【実施例】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例に係る密度測定装置(本発明の実施例に係る密度測定方法を具体化した装置)の概略側面図を示す。
【0019】
(密度測定方法を具体化した)密度測定装置10は、たとえば散乱型RI(ラジオアイソトープ)密度測定装置とされている。密度測定装置10は、図示しない水分量測定装置を併設してもよい。
密度測定装置(RI(ラジオアイソトープ)密度測定装置)10は、建設現場などの盤体(測定対象、地中)20の物質の密度を測定するため、建設現場の地表面22上を移動可能に設置されている。なお、密度測定装置10の底面と建設現場の地表面22との間で隙間を形成することなく充填材(図示しない)を充填する場合があるが、本発明の趣旨ではない。
図1では地表面22は一点鎖線で表されている。
【0020】
図1を見るとわかるように、密度測定装置10は、測定対象(地中)20に対して放射線を発生する放射線源12と、入射した放射線を検出する放射線検出器14とを少なくとも備えて構成されている。また、
図1では、放射線源12、放射線検出器14の間に放射線を遮蔽する遮蔽体16を設けているが、この構成に限定されない。
【0021】
放射線源12は、格納部30に厳重に封入、格納されており、たとえば密度測定装置10の側部に設けられている。格納部30には放射線源12のほか、たとえば中性子源(図示しない)などが封入される場合もあり、必要に応じて封入する物質を追加することができる。放射線源12は、地表面22からわずかに離反した位置から測定対象である地中20に向けて放射線(後述するガンマ線γ)を発生、散乱放射している。
【0022】
放射線源12として、実施例ではガンマ線γを発生するガンマ線源を使用する。符号γは、放射線源12から発生して地中内の物質20−1(より正確には、物質20−1の原子と反応して放出された電子)で反射したガンマ線を含み、放射線源によるガンマ線を表わしている。
また、実施例では、ガンマ線γを発生する放射線源(ガンマ線源)12として、セシウム137(Cs−137)を使用している。セシウム137は、散乱型RI(ラジオアイソトープ)密度測定装置の放射線源として通常よく使用されている。
【0023】
放射線検出器14は、放射線源12およびバックグラウンドによるガンマ線を検出可能とするとともに、制御装置14−1を有している。また、放射線検出器14は、放射線、特にガンマ線を検出可能とするように、密度測定装置10の底部、すなわち地表面22付近に固定される。
密度測定装置10内へは、放射線源(ガンマ線源)12による発生した放射線(ガンマ線)のみならず、放射線検出器の外部から自然界にある放射線(ガンマ線;バックグラウンド)がわずかながら入射する。つまり、放射線検出器14では、セシウム137を用いた放射線源12によるガンマ線γと、バックグラウンドによるガンマ線γ’との双方が同時に入射し、検出される。符号γ’はバックグラウンドによるガンマ線を表わしている。
【0024】
制御装置14−1は、放射線検出器14に接続されている。制御装置14−1は、たとえば、情報処理機能を有するCPU14−1’(プロセッサ)などから構成されて密度測定装置10を制御するとともに、各種のプログラムを実行する制御部14−1a、フラッシュメモリなどの記憶媒体から構成されて情報を記憶する記憶部14−1b、タッチパネルやキーボード、ボタンなどの入力手段14−1c’からの入力を受け付ける入力部14−1c、ディスプレイなどの出力(表示)手段14−1d’に出力する出力部14−1dなどを有している。そのほか、制御装置14−1は、ネットワークを介して外部と通信する通信部(図示しない)などを有していてもよく、この構成に限定されない。
【0025】
制御装置の記憶部14−1bには、たとえば密度測定プログラム(図示しない)や密度を算出する校正式が記憶されている。制御部14−1aは、記憶部14−1bに記憶された密度測定プログラム(図示しない)を実行することで、たとえば放射線検出器14で検出したガンマ線γ、γ’のエネルギーに対する計数率を算出してガンマ線のスペクトルを作成し、そのスペクトルにおいて、ピークの半値幅の倍に相当するガンマ線のエネルギー値を閾値として算出、設定する算出手段14−1a1(ステップS2−1;算出工程。後述する
図3参照)、閾値以上のガンマ線のエネルギー領域のみを抽出する抽出手段14−1a2(ステップS2−2;抽出工程)、抽出したエネルギー領域から閾値未満のガンマ線のエネルギー領域を推定し、推定した閾値未満のガンマ線のエネルギー領域と、抽出した閾値以上のエネルギー領域とを合算してバックグラウンドによるガンマ線の全エネルギー領域とする推定手段14−1a3(ステップS2−3;推定工程)などとして機能する。
【0026】
図2は、測定したセシウム137およびカリウム40のエネルギースペクトル(スペクトル)を表したグラフを示す。縦軸は計数率(カウント数;cpm)、横軸はガンマ線のエネルギー(keV)である。
図2の破線は、放射線源としてセシウム137を使用して放射線検出器14で検出されたセシウム137のスペクトルを示している。なお、
図2の実線はカリウム40のスペクトルを示している。
図2の破線で示すセシウム137のスペクトルには、放射線検出器14により検出される2つのガンマ線、つまり放射線源12からのガンマ線γおよびバックグラウンドによるガンマ線γ’の双方のエネルギーが合算されて表されている。放射線検出器14で検出されたガンマ線の値(計数率)のみを見ても、射線源12からのガンマ線γに由来する値(計数率)と、バックグラウンドによるガンマ線γ’に由来する値(計数率)とを分離することはできない。
図2の符号X1、X2はエネルギースペクトルのピークをそれぞれ表し、ガンマ線のエネルギーの低い方から第1ピーク、第二ピークとされる。第二ピークX2におけるガンマ線のエネルギー(横軸)はおよそ662keVとされる。
【0027】
本発明では自然由来の放射線(バックグラウンド)はカリウム40(K−40)によるものが大部分と考え、セシウム137と比較してカリウム40のスペクトルも併せて
図2に表している。
図2を見るとわかるように、セシウム137、カリウム40のスペクトルは、ガンマ線のエネルギーの高い領域(
図2の領域α)において、およそ一致している。すなわち、ガンマ線のエネルギーの高い領域αにおいては、セシウム137のガンマ線の計数率とバックグラウンドのガンマ線の計数率との挙動がほぼ同じであることがわかる。
【0028】
ここで、セシウム137、カリウム40のスペクトルの挙動の分岐となる閾値として、実施例ではセシウム137のスペクトルのうち、ガンマ線のエネルギーの高い方のピークにおけるスペクトルの半値幅により閾値を算出、設定している。具体的にはまず、セシウム137の第二ピークを形成するスペクトルにおいて、この第二ピーク値の半分になる幅、つまり半値幅を算出する。そして、半値幅の倍となる値を第二ピークにおけるガンマ線のエネルギー(およそ662keV)に加算し、この値を閾値とする。実施例のセシウム137を使用する場合、閾値は800〜900keVとされる(実施例の
図2ではおよそ800keV)。
【0029】
つまり、放射線源12としてセシウム137を使用してガンマ線のエネルギーを測定し、測定したガンマ線のエネルギーのスペクトル(
図2の破線)において閾値以上のガンマ線のエネルギー領域αのみを抽出すれば、閾値未満のカリウム40のエネルギー領域βを推定することができる。推定に用いる関係式については後述する。カリウム40のエネルギー領域は、上述のとおりバックグラウンドのエネルギー領域とほぼ同じである。そのため、セシウム137を使用してガンマ線のエネルギーを測定した場合のスペクトルにおいて、閾値以上のガンマ線のエネルギー領域αから、バックグラウンド(カリウム40)によるガンマ線γ’のエネルギー領域α、βすべてを推定することができる。
【0030】
図3は密度測定装置による密度測定(推定)のフロー図を示す。
バックグラウンドによるガンマ線γ’のエネルギー領域すべてを推定するための密度測定装置10による密度測定方法は、
図3を見るとわかるように、概略、測定工程(ステップS1)、抽出・推定工程(ステップS2)を含んでいる。後述するように、測定工程(ステップS1)、抽出・推定工程(ステップS2)は放射線検出器の制御装置14−1により行われる。
【0031】
測定工程(ステップS1)は、密度測定装置10を測定対象の地表面22に設置し、放射線源12からガンマ線γを発生させて測定対象20の密度を測定する工程である。測定工程(ステップS1)は、放射線源12からガンマ線γを発生させる発生工程(ステップS1−1)と、放射線源およびバックグラウンドによるガンマ線γ、γ’を合わせて検出、測定する検出工程(ステップS1−2)とを含んでいる。
抽出・推定工程(ステップS2)は、検出されたガンマ線γ、γ’のスペクトルを作成し、閾値を算出、設定する算出工程(ステップS2−1)と、閾値以上のエネルギー領域のみを抽出する抽出工程(ステップS2−2)と、抽出工程で抽出した閾値以上のエネルギー領域から閾値未満のガンマ線のエネルギー領域を推定し、推定した閾値未満のガンマ線のエネルギー領域と、抽出工程で抽出した閾値以上のエネルギー領域とを合算してバックグラウンドによるガンマ線の全エネルギー領域とする推定工程(ステップS2−3;ステップS2−3a、b)とを含んでいる。
【0032】
図1〜3を用いて、密度測定装置による密度測定(推定)方法について説明する。
まず、密度測定装置10を建設現場の地表面22上に設置する。そして、セシウム137を用いた放射線源12から放射線(ガンマ線γ)を発生させ、測定対象の地中20へ散乱放射する(ステップS1−1、発生工程)。そして、放射線検出器14へ入射したガンマ線γ(より正確には、物質20−1の原子と反応して放出された電子)と、密度測定装置10の外部より入射するバックグラウンドによるガンマ線γ’とを放射線検出器14で検出する(ステップS1−2、検出工程)。これにより現場におけるガンマ線、つまり、放射線源12によるガンマ線γとバックグラウンドによるガンマ線γ’とが密度測定装置10で同時に検出、測定される。
【0033】
放射線検出器の制御装置14−1は、検出したガンマ線γ、γ’のエネルギーに対する計数率(カウント数、単位cpm)を算出してスペクトルを作成する。なお、スペクトルは、ピークを明確化するために平滑化処理を施したものが好ましい。
そして、制御装置の制御部14−1aは、上述のとおり、検出したガンマ線のスペクトルにおいて、この第二ピーク値の半分になる幅、つまり半値幅を算出する。そして、半値幅の倍となる値を第二ピークにおけるガンマ線のエネルギー(
図2ではおよそ662keV)に加算し、この値を閾値として算出、設定する(ステップS2−1、算出工程)。実施例のセシウム137を使用する場合、閾値は800〜900keVとなる(
図2)。算出工程(ステップS2−1)で作成されたスペクトルは、制御装置の制御部14−1aを介して出力手段(ディスプレイ)14−1d’に表示してもよい。
【0034】
制御装置の制御部14−1aは、算出工程(ステップS2−1)で算出された閾値以上のエネルギー領域のみを抽出する(ステップS2−2、抽出工程)。すなわち、算出工程(ステップS2−1)で作成されたスペクトルについて、閾値以上のガンマ線のエネルギー領域αのみを抽出する。
【0035】
次に、制御装置の制御部14−1aは、抽出工程(ステップS2−2)で抽出したエネルギー領域αから閾値未満のガンマ線のエネルギー領域βを推定する(ステップS2−3a)。推定に用いる関係式については後述する。
そして、制御装置の制御部14−1aは、抽出工程(ステップS2−2)で抽出された閾値以上のガンマ線のエネルギー領域αと、推定工程(ステップS2−3)で閾値未満のガンマ線βとを合算し、これをバックグラウンドの全エネルギー領域とする(ステップS2−3b)。出力手段(ディスプレイ)14−1d’に、閾値以上のガンマ線のエネルギー領域αと、閾値未満のガンマ線のエネルギー領域βとを合算した一連のバックグラウンドの全エネルギー領域をスペクトルとして表示してもよい。あるいは、出力手段(ディスプレイ)14−1d’に、測定されたガンマ線のエネルギー領域から推定されたバックグラウンドの全エネルギー領域を除いて放射線源12からのエネルギー領域を算出し、これをスペクトルとして表示してもよい。
規定点数が規定されている場合は、ステップS1−1〜S2−3の工程を規定点数に至るまで繰り返す。
【0036】
図4は、バックグラウンドにおいて、閾値以上のガンマ線のエネルギー領域における計数率から全エネルギー領域の計数率を導出する関係式および相関関係を示すグラフを示す。
密度測定装置10による密度測定(推定)方法で、放射線源12として実施例のセシウム137を使用するとともに、閾値を900keVと設定したところ、
図4の関係式を得た。
図4を見るとわかるように、関係式は1次関数として表すことができる。図中のR
2は近似曲線の決定係数である。決定係数R
2が0.9522であり、バックグラウンドにおいて、閾値以上のガンマ線のエネルギー領域αにおける計数率と全エネルギー領域α、βの計数率とが高い相関関係にあることが理解される。
つまり、
図4に示す関係式を使用すれば、推定工程(ステップS2−3)において、抽出工程(ステップS2−2)で抽出したエネルギー領域αから閾値未満のガンマ線のエネルギー領域βを推定し、さらに、推定した閾値未満および抽出した閾値以上のバックグラウンドのエネルギー領域α、βを合算してバックグラウンドの全エネルギー領域とすることが可能である。
【0037】
(密度測定方法を具体化した)密度測定装置10において、制御装置の制御部14−1aは、測定したガンマ線γ、γ’からスペクトルを作成して閾値を算出し(ステップS2−1)、測定したガンマ線γ、γ’の閾値以上のエネルギー領域αから、バックグラウンドによるガンマ線γ’のエネルギー領域βを含むすべてのバックグラウンドのエネルギー領域を推定している(ステップS2−2、3)。すなわち、自動的にバックグラウンドの全エネルギー領域を推定して、測定されたガンマ線のエネルギー領域からバックグラウンドによるガンマ線の影響(計数率)を分離して、放射線源からのガンマ線のみの影響(計数率)を把握することができる。
そのため、測定対象での測定前にバックグラウンドを測定する必要がなく、全体の測定時間を大幅に短縮し、測定者の負担を軽減させることができる。
【0038】
測定対象20の測定にあたり、密度測定装置10を測定対象の地表面22上に設置して、放射線源12からガンマ線γを照射すれば足りる。つまり、放射線源12の格納部30を取り外して測定対象20である地中に埋設する必要がなく、この点からも測定者の負担を軽減させることができる。また、密度測定装置10を測定対象の地表面22上に設置すれば足りることから、測定対象の地表面を走行する自走装置に設置することができ、この点でも測定者の負担を軽減させることができる。
さらに、放射線源12を地中に埋設するための容器が不要となり、密度測定装置の小型化、軽量化を実現することができる。また、放射線源12の容器を埋設のために脱着可能に設ける必要がないため、放射線源を紛失するおそれがない。
【0039】
上述した実施例は、この発明を説明するためのものであり、この発明を何等限定するものでなく、この発明の技術範囲内で変形、改造等の施されたものも全てこの発明に包含されることはいうまでもない。