(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のリチウムイオン電池用正極を構成する正極活物質層は、正極活物質を含んでなり、正極活物質は、正極活物質粒子の表面の一部又は全部が被覆層によって被覆された被覆正極活物質(後述する)であることが好ましい。
正極活物質としては、従来公知のものを好適に使用することができ、ある電位を与えることでリチウムイオンの挿入と脱離が可能な化合物であって、対極に用いる負極活物質よりも高い電位でリチウムイオンの挿入と脱離が可能な化合物を用いることができる。
【0011】
正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO
2、LiNiO
2、LiAlMnO
4、LiMnO
2及びLiMn
2O
4等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO
4、LiNi
1−xCo
xO
2、LiMn
1−yCo
yO
2、LiNi
1/3Co
1/3Al
1/3O
2及びLiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiM
aM’
bM’’
cO
2(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO
4、LiCoPO
4、LiMnPO
4及びLiNiPO
4)、遷移金属酸化物(例えばMnO
2及びV
2O
5)、遷移金属硫化物(例えばMoS
2及びTiS
2)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ−p−フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0012】
正極活物質の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01〜100μmであることが好ましく、0.1〜35μmであることがより好ましく、2〜30μmであることがさらに好ましい。
【0013】
本明細書において、正極活物質の体積平均粒子径は、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。マイクロトラック法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法である。なお、体積平均粒子径の測定には、日機装(株)製のマイクロトラック等を用いることができる。
【0014】
正極活物質層の厚さは、特に限定されないが100μm以上、1500μm以下であることが好ましく、150μmを超え、1200μm以下であることがより好ましく、200以上、800μm以下であることが更に好ましい。
【0015】
正極集電体は、導電材料と樹脂からなる樹脂集電体である。
正極集電体がアルミニウムの場合はイミド系電解質により腐食されてしまう問題が生ずるが、本発明のリチウムイオン電池用正極は、正極集電体が導電材料と樹脂からなる樹脂集電体であるため、イミド系電解質による腐食の問題も生じない。
【0016】
樹脂集電体を構成する導電材料は、導電性を有する材料から選択される。
具体的には、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
これらの導電材料は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電材料としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記した導電材料の材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0017】
導電材料の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01〜10μmであることが好ましく、0.02〜5μmであることがより好ましく、0.03〜1μmであることがさらに好ましい。なお、「導電材料の粒子径」とは、導電材料の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0018】
導電材料の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノフィラー、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電性樹脂組成物として実用化されている形態であってもよい。
【0019】
導電材料は、その形状が繊維状である導電性繊維であってもよい。
導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。また、グラフェンを練りこんだポリプロピレン樹脂も好ましい。
導電材料が導電性繊維である場合、その平均繊維径は0.1〜20μmであることが好ましい。
【0020】
樹脂集電体を構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、より好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
【0021】
樹脂集電体は、上記導電材料及び樹脂を用いて、特開2012−150905号公報及び国際公開第2015/005116号等に記載の樹脂集電体と同様の方法で得ることができる。具体的な製造方法としては、例えば、2軸押出機等の公知の加熱溶融混練機を用いて、上記樹脂、上記導電材料及び必要により用いるその他の成分を溶融混練した後、得られた溶融混練済材料を熱プレス機により圧延して成形する方法等が挙げられる。なお成形方法としては、射出成形、圧縮成形、カレンダ成形、スラッシュ成形、回転成形、押出成形、ブロー成形、フィルム成形(キャスト法、テンター法、インフレーション法等)等でも行うことができる。
【0022】
電解液としては、リチウムイオン電池の製造に用いられる、電解質及び非水溶媒からなる電解液を使用することができる。
【0023】
電解質は、少なくともイミド系電解質を含む。
イミド系電解質としては、LiN(FSO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)
2及びLiN(C
2F
5SO
2)
2等が挙げられる。これらの内、高濃度時のイオン伝導性及び熱分解温度の観点から好ましいのはLiN(FSO
2)
2である。LiN(FSO
2)
2は、他の電解質(上記イミド系電解質以外の電解質も含む)と併用してもよいが、単独で使用することが好ましい。
すなわち、電解液を構成する電解質は、少なくともリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド[LiN(FSO
2)
2]を含むことが好ましく、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド[LiN(FSO
2)
2]のみからなることがより好ましい。
電解液を構成する電解質が、LiN(FSO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)
2及びLiN(C
2F
5SO
2)
2等のイミド系電解質を含むと、電池の内部抵抗を低く抑え、出力密度を向上させることができる。
さらに、イミド系電解質はLiPF
6と異なり、水と接触した場合であっても、電池を劣化させる原因となるフッ酸を生成しないため、水の侵入による経時劣化を起こしにくく、さらに、熱分解温度がLiPF
6よりも高く熱的安定性に優れる。
加えて、正極集電体がアルミニウムの場合はイミド系電解質により腐食されてしまう問題が生ずるが、本発明のリチウムイオン電池用正極では、正極集電体が導電材料と樹脂からなる樹脂集電体であるため、イミド系電解質による腐食の問題も生じない。
【0024】
電解液の電解質濃度は、1〜5mol/Lであるが、1.5〜4mol/Lであることが好ましく、2〜3mol/Lであることがより好ましい。
電解液の電解質濃度が1mol/L未満であると、電池の充分な入出力特性が得られず、5mol/Lを超えると、電解質が析出してしまう。
なお、電解液の電解質濃度は、リチウムイオン電池用正極又はリチウムイオン電池を構成する電解液を、溶媒などを用いずに抽出して、その濃度を測定することで確認することができる。
具体的には、例えば、電解液を含む部材(セパレータや正極活物質層)の一部を切り取るか、又は、リチウムイオン電池の外装体(電池外装体)に内部まで到達する孔を開けて、遠心分離機等を用いて電解液を遠心抽出して、抽出した電解液の体積及び含有する電解質量を測定することにより、電解質濃度を測定することができる。
【0025】
非水溶媒としては、公知の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン等及びこれらの混合物を用いることができる。
【0026】
ラクトン化合物としては、5員環(γ−ブチロラクトン及びγ−バレロラクトン等)及び6員環のラクトン化合物(δ−バレロラクトン等)等を挙げることができる。
【0027】
環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート及びブチレンカーボネート等が挙げられる。
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチル−n−プロピルカーボネート、エチル−n−プロピルカーボネート及びジ−n−プロピルカーボネート等が挙げられる。
【0028】
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及びプロピオン酸メチル等が挙げられる。
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン及び1,4−ジオキサン等が挙げられる。
鎖状エーテルとしては、ジメトキシメタン及び1,2−ジメトキシエタン等が挙げられる。
【0029】
リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(トリフルオロメチル)、リン酸トリ(トリクロロメチル)、リン酸トリ(トリフルオロエチル)、リン酸トリ(トリパーフルオロエチル)、2−エトキシ−1,3,2−ジオキサホスホラン−2−オン、2−トリフルオロエトキシ−1,3,2−ジオキサホスホラン−2−オン及び2−メトキシエトキシ−1,3,2−ジオキサホスホラン−2−オン等が挙げられる。
ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が挙げられる。アミド化合物としては、DMF等が挙げられる。スルホンとしては、ジメチルスルホン及びジエチルスルホン等の鎖状スルホン及びスルホラン等の環状スルホン等が挙げられる。
非水溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
非水溶媒の内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのは、ラクトン化合物、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル及びリン酸エステルであり、ニトリル化合物を含まないことが好ましい。更に好ましいのはラクトン化合物、環状炭酸エステル及び鎖状炭酸エステルであり、特に好ましいのは環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルの混合液である。最も好ましいのはエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合液、又は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合液である。
【0031】
正極活物質層はさらに導電性粒子や導電性繊維等の導電助剤を含んでいることが好ましい。
正極活物質層が導電性粒子や導電性繊維等の導電助剤を含むことで、正極活物質層の電気伝導性を向上させることができる。このとき、正極活物質は、後述する被覆正極活物質であることがより好ましい。導電性粒子及び導電性繊維繊維としては、正極活物質層に導電性を付与できるものであればよく、導電材料として説明されたものを好適に用いることができるが、正極活物質層の導電性を向上させる観点から、導電性繊維がより好ましい。
導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。これらの導電性繊維の含有量は、正極活物質層の重量に基づいて0.5〜10.0重量%であることが好ましい。
正極活物質層がさらに導電性繊維を含むとき、正極活物質は後述する被覆正極活物質であることが好ましい。
【0032】
正極活物質は、正極活物質粒子の表面の一部又は全部が高分子化合物と導電剤とを含む被覆層により被覆された被覆正極活物質であることが好ましい。
正極活物質粒子の表面が被覆層で被覆されていると、正極の体積変化が緩和され、正極の膨張を抑制することができる。さらに、被覆正極活物質の非水溶媒に対する濡れ性を向上させることができ、電極が有する活物質層に電解液を吸収させる工程時間の短縮が可能になる。
また、正極活物質粒子の表面の一部又は全部を高分子化合物と導電剤とを含む被覆層により被覆することにより、正極の導電性を高めることができるため、電池容量を高めることも可能となる。
正極活物質粒子としては、正極活物質層を構成する上記の正極活物質からなる粒子を用いることができる。導電剤としては、樹脂集電体を構成する導電材料と同様のものを好適に用いることができる。
【0033】
被覆層を構成する高分子化合物としては、電解液に浸漬した際の吸液率が10%以上であり、飽和吸液状態での引張破断伸び率が10%以上である高分子化合物が好ましい。
【0034】
電解液に浸漬した際の吸液率は、電解液に浸漬する前、浸漬した後の高分子化合物の重量を測定して、以下の式で求められる。
吸液率(%)=[(電解液浸漬後の高分子化合物の重量−電解液浸漬前の高分子化合物の重量)/電解液浸漬前の高分子化合物の重量]×100
吸液率を求めるための電解液としては、好ましくはエチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)を体積割合でEC:DEC=3:7で混合した混合溶媒に、電解質としてLiPF
6を1mol/Lの濃度になるように溶解した電解液を用いる。
吸液率を求める際の電解液への浸漬は、50℃、3日間行う。50℃、3日間の浸漬を行うことにより高分子化合物が飽和吸液状態となる。なお、飽和吸液状態とは、それ以上電解液に浸漬しても高分子化合物の重量が増えない状態をいう。
なお、リチウムイオン電池を製造する際に使用する電解液は、上記電解液に限定されるものではなく、他の電解液を使用してもよい。
【0035】
吸液率が10%以上であると、リチウムイオンが高分子化合物を容易に透過することができるため、正極活物質層内でのイオン抵抗を低く保つことができる。吸液率が10%未満であると、リチウムイオンの伝導性が低くなり、リチウムイオン電池としての性能が充分に発揮されないことがある。
吸液率は20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。
また、吸液率の好ましい上限値としては、400%であり、より好ましい上限値としては300%である。
【0036】
飽和吸液状態での引張破断伸び率は、高分子化合物をダンベル状に打ち抜き、上記吸液率の測定と同様に電解液への浸漬を50℃、3日間行って高分子化合物を飽和吸液状態として、ASTM D683(試験片形状TypeII)に準拠して測定することができる。引張破断伸び率は、引張試験において試験片が破断するまでの伸び率を下記式によって算出した値である。
引張破断伸び率(%)=[(破断時試験片長さ−試験前試験片長さ)/試験前試験片長さ]×100
【0037】
高分子化合物の飽和吸液状態での引張破断伸び率が10%以上であると、高分子化合物が適度な柔軟性を有するため、充放電時の正極活物質の体積変化によって被覆層が剥離することを抑制しやすくなる。
引張破断伸び率は20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。
また、引張破断伸び率の好ましい上限値としては、400%であり、より好ましい上限値としては300%である。
【0038】
続いて、被覆層を構成する高分子化合物について説明する。
被覆層を構成する高分子化合物としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などが挙げられ、例えば、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アニリン樹脂、アイオノマー樹脂、ポリカーボネート、ポリサッカロイド(アルギン酸ナトリウム等)及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの中ではビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂又はポリアミド樹脂が好ましい。
これらの中では、電解液に浸漬した際の吸液率が10%以上であり、飽和吸液状態での引張破断伸び率が10%以上である高分子化合物がより好ましい。
【0039】
正極活物質の重量に対する高分子化合物と導電剤との合計重量の割合は、特に限定されるものではないが、2.11〜25重量%であることが好ましい。
【0040】
正極活物質の重量に対する高分子化合物の重量の割合は、特に限定されるものではないが、0.11〜11重量%であることが好ましい。正極活物質の重量に対する導電剤の重量の割合は、特に限定されるものではないが、2〜14重量%であることが好ましい。
【0041】
被覆層に含まれる導電剤の重量に対する被覆層に含まれる高分子化合物の重量の割合は、特に限定されるものではないが、1〜10重量%であることが好ましく、1〜4重量%であることがより好ましい。
【0042】
被覆層の導電率は、0.001〜10mS/cmであることが好ましく、0.01〜5mS/cmであることがより好ましい。
被覆層の導電率は、四端子法によって求めることができる。
被覆層の導電率が0.001mS/cm以上であることで、正極活物質への電気抵抗が高くなく、充放電が可能となる。
【0043】
本発明のリチウムイオン電池用正極を構成する樹脂集電体は、その表面(正極活物質層と接触する面を除く)に金属層が接触していてもよい。
上記金属層としては、例えば、正極集電体表面と電池外部との電流のやり取りを補助するためのニッケル蒸着膜や正極集電体に貼り合わせられるアルミ箔であり、これらは、正極集電体の構成に含めないものとする。
【0044】
以下、上述した本発明のリチウムイオン電池用正極を製造する方法について説明する。
本発明のリチウムイオン電池用正極を製造する方法としては、例えば、正極活物質及び導電性繊維を、水又は溶媒の重量に基づいて30〜60重量%の濃度で分散してスラリー化した分散液を、正極集電体にバーコーター等の塗工装置で塗布後、乾燥して水又は溶媒を除去して、必要によりプレス機でプレスする方法が挙げられる。なお、上記分散液を乾燥させて得られる正極活物質層は、正極集電体上に直接形成する必要はなく、例えば、アラミドセパレータ等の表面に上記分散液を塗布し乾燥して得られる正極活物質層を、正極集電体と接触するよう配置することでも本発明のリチウムイオン電池用正極を製造することができる。
【0045】
上記分散液には、必要に応じて従来のリチウムイオン電池用の正極に含まれる公知の結着樹脂(バインダともいう。例えば、デンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、スチレン−ブタジエンゴム、ポリエチレン及びポリプロピレン等の高分子化合物)を添加してもよい。
なお、結着樹脂は、リチウムイオン二次電池の電極において活物質粒子と集電体との結着及び活物質同士の接着を目的として用いられる結着剤である。
【0046】
本発明のリチウムイオン電池用正極が有する正極活物質層は、正極活物質同士を接着する結着樹脂を含まないことが好ましい。特に本発明のリチウムイオン電池用正極に含まれる活物質が被覆正極活物質である場合には、正極活物質粒子を電極内に結着することなく、被覆層の働きによって導電経路を維持することができるため、バインダを含むことが必須ではないだけでなく、バインダを用いないことで正極活物質粒子が電極内に結着されないため充放電に伴う活物質の体積変化や外部からの応力に対する緩和能力が良好となり、電極の耐久性が向上し好ましい。
なお、活物質層が正極活物質同士を接着する結着樹脂を含むか否かは、活物質層を電解液中に完全に浸漬した場合に活物質層が崩壊するか否かを観察することで確認できる。活物質層が上記結着樹脂を含む場合には、1分以上その形状を維持することができるが、活物質層が上記結着樹脂を含まない場合には、1分未満で崩壊が起こる。
【0047】
リチウムイオン電池用正極を製造する方法において用いるリチウムイオン電池用正極活物質、導電性繊維及び正極集電体としては、それぞれ本発明のリチウムイオン電池用正極において説明したものを好適に用いることができる。
【0048】
溶媒としては、1−メチル−2−ピロリドン、メチルエチルケトン、DMF、ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン及びテトラヒドロフラン等が挙げられる。
バインダとしてはデンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフロオロエチレン、スチレン−ブタジエンゴム、ポリエチレン及びポリプロピレン等が挙げられる。
【0049】
正極活物質は、正極活物質粒子の表面の一部又は全部が高分子化合物と導電剤とを含む被覆層により被覆された被覆正極活物質であることが好ましい。
被覆正極活物質は、例えば、正極活物質粒子を万能混合機に入れて30〜50rpmで撹拌した状態で、高分子化合物を含む高分子溶液を1〜90分かけて滴下混合し、さらに導電剤を混合し、撹拌したまま50〜200℃に昇温し、0.007〜0.04MPaまで減圧した後に10〜150分保持することにより得ることができる。
【0050】
正極活物質と高分子化合物との配合比率は特に限定されるものではないが、重量比率で正極活物質:高分子化合物=1:0.001〜1:0.1であることが好ましい。
【0051】
正極活物質が、正極活物質粒子の表面の一部又は全部が高分子化合物と導電剤とを含む被覆層により被覆された被覆正極活物質である場合、上述したリチウムイオン電池用正極を作製する工程において用いる分散液には、上記バインダを添加しないことが好ましい。
なお、電極の製造に用いる導電性粒子や導電性繊維等の導電助剤は、被覆層が含む導電剤とは別であり、被覆正極活物質が有する被覆層の外部に存在し、正極活物質層中において被覆正極活物質表面からの電子伝導性を向上する機能を有する。
【0052】
本発明のリチウムイオン電池用正極を用いてリチウムイオン電池を作製する際には、対極となる電極を組み合わせて、セパレータと共にセル容器に収容し、電解液を注入し、セル容器を密封する方法等により製造することができる。
また、集電体の一方の面に正極を形成し、もう一方の面に負極を形成して双極型電極を作製し、双極型電極をセパレータと積層してセル容器に収容し、電解液を注入し、セル容器を密閉することでも得られる。
【0053】
セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン製フィルムの微多孔膜、多孔性のポリエチレンフィルムとポリプロピレンとの多層フィルム、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等が挙げられる。
【0054】
電解液としては、リチウムイオン電池の製造に用いられる、電解質及び非水溶媒を含有する電解液を使用することができ、本発明のリチウムイオン電池用正極を構成する電解質及び電解液を好適に用いることができる。
【0055】
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用正極を備えることを特徴とする。本発明のリチウムイオン電池は本発明のリチウムイオン電池用正極を備えるため、高温耐久性に優れる。
【実施例】
【0056】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0057】
<製造例1:被覆用高分子化合物とその溶液の作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF407.9部を仕込み75℃に昇温した。次いで、メタクリル酸242.8部、メチルメタクリレート97.1部、2−エチルヘキシルメタクリレート242.8部、及びDMF116.5部を配合したモノマー配合液と、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.7部及び2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)4.7部をDMF58.3部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し反応を3時間継続し樹脂濃度50%の共重合体溶液を得た。これにDMFを789.8部加えて、樹脂固形分濃度30重量%である被覆用高分子化合物溶液を得た。
【0058】
<実施例1>
[被覆正極活物質粒子の作製]
正極活物質粉末(LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2粉末、体積平均粒子径4μm)100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、製造例1で得られた被覆用高分子化合物溶液6.1部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電剤であるアセチレンブラック[電気化学工業(株)製 デンカブラック(登録商標)]6.1部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆正極活物質粒子(P−1)を得た。
【0059】
[樹脂集電体の作製]
2軸押出機にて、ポリプロピレン[商品名「サンアロマーPL500A」、サンアロマー(株)製]70部、カーボンナノチューブ[商品名:「FloTube9000」、CNano社製]25部及び分散剤[商品名「ユーメックス1001」、三洋化成工業(株)製]5部を200℃、200rpmの条件で溶融混練して樹脂混合物を得た。
得られた樹脂混合物を、Tダイ押出しフィルム成形機に通して、それを延伸圧延することで、膜厚100μmの樹脂集電体を得た。
【0060】
[正極評価用リチウムイオン電池の作製]
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(体積比率1:1)にリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド[LiN(FSO
2)
2]を1mol/Lの割合で溶解させて作製したリチウムイオン電池用電解液42部と炭素繊維[大阪ガスケミカル(株)製 ドナカーボ・ミルド S−243:平均繊維長500μm、平均繊維径13μm:電気伝導度200mS/cm]4.2部とを遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて2000rpmで7分間混合し、続いて上記電解液30部と被覆正極活物質粒子(P−1)206部を追加した後、更にあわとり練太郎で2000rpmで1.5分間混合し、上記電解液を20部を更に追加した後あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで1分間行い、更に上記電解液を2.3部を更に追加した後あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで1.5分間混合して、正極活物質スラリーを作製した。得られた正極活物質スラリーを膜厚100μmの樹脂集電体の片面に塗布し、10MPaの圧力で約10秒プレスし、厚さが約450μm(正極活物質層の厚さが350μm)の実施例1に係る正極材料(3cm×3cm)を作製した。
端子(5mm×3cm)付きカーボンコートアルミ箔(3cm×3cm)とセパレータ(セルガード2500 PP製)(5cm×5cm)1枚と端子(5mm×3cm)付き銅箔(3cm×3cm)とを、同じ方向に2つの端子が出る向きで順に積層し、それを2枚の市販の熱融着型アルミラミネートフィルム(8cm×8cm)に挟み、端子の出ている1辺を熱融着し、正極評価用ラミネートセルを作製した。
次いで、カーボンコートアルミ箔とセパレータの間に実施例1に係る正極材料(3cm×3cm)を、ラミネートセルのカーボンコートアルミ箔と正極材料の樹脂集電体とが接する向きに挿入し、更に電極の上に電解液を70μL注液して電解液を電極に吸収させた。次いでセパレータ上も電解液を70μL注液した。その後、セパレータと銅箔との間にリチウム箔を挿入し、先に熱融着した1辺に直交する2辺をヒートシールした。
その後、開口部から電解液を更に70μL注液し、真空シーラーを用いてセル内を真空にしながら開口部をヒートシールすることでラミネートセルを密封し、実施例1に係る正極を作製するとともに、正極評価用リチウムイオン電池1を得た。
実施例1に係る正極は、正極集電体の一方の面に正極活物質層が形成されており、該正極活物質層がセパレータを介して対極となるリチウム箔と対面している。正極集電体の他方の面は端子付きカーボンコートアルミ箔と接触している。
以下の方法で高温耐久性及び初期出力特性を測定し、結果を表1に記載した。
【0061】
<実施例2>
実施例1で作製した電解液の電解質濃度を1mol/Lから5mol/Lに変更した以外は、実施例1と同様の手順で実施例2に係るリチウムイオン電池用正極及び正極評価用リチウムイオン電池2を作製した。
【0062】
<実施例3>
実施例1で作製した電解液の電解質濃度を1mol/Lから2mol/Lに変更した以外は、実施例1と同様の手順で実施例3に係るリチウムイオン電池用正極及び正極評価用リチウムイオン電池3を作製した。
【0063】
<実施例4>
実施例1で作製した電解液の電解質を[LiN(FSO
2)
2]から、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[LiN(CF
3SO
2)
2]に変更し、電解質濃度を1mol/Lから2mol/Lに変更した以外は、実施例1と同様の手順で実施例4に係るリチウムイオン電池用正極及び正極評価用リチウムイオン電池4を作製した。
【0064】
<実施例5>
実施例1で作製した電解液の電解質を[LiN(FSO
2)
2]から、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド[LiN(C
2F
5SO
2)
2]に変更し、電解質濃度を1mol/Lから2mol/Lに変更した以外は、実施例1と同様の手順で実施例5に係るリチウムイオン電池用正極及び正極評価用リチウムイオン電池5を作製した。
【0065】
<実施例6>
実施例1で作製した電解液の電解質を[LiN(FSO
2)
2]から、[LiN(FSO
2)
2]:[LiN(CF
3SO
2)
2]=3:1(モル比)の混合物に変更し、電解質濃度を1mol/Lから2mol/Lに変更した以外は、実施例1と同様の手順で実施例6に係るリチウムイオン電池用正極及び正極評価用リチウムイオン電池6を作製した。
【0066】
<実施例7>
実施例1で使用した炭素繊維をアセチレンブラック[デンカブラック(登録商標)NH−100、デンカ(株)製]に変更し、電解質濃度を1mol/Lから2mol/Lに変更した以外は、実施例1と同様の手順で実施例7に係るリチウムイオン電池用正極及び正極評価用リチウムイオン電池7を作製した。
【0067】
<実施例8>
実施例1で使用した被覆正極活物質粒子(P−1)を、被覆していない正極活物質粉末(LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2粉末、体積平均粒子径4μm)(P−2)に変更し、電解質濃度を1mol/Lから2mol/Lに変更した以外は、実施例1と同様の手順で実施例8に係るリチウムイオン電池用正極及び正極評価用リチウムイオン電池8を作製した。
【0068】
<実施例9>
実施例1で使用した被覆正極活物質粒子(P−1)を、被覆していない正極活物質粉末(P−2)に、炭素繊維をアセチレンブラック[デンカブラック(登録商標)NH−100、デンカ(株)製]にそれぞれ変更し、電解質濃度を1mol/Lから2mol/Lに変更した以外は、実施例1と同様の手順で実施例9に係るリチウムイオン電池用正極及び正極評価用リチウムイオン電池9を作製した。
【0069】
<比較例1〜4>
リチウムイオン電池用電解液中の電解質の種類及び濃度並びに集電体の種類を表1に示したものに変更した以外は、実施例1と同様の手順で比較例1〜4に係る正極比較評価用リチウムイオン電池1〜4を作製し、以下の方法で、高温耐久性及び初期出力特性を測定し、結果を表1に記載した。なお集電体の種類で樹脂と記載したものは、実施例1と同様の樹脂集電体であることを示し、金属(Al)と記載したものは、集電体として厚さ50μmのカーボンコートアルミ箔を用いたことを示す。
【0070】
【表1】
【0071】
<リチウムイオン電池の高温耐久性の測定>
70℃下、充放電測定装置「HJ−SD8」[北斗電工(株)製]を用いて以下の方法により正極評価用リチウムイオン電池1〜9、正極比較評価用リチウムイオン電池1〜4の評価を行った。評価は正極評価用リチウムイオン電池1〜9及び正極比較評価用リチウムイオン電池1〜4をそれぞれ70℃の恒温槽内に静置して行った。
定電流定電圧充電方式(CCCVモードともいう)で0.05Cの電流で4.2Vまで充電し、10分間の休止後、0.05Cの電流で2.5Vまで放電した。
上記充放電を10サイクル繰り返し、1サイクル目の放電容量に対する10サイクル目の放電容量(%)を高温耐久性(10cycle)とした。
【0072】
<リチウムイオン電池の初期出力特性の測定>
45℃下、充放電測定装置「HJ−SD8」[北斗電工(株)製]を用いて以下の方法により正極評価用リチウムイオン電池1〜9、正極比較評価用リチウムイオン電池1〜4の評価を行った。評価は正極評価用リチウムイオン電池1〜9及び正極比較評価用リチウムイオン電池1〜4をそれぞれ45℃の恒温槽内に静置して行った。
定電流定電圧充電方式(CCCVモードともいう)で0.05Cの電流で4.2Vまで充電し、10分間の休止後、0.05Cの電流で2.5Vまで放電した。
その後、0.05Cの電流で4.2Vまで充電した後、10分間の休止後、1Cの電流で2.5Vまで放電した。
0.05C充電における充電容量に対する1C電流値での放電容量(%)を、初期出力特性(1C/0.05C)とした。
【0073】
表1の結果より、本発明のリチウムイオン電池用正極を用いたリチウムイオン電池は初期出力特性、特に高温耐久性に優れることがわかる。