【実施例】
【0024】
1. 1,1−ジメチル−2,3,4,5−テトラフェニルシロール内包ポリスチレン微粒子の合成(架橋剤:ジビニルベンゼン)。
スチレン251 mg(2.41 mmol)とジビニルベンゼン120 mg(0.92 mmol)の混合液に、1,1−ジメチル−2,3,4,5−テトラフェニルシロール(TPS)26.2 mg(0.064 mmol)と純度75%の過酸化ベンゾイル10.2 mg(0.032 mmol)を溶解させた。
具体的には、アルゴン風船、アリーン冷却器、三方コック、セプタムを装着した二口ナスフラスコの系内をアルゴン置換し、濃度1 g/Lに調製したポリビニルアルコール水溶液20 mLを入れ撹拌しながら、先に調製したモノマーを滴下した(
図1)。充分分散させてから系内を80 ℃に保ち3時間重合反応を行った。反応終了後、デカンテーションにより溶媒を取り除き、80 ℃の蒸留水での熱処理、メタノールでの洗浄を経て得られた微粒子を減圧乾燥させることで目的物を80.3 mg(収率22%)得た(
図2)。
【0025】
なお、TPSは以下のスキーム1のように合成した。
【化7】
具体的には、アルゴン風船、セプタム、三方コックを装着した二口ナスフラスコをアルゴン置換し、ジフェニルアセチレン2.57 g(14.4 mmol)とリチウム0.200 g(28.8 mmol)とエーテル16 mLを加え、これに超音波を1.5時間照射して反応を開始させた。その後、室温で3.5時間撹拌して反応を行った。アルゴン風船、同圧滴下漏斗、セプタム、三方コックを装着した三口フラスコをアルゴン置換し、先に調製した溶液をアルゴン下でキャニュラー輸送した。この反応系を液体窒素により‐196 ℃に冷やしながら、ジメチルジクロロシラン2.23 g(17.2 mmol)とエーテル16 mLの混合液を同圧滴下漏斗より滴下した。滴下後、反応系を液体窒素から取り除き室温で12時間反応させた。その後、氷と1 Mの塩酸を加えて反応を失活した。酢酸エチルで抽出し、その抽出液を蒸留水と飽和食塩水それぞれで洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。溶媒留去の後、展開溶媒をヘキサン:酢酸エチル=1:0〜10:1としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。その後ヘキサンで再結晶し、目的物を1.158 g(収率39%)で得た。
【0026】
2. 1,1,2,3,4,5−ヘキサフェニルシロール内包ポリスチレン微粒子の合成(架橋剤:ジビニルベンゼン)
スチレン251 mg(2.41 mmol)とジビニルベンゼン120 mg(0.92 mmol)の混合液に、1,1,2,3,4,5−ヘキサフェニルシロール(HPS)17.2 mg(0.032 mmol)と純度75%の過酸化ベンゾイル10.2 mg(0.032 mmol)を溶解させた。
具体的には、アルゴン風船、アリーン冷却器、三方コック、セプタムを装着した二口ナスフラスコの系内をアルゴン置換し、1 g/Lの濃度に調製したポリビニルアルコール水溶液20 mLを入れ撹拌しながら、先に調製したモノマーを滴下した(
図3)。充分分散させてから系内を80 ℃に保ち3時間重合反応を行った。反応終了後デカンテーションにより溶媒を取り除き、80 ℃の蒸留水での熱処理、メタノールでの洗浄を経て得られた微粒子を減圧乾燥させることで目的物を135 mg(収率36%)得た(
図4)。
なお、HPSは、東京化成工業から購入した。
【0027】
3. 1,1−ジメチル−2,5−ジアニシル−3,4−ジフェニルシロール内包ポリスチレン微粒子の合成(架橋剤:ジビニルベンゼン)
スチレン251 mg(2.41 mmol)とジビニルベンゼン120 mg(0.92 mmol)の混合液に、1,1−ジメチル−2,5−ジアニシル−3,4−ジフェニルシロール(APS)30.4 mg(0.064 mmol)と純度75%の過酸化ベンゾイル10.2 mg(0.032 mmol)を溶解させた。
具体的には、アルゴン風船、アリーン冷却器、三方コック、セプタムを装着した2口ナスフラスコの系内をアルゴン置換し、濃度1 g/Lに調整したポリビニルアルコール水溶液20 mLを入れ撹拌しながら、先に調製したモノマーを滴下した(
図5)。充分分散させてから系内を80 ℃に保ち3時間重合反応を行った。反応終了後、デカンテーションにより溶媒を取り除き、80 ℃の蒸留水での熱処理、メタノールでの洗浄を経て得られた微粒子を減圧乾燥させることで目的物を127 mg(収率34%)得た(
図6)。
【0028】
なお、APSは以下のスキーム2のように合成した。
具体的には、アルゴン風船、セプタム、三方コックを装着した二口ナスフラスコをアルゴン置換し、リチウム0.052 g(8.0 mmol)とナフタレン1.026 g(8.0 mmol)とテトラヒドロフラン(THF)8 mLを加え、これに20分間超音波を照射して反応を開始させた。その後、室温で3時間撹拌してリチウムナフタレニドを調製した。アルゴン風船、蛇管、セプタム、同圧滴下漏斗、三方コックを装着した三口ナスフラスコをアルゴン置換し、先に調製した溶液をアルゴン下でキャニュラー輸送した。ビス(フェニルエチニル)ジメチルシラン0.520 g(2.0 mmol)のTHF溶液5 mLを同圧滴下漏斗より滴下したのち、20分間撹拌させた。この反応系を氷水で系内を0 ℃に冷やしながらTHF 10 mLを加えたのち、ジクロロ(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)亜鉛(II)2.020 g(8.0 mmol)を加え、反応系を氷水から取り除き室温で1時間反応を行った。その後、p−ブロモアニソール0.786 g(4.2 mmol)とビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド0.070 g(0.1 mmol)とTHF 10 mLを加え、系内を65 ℃に保ち15時間反応を行った。その後、1Mの塩酸を加えて失活した。クロロホルムで抽出し、その抽出液を蒸留水と飽和食塩水のそれぞれで洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。溶媒留去の後、展開溶媒をヘキサン:酢酸エチル=9:1としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的物を125 mg(収率13%)得た。
【化8】
【0029】
4. 1,1,2,3,4,5−ヘキサフェニルシロール内包ポリスチレン微粒子の合成(架橋剤:ジビニルベンゼン、1,1−ジアリル−2,3,4,5−テトラフェニルシロール)
スチレン251 mg(2.41 mmol)とジビニルベンゼン110 mg(0.85 mmol)の混合液に、HPS 17.2 mg(0.032 mmol)と1,1−ジアリル−2,3,4,5−テトラフェニルシロール(DATPS)33.6 mg(0.072 mmol)と純度75%の過酸化ベンゾイル10.2 mg(0.032 mmol)を溶解させた。
具体的には、アルゴン風船、アリーン冷却器、三方コック、セプタムを装着した2口ナスフラスコの系内をアルゴン置換し、濃度1 g/Lに調整したポリビニルアルコール水溶液20 mLを入れ撹拌しながら、先に調製したモノマーを滴下した(
図7)。充分分散させてから系内を80 ℃に保ち3時間重合反応を行った。反応終了後、デカンテーションにより溶媒を取り除き、80 ℃の蒸留水での熱処理、メタノールでの洗浄を経て得られた微粒子を減圧乾燥させることで目的物を79.9 mg(収率20%)得た(
図8)。
なお、DATPSは、特許文献3およびJ. Organomet. Chem., 1990, 391:27などを参照して製造した。
【0030】
5. 1,1,2,3,4,5−ヘキサフェニルシロールを内包し、ヒドロキシ基を表面修飾したポリスチレン微粒子の合成(架橋剤:ジビニルベンゼン)
スチレン1.0 g(9.60 mmol)とジビニルベンゼン477 mg(3.67 mmol)の混合液に、HPS 71.5 mg(0.13 mmol)と純度75%の過酸化ベンゾイル42.0 mg(0.13 mmol)を溶解させた。
具体的には、アルゴン風船、アリーン冷却器、三方コック、セプタムを装着した2口ナスフラスコの系内をアルゴン置換し、濃度1 wt%に調整したポリビニルアルコール水溶液20 mLを入れ撹拌しながら、先に調製したモノマーを滴下した(
図3)。充分分散させてから系中を80 ℃に保ち3時間重合反応を行った。反応終了後、デカンテーションにより溶媒を取り除き、80 ℃の蒸留水での熱処理、メタノールでの洗浄を経て得られた微粒子を減圧乾燥させた。
乾燥後、再度この二口ナスフラスコにアルゴン風船、アリーン冷却器、三方コック、セプタムを装着し、系内をアルゴン置換した。Milli-Q 20 mLを入れて撹拌しながら、過酸化ベンゾイル10.0 mg(0.031 mmol)を溶解させた4−アセトキシスチレン(AS)500 mg(3.08 mmol)とジビニルベンゼン25.0 mg(0.19 mmol)の混合液を滴下し、30分間膨潤を行った。膨潤後、系内を70 ℃に保ち4時間重合反応を行った。この段階で、IRスペクトルを測定したところ、カルボニル基に特徴的なピークを確認できた。
反応終了20時間後、1M水酸化ナトリウム水溶液を20 mL加え、加水分解反応を4時間行った。反応終了後、デカンテーションにより溶媒を取り除き、メタノールでの洗浄を行い、減圧乾燥することによって目的の微粒子を1.16 g(収率59%)得た(スキーム3)(
図9)。この段階で、IRスペクトルを測定したところ、カルボニル基由来のピークが小さくなり、ヒドロキシ基に由来する幅広いピークが確認できた(
図10)。
【化9】
【0031】
6.ポリスチレン網状ポリマーに、π共役系が伸びた平面性の高い蛍光化合物(クマリン6)とAIE活性化合物化合物(TPSおよびAPS)を包含させた場合の輝度および蛍光粒子収率の比較
上記1および3に記載した蛍光性微粒子の作製方法と同様にして、クマリン6(東京化成)、TPSおよびAPSをポリスチレン網状ポリマーに取り込ませ、各蛍光性微粒子の輝度と蛍光量子収率を測定した(
図11)。
クマリン6の封入量は、0.01、0.05、0.1、0.15、0.2および0.3 mol%であり、それ以上封入しようとすると、微粒子を形成させるのが困難であった。これに対し、シロールは0.1、1.0、2.0 mol% まで封入可能であった。また、目視において、AIE活性なシロール類(TPS、APSおよびHPS)を封入した微粒子の方が明らかに強く発光していた。各微粒子の輝度および蛍光量子収率を測定した結果を
図11に示す。
クマリン6を封入したポリスチレン微粒子の輝度は、クマリン6の量依存的に上昇したものの、同じ封入率のAIE活性化合物を含むポリスチレン微粒子よりもかなり低かった(
図11、輝度)。
また、クマリン6を封入したポリスチレン微粒子の蛍光量子収率は、封入率0.2 mol%程度までは、クマリン6の量依存的に増加したが、それ以上の封入率では、減少した。これは、クマリン6の封入量が増えたことで、蛍光の濃度消光を引き起こしたことを示唆している。一方、AIE活性化合物であるTPS、APSおよびHPSを封入したポリスチレン微粒子の蛍光量子収率は、封入量の増加と共に蛍光量子収率も増加していき、2.0 mol%のTPSとAPSの蛍光量子収率は、それぞれ70%と90%にまで達していた。これは、樹脂内でシロール同士が凝集、もしくはポリスチレン樹脂に閉じ込められることによりシロールの分子運動が阻害されることによるAIE効果の発現に由来すると考えられる。
【0032】
また、
図12には、1,1,2,3,4,5−ヘキサフェニルシロールを封入したポリスチレン微粒子(a1およびa2)とクマリン6を封入したポリスチレン微粒子(a2およびb2)の蛍光写真を示した。両者を比較すると、1,1,2,3,4,5−ヘキサフェニルシロールを封入したポリスチレン微粒子の輝度の方がクマリン6を封入したポリスチレン微粒子の輝度よりも高いことが分かる。特に、露光時間の長い写真を比較すると(a1とb1)明らかである。
【0033】
以上の結果から、蛍光樹脂微粒子作成にAIE活性化合物を蛍光物質として用いれば、樹脂内部に閉じ込められた蛍光物質がAIE効果を発現し、通常のπ共役系蛍光物質よりも高効率に発光する樹脂となることが分かった。