(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の二次電池の一実施の形態を説明する。
図1は、扁平捲回形の二次電池の外観斜視図であり、
図2は、
図1に図示された二次電池の分解斜視図である。
二次電池100は、電池容器を形成する電池缶1および電池蓋6を備える。電池缶1は、扁平な箱型形状を有する角形二次電池であり、相対的に面積の大きい一対の対向する幅広側面1bと、相対的に面積の小さい一対の対向する幅狭側面1cと、底面1dを有し、その上方に開口部1aを有する。
電池缶1内には、捲回電極群3が収納され、電池缶1の開口部1aが電池蓋6によって封止されている。電池蓋6は略矩形の平板状であって、電池缶1の開口部1aを塞いで溶接され、外部に対し電池缶1を封止している。電池蓋6には、正極外部端子14と、負極外部端子12が設けられている。正極外部端子14、負極外部端子12は、バスバー(図示せず)を介して外部機器に接続される。正極外部端子14と負極外部端子12を介して捲回電極群3に充電され、また外部負荷に電力が供給される。電池蓋6には、ガス排出弁10が一体的に設けられている。電池容器内の圧力が上昇すると、ガス排出弁10が開いて内部からガスが排出され、電池容器内の圧力が低減される。これによって、扁平捲回形の二次電池100の安全性が確保される。電池蓋6には、注液孔9(
図2参照)を封止する注液栓11が設けられている。
【0010】
二次電池100の電池缶1内には、絶縁保護フィルム2を介して捲回電極群3が収容されている。
捲回電極群3は、負極電極32と正極電極34とを、両部材の間にセパレータ33、35を介して捲回して形成されている(
図3参照)。捲回電極群3は、扁平な平坦部36と、平坦部36の捲回方向の両端に形成された断面半円形状の湾曲部37を有する。捲回電極群3は、捲回軸方向が電池缶1の横幅方向に沿うように、一方の湾曲部37側から電池缶1内に挿入され、他方の湾曲部37側が、電池缶1の開口部1a側に配置される。
【0011】
詳細は後述するが、正極電極34は、正極箔露出部34cを有し、負極電極32は、負極箔露出部32cを有する。
捲回電極群3の正極箔露出部34cは、正極集電板44を介して電池蓋6に設けられた正極外部端子14に電気的に接続されている。また、捲回電極群3の負極箔露出部32cは、負極集電板24を介して電池蓋6に設けられた負極外部端子12に電気的に接続されている。これにより、正極集電板44および負極集電板24を介して捲回電極群3から外部負荷へ電力が供給され、正極集電板44および負極集電板24を介して捲回電極群3へ外部発電電力が供給され充電される。
【0012】
電池蓋6の一面側にガスケット5が取付けられ、正極外部端子14および負極外部端子12が、それぞれ、電池蓋6と絶縁される。また、電池蓋6の他面側に絶縁板7が取付けられ、正極集電板44および負極集電板24は、それぞれ、電池蓋6と絶縁される。電池蓋6には、電池容器内に電解液を注入するための注液孔9が穿設されている。注液孔9から電池缶1内に電解液を注入した後、電池蓋6に注液栓11をレーザ溶接により接合して注液孔9を封止し、二次電池100を密閉する。
【0013】
正極外部端子14および正極集電板44の形成素材としては、例えばアルミニウム合金が挙げられ、負極外部端子12および負極集電板24の形成素材としては、例えば、銅合金が挙げられる。また、絶縁板7およびガスケット5の形成素材としては、例えばポリブチレンテレフタレートやポリフェニレンサルファイド、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂等の絶縁性を有する樹脂材が挙げられる。
【0014】
電池容器内に注入される電解液としては、例えば、エチレンカーボネート等の炭酸エステル系の有機溶媒に6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等のリチウム塩が溶解された非水電解液を適用することができる。電池容器内外の圧力を適切に調整すると、捲回電極群3内の空気と電解液の置換が促進されて、電池容器内に電解液を効率的に注入することができる。
【0015】
正極外部端子14および負極外部端子12には、それぞれ、下方に向かって突出する正極接続部14a、負極接続部12aが形成されている。正極接続部14aおよび負極接続部12aは、それぞれ、円柱形状を有しており、その先端が電池蓋6の正極側貫通孔46、負極側貫通孔26に挿入される。正極接続部14aは、電池蓋6を貫通して正極集電板44の正極集電板基部41よりも電池缶1の内部側に突出している。正極接続部14aの先端は、かしめられて、正極外部端子14と正極集電板44とを電池蓋6に一体に固定している。負極接続部12aは、電池蓋6を貫通して負極集電板24の負極集電板基部21よりも電池缶1の内部側に突出している。負極接続部12aの先端は、かしめられて負極外部端子12と、負極集電板24とを電池蓋6に一体に固定している。
【0016】
正極集電板44は、正極集電板基部41と、正極側接続端部42とを有している。正極側接続端部42は、正極集電板基部41の側端で折曲されて、電池缶1の幅広側面1bに沿って底面1d側に向かって延出される。正極集電板44の正極側接続端部42は、捲回電極群3の正極箔露出部34cに対向して重ね合わされた状態で接続される。正極集電板基部41には、正極接続部14aが挿通される正極側開口穴43が形成されている。
負極集電板24は、負極集電板基部21と、負極側接続端部22とを有している。負極側接続端部22は、負極集電板基部21の側端で折曲されて、電池缶1の幅広側面1bに沿って底面1d側に向かって延出される。負極集電板24の負極側接続端部22は、捲回電極群3の負極箔露出部32cに対向して重ね合わされた状態で接続される。負極集電板基部21には、負極接続部12aが挿通される負極側開口穴23が形成されている。
【0017】
正極箔露出部34cと正極集電板44、および負極箔露出部32cと負極集電板24は、それぞれ、例えば、超音波溶接により接合される。超音波溶接は、正・負極集電板44、24をアンビルで固定した状態で、正・負極箔露出部34c、32cにホーンを押し当てて、超音波振動により金属界面を接合する手法である。
なお、集電部の接合方法としては、抵抗溶接等の他の方法を適用しても良い。
【0018】
絶縁保護フィルム2は、捲回電極群3の平坦部36に沿う方向でかつ捲回電極群3の捲回軸方向に直交する方向を巻き付け中心として、捲回電極群3の周囲に巻き付けられている。絶縁保護フィルム2は、例えばPP(ポリプロピレン)などの合成樹脂製の一枚のシートまたは複数のフィルム部材からなり、捲回電極群3の平坦部36と平行な方向でかつ捲回軸方向に直交する方向を巻き付け中心として少なくとも1周以上巻き付けることができる長さを有している。
【0019】
図3は、
図2に図示された捲回電極群の分解斜視図である。
図3は、捲回電極群3の外周側を展開した状態で示している。
捲回電極群3は、負極電極32と正極電極34とを間にセパレータ33、35を介して扁平状に捲回することによって構成されている。セパレータ35は、負極電極32の一面と正極電極34の他面との間に介在している。セパレータ33は、正極電極34の一面と負極電極32の他面との間に介在している。そして、負極電極32の最外周部およびセパレータ33の最外周部が、捲回電極群3の最外周になるように捲回されている。従って、捲回電極群3は、
図7に図示された断面図では、外周側から順に、セパレータ33、負極電極32、セパレータ35、正極電極34、セパレータ33、負極電極32、セパレータ35、正極電極34……を繰り返して捲回されている。セパレータ33、35は、正極電極34と負極電極32との間を絶縁する役割を有している。捲回電極群3の厚さは、構成されるセパレータ33、35の厚さ、負極電極32の厚さ、正極電極34の厚さに依存し、さらに捲回数(積層枚数)によっても依存する。
【0020】
負極電極32の負極合剤層32bは、正極電極34の正極合剤層34bよりも幅方向に大きく、正極合剤層34bは、必ず負極合剤層32bの間に挟まれるように構成されている。すなわち、負極電極32は、正極合剤層34bよりも幅広の負極合剤層32bを有しており、負極合剤層32bの捲回軸方向に直交する方向(幅方向)の両側の端部が正極合剤層34bの捲回軸方向に直交する方向(幅方向)の両側の端部よりもそれぞれ突出した状態で、正極電極34と重ね合わされて捲回される。正極箔露出部34c、負極箔露出部32cは、相互に、幅方向の反対側に配置されている。
【0021】
正極箔露出部34c、負極箔露出部32cは、平面部分で厚さ方向に束ねられて溶接等により正極集電板44、負極集電板24に接続される。なお、セパレータ33、35は幅方向で負極合剤層32bよりも広いが、正極箔露出部34c、負極箔露出部32cで端部の金属箔面が露出する位置に捲回されるため、束ねて溶接する場合の支障にはならない。後述するが、本実施形態ではセパレータ33、35は幅方向の突出部を変化させて各二次電池(試料)の検証を行った。
また、必要に応じて、捲回電極群3の最内周に軸芯を配置することも可能である。軸芯としては例えば、正極金属箔、負極金属箔、セパレータ33、35のいずれよりも曲げ剛性の高い樹脂シートを捲回して構成したものを用いることができる。
【0022】
図4はセパレータの構成を示し、
図4(a)は平面図であり、
図4(b)は
図4(a)のIVb−IVb線断面図である。
セパレータ33、35は、軟質な帯状のシート部材からなり、基材となる多孔質のポリオレフィン樹脂層33a、35aの一方の面に、無機材料とバインダからなる耐熱層33b、35bが積層されて設けられている。セパレータ33、35は、耐熱層33b、35bが正極電極34に対向する向きに配置される。なお、二次電池の仕様によっては、この限りではなく、耐熱層33b、35bを有していない樹脂層のみのセパレータを適用してもよい。
【0023】
図5は負極電極の構成を示し、
図5(a)は平面図であり、
図5(b)は
図5(a)のVb−Vb線断面図である。
負極電極32は、負極集電体である負極金属箔32aの両面に負極活物質を含む負極合剤を塗布して形成された負極合剤層32bが設けられている。そして、負極金属箔32aの幅方向一方側の端部には、負極合剤が塗布されていない未塗工部である負極箔露出部32cが設けられている。すなわち、負極電極32は、負極金属箔32aに塗工された負極合剤層32bと、負極金属箔32aが露出する負極箔露出部32cとを有している。負極箔露出部32cは、負極合剤層32bから負極金属箔32aが突出した領域であり、捲回電極群3の捲回軸方向に直交する方向(幅方向)の他方側の位置に配置される。
【0024】
負極電極32に関しては、負極活物質として天然黒鉛粉末100重量部に対して、結着剤として10重量部のスチレンブタジエンゴム(以下、SBRという。)を添加し、これに分散溶媒としてH
2Oの溶媒に、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を添加、混練した負極合剤を作製した。この負極合剤を銅箔(負極金属箔32a)の両面に溶接部である負極箔露出部32c(負極未塗工部)を残して塗布した。その後、乾燥、プレス、裁断工程を経て、負極電極32を得た。
【0025】
上記では、負極活物質に天然黒鉛を用いる場合について例示したが、これに限定されるものではなく、リチウムイオンを挿入、脱離可能な非晶質炭素や、人造の各種黒鉛材、コークスなどの炭素質材料やSiやSnなどの化合物(例えば、SiO、TiSi
2等)、またはそれの複合材料でもよく、その粒子形状においても、鱗片状、球状、繊維状、塊状等、特に制限されるものではない。
【0026】
また、負極電極32における塗工部の結着剤としてSBRを用いる場合について例示したが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ブチルゴム、ニトリルゴム、多硫化ゴム、ニトロセルロース、シアノエチルセルロース、各種ラテックス、アクリロニトリル、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、フッ化プロピレン、フッ化クロロプレン、アクリル系樹脂などの重合体およびこれらの混合体などを用いることができる。
【0027】
また、負極電極32における塗工部の分散溶媒としてH
2Oの溶媒に、増粘剤としてCMCを添加した場合について例示したが、これに限られたものではなく、例えばH
2Oの溶媒に、分散溶媒としてN−メチルピロリドン(以下、NMPという。)を添加したものを用いてもよい。
【0028】
図6は、正極電極の構成を示し、
図6(a)は平面図であり、
図6(b)は
図6(a)のVIb−VIb線断面図である。
正極電極34は、正極集電体である正極金属箔34aの両面に正極活物質を含む正極合剤を塗布して形成された正極合剤層34bが設けられている。そして、正極金属箔34aの幅方向一方側の端部には、正極合剤が塗布されていない未塗工部である正極箔露出部34cが設けられている。すなわち、正極電極34は、正極金属箔34aに塗工された正極合剤層34bと、正極金属箔34aが露出する正極箔露出部34cとを有している。正極箔露出部34cは、正極合剤層34bから正極金属箔34aが突出した領域であり、捲回電極群3の捲回軸方向に直交する方向(幅方向)の一方側の位置に配置される。
【0029】
正極電極34に関しては、正極活物質としてマンガン酸リチウム(化学式LiMn
2O
4)100重量部に対し、導電材として10重量部の鱗片状黒鉛と、結着剤として10重量部のPVDFとを添加し、これに分散溶媒としてNMPを添加、混練してスラリ状の正極合剤を作製した。このスラリ状の正極合剤をアルミニウム箔(正極金属箔)の両面に溶接部である正極箔露出部34c(正極未塗工部)を残して塗布した。その後、乾燥、プレス、裁断工程を経て正極電極34を得た。
【0030】
本実施形態では、正極活物質にマンガン酸リチウムを用いる場合について例示したが、スピネル結晶構造を有する他のマンガン酸リチウムや一部を金属元素で置換又はドープしたリチウムマンガン複合酸化物や層状結晶構造を有すコバルト酸リチウムやチタン酸リチウムやこれらの一部を金属元素で置換またはドープしたリチウム-金属複合酸化物を用いるようにしてもよい。
【0031】
また、本実施形態では、正極合剤における結着剤としてPVDFを用いる場合について例示したが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ブチルゴム、ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム、多硫化ゴム、ニトロセルロース、シアノエチルセルロース、各種ラテックス、アクリロニトリル、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、フッ化プロピレン、フッ化クロロプレン、アクリル系樹脂などの重合体およびこれらの混体などを用いることができる。
【0032】
図7は、捲回電極群3における負極電極側の接合部の詳細構造を示す断面図である。
上述した通り、負極電極32の負極箔露出部32cは、捲回された部分を相互に密着するように積層され、例えば、超音波溶接や抵抗溶接等の接合装置80により、負極集電板24の負極側接続端部22に接合され、負極接合部25を形成する。負極接合部25は、負極合剤層32b側に最も近い端部の接合端部25aを有する。
図7に示す捲回電極群3には、生産プロセスの際に発生する金属等の異物がセパレータ33、35の端部の間から混入し、内部短絡を生じる恐れがある。発明者は、セパレータ端部から集電板の接合部までの距離、積層された部分における電極群の厚さ、合剤層からセパレータが突出する長さ、電極箔の厚さ、電極箔の積層枚数等の各パラメータとセパレータの総積層厚とのバランスをとることで、内部短絡(電圧低下)を抑制できることを見出した。
以下、このことについて詳述する。
【0033】
ここで、以下の通りの定義とする。
A:負極接合部25における負極合剤層32b側の接合端部25aと、セパレータ33、35の最外周部における負極集電板24側の端部(直線g)との距離
B:捲回電極群3における負極合剤層32bが積層されている部分の厚さ(
図7の例では捲回電極群3の厚さ)
C:セパレータ33、35が負極合剤層32bから負極集電板24側に突出する長さ
D:負極金属箔32aの厚さ
d:負極金属箔32aの積層枚数
E:セパレータ33、35の厚さ
e:最外周の負極金属箔32a間の内側に介在するセパレータ33、35の積層枚数
(A〜Cは、
図7を参照)
【0034】
負極電極箔間当たりに換算した空間Sは、下記の式(1)で示される。
S=
〔AB/(A+C)−Dd−Ee〕/(d−1) ……式(1)
但し、セパレータ33とセパレータ35の厚さが異なる場合には、
Ee=(セパレータ33の厚さ)×(セパレータ33の積層枚数)+(セパレータ35の厚さ)×(セパレータ35の積層枚数)
とする。
【0035】
また、セパレータ33、35の端部を結ぶ直線gの位置における、最外周に配置されている(
図7では、最上層と最下層の)負極箔露出部32c間の理想的な厚さをBi(
図7参照、以下、「最外周負極箔露出部32c間の理想的な厚さ」という)と定義する。Biの算出方法は、下記の式(2)に従う。
Bi=AB/(A+C) ……式(2)
【0036】
上記に定義した、A〜E、d、eをパラメータとして、各々を変化させて、様々な水準の試料(二次電池)を作製し、以下に示す方法により、各試料の短絡痕の有無を検証した。
試料の作製に際しては、以下のようにした。
負極電極32は、その厚さを50μm〜100μmの範囲で変化させて、捲回電極群3の厚さを調整した。負極金属箔32aとして銅箔を用い、その厚さが、8μmと10μmのものを用いた。正極電極34は、その厚さを50μm〜100μmの範囲で変化させて捲回電極群3の厚みを調整した。また、正極金属箔34aとしてアルミニウム箔を用い、その厚さは、15μmとした。セパレータ33、35は、その厚さを、18μm〜30μmの範囲で変化させた。捲回電極群3を電池缶1に収容するに際し、電池缶1と捲回電極群3との厚さ方向のクリアランスを一定にするために、絶縁保護フィルム2の厚さを変化させて、同一になるようにした。また、捲回電極群3の負極接合部25(
図7参照)の部分に、篩により、50μm以下に分級した金属微粉(本検証では銅粉を使用)をスパチュラー一杯分意図的に混入した。完成した各試料は、充放電サイクルを数回繰り返した。この後、各試料を解体し、各試料におけるセパレータ33、35の短絡痕の有無を検証した。
【0037】
図8は、上記検証結果を示し、負極金属箔間当たりに換算した空間Sとセパレータの厚さEとの比−短絡痕の発生率の関係を示す図である。
図8に図示された短絡痕の発生率について説明する。
一般的に内部短絡は3つの要因で起こると考えられる。
(i)第一に導電性異物が正・負極電極上に侵入し、例えば,充放電による正・負極電極の膨張により、セパレータが圧縮された場合、その圧縮時のセパレータ厚よりも大きい粒子の異物がセパレータを突き破りその導電性異物を介して短絡する。
(ii)第二に導電性異物は金属異物であることが多く、金属異物が二次電池の正極電位に接すると電気化学的に溶解し、対向する負極側で溶出する。この溶解析出の電析反応により、金属異物が負極電極上で成長し、正極電極に到達して短絡する。
(iii)第三にこの電析に起因してLiイオンが集中し、Liデンドライトが発生し、二次電池内部で短絡に至る。
図8に図示された短絡痕の発生率は、上記要因(i)〜(iii)により発生したすべての短絡を含むものである。
【0038】
図8において、式(1)の算出値Sとセパレータの厚さEとの比が100%を超えている水準は、最外周負極箔露出部32c間の理想的な厚さBiから、介在している負極金属箔32aの総厚とセパレータ33、35の総厚を差し引き、さらに負極金属箔間当たりに換算した空間Sが、セパレータ33、35の厚さよりも大きくなることを意味している。つまり、セパレータ33、35の厚さ以上の金属異物も内部に入りやすいことを意味しており、解体調査による検証結果では、
図8に示されるように、短絡痕の発生率も75%以上と高い結果となった。
【0039】
これに対し、式(1)の算出値Sとセパレータの厚さEとの比が100%以下の水準であると、短絡痕の発生率は半分(50%)以下となり、式(1)の算出値Sとセパレータの厚さEとの比が100%を超えている水準に比し、短絡痕の発生率が大幅に抑制されることが判る。
つまり、下記の式(3)を満たす条件であれば、内部短絡の発生率が大幅に低減されるのである。
E>
〔AB/(A+C)−Dd−Ee〕/(d−1) ……式(3)
【0040】
特に、式(1)の算出値Sとセパレータの厚さEとの比が50%以下の水準では、短絡痕の発生率は、式(1)の算出値Sとセパレータの厚さEとの比が100%以下の水準の1/4程度以下となり、さらに、大幅な低減効果が得られた。
すなわち、下記の式(4)を満たす条件であれば、内部短絡の発生率は、さらに大幅に低減される。
E/2>
〔AB/(A+C)−Dd−Ee〕/(d−1) ……式(4)
【0041】
上記式(3)および式(4)を満たす水準であっても、短絡痕の発生率は、0%ではない。しかし、上記における算出値Sは、あくまでも、最外周負極箔露出部32c間の理想的な厚さBiから、介在している負極金属箔32aの総厚とセパレータ33、35の総厚を差し引き、さらに負極金属箔間当たりに換算した空間を示しているものであり、部分的な変形は考慮されていない。このため、式(3)および式(4)を満たす水準における短絡痕の発生は、セパレータ33、35の端部同士の空間が広がっている積層部が部分的に形成されていることによるものと考えられる。しかしながら、本検証は、負極接合部25の部分に意図的に大量な導電異物を混入させて行ったものであるから、実用上は十分、有効な効果が得られたものと認められる。
【0042】
また、算出値Sが0以下になると短絡痕の発生率は0%となった。算出値Sが0以下であるから、式(1)は、
0≧
〔AB/(A+C)−Dd−Ee〕/(d−1)
となる。この式を変換すれば、下記の式(5)が得られる。
E≧
〔AB/(A+C)−Dd〕/e ……式(5)
【0043】
図9は、式(5)が成立するときの負極電極側の接合部の詳細構造を示す断面図である。
図9に図示された状態は、各層におけるセパレータ33、35同士の間に、空間が存在していないことを意味している。従って、短絡痕の発生をほぼ完全に抑制できたと見做すことができる。
図9に図示された状態、すなわち、式(5)を満たす水準は、導電異物の電極上への侵入に対しては最も有効な手段である。しかし、各層におけるセパレータ33、35同士の間に空間が存在しない構造とすると、製造工程において、負極箔露出部32cに過度なストレスが掛かるため、生産性が低下する可能性がある。
従って、生産性を含めて考慮すると、式(3)または式(4)を満たす水準が、短絡痕の発生率を低減するうえで、適切であると判断される。
【0044】
本発明の一実施の形態によれば、下記の効果を奏する。
(1)捲回電極群を備える二次電池100は、セパレータ33、35の端部から負極集電板24が接合された積層部の負極接合部25までの距離をA、負極合剤層32bが積層された部分における捲回電極群3の厚さをB、負極合剤層32bの端部からセパレータ33、35が突出する長さをC、負極金属箔32aの厚さをD、負極金属箔32aの積層枚数をd、セパレータ33、35の厚さをE、最外周の負極金属箔32a間の内側に介在するセパレータ33、35の総枚数をeとしたときに、下記の式(I)
E>
〔AB/(A+C)−Dd−Ee〕/(d−1) ……式(I)
を満たす。
この条件を満たす二次電池100は、
図8に示すように、短絡痕の発生の抑制に、大きな効果を奏する。
【0045】
上記一実施の形態では、セパレータ33およびセパレータ35の両方の端部を負極合剤層32bから負極集電板24側に長さC、突出させる構造として例示した。
上記変形例として、セパレータ33、35の端部のいずれか一方のみを延出させて、式(4)を満たす水準の二次電池100を作製し、上記と同様の検証を行った。その結果、解体調査による短絡痕の発生率は10%以下であった。
【0046】
この際、注目すべきは、セパレータ33、35のうち、外周側に位置するセパレータ35をセパレータ33よりも長く延出するとより良好な結果が得られた。この条件を満たす試料の検証では、解体調査による短絡痕の発生率は0%であった。この効果の要因については明確ではないが、セパレータ33とセパレータ35の突出長さを変化させたことで、セパレータ33、35間に発生する隙間を効果的に閉じることが出来たのではないかと推察される。
【0047】
なお、上記一実施の形態および変形例では、捲回電極群3の負極電極32側において、式(3)および式(4)を満たす構造として例示した。
しかし、捲回電極群3の正極電極34側において、式(3)および式(4)を満たす構造を採用するようにしてもよい。但し、この場合には、定義A、B、C、D、dの「負極」を「正極」に置き換えるものとする。
【0048】
すなわち、捲回電極群3を備える二次電池100は、セパレータ33、35の端部から集電板24、44が接合された極性の積層部の接合部での距離をA、集電板24、44が接合された極性の合剤層32b、34bが積層された部分における電極群3の厚さをB、集電板24、44が接合された極性の合剤層32b、34bの端部からセパレータ33、35が突出する長さをC、集電板24、44が接合された極性の金属箔32a、34aの厚さをD、集電板24、44が接合された極性の金属箔32a、34aの積層枚数をd、セパレータ33、35の厚さをE、集電板24、44が接合された極性の最外周の金属箔32a、34a間の内側に介在するセパレータ33、35の総枚数をeとしたときに、下記の式(I)を満たすものであればよい。
E>
〔AB/(A+C)−Dd−Ee〕/(d−1) ……式(I)
【0049】
また、式(3)および式(4)を満たす構造は、負極電極32側または正極電極34側の一方のみでなく、負極電極32側または正極電極34側の両側に採用してもよい。
【0050】
上記各実施形態では、正極電極34の最外周部の外周には、セパレータ33およびセパレータ35が1周、捲回されている構成として例示した。しかし、セパレータ33およびセパレータ35の一方または両方を、正極電極34の最外周部の外周に数周、捲回するようにしてもよい。
【0051】
上記各実施形態では、正極電極34と負極電極32とが、セパレータ33、35を介して捲回された捲回電極群3を有する二次電池100として例示した。しかし、本発明は、矩形シート状の正極電極と矩形シート状の負極電極とを、セパレータを介して平坦状に積層した電極群を備える二次電池に適用することができる。
【0052】
上記各実施形態では、二次電池をリチウムイオン電池として例示した。しかし本発明は、ニッケル・カドミウム電池やニッケル水素電池等、他の二次電池に適用することができる。
【0053】
本発明は、上記一実施の形態および変形例の内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。