特許第6978334号(P6978334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6978334
(24)【登録日】2021年11月15日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】加圧式筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 7/03 20060101AFI20211125BHJP
   B43K 7/08 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   B43K7/03
   B43K7/08
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-15308(P2018-15308)
(22)【出願日】2018年1月31日
(65)【公開番号】特開2019-130806(P2019-130806A)
(43)【公開日】2019年8月8日
【審査請求日】2020年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】瀬利 伸一
【審査官】 富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−164788(JP,A)
【文献】 特開2004−9645(JP,A)
【文献】 特開2012−135934(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3168101(JP,U)
【文献】 特開2010−125715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K1/00−1/12
5/00−8/24
21/00−21/26
24/00−24/18
27/00−27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒内に、筆記具用インキ組成物を充填したインキ収容筒と、該インキ収容筒の前方にボールペンチップと、を具備したボールペンレフィルを収容してなり、
前記インキ収容筒の後方には、当該インキ収容筒の後部に連結し、外部と連通する空気口を備えた加圧機構を具備し、
前記加圧機構が、前記ボールペンレフィルの後方に内外を連通する前記空気口を有するシリンダーと、前記シリンダーに対し前後動可能に配設したピストンと、前記シリンダーの内部に前記ボールペンレフィルの後方空間部と前記ピストンとの間を連通する加圧空間部と、を備え、
前記空気口の外部との連通を遮断し、前記インキ収容筒の後方空間部を圧縮して加圧するよう構成した加圧式筆記具であって、
前記軸筒内に、該軸筒に対して前後動自在に係止した摺動体が配設され、
前記ボールペンレフィルの前端部が前記軸筒の前端開口部から突出した状態で、前記摺動体を前方または後方へ移動させることで、前記シリンダーまたは前記ピストンを前方に移動させて、前記加圧機構の空気口を外部と連通し、且つ、前記摺動体を前記加圧機構の空気口が外部と連通する方向と逆方向へ移動させることで、前記シリンダーまたは前記ピストンを後方に移動させ、前記加圧機構の空気口が遮断され前記インキ収容筒の後方空間部を圧縮して加圧するよう構成したことを特徴とする加圧式筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インキ収容筒内の筆記具用インキ組成物の後端に圧力を加える加圧式筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からこの種の加圧式筆記具には、例えば特許文献1に開示のように、インキを充填した筆記体の後端部に、ノック体への押圧操作により、筆記体の筆記先端部を軸筒先端開口部より出没するノック式の出没機構と、筆記体のインキ収容筒の後方空間部を加圧する加圧機構と、を具備した、ノック式の加圧式筆記具が知られている。
【0003】
前記したようなノック式の加圧機構を有する加圧式筆記具においては、ノック体の押圧操作に連動して加圧機構が作動し、インキ収容筒の後方空間部を加圧すると共に、ノック式の出没機構による筆記先端部の軸筒内への収納操作に連動してインキ収容内の加圧状態を解除する構造になっている。また、筆記先端部を軸筒先端開口部より突出させた加圧状態で、筆記によりインキ収容筒内のインキが消費されると、加圧されたインキ収容筒内が徐々に減圧されるため、加圧することで得られるインキ吐出量の増加に伴う筆跡濃度の向上や、筆記体の先端を上向きで筆記した際に当該先端からの空気の巻き込みを防止するなどの効果が減少してしまう。このため、減圧した状態をリセットするため、ノック体を押圧して筆記先端部を軸筒内に収納してインキ充填管内の密閉状態を一旦解除し、更に、ノック体を押圧してインキ収容内を再度加圧状態にする必要があり、手間が掛かっていた。また、温度の上昇や気圧の変化などによって、圧力が増加した場合も同様に、増圧した状態をリセットするため、ノック体を押圧して筆記先端部を軸筒内に収納してインキ充填管内の加圧状態を一旦解除し、更に、ノック体を押圧してインキ収容内を再度加圧状態にする必要があった。
【0004】
一方、特許文献2には、筆記時の筆圧によって加圧機構部を作動させ、インキ収容管内を加圧状態とする、いわゆる筆圧加圧式のボールペンが開示されている。
この特許文献2に記載されている筆圧加圧式のボールペンは、筆記時にボールペンチップ(筆記先端部)が筆圧によって後退することで加圧機構部が作動してインキ収容管内のインキの後端に圧力を掛ける構造のため、筆記毎に加圧しつつ筆記することとなり、筆記時のインキ収容管内の圧力が一定の状態となることで、安定した筆跡を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−335173号公報
【特許文献2】特開2000−263992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の構造では、筆記時の筆圧により筆記先端部を微小に後退させることで加圧機構部を作動させている。このため、使用者が感じる筆記時の筆感は、筆記先端部が後方へ動くために柔らかいものとなる。この柔らかい筆感を好む人が多数いることは知られているが、一方で、筆記時に筆記先端部が後退することを不快と感じる人がいることも知られており、特許文献2に記載されている筆圧加圧式のボールペンは、万人が筆記し易いと感じるわけではないという課題があった。
【0007】
本発明は、加圧式筆記具において、筆記先端部を軸筒の前端開口部から突出させた状態で、インキ収容筒の後方空間部を外気圧と同圧にでき、且つ、筆記先端部を軸筒の前端開口部から突出させた状態で、インキ収容筒の後方空間部を加圧可能な加圧式筆記具を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
「1.軸筒内に、筆記具用インキ組成物を充填したインキ収容筒と、該インキ収容筒の前方にボールペンチップと、を具備したボールペンレフィルを収容してなり、
前記インキ収容筒の後方には、当該インキ収容筒の後部に連結し、外部と連通する空気口を備えた加圧機構を具備し、
前記加圧機構が、前記ボールペンレフィルの後方に内外を連通する前記空気口を有するシリンダーと、前記シリンダーに対し前後動可能に配設したピストンと、前記シリンダーの内部に前記ボールペンレフィルの後方空間部と前記ピストンとの間を連通する加圧空間部と、を備え、
前記空気口の外部との連通を遮断し、前記インキ収容筒の後方空間部を圧縮して加圧するよう構成した加圧式筆記具であって、
前記軸筒内に、該軸筒に対して前後動自在に係止した摺動体が配設され、
前記ボールペンレフィルの前端部が前記軸筒の前端開口部から突出した状態で、前記摺動体を前方または後方へ移動させることで、前記シリンダーまたは前記ピストンを前方に移動させて、前記加圧機構の空気口を外部と連通し、且つ、前記摺動体を前記加圧機構の空気口が外部と連通する方向と逆方向へ移動させることで、前記シリンダーまたは前記ピストンを後方に移動させ、前記加圧機構の空気口が遮断され前記インキ収容筒の後方空間部を圧縮して加圧するよう構成したことを特徴とする加圧式筆記具。」である。
【0009】
本発明によれば、ボールペンレフィルの前端部が前記軸筒の前端開口部から突出した状態で、摺動体を前方または後方へ移動させることで、前記シリンダーまたはピストンを前方に移動させ、加圧機構の空気口を外部と連通させ、且つ、摺動体を加圧機構の空気口が外部と連通するために移動させる方向に対して逆方向へ移動させることで、シリンダーまたはピストンを後方に移動させ、加圧機構の空気口が遮断されインキ収容筒の後方空間部を圧縮して加圧することができる。このため、本発明の加圧式筆記具で筆記した際、筆記によりインキ収容筒内の筆記具用インキ組成物が消費され、インキ収容筒の後方空間部の容積が増加することで加圧機構により掛けられていた圧力が減圧される等、後方空間部の圧力が変化しても、筆記先端部を軸筒の前端開口部から突出させた状態のまま、摺動体を移動して加圧機構を作動させることで容易に圧力を解除、再加圧させ、筆記を再開することができる。
尚、加圧機構の空気口を外部と連通させる際に、摺動体を移動させる方向は前方でも後方でもどちらでもよいが、筆記時での操作性を鑑みると、摺動体を前方へ移動させることが好ましい。
【0010】
尚、本発明の加圧式筆記具は、キャップ式筆記具、出没式筆記具のどちらでもよく、出没式筆記具としては、従来公知の後端ノック式、回転繰出式、サイドノック式等、特に限定されることはなく採用することができる。
【0011】
また、摺動体を移動させ、加圧機構の空気口を外部と連通させることでインキ収容筒の後方空間部の密閉状態を解除した後、摺動体が自動的に移動して加圧機構の空気口が遮断され、インキ収容筒の後方空間部を圧縮して加圧するよう、軸筒内に、摺動体を軸方向に沿って前方または後方(加圧機構が作動する方向)へ向って弾発する第一の弾発部材を配設することが好ましく、この場合、摺動体を操作し、加圧機構の空気口を開放した後、第一の弾発部材の弾性力により自動的に摺動体が加圧機構を作動させる方向へ移動し、加圧することができる。このため、加圧し易い効果を奏する。
【0012】
また、本発明の加圧機構は、軸筒内に配設したシリンダーがピストンに対して相対的に後退、または、ピストンがシリンダーに対して相対的に後退することで、シリンダー内の加圧空間部が圧縮して加圧され、加圧空間部に連通するボールペンレフィルの後方空間部が加圧される。このシリンダーには内外を連通する空気口を設けているため、加圧空間部の加圧状態を解除した際に、空気口によりすぐに外部と加圧空間部を連通させることができるため、加圧解除時に瞬間的に発生する加圧空間部が負圧状態(外気圧より低くなる状態)になることを防止できる。このため、加圧空間部が負圧になることで、加圧解除時にボールペンレフィルの前端部から空気をボールペンレフィル内に微量に吸い込み、次の筆記開始時にインキの吐出を阻害し、筆跡が薄くなることを防止できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、加圧式筆記具において、筆記先端部を軸筒の前端開口部から突出させた状態で、インキ収容筒の後方空間部を外気圧と同圧にでき、且つ、筆記先端部を軸筒の前端開口部から突出させた状態で、インキ収容筒の後方空間部を加圧可能な加圧式筆記具を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1の加圧式筆記具の縦断面図である。
図2図1におけるA−A線拡大断面図である。
図3】摺動体を説明するための斜視図である。
図4図1における加圧機構の拡大断面図である。
図5図1の状態から摺動体が前方へ移動した状態を示す縦断面図である。
図6】実施例2の加圧式筆記具の縦断面図である。
図7図6の状態から重量体(摺動体)が前方へ移動した状態を示す縦断面図である。
【0015】
次に図面を参照しながら、本発明の加圧式筆記具をキャップ式のボールペンを用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
また、本実施例では、軸筒の長手方向において、ボールペンチップがある方を前方と表現し、その反対側を後方と表現する。更に、軸筒の軸径方向において、ボールペンレフィルがある方を内方と表現し、その反対側を外方と表現する。
尚、説明を分かりやすくするために、図面中の同様の部材、同様の部分については同じ符号を付してある。
【0016】
実施例1
本実施例の加圧式筆記具1は、図1から図4に示すように、後軸2の前方に前軸3を螺合することで軸筒4を形成してあり、軸筒4内に配設された筒状体5と、筒状体5内に配設された加圧機構6と、加圧機構6の前部に装着され軸筒4内を前後に摺動可能なボールペンレフィル7と、軸筒4の外側面から一部が露出し、軸筒4に対して前後動自在に係止された摺動体9と、により構成してある。
【0017】
ボールペンレフィル7は、PP樹脂からなる透明のインキ収容筒11に、筆記具用インキ組成物であるインキ12及び当該インキ12の後端にインキの消費に伴い追従するグリース状のインキ追従体13を直接収容し、インキ収容筒11の前端開口部に、ボール(φ0.5mm)を回動自在に抱持し、筆記先端部となるボールペンチップ14の後端部を圧入嵌合して得たものである。
【0018】
摺動体9は、図1から図3に示すように、後端から前方へ向って形成されたスリット部9aを備えた略筒状体で形成してあり、中心部には前後方向(軸方向)に貫通する内孔9bが形成され、前部内孔9b1を後部内孔9b2に比べて小径で形成してある。また、摺動体9の外側面には、外方へ向って突出する突起状の操作部9cを形成してある。
尚、操作部9cの外方端には凹凸部9fを形成してあり、指で操作する際に滑り難くしてある。
【0019】
前軸3(軸筒4)は、図1に示すように、前端にボールペンレフィル7のボールペンチップ14が突出可能な前端開口部3aが形成されている。また、前軸3(軸筒4)の外側面3bには、内孔3cまで貫通し前後方向に延びる側孔3dが形成してあり、側孔3dには摺動体9の操作部9cが配設され、前軸3に対して摺動体9を前後動自在に係止してある。
【0020】
更に、前軸3(軸筒4)の内面に形成した内段部3eと摺動体9の前端面9dとの間に第1コイルスプリング15(第一の弾発部材)を圧縮状態で張架し、且つ、摺動体9の内段部9eには、ボールペンレフィル7の外段部7aが当接するよう構成することで、前軸3(軸筒4)に対して摺動体9とボールペンレフィル7とを後方に弾発してある。
尚、前軸3(軸筒4)の外側面には凹凸状に形成し把持部3fが形成してあり、軸筒4を手で把持した際、指が滑り難くなるようにしてある。
【0021】
また、摺動体9の操作部9cが、前軸3の把持部3fの後方に位置するよう配設してある。このため、筆記時に使用者の指が把持部3fに掛かることで誤動作が発生することを防ぐことができる。
更に、操作部9cの軸周方向の長さL1(図2参照)は、把持部3fを把持して筆記する際に邪魔にならず、且つ、操作し易いよう、前軸3(軸筒4)の全周長L2に対して5〜20%の間に形成することが好ましく、本実施例では、具体的には、前軸3(軸筒4)の全周長L2は37.7mm、操作部9cの軸周方向の長さL1を4.0mmで形成してあるため、操作部9cの軸周方向の長さL1は、前軸3(軸筒4)の全周長L2に対して約10.6%となり、筆記時に操作部9cに指が当たり難く、筆記し易いものとなった。
【0022】
後軸2(軸筒4)は、後端に底部を備えた略筒状に形成してあり、図1に示すように、外側面2aに内孔まで貫通する側孔2bが形成してある。
【0023】
筒状体5は、後端に底部5cを備えた略筒状に形成してあり、外側面に外方へ向って突出する掛止突起5aが形成され、内周部には、内方へ向って突出するストッパー5bを形成してある。また、筒状体5に形成した掛止突起5aを後軸2の側孔2bに挿入することで、後軸2に対して係着してある。
【0024】
加圧機構6は、図1及び図4に示すように、ボールペンレフィル7の後方且つ筒状体5の内方に、当該筒状体5に対して前後動自在に収納され、円筒状のシリンダー17と、シリンダー17の後端開口部17aに挿入され、シリンダー17に対して前後に摺動可能に係着したピストン18と、ピストン18の側面に嵌着されたOリング8と、シリンダー17とピストン18の間に張架した第2コイルスプリング16(第ニの弾発部材)とで構成してある。
尚、加圧機構6は、筒状体5のストッパー5bにより前方への移動を制限してある。
【0025】
シリンダー17について詳述すると、図1及び図4に示すように、シリンダー17は前後に貫通する段状に形成された内孔17bを有しており、シリンダー17の外周面には、内孔17bまで貫通する空気孔17cを形成してある。
また、シリンダー17の内孔17bには、シリンダー17の内側部17dとピストン18の前端とOリング8とにより囲まれた加圧空間部10が形成され、加圧空間部10は空気口17cによりシリンダー17の外部と連通可能に構成してある。
【0026】
更に、シリンダー17の前部17eは中央部17fより小径で形成してあり、前部17eには外方へ向かって円周状に突出する装着部17gが軸方向に沿って2箇所形成してある。また、ボールペンレフィル7の後端内周部7bはシリンダー17の装着部17gに着脱自在に装着してあり、加圧空間部10はシリンダー17の内孔17bによりボールペンレフィル7の後部内孔7cまで連通してある。
尚、装着部17gは、シリンダー17にボールペンレフィル7を装着した際、シリンダー17とボールペンレフィル7との間の気密が確保され、且つ、手で容易に着脱可能になるよう外方への突出量(外径)を調整してある。
【0027】
ピストン18について詳述すると、ピストン18の外周部18aには外方へ向かって突出する凸部18bが軸心を挟んで対称に2箇所形成してある。そして、凸部18bをシリンダー17の中央部17fに軸心に沿って延びるように形成した窓部17hに、前後方向に対して摺動自在に係止してある。
【0028】
更に、ピストン18の外周部18aには軸周方向に延びる凹状の凹状部18cが形成してあり、凹状部18cには合成ゴムで形成したOリング8を嵌着してある。このOリング8の外側部はシリンダー17の内側部17dに摺接しており、シリンダー17の後端開口部17aをピストン18とOリング8とで空気が漏れないように密閉してある。また、ピストン18の後端面には前方へ向って凹状に形成された後方内孔18dを設けてある。
尚、シリンダー17が後退した際、シリンダー17の後端に筒状体5の底部5cが当接することで、シリンダー17の後退を制限してある。
【0029】
第2コイルスプリング16(第ニの弾発部材)について詳述すると、第2コイルスプリング16はシリンダー17の内方段部17iとピストン18の前段部18eとの間に張架してあり、ピストン18に対してシリンダー17を前方に弾発してある。
【0030】
尚、加圧空間部10は、シリンダー17の前後への摺動によりOリング8の位置がシリンダー17の空気口17cより前方にあるときは密閉状態となり、Oリング8の位置が空気口17cより後方にあるときは、加圧空間部10とシリンダー17の外部とが空気口17cにより連通され非密閉状態となる。
【0031】
また、第1コイルスプリング15(第一の弾発部材)でボールペンレフィル7を後方へ弾発することで、加圧機構6のシリンダー17が第2コイルスプリング16(第二の弾発部材)の弾発力により前進することを防ぎ、シリンダー内の加圧空間部10の加圧状態を維持できるよう、第2コイルスプリング16(第二の弾発部材)の弾発力より第1コイルスプリング15(第一の弾発部材)の弾発力が大きくなるよう構成することが好ましい。
このため、本実施例では、第1コイルスプリング15の弾発力は2.4N、第2コイルスプリング16の弾発力は1.7Nとなるよう構成した。
【0032】
尚、加圧式筆記具1の加圧機構6は、摺動体9を前後動させることで、ボールペンチップ14の前端部14a(筆記先端部)が前軸3の前端開口部3aから突出した筆記状態におけるシリンダー17内の加圧空間部10の密閉を解除して外気圧と同圧とし、その後、加圧空間部10を再度密閉して圧縮し加圧する加圧リセット構造を備えている。
【0033】
次に、図1及び図5を用いて、加圧機構6を作動させ、摺動体9を軸方向に沿って前後に摺動することで、シリンダー17内の加圧空間部10の密閉状態を解除し、再度密閉して圧縮し加圧する動作を説明する。
図1の状態から、前軸3(軸筒4)の外側面から露出する摺動体9の操作部9cに指を当て前方へ移動させると、第2コイルスプリング16の弾発力でシリンダー17とボールペンレフィル7とが前進しつつ、シリンダー17に対してピストン18とOリング8とが相対的に後方へ移動する。そして、Oリング8がシリンダー17の空気口17cに達すると、加圧空間部10と外部とが連通し、加圧空間部10の密閉状態が解除されて、外気圧と同圧となる図5の状態となる。
【0034】
ここで、図5の状態から、操作部9cから指を離す、または、操作部9cを前方へ押している指の力を緩めると、第1コイルスプリング15の弾発力により摺動体9、ボールペンレフィル7、シリンダー17、ピストン18、Oリング8が後方へ移動する。そして、筒状体5の底部5cにピストン18の後端が当接することでピストン18とOリング8の後退が止まる。この際、第2コイルスプリング16の弾発力より第1コイルスプリング15の弾発力の方が強くなるよう設定しているため、シリンダー17とボールペンレフィル7は後退を続け、シリンダー17の空気口17cがOリング8より後方へ移動し、加圧空間部10が密閉状態となり、更にシリンダー17が後方へ移動することで、加圧空間部10が圧縮し加圧された図1の状態に戻る。
【0035】
実施例1の加圧式筆記具1は、摺動体9を一度前方へ移動させた後の図1の状態で筆記を行うと、ボールペンレフィル7内のインキ12の後端にインキ追従体13を介して圧力を加えているため、通常よりインキ吐出量が増加し、筆跡濃度の向上、筆跡のかすれ防止、ボールペン構造の特有の問題である上向き筆記時の筆記先端部からの空気巻き込みを防止する等の効果を得られる。
また、図1の状態で筆記を続けると、ボールペンレフィル7内のインキ12を消費するため、ボールペンレフィル7の後部内孔7cの容積がインキ12の消費分増加してしまい、結果として、連通している加圧空間部10が減圧され、使うごとに効果が減少してしまうが、もう一度摺動体を前方へ移動させることで、加圧空間部10の密閉状態を解除した後、再加圧することができ、加圧空間部10内の加圧状態を回復することができる。
【0036】
更に、実施例1の加圧式筆記具1は、前述したように、筆記する際に軸筒4を把持する把持部3fのすぐ後ろ側に摺動体9の操作部9cを配置しているため、筆記状態のまま、指で操作部9cを操作できる。このため、摺動体9の操作部9cの作動を軸筒4を持ち替えることなく実施でき、加圧空間部10の加圧状態を容易に維持しつつ筆記を継続することが可能なものとなった。また、操作部9cを移動させ加圧機構を作動させる操作を何度繰り返しても、加圧空間部10の加圧量が増え続けることはなく、過度に加圧量が増えてボールペンレフィル7の前端部14aからインキ12が漏れることを防止することができた。
【0037】
実施例2
本実施例の加圧式筆記具101は、図6に示すように、後軸102の前方に前軸103を螺合することで軸筒104を形成してあり、軸筒104内に配設された筒状体5と、筒状体5内に配設された加圧機構6と、加圧機構6の前部に装着され軸筒104内を前後に摺動可能なボールペンレフィル7と、軸筒104内に前後動自在に配設された重量体109(摺動体)と、により構成してある。
【0038】
重量体109(摺動体)は、図6に示すように、軸筒104の内側面とボールペンレフィル7の外側面との間に配設され、ボールペンレフィル7外側面を覆うように筒状に形成してあり、ボールペンレフィル7及び軸筒104に対して前後動自在になるよう形成してある。
尚、重量体109(摺動体)は、軸筒104を振った際の運動エネルギーが大きくなるよう、比重の高い材料で形成することが好ましく、本実施例では、ステンレス(SUS304)を用いて形成してある。
【0039】
また、重量体109(摺動体)の前方にはボールペンレフィル7の前部外側面7dに対して摺動自在に形成した摺動リング120が配設してあり、摺動リング120の後端面120aは、重量体9(摺動体)の前端面と当接するよう形成してある。
【0040】
前軸103(軸筒104)は、図6に示すように、前端にボールペンレフィル7のボールペンチップ14が出没可能な前端開口部103aが形成されている。更に、前軸103(軸筒104)の内面に形成した内段部103eと摺動リング120の前端面120bとの間に第1コイルスプリング15(第一の弾発部材)を圧縮状態で張架し、且つ、摺動リング120の後端面120aには、ボールペンレフィル7の外段部7aが当接するよう構成することで、軸筒104に対して摺動リング120とボールペンレフィル7とを後方に弾発してある。
【0041】
後軸102(軸筒104)は、後端に底部を備えた略筒状に形成してあり、図6に示すように、外側面102aに内孔まで貫通する側孔102bが形成してある。
【0042】
尚、加圧式筆記具101には、軸筒4を軸方向に沿って前後に振り、重量体109(摺動体)を前後動させることで、実施例1と同様に、ボールペンチップ14の前端部14a(筆記先端部)が前軸3の前端開口部3aから突出した筆記状態におけるシリンダー17内の加圧空間部10の密閉を解除して外気圧と同圧となり、その後、加圧空間部10を再度密閉し圧縮して加圧する加圧リセット構造を備えている。
【0043】
次に、図6及び図7を用いて、軸筒104を軸方向に沿って前後に振り、重量体109(摺動体)を前後に移動させて加圧リセット機構を作動することで、シリンダー17内の加圧空間部10の密閉状態を解除し、加圧する動作を説明する。
図6の状態から、前軸103(軸筒104)を把持したまま軸筒104を軸方向に沿って前後に振ると、慣性力により重量体109(摺動体)が軸筒104及びボールペンレフィル7に対して前後に摺動する。そして、重量体109(摺動体)の前端面が摺動リング120の後端面120aに当接すると、当接した際の衝撃で、摺動リング120が第1コイルスプリング15(第一の弾性部材)の弾発力に抗して前進する。更に、摺動リング120が前進した分、第2コイルスプリング16の弾発力でピストン18及びOリング8に対してシリンダー17とが前方へ移動する。そして、Oリング8がシリンダー17の空気口17cに達すると、加圧空間部10と外部とが連通し、加圧空間部10の密閉状態が解除されて外気圧と同圧になる図7の状態となる。尚、この際、ボールペンレフィル7、シリンダー17の2部品は摺動リング120の移動に合わせて自重により前方側へ移動した状態となる。
ここで、重量体109(摺動体)に押された摺動リング120の前進が止まると(図7の状態)、第1コイルスプリング15の弾発力により摺動リング120、重量体109(摺動体)、ボールペンレフィル7、シリンダー17、ピストン18、Oリング8が後方へ移動する。そして、筒状体5の底部5cにピストン18の後端が当接することでピストン18とOリング8の後退が止まる。この際、第2コイルスプリング16の弾発力より第1コイルスプリング15の弾発力が強くなるよう設定しているため、シリンダー17とボールペンレフィル7は後退を続け、シリンダー17の空気口17cがOリング8より後方へ移動し、加圧空間部10が密閉状態となり、更にシリンダー17が後方へ移動することで、加圧空間部10が圧縮して加圧された図6の状態となる。
【0044】
以上の構成により、実施例2の加圧式筆記具101は、軸筒104を前後に振り、重量体109(摺動体)を前後動させ、加圧機構6を作動させることで、一次的に加圧空間部10の密閉状態を解除して外気圧と同圧にした後、再度加圧空間部10を密閉し圧縮することで加圧することができる。このため、加圧機構6を作動させた加圧式筆記具101で筆記を行うと、ボールペンレフィル7内のインキ12の後端にインキ追従体13を介して圧力を加えるため、通常よりインキ吐出量が増加し、筆跡濃度の向上、筆跡のかすれ防止、ボールペン構造の特有の問題である上向き筆記時の筆記先端部からの空気巻き込み防止等の効果を得られる。
また、図6の状態で筆記を続けると、ボールペンレフィル7内のインキ12を消費するため、ボールペンレフィル7の後部内孔7c(後方空間部)の容積がインキ12の消費分増加してしまい、結果として、後部内孔7c(後方空間部)と連通している加圧空間部10が減圧され、筆記毎に少しずつ効果が減少してしまうが、軸筒104を前後に振り、加圧機構6を作動させることで、再加圧することができる。このため、加圧機構6の作動を軸筒4を持ち替えることなく実施でき、加圧空間部10の加圧状態を容易に維持しつつ筆記を継続することが可能なものとなった。
【0045】
尚、本実施例では、軸筒を振った際、摺動リング120の後端面120aに重量体を当接させることで第1コイルスプリング15を圧縮し、ボールペンレフィル7を第2コイルスプリング16の弾発力で前進させて、加圧機構6の加圧空間部10の密閉状態を解除したが、重量体9が当接する当接部をボールペンレフィルに一体的に設けてよく、図示はしないが、例えば、ボールペンレフィルの外側面に外方へ向って突出する突起部を設け、突起部に重量体が当接するよう構成することで、軸筒を振った際の重量体の慣性力で直接、ボールペンレフィルを第1コイルスプリングの弾発力に抗して前進させ、ボールペンレフィルの前進によりシリンダーを前進させることでも加圧空間部の密閉状態を解除して当該加圧空間部を外気圧と同圧にした後、加圧することが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1…式加圧式筆記具、
2…後軸、2a…外側面、2b…側孔、
3…前軸、3a…前端開口部、3b…外側面、3c…内孔、3d…側孔、
3e…内段部、3f…内段部、
4…軸筒、
5…筒状体、5a…掛止突起、5b…ストッパー、5c…底部、
6…加圧機構、
7…ボールペンレフィル、7a…外段部、7b…後端内周部、
7c…後部内孔(後方空間部)、7d…前部外側面、
8…Oリング、
9…摺動体、9a…スリット部、9b…内孔、9b1…前部内孔、9b2…後部内孔、
9c…操作部、9d…前端面、9e…内段部、9f…凹凸部、
10…加圧空間部、
11…インキ収容筒、
12…インキ(筆記具用インキ組成物)、
13…インキ追従体、
14…ボールペンチップ、14a…前端部、
15…第1コイルスプリング(第一の弾発部材)、
16…第2コイルスプリング(第二の弾発部材)、
17…シリンダー、17a…後端開口部、17b…内孔、17c…空気口、
17d…内側部、17e…前部、17f…中央部、17g…装着部、
17h…窓部、17i…内方段部、17j…窓部後端、
18…ピストン、18a…外周部、18b…凸部、18c…凹状部、
18d…後部内孔、18e…前段部。
101…加圧式筆記具、
102…後軸、102a…外側面、102b…側孔、
103…前軸、103a…前端開口部、103b…外側面、103c…内孔、
103e…内段部、
104…軸筒、
109…重量体(摺動体)、
120…摺動リング、120a…後端面(当接部)、120b…前端面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7