胞を回収し、免疫蛍光染色及びフローサイトメトリーを用いて分析した。具体的には、以下に示すとおりである。
【0109】
(1)免疫蛍光染色
「2.」で回収された分化誘導開始から10日目のヒトiPS細胞由来の分化細胞、及び、「3.」で得られた代謝選択により精製されたヒトiPS細胞由来心筋細胞をそれぞれ4%パラホルムアルデヒドで20分間固定した。次いで、細胞を0.1%Triton X−100(シグマ社製)を用いて、室温で5分間浸透させた。次いで、一次抗体として、マウス抗α−アクチニン(シグマ社製)の1/500希釈物を用いて4℃で一晩インキュベートした。
【0110】
次いで、細胞を0.1%Tween20を含むPBSで3回洗浄した。次いで、二次抗体として、Alexa Fluor 488/594抗マウスIgGを用いて、室温で1時間インキュベーションした。
【0111】
次いで、Hoechst 33342(Thermo Fisher Scientific社製)で核染色した。蛍光顕微鏡(Axio Observe、Carl Zeiss社製)を用いて、染色細胞を検出した。結果を
図8Fに示す。左は代謝選択前の細胞の蛍光検出画像であり、右は代謝選択後の細胞の蛍光検出画像である。
図8Fにおいて、左及び右共に、スケールバーは500μmである。
【0112】
図8Fから、代謝選択前及び代謝選択後の細胞において、心筋マーカーであるα−アクチンの蛍光が確認された。特に、代謝選択後の細胞において、α−アクチンの蛍光が顕著に確認された。
【0113】
(2)FACS分析
「2.」で回収された分化誘導開始から10日目のヒトiPS細胞由来の分化細胞、及び、「3.」で得られた代謝選択により精製されたヒトiPS細胞由来心筋細胞をそれぞれ4%パラホルムアルデヒドで20分間固定した。次いで、細胞を0.1%Triton X−100(シグマ社製)を用いて、室温で5分間浸透させた。次いで、一次抗体として、マウス抗心筋トロポニンT(Thermo Fisher Scientific社製)の1/200希釈物を用いて4℃で一晩インキュベートした。
【0114】
次いで、細胞を0.1%Tween20を含むPBSで洗浄した。次いで、二次抗体として、Alexa488ロバ抗マウスIgG(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、室温で2時間インキュベーションした。
【0115】
次いで、FACS(Gallios、Beckman Coulter社製)を用いて、細胞を分析した。結果を
図8Eに示す。上は、ヒトiPS細胞を用いたFACS分析の結果を示すグラフである。真ん中は、代謝選択前の細胞を用いたFACS分析の結果を示すグラフである。下は、代謝選択後の細胞を用いたFACS分析の結果を示すグラフである。
【0116】
また、
図8Dは、
図8EのFACS分析の結果から算出されたものである。左は、ヒトiPS細胞由来の分化細胞中のトロポニンT陽性細胞の割合を示すグラフであり、右は、ヒトiPS細胞由来心筋細胞の細胞数を示すグラフである。
【0117】
図8Dから、心筋細胞への分化効率は、AGV条件下とNGV条件下とで有意差はなかった。一方、心筋細胞の細胞数は、AGV条件下のほうが、NGV条件下よりも多かった。これは、NGV条件下では、10層中の6層以下の下層における細胞の増殖効率が低いためであると推察された。
【0118】
図8Eから、代謝選択前の細胞では、ヒトiPS細胞由来心筋細胞(トロポニンT陽性細胞)の割合は、約80%程度であった。一方、代謝選択後の細胞では、ヒトiPS細胞由来心筋細胞(トロポニンT陽性細胞)の割合は、97%以上であり、ほとんど全ての細胞において、トロポニンTが発現されていることが確認された。
【0119】
以上のことから、10層からなる細胞培養装置を用いたヒトiPS細胞の培養において、AGV条件下であることにより、ヒトiPS細胞から心筋細胞へ効率的で分化誘導できることが明らかとなった。さらに、心筋細胞を大量に得られることが明らかとなった。