特許第6978300号(P6978300)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NEC東芝スペースシステム株式会社の特許一覧

特許6978300高周波電子機器及びマルチパクション防止方法
<>
  • 特許6978300-高周波電子機器及びマルチパクション防止方法 図000002
  • 特許6978300-高周波電子機器及びマルチパクション防止方法 図000003
  • 特許6978300-高周波電子機器及びマルチパクション防止方法 図000004
  • 特許6978300-高周波電子機器及びマルチパクション防止方法 図000005
  • 特許6978300-高周波電子機器及びマルチパクション防止方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6978300
(24)【登録日】2021年11月15日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】高周波電子機器及びマルチパクション防止方法
(51)【国際特許分類】
   H03F 3/60 20060101AFI20211125BHJP
   H03F 1/52 20060101ALI20211125BHJP
   H03F 3/193 20060101ALI20211125BHJP
   H01P 5/08 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   H03F3/60
   H03F1/52 220
   H03F3/193
   H01P5/08 B
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-242922(P2017-242922)
(22)【出願日】2017年12月19日
(65)【公開番号】特開2019-110464(P2019-110464A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2020年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】301072650
【氏名又は名称】NECスペーステクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124154
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 直樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀典
【審査官】 渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−004147(JP,A)
【文献】 特開2004−260584(JP,A)
【文献】 特開2010−114502(JP,A)
【文献】 Natanael Ayllon,and Pier Giorgio Arpesi,Highly Efficient And Multipaction-Free P-Band GaN High-Power Amplifiers for Space Applications,IEEE Trabsactions on Microwave Theory and Techniques,米国,IEEE,2015年12月12日,VOL.63,p.4429-4436
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 3/60
H03F 1/52
H03F 3/193
H01P 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランジスタと、
基板上の配線と接合される同軸部と、
前記トランジスタに電源電圧を供給する直流電源と、
前記電源電圧により、前記基板上の配線と前記同軸部が接続される接合部に直流電圧を印加する電圧付加回路と、
アイソレータのインタフェース部である前記同軸部に内蔵され、前記同軸部内で信号の直流成分を遮断する直流遮断素子と、
を有し、
前記電圧付加回路は、前記配線と前記同軸部の接合部に電圧を印加し、前記直流遮断素子を通過した後の高周波信号を正方向にオフセットする、
高周波電子機器。
【請求項2】
前記トランジスタは、電界効果トランジスタであり、
前記電圧付加回路は、前記直流電源が前記電界効果トランジスタのドレインに印加するドレイン電圧を前記接合部に印加する、
請求項1に記載の高周波電子機器。
【請求項3】
前記同軸部は、
周波回路に接続される入力側の内導体と、
前記直流遮断素子を介して前記入力側の内導体に接続される出力側の内導体と、
外導体と、
前記入力側の内導体、前記直流遮断素子及び前記出力側の内導体と前記外導体とを絶縁する絶縁体と、
を有する、
請求項1又は2に記載の高周波電子機器。
【請求項4】
トランジスタに電源電圧を供給し、
前記電源電圧により基板上の配線と同軸部が接続される接合部に直流電圧を印加し、
アイソレータのインタフェース部である前記同軸部に内蔵された直流遮断素子により、前記同軸部内で信号の直流成分を遮断し、
前記配線と前記同軸部の接合部に電圧を印加し、前記直流遮断素子を通過した後の高周波信号を正方向にオフセットする、
マルチパクション防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、高周波電子機器及びマルチパクション防止方法に関し、特にトランジスタを用いる高周波電子機器及びマルチパクション防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波回路を用いる電子機器は、低気圧環境、特に真空中で使用される場合、電子機器内の2つの導体間で電子が飛行する時間と、2つの導体間に発生する電界反転の周期が同期している箇所があると、その箇所でいわゆるマルチパクションが発生する。これは、一方の導体Aから二次電子が放出された時、他方の導体Bから導体Aへの正の電界で放出された二次電子が導体Bに向かって加速されて衝突し、それによって導体Bから放出された二次電子が反転した電界によって導体Aに向かって加速され衝突する現象を繰り返すことにより発生する。電界が強く、衝突する二次電子の数より衝突により放出される電子の数が多い場合は、両導体間を飛び交う電子は時間とともに増加し、絶縁破壊に到る。
【0003】
特に高周波回路の基板と同軸部を接合する接合部では、同軸部の外導体と接合部の間、及び、金属の筐体と接合部との間でマルチパクションが発生する懸念がある。
【0004】
このマルチパクションを防止する構造が、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1には、素粒子の研究などのため使用される粒子加速器において、高周波加速洞にマイクロ波導入用のカップラー部が接合される構造が開示されている。特許文献1に開示されているカップラー部の接続構造では、カップラー部が、直流成分をカットするよう容量性の接続により高周波加速洞に接合され、またカップラー部にはマイクロ波の高周波の電圧より高い直流電圧が印加されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−170972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1の構成は、マルチパクションを防止するために、高周波加速洞にマイクロ波導入用のカップラー部が接合される構造に加えて、容量性の接続とするため導波管の先端部外周に絶縁性のセラミックで作られた円筒体が嵌合され、またマイクロ波の高周波の電圧より高い直流電圧を印加するための直流電源を備える構成となっている。特許文献1には、簡単な構造でマルチパクションを防ぐ構成は開示されていない。
【0007】
本発明は、簡単な構造で、マルチパクションを防ぐことが可能な高周波電子機器及びマルチパクション防止方法を提供することを主な目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの側面による高周波電子機器は、トランジスタと、基板上の配線と接合される同軸部と、前記トランジスタに電源電圧を供給する直流電源と、前記電源電圧により前記基板上の配線と前記同軸部が接続される接合部に直流電圧を印加する電圧付加回路と、前記同軸部内で信号の直流成分を遮断する直流遮断素子と、を有する。
【0009】
本発明の他の側面によるマルチパクション防止方法は、トランジスタに電源電圧を供給し、前記電源電圧により基板上の配線と同軸部が接続される接合部に直流電圧を印加し、前記同軸部内で信号の直流成分を遮断する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上記側面によれば、高周波電子機器において簡単な構造でマルチパクションを防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1の実施形態の構成の一例を示すブロック図である。
図2図2は、第2の実施形態の構成の一例を示すブロック図である。
図3図3は、図2の構成を示す断面図である。
図4図4は、図2及び図3の電界効果トランジスタの出力する高周波信号の一例を示す図である。
図5図5は、図2及び図3の直流遮断素子を通過した後の高周波信号の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に例示的な第1の実施形態について図面を参照して説明する。第1の実施形態は、真空中で使用され、同軸部と基板もしくはトリプレートを接合する接合部が存在し、トランジスタが実装される高周波電子機器の実施形態である。高周波電子機器は、例えば、高周波信号を増幅する増幅器でもよいし、高周波信号を通過させるパッシブ機器でもよい。
【0013】
図1は、第1の実施形態の構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように、第1の実施形態の高周波電子機器1は、トランジスタ11と、同軸部12と、直流電源13を備えている。同軸部12は、図1に示すように、例えばトランジスタに接続される基板上の配線14と接合されている。また直流電源13は、トランジスタ11に電源電圧を供給する。
【0014】
また高周波電子機器1は、配線14と同軸部12が接続される接合部15に直流電圧を印加する電圧付加回路16を備えている。電圧付加回路16は、直流電源13がトランジスタ11に供給する電源電圧により、帯域内に影響を及ぼさない回路、例えばチョークコイルを介して接合部に電圧を印可させるものでもよい。直流電源13がトランジスタ11に電源電圧を供給すると、電圧付加回路16にも、トランジスタ11に印加される電源電圧が入力され、電圧付加回路16は、この電源電圧により、接合部15に例えばチョークコイルを介して直流電圧を印加する。この直流電圧を接合部15に印加することで、接合部15の電位の極性が常に正となる。
【0015】
また同軸部12は、同軸部12に入力される信号の直流成分を遮断する直流遮断素子17を内蔵している。直流遮断素子17は、例えばコンデンサで構成される。
【0016】
このように本実施形態によれば、直流電源13がトランジスタ11に電源電圧を供給し、電圧付加回路16が、この電源電圧により接合部15に直流電圧を印加することで、接合部15の電位の極性が常に正となる。そして直流遮断素子17が同軸部12内で信号の直流成分を遮断する。この構成により、マルチパクションが生じ易い、基板と同軸部12の接合部15の極性が一定になり、同軸部12の外導体と基板の間、及び、金属の筐体と基板との間の電界の方向が一定になる。したがって接合部15と外導体との間、及び、接合部15と筐体の間での電子の往復運動が制限され、高周波電子機器において簡単な構造でマルチパクションを防ぐことが可能となる。
【0017】
次に第2の実施形態について説明する。図2は、第2の実施形態の構成を示すブロック図である。本実施形態は、高周波信号を増幅する増幅器の実施形態である。
【0018】
図2に示すように、高周波電子機器2は、高周波信号を増幅する電界効果トランジスタ21と、同軸部221を有するアイソレータ22と、直流電源23を備えている。アイソレータ22の同軸部221は、電界効果トランジスタ21の出力に接続されるマイクロストリップ線路24と接合されている。また直流電源23は、電界効果トランジスタ21に電源電圧であるドレイン電圧VDを印加する。
【0019】
また高周波電子機器2は、マイクロストリップ線路24とアイソレータ22の同軸部221が接続される接合部25に、電界効果トランジスタ21に印加される電源電圧であるドレイン電圧VDにより、直流電圧を印加する電圧付加回路26を備えている。電圧付加回路26は、ドレイン電圧VDにより第1の実施形態と同様、帯域内に影響を及ぼさない回路、例えば図2に示すようにチョークコイル261などを介して接合部25に直流電圧を印可させるものでよい。すなわち直流電源23が電界効果トランジスタ21に電源電圧であるドレイン電圧VDを印加すると、電圧付加回路26にも、電界効果トランジスタ21に印加されるドレイン電圧VDが入力され、電圧付加回路26は、例えばチョークコイル261を介して、入力されたドレイン電圧VDを接合部25に印加する。
【0020】
またアイソレータ22は、電界効果トランジスタ21の出力の直流成分を遮断する直流遮断素子222を内蔵している。またアイソレータ22は、サーキュレータ223と、整合終端器224を備えている。直流遮断素子222は、例えばコンデンサで構成される。
【0021】
図3は、図2の増幅装置の構成を示す断面図である。図3に示すようにマイクロストリップ線路24が搭載されている基板27上には直流遮断素子が配置されず、アイソレータ22の入力インタフェース部である同軸部221に直流遮断素子222が内蔵される。また同軸部221は、直流遮断素子222とともに、マイクロストリップ線路24が接続される内導体225と、直流遮断素子222を介して内導体225と接続される内導体226と、外導体227と、絶縁体228を備えている。内導体225、226及び直流遮断素子222は、絶縁体228でおおわれている。絶縁体228の材料としては、例えばテフロン(登録商標)が用いられる。テフロンなどの絶縁体228の絶縁体破壊電圧を超える電圧振幅を持つ高周波信号が入力されない限り、内導体225、226と外導体227との間で放電が起きることはない。
【0022】
図4は、図2及び図3の電界効果トランジスタの出力する高周波信号の一例を示す図である。図4に示すように電界効果トランジスタ21で増幅された高周波信号は、並列給電されたバイアス電圧により、最大でドレイン電圧VDの2倍の大きさの振幅を有する。また、接合部25にドレイン電圧VDが印加されることにより、電界効果トランジスタ21で増幅された高周波信号の振幅の中心はドレイン電圧VDだけ0Vからオフセットされた波形となる。したがって電界効果トランジスタ21の出力信号は常に正の電圧に保持される。
【0023】
図5は、図2及び図3の直流遮断素子を通過した後の高周波信号の一例を示す図である。図5に示すように直流遮断素子222を通過した後の高周波信号は、接合部25に印加されたバイアス電圧によるオフセットがなくなるため、振幅はドレイン電圧VDの2倍の振幅であるが、振幅の中心は0Vを中心とした波形となる。すなわち、直流遮断素子222を通過した後の高周波信号は、最大で+VD、−VDという正負の振幅を周期的に繰り返すことになる。これが正負の周期的な電界を生み出す要因となり、マルチパクションの原因となる。
【0024】
図3に示すように、直流遮断素子222をアイソレータ22のインタフェース部の同軸部221に内蔵させ、マルチパクションが生じ易い、マイクロストリップ線路24と同軸部221の接合部25に、ドレイン電圧VDを印加し、直流遮断素子222を通過した後の高周波信号にオフセットを与える。その結果、高周波による電圧変動(電界変動)がドレイン電圧VDだけ正方向にオフセットされる。
【0025】
本実施形態によれば、接合部25の電位の極性は常に正となるため、接合部25と外導体227との間、及び、接合部25と筐体28の間の電界の方向が一定になる。したがって、接合部25と外導体227との間、及び、接合部25と筐体28の間での電子の往復運動が制限され、高周波電子機器において、簡単な構造でマルチパクションを防ぐことが可能となる。
【0026】
なお同軸部221は、電界効果トランジスタ21の出力に接続されるマイクロストリップ線路24と接合されているとしたが、これに限られない。例えば電界効果トランジスタ21の入力に接続されるマイクロストリップ線路と同軸部が接合されているものでも本実施形態は適用可能である。この場合、同軸部に直流遮断素子を同軸部に内蔵させ、電圧付加回路は、ドレイン電圧VDにより、例えばチョークコイルを介して、電界効果トランジスタの入力に接続されるマイクロストリップ線路と同軸部の接合部に直流電圧を印加する構成とする。
【0027】
この構成でもマルチパクションが生じ易い、基板と同軸部の接合部の極性が一定になり、同軸部の外導体と基板の間、及び、金属の筐体と基板との間の電界の方向が一定になる。したがって接合部と外導体との間、及び、接合部と筐体の間での電子の往復運動が制限され、高周波電子機器において簡単な構造でマルチパクションを防ぐことが可能となる。
【0028】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0029】
1、2 高周波電子機器
11 トランジスタ
12、221 同軸部
13、23 直流電源
15、25 接合部
16、26 電圧付加回路
17、222 直流遮断素子
21 電界効果トランジスタ
22 アイソレータ
24 マイクロストリップ線路
223 サーキュレータ
224 整合終端器
225、226 内導体
227 外導体
228 絶縁体
261 チョークコイル
27 基板
28 筐体
図1
図2
図3
図4
図5