特許第6978405号(P6978405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6978405還元型グルタチオンの結晶及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6978405
(24)【登録日】2021年11月15日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】還元型グルタチオンの結晶及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 5/037 20060101AFI20211125BHJP
   C07K 1/30 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   C07K5/037
   C07K1/30
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-505888(P2018-505888)
(86)(22)【出願日】2017年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2017009655
(87)【国際公開番号】WO2017159554
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2020年1月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-53843(P2016-53843)
(32)【優先日】2016年3月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】308032666
【氏名又は名称】協和発酵バイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 一成
(72)【発明者】
【氏名】井口 茉耶
(72)【発明者】
【氏名】長野 宏
【審査官】 高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/047792(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/192546(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶の平均厚みが10μm以上、安息角が47度以下であり、且つα晶である、還元型グルタチオンの結晶。
【請求項2】
結晶の平均長Lと、平均幅Wの比L/Wが、6.0以下である、請求項1に記載の結晶。
【請求項3】
粗比容が2.5mL/g以下である、請求項1又は2記載の結晶。
【請求項4】
粗比容が2.0mL/g以下である、請求項3記載の結晶。
【請求項5】
密比容が2.0mL/g以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の結晶。
【請求項6】
崩壊角が45度以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の結晶。
【請求項7】
還元型グルタチオン含有水溶液中に還元型グルタチオンの結晶を存在せしめた後、該水溶液に、過飽和状態の還元型グルタチオン含有水溶液を連続又は分割しながら添加することにより、還元型グルタチオンの結晶を析出及び/又は成長させ、その後、該水溶液中に含有される還元型グルタチオンの結晶を採取することを特徴とする、還元型グルタチオンの結晶の製造方法であって、還元型グルタチオンの結晶がα晶である製造方法
【請求項8】
さらに、採取した還元型グルタチオンの結晶を粉砕する工程を含む、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体物性に優れた還元型グルタチオンの結晶及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
還元型グルタチオン(γ−L−グルタミル−L−システイニル−L−グリシン)は生物に広く存在する還元性化合物であり、肝臓において解毒作用を有することが知られている。このため、還元型グルタチオンは医薬品、健康食品及び化粧品等の製品、原料又は中間体として広く用いられている。還元型グルタチオンの結晶にはα晶とβ晶という2種類の結晶多形が知られている(非特許文献1)が、その物性より、一般に製品として利用されるのはα晶の方である。
【0003】
しかしながら、還元型グルタチオンのα晶の結晶は長軸(縦)方向以外への結晶成長が遅いため、針状や細長い柱状の結晶になりやすい。この性質のために、結晶の長さと幅の比が大きくなる結果、比容積が増大し、粉体の流動性が悪化するという問題がある。粉体物性を改善するためには、結晶を縦方向だけでなく、横方向や高さの方向にも成長させることが必要である。
【0004】
特許文献1には、還元型グルタチオンの粉体物性の改善に関する記載があり、還元型グルタチオンが溶解している水溶液に還元型グルタチオンの結晶を種晶として添加した後、撹拌することで該水溶液中に還元型グルタチオンを析出させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特許第5243963号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yamasaki,K.et al.,分析化学,18(7),p874−878(1969)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法は、高濃度の還元型グルタチオン含有水溶液に種晶を添加することによって過飽和を急激に破る方法であるため、結晶の縦方向以外への成長が追いつかず、粉体物性の改善が不十分であるという問題があった。
【0008】
したがって、本発明は、流動性及び粉砕性に優れた還元型グルタチオンの結晶、並びにその製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の(1)〜(10)に関する。
(1)結晶の平均厚みが10μm以上である、還元型グルタチオンの結晶。
(2)結晶の平均長Lと、平均幅Wの比L/Wが、6.0以下である、(1)に記載の結晶。
(3)粗比容が2.5mL/g以下である、(1)又は(2)記載の結晶。
(4)密比容が2.0mL/g以下である、(1)〜(3)のいずれか1に記載の結晶。
(5)安息角が50度以下である、(1)〜(4)のいずれか1に記載の結晶。
(6)崩壊角が45度以下である、(1)〜(5)のいずれか1に記載の結晶。
(7)還元型グルタチオンの結晶がα晶である、(1)〜(6)のいずれか1に記載の結晶。
(8)還元型グルタチオン含有水溶液中に還元型グルタチオンの結晶を存在せしめた後、該水溶液に、過飽和状態の還元型グルタチオン含有水溶液を連続又は分割しながら添加することにより、還元型グルタチオンの結晶を析出及び/又は成長させ、その後、該水溶液中に含有される還元型グルタチオンの結晶を採取することを特徴とする、還元型グルタチオンの結晶の製造方法。
(9)さらに、採取した還元型グルタチオンの結晶を粉砕する工程を含む、(8)に記載の製造方法。
(10)還元型グルタチオンの結晶がα晶である、(8)又は(9)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、流動性及び粉砕性に優れた還元型グルタチオンの結晶、並びにその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例3と比較例で得られた還元型グルタチオンの結晶を粉砕したときの、経時の粗比容の変化を表わす。縦軸は粗比容(mL/g)を、横軸は粉砕時間(分)を表わす。図1において、白ひし形は比較例の結晶、黒丸は実施例3の結晶の結果を表わす。
図2図2は、本発明の還元型グルタチオンの結晶の模式図を表わす。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.本発明の結晶
本明細書においては、顕微鏡を用いて結晶を3次元で把握したときに、最も長い軸を縦軸といい、縦軸に垂直な軸を横軸という(図2)。さらに、結晶の縦軸方向の長さ、横軸の断面の長径、横軸の断面の短径を、それぞれ、「結晶の長さ」、「結晶の幅」、及び「結晶の厚み」といい(図2参照)、それぞれの平均を、「平均長」、「平均幅」、「平均厚み」という。
【0013】
また、平均長、平均幅、平均厚みは、それぞれ、「L」、「W」、及び「T」ともいう。L、W及びTは、後述の分析例に記載の方法により測定することができる。
【0014】
結晶の長さ及び結晶の幅は、例えば、光学顕微鏡[DIGITAL MICROSCOPE VHX−900(KEYENCE)]を用い、300〜600倍の測定倍率で測定することができる。例えば、結晶200個について結晶の長さと結晶の幅を測定し、平均長L、平均幅W、及び平均長Lと平均幅Wの比L/Wを算出する(図2、左図)。
【0015】
結晶の厚みは、例えば、走査型電子顕微鏡[JSM−6510型(日本電子社製)]を用い、測定倍率250〜1000倍で測定することができる。例えば、結晶50個について、走査型電子顕微鏡視野に対して結晶の縦軸が垂直となったものを選び、結晶の厚みを測定し(図2、右図)、平均厚みTを測定する。試料は、アルミ製試料台にカーボン両面テープで固定する。
【0016】
本発明の還元型グルタチオンの結晶は、結晶の平均厚み(T)が10μm以上、好ましくは11μm以上、より好ましくは12μm以上、最も好ましくは13μm以上である。
【0017】
結晶の厚みが大きい結晶は、粉砕性に優れるため、還元型グルタチオンの結晶としては、結晶の厚みが大きいものが好ましいが、本発明の還元型グルタチオンの結晶の平均厚みの上限値としては、通常40μm以下、好ましくは35μm以下、より好ましくは30μm以下、最も好ましくは25μm以下を挙げることができる。
【0018】
本発明の還元型グルタチオンの結晶は、平均長Lと平均幅Wの比L/Wが、好ましくは6.0以下、より好ましくは5.5以下、さらに好ましくは5.0以下、最も好ましくは4.5以下である。
【0019】
L/Wが大きい結晶は、針状や細長い柱状の結晶であり、比容積が大きく、粉体の流動性が悪い。そのため、還元型グルタチオンの結晶としてはL/Wが小さいことが好ましいが、L/Wの下限値としては、通常1.0以上、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.2以上、最も好ましくは1.5以上を挙げることができる。
【0020】
本発明の還元型グルタチオンの結晶としては、結晶の平均厚み(T)が10μm以上で、かつ結晶のL/Wが好ましくは6.0以下の還元型グルタチオンの結晶を挙げることができる。
【0021】
本発明の還元型グルタチオンの結晶は、粗比容が、好ましくは2.5mL/g以下、より好ましくは2.3mL/g以下、さらに好ましくは2.2mL/g以下、最も好ましくは2.0mL/g以下である。
【0022】
粗比容が小さい結晶は、充填性に優れ、各種加工工程におけるハンドリングが容易であり、また輸送面でのコストも低い。そのため、還元型グルタチオンの結晶としては、粗比容が小さいことが好ましいが、粗比容の下限値としては、通常1.0mL/g以上、好ましくは1.2mL/g以上を挙げることができる。
【0023】
ここで、粗比容とは、容器に粉体を充填してその質量を測定した際、粉体の占める容積を該質量で割った値をいう。粗比容は、例えば、マルチテスターMT−1001T型(セイシン企業社製)を用い、付属のマニュアルに従って以下の測定条件で測定することができる。
【0024】
[粗比容の測定条件]
ふるい:1.4mm
スペーサ:30mm
振動幅:0.6〜0.7mm
結晶容量:40mL
【0025】
本発明の還元型グルタチオンの結晶としては、結晶の平均厚み(T)が10μm以上で、かつ粗比容が好ましくは2.5mL/g以下の還元型グルタチオンの結晶を挙げることができる。
【0026】
本発明の還元型グルタチオンの結晶は、密比容が、好ましくは2.0mL/g以下、より好ましくは1.8mL/g以下、さらに好ましくは1.6mL/g以下、最も好ましくは1.5mL/g以下である。
【0027】
密比容が小さい結晶は、充填性に優れ、輸送面でのコストも低い。そのため、還元型グルタチオンの結晶としては、密比容が小さいことが好ましいが、密比容の下限値としては、通常0.8mL/g以上、好ましくは1.0mL/g以上を挙げることができる。
【0028】
ここで、密比容とは、容器に粉体を充填してその質量を測定したのちに容器に一定の衝撃を加えた際、粉体の占める容積を該質量で割った値をいう。密比容は、例えば、マルチテスターMT−1001T型(セイシン企業社製)を用い、付属のマニュアルに従って以下の測定条件で測定することができる。
【0029】
[密比容の測定条件]
タッピング速度:1回/秒
タッピング回数:200回
【0030】
本発明の還元型グルタチオンの結晶としては、結晶の平均厚み(T)が10μm以上で、かつ密比容が好ましくは2.0mL/g以下の還元型グルタチオンの結晶を挙げることができる。
【0031】
本発明の還元型グルタチオンの結晶は、粗比容と密比容の差が、好ましくは1.2mL/g以下、より好ましくは1.0mL/g以下である。粗比容と密比容の差の下限値としては、通常0.1mL/g以上、好ましくは0.2mL/g以上を挙げることができる。ここで、粗比容と密比容の差とは、粗比容から密比容を引いた際の正の値のことをいう。
【0032】
本発明の還元型グルタチオンの結晶としては、結晶の平均厚み(T)が10μm以上で、かつ結晶のL/Wが好ましくは6.0以下であり、かつ粗比容と密比容の差が好ましくは1.2mL/g以下の還元型グルタチオンの結晶を挙げることができる。
【0033】
本発明の還元型グルタチオンの結晶は、安息角が、好ましくは50度以下、より好ましくは48度以下、さらに好ましくは47度以下、最も好ましくは45度以下である。
【0034】
安息角が大きい結晶は、ホッパーから排出する際、ホッパー底部の傾斜角が安息角の角度よりも大きくなければホッパー底部から完全に排出することができないので、装置が限定され、ハンドリングが煩雑となる。また、安息角が大きい結晶は、流動性が悪い。そのため、還元型グルタチオンの結晶としては、安息角が小さいことが好ましいが、安息角の下限としては、通常30度以上、好ましくは35度以上を挙げることができる。
【0035】
ここで、安息角とは、粉体を漏斗のようなもので水平な面に静かに落下させた時に粉体で形成される円錐体の母線と水平面のなす角のことをいう。安息角は、例えば、マルチテスターMT−1001T型(セイシン企業社製)を用い、付属のマニュアルに従って以下の測定条件で測定することができる。
【0036】
[安息角の測定条件]
安息角テーブルに振動を与えないように回転して、3ヶ所で角度を読み、それらの相加平均値を安息角とする。
ふるい:1.4mm
振動幅:0.6〜0.7mm
安息角テーブルユニット(部品番号:MT−1028)使用
【0037】
本発明の還元型グルタチオンの結晶としては、結晶の平均厚み(T)が10μm以上で、かつ安息角が好ましくは50度以下の還元型グルタチオンの結晶を挙げることができる。
【0038】
本発明の還元型グルタチオンの結晶は、崩壊角が、好ましくは45度以下、より好ましくは43度以下、さらに好ましくは42度以下、最も好ましくは40度以下である。
【0039】
崩壊角と安息角の差が大きい結晶は噴流性が高く制御が困難であるため、崩壊角と安息角の差は小さいことが好ましいが、崩壊角の下限値としては、通常30度以上、好ましくは35度以上を挙げることができる。
【0040】
ここで、崩壊角とは、粉体を漏斗のようなもので水平な面に静かに落下させた時に粉体で形成される円錐体に、間接的に一定の衝撃を加えた際形成される、円錐体の母線と水平面のなす角のことをいう。崩壊角は、例えば、マルチテスターMT−1001T型(セイシン企業社製)を用い、付属のマニュアルに従って以下の測定条件で測定することができる。
【0041】
[崩壊角の測定条件]
安息角テーブルユニットの下についている鍾をゆっくりタッピングテーブルの下まで持ち上げて落下させる操作を3回繰り返す。上記安息角の測定方法と同様の方法で、3ヶ所の角度を読み、それらの相加平均値を崩壊角とする。
【0042】
本発明の還元型グルタチオンの結晶としては、結晶の平均厚み(T)が10μm以上で、かつ崩壊角が好ましくは45度以下の還元型グルタチオンの結晶を挙げることができる。
【0043】
本発明の還元型グルタチオンの結晶は、α晶及びβ晶などの結晶多形を含む結晶性粉末であってもよいが、還元型グルタチオンの結晶としてはα晶が好ましい。結晶性粉末としては総還元型グルタチオンに占めるα晶の比率が通常95%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、特に好ましくは99.5%以上、最も好ましくは99.9%以上である結晶性粉末を挙げることができる。
【0044】
2.本発明の製造方法
本発明の製造方法は、還元型グルタチオン含有水溶液中に還元型グルタチオン結晶を存在せしめた後、該水溶液に過飽和状態の還元型グルタチオン含有水溶液を連続又は分割しながら添加することにより、還元型グルタチオンの結晶を析出及び/又は成長させ、その後、該水溶液中に含有される還元型グルタチオンの結晶を採取することを特徴とする方法である。
【0045】
還元型グルタチオン含有水溶液は、発酵法、酵素法、天然物からの抽出法、化学合成法等のいずれの製造方法によって製造されたものであってもよい。例えば、グルタチオンを生産する能力を有する微生物を培養して得られる還元型グルタチオンを含有する培養物(国際公開第2008/126784号)、及び酵素法で得られる還元型グルタチオン含有水溶液[Appl. Microbiol. Biotechnol., 66, 233 (2004)、日本国特開昭60−105499号公報等]等から不溶物を除去する等して得られる溶液を挙げることができる。より好ましくは日本国特許第5243963号明細書の実施例1に記載の方法で得られる還元型グルタチオンの水溶液を挙げることができる。
【0046】
還元型グルタチオン含有水溶液中に還元型グルタチオンの結晶を存在せしめる方法としては、例えば、還元型グルタチオン含有水溶液を飽和溶解度以上の濃度に濃縮することにより、還元型グルタチオン含有水溶液に還元型グルタチオンの結晶を起晶させる方法を挙げることができる。濃縮して起晶させる際に攪拌を伴ってもよい。
【0047】
還元型グルタチオン含有水溶液の濃縮の方法に特に制限はなく、例えば、減圧条件下での蒸発や逆浸透膜を用いた方法を挙げることができる。
【0048】
還元型グルタチオンの結晶を起晶させるときの還元型グルタチオン含有水溶液の還元型グルタチオンの濃度としては、通常100g/L以上、好ましくは250g/L以上、より好ましくは400g/L以上を挙げることができる。
【0049】
また、還元型グルタチオン含有水溶液中に還元型グルタチオンの結晶を存在せしめる方法としては、例えば、還元型グルタチオン含有水溶液を濃縮して還元型グルタチオンの結晶を起晶させる前に、還元型グルタチオン含有水溶液中の濃度が通常0.05〜25g/L、好ましくは0.1〜10g/L、となるように、還元型グルタチオンの結晶を種晶として添加して起晶させる方法を挙げることができる。種晶を添加し起晶させる際に攪拌を伴ってもよい。
【0050】
還元型グルタチオンの結晶を起晶させるときの温度としては、通常0〜50℃、好ましくは5〜40℃、より好ましくは10〜30℃を挙げることができる。
【0051】
還元型グルタチオンの結晶を存在せしめた水溶液中に、過飽和状態の還元型グルタチオン含有水溶液を連続又は分割しながら添加することにより、還元型グルタチオンの結晶を析出及び/又は成長させることができる。
【0052】
還元型グルタチオンの結晶を析出及び/又は成長させるとは、過飽和状態の還元型グルタチオン含有水溶液を添加することにより、1)還元型グルタチオン含有水溶液中に、新たに還元型グルタチオンの結晶を起晶させること、2)当該起晶させた結晶を増大させること、及び3)過飽和状態の還元型グルタチオン含有水溶液を添加する前に還元型グルタチオン含有水溶液に存在せしめた還元型グルタチオンの結晶を増大させることを含んでいる。
【0053】
過飽和状態の還元型グルタチオン含有水溶液は、上記と同様の方法により調製することができる。
【0054】
過飽和状態の還元型グルタチオン含有水溶液を添加するときの温度としては、還元型グルタチオンが分解しない範囲であれば特に制限はないが、通常0〜50℃、好ましくは5〜40℃、より好ましくは10〜30℃を挙げることができる。
【0055】
過飽和状態の還元型グルタチオン含有水溶液の添加は、一定の速度で連続して行ってもよいし、全液量を分割して添加してもよい。
【0056】
過飽和状態の還元型グルタチオン含有水溶液を分割して添加するときは、過飽和状態の還元型グルタチオン含有水溶液を任意の回数に分けて添加することができ、それぞれの添加には任意の間隔を空けることができる。また、過飽和状態の還元型グルタチオン含有水溶液を添加していないときは、撹拌のみを継続してもよい。
【0057】
過飽和状態の還元型グルタチオン含有水溶液の添加に要する時間は、通常4〜50時間、好ましくは7〜40時間、より好ましくは10〜30時間を挙げることができる。
【0058】
添加する過飽和状態の還元型グルタチオン含有水溶液の量としては、還元型グルタチオンの結晶を起晶させた還元型グルタチオン含有水溶液に対して、通常2〜200倍等量、好ましくは5〜100倍等量、より好ましくは8〜50倍等量を挙げることができる。
【0059】
還元型グルタチオン含有水溶液を添加した後、冷却することにより、グルタチオンの結晶の析出及び/又は成長を促進させることができる。冷却温度としては、通常40℃以下、好ましくは30℃以下、より好ましくは20℃以下を挙げることができる。
【0060】
過飽和状態の還元型グルタチオン含有水溶液を添加した後、必要に応じてアルコール類及びケトン類からなる群より選ばれる溶媒を添加又は滴下することにより、還元型グルタチオンの結晶の析出及び/又は成長を促進することもできる。
【0061】
アルコール類及びケトン類からなる群より選ばれる溶媒に代えて、アルコール類又はケトン類と水を任意の割合で混ぜた溶液を用いることもできる。
【0062】
アルコール類としては、好ましくはC1〜C6のアルコール類を、より好ましくはC1〜C3のアルコール類を、さらに好ましくは、メタノール、エタノール、n−プロパノール及びイソプロピルアルコールからなる群より選ばれるアルコール類を、最も好ましくは、メタノール及びエタノールからなる群より選ばれるアルコール類を挙げることができる。
【0063】
ケトン類としては、好ましくは、アセトン、メチルエチルケトン及びジエチルケトンから選ばれるケトン類を、より好ましくはアセトンを挙げることができる。
【0064】
アルコール類及びケトン類を添加又は滴下するときの温度としては、還元型グルタチオンが分解しない温度であればいずれの温度でもよいが、溶解度を下げて還元型グルタチオンの結晶の結晶化率を向上させるために、通常40℃以下、好ましくは30℃以下、より好ましく25℃以下、最も好ましくは20℃以下を挙げることができる。温度の下限値としては、通常0℃以上、好ましくは5℃以上を挙げることができる。
【0065】
アルコール類及びケトン類を添加又は滴下する量としては、該水溶液の通常0.1〜3倍量、好ましくは0.2〜2倍量を挙げることができる。
【0066】
上記のようにして還元型グルタチオンの結晶を析出及び/又は成長させた後、さらに成長した結晶を含む水溶液を、通常1〜48時間、好ましくは1〜24時間、最も好ましくは1〜12時間、通常0〜40℃、好ましくは5〜30℃、より好ましくは5〜20℃にて、攪拌又は放置することにより、当該結晶を熟成させることができる。
【0067】
熟成させるとは、還元型グルタチオンの結晶を析出させる工程を停止して、結晶をさらに成長させることをいう。
【0068】
結晶の熟成は、結晶を成長させることを主な目的として行うが、結晶の成長と同時に、新たな結晶の析出が起こっていてもよい。
【0069】
結晶を熟成させた後に、還元型グルタチオンの結晶を析出及び/又は成長させる工程を再開してもよい。
【0070】
上記で析出及び/若しくは成長させて得られる還元型グルタチオンの結晶、又はさらに熟成させて得られた還元型グルタチオンの結晶を含む水溶液から該結晶を採取する方法としては、例えば、濾取、加圧濾過、吸引濾過、遠心分離等を挙げることができる。さらに結晶への母液の付着を低減し、結晶の品質を向上させるために、結晶を採取した後、適宜、結晶を洗浄してもよい。
【0071】
洗浄に用いる溶液に特に制限はないが、水、メタノール、エタノール、アセトン、n−プロパノール、イソプロピルアルコール及びそれらから選ばれる1種類の溶液又は複数種類を任意の割合で混合した溶液を用いることができる。
【0072】
上記で得られた湿晶を乾燥してもよい。乾燥条件としては、還元型グルタチオンの結晶の形態を保持できる方法ならばいずれでもよく、例えば、減圧乾燥、真空乾燥、流動層乾燥、通風乾燥等を挙げることができる。
【0073】
乾燥温度としては、付着水分や溶液を除去でき、還元型グルタチオンが分解しない範囲ならばいずれでもよいが、通常70℃以下、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下を挙げることができる。
【0074】
上記の方法によって取得された本発明の還元型グルタチオンの結晶を、さらに粉砕することによって本発明の還元型グルタチオンの結晶を製造することができる。結晶の粉砕は、例えば、オスタライザー オスター ビンテージ・ブレンダ― 16スピード デュアルレンジ(Osterizer OSTER)を用い、以下の条件で行うことができる。
【0075】
[結晶粉砕の条件]
回転数:33700〜33900r/min
直径:50mm
サンプル投入量:20g/回
【実施例】
【0076】
以下に実施例を示すが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0077】
[実施例1]
本発明の結晶の製造−1
日本国特許第5243963号明細書の実施例1に記載された方法に従い、還元型グルタチオンを125g/Lの濃度で含む水溶液を得た。当該水溶液を加熱減圧下で530g/Lまで濃縮した。25℃の該濃縮液180mLに、種晶として還元型グルタチオンのα型の結晶0.02g(興人社製)添加し、撹拌することで、還元型グルタチオンのα型の結晶を起晶させた。
【0078】
該水溶液に、520〜530g/Lに濃縮した還元型グルタチオン含有水溶液3850mLを25℃で17時間かけて添加し、結晶を析出及び/又は成長させた。得られた還元型グルタチオンのα型の結晶を含む水溶液を10℃まで冷却し、0.3倍等量のエタノールを添加した後、遠心分離することにより水溶液層を除去して得られた還元型グルタチオンのα型の結晶を30v/v%エタノールで洗浄し、40℃の空気を通風させることで乾燥させ、還元型グルタチオンのα型の結晶を得た。
【0079】
[実施例2]
本発明の結晶の製造−2
実施例1と同様の方法で得た還元型グルタチオン含有水溶液を加熱減圧下で436g/Lまで濃縮した。25℃の該濃縮液330mLに対し、種晶として還元型グルタチオンのα型の結晶0.02g(興人社製)を添加し、撹拌することで、還元型グルタチオンのα型の結晶を起晶させた。該水溶液に、420〜430g/Lに濃縮した還元型グルタチオン水溶液2920mLを25℃で11時間かけて添加し、結晶を析出及び/又は成長させた。
【0080】
得られた還元型グルタチオンのα型の結晶を含む水溶液を10℃まで冷却し、0.3倍等量のエタノールを添加した後遠心分離することにより水溶液層を除去して得られた還元型グルタチオンのα型の結晶を30v/v%エタノールで洗浄し、40℃の空気を通風させることで乾燥させ、還元型グルタチオンのα型の結晶を得た。
【0081】
[実施例3]
本発明の結晶の製造−3
実施例1と同様の方法で還元型グルタチオンを134g/Lの濃度で含む還元型グルタチオン含有溶液を調した後、加熱減圧下で540g/Lまで濃縮した。25℃の該濃縮液190mLに対し、種晶としてグルタチオンのα型の結晶0.02g(興人社製)を添加し、撹拌することで、還元型グルタチオンのα型の結晶を起晶させた。
【0082】
該水溶液に、540〜550g/Lに濃縮した還元型グルタチオン水溶液3920mLを25℃で15時間かけて添加し、結晶を析出及び/又は成長させた。得られた還元型グルタチオンのα型の結晶を含む水溶液を10℃まで冷却し、0.3倍等量のエタノールを添加した後、遠心分離することにより水溶液層を除去して得られた還元型グルタチオンのα型の結晶を30v/v%エタノールで洗浄し、箱缶を用いて室温で減圧乾燥させ、還元型グルタチオンのα型の結晶を得た。
【0083】
[比較例]
日本国特許第5243963号明細書の実施例1に記載された方法に従い、還元型グルタチオンを179g/Lの濃度で含む水溶液を得た。当該水溶液を加熱減圧下で546g/Lまで濃縮した。25℃の該濃縮液950mLに対し、種晶として還元型グルタチオンのα型の結晶0.05g(興人社製)を添加した。種晶添加後、25℃で10時間撹拌し、還元型グルタチオンのα型の結晶を起晶させた。
【0084】
得られた還元型グルタチオンのα型の結晶を含む水溶液を10℃まで冷却し、0.3倍等量のエタノールを添加した後、遠心分離することにより水溶液層を除去して得られた還元型グルタチオンのα型の結晶を60v/v%エタノールで洗浄し、40℃で減圧乾燥させ、還元型グルタチオンのα型の結晶を得た。
【0085】
[実施例4]
粉体物性の測定
実施例1〜3で取得された還元型グルタチオンのα型の結晶、比較例で取得された還元型グルタチオンのα型の結晶、及び市販品の還元型グルタチオンのα型の結晶(市販品A及びB)について、結晶の平均長L、平均幅W、平均長Lと平均幅Wの比L/W、粗比容及び密比容を測定した。結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示すように、実施例1〜3で取得された本発明の結晶は、比較例で取得されたグルタチオンの結晶並びに市販品A及びBと比べて、L/W、粗比容、密比容、及び粗比容と密比容の差のいずれも小さく、流動性が良く、粉体物性に優れていることがわかった。
【0088】
また、実施例1〜3で得られた還元型グルタチオンのα型の結晶、比較例で得られた還元型グルタチオンのα型の結晶、及び市販品Aの結晶の平均厚みTを測定した。結果を表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
表2に示すように、実施例1〜3で得られた還元型グルタチオンのα型の結晶は、比較例で得られた還元型グルタチオンのα型の結晶、及び市販品Aと比較して結晶の平均厚みTが大きく、粉砕性に優れることがわかった。
【0091】
[実施例5]
本発明の結晶の製造−4
実施例3及び比較例で得られた還元型グルタチオンのα型の結晶を粉砕し、経時の粗比容の変化を測定した。
【0092】
その結果、実施例3で取得した還元型グルタチオンのα型の結晶は、比較例で取得した還元型グルタチオンのα型の結晶と比較して速やかに粉砕され、小さい比容積に収束することがわかった(図1)。
【0093】
また、実施例3で取得した還元型グルタチオンのα型の結晶の粗比容は、いずれの粉砕時間においても、比較例で取得した還元型グルタチオンのα型の結晶の粗比容よりも小さかった。
【0094】
また、実施例3で得られた還元型グルタチオンのα型の結晶及び比較例で得られた還元型グルタチオンのα型の結晶について、安息角及び崩壊角を測定した。結果を表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
表3に示すように、実施例3で得られた還元型グルタチオンのα型の結晶は、粉砕前と粉砕後のいずれも、比較例で取得した還元型グルタチオンのα型の結晶と比較して安息角及び崩壊角が小さいことから、流動性が良く、粉体物性に優れていることがわかった。
【0097】
以上の結果から、本発明の結晶は、既存の還元型グルタチオンの結晶よりも粉砕性及び粉体物性に優れていることがわかった。
【0098】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2016年3月17日付けで出願された日本特許出願(特願2016−53843号)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明により、流動性及び粉砕性に優れた還元型グルタチオンの結晶、及びその製造方法が提供される。
図1
図2