(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6978092
(24)【登録日】2021年11月15日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】眼内レンズアセンブリ
(51)【国際特許分類】
A61F 2/16 20060101AFI20211125BHJP
【FI】
A61F2/16
【請求項の数】22
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2019-133977(P2019-133977)
(22)【出願日】2019年7月19日
(62)【分割の表示】特願2016-536058(P2016-536058)の分割
【原出願日】2014年7月31日
(65)【公開番号】特開2019-193876(P2019-193876A)
(43)【公開日】2019年11月7日
【審査請求日】2019年8月16日
(31)【優先権主張番号】2011325
(32)【優先日】2013年8月20日
(33)【優先権主張国】NL
(31)【優先権主張番号】2011563
(32)【優先日】2013年10月4日
(33)【優先権主張国】NL
(31)【優先権主張番号】2012659
(32)【優先日】2014年4月18日
(33)【優先権主張国】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】514046884
【氏名又は名称】オキュレンティス ホールディング ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンデルス ベルナルドゥス フランシスクス マリア
【審査官】
小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】
欧州特許出願公開第02422746(EP,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0125261(US,A1)
【文献】
特開2006−047356(JP,A)
【文献】
特開昭64−083257(JP,A)
【文献】
特表2012−517880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼の水晶体嚢内に留置するための、眼内レンズ構造体(IOL)を備える眼内レンズアセンブリであって、前記眼内レンズ構造体は、
−外周部を備える光学構造体と、
−前記光学構造体の前記外周部に連結されて該外周部から延在する少なくとも2つの後方支持体であって、該後方支持体は、前記眼内レンズ構造体が水晶体嚢内に埋め込まれると水晶体嚢の内部に位置する、後方支持体と、
−前記光学構造体の前記外周部に連結されて該外周部から延在する少なくとも2つの前方支持体であって、該前方支持体は、前記眼内レンズ構造体が水晶体嚢内に埋め込まれると水晶体嚢の外部に位置する、前方支持体と
を備え、
前記前方支持体及び前記後方支持体は、前記眼内レンズ構造体の前記光学構造体を水晶体嚢の前部の開口部と位置合わせした状態で固定するために、前方水晶体嚢フラップを前記前方支持体と前記後方支持体との間に保持するように、前記外周部上において互いに配置され、
前記眼内レンズ構造体の前記後方支持体と前記前方支持体とは、方位角方向(Az)において互いにずれている、又は互い違いに配置されており、
前記眼内レンズアセンブリは、前記眼内レンズ構造体の前側に取り付けるための補助眼内レンズ(S−IOL)を更に備え、該補助眼内レンズは、
−補助外周部を備える補助光学構造体と、
−前記補助外周部に連結された少なくとも2つの固定部であって、各固定部は前記前方支持体のうちの1つと連結するためのものであり、前記固定部は、前記光学構造体及び前記補助光学構造体を位置合わせした状態で前記補助眼内レンズを前記眼内レンズ構造体に固定するためのものである、固定部と、
−前記補助光学構造体の周囲の環状部であって、該環状部の内周部は前記補助外周部に取り付けられており、前記内周部が前記眼内レンズ構造体の前記光学構造体の前記外周部の周囲と嵌合する、環状部と
を備える、眼内レンズアセンブリ。
【請求項2】
前記補助眼内レンズは、前記眼内レンズ構造体の前側に面する後側を備え、前記眼内レンズ構造体の前記前側は、使用時に眼の虹彩の方を向いており、前記環状部は、前方水晶体嚢部の前面と係合するための後面を備える、請求項1に記載の眼内レンズアセンブリ。
【請求項3】
前記後面は、前記少なくとも2つの前方支持体の後面と少なくとも同一平面上にあるように軸方向に配置されるか、あるいは、前記後面の後方において後方向に配置される、請求項2に記載の眼内レンズアセンブリ。
【請求項4】
前記少なくとも2つの固定部は、前記環状部に取り付けられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼内レンズアセンブリ。
【請求項5】
前記固定部は前記環状部の後側から延在している、請求項4に記載の眼内レンズアセンブリ。
【請求項6】
前記少なくとも2つの固定部は、前記環状部に取り付けられて、前記環状部の後面を越えて後方向に延在している、請求項4に記載の眼内レンズアセンブリ。
【請求項7】
前記固定部は、自身が連結している前記前方支持体の後面を越えて後方向に延在している、請求項6に記載の眼内レンズアセンブリ。
【請求項8】
前記前方支持体は、貫通孔又は開口部を備え、前記固定部は、前記貫通孔又は開口部を通過するように構成されたパッチが設けられた端部を備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼内レンズアセンブリ。
【請求項9】
前記環状部の前記内周部は、円錐状である内周面を備え、前記外周部は、円錐状の前記内周面と実質的に同じ角度を有する円錐面を有し、前記円錐状である内周面と前記円錐面は前方向にテーパが付けられている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼内レンズアセンブリ。
【請求項10】
−前記少なくとも2つの後方支持体は、前記光学構造体から延出する閉ループを備え、各ループは、前記外周部に取り付けられた両端部を有し、
−前記少なくとも2つの前方支持体は、前記外周部に取り付けられた前記端部の間において前記ループのうちの1つの内側にそれぞれ配置されている、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼内レンズアセンブリ。
【請求項11】
前記眼内レンズ構造体の後方支持体が前方支持面を提供し、前記眼内レンズ構造体の前方支持体が後方支持面を提供し、前記前方支持面及び前記後方支持面が方位角方向において互いにずれている、又は互い違いに配置されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼内レンズアセンブリ。
【請求項12】
前記眼内レンズ構造体の前方支持体及び前記眼内レンズ構造体の後方支持体は、方位角方向(Az)において交互に後方支持面及び前方支持面を提供する、請求項11に記載の眼内レンズアセンブリ。
【請求項13】
前記眼内レンズ構造体の前記後方支持体及び前記前方支持体は、前記光学構造体の周囲において方位角方向(Az)に延在している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼内レンズアセンブリ。
【請求項14】
前記光学構造体の前側、及び前記光学構造体に面する前記補助光学構造体の後側は、実質的に同じ曲率半径を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼内レンズアセンブリ。
【請求項15】
前記光学構造体の前記前側及び前記補助光学構造体の前記後側は間隔を有する、請求項14に記載の眼内レンズアセンブリ。
【請求項16】
前記眼内レンズ構造体は、前記外周部に窪みを備え、該窪みは、前記外周部の外周部表面において軸方向(Ax)に延在する溝を提供する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼内レンズアセンブリ。
【請求項17】
前記窪みは、後方支持体と前方支持体との間に設けられている、請求項16に記載の眼内レンズアセンブリ。
【請求項18】
前記補助眼内レンズは、該補助眼内レンズを貫いて延在して前記窪みに接続する流路を備える、請求項16に記載の眼内レンズアセンブリ。
【請求項19】
前記補助眼内レンズは、その外周部に窪みを備え、該窪みは、前記眼内レンズ構造体の前記窪みに接続する、径方向に延在する溝を提供する、請求項16に記載の眼内レンズアセンブリ。
【請求項20】
前記眼内レンズ構造体上に配置するのに適した、請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼内レンズアセンブリの前記眼内レンズ構造体用の補助眼内レンズ(S−IOL)であって、
−補助光学構造体と、
−前記補助光学構造体の周囲に取り付けられた環状部であって、少なくとも2つの軸方向表面を備える、環状部と、
−少なくとも2つの固定部であって、前記環状部の前記軸方向表面から延在して、前記環状部の前記軸方向表面からある距離をおいた場所で端部においてパッチを保持し、各固定部は前記前方支持体のうちの1つと連結するためのものであり、前記固定部は、前記光学構造体及び前記補助光学構造体を位置合わせした状態で前記補助眼内レンズを前記眼内レンズ構造体に固定するためのものである、固定部と
を備える補助眼内レンズ。
【請求項21】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の前記眼内レンズアセンブリの前記補助眼内レンズの一式、又は請求項20に記載の前記補助眼内レンズの一式を備える部品キットであって、前記補助眼内レンズは、前記補助光学構造体の光学特性が少なくとも1つ互いに異なっている、部品キット。
【請求項22】
前記補助眼内レンズのジオプタが互いに異なっている、請求項21に記載の部品キット。
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、眼内レンズ構造体(IOL)と補助眼内レンズとを備える眼内レンズアセンブリ、及び該眼内レンズアセンブリの挿入方法に関する。
[発明の背景]
白内障の水晶体嚢外摘出術とも称される現代の白内障の手術では、前方水晶体嚢に穴が開けられる。これは、レーザ装置を用いて行われ得る。続いて、水晶体が除去される。多数の提案されている手術において、水晶体嚢の残存部には、IOLが留置される。IOLは、空の嚢内でその位置をある程度維持する。
【0002】
通常、IOLには複数のハプティックが設けられる。これらのハプティックは、IOLのレンズから径方向に延在している。IOLを埋め込んだ後、例えばレンズであるIOLの光学素子をある程度水晶体嚢内で中央に配置しておくために、これらのハプティックは、通常は水晶体嚢の残存部の内周面と係合する。
【0003】
IOLの位置固定を改善するために、多くの設計が提案されてきた。米国特許第6027531号明細書では、要約書において以下のように記載されている。「白内障の水晶体嚢外摘出術に用いられる眼内レンズは、レンズの光学部を取り囲むハプティック部を有し、前嚢切開、水晶体嚢外摘出、及び後嚢切開の後に、水晶体嚢の前嚢及び後嚢を収容する形状の溝をさらに含む。レンズは、調整された円形かつ連続した前嚢及び後嚢の組み合わされた切開部内に挿入されることが好ましく、それら切開部は、嚢の開口部の周縁の伸張を引き起こす程度に、溝の内周より僅かに小さい。この新たな手法は、嚢の二次的混濁の発現を予防すると考えられ、眼内レンズを非常に安定的に固定することを可能にし、眼の前部と後部との間の厳密な分離を確実にする。挿入のこの新たな方式は、伝統的な嚢内固定法(lens in−the−bag technique)と対比して、嚢外固定法(bag−in−the−lens technique)と称される。このようなIOLの留置には熟練が必要であり、水晶体嚢が損傷する虞もある。挿入後に水晶体嚢が破れると、IOLはその位置を維持できなくなる。
【0004】
米国特許第6881225号明細書では、要約書において、合併症を減少させるための眼内レンズ構造体が記載されている。この眼内レンズ構造体は、光学素子と、支持体と、閉鎖固定部とを備える。閉鎖固定部は、眼内レンズの光学素子の側部に形成された溝又は凹部である。凹部は、光学素子と、光学素子から後方に突出する突起とによって形成される。光学素子の溝又は凹部は、後嚢の開口部を閉鎖するために、溝又は凹部のほぼ全周に亘って後嚢開口部と係合するように形成される。現在のIOL構造体の大半がそうであるように、この構造体もまた、水晶体嚢内に自らを維持するためのハプティックを使用している。溝は、水晶体嚢の後部を保持する。
【0005】
米国特許第5171320号明細書では、要約書において、正常時には眼の水晶体を内包する水晶体嚢の前壁にある、ほぼ円形の開口部内に埋め込まれるように構成された、眼内レンズシステムが記載されている。この眼内レンズシステムはレンズ本体を備え、このレンズ本体は、レンズ本体の光軸に実質的に直交する平面において、レンズ本体の外周部に形成された環状溝を有する。レンズ本体は、環状溝の径方向内側に位置する光学有効部と、環状溝の前側及び後側にそれぞれ位置する前方レンズ部及び後方レンズ部とを備える。眼内レンズシステムは、円形開口部を取り囲む水晶体嚢の環状フラップ部がレンズ本体の環状溝内に収容されるような態様で、円形開口部内の適切な位置に固定される。
【0006】
公知のIOL及びIOLシステムは、通常、眼内の光学誤差を完全に修正することはない。通常は、光が網膜上に正確に収束される正常視は得られず、残余誤差が残る。多くの場合、患者は、通例+0.5〜+1.5ジオプタの残った屈折異常を矯正するために、眼鏡をなお必要とするか、あるいはレーザ治療を受ける。本技術分野では、埋め込まれたIOLにクリップ留めされる、付加的なレンズが提案されている。それらの例が以下の文献である。
【0007】
米国特許第4932971号明細書では、要約書において、既に埋め込まれた眼内レンズに、眼から取り外すことなくその光学特性を変更するために、インサイチュでクリップ留めするためのクリップオン式光学アセンブリが記載されている。この光学アセンブリは、複数の離間した弾性クリップ部材を有するレンズ本体を備える。弾性クリップ部材は、埋め込まれたレンズの周縁にこのアセンブリをクリップ留めするために、レンズ本体から延びて、レンズの周縁を把持するためのクリップにて外側で終端している。少なくとも1つのクリップは、弾性を有する屈曲端として形成されており、その弾性は、屈曲端が一時的に伸ばされて、周縁上にクリップを把持することとなる埋め込まれたレンズの周縁上で移動するのに十分なものである。例えばクリップは、レンズ本体の光軸を、埋め込まれたレンズの光軸と同心又は偏心に維持するために選択された長さを有する。アセンブリは、眼内に挿入されると、屈曲端のクリップが最終的にレンズの周縁上へ来るよう操作されるように、埋め込まれたレンズにクリップ留めされる。
【0008】
米国特許第5366502号明細書では、要約書において、調節可能又は取り外し可能な多焦点光学素子を提供するために、あるいは無水晶体症患者の屈折異常の矯正に必要とされる、球状、円筒形状、又は組み合わせた形状の光学素子を提供するために、従来の埋め込まれた眼内レンズに対して術前又は術後に取り付けるための補助眼内レンズが記載されている。補助矯正眼内レンズを主レンズに固定するために改変された、主眼内レンズを備える眼内レンズシステムも提供されている。主レンズ又は補助レンズのいずれも、適切な多焦点レンズで形成してもよく、あるいは、両レンズとも単焦点レンズであってもよい。主眼内レンズは、眼の前房内、又は水晶体嚢と虹彩との間の眼の後房内に埋め込まれる。
【0009】
国際公開第2008/094518号では、その要約書において、ヒトの眼の視覚系に埋め込まれる、複数の構成要素からなる眼内レンズが記載されている。この眼内レンズは、曲げてより小さな形態にすること及び取り外すことが可能な1つ又は複数の構成要素を備え、各構成要素は、曲げてより小さな形態にすることが可能である。1つの構成要素が、孔又はスロットを備えたフランジを有するベースレンズとして機能する。別の構成要素が中間レンズとして機能し、第3の構成要素が、中間レンズと係合するトップレンズとして機能する。トップレンズと中間レンズは、連結又は一体化されて光学アセンブリを形成し得る。トップレンズ、中間レンズ、又は光学アセンブリは、ベースレンズのスロットと係合する少なくとも1つの突起を有していてもよい。トップレンズを中間レンズに結合するために、医療用接着剤をトップレンズの外周部表面に塗布してもよい。あるいは、中間レンズの底面に対向するトップレンズの上面に医療用接着剤を塗布してもよい。これらのレンズ構成要素は曲げてより小さな形態にすることが可能であるため、展開されたレンズの直径より小さな切開創を用いて眼内に挿入され得る。これらの取り外し可能な構成要素は、視力の改善及び向上並びに美容上の目的に加え、眼の多様な医学的状態を矯正するために用いられ得る。
【0010】
欧州特許第2422746号明細書では、要約書によれば、例えば白内障手術又は水晶体摘出屈折手術の一部として眼内留置するための眼内インプラントが、インプラントの外周部において、眼の水晶体嚢に形成された1つの嚢切開部の縁部分のみと係合する溝を有することが開示されている。インプラントは通常はレンズであるが、それに代えて、嚢に
形成された開口部を閉塞するための栓又はプラグであってもよい。溝は、インプラントの外縁の周りの連続した溝であってもよく、あるいは、外縁から突出する突起として形成された、一連の個別の離間した溝であってもよい。単一の溝の代わりに、嚢の前部及び後部に形成されたそれぞれの嚢切開部と係合する、一対の軸方向に離間した溝が設けられてもよい。後方溝は、前方溝より平均直径が小さいことが好ましい。明細書には、図面における非常に特有な実施形態を参照して、「レンズ部の外周から突出する一連の突起」を備えた実施形態が示されている。
【0011】
国際公開第2013/112589号明細書では、要約書によれば、主眼内構成要素と補助眼内構成要素とを備えるモジュール式IOLシステムが開示されている。これらの構成要素は、組み合わされると眼内光学補正装置を形成し、補助構成要素は、嚢切開部の周縁内で主構成要素上に配置され、それにより水晶体嚢に接触又は処置をする必要が回避される。補助構成要素は、術中又は術後において光学結果を補正又は修正するために、主構成要素を取り外す必要も、水晶体嚢を処置する必要もなく、操作、取り外し、及び/又は別の補助構成要素との交換が行われ得る。主構成要素は、水晶体嚢におけるセンタリングのために、主構成要素から延在する複数のハプティックを有していてもよい。補助構成要素は、ハプティックをなくして、代わりに主レンズに取り付けることで安定性が得られるようにしてもよい。そのような取り付け具は、光の透過への干渉を回避するために、嚢切開部の周縁の径方向内側に、かつ視野の径方向外側に位置し得る。
[発明の概要]
先行技術の不利な点は、医療手技中に水晶体嚢を損傷する可能性が高く、IOLの留置、及び特に補助眼内レンズの留置が非常に困難となり得る点である。残った屈折異常の矯正のために、例えば水晶体嚢において付加的な処置が必要となる場合には、このことは更に一層問題となる。
【0012】
それ故に、上述した欠点の1つ又は複数を更に少なくとも部分的に未然に防ぐことが好ましい、代替の眼内レンズアセンブリを提供することが、本発明の一態様である。具体的には、本発明の眼内レンズアセンブリでは、適切かつ容易な留置が可能である。それに代えて、又はそれに加えて、本発明の眼内レンズアセンブリでは、水晶体嚢に損傷をより与えにくく、また、確実な位置決めが可能になる。
【0013】
本発明は、眼内レンズアセンブリを提供し、該眼内レンズアセンブリは、眼内レンズ構造体(IOL)であって、水晶体嚢内に留置するため、及び前方水晶体嚢フラップが水晶体嚢の前部の開口部を取り囲んでいる状態で該開口部にIOLを固定するためのものであるIOLと、補助眼内レンズ(S−IOL)であって、該S−IOLをIOLに取り付けるための固定部を備えるS−IOLと、を備える。
【0014】
具体的には、眼内レンズアセンブリは、眼の水晶体嚢内に留置するための眼内レンズ構造体(IOL)を備え、該IOLは、外周部を備える光学構造体と、光学構造体の外周部に連結されて該外周部から延在する少なくとも2つの後方支持体であって、該後方支持体は、IOLが水晶体嚢内に埋め込まれると水晶体嚢の内部に位置する、後方支持体と、光学構造体の外周部に連結されて該外周部から延在する少なくとも2つの前方支持体であって、該前方支持体は、IOLが水晶体嚢内に埋め込まれると水晶体嚢の外部に位置する、前方支持体とを備え、前方支持体及び後方支持体は、IOLの光学構造体を水晶体嚢の前部の開口部と位置合わせした状態で固定するために、前方水晶体嚢フラップを前方支持体及び後方支持体の間に保持するように、外周部上において互いに配置されている。
【0015】
具体的には、眼内レンズアセンブリは、IOLの前側に取り付けるための補助眼内レンズ(S−IOL)を更に備え、該S−IOLは、補助外周部を備える補助光学構造体と、該補助外周部に連結された少なくとも2つの固定部であって、各固定部は前方支持体のう
ちの1つと連結するためのものであり、かつ、光学構造体及び補助光学構造体が位置合わせされた状態でS−IOLをIOLに固定するためのものである、固定部とを備える。具体的には、S−IOLは、補助光学構造体の周囲の環状部を備え、該環状部の内周部は補助外周部に取り付けられており、内周部がIOLの光学構造体の外周部の周囲と嵌合する。
【0016】
IOLは、水晶体嚢内に挿入可能である。前方支持体及び後方支持体は、IOLの光学構造体が水晶体嚢の開口部、具体的には孔又は口と位置合わせされた状態で、IOLが固定されることを可能にする。IOLは、その光学構造体が水晶体嚢の開口部と、より具体的には該開口部の中に、位置合わせして配置された状態で、安定して正確に配置することが可能であることにより、付加的な屈折補正のための堅固な土台を提供することが判明している。
【0017】
「前の(anterior)」及び「後の(posterior)」という用語は、眼に入射する光の伝播に関連した特徴部の配置に関するものである。よって、光は角膜を通って入射し、瞳孔を通って虹彩を通過する。角膜及び虹彩は、本明細書では眼の前部とみなされる。続いて、その光は眼の後部に位置する網膜へと伝播する。
【0018】
眼の軸は、光軸である場合もあるし、視軸、照準線、又は瞳孔中心線である場合もある。
図36において、これらの軸が示されている。
眼は、水晶体を通常保持する水晶体嚢を有する。水晶体の除去が必要な状況では、空の水晶体嚢が残る。通常、水晶体を除去するために、まず開口部が水晶体嚢の前部に形成される。水晶体嚢膜の一部が除去される。それにより貫通孔が開くこととなり、該貫通孔は、外周部を画定する周縁に取り囲まれている。このような開口部は、例えば円形又は楕円形とすることができる。水晶体嚢の前方膜にはこうして孔が設けられ、水晶体嚢への出入りを可能にする口が提供される。
【0019】
水晶体嚢のうちの角膜に最も近い部分は、本明細書では前方水晶体嚢部とも称される。上述した開口部を取り囲む前方水晶体嚢部の残存部は、前方水晶体嚢フラップと称される。これは、環状の水晶体嚢膜とみなすことも可能である。
【0020】
水晶体嚢は、後部も有する。後部は、水晶体嚢のうちの網膜に最も近い部分である。水晶体嚢の平均的な厚さは、後方水晶体嚢部において4〜9ミクロンであり、前方水晶体嚢部において10〜20ミクロンである。
【0021】
水晶体除去の手技において、前方水晶体嚢の開口部は、レーザ切開装置を用いて形成可能である。水晶体嚢に開口部を形成するこの手技は、嚢切開術とも称される。レーザを利用したこの手技は、水晶体嚢の開口部の非常に正確な位置決め及び形状を可能にする。さらに、水晶体を除去した後に、続いて水晶体嚢の後部に開口部、すなわち後方開口部を形成することが可能である。これら2つの開口部は、正確に位置を合わせることが可能である。これらの開口部の形状は、IOLの外周部の形状と、又はより正確に言えばIOLの光学構造体の周囲の外周部の形状と合致させることが可能である。よって、IOLは完全に開口部にぴったり収まり得る。最後に、これらの開口部は、眼の光軸に完全に合わせられ得る。さらに、IOLの光軸がIOLの外周内の所定の位置に位置合わせされると、IOLの光学構造体は、最適な態様で眼内に配置され得る。したがって、光学構造体の光学素子は、所定の方法で眼内において位置合わせされ得る。例えば、複数の光学的な軸の位置を整合させてもよいが、例えば網膜の部位の特質を考慮に入れて、それ以外の所定の構成もまた可能であろう。
【0022】
一実施形態では、本アセンブリはIOLとS−IOLとからなる。S−IOLは、IO
L上における付加的な矯正部として機能する。IOLが正確に位置決め及び固定されていることに鑑みると、本実施形態においては更なる付加的な矯正は不要となり得ることが判明している。実際に、仮に付加的な矯正が必要となった場合、S−IOLを取り外して別のS−IOLを挿入することが可能である。このようなS−IOLは、カスタマイズされるか、あるいは所定の一式のS−IOLの中から選択され得る。
【0023】
IOLは、該IOLが眼内に埋め込まれて水晶体嚢に固定されると眼の角膜の方を向いている前側を有する。IOLは、該IOLが眼内に埋め込まれて水晶体嚢に固定されると眼の網膜の方を向いている後側を更に有する。
【0024】
一実施形態では、前方支持体及び後方支持体は、IOLの光学構造体を水晶体嚢の前部の開口部に固定するために、前方水晶体嚢フラップを前方支持体と後方支持体との間にしっかり留める(clipping)ように、外周部上において互いに配置されている。このようにしっかり留めることによって、IOLが眼内で前後方向に単独で動くことが防止される。これらの支持体は協働して、前方水晶体嚢部の開口部内に光学構造体をしっかり留める。具体的には、このようにしっかり留めることによって、例えば開口部に垂直な軸を中心にして、開口部内で光学構造体が回転することも防止される。この意味において、しっかり留める(clipping)という用語は、ペーパークリップが1枚又は複数枚の紙をしっかり留めるような態様でシート状材料を保持することを表すために使用されている。
【0025】
水晶体嚢フラップをしっかり留めるために、前方支持体及び後方支持体の多様な相対配置が考えられる。IOLが水晶体嚢に挿入されると、後方支持体は、水晶体嚢の内部に留まる。前方支持体は、水晶体嚢の外部で延在する。水晶体嚢フラップは、これらの支持体の間に挟持される。前方支持体及び後方支持体は、実質的に一平面上にあってもよい。このような構成において、一実施形態では、これらの支持体は外周部において互い違いに配置されている。例えば、外周部を一周すると、前方支持体と後方支持体とが交互に設けられている。挟持する力を増大させるために、1つ又は複数の前方支持体は後方向に傾斜していてもよく、かつ/あるいは、1つ又は複数の後方支持体は前方向に傾斜していてもよい。これは、約10度未満、より詳細には約5度未満に制限され得る。
【0026】
それに代えて、又はそれに加えて、前方支持体及び後方支持体は、互いからある距離をおいて配置されてもよい。
前方支持体及び後方支持体は、外周部から延在する。具体的には、これらの支持体は、外周部から径方向に延在する。
【0027】
光学構造体の外周部は、光学構造体の周囲に軸方向に延在する表面であり得る。前方水晶体嚢部の開口部の端縁は、このような実施形態では光学構造体の外周部の周囲に嵌まることが可能である。一実施形態では、水晶体嚢の弾性を考慮して、開口部の周長を光学構造体の外周より小さくしてもよい。水晶体嚢フラップは、こうしてIOLの周囲にぴったり嵌まる。
【0028】
一実施形態におけるIOLの前方支持体及び後方支持体は、支持面を備える。支持面は、水晶体嚢表面と係合する前方支持体及び後方支持体上それぞれの境界線で区切られた領域であり得る。一実施形態では、少なくとも1つの前方支持体は、前方水晶体嚢部の前面と実質的に完全に係合する後側を備える。一実施形態では、少なくとも1つの後方支持体は、前方水晶体嚢部の後面と実質的に完全に係合する前側を備える。
【0029】
本発明は更に、眼内レンズ構造体(IOL)に関し、該IOLは、水晶体嚢内に留置するため、及び前方水晶体嚢フラップが水晶体嚢の前部の開口部を取り囲んでいる状態で該
開口部にIOLを固定するためのものであり、該IOLは、該IOLが眼内に埋め込まれると使用時に眼の角膜の方を向いている前側と、IOLが眼内に埋め込まれると使用時に眼の網膜の方を向いている後側とを有し、IOLは、
−光学構造体と、
−少なくとも2つの後方支持体であって、該後方支持体は、IOLが水晶体嚢内に埋め込まれると水晶体嚢内に位置し、光学構造体から離れるように延在するためのものであり、後方支持体は、前方水晶体嚢フラップの後面と係合するための支持面を使用時に提供するように構成されている、後方支持体と、
−少なくとも2つの前方支持体であって、該前方支持体は、IOLが水晶体嚢内に埋め込まれると水晶体嚢の外側に位置し、光学構造体から離れるように延在するためのものであり、前方支持体は、前方水晶体嚢フラップの前面と係合するための支持面を使用時に提供するように構成されている、前方支持体とを備え、
後方支持体の支持面によって規定される後方平面、及び前方支持体の支持面によって規定される前方平面は、IOLを開口部に固定するために、使用時において、前方水晶体嚢フラップを後方平面と前方平面との間に保持するのに適した距離だけ離間するように構成されている。
【0030】
一実施形態では、IOLは一体的に形成されている。一実施形態では、IOLは高分子材料製である。一実施形態では、IOLは、曲げてより小さな形態にすることが可能である。高分子材料は、IOLが巻かれて直径2.5mm未満の筒状になることを可能にする。前方水晶体嚢部の挟持を可能にするために、少なくとも前方支持体は弾性を有し、それによりIOLを水晶体嚢内に挿入することが可能であり、続いて前方支持体を前方水晶体嚢部の開口部を通して前方水晶体嚢部の前面と係合させる。要するに、こうしてIOLを適切な位置に保持することが可能になる。
【0031】
一実施形態では、光学構造体から離れるように延在する少なくとも2つの後方支持体は、互いに対して機能的に反対の方向にある。一実施形態では、光学構造体から離れるように延在する少なくとも2つの前方支持体は、互いに対して機能的に反対の方向にある。
【0032】
一実施形態では、前方平面と後方平面とは、具体的には使用時に水晶体嚢を挟持しているときに、5〜100ミクロン離間している。詳細には、後方平面と前方平面とは5〜50ミクロン離間している。
【0033】
支持面同士が略平行に延びている場合、この距離が前方水晶体嚢フラップを挟持することを可能にする。
後方支持体、又は少なくともそれらの支持面は、IOLの前側に向かって角度が付けられてもよい。そのようにすれば、水晶体嚢内への埋め込み後に、後方支持体が水晶体嚢フラップの後面を押圧することが可能になる。後方支持体の角度は、最大10°とし得る。
【0034】
それに代えて、又はそれと併せて、前方支持体、又は少なくともそれらの支持面は、IOLの後側に向かって角度が付けられてもよい。そのようにすれば、水晶体嚢内への埋め込み後に、前方支持体が水晶体嚢フラップの前面を押圧することが可能になる。前方支持体の角度は、最大10°とし得る。
【0035】
一実施形態では、後方支持体と前方支持体とは、互いに対して周方向又は方位角方向にずれている。これにより、具体的には例えば工具を用いた加工又は成形の技術を用いた製造を、より容易にすることが可能である。
【0036】
一実施形態では、後方支持体及び前方支持体は、光学構造体の周囲において周方向又は方位角方向に延在している。それ故に、水晶体嚢フラップを良好に支持することが可能で
あり、IOLを固定することさえ可能である。
【0037】
一実施形態では、後方支持体と前方支持体とは重なり合っていない。実際のところ、前側から見たときに前方支持体と後方支持体とが重なり合っていなければ、工具による加工は平易になり得る。さらに、前方平面と後方平面との間の距離をより小さくすることさえ可能になり得る。実際に、前方支持体の支持面は、後方支持体の支持面を越えて−100ミクロン位置がずれていてもよい。具体的には、後方支持体の支持面を越えて−70ミクロンずれていてもよい。具体的には、後方支持体及び前方支持体が弾性を有する場合、後方支持体及び前方支持体は、その間に水晶体嚢フラップを挟持して、それによりIOLを開口部に固定し得る。したがって、両支持体が重なり合っていなければ、前方平面と後方平面との間の距離は、−100〜100ミクロン、詳細には−70〜100ミクロンであり得る。負の値は、非使用時に前方支持体が後方支持体を越えて更に後方向に位置し得ることを示す。しかしながら、使用時には、水晶体嚢を保持しているときに、前方支持体は水晶体嚢の前部の前側にあり、後方支持体は水晶体嚢の前部の後側にあることになる。
【0038】
一実施形態では、IOLは、光学構造体を取り囲む外周部表面と、該外周部表面から延在する後方支持体及び前方支持体とを備える。具体的には、外周部表面は、埋め込み時に開口部の外周を画定する前方水晶体嚢フラップの周縁と係合するための、径方向面を形成する。
【0039】
これにより、IOLの位置合わせが可能になる。例えば、開口部が非円形、例えば楕円形であり、IOLの外周が開口部の形状に一致していれば、IOLの方位角方向の向きを確定することが可能である。よって、特定の光学構造体同士の位置合わせが可能になる。
【0040】
一実施形態では、後方支持体及び前方支持体から選択される少なくとも1つがハプティックである。具体的には、ハプティックは8〜12mmの外径を有する。
IOLはこのようにして水晶体嚢内にぴったり収まることが判明している。開口部との位置合わせが不良な場合、ハプティックは安全装置として機能し得る。
【0041】
一実施形態では、IOLは一体的に形成され、その厚さ及び可撓性は、曲げられてより小さな形態とされた態様でIOLが微小な挿入部を介して眼内に挿入されるように構成されている。
【0042】
一実施形態では、IOLは、後方支持体の後方において少なくとも部分的に外周にある溝を更に備える。具体的には、該後方溝は、IOLが眼内に埋め込まれると、水晶体嚢の後部の後方開口部を取り囲む後方水晶体嚢フラップの少なくとも端縁を受容するために、径方向に開口している。一実施形態では、後方溝は深さが0.1〜0.3mmである。詳細には、後方溝は幅が0.05〜0.2mmである。より詳細には、後方溝にはテーパが付けられている。
【0043】
一実施形態では、S−IOLは、IOLの前側に面する後側を備え、IOLの前側は、使用時に眼の虹彩の方を向いており、環状部は、前方水晶体嚢部の前面と係合するための後面を備え、具体的には後面は、少なくとも2つの前方支持体の後面と少なくとも同一平面上にあるように軸方向に配置されるか、あるいは、後面の後方において後方向に配置される。
【0044】
一実施形態では、少なくとも2つの固定部は、環状部に取り付けられ、具体的には固定部は、環状部の後側から延在している。
一実施形態では、少なくとも2つの固定部は、環状部に取り付けられて、環状部の後面を越えて後方向に延在し、具体的には固定部は、自身が連結している前方支持体の後面を
越えて後方向に延在している。
【0045】
一実施形態では、前方支持体は、貫通孔又は開口部を備え、固定部は、開口部を通過するように構成されたパッチ又は保持パッチが設けられた端部を備える。
一実施形態では、環状部の内周部は、円錐状である内周面を備え、外周部は、円錐状の内周面と実質的に同じ角度を有する円錐面を有し、該円錐面は前方向にテーパが付けられている。
【0046】
一実施形態では、少なくとも2つの後方支持体は、光学構造体から延出する閉ループを備え、各ループは、外周部に取り付けられた両端部を有し、少なくとも2つの前方支持体は、端部の間においてループのうちの1つの内側にそれぞれ配置されている。
【0047】
一実施形態では、IOLの後方支持体と前方支持体とは、互いに対して方位角方向(Az)にずれている、又は互い違いに配置されている。
一実施形態では、IOLの後方支持体は前方支持面を提供し、IOLの前方支持体は後方支持面を提供し、両支持面は、互いに対して方位角方向(Az)にずれている、又は互い違いに配置されており、具体的には、方位角方向(Az)に毎回後方支持面及び前方支持面を提供する。
【0048】
一実施形態では、IOLの後方支持体及び前方支持体は、光学構造体の周囲において方位角方向(Az)に延在している。
一実施形態では、光学構造体の前側、及び光学構造体に面する補助光学構造体の後側は、実質的に同じ曲率半径を有し、具体的には、光学構造体の前側及び補助光学構造体の後側は、間隔を有する。
【0049】
本発明は更に、水晶体嚢内に留置するための眼内レンズ構造体(IOL)に関し、該IOLは、
−外周部を備える光学構造体と、
−少なくとも2つの後方支持体であって、IOLが水晶体嚢内に埋め込まれると水晶体嚢の内側に位置するために、光学構造体の外周部に連結されて該外周部から延在する、後方支持体と、
−少なくとも2つの前方支持体であって、IOLが水晶体嚢内に埋め込まれると水晶体嚢の外側に位置するために、光学構造体の外周部に連結されて該外周部から延在する、前方支持体と
を備え、
前方支持体及び後方支持体は、IOLの光学構造体を水晶体嚢の前部の開口部と位置合わせした状態で固定するために、前方水晶体嚢フラップを前方支持体と後方支持体との間にしっかり留めるように、外周部上において互いに配置されている。
【0050】
本発明は更に、補助眼内レンズ(S−IOL)に関し、該S−IOLは、
−補助光学構造体と、
−該補助光学構造体の周囲に取り付けられた環状部であって、少なくとも2つの軸方向表面を備える、環状部と、
−少なくとも2つの固定部であって、環状部の軸方向表面から延在して、環状部の軸方向表面からある距離をおいた場所で端部においてパッチを保持する、固定部とを備える。
【0051】
本発明は更に、先行する請求項のいずれか1項に記載の眼内アセンブリを眼内に固定する方法に関し、該方法は、
−眼の水晶体嚢の前部に開口部を形成するステップであって、具体的には、レーザを利用した嚢切開を行うステップであって、開口部は、該開口部の形成後に残存する前方水晶
体嚢フラップに取り囲まれている、ステップと、
−開口部を介して水晶体嚢から水晶体を除去するステップと、
−開口部を介してIOLを水晶体嚢内に挿入するステップと、
−後方支持体を水晶体嚢の内側に残しつつ、前方支持体を水晶体嚢の外へ出すステップであって、それによりIOLを水晶体嚢の前部の開口部に位置合わせした状態で固定する、ステップとを含む。
【0052】
一実施形態では、本方法は、水晶体嚢の前部を、レーザ光エネルギーを吸収するために選択された吸収特性を有する光吸収組成物で着色するステップを含む。
一実施形態では、開口部は、眼の軸及び/又はIOLの光学構造体と位置合わせして位置決めされる。
【0053】
一実施形態では、開口部は、眼の光学的方位軸及びIOLの光学構造体の光学的方位軸と位置合わせして位置決めされる。
一実施形態では、開口部は、中心が眼の光軸と位置合わせされた円形であり、光学構造体は、IOLの外周部と位置合わせされた光軸を備える。
【0054】
一実施形態では、開口部は非円形であり、光学構造体の外周部は円形である。これにより、眼の軸に対して光学構造体に傾斜を付けることが可能になる。
一実施形態では、本方法は、続いて眼内にS−IOLを挿入するステップを更に含む。
【0055】
一実施形態では、本方法は、固定部を対応する前方支持体に連結するステップを更に含む。
本発明は更に、光学構造体の周囲に外周部を有する上述の眼内構造体(IOL)を眼内に固定する方法に関し、該方法は、
−眼の水晶体嚢の前部に開口部を形成するステップであって、該開口部はIOLの外周部と合致する形状を有し、開口部は、該開口部の形成後に残存する前方水晶体嚢フラップに取り囲まれている、ステップと、
−水晶体嚢内に後方支持体を延在させてIOLを眼内に挿入するステップと、
−後方支持体を水晶体嚢の内側に残しつつ、前方支持面が、開口部を取り囲む水晶体嚢の残存している前部の前面上に寄り掛かる状態になるように、前方支持体を水晶体嚢の外へ出すステップであって、開口部を取り囲む水晶体嚢の前部の残存する部分は、後方支持体と前方支持体との間に配置され、それによりIOLを水晶体嚢の前部の開口部に固定する、ステップとを含む。
【0056】
本方法の一実施形態では、開口部は、眼の軸と、かつ/又は、IOLの光学構造体と位置合わせされる。光学構造体がレンズである場合、しばしばこのレンズの光軸が位置合わせされる。
【0057】
本方法の一実施形態では、開口部は、眼の軸及び/又は方位軸、並びにIOLの光学構造体の光軸及び/又は方位軸と位置合わせされる。
本方法の一実施形態では、開口部は、中心が眼の軸と位置合わせされた円形であり、かつ/又は、光学構造体は、IOLの外周部と位置合わせされた光軸を備える。
【0058】
本方法の一実施形態では、外周部は円形である。
本方法の一実施形態では、水晶体嚢は後部を更に備え、本方法は、
−水晶体嚢の後部に後方開口部を形成するステップであって、後方開口部は、該後方開口部の形成後に残存する後方水晶体嚢フラップに取り囲まれている、ステップと、
−後方開口部を取り囲む後方水晶体嚢フラップの端縁をIOLの後方溝内に適用するステップであって、後方溝は、後方支持体の後方にある光学構造体を少なくとも部分的に取
り囲んでいる、ステップとを更に含む。このようにして、後方水晶体嚢フラップは、後方支持体の後方でIOLに固定される。
【0059】
本発明は更に、眼内レンズアセンブリに関し、該眼内レンズアセンブリは、眼の水晶体嚢内に留置するための眼内レンズ構造体(IOL)を備え、該IOLは、
−外周部を備える光学構造体と、
−光学構造体の外周部に連結されて該外周部から延在する少なくとも2つの後方支持体であって、該後方支持体は、IOLが水晶体嚢内に埋め込まれると水晶体嚢の内部に位置する、後方支持体と、
−光学構造体の外周部に連結されて該外周部から延在する少なくとも2つの前方支持体であって、該前方支持体は、IOLが水晶体嚢内に埋め込まれると水晶体嚢の外部に位置する、前方支持体とを備え、
前方支持体及び後方支持体は、IOLの光学構造体を水晶体嚢の前部の開口部と位置合わせした状態で固定するために、前方水晶体嚢フラップを前方支持体と後方支持体との間に保持するように、外周部上において互いに配置され、
眼内レンズアセンブリは、IOLの前側に取り付けるための補助眼内レンズ(S−IOL)を更に備え、該S−IOLは、
−補助外周部を備える補助光学構造体と、
−補助外周部に連結された少なくとも2つの固定部であって、各固定部は前方支持体のうちの1つと連結するためのものであり、かつ、光学構造体及び補助光学構造体を位置合わせした状態でS−IOLをIOLに固定するためのものである、固定部とを備える。
【0060】
一実施形態のS−IOLは位置決め部を更に備え、該位置決め部は、IOLの外周部と係合するための径方向面と、前方支持体の後面の平面に平行な軸方向の平面上にあり、かつ、軸方向に一平面上に配置されるか、又は後方向にずれている軸方向面とを備え、位置決め部は、補助外周部の外側でS−IOLに取り付けられている。
【0061】
一実施形態では、IOLは、外周部に窪みを備え、該窪みは、外周部の外周部表面において軸方向に延在する溝を提供する。
一実施形態では、この窪みは、後方支持体と前方支持体との間に設けられている。水晶体嚢の開口部に配置されると、説明したように水晶体嚢の周縁は、IOLの外周部の周囲に位置することになる。窪みは、そうして眼を通る流体連通を可能にする流体の流路を提供することになる。
【0062】
一実施形態では、S−IOLは、該S−IOLを貫いて延在してIOLの窪みに接続する流路を備える。S−IOLがIOL上に配置されると、1つ又は複数の流体の流路が残存することとなり、水晶体嚢の前側から水晶体嚢内への液体交換が、また、水晶体嚢の後側への液体交換でさえ可能になる。
【0063】
一実施形態では、S−IOLはその外周部に窪みを備え、該窪みは、IOLの窪みに接続する径方向に延在する溝を提供する。本実施形態では先と同様に、流体の流路は水晶体嚢の少なくとも1つの膜を通って設けられている。
【0064】
本発明は、更なる眼内レンズアセンブリに関し、該眼内レンズアセンブリは、眼内レンズ構造体(IOL)であって、水晶体嚢内に留置するため、及び前方水晶体嚢フラップが水晶体嚢の前部の開口部を取り囲んでいる状態で該開口部にIOLを固定するためのものであるIOLと、補助眼内レンズ(S−IOL)であって、該S−IOLをIOLに取り付けるための固定部を有するS−IOLと、を備える。
【0065】
本発明は、更なる眼内レンズアセンブリに関し、該眼内レンズアセンブリは、眼の水晶
体嚢内に留置するための眼内レンズ構造体(IOL)を備え、該IOLは、外周部を備える光学構造体と、光学構造体の外周部に連結されて該外周部から延在する少なくとも2つの後方支持体であって、該後方支持体は、IOLが水晶体嚢内に埋め込まれると水晶体嚢の内部に位置する、後方支持体と、光学構造体の外周部に連結されて該外周部から延在する少なくとも2つの前方支持体であって、該前方支持体は、IOLが水晶体嚢内に埋め込まれると水晶体嚢の外部に位置する、前方支持体とを備え、前方支持体及び後方支持体は、IOLの光学構造体を水晶体嚢の前部の開口部と位置合わせした状態で固定するために、前方水晶体嚢フラップを前方支持体と後方支持体との間に保持するように、外周部上において互いに配置されている。眼内レンズアセンブリは、IOLの前側に取り付けるための補助眼内レンズ(S−IOL)を更に備え、該S−IOLは、補助外周部を備える補助光学構造体と、補助外周部に連結された少なくとも2つの固定部であって、各固定部は前方支持体のうちの1つと連結するためのものであり、かつ、光学構造体及び補助光学構造体が位置合わせされた状態でS−IOLをIOLに固定するためのものである、固定部と、を備える。
【0066】
「実質的に反対の」又は「実質的に〜からなる」等にあるような、本明細書における「実質的に」という用語は、当業者には理解されるであろう。「実質的に」という用語は、「全面的に」、「完全に」、「全て」等と表現された実施形態も含み得る。よって、実施形態において、実質的にという形容詞は削除することも可能である。該当する場合、「実質的に」という用語は、90%以上、例えば95%以上、特に99%以上、より一層特に99.5%以上に関し得るが、100%を含み得る。「〜を備える」という用語は、「〜を備える」という用語が「〜からなる」を意味する実施形態も含む。
【0067】
「機能的に反対の」にあるような、本明細書における「機能的に」という用語は、当業者には理解されるであろう。この用語は例えば正反対を含むが、作動する限りにおいて、その特徴部が、例えば実質的に反対に機能上挙動すること、又は実質的に反対となる効果を有することを含め、正反対の位置付けからの逸脱も含まれる。「機能的に」という用語は、それゆえ「全面的に」、「完全に」、「全て」等と表現された実施形態も含み得る。よって、実施形態において、機能的にという形容詞は削除することも可能である。該当する場合、「機能的に」という用語は、90%以上、例えば95%以上、特に99%以上、より一層特に99.5%以上に関し得るが、100%を含み得る。
【0068】
さらに、明細書及び特許請求の範囲における第1の、第2の、第3の、等の用語は、類似した要素を区別するために用いられており、必ずしも逐次順又は時間的順序を述べるためのものではない。このように用いられる用語は適切な状況下で互いに入れ換え可能であること、及び本明細書に記載されている本発明の実施形態が、本明細書において説明又は図示されている以外の順序で実施可能であることが、理解されるべきである。
【0069】
本明細書に記載の器具又は装置は、とりわけ手術中のことについて記述されている。当業者には明らかであろうが、本発明は、手術の方法又は手術での装置に限定されない。
上述した実施形態は本発明を限定するものではなく例証するものであること、及び当業者であれば添付の特許請求の範囲から逸脱することなく多数の代替実施形態を考案し得るであろうことに、留意すべきである。請求項において、括弧の中に入れられたいかなる参照符号も、特許請求の範囲を限定するものとみなされるべきではない。「〜を備える、〜を含む(comprise)」という動詞及びその活用形の使用は、請求項に記載されている以外の要素又はステップが存在することを排除しない。要素に先立つ冠詞「1つの(a)」又は「1つの(an)」は、当該要素が複数存在することを排除しない。
【0070】
ある手段が互いに異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、当該手段の組み合わせを好適に利用することはできないと示唆しているわけではない。実際に、容易
な埋め込み又は固定を更に改善するために、本願のIOL、S−IOL、又はアセンブリの構成の多くを組み合わせることが可能である。
【0071】
本発明は更に、明細書に記載された、かつ/又は添付の図面に示された、特徴となる構成のうちの1つ又は複数を備える装置又は器具に適用される。本発明は更に、明細書に記載された、かつ/又は添付の図面に示された、特徴となる構成のうちの1つ又は複数を備える方法又はプロセスに関する。
【0072】
本特許において論じられている多様な態様は、更なる利点をもたらすために組み合わせることが可能である。さらに、上記構成の幾つかは、1つ又は複数の分割出願の基礎を構成することが可能である。
【0073】
添付の概略図を参照しながら、例示のみを目的として本発明の実施形態を以下に説明する。図面において、対応する参照符号は対応する部分を指す。
図面の寸法比率は必ずしも正しいものではない。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【
図1】IOLの実施形態を前方から見たところを概略的に示す。
【
図2】
図1の実施形態を側方から見たところを示す。
【
図4】
図1の実施形態の前方側から見た斜視図を示す。
【
図5】別の後部の構成を備えた、
図1のIOLの後側を概略的に示す。
【
図6B】別の後部の構成を備えた、
図5のIOLの断面を示す。
【
図8】IOLの更に別の代替実施形態を前方から見たところを示す。
【
図11】
図9の表示箇所の詳細を示すが、IOLは別の後部の構成を備え、後方水晶体嚢部は無傷のままである。
【
図12】補助眼内レンズ(S−IOL)が取り付けられた、
図4及び5のIOLの正面図を示す。
【
図27】前方水晶体嚢部に固定された
図12の眼内レンズアセンブリの断面図を示し、前方水晶体嚢部を利用した柔軟な挟持を示す。
【
図28】別の補助眼内レンズ(S−IOL)が取り付けられた、
図4及び5の別のIOLの正面図、すなわち前側を示す。
【
図34】
図28の別のS−IOLの前方側から見た斜視図を示す。
【
図35】
図28の別のS−IOLの後方側から見た斜視図を示す。
【
図36】眼を上方から見たところであり、眼内の各軸を示す。
【
図37】
図8のIOLの代替実施形態の正面図である。
【
図38】
図8のIOLの代替実施形態のやや後方から見た斜視図である。
【
図39A】水晶体の除去前の眼の断面を概略的に示す。
【
図39B】水晶体の除去後の眼の断面を概略的に示す。
【
図40】S−IOLを備えたIOLの代替実施形態であって、別のIOLを示す。
【
図41】S−IOLを備えたIOLの代替実施形態であって、別のIOLを示す。
【
図42】S−IOLを備えたIOLの代替実施形態であって、別のS−IOLが取り付けられた別のIOLを示す。
【
図43】S−IOLを備えたIOLの代替実施形態であって、別のS−IOLが取り付けられた別のIOLを示す。
【
図44】S−IOLを備えたIOLの代替実施形態であって、別のS−IOLを示す。
【
図45】S−IOLを備えたIOLの代替実施形態であって、別のS−IOLを示す。
【
図46】S−IOLを備えたIOLの代替実施形態であって、別のS−IOLを示す。
【発明を実施するための形態】
【0075】
[好適な実施形態の説明]
本明細書では、まず、眼の関連する部分を、
図39A、39B、及び39Cにて説明する。
図1〜11にて、眼内レンズ構造体(IOL)の幾つかの具体的な実施形態、及び眼内でのIOLの位置(
図9〜11)を説明する。そして、当該IOLを眼内に留置する手技を説明する。
図12〜35にて、
図1〜11に記載されたIOLに基づく眼内レンズアセンブリの幾つかの実施形態を説明する。
[眼]
図39A及び39Bでは、眼球20の断面が概略的に示されている。
図39Aでは、眼球20は、角膜21と、虹彩25と、瞳孔26と、水晶体31を内包する水晶体嚢22とを有する。水晶体嚢22は、前部23と後部24とを有する。
図39Bでは、水晶体31が除去された後の眼球20が示されており、通常は円形又は楕円形である開口部32を有する空の水晶体嚢22が残されている。開口部32は、水晶体嚢22の前部23に位置する。多くの場合、開口部32の中心は眼の軸上にあることとなる。この軸は、
図36において明示されている。
図39Cは、眼球の一部を正面から見たところを示し、虹彩25と、開口部32を有する水晶体嚢の前部23と、開口部の端縁52とを示している。この端縁52は、「周縁」52とも称される。
【0076】
患者によっては、水晶体嚢22の後部24が澄んだ状態でなくなっている場合がある。このような場合、又は一般的に術後の後嚢混濁を回避するために、水晶体嚢22の後部24に開口部を更に形成してもよく、これは後方開口部と称される。あるいは、水晶体嚢の後部24を除去してもよい。
【0077】
先の段落において、「前方の(anterior)」及び「後方の(posterior)」という形容詞が使われている。既に説明したように、「前方の」及び「後方の」という用語は、眼内に入る光の伝播に関連した、構成の配置に関するものである。よって、光は眼の前部である角膜及び虹彩に入射し、眼の後部に位置する網膜へと伝播する。したがって、例えば水晶体嚢22は、前部23と後部24とを有する。前部はさらに、角膜21及び虹彩25の方を向いている表面を有する。この表面は、水晶体嚢22の前部23の前面と称されることとなる。よって、水晶体嚢22の内部にある反対側の表面は、水晶体嚢22の前部23の後面と称されることとなる。
[眼内レンズ構造体(IOL)]
次に、眼内レンズ構造体(IOL)の幾つかの実施形態を説明する。
図1は、眼内レンズ構造体(IOL)1の一実施形態を前方から見たところを概略的に示している。前側というのは、IOL1の、IOL1が眼内に留置されたときに角膜21の方を向いている側である。IOL1の、IOLが眼内に埋め込まれた後に網膜の方を向いている側は、本明細書ではIOL1の後側と称される。水晶体31を眼から除去しなければならない場合、通常、水晶体嚢22の前部23に開口部32が形成される。続いて、水晶体31が除去される。小児患者など特定の場合には、水晶体嚢22の後部24、すなわち水晶体31と網膜との間に位置する水晶体嚢22の部分に形成された後方開口部があってもよい。開口部32及び後方開口部は、通常は位置が整合している。これらの開口部は円形であることが多いが、レーザによる嚢切開術を使用する際には確実に、他の形状も可能である。これらの開口部は、通常は眼の光軸と位置を合わせられるが、他の位置を採用してもよい。これらの開口部の周囲には、水晶体嚢の組織又は膜の輪が残る。この輪は、水晶体嚢フラップとも称される。この輪又はフラップは端縁を有し、端縁は、開口部32の外周部の境界であり、又は事実上、開口部32を画定する。開口部32は、開口部32の中心からその端縁へと外側に向かう径方向を有する。
【0078】
IOL1は、光学構造体2を備える。光学構造体2は、多くの場合レンズであり、実際には、前方レンズ及び後方レンズである。
図1に示すような実施形態では、光学構造体2は、前方レンズ構造体表面3と、後方レンズ構造体表面4とを有する(
図2参照)。光学構造体には、IOLにおいて公知である任意のタイプの光学構造体が更に設けられ得る。本明細書では、光学構造体の性質を限定されたものであるとさらに見なすべきでない。光学構造体は、レンズ又は閉鎖キャップを備え得る。一実施形態では、前側及び後側の両方に、1つ又は複数のレンズを提供するための曲面が設けられている。レンズ光学素子の例として挙げられるのは、単焦点レンズ、乱視用レンズ、多焦点レンズ、調節レンズ、又は国際公開第2012/118371号明細書に例えば開示されているような扇形二焦点レンズである。この国際出願は、参照することにより、全体が記載されているものとして本願に援用される。これらの光学素子は、屈折を用いるもの、回折を用いるもの、又はその両者の組み合わせであってもよい。更に、又は併せて、光学構造体は、光学フィルタ及び/又は当業者に公知である機能層を備えていてもよい。光学構造体は、能動素子及び/又は受動素子を備えていてもよい。能動素子の一例は、例えば液晶光学素子である。
【0079】
IOL1は、通常は実質的に扁平な構造体である。その厚さは約0.1〜1mmである。IOL1の直径は、通常約7〜12mmである。光学構造体は、4〜7mmの直径を通常は有する。大半の実施形態において、光学構造体は、5〜7mmの直径を有する。光学構造体は、両凸型であることが多い。
【0080】
このような主に扁平な構造体では、後方向及び前方向を有し得る軸方向Axが識別可能である。さらに、径方向Raが識別可能である。最後に、時計回り方向及び反時計回り方向を有し得る、方位角方向Azが識別可能である。光学構造体が単純な円形レンズである場合には、軸方向は光軸であり、径方向はレンズの径方向である。
図1及び2において、これらが示されている。他の光学構造体の場合でも、軸方向、径方向、及び方位角方向は
、当業者には明白であろう。
【0081】
一実施形態では、IOL1は高分子材料製である。具体的には、IOL1は、曲げてより小さな形態にすることが可能な高分子材料製である。具体的には、支持部が弾性を有する。一実施形態におけるIOL1は、一体的に形成されている。具体的には、IOL1は、直径2.5mm未満の小さな筒状に巻き上げることが可能なほど柔軟である。詳細には、直径1.8mm未満にまでIOLを巻き上げることが可能である。その一方で、IOLは寸法的に安定しており、具体的には、水晶体嚢内に挿入されると、その巻き上げられた状態から展開して元の形状に戻ることが可能なほどの可撓性を有する。
【0082】
図1の実施形態は、更に
図2〜4にも詳細に示されている。
図2は
図1の実施形態の側面図を示し、
図3は、
図2の表示箇所の詳細を示し、
図4は、
図1の実施形態を前側から見た斜視図を示している。
【0083】
IOLは、光学構造体2の周囲に外周部7を備える。外周部7は、外周面を有する。外周部7は、水晶体嚢の開口部の形状と一致し得る。例えば開口部が円形であれば、外周部は円形となり得る。外周部のサイズは、嚢の開口部のサイズを少し広げるくらいやや大きめであってもよく、又は、開口部のサイズと合致する。
図1の実施形態では、光学構造体2は、レンズを提供する曲面を備える。本実施形態のレンズは円形であって、光軸を有する。外周面は、ここでは光軸と平行に延在している。外周部は、ここでは円筒表面を提供している。円形の外周部7の場合、外周面は円筒形であり、
図1の実施形態では正円筒形でさえある。開口部及び外周部7の形状が非円形である場合、光軸を中心とするIOL1の回転を防止するという利点を有することが可能である。例えば、開口部は楕円形であってもよく、外周部7は、この開口部の楕円形状と合致する楕円形であってもよい。あるいは、例えばカムである位置合わせ特徴部が外周部7に設けられることが可能であり、合致する特徴部が開口部に設けられることが可能である。回転しないように固定することは、例えば、乱視用光学素子の場合に有利となり得る。例えば
図1及び
図8に示される実施形態では、外周部7の直径は、光学構造体2の外周部10より大きい。外周部7は、光学構造体2の外周部10より例えば0.5〜2mm大きくてもよい。
【0084】
IOL1は、ここでは光学構造体2を挟む両側に後方支持体5,5’を備える。後方支持体5,5’は、光学構造体から離れるように延在している。具体的には、後方支持体5,5’は、光学構造体2に対して横方向に互いから離れるように延在している。後方支持体5,5’は支持面13,13’を有し、これらは後方支持体5,5’の支持面とも称される。これらの支持面13,13’は、ここでは一平面上にあり、これは後方平面と称される。上述した外周部が円筒形である
図1の特定の実施形態では、後方平面は、外周部7の円筒面に垂直である。
【0085】
後方支持体5,5’は、ここでは外周部7に取り付けられた2つの端部を有するループを形成する。
光学構造体2は、通常4〜7mmの直径を有する。外周部7は、通常4〜7mmの直径を有する。図面に示される実施形態では、前方支持体6,6’及び後方支持体5,5’は、外周部7に取り付けられている。
【0086】
IOL1が埋め込まれると、後方支持体5,5’の支持面13,13’は、水晶体嚢22の前部23の後面と係合する。一実施形態では、後方支持体5,5’、つまり支持面の少なくとも一部は、前方向に0〜10度の角度で傾きを有し得る。一実施形態では、埋め込まれると、外周部7の表面は、前方水晶体嚢の開口部の端縁と係合、又はほぼ係合し、後方支持体5,5’の支持面13,13’は、実質的に前方水晶体嚢の後面に寄り添う。そのために、支持面13,13’は、水晶体嚢の表面を保持するように構成され得る。例
えば、カム又はリムが設けられてもよい。
【0087】
後方支持体の表面のうちの少なくとも1つは、光の反射を防止するために、粗面化処理、例えばサンドブラスト加工することが可能である。
IOL1は、前方支持体6,6’を更に備える。前方支持体6,6’もまた、光学構造体2に対して横方向に延在している。前方支持体は、前方支持体6,6’の支持面14,14’を提供する。IOL1が埋め込まれると、これらの前方支持体6,6’は水晶体嚢22の外側にある。支持面14,14’は、IOL1が埋め込まれると水晶体嚢の前部の前面と係合するように設計及び構成されている。先と同様に、これらの支持面14,14’は一平面上にあり、これは前方平面と称される。一実施形態では、埋め込まれると、外周部7の表面は、前方水晶体嚢の開口部の端縁と係合、又はほぼ係合し、前方支持体5,5’の支持面14,14’は、実質的に前方水晶体嚢の前面に寄り添うように形成され得る。両表面は、よって、ほぼ完全に物理的接触の状態にある。そのために、支持面14,14’は、水晶体嚢の表面を保持するように構成され得る。前方支持体が、実際に水晶体嚢の外側に到達して、前方水晶体嚢の前面に寄り添うことができるためには、IOL1を埋め込む者にある程度の巧みな操作が通常求められる。
【0088】
前方平面は、機能的に後方平面と平行である。側面図である
図2がこれを示している。具体的には、これらの平面は、間に水晶体嚢22を保持している際に平行である。前方支持体6,6’の後方支持面14,14’と、後方支持体5,5’の前方支持面13,13’との間の距離は、それらの間に水晶体嚢22の前部23を保持できるような距離である。前方支持体6,6’及び後方支持体5,5’は、それらの支持面が間に間隔11を有するように配置される。実際、後方平面及び/又は前方平面の間の距離は、IOL1の埋め込み時にIOL1を開口部に固定するために、それら平面の間に前方水晶体嚢フラップ23を保持するように構成されている。実際に、後方平面と前方平面との間の距離は、水晶体嚢の前部の厚さとなるように構成し得る。後方支持体5,5’及び前方支持体6,6’は、この距離が5〜100ミクロンであれば、後方支持体5,5’と前方支持体6,6’との間に前方水晶体嚢フラップを保持することができる、ということが判明している。詳細には、後方平面と前方平面とは、15〜50ミクロン離間している。この距離が、間隔11を提供する。この距離が20ミクロン未満である場合には、フラップはしっかりと挟持されて、起こり得るレンズの回転が防止されることとなる。
【0089】
図1の実施形態では、後方支持体5,5’と前方支持体6,6’とは、互い違いに配置されている。実際、前方向から見ると、後方支持体5,5’と前方支持体6,6’とは重なり合っていない。このことは、後方支持体5,5’と前方支持体6,6’とは、周方向又は方位角方向(Az、
図1)に互い違いに配置されている、とも表現できる。この意味において、互い違いに配置される(staggered)という語は、「食い違い交差点(staggered junction)」という語におけるのと同様に用いられている。
【0090】
具体的には、後方支持体5,5’と前方支持体6,6’とが互い違いに配置されていると、後方平面と前方平面とは、その間に水晶体嚢の前部が保持されているときに、平行、又は実質的に平行となる。
【0091】
図1の実施形態では、IOL1の後方支持体5,5’は閉ループである。
図1の実施形態では、IOL1の後方支持体5,5’は、約7〜12mmの直径を有する。後方支持体の厚さは、0.15〜0.4mmであり得る。詳細には、その厚さは、0.20〜0.35mmであり得る。
【0092】
あるいは、ループの端部をなくして、後方支持体5,5’のそれぞれを実質的に2つの
後方支持体に変化させて、その結果、後方支持体5,5’が4つになってもよい。径方向に延在する後方支持体又はループ支持体は、開口部32にIOL1を留置することが何らかの理由により成し遂げられない場合に、実質的に安全装置として機能してもよい。
【0093】
前方支持体6,6’の厚さは、0.04〜0.25mmであり得る。詳細には、その厚さは、0.05〜0.20mmであり得る。
図1の実施形態では、外周部7において、又は外周部7の近傍において、IOL1は、後方支持体5,5’と前方支持体6,6’との間に周方向又は方位角方向に延びる、少なくとも1つの空間19を有する。この空間は、製造を容易にし、また、IOL1の挿入及び位置決めの際に、器具挿入のための余地を提供するため、前方支持体6,6’を、開口部32を通して水晶体嚢から引き出したりすることも容易にする。
図1の実施形態では、前方支持体6,6’から後方支持体5,5’への移行部のそれぞれに、方位角空間19が存在する。
【0094】
水晶体嚢の前部の後側を支持するために、後方支持体5,5’は、外周部から離れるように径方向に少なくとも約0.5mm延在する、ということが判明している。詳細には、後方支持体5,5’は、径方向に少なくとも1.0mm延在している。
【0095】
水晶体嚢の前部の前側を支持するために、前方支持体6,6’のうちの少なくとも1つは、外周部から離れるように径方向に少なくとも約0.3mm延在する、ということが判明している。詳細には、前方支持体6,6’は、径方向に少なくとも0.5mm延在している。
【0096】
図1のIOL1の実施形態では、IOL1は、更なる前方支持体8,8’を有する。これらの前方支持体は、本明細書では前縁部8,8’と称される。これらも使用時には、水晶体嚢22の外側に延在する。これらは、他の前方支持体6,6’を補完し、前方水晶体嚢部23を付加的に挟持する。前縁部8,8’は、水晶体嚢22の外側かつ前方水晶体嚢部23の前面に寄り添う後面17,17’を有する。前縁部8,8’は、ここでは周方向(又は方位角方向)に約0.1〜2mm延在している。前縁部8,8’は、径方向に、すなわち光学構造体2及び外周部7から離れる方向に、約0.1〜1.3mm延在している。詳細には、前縁部8,8’は、約0.4〜1.0mm延在している。本実施形態では、前縁部8,8’は、約0.3mm延在している。
【0097】
図8では、前方支持体6,6’が別の形状を有するIOL1の一実施形態が示されている。この実施形態では、前方支持体6,6’には、支持体開口部18,18’が設けられている。これらの支持体開口部18,18’を通して、IOLを水晶体嚢内に挿入した後で前方支持体6,6’を水晶体嚢の開口部32を通して引き戻すための器具を挿入することが可能である。前方支持体6,6’は、そのようにして水晶体嚢の外側に到達する。支持体開口部18,18’の直径は、0.2〜1.5mmであり得る。
【0098】
図6A及び6Bでは、水晶体嚢の後部に影響を与える後部の構成の2つの異なる実施形態を見ることができる。
図5、6B、及び7Bはそれぞれ、後側から見た斜視図、断面図、及び
図6Bの表示箇所の断面の詳細を示すものであり、外周部における、及び外周部に近接するIOL1の後側には、後方水晶体嚢部から組織が増殖することを防止するために、鋭いリム16が設けられている。このような組織増殖は、後嚢混濁の原因となり得る。
【0099】
図2、3、6A、及び7Aでは、後部の構成の代替実施形態が示されている。
図1のIOLについて、
図2は側面図を示し、
図3は表示箇所の詳細を示し、
図6Aは断面図を示し、
図7Aは
図6Aの表示箇所の詳細を示す。
【0100】
本実施形態のIOLは、後方支持体5,5’及び前方支持体6,6’の後方に延在する、周方向に延びる後方溝12を有する。実際に、後方溝12は、ここでは後方支持体5,5’の後面15,15’の後方に設けられている。後方溝12は、後方開口部、すなわち後方水晶体嚢の開口部の周囲の端縁を受容及び保持するために設けられている。説明したように、そのような後方開口部は、水晶体嚢22の後部24に施される第2の嚢切開によって形成することが可能である。後方開口部の周りの端縁は、IOL1が前方水晶体嚢部の開口部に配置された後に、後方溝12の中に滑り込む。そのために、後方開口部の端縁又は周縁が後方溝12の中に滑り込むまで、IOLがそっと後方へ付勢され得る。後方溝12は、ここでは0.1〜0.3mmの深さを有する。後方溝12は、後方開口部の周囲の端縁を受容するような形状とされる。後方溝12は、矩形溝であってもよい。後方溝12は、ここでは、楔形である。後方溝12は、10〜60度、詳細には約40〜50度の角度で壁を有する。この後方溝12は、後方開口部を封止して、嚢混濁及び/又は硝子体液漏出を防止することとなる。
[眼内に配置されたIOL]
図9は、水晶体嚢22内の挿入位置にIOL1が配置された状態の、眼球の断面図を示している。眼球20は、角膜21と、瞳孔26を有する虹彩25と、水晶体嚢22とを有する。
【0101】
上方から見た眼の断面を示す
図36では、眼20の複数の軸が以下のように定義されている(Ns=鼻側、Ts=側頭側)。
1.固視点及び眼の節点Nを通る視軸51。節点の機能を考慮するならば、視軸51を表す光線は、中心窩48を通過して網膜に至る。
2.角膜表面に垂直であり、虹彩25及び瞳孔26の中心点を通過する光軸47。中心窩48は眼球20の中心に位置していないため、光軸47は視軸51とは異なる。光軸51は、眼球系の幾何学的対称軸であり、中心窩の中心点に到達して眼球系を斜めに通過する光学中心光線とは異なる。
3.照準線50は、固視点及び入射瞳26の中心を通る軸である。それは、光束の重心を通る、眼20に入射する光錘の軸である光線である。一般的に、照準線と光軸47との間の角度は3°〜8°の範囲にある。入射瞳26の中心は、角膜系を通る非対称結像、及び軸から外れた中心窩の位置に起因して、鼻側Nsの方にずれている。図面には、側頭側(Ts)も示されている。
4.入射瞳26の中心を通る、角膜の前面に垂直である瞳孔中心線49。
【0102】
単眼視の視野は、僅かな盲点部分もなく網膜全体を網羅する。通常、ヒトは、中心窩48に像が生成される最も好都合な位置まで眼を回転させる傾向がある。眼20がそのように動いて、像が中心窩の中心部にくるような最適な向きの位置になった場合、眼の光学系は中心にあるシステムとして使用されていない。にもかかわらず、傾きは小さく、球面収差及び非点収差が眼の主要な収差である。
【0103】
図10では、
図1のIOL1が挿入された状態の
図9の詳細が示されている。本例のIOL1には、先に述べた後方溝12が設けられている。
ここでは、後方水晶体嚢24は、先に説明した後方開口部を有する。後方開口部の周縁は、後方溝12の中に配置されている。前方水晶体嚢部23に開口部を形成した後に残存する、前方水晶体嚢フラップ(環状の水晶体嚢膜物質)は、前方支持体6と後方支持体5との間に保持されている。前方支持体6の支持面及び後方支持体5の支持面は、ともに前方水晶体嚢フラップに寄り添い、そして、おそらくそのように図示されてはいないが、実際には、その間にこのフラップを挟持することさえ可能である。
【0104】
図11では、
図9の詳細に類似する詳細が示されているが、IOL1は、別の後部の構
成を備えている。このケースでは、後方水晶体嚢部24は開口部を有していない。すなわち、後方水晶体嚢部24は無傷のままでIOL1の後面4に寄り添っている。
【0105】
図10及び11の両方において、後方支持体5,5’は大きな直径を有している。しかしながら、IOL1は、前方支持体及び後方支持体によって、場合によっては外周部7と開口部32の外周の長さとが互いに適合することと相まって、開口部32内に位置決めされている。よって、後方支持体5,5’の径方向の寸法は縮小されてもよい。
[眼内へのIOLの挿入]
先述したIOL1の挿入について、以下に説明する。切開及びIOLの埋め込みの手技の例は、例えば米国特許第5376115号明細書に記載のものと同様であり、この特許明細書は、参照することにより、全体が記載されているものとして援用される。具体的には、その記載内容は以下の通りである。
【0106】
普及しつつある外科的手術方法は、水晶体超音波乳化吸引術である。これは、超音波振動を利用して水晶体核を破砕するものであり、それにより長さ約3mmの切開創を介して水晶体物質を除去することが可能になる。切開創が小さいことの恩恵は、従来の大きな切開創の場合に比べて、視力リハビリテーションが速やかである点、治癒が速やかである点、及び乱視が起こりにくいという点である。直径約1mmの中空チタン針が、磁歪超音波機構によって作動させられて振動する。この機械的振動が水晶体を乳濁液に変えるがゆえに、水晶体超音波乳化吸引と称されている。
【0107】
水晶体超音波乳化吸引術の改善に伴い、切開創の形成が発展し、縫合の必要なく創傷を閉鎖すること、すなわち「自己閉鎖創」が可能になった。
この参考文献によれば、この手技は、Menapace,R.等によるJ Cataract Refract Surg 16(5)(1990年)567〜577ページ、及びOrmerod,L.D.等によるOphthalmology(米国) 100(2)(1993年)159〜163ページに例えば記載されている。
【0108】
米国特許第5376115号明細書は更に、IOLの挿入の例を記載している。
これは、以下の手技と組み合わせられ得る。IOL1を水晶体嚢内に挿入する前にまず、水晶体嚢の前部に開口部が形成される。例えば、フェムトレーザのようなレーザ装置を用いて、水晶体嚢の前方膜又は前嚢に、正確な形状及び正確な位置を有する開口部又は孔を形成することが可能である。この手技は「Capsularhexis(嚢切開)」とも称されるが、最近の文献は、レーザによる手技を「Capsulotomy(嚢切開)」と称しており、この用語を、水晶体嚢の開口部の機械的創形成又は切開を指すのに用いられる用語である「Capsularhexis(嚢切開)」と対比して使用している。他のレーザによる手技も現在開発されつつある。これらの手技では、レーザ光は角膜を通過して眼内に入るように向けられ、そのエネルギーは、眼の内部構造を切開するために、該内部構造に吸収される。これらの手技の1つにおいて、前方水晶体嚢膜は、光吸収剤で着色される。この光吸収剤の吸収特性は、レーザ光エネルギーを吸収するように選択される。
【0109】
多くの場合、例えば白内障の場合、次のステップで、濁った水晶体が水晶体嚢の開口部を介して除去される。このステップで、水晶体は、例えば水晶体超音波乳化吸引装置を用いて除去する前に、まずレーザで処理することが可能である。このような水晶体の除去は、当業者には公知である。
【0110】
任意選択的に行う次のステップでは、水晶体嚢の後部、すなわち水晶体嚢の後方膜又は後嚢に、後方開口部を形成することが可能である。
このような伝統的な嚢切開手技及びこの手技におけるレーザ装置の使用の例が、米国特
許第8409182号明細書に記載されており、この特許は、参照することにより、全体が記載されているものとして本明細書に援用される。例えば第3欄には、嚢切開(Capsularhexis)手技、又はより具体的には嚢切開(Capsulotomy)手技におけるステップの例が記載されている。レーザを利用した手技は、開口部の正確な形状と同様に、正確な位置決めを可能にする。さらに、このような手技は、水晶体嚢に形成された開口部の周囲に、比較的強度の高い端縁を残すことが可能である。具体的には、レーザを用いた手技について、以下のことが判明している。
【0111】
方法:光コヒーレンス・トモグラフィに従って行われるフェムト秒レーザによる嚢切開が、ブタ及びヒトの死体の眼にて評価された。続いてこの手技が、フェムト秒レーザを利用した白内障手術のプロスペクティブ無作為研究の一環として、39人の患者に対し行われた。嚢切開の大きさ、形状、及びセンタリングの正確さが数値化され、ブタの眼において嚢切開部の強度が評価された。
【0112】
結果:レーザによって行われた嚢切開は、手作業で行われた嚢切開よりも、大きさ及び形状においてはるかに正確であった。患者の眼において、切除された嚢の円盤状組織の目標直径からの偏差は、レーザを用いた手技では29μm±26(標準偏差)、手作業による手技では337±258μmであった。真円からの平均偏差は、それぞれ6%及び20%であった。レーザによる嚢切開の中心は、目標位置の77±47μm内にあった。全ての嚢切開は完全なものであり、径方向の切れ目や裂け目はなかった。レーザによる嚢切開部(ブタのサブグループ)の強度は、パルスエネルギーの増加に伴って減少し、3mJに対して152±21mN、6mJに対して121±16mN、10mJに対して113±23mNであった。手作業による嚢切開部の強度は、65±21mNであった。
【0113】
結論:フェムト秒レーザは、従来の手作業によって形成されたものよりも、精密、正確、再現可能、かつ高強度な嚢切開を実現した。
出典:J.Cataract Refract. Surg. 2011;37:1189〜1198ページ Q 2011年 ASCRS and ESCRS。
【0114】
実験により、以下の結果が更に示された。
方法:10個の新鮮な豚の眼が、フェムト秒レーザを利用した嚢切開又は手作業による嚢切開に無作為に割り当てられた。嚢はヒアルロン酸に浸漬され、引張力測定装置とともに開創器が嚢開口部に固定された。嚢切開を行う際に必要となる力が、ミリニュートン(mN)で測定され、最大延伸比もまた評価された。
【0115】
結果:確認された平均破断力(すなわち、組織破断の直前に測定された力の最大量)は、レーザを利用した手技では113mN±12(標準偏差)であり、手作業による手技では73±22mNであった(P<0.05)。延伸比は、1.60±0.10(フェムト秒)及び1.35±0.04(手作業)であった(P<0.05)。
【0116】
結論:この豚の眼を用いた基礎研究では、フェムト秒レーザを利用した嚢切開は、標準的な手作業による嚢切開よりも、前嚢開口部の強度が非常に高いという結果となった。
出典:J. Cataract Refract. Surg. 2013;39:105〜109ページ Q 2013年 ASCRS and ESCRS。
【0117】
水晶体嚢22における開口部32の非常に正確な位置決め、及び開口部32の非常に正確な形状により、上述したIOL1の正確な位置決め及び向きが可能になり、また、本願のIOLを用いる際、又はIOLと補助IOLとを組み合わせて用いる際に、特に有利となる。
【0118】
IOL1は、以下のように使用され得る。多くの場合、IOL1は、眼の微小切開創を介して水晶体嚢内に挿入される。挿入装置を用いて、眼外でIOLが巻き上げられ、眼の切開創に合ったノズルを通して押し進められる。巻き上げられたIOL1は、開口部を通って水晶体嚢内に入る。巻き上げられたIOL1は、水晶体嚢の中で展開する。
【0119】
次に、小型の器具を用いて、前方支持体6,6’が前方水晶体嚢部23の開口部32を通って折り返されて、水晶体嚢22の外側に延出するように操作される。同じ又は同一の器具を用いて、縁部8,8’も開口部32を通って延出して水晶体嚢22の外に達するように、操作されてもよい。縁部8,8’の後面17及び17’は、そうして水晶体嚢22の前部23の前面上に寄り掛かることとなる。後嚢が同様に開口している場合は、第2の操作でIOLをやや下方へそっと押すことによって、後方フラップが後方溝12の中に固定されることになる。
[眼内レンズアセンブリ及び補助眼内レンズ(S−IOL)]
次の
図12〜35及び40〜46にて、眼内レンズアセンブリ及び補助眼内レンズ(S−IOL)の幾つかの実施形態を説明する。様々な構成を組み合わせることが可能である。
図12〜27では、
図1〜7Bにて別途説明されているIOL1に基づく、眼内レンズアセンブリの第1実施形態を説明する。
図28〜35では、眼内レンズアセンブリの第2実施形態は、
図8にて別途説明されているIOL1に基づいている。先に述べたように、後方リム16及び後方溝12の後部構成は、両者ともにこれらの設計に用いることが可能であり、組み合わせることさえ可能であることに留意すべきである。ここに示す実施形態は、後方リム16を用いている。
【0120】
図12〜18では、IOL1と補助眼内レンズ(S−IOL)30とを備える眼内レンズアセンブリの図が複数示されている。
図12は、前側から見たところを示し、
図13及び14は、それぞれ前側及び後側から見た斜視図を示し、
図15〜18は、多様な断面及び詳細を示している。
図19〜26では、第1実施形態のS−IOL30の詳細が複数示されている。
【0121】
S−IOL30は、前面33と後面34とを有する。S−IOL30の後面34は、IOL1の前面に面している。S−IOL30は、補助光学構造体35を有する。該光学構造体35は、正又は負の球面度数を有する単レンズであってもよい。多くの場合、球面度数は−8.0〜+8.0である。それに代えて、又はそれに加えて、光学構造体35は、近用部(「読取部」)、乱視用光学素子、トーリック光学素子、及びそれらの組み合わせも備え得る。さらに、国際公開第2012/118371号に記載されているような多焦点光学素子も使用可能である。また、当業者に公知であるその他の能動光学素子又は受動光学素子を使用してもよい。補助光学構造体35は、補助外周部36を有する。補助外周部36には、固定部37,37’が連結されている。
【0122】
固定部37,37’は、その後側38,38’に縁部39,39’を有する。縁部39,39’は、外周部に対して内側方向に延在している。縁部39,39’は、そのようにして補助光学構造体35の後面34から離間している。本実施形態では、固定部37,37’は、前方支持体又は前方縁部8,8’の周囲に到達するように構成されている。このようにして、縁部39,39’のそれらの部分は前方支持体8,8’の後側に配置される。したがって、それらの部分は、前方支持体8,8’と水晶体嚢22との間に少なくとも部分的に配置される。水晶体嚢の弾性が、縁部39,39’を前方支持体8,8’に対して付勢する。このことは、固定する上で有用である。さらに、それらの部分は押し合うため、類似した複数の材料が使用されていれば、固着によってそれらをさらに固定し合うことが可能である。縁部39,39’の厚さは、0.1〜0.4mm、より詳細には0.15〜0.25mmである。
【0123】
本アセンブリの本実施形態では、固定部37,37’は、前方支持体、ここでは前方縁部8,8’とも称される前方支持体8,8’の後方でこうして係着する。本実施形態の固定部37,37’は、したがって係着部を提供する。これらの係着部は、ここでは前方支持体8,8’である前方支持体の後面において延在する端部を有する。さらに、本実施形態において固定部37,37’は、前方支持体8,8’の径方向端部の周りに係着する係着部を提供する。
【0124】
S−IOLは、補助光学構造体35の外周部36の外側に、開口部40,40’を更に備える。これらの開口部40,40’は、固定部37,37’の位置において更に方位角方向に配置されている。S−IOLをその前側から見ると、開口部を通して、固定部37,37’の縁部39,39’が視認可能である。方位角方向において、開口部40,40’は、縁部39,39’の方位角幅を越えて延在している。それにより、例えば工具による加工又は成形によるS−IOLの製造が可能になる。さらに、前方支持体8,8’の後方において係着している固定部37,37’の位置決めを目視検査することが可能になる。開口部40,40’は、約0.7×2.5mmであり得る。開口部40,40’は更に、眼の部分間の液体交換、及び/又はIOL1とS−IOL30との間の液体交換を可能にする。
【0125】
本実施形態では、S−IOL30は、補助光学構造体35の外周部36の周囲に環状部41を更に備える。環状部41は、ここでは光学構造体に取り付けられている。実際に、環状部41は、ここでは補助光学構造体35と一体に1つの構成要素として形成されている。ここで、固定部37,37’は、続いて環状部41の外周部に取り付けられている。補助光学構造体35が円形であれば、環状部41も、多くの場合円形である。
【0126】
本実施形態のS−IOL30の環状部41は、補助光学構造体35を支持することに加え、IOL1上にS−IOL30を(更に)軸方向及び径方向において位置決めすることを実現する。環状部41は、水晶体嚢22の開口部32に隣接する水晶体嚢フラップ23の前面と係合するための、後方環状部表面42を提供する。実際に、一実施形態では、環状部41は、水晶体嚢22の開口部32と一致するような寸法とされ得る。例えば、環状部41の内径は、少なくとも開口部32の直径を有し得る。一実施形態では、環状部41の内周は、開口部32の周囲に少なくともぴったり嵌まる直径を有する。後方環状部表面42は、水晶体嚢の表面に適合し得る。したがって、通常、後方環状部表面42は一平面上にあり、具体的には平坦な平面上にある。具体的には、後方環状部表面42は0.05〜0.5mmの高さを有する。よって、後方環状部表面42は軸方向の位置決めをもたらす。
【0127】
別の実施形態、又は組み合わせられた実施形態における環状部41の内径は、IOL1の光学構造体の外周部7の直径に一致する。環状部41は、外周部7の周囲と嵌合する。一実施形態では、環状部41は外周部7の周囲と嵌合する。したがって、環状部41の内周面44は、S−IOL30のIOL1上での径方向の位置決めをもたらす。図示されている実施形態では、S−IOL30の環状部41の形状は、IOL1の外周部7に適合している。多くの場合、内周環状部表面44は柱筒形である。環状部41が円形であれば、内側環状部表面44は、円筒形であり得る。そのような実施形態では、内側環状部表面44はIOL1の外周部7と係合可能であり、このことは
図14及び31において見ることができる。よって、径方向の位置決めが実現される。
【0128】
適用をより容易にするために、内周面44は円錐状又はテーパ状であってもよく、IOL1の外周部がそれに対応して円錐状又はテーパ状であってもよい。こうして、S−IOL30をIOL1上に配置することを容易にすることができ、嵌め込まれると、外周部7の表面と内周環状部表面とが係合する。
【0129】
より良好にS−IOL30をIOL1と嵌合させるために、前方支持体及び/又は後方支持体が環状部41を通過することを可能にするために、凹部又は切り欠き43を環状部41に設けることが可能である。一実施形態では、切り欠き43は、切り欠き43がこの切り欠き43を通過する支持体の形状と一致するような形状とされている。したがって、更に固定することが可能であり、IOL1及びS−IOL30の表面同士が接触している箇所でのIOL1とS−IOL30との間の局地的固着による固定も可能である。具体的には、IOL1及びS−IOL30の材料が類似した性質のものであれば、IOL1及びS−IOL30の互いに接触している部分が互いに固着することが判明している。この点に関し、類似した性質というのは、例えば使用されているポリマーが同種のものであることを意味する。例えば、IOL1及びS−IOL30の両方が、他の公知の材料のアクリレート系ポリマー、シリコン系ポリマーから選択される親水性又は疎水性ポリマーのいずれかから形成される。これらの材料において、硬度は異なっていてもよい。
【0130】
環状部41は更に、補助光学構造体35の後面34と光学構造体2の前面3との間に間隔を提供し得る。この距離は、0.05〜0.2mmであり得る。詳細には、この間隔は、0.05〜0.15mmであり得る。この間隔により、付加的なレンズとして作用し得る液膜の形成が可能になり、多くの場合−2〜+2ジオプタが加わる。
【0131】
固定部37,37’の径方向端部は、虹彩と干渉しないために丸みを帯びている。
使用時に、上述したようにIOL1を挿入、位置決め、及び固定した後、通常は一定時間経過後に、IOL1を入れた人の屈折誤差が判定されることになる。測定値に基づいて、S−IOL30が一式のS−IOLの中から選択されることになる。一式のS−IOLは、例えば何らかのその他の光学的欠陥をできるだけ修正することになる、又は例えば読取部を提供し得る、光学構造体35を有する。あるいは、このようなS−IOLはオーダーメイドのものとすることができる。IOL1の挿入にも用いられた先の切開創を用いて、S−IOL30を眼内に挿入することが可能である。したがって、複数の切開創による新たな屈折異常がもたらされることはない。開口部40,40’を用いて、S−IOL30は、その後面34がIOL1の前側3に面した状態で操作及び位置決めされ得る。次に、固定部37,37’が、前方支持体8,8’の端部の周囲に嵌め込まれることになる。固定部37,37’の後面は、水晶体嚢の前面にしっかりと押し付けられ、該前面を変形させる。
図27にて、このことが縁部39及び前方支持体8を通る断面において明確に示されている。水晶体嚢の弾性が、眼内レンズアセンブリを固定する上で有用である。さらに、一実施形態では、後方環状部表面42が水晶体嚢表面を押圧する。水晶体嚢22の内側からは、後方支持体が水晶体嚢を押圧する。これにより、水晶体嚢の挟持力が高まる。
【0132】
図28〜35では、眼内レンズアセンブリの第2実施形態が示されている。本アセンブリは、
図8に記載のIOL1を備える。本実施形態では、前方支持体6,6’は、支持体開口部又は貫通孔18,18’を備える。本実施形態では、S−IOL30は、前方支持体6,6’に開いた開口部18,18’を通って到達する固定部37,37’を備える。固定部37,37’はその端部に、前方支持体6,6’の後面14,14’へと延在する係止部46をそれぞれ有する。
図29、すなわち後側の図において、係止部46がどのように前方支持体6,6’の後面14,14’へと延在しているかを見ることができる。眼内レンズアセンブリが使用状態にあり、開口部に留置されて水晶体嚢フラップ23に固定されると、比較的弾性のある水晶体嚢22の組織は、前方支持体6,6’の後面14,14’の両方を押圧することになり、係止部46を前方支持体6,6’の後面14,14’に対して前方向に押し付け、それにより固定部37,37が開口部18,18’を通って元に戻ることを更に阻止する。前方支持体6,6’の開口部18,18’を通って到達する固定部37,37’の更なる利点は、S−IOL30の回転が阻止されることである。S−IOL30は、こうして軸方向(Ax)、径方向(Ra)、及び方位角方向(Az)
において、IOL1に固定される。
【0133】
レーザを利用した手技を用いて、開口部32の端縁から少し離間した位置において前方水晶体嚢部23に複数の貫通孔を形成することが更に可能である。具体的には、これらの小さな貫通孔(追加の嚢切開)は、前方支持体6,6’の開口部18,18’の位置に形成され得る。固定部37,37’はこの場合、前方水晶体嚢23のこれらの貫通孔を通って到達して、更なる挟持及び固定を実現し得る。それに代えて、又はそれに加えて、前方水晶体嚢部23におけるこれらの貫通孔を通って到達する、S−IOL上の付加的な固定手段が、設けられてもよい。
【0134】
本実施形態のS−IOL30は、先と同様に、光学構造体35の外周部36の周囲に環状部41を更に備える。この環状部41は、上述したものと同じ構成を有するが、場合によって別様に設計される。固定部37,37’は、本実施形態では環状部41の後方環状部表面42に取り付けられる。具体的には、固定部37,37’はここでは該表面から延在する。固定部37,37’の端部には、ここでは後方環状部表面42と同一平面上にある表面を提供するパッチ46が設けられている。しかし、これらの表面は、後方向/後ろ/軸方向に更に延在していてもよい。これらのパッチは、S−IOL30をIOL1上に位置決めして固定する際に通過するはずの、前方支持体6,6’の開口部又は孔18,18’にぴったり嵌まるような寸法に形成され得る。そこで、固定部37,37’は、前方支持体6,6’のための切り欠き43内に配置される。したがって、付加的な後方環状部表面42は、使用時においては、説明したように水晶体嚢に寄り添うこと、又は水晶体嚢を押圧することさえ可能である。切り欠き又は凹部43に起因して、後方環状部表面42は別個の領域に分けられる。通常、これらの領域は、水晶体嚢表面と係合できるように一平面上にある。切り欠き又は凹部43の深さは、凹部又は切り欠き43の表面が前方支持体6,6’及び8,8’の前面と係合するように構成される。
【0135】
S−IOL30は、その外周部において、固定部37,37’の位置に切り欠き45を更に備える。したがって、S−IOLを前側から見たときに、固定部37,37’の端部、具体的にはパッチ46が視認できる。よって、S−IOLを挿入及び留置している者は、S−IOL30をIOL1に固定する間、これらの部分及びIOL1の関連する部分を視認することが可能である。
【0136】
S−IOL30の後側及びIOL1の前部における様々な部分は互いに、表面の領域に亘って互いに係合するような形状にされる。S−IOL30及びIOL1が同じ又は同一の材料製、具体的には可撓性を有するとともに曲げてより小さな形態にすることが可能な高分子材料製であり、かつ平滑な表面を有する場合には、固着が起こることが判明している。実際に、一定時間が経過した後、S−IOL30及びIOL1の材料は固着し合い、互いから剥がすにはある程度の努力が必要となることが判明している。したがって、本アセンブリの両構成要素が定位置についた後にIOL1とS−IOL30とが互いに固着したままであるように、論じられている様々な表面を設計及び配置することが可能である。
【0137】
一実施形態では、IOL1及びS−IOL30の様々な部分は、IOL1の光学構造体2の前面3とS−IOL30の補助光学構造体35の後面34との間に距離ができる結果となるような寸法に互いに作られている。したがって、IOL1の光学構造体2の前面3は、S−IOL30の補助光学構造体35の後面34と接しないままである。この距離は、0.03〜0.5mm、詳細には0.05〜0.25mmであり得る。よって、IOL1とS−IOL30との間に前房液の膜が形成され得る。光学的意味において、このような液膜は、−2〜+2ジオプタ、詳細には−0.5〜+0.5ジオプタの効果を有し得る(球面膜が球面レンズをもたらす場合)。一実施形態では、光学構造体2のIOL1の前面及びS−IOL30の光学構造体の後面は、実質的に同じ曲率半径を有し、IOLを複
数のS−IOLの中から選択したものと組み合わせることが可能な本アセンブリの設計は、液膜が同じになるためより容易になる。両表面について、曲率半径は例えば9〜13mmであり得る。曲率半径を一致させることは、在庫させておく必要があるS−IOLの数を削減する結果となり得る。
[S−IOLの埋め込み]
S−IOLの埋め込みは比較的単純である。IOL1の挿入にも用いられた先の切開創を用いて、S−IOL30を眼内に挿入することが可能である。したがって、新たな屈折異常がもたらされることはない。S−IOL30は、眼内の既存の微小な切開創を介して、軸方向において虹彩とIOL1との間に留置される。挿入装置を用いて、眼外でS−IOL30が巻き上げられ、眼の切開創に合うノズルを通して押し進められる。巻き上げられたS−IOL30は、虹彩を介して眼内に入る。巻き上げられたS−IOL30は、IOL1の前で展開する。例えば開口部40,40’を用いて、S−IOL30はここで、その後面34がIOL1の前側3に面した状態で操作及び位置決めされ得る。次に、固定部37,37’が、前方支持体8,8’の端部の周囲に嵌め込まれることになる。あるいは、固定部37,37’は、前方支持体6,6’の開口部18,18’に嵌め込まれてもよい。固定部37,37’の後面は、水晶体嚢の前面にしっかり押し付けられ、該前面を変形させる。水晶体嚢膜の可撓性及び弾性が、S−IOLを適切な位置に保持しておくのに更に利用される。
【0138】
図37及び38では、
図8のIOL1の代替実施形態が示されている。
図38では、
図37の実施形態がやや後方から斜視図にて示されている。先と同様に、同様の参照符号は同様の構成要素を示す。
【0139】
水晶体嚢拡張症候群(CBDS)は、白内障手術後に発現する弱視の、稀ではあるがよく知られた病因である。CBDSは、通常は手術直後の時期に、前房の浅化に伴って、予想外の近視屈折、及び埋め込まれたレンズと後嚢との間における液化物質の蓄積をもたらす。
【0140】
最も可能性の高いCBDSの機序は、残留水晶体上皮細胞、又は壊死性及び/若しくはアポトーシスの自己融解水晶体上皮細胞からのコラーゲンの産生や、嚢切開によって形成された前嚢開口部をIOLの光学素子が閉塞することに伴う、外科手技に起因して溜まる粘弾性物質の、眼内レンズ(IOL)の裏側への蓄積である。嚢を完全に封止しないためにレンズに小さな開口部を設けておくことによって、このような術後の合併症を回避し得る。この開口部は、光学素子の端縁に設けられた切り欠きの形態、又は光学素子に形成された小さな穴の形態として形状が与えられ得る。先述したIOLの使用時に嚢開口部が完全に封止されることを回避するために、前嚢フラップ又は後嚢フラップに嚢開口部を形成する際に、小さな嚢切開創を複数設けておくことも可能である。
【0141】
図37及び38の実施形態では、別の手法が選択されている。この実施形態では、窪み53が外周部表面7に設けられている。この窪み53は、IOLの周りの外周部7に軸方向(Ax)に延びる溝を提供する。ここで、この溝は軸方向(Ax)に真っ直ぐ延びているが、流体の流れを制御するために変更が加えられてもよい。これは、IOL1の挿入後に、外周部表面7と水晶体嚢23の前部の開口部32の端縁との間に流路を形成する。したがって、水晶体嚢の開口部32にIOLが挿入されると、流体の流路が提供される。実際に、後方溝12がIOLに設けられている場合でも、水晶体嚢の後部が後方溝12に挿入されると、この溝が流体部の流路を提供し得る。実際に、窪みが径方向に延在していることによって、そのような流路が制御され得る。
【0142】
通過を容易にするために、窪み53は、後方支持体5,5’又は前方支持体6,6’に隣接して径方向に設けられている。図面に示される実施形態では、窪み53は、後方支持
体5,5’及び前方支持体6,6’の間に設けられている。本実施形態では、2つの窪み53,53’がここでは互いに対向して設けられている。ここで、窪み53,53’の直径は、眼の流体が流路を通過できるように選択される。本実施形態において、窪み53,53’の幅は、ここでは0.2〜0.6mmである。詳細には、この幅は0.25〜0.5mmである。窪み53,53’の深さは、ここでは0.05〜0.4mmである。詳細には、この深さは0.1〜0.3mmである。
【0143】
一実施形態では、S−IOL30は貫通流路又は窪みを備え、該貫通流路又は窪みは、流体の流路を提供するとともに上記窪みに接続する。このようにして、IOL1が水晶体嚢内に留置されて、S−IOL30がIOL1上に配置されると、流体の流路が残る。S−IOLは、その外縁において、又は外縁に近接して貫通孔を備えていてもよく、該貫通孔は、S−IOL30がIOL1に配置されると上記窪みに接続する。流体の流路は、水晶体嚢の前側と水晶体嚢の内側との間で流体が流れることを可能にし得る。流体の流路は、水晶体嚢の後側と流体交換をすることも可能にし得る。S−IOL30の環状部41を貫通して、孔又は流路を設けてもよい。IOL1及びS−IOL30が互いに対して正確に相互配置されることが、適切な流体の流れを確実にし、流体路が塞がれることを防止する。IOLの窪み及びS−IOLの流路又は窪みは、他の図面に示される実施形態のような、本アセンブリの他の実施形態においても適用され得る。
【0144】
先に述べたように、
図40〜46においてS−IOLを備えたIOLの代替実施形態が提示され、
図40及び41ではIOLが、
図42及び43ではS−IOLが取り付けられたIOLが、
図44〜46ではS−IOLが示されている。
【0145】
図40及び41には、より容易な製造、並びにより容易な眼内への埋め込み及び固定が可能なIOLの別の実施形態が示されている。
本実施形態では、複数の後方支持体及び複数の前方支持体が存在する。これらは、’(ダッシュ)マークを付して個別に示されてはいない。同じ部分又は構成は、先と同様に同じ参照符号を有し、更に説明はしない。
図40は斜視図を示し、
図41は前方から見たところを示し、いずれもIOLの前側を示している。
【0146】
それらにおいて、IOLは、水晶体嚢(の残存部)の中に残っている3つのハプティックを有する。ハプティックは、実質的に6つの後方支持体5を提供し、それらはその径方向端部で2つずつ連結されている。それらは、前方支持体6より径方向(Ra)に更に延在している。
図21に見られるように、支持体5,6は重なり合っていないことが明らかである。前方支持体6の貫通孔18は、先と同様に、前方支持体6を水晶体嚢から容易に引き出すことを可能にする。これにより、水晶体嚢においてより良好なセンタリングが可能になる。
【0147】
図40及び41の実施形態では、軸方向に延びる窪み53の底部54は、後方支持体の前面13より後方向へ更に遠くなっている。これにより、より確実な流体路が提供される。外周部7における軸方向に延びる窪み53(軸方向溝53とも称される)はまた、後方向にテーパが付けられてもよい。これらの窪み53が後方リム16を断続させる結果となることが判明している。既に説明したように、後方水晶体嚢部からの組織増殖を防止するために、外周部における、及び外周部に近接するIOL1の後側には鋭いリム16が設けられている。このような組織増殖は、後嚢混濁の原因となり得る。先の実施形態の窪み53はリム16を断続させるため、後嚢混濁を誘発し得る組織増殖の危険性をもたらす。この組織は、例えば窪みを塞いで、流体の交換を妨げる可能性がある。
【0148】
ここでは、窪みはIOLの前側で開口している。IOL1が埋め込まれると窪みが水晶体嚢の端縁52を越えて延在するような(軸方向Aの)深さが選択されている。実際に、
軸方向Aにおいて、窪みは前方支持体6,6’の後面14,14’を越えて延在する。一実施形態では、窪みは後方支持体5,5’の前面13,13’を越えて延在する。よって、窪みは水晶体嚢23を越えて流体路を提供する。窪み53はここでは、後方リム16の手前で終端し、その端縁は損なわれていない。したがって、窪み53は底部又は終端部54を有する。窪み53は、外周面7に対して径方向R内側に向かって延在する。支持体5,5’及び6,6’は、外周部表面7から径方向外側に延在する。埋め込み前においては、一実施形態では、一実施形態における前方支持体6,6’の後面は、径方向Rにおいて外周部表面7を越えて延在する。一実施形態における後方支持体5,5’の前面は、径方向Rにおいて逆方向に外周部表面7を越えて延在する。したがって、これらの支持体はその間に水晶体嚢を挟持することが可能である。
【0149】
先と同様に、2つずつ連結された後方支持体5は、ハプティックの機能性も提供し得る。別様に定義すれば、貫通開口部を有する3つの後方支持体が存在するとも言える。後方支持体5及び前方支持体6は、先と同様に重なり合っていない。これらは、方位角方向にずれている。
【0150】
後方支持体5は、前方向に角度が付けられてもよい。そうすることで、場合により水晶体嚢内での固定が改善され得る。前方向に角度が付けられた実施形態では、レンズは後方向へ少し押され、後方水晶体嚢部に寄り添い得る。後方水晶体嚢部にも貫通孔が設けられている場合、先に説明したように、その孔内での固定が改善し得る。
【0151】
図42及び43では、
図40/41のIOLが、S−IOLが取り付けられた状態で示されている。
図42では前側から、
図43では後側から、本アセンブリが斜視図で示されている。
【0152】
IOL1のためのS−IOL30は、本実施形態では3つの固定部37を有し、ここでは全てが参照符号37として示されている。S−IOL30は、先と同様に環状部41を備える。S−IOL30は、水晶体嚢の前面に寄り添うための後方環状部表面42を有する。この表面42は、径方向に幾分延在して更なる支持をもたらす。固定部37は、前方支持体6の開口部を通って延在する部分を備える。S−IOLは、先述した窪み又は軸方向溝53と連通する孔55を備える。孔55は、S−IOLを通って延在する止まり穴であってもよい(図示なし)。これにより流体連通が可能になる。
【0153】
図44〜46では、S−IOL30はそれぞれ、前側からの斜視図、後側からの上面図、及び
図45に示される断面にて示されている。
固定部37は、前方支持体の孔を通って延在して前方支持体6の後方で係止するパッチ46を備える。固定部37の後面38は、こうして水晶体嚢の前方外面に寄り添うことが可能である。後面38は、後方支持体5の前面13を越えて後方軸方向に延在し得る。S−IOL30は、前方支持体6上に固定部37を挿入し易くする切り欠き45をここでは有する。
【0154】
全ての実施形態において、またIOLとS−IOLとの組み合わせ一般において、IOL及び/又はS−IOLの一方又は両方に、国際出願第PCT/NL2012/050115号に開示されている1つ又は複数の光学領域が設けられてもよい。
【0155】
上記説明及び図面は、本発明の幾つかの実施形態を例証するために含まれているものであり、保護の範囲を限定するためではないことも明らかであろう。この開示を根幹として、数多くの更なる実施形態が当業者には明白であろう。これらの実施形態は、本発明の保護の範囲及び本質の内にあり、先行技術と本特許の開示との自明な組み合わせである。
【符号の説明】
【0156】
1…眼内レンズ構造体(IOL)、2…光学構造体、3…IOLの前面、4…IOLの後面、5,5’…後方支持体、6,6’…前方支持体、7…IOLの外周部、8,8’…付加的な前縁部、9…光学構造体の外周、10…光学構造体の外周部、11…後方平面と前方平面との間の空間、12…後方水晶体嚢フラップのための後方溝、13,13’…後方支持体の(前方)支持面、14,14’…前方支持体の(後方)支持面、15,15’…後方支持体の後面、16…後方リム、17,17’…付加的な前縁部の後面、18,18’…前方支持体の穴、19…後方支持体と前方支持体との間の方位角(Az)空間、20…眼球、21…角膜、22…水晶体嚢、23…水晶体嚢の前部、24…水晶体嚢の後部、25…虹彩、26…瞳孔、30…補助IOL(S−IOL)、31…水晶体、32…(水晶体嚢の前部にある)開口部、33…S−IOLの前面、34…S−IOLの後面、35…S−IOLの補助光学構造体/光学構造体、36…補助光学構造体の外周部、37,37’…S−IOLの固定部、38,38’…S−IOLの固定部の後面、39,39’…固定部を前方支持体に係着させるための固定部の縁部、40,40’…補助光学構造体の外周部と固定部との間にあるS−IOLの開口部、41…補助光学構造体の周囲の環状部、42…前方水晶体嚢表面に寄り沿うために開口部の周囲に同心状に形成された後方環状部表面、43…後方支持体及び/又は前方支持体を通過させるための環状部における切り欠き、44…S−IOLの光学構造体の外周部の周囲に周縁/外周環状部表面を形成する、環状部の内側環状部表面、45…切り欠き、46…パッチ、47…光軸、48…中心窩、49…瞳孔中心線、50…照準線、51…視軸、52…水晶体嚢開口部の周縁、53…窪み又は軸方向溝、54…窪み又は軸方向溝の底部、55…窪みと連通するS−IOLの孔、Ts…側頭側、Ns…鼻側、Az…方位角方向、Ax…軸方向、Ra…径方向。