特許第6978765号(P6978765)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6978765
(24)【登録日】2021年11月16日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】電動工具用変圧器
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/02 20160101AFI20211125BHJP
   H02P 25/04 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   H02P27/02
   H02P25/04
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-151313(P2017-151313)
(22)【出願日】2017年8月4日
(65)【公開番号】特開2019-30200(P2019-30200A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】593110580
【氏名又は名称】株式会社シブヤ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高下 宗潤
(72)【発明者】
【氏名】邑楽 直誉
【審査官】 安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−007965(JP,U)
【文献】 特表平06−508739(JP,A)
【文献】 特開平01−315285(JP,A)
【文献】 実開平02−136402(JP,U)
【文献】 実開平03−106897(JP,U)
【文献】 特開平04−299096(JP,A)
【文献】 特開2007−083375(JP,A)
【文献】 実開平06−064802(JP,U)
【文献】 特開2009−236538(JP,A)
【文献】 特開2003−061210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/02
H02P 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動用電源と、サーキットプロテクタを有する電動工具との間に設けられる電動工具用変圧器であって、
前記駆動用電源から受けた電源電圧の位相制御を行う位相制御部と、
前記位相制御部の出力を昇圧または降圧して外部に出力するトランスと、
前記トランスの出力電流を経時的に検出し、該出力電流と該出力電流での出力継続時間との関係を示す出力電流動作点を取得する電流計測部と、
前記電動工具の特性に基づいて設定され、前記トランスの出力電流と該出力電流を流すことを許容する時間である許容継続時間との関係を示す出力制御情報が格納された記憶部と、
前記出力制御情報と前記出力電流動作点との比較結果に基づいて、前記トランスの出力電圧を制御する制御部とを備え
前記出力制御情報は、前記電動工具のサーキットプロテクタの引き外し特性に基づいた、前記トランスの出力電流と前記許容継続時間との関係を示す出力制御曲線であり、
前記制御部は、前記出力電流動作点が前記出力制御曲線に達したと判断したときに、前記出力電流動作点が前記出力制御曲線に沿って移動するように、前記トランスの出力電圧を制御する
ことを特徴とする電動工具用変圧器。
【請求項2】
請求項1記載の電動工具用変圧器において、
記記憶部には、前記電動工具の定格電流情報がさらに格納されており、
前記制御部は、前記出力電流動作点が前記出力制御曲線に達したと判断したときに、前記トランスの出力電流が前記電動工具の定格電流以下になるように、前記トランスの出力電圧を減少させる
ことを特徴とする電動工具用変圧器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動工具用変圧器において、
前記電動工具の種別が選択できるように構成された第1操作部をさらに備え、
前記記憶部には、前記第1操作部で選択対象となる電動工具に応じた複数の前記出力制御情報が登録されており、
前記制御部は、前記第1操作部で選択された前記電動工具の種別に応じた出力制御情報を参照して、前記トランスの出力電圧を制御する
ことを特徴とする電動工具用変圧器。
【請求項4】
請求項1からのうちのいずれか1項に記載の電動工具用変圧器において、
前記制御部は、所定の測定期間における前記トランスの出力電流の平均が前記電動工具の定格電流に基づく平均判定電流以内になるように前記トランスの出力電圧を制御する
ことを特徴とする電動工具用変圧器。
【請求項5】
請求項1からのうちのいずれか1項に記載の電動工具用変圧器において、
前記制御部による前記位相制御部の位相制御量の調整を行うか否かを設定する第2操作部をさらに備えている
ことを特徴とする電動工具用変圧器。
【請求項6】
請求項1からのうちのいずれか1項に記載の電動工具用変圧器において、
前記電動工具用変圧器の起動時に、前記電流計測部の測定電流が所定の閾値以上流れたことを検出した後に前記トランスの出力電圧を徐々に増加させるソフトスタート機能を有している
ことを特徴とする電動工具用変圧器。
【請求項7】
請求項1からのうちのいずれか1項に記載の電動工具用変圧器において、
前記電動工具は、コアドリル、ウォールソーおよびワイヤーソーを含むコンクリート切断穿孔用の電動工具である
ことを特徴とする電動工具用変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源と電動工具との間に設けられる電動工具用変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
電源から作業現場までの距離が離れている場合に、電源と電動工具(例えば、コアドリル)とを接続する電源ケーブルが長くなることから電圧降下により所定のトルクが得られない場合がある。そこで、電源と電動工具との間に、昇圧型の変圧器(例えば、昇圧比110%程度)を設置することにより、出力トルクを確保することが行われている。
【0003】
特許文献1には、コンクリート構造物等の被削物に穿孔する際に用いられるコアドリルの一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−39423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電源ケーブルの長さによっては、電動工具に対して所定以上の電圧が入力される場合がある。電動工具としてのコアドリルの例について具体的に説明すると、コアドリルに対して無理に圧力をかけた穿孔作業を行ったときや、コアドリルの刃物が鉄筋等の異物にぶつかってロックしたときに、コアドリルに過電流が流れて、コアドリルのモータが焼損したり、サーキットプロテクタが破損する場合がある。
【0006】
上記問題に鑑み、本発明は、接続対象となる電動工具に適した電流値を超えないように構成された変圧器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る電動工具用変圧器は、駆動用電源と、サーキットプロテクタを有する電動工具との間に設けられる。そして、電動工具用変圧器は、前記駆動用電源から受けた電源電圧の位相制御を行う位相制御部と、前記位相制御部の出力を昇圧または降圧して外部に出力するトランスと、前記トランスの出力電流を経時的に検出し、該出力電流と該出力電流での出力継続時間との関係を示す出力電流動作点を取得する電流計測部と、前記電動工具の特性に基づいて設定され、前記トランスの出力電流と該出力電流を流すことを許容する時間である許容継続時間との関係を示す出力制御情報が格納された記憶部と、前記出力制御情報と前記出力電流動作点との比較結果に基づいて、前記トランスの出力電圧を制御する制御部とを備えていることを特徴とする。
【0008】
ここで、「電動工具」には、例えば、コアドリル、ウォールソーおよびワイヤーソーを含むコンクリート切断穿孔用の電動工具が含まれる。
【0009】
本態様によると、制御部は、出力制限判定情報と出力電流動作点との比較結果に基づいて、トランスの出力電圧を制御する。すなわち、接続対象となる電動工具の特性に基づいて、トランスの出力電流およびその継続時間を制御するようにしている。これにより、電動工具の特性に適した変圧器の制御をすることができるようになる。
【0010】
一般的な従来技術に係る変圧器は、あらかじめ定められた所定の昇降圧比に基づいた出力電圧が出力されるように構成されている。すなわち、接続される電動工具に応じて出力電圧を調整できるようになっていない。そうすると、例えば、コンクリート切断穿孔用の電動工具が接続された場合に、内部のサーキットプロテクタが過電流で頻繁に遮断されることを防ぐことができない。そうすると、サーキットプロテクタが早期に破損する可能性が高まる。これに対し、トランスの出力電圧をあらかじめ絞ることにより、サーキットプロテクタが頻繁に遮断することを防ぐ方法も考えられるが、そうすると、十分な出力トルクが得られなくなる。そこで、本態様に係る変圧器のように、接続対象となる電動工具に応じてトランスの出力電圧を調整する機能を追加することにより、その電動工具の能力を十分発揮させつつ、サーキットプロテクタの破損を防ぐ、電動工具に好適な変圧器を提供することができる。
【0011】
前記出力制御情報は、前記電動工具のサーキットプロテクタの引き外し特性に基づいた、前記トランスの出力電流と前記許容継続時間との関係を示す出力制御曲線であり、前記制御部は、前記出力電流動作点が前記出力制御曲線に達したと判断したときに、前記出力電流動作点が前記出力制御曲線に沿って移動するように、前記トランスの出力電圧を制御する、としてもよい。
【0012】
この態様によると、電動工具のサーキットプロテクタが作動する前に、トランスの出力電流を絞ることができる。トランスの出力電圧の制御には、出力電流動作点が出力制御曲線に達した後に、トランスの出力電流(電動工具に流れる負荷電流)が減少した場合、トランスの出力電圧を増加させる制御が含まれる。また、所定時間が継続するまでトランスの出力電圧を調整しないようにしている。これにより、サーキットプロテクタが作動しない範囲内で電動工具の高出力状態を維持することができ、その期間は十分な出力トルクを得ることができるので、電動工具の使用者の利便性を高めることができる。
【0013】
前記記憶部には、前記電動工具の定格電流情報がさらに格納されており、前記制御部は、前記出力電流動作点が前記出力制御曲線に達したと判断したときに、前記トランスの出力電流が前記電動工具の定格電流以下になるように、前記トランスの出力電圧を減少させる、としてもよい。
【0014】
これにより、上記態様と同様に、電動工具のサーキットプロテクタが作動する前に、トランスの出力電流を絞ることができる。また、トランスの出力電流が電動工具の定格電流になるまでトランスの出力電圧を絞るようにしているので、サーキットプロテクタの遮断をより確実に防ぐことができる。
【0015】
前記電動工具の種別が選択できるように構成された第1操作部をさらに備え、前記記憶部には、前記第1操作部で選択対象となる電動工具に応じた複数の前記出力制御情報が登録されており、前記制御部は、前記第1操作部で選択された前記電動工具の種別に応じた出力制御情報を参照して、前記トランスの出力電圧を制御する、としてもよい。
【0016】
ここで、電動工具の「種別」には、例えば、電動工具の機種が含まれる。
【0017】
この態様によると、種別(例えば、機種)の異なる電動工具に対して、それぞれの種別(例えば、機種)に応じた特性に変圧器を調整することができるようになる。
【0018】
前記制御部は、所定の測定期間における前記トランスの出力電流の平均が前記電動工具の定格電流に基づく平均判定電流以内になるように前記トランスの出力電圧を制御する。
【0019】
これにより、電動工具のモータの発熱による焼損等を防止することができるようになる。また、上記のサーキットプロテクタの保護に関する制御と、この平均判定電流を用いた制御とを組み合わせることにより、サーキットプロテクタが作動しない範囲内で電動工具が高出力状態になることを許容しつつ、サーキットプロテクタの破損や電動工具のモータの発熱による焼損等を防止することができるようになる。
【0020】
前記制御部による前記位相制御部の位相制御量の調整を行うか否かを設定する第2操作部をさらに備えていてもよい。
【0021】
この態様によると、変圧器を、電動工具用の変圧器としての用途に加えて、通常の変圧器としても使用できるようになる。
【0022】
前記電動工具用変圧器の起動時に、前記電流計測部の測定電流が所定の閾値以上流れたことを検出した後に前記トランスの出力電圧を徐々に増加させるソフトスタート機能を有しているとしてもよい。
【0023】
この態様によると、電動工具をゆっくり回し始めることができるようになる。このようなソフトスタート機能は、変圧器に対して、大型の電動工具を接続する場合に特に有用である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、電動工具に適した電流調整機能を有する変圧器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施形態に係る変圧器の概略構成を示すブロック図である。
図2】本実施形態に係る変圧器の動作を示すフロー図である。
図3】本実施形態に係る変圧器の動作を示すフロー図である。
図4】ソフトスタートの動作を説明するための図である。
図5】コアドリルの機種と変圧器の動作設定情報とを紐付けしたテーブルの一例を示す図である。
図6】出力制御曲線の一例を示す図である。
図7】本実施形態に係る変圧器の動作の他の例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。例えば、以下の説明では、コンクリート構造物、石材、岩盤、鉄鋼構造物等の被削物に穿孔する際または切断する際に用いられるコンクリート切断穿孔用の電動工具としてのコアドリルを例示し、具体的に説明する。しかしながら、本開示に係る変圧器は、コアドリル以外のコンクリート切断穿孔用の電動工具、例えば、ウォールソーおよびワイヤーソーに対しても同様に適用することができ、同様の効果が得られる。さらに、本開示に係る技術は、モータで駆動され、かつ、サーキットプロテクタが搭載された電動工具であれば、コンクリート切断穿孔用途以外の電動工具に対しても適用が可能であり、同様の効果が得られる。
【0027】
以下、コアドリルに関する実施形態について詳細に説明する。
【0028】
<変圧器の構成>
図1は本発明の実施形態に係るコアドリル用変圧器(以下、単に変圧器という)の概略構成を示すブロック図である。詳細は後述するが、本実施形態に係る変圧器Aは、例えばコアドリルに適した電流調整ができるように構成されている。なお、図1では、コアドリル70のブロック構成として、本発明と関連性の高いサーキットプロテクタ71およびモータ72を図示しており、その他の構成にかかる図示を省略している。
【0029】
変圧器Aは、保護回路1、トランス5および位相制御部3を備えており、入力端子Piと出力端子Poとの間に上記記載順に接続されている。すなわち、保護回路1は変圧器Aの一次側に、位相制御部3は変圧器Aの二次側にそれぞれ設けられている。変圧器Aの入力端子Piは、例えば、コアドリル70の駆動用電源としての仮設電源20(例えば、商用電源系統)に接続されている。
【0030】
保護回路1は、短絡電流等の過大な電流が流れた場合に線路を遮断する機能を有している。保護回路1は、例えば、ブレーカー、サーキットプロテクタまたはヒューズで構成することができる。図1では、保護回路1がブレーカー11で構成されている例を示している。
【0031】
トランス5は、入力端子Piから保護回路1を介して入力された電圧を昇圧して出力端子Poに出力する昇圧型のトランスである。トランス5の昇圧比は、あらかじめ設定されていてもよいし、後述する演算処理部9等の制御を受けて変更できるように構成されていてもよい。すなわち、トランス5は、あらかじめ定められたまたは駆動後に設定された所定の設定電圧Vt(以下、単に設定電圧Vtという)が出力されるように構成されている。なお、入力端子Piから入力される仮設電源20の電源電圧がコアドリル70の電源電圧よりも高い場合には、トランス5として降圧型のトランスを用いるとよい。また、トランス5として、昇降圧型のトランスを用いてもよい。
【0032】
位相制御部3は、一方の線路上に逆並列に接続された一対のサイリスタ31(以下、単にサイリスタ31という)と、演算処理部9の制御を受けてサイリスタ31の位相制御を行う位相制御回路32とを備えている。より具体的には、位相制御回路32は、サイリスタ31をオンさせる位相角を変化させてその導通期間を調整することにより、サイリスタ31の出力電圧を制御する。
【0033】
変圧器Aは、トランス5の出力電流を測定する電流センサ81を含む電流検出回路8、演算処理部9及び入力操作部6をさらに備えている。なお、電流センサ81により変圧器Aの一次電流を測定するようにしてもよい。その場合には、一次電流の測定値からトランス5の出力電流を求めるようにすればよい。ただし、トランス5の出力電流を直接的に検出して検出精度を高める観点から、図1に示すように電流センサ81をトランス5と出力端子Poとの間に取り付けて、変圧器Aの二次電流を測定するのが好ましい。
【0034】
入力操作部6は、コアドリル70の機種を選択するための機種設定スイッチSW1と、変圧器Aの動作モードとして「コアドリル用の変圧器として動作させる専用モード(以下、単に専用モードという)」または「通常の変圧器として動作させる通常モード(以下、単に通常モードという)」を選択するための動作モード設定スイッチSW2と、後述するソフトスタート機能のオン/オフ制御を行うためのソフトスタート設定スイッチSW3とを備えている。機種設定スイッチSW1、動作モード設定スイッチSW2およびソフトスタート設定スイッチSW3で設定された設定情報は、スイッチ入力回路61を介して演算処理部9に入力される。なお、コアドリル70の機種は、その型式や型番に基づいて決定することに限定されず、1つの機種に含ませるコアドリルを任意に設定することができる。例えば、複数の型式のコアドリルをまとめて1つの機種としたり、定格電流が同程度のものをまとめて1つの機種としたりしてもよい。また、コアドリル70の機種以外の基準に基づいて、機種設定スイッチSW1のそれぞれの設定に対応するコアドリル70のグループを構成するようにしてもよい。
【0035】
演算処理部9は、電流検出回路8の測定結果や、入力操作部6の設定情報等に基づいて、位相制御回路32をはじめとする変圧器A全体の動作を制御する機能を有する。演算処理部9は、例えば、マイクロコンピュータで構成されている。具体的に、演算処理部9は、継続タイマー91と、動作点演算部92と、記憶部93と、比較部94とを有している。電流計測部は、電流検出回路8、継続タイマー91および動作点演算部92により構成されている。
【0036】
継続タイマー91は、電流検出回路8の測定電流が継続している時間(以下、出力継続時間という)を計測する。例えば、トランス5の出力電流が、コアドリル70の定格電流に対して、120%流れている場合に、その120%の電流が継続して流れている時間を計測する。
【0037】
動作点演算部92は、電流検出回路8の測定電流と、継続タイマー91で計測された出力継続時間とに基づいて、トランスの出力電流と出力継続時間との関係を示す出力電流動作点を取得する。図6において、P1〜P5の符号を付して、出力電流動作点Pの一例を示している。出力電流動作点Pについては、後述する「変圧器の動作」において、より具体的に説明する。
【0038】
記憶部93は、例えば、マイクロコンピュータの内部メモリであり、トランス5の出力電圧を調整するための出力制御情報が格納されている。出力制御情報の形式は、特に限定されないが、本実施形態では、出力制御情報がテーブル形式で記憶部93に格納されている例について説明する。なお、記憶部93として、演算処理部の外側に付設された外部の記憶部(メモリデバイス)等を適用してもよい。
【0039】
比較部94は、動作点演算部92で求められた出力電流動作点と、記憶部93に格納された出力制御情報とを比較し、その比較結果に基づいて、位相制御部3を介してトランス5の出力電圧を制御する機能を有する。なお、具体的な比較部94の動作については、後述する「変圧器の動作」において、より具体的に説明する。
【0040】
−出力制御用のテーブル(出力制御情報)−
図5には、変圧器Aの出力電流を制御するための出力制御情報が、テーブルTBに登録されている例を示している。例えば、テーブルTBには、コアドリル70の機種と変圧器Aの動作設定情報とが紐付けして登録されている。
【0041】
より具体的に説明すると、テーブルTBには、コアドリル70の機種と、各機種に使用されているサーキットプロテクタ71の引き外し動作特性(遮断電流)に基づいて設定された出力制御曲線とが紐付けして登録されている。すなわち、選択されたコアドリル70の機種に対して、どの出力制御曲線を使用するかが示されている。より具体的に、出力制御曲線とは、トランス5の出力電流とその出力電流を流すことを許容する時間である許容継続時間との関係を示した曲線である。詳細は後述するが、出力制御曲線は、サーキットプロテクタ71が作動する前にトランス5の出力電圧を減少させることにより、コアドリル70に過大な電流が流れてサーキットプロテクタ71が遮断されること、および、その遮断が繰り返されることを防ぐために用いられる。また、上記の出力電圧を減少させた後に、トランス5の出力電流が減少した場合に、その減少量に応じて再びトランス5の出力電圧を増加させるために用いられる。
【0042】
図6には、出力制御曲線の一例を示している。図6において、ドットハッチング部分は、コアドリル70のサーキットプロテクタ71の引き外し動作特性の一例を示している。ここで、図6の横軸は、コアドリル70の定格電流に対する動作電流(トランス5の出力電流)の割合を示しており、その縦軸は、コアドリル70の動作電流が定格電流に対して横軸の割合(100%以上)まで到達した場合に、サーキットプロテクタ71が遮断動作をするまでの時間を示している。テーブルTBにより読み出される出力制御曲線は、例えば、コアドリル70の動作電流(トランス5の出力電流)の上限値がサーキットプロテクタ71の遮断電流の下限値(図5のドットハッチング部分の図面下端間を結ぶ線)に対して所定のマージンを持つように設定されている。図6では、出力制御曲線を実線の曲線で示しており、テーブルTBでは、コアドリルの機種と、各機種に対応する出力制御曲線とが紐付けられている。なお、出力制御曲線におけるコアドリル70の出力電流とは、直接的な電流値に限定されず、図6に示すようにコアドリル70の定格電流に対するコアドリル70の出力電流の割合といったように、他の数値との演算により求められた値であってもよい。すなわち、コアドリル70の出力電流とは、コアドリル70の出力電流に基づき、その出力電流特性を失わない範囲で演算された演算値を含む概念である。
【0043】
なお、図6では、出力制御曲線の一例を示しているが、これに限定されない。例えば、出力制御曲線として、サーキットプロテクタ71の遮断電流の下限値を結ぶ曲線(図5のドットハッチング部分の図面下端間を結ぶ線)をそのまま用いてもよい。また、出力制御曲線の形態は、特に限定されない。例えば、複数の直線の組み合わせで曲線を定義してもよいし、曲線が単一の関数や、複数の関数の組み合わせで示されていてもよい。また、テーブルTBにおいて、出力制御曲線に代えて、近似直線のような直線を適用してもよいし、ルックアップテーブル形式で構成されていてもよい。
【0044】
さらに、テーブルTBには、出力制御情報として、コアドリル70の出力電流の平均値(以下、単に平均出力電流ともいう)の測定期間(以下、平均電流測定期間という)と、コアドリル70の定格電流に基づいて設定された平均判定電流とが登録されている。平均判定電流とは、上記平均電流測定期間において許容される平均出力電流の上限値を示している。なお、平均判定電流として、コアドリル70の定格電流を使用してもよいし、コアドリル70の定格電流に対して所定のマージンを持たせた電流を使用してもよい。平均電流測定期間および平均出力電流は、コアドリル70のモータ72に対して所定値以上の電流が流れ続けることによる発熱を防ぐために用いられる。
【0045】
<変圧器の動作>
以下において、本実施形態に係る変圧器Aの動作について図2図3のフロー図に基づいて詳細に説明する。
【0046】
まず、ステップS10において、演算処理部9は、変圧器Aの初期設定を行う。具体的には、変圧器Aの起動動作に係る各種パラメータの設定等を行う。この初期設定が終わると、変圧器Aは、演算処理部9の制御を受けて、あらかじめ設定された所定の出力電圧を出力する状態となる。
【0047】
変圧器Aの初期設定が終了すると、演算処理部9は、動作モード設定スイッチSW2の設定を確認する(S20)。動作モード設定スイッチSW2が、「通常モード」に設定されている場合(S20でYES)、演算処理部9は、変圧器Aを通常の変圧器として動作させる。換言すると、演算処理部9は、変圧器Aの出力電圧が設定電圧Vtになるように位相制御回路32を制御する。例えば、変圧器Aが、サイリスタ31をオンさせる位相角が最大の時に出力電圧が設定電圧Vtになるように構成されている場合には、そのオンさせる位相角を最大に設定する。一方で、動作設定スイッチが、「専用機モード」に設定されている場合(S20でNO)、フローはステップS30に進む。
【0048】
ステップS30において、演算処理部9は、ソフトスタート設定スイッチSW3の設定を確認する。ソフトスタート設定スイッチSW3によりソフトスタート機能がオン設定されている場合(S30でYES)、演算処理部9は、上記初期設定に加えて、ソフトスタートに係る動作設定を行う(S31,S32)。
【0049】
−ソフトスタート−
図4はソフトスタートの動作において、トランス5の出力電流と出力電圧の関係を示した図である。ソフトスタート時には、演算処理部9は、トランス5の出力電圧が初期電圧Vsになるように位相制御回路32の動作を制御する。その後、トランス5の出力電流が所定の閾値電流Ithを超えたとき、負荷電流が流れたと判断し(S31でYES)、演算処理部9は、位相制御回路32を制御して、あらかじめ定められたソフトスタート時間をかけて、トランス5の出力電圧が設定電圧Vt(例えば、変圧器Aの定格電圧)になるまで変圧器Aの出力を徐々に増加させる(S32)。このようなソフトスタート機能を設けることにより、コアドリル70をゆっくり回し始めることができるようになる。このようなソフトスタート機能は、変圧器Aに大型のコアドリル70を接続する場合に特に有用である。なお、初期電圧Vsは、任意に設定することができる。例えば、初期電圧Vsは変圧器Aの定格電圧の30%〜50%程度に設定される。
【0050】
上記ソフトスタートが終了するか、または、ソフトスタート機能がオフ設定の場合、次のステップS40では、演算処理部9が、機種設定スイッチSW1の設定を確認する。具体的に、コアドリル70の機種と変圧器Aの動作特性とを紐付けした前述のテーブルTBを参照して、選択された機種に関する動作設定情報を取得する。
【0051】
その後、フローは、図3のS51を介してステップS52に進み、演算処理部9は、動作点演算部92で取得された出力電流動作点Pと、テーブルTBから取得した出力制御曲線に基づいて、コアドリル70のサーキットプロテクタ71が遮断しないようにトランス5の出力電圧を制御する。
【0052】
−出力制御曲線に基づいた動作−
図3図5および図6を参照しつつ、コアドリル70の機種として「A」が選択されていた場合の例について、具体的に説明する。図5に示すように、コアドリル70の機種として「A」が選択されると、テーブルTBから出力制御曲線Caが読み出される。ここでは、図6の出力制御曲線が出力制御曲線Caであるものし、出力電流動作点Pが図6のP1から順にP5まで遷移したものとする。
【0053】
出力電流動作点P1では、トランス5の出力電流として、コアドリル70の定格電流の150%が0.01秒流れた後、トランス5の出力電流がコアドリル70の定格電流の200%まで増加している(出力電流動作点P2)。この状態では、まだ出力電流動作点Pが出力制御曲線Caに達していないので(S52でNO)、フローはステップS54に進む。
【0054】
ステップS54では、平均電流測定期間内における平均出力電流がコアドリル70の定格電流に基づいて設定された平均判定電流に達したか否かが判断される。なお、平均出力電流の求め方は特に限定されない。例えば、数秒間隔で測定されたトランス5の出力電流の移動平均により求めることができる。ここでは、まだ平均出力電流は、平均判定電流に達していないものとする(S54でNO)。トランス5の出力電流すなわちコアドリル70の電流(図3および以下の説明では負荷電流と記載する)は、継続して流れているので、ステップS58でYES判定となり、フローはステップS51に戻り、演算処理部9は、継続してトランス5の出力電圧が初期設定で設定された所定の出力電圧値になるように制御する。なお、ステップS58において負荷電流が継続して流れていない場合(S58でNO)、フローは図2のステップS20に戻る。
【0055】
その後、出力電流動作点P2の出力電流を維持しつつ、動作時間が2秒まで増加すると(図6のP3参照)、演算処理部9は、出力電流動作点Pが出力制御曲線Caに達したと判断し(S52でYES)、出力電流動作点Pが出力制御曲線Caに沿って移動するように、トランス5の出力電圧を制御する(S53)。具体的には、演算処理部9は、位相制御回路32を介して、トランス5の出力電圧を徐々に減少させる。これにより、出力電流動作点Pが出力制御曲線に沿って移動する(図6の破線参照)。そして、最終的に、演算処理部9は、トランス5の出力電流がコアドリル70の定格電流になるまで、トランス5の出力電圧を減少させる。これにより、コアドリル70のサーキットプロテクタ71が遮断しないようにすることができる。すなわち、コアドリル70を停止させずに、コアドリル70の運転を続けさせることができる。
【0056】
このトランス5の出力電圧を制御している期間中においても、演算処理部9は、ステップS54,S58と同様に、平均出力電流が平均判定電流に達していないか、負荷電流が継続して流れているかを確認する(S55,S57)。ステップS55で平均出力電流が平均判定電流に達しておらず(S55でNO)、かつ、ステップS57で負荷電流が継続して流れていた場合には(ステップS57でYES)、フローはS52に戻る。このようにして、負荷電流が継続して流れている間、ステップS51からステップS58の動作が繰り返される。
【0057】
そして、例えば、ステップS53において、出力電流動作点P4の状態からトランス5の出力電流が減少した場合には、演算処理部9は、出力制御曲線に沿うように、トランス5の出力電圧を徐々に増加させていく(図5の出力電流動作点P5参照)。
【0058】
このような処理にすることにより、サーキットプロテクタ71が遮断しない範囲でトランス5からの出力電流を最適化することが可能になり、作業者の利便性を高めることができる。
【0059】
−平均出力電流に基づいた動作−
次に、平均電流測定期間内に平均出力電流が平均電流に到達した場合について説明する。
【0060】
ステップS54またはステップS55において、平均電流測定期間内における平均出力電流が平均判定電流に達している場合(S54,S55でYES)、フローはステップS56に進む。図5を参照してより具体的に説明すると、コアドリル70の機種として「A」が選択されていた場合には、平均電流測定期間Taにおける平均出力電流が平均判定電流Iaに達している場合に、ステップS54,S55でYES判定となる。ステップS56では、演算処理部9は、位相制御回路32を介して、トランス5の出力電流がコアドリル70の定格電流値に応じた設定電流(例えば、平均判定電流)以内になるように、トランス5の出力電圧を減少させる。
【0061】
その後、負荷電流が継続して流れている場合(S57でYES)、フローはステップS52に戻る一方で、負荷電流が継続して流れていない場合(S57でNO)、フローは図2のステップS20に戻る。
【0062】
以上のように、本実施形態によると、演算処理部9は、トランス5の出力電流が出力制御曲線に達した場合に、位相制御回路32を介してトランス5の出力電圧を制御する。これにより、トランス5の出力電流をコアドリル70のサーキットプロテクタ71が遮断しないような電流値にすることができる。これにより、例えば、コアドリル70にかかる負荷が増大したりコアドリル70がロックしたりして、コアドリル70に流れる電流が増大した場合においても、コアドリル70のサーキットプロテクタ71が作動する前に、トランス5の出力電流を絞ることができ、サーキットプロテクタ71に過大な電流が流れて破損することを防ぐことができる。さらに、演算処理部9は、平均電流測定期間内において、トランス5の平均出力電流が平均判定電流に達した場合にも、トランス5の出力電圧を減少させるようにしている。これにより、コアドリル70のモータ72の発熱による焼損等を防止することができるようになる。
【0063】
さらに、上記実施形態では、出力制御曲線、平均電流測定期間および平均判定電流を記憶部93に格納されたテーブルTBに登録するようにしている。そして、演算処理部9では、このテーブルTBを参照して、トランス5の出力電圧を制御するようにしている。このように、テーブルTBを参照する方式を採用することにより、トランス5の出力電圧の制御において、複雑な計算を要しないようにすることができる。また、変圧器Aに対して本開示に係る発明を実現するために追加すべき回路やプログラム、付属部品等を少なくすることができる。
【0064】
なお、上記実施形態において、演算処理部9は、「出力制御曲線に基づいた動作」と「平均出力電流に基づいた動作」の両方を行うものとしたが、いずれか一方を選択的に実行するようにしてもよい。図7には、「平均出力電流に基づいた動作」を行わずに、「出力制御曲線に基づいた動作」のみを行う場合についてのフロー図の一例を示している。図7のフロー図は、図3と置き換えて使用することができるものである。なお、図3図7とにおいて、対応するステップには同じ符号を付している。また、対応する各ステップの動作は、図3図7とで同様であるため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0065】
また、上記実施形態では、位相制御部3は、変圧器Aの二次側に設けられているものとして説明したが、位相制御部3を変圧器Aの一次側、例えば保護回路1とトランス5の間に設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る変圧器は、接続対象となる電動工具に応じて出力電流を調整することができるため、サーキットプロテクタを有する電動工具用の変圧器として極めて有用である。
【符号の説明】
【0067】
A 変圧器
3 位相制御部
5 トランス
8 電流検出回路
9 演算処理部(制御部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7