(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6978188
(24)【登録日】2021年11月15日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】多列組合せアンギュラ玉軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 19/18 20060101AFI20211125BHJP
F16C 33/32 20060101ALI20211125BHJP
F16C 33/44 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
F16C19/18
F16C33/32
F16C33/44
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-111445(P2016-111445)
(22)【出願日】2016年6月3日
(65)【公開番号】特開2017-219053(P2017-219053A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2019年5月29日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 翔平
【審査官】
西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−043909(JP,A)
【文献】
特開2006−307912(JP,A)
【文献】
特開2006−326695(JP,A)
【文献】
特開2005−299761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/18
F16C 33/32
F16C 33/44
B23B 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触角(α1,α2,α3)を有する3列以上のアンギュラ玉軸受(41,42,43)を、前部と後部で列数が異なり、前部列の列数が後部列の列数よりも多く、前部列と後部列を背面組合せにして配列した多列組合せアンギュラ玉軸受装置において、列数の多い前部列のアンギュラ玉軸受(41,42)の転動体が鋼製、列数の少ない後部列のアンギュラ玉軸受(43)の転動体がセラミック製であり、アンギュラ玉軸受(41,42,43)の間に、内輪間座(19)および外輪間座(20)を介在させ、前部側の内輪間座(19)と外輪間座(20)の幅を、後部側の内輪間座(19)と外輪間座(20)の幅に対して異ならせ、前記アンギュラ玉軸受(41,42,43)が保持器を備え、列数の多い前部列のアンギュラ玉軸受(41,42)の保持器がポリアミド樹脂製で、列数の少ない後部列のアンギュラ玉軸受(43)の保持器がフェノール樹脂もしくはPEEK樹脂製であることを特徴とする多列組合せアンギュラ玉軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械主軸の支持に用いられる多列組合せアンギュラ玉軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸装置1の主軸3は、例えば、
図2に示すように、フロント側軸受4およびリア側軸受5で支持されている。
【0003】
フロント側軸受4には、接触角を有するアンギュラ玉軸受41〜44を前部と後部で背面組合せに配列した多列組合せアンギュラ玉軸受装置が使用されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、多列組合せアンギュラ玉軸受装置として、4列背面組合せのアンギュラ玉軸受装置が開示されている。
【0005】
4列背面組合せのアンギュラ玉軸受装置は、
図2に示すように、4列のアンギュラ玉軸受41〜44を、前部と後部で2列ずつに分け、前部のアンギュラ玉軸受41、42の接触角α1、α2と後部のアンギュラ玉軸受43、44の接触角α3、α4が互いに向き合うように配列されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−52714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年、工作機械の主軸装置1の主軸3は、高速性、高剛性、高精度に加え、小型化が求められており、その方法として、主軸3に使用されるアンギュラ玉軸受の列数を減らすケースがある。
【0008】
例えば、
図2の4列背面組合せの軸受配列を、
図1に示すように、3列背面組合せにし、主軸長を短くする場合や、新規に3列背面組合せにて主軸設計する場合などがある。
【0009】
工作機械の主軸では、高速性、高剛性、高精度を実現するため、アンギュラ玉軸受を接触角が互いに向き合うように組合せ、予圧を負荷する場合が多い。予圧は、接触角が対向する軸受群の間で釣り合うため、例えば、
図1に示す3列背面組合せのように、アンギュラ玉軸受41〜43の列数が、前部と後部で異なる場合、即ち、前部がアンギュラ玉軸受41、42の2列で、後部がアンギュラ玉軸受43の1列の場合、列数の少ない後部側(3列背面組合せの1列側)のアンギュラ玉軸受43が大きな荷重を受けることになる。
【0010】
例えば、表1に示す具体的な軸受諸言で比較すると、前部のアンギュラ玉軸受41、42の最大接触面圧(MPa)が1600であるのに対し、後部側のアンギュラ玉軸受3の最大接触面圧(MPa)2000となる。
【0011】
【表1】
【0012】
表1のとおり、列数の少ない後部側のアンギュラ玉軸受43と、列数の多い前部側のアンギュラ玉軸受41、42の最大接触面圧を比較すると、列数の少ない後部側のアンギュラ玉軸受43の方が、列数の多い前部側のアンギュラ玉軸受41、42よりも最大接触面圧が大きくなるので、列数の少ない後部側のアンギュラ玉軸受43の方が、列数の多い前部側のアンギュラ玉軸受41、42よりも発熱が大きくなる。
【0013】
また、一般に、工作機械の主軸は、前部に掛かる加工荷重に対する剛性が必要になるため、列数の多い側のアンギュラ玉軸受を前部、列数の少ない側のアンギュラ玉軸受を後部にして配列される。
【0014】
工作機械の主軸で主流となっているビルトインモータ主軸(主軸内部にモータを搭載)の場合、列数の少ない後部のアンギュラ玉軸受の近傍にビルトインモータが配置される。近年、工作機械主軸の小型化により、列数の少ない後部のアンギュラ玉軸受とビルトインモータとの距離が近づいてきている。
【0015】
ビルトインモータ主軸は、運転に伴い、モータ部が発熱するため、その近傍で使用される列数の少ない後部のアンギュラ玉軸受は、大きな荷重を受けるだけでなく、熱による影響も大きく受ける。すなわち、最大接触面圧が大きくなることでの発熱に加えて、モータからの放熱により、軸受温度としては非常に厳しくなる。
【0016】
そこで、この発明は、接触角を有するアンギュラ玉軸受が背面組合せで3列以上配列され、アンギュラ玉軸受の列数が前部と後部の異なる多列組合せアンギュラ玉軸受装置において、列数の少ない側の軸受の発熱を抑え、焼損防止や長寿命化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記の課題を解決するために、この発明は、接触角を有する
3列以上のアンギュラ玉軸受を、前部と後部で列数が異なり、前部列の列数が後部列の列数よりも多く、前部列と後部列を背面組合せにして配列した多列組合せアンギュラ玉軸受装置において、列数の多い
前部列のアンギュラ玉軸受の転動体が鋼製、列数の少ない
後部列のアンギュラ玉軸受の転動体がセラミック製であることを特徴とする。
【0018】
また、列数の多い側のアンギュラ玉軸受の転動体径Daに対して、列数の少ない側のアンギュラ玉軸受の転動体径Da’をDa<Da’≦1.5・Daとしたことを特徴とする。
【0019】
また、列数の少ない側のアンギュラ玉軸受の接触角α’°に対して、列数の多い側のアンギュラ玉軸受のα°に対して、α°<α’°≦(α+30)°としたことを特徴とする。
【0020】
また、列数の多い側のアンギュラ玉軸受の保持器がポリアミド樹脂製で、列数の少ない側のアンギュラ玉軸受の保持器がフェノール樹脂もしくはPEEK樹脂製であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
この発明のように、後部側のアンギュラ玉軸受の転動体をセラミック球にすると、セラミック球は、鋼球に比べて、軽量で線膨張係数が小さいので、発熱低減や焼損防止を図ることができる。
【0022】
また、後部側のアンギュラ玉軸受の転動体をセラミック球にし、さらにセラミック球の転動体径Da’を、前部側のアンギュラ玉軸受の転動体径Daの1.5倍以内にした場合(Da<Da’≦1.5・Da)、後部側のアンギュラ玉軸受の基本動定格荷重が向上し、長寿化が図れると共に、最大接触面圧も低下し、発熱低減と焼損防止が図れる。
【0023】
また、後部側のアンギュラ玉軸受の接触角α’を、2列側のアンギュラ玉軸受の接触角αよりも大きく、即ち、α°<α’°≦(α+30)°にした場合、後部側のアンギュラ玉軸受の最大接触面圧が低減するので、発熱低減や焼損防止を図ることができる。
【0024】
また、後部側のアンギュラ玉軸受の保持器を耐熱性に優れるフェノール樹脂もしくはPEEK樹脂製にすると、焼損を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】4列背面組合せのアンギュラ玉軸受装置をフロント側軸受に使用した工作機械の主軸装置の断面図である。
【
図2】3列背面組合せのアンギュラ玉軸受装置をフロント側軸受に使用した工作機械の主軸装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
この発明の多列組合せアンギュラ玉軸受装置は、例えば、
図1に示す工作機械の主軸装置1の主軸3のフロント側軸受として使用される。
【0027】
工作機械の主軸装置1は、軸受ハウジング2内において、主軸3をフロント側軸受4およびリア側軸受5で回転自在に支持したものであり、主軸3の中間部に設けられたビルトインモータ6により主軸3を回転駆動するものである。
【0028】
フロント側軸受4は、主軸3の前端側を支持するものであり、多列組合せアンギュラ玉軸受装置からなる。リア側軸受5は、主軸3の後端側を支持するものであり、
図1では単列のアンギュラ玉軸受からなる。
【0029】
フロント側軸受4は、3列のアンギュラ玉軸受41、42、43を、前部と後部で2列と1列に分けた3列背面組合せアンギュラ玉軸受装置であり、前部のアンギュラ玉軸受41、42の接触角α1、α2と、後部のアンギュラ玉軸受43の接触角α3が互いに向き合うように組み合わされている。
【0030】
フロント側軸受4である多列アンギュラ玉軸受装置の各内輪41a、42a、43aは、内輪固定ナット7の締め付けにより、主軸3の段部3aと内輪固定ナット7との間で主軸3に締め付け固定されている。
【0031】
フロント側軸受4の各外輪41b、42b、43bは、外輪押え蓋8のボルト等による締め付けにより、軸受ハウジング2の段部2aと外輪押え蓋8との間で位置決め固定されている。
【0032】
フロント側軸受4のアンギュラ玉軸受41、42、43の間には、内輪間座19および外輪間座20が介在させてあり、
前部側の内輪間座(19)と外輪間座(20)の幅を、後部側の内輪間座(19)と外輪間座(20)の幅に対して異ならせることにより、多列アンギュラ玉軸受装置に定位置予圧を与えている。
【0033】
ビルトインモータ6は、主軸3に固定されたロータ12と、このロータ12に対向して軸受ハウジング2の内周に設けられたステータ13とからなる。
【0034】
前部がアンギュラ玉軸受41、42の2列で、後部がアンギュラ玉軸受43の1列の場合、列数の少ない後部側のアンギュラ玉軸受43が大きな荷重を受け、列数の少ない後部側のアンギュラ玉軸受43の方が、列数の多い前部側のアンギュラ玉軸受41、42よりも発熱が大きくなるので、この発明では、列数の少ない側のアンギュラ玉軸受43の発熱を抑え、焼損防止や長寿命化を図るために、次のような手段を採用している。
【0035】
第1の手段は、表2の通り、前部側のアンギュラ玉軸受41、42の転動体が鋼球である場合、後部側のアンギュラ玉軸受43を、セラミック球にするというものである。
【0036】
表2の通り、後部側のアンギュラ玉軸受43の転動体をセラミック球にした場合、表1の鋼球の場合と、最大接触面積は同等であるが、セラミック球は、鋼球に比べて、軽量で線膨張係数が小さいので、発熱低減や焼損防止を図ることができる。
【0038】
さらに、表3の通り、後部側のアンギュラ玉軸受43の転動体をセラミック球にし、さらにセラミック球の転動体径Da’を、表2におけるセラミック球の転動体径Daの1.5倍にした場合(Da<Da’≦1.5・Da)、1列の後部側のアンギュラ玉軸受43の基本動定格荷重が向上し、長寿化が図れると共に、最大接触面圧も低下し、発熱低減と焼損防止が図れる。
【0040】
さらにまた、表4、表5では、Da’>1.5・Da、Da’=1.8・Daにしているので、表3の場合と同様の効果が期待できそうであるが、表4、表5の範囲では、Da’がDaに対して一層大きくなり、さらに、Da’が軸受空間内に収まるように、サイズの上限の制約も加わるため、結果として、Daを小さくしなければならない。このため、表4、表5の場合には、2列側のアンギュラ玉軸受41、42の定格荷重の低下や、最大接触面圧の上昇を招いてしまう。
【0043】
次に、表6は、後部側のアンギュラ玉軸受43の接触角α3を、2列側のアンギュラ玉軸受41、42の接触角α1、α2よりも大きくした例、即ち、(α1、α2)°<α3°≦[(α1、α2)+30]°である場合、後部側のアンギュラ玉軸受43の最大接触面圧が表1の場合よりも低減するので、発熱低減や焼損防止を図ることができる。
【0045】
また、従来のアンギュラ玉軸受では、一般的に、コスト面で有利なポリアミド樹脂製の射出成形保持器が使用される。しかし、今回の後部側のアンギュラ玉軸受のように、大きな荷重を受け、近傍のビルトインモータの放熱による熱影響を受ける場合、フェノール樹脂製や、PEEK樹脂製保持器を使用することで、焼損を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0046】
1 :主軸装置
2 :軸受ハウジング
3 :主軸
4 :フロント側軸受
5 :リア側軸受
41、42、43 :アンギュラ玉軸受
Da、Da’ :転動体径
α1〜α3 :接触角