(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
発泡性樹脂ビーズと、前記発泡性樹脂ビーズを被覆するコーティング層とを備え、前記コーティング層は、フェノール樹脂、硬化促進剤、並びにアミノ酸及びその重合物以外のアミノ基含有化合物(但し、アミノ系樹脂およびポリアミド樹脂を除く)である硬化緩和剤を含有するコーティング組成物の硬化物である被覆発泡性樹脂ビーズ。
前記硬化緩和剤が尿素、メラミン、メチルアミン、アニリン、及びリン酸グアニル尿素からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の被覆発泡性樹脂ビーズ。
前記発泡性樹脂ビーズが、ポリスチレン、スチレンアクリル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる群から選択される少なくとも一種を含むものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載する被覆発泡性樹脂ビーズ。
前記無機粉末が、水酸化アルミニウム、赤リン、ホウ酸、ホウ酸亜鉛、水酸化マグネシウム、リン酸アルミニウム、ポリリン酸アンモニウム、酸化アンチモン、及び二酸化ケイ素からなる群から選択される少なくとも一種を含有するものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載する被覆発泡性樹脂ビーズ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、発泡成形体の製造に好適に使用することができる被覆発泡性樹脂ビーズ、及びその製造方法を提供することを課題とする。より好適には、本発明は、発泡成形体の製造に使用するうえで良好なポットライフを有し、発泡成形時に良好に融着することができる被覆発泡性樹脂ビーズ、及びその製造方法を提供することを課題とする。また本発明は被覆発泡性樹脂ビーズを用いた発泡成形体、及びその製造方法を提供することを課題とする。
さらに本発明は、発泡成形体の製造に使用する被覆発泡性樹脂ビーズについて、ポットライフを長期化するか、及び/又は、被覆発泡性樹脂ビーズ同士の融着性を改善する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討をかさねていたところ、発泡性樹脂ビーズのコーティングに使用する熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を用いた場合、硬化促進剤に加えて、アミノ基を有する化合物を組み合わせて用いることで、上記課題が好適に解決できることを見出した。理論に拘束されるものではないが、このことから、発泡性樹脂ビーズ表面をコーティングする組成物において、アミノ基を有する化合物は、硬化促進剤と協同して、フェノール樹脂の硬化速度をコントロールするように作用しているものと考えられる。この意味で、当該アミノ基を有する化合物は硬化緩和剤または硬化遅延剤として位置づけることができる。そこで本発明では当該化合物を硬化緩和剤とも総称する。
【0008】
本発明はこれらの知見に基づいて、さらに研究を重ねて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。
(I)被覆発泡性樹脂ビーズ
(I−1)発泡性樹脂ビーズと、前記発泡性樹脂ビーズを被覆するコーティング層とを備え、前記コーティング層は、フェノール樹脂、硬化促進剤、並びにアミノ酸及びその重合物以外のアミノ基含有化合物である硬化緩和剤を含有するコーティング組成物の硬化物である被覆発泡性樹脂ビーズ。
(I−2)前記硬化緩和剤が尿素、メラミン、メチルアミン、アニリン、及びリン酸グアニル尿素からなる群より選択される少なくとも1種である、(I−1)に記載の被覆発泡性樹脂ビーズ。
(I−3)前記発泡性樹脂ビーズが予備発泡されたものである、(I−1)または(I−2)に記載の被覆発泡性樹脂ビーズ。
(I−4)前記フェノール樹脂の量は、前記発泡性樹脂ビーズ100質量部に対して30〜150質量部の範囲であり、
前記硬化促進剤の量は、前記フェノール樹脂100質量部に対して1〜6質量部の範囲内であり、
前記硬化緩和剤の量は、前記フェノール樹脂100質量部に対して1〜25質量部の範囲内である、
(I−1)〜(I−3)のいずれかに記載する被覆発泡性樹脂ビーズ。
(I−5)前記硬化促進剤100質量部に対する前記硬化緩和剤の割合が1〜80質量部である、(I−1)〜(I−4)のいずれかに記載する被覆発泡性樹脂ビーズ。
(I−6)前記発泡性樹脂ビーズが、ポリスチレン、スチレンアクリル共重合体、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる群から選択される少なくとも一種を含むものである、(I−1)〜(I−5)のいずれか一項に記載する被覆発泡性樹脂ビーズ。
(I−7)前記コーティング組成物は、さらに無機粉末を含有するものである、(I−1)〜(I−6)のいずれか一項に記載する被覆発泡性樹脂ビーズ。
(I−8)前記無機粉末の量は、前記フェノール樹脂100質量部に対して10〜200質量部の範囲である、(I−7)に記載する被覆発泡性樹脂ビーズ。
(I−9)前記無機粉末が、水酸化アルミニウム、赤リン、ホウ酸、ホウ酸亜鉛、水酸化マグネシウム、リン酸アルミニウム、ポリリン酸アンモニウム、酸化アンチモン、及び二酸化ケイ素からなる群から選択される少なくとも一種を含有するものである、(I−7)又は(I−8)に記載する被覆発泡性樹脂ビーズ。
【0009】
(II)被覆発泡性樹脂ビーズの製造方法
(II−1)下記(1)及び(2)の工程を有する、(I−1)〜(I−9)のいずれか一項に記載する被覆発泡性樹脂ビーズの製造方法:
(1)予備発泡された発泡性樹脂ビーズの表面に、フェノール樹脂、硬化促進剤、並びにアミノ酸及びその重合物以外のアミノ基含有化合物である硬化緩和剤を含有するコーティング組成物を付着させる工程,
(2)前記工程で調製したコーティング組成物付着発泡性樹脂ビーズを乾燥する工程。
(II−2)前記コーティング組成物がさらに無機粉末を含有するものである(II−1)に記載する被覆発泡性樹脂ビーズの製造方法。
【0010】
(III)被覆発泡性樹脂ビーズの発泡成形体、及びその製造方法
(III−1)(I−1)〜(I−9)のいずれか一項に記載する被覆発泡性樹脂ビーズの発泡成形体。
(III−2)(I−1)〜(I−9)のいずれか一項に記載する被覆発泡性樹脂ビーズを成型器内で発泡融着させる工程を有する、(III−1)に記載する発泡成形体の製造方法。
【0011】
(IV)被覆発泡性樹脂ビーズの特性改善方法
(IV−1)発泡成形体の製造に使用する被覆発泡性樹脂ビーズのポットライフを長期化するか、及び/又は、発泡成形体の発泡成形時の被覆発泡性樹脂ビーズ同士の融着性を改善する方法であって、
前記被覆発泡性樹脂ビーズのコーティング層を形成するコーティング組成物の成分として、フェノール樹脂及び硬化促進剤に加えて、アミノ酸及びその重合物以外のアミノ基含有化合物硬化緩和剤を用いることを特徴とする、前記方法。
(IV−2)前記硬化緩和剤が尿素、メラミン、メチルアミン、アニリン、及びリン酸グアニル尿素からなる群より選択される少なくとも1種である、(IV−1)に記載する方法。
(IV−3)前記フェノール樹脂の量は、前記発泡性樹脂ビーズ100質量部に対して30〜150質量部の範囲であり、
前記硬化促進剤の量は、前記フェノール樹脂100質量部に対して1〜6質量部の範囲内であり、
前記硬化緩和剤の量は、前記フェノール樹脂100質量部に対して1〜25質量部の範囲内である、
(IV−1)〜(IV−3)のいずれかに記載する方法。
(IV−4)前記硬化促進剤100質量部に対する前記硬化緩和剤の割合が1〜80質量部である、(IV−1)〜(IV−3)のいずれかに記載する方法。
(IV−5)前記発泡性樹脂ビーズが予備発泡されたものである、(IV−1)〜(IV−4)のいずれかに記載する方法。
(IV−6)前記発泡性樹脂ビーズが、ポリスチレン、スチレンアクリル共重合体、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる群から選択される少なくとも一種を含むものである、(IV−1)〜(IV−5)のいずれか一項に記載する方法。
(IV−7)前記コーティング組成物は、さらに無機粉末を含有するものである、(IV−1)〜(IV−6)のいずれか一項に記載する方法。
(IV−8)前記無機粉末の量は、前記フェノール樹脂100質量部に対して10〜200質量部の範囲である、(IV−7)に記載する方法。
(IV−9)前記無機粉末が、水酸化アルミニウム、赤リン、ホウ酸、ホウ酸亜鉛、水酸化マグネシウム、リン酸アルミニウム、ポリリン酸アンモニウム、酸化アンチモン、及び二酸化ケイ素からなる群から選択される少なくとも一種を含有するものである、(IV−7)又は(IV−8)に記載する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発泡成形体の製造に好適に使用することができる被覆発泡性樹脂ビーズ、及びその製造方法を提供することができる。より好適には、本発明によれば、発泡成形体の製造に使用するうえで良好な保存安定性及びポットライフを有し、発泡成形時に良好に融着することができる被覆発泡性樹脂ビーズ、及びその製造方法を提供することができる。このため、当該被覆発泡性樹脂ビーズを用いることで、成形不良が生じにくく、良質な発泡成形体を収率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(I)被覆発泡性樹脂ビーズ、及びその製造方法
本発明の被覆発泡性樹脂ビーズは、発泡性樹脂ビーズと、前記発泡性樹脂ビーズを被覆するコーティング層とを備える。
当該コーティング層は、フェノール樹脂、硬化促進剤、及びアミノ基含有化合物である硬化緩和剤を含有するコーティング組成物から形成することができる。また当該コーティング組成物には、さらに無機粉末を配合することもできる。
以下、発泡性樹脂ビーズ、及びコーティング組成物について説明する。
【0014】
(A)発泡性樹脂ビーズ
発泡性樹脂ビーズは、樹脂材料から作製され、圧縮されたガスを内蔵している。樹脂材料には、圧縮されたガスを内蔵し、加熱することで発泡する材料であればよく、制限されないものの、例えばポリスチレン、スチレンアクリル共重合体、アクリル樹脂、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選択される少なくとも一種が含まれる。これらは一種単独で使用されても、また二種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。樹脂材料として、好ましくは、ポリスチレン、及びスチレンアクリル共重合体の少なくとも一種であり、より好ましくはポリスチレンである。発泡性樹脂ビーズが内蔵するガスは、制限されないものの、例えばプロパン、ブタン及びペンタンからなる群のうち少なくとも一種が含まれる。これらのガスは一種単独で使用されても、また二種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。好ましくはブタンガスである。
【0015】
発泡性樹脂ビーズは、制限されないが、例えば、前記樹脂材料からなる粒子に、前記ガスを圧入して作製された未発泡の粒子(以下、これを「原料粒子」と称する)を、加熱して予備発泡させることで製造することができる。樹脂材料に対して圧入されるガスの割合は、ガス含有率として例えば5〜7質量%の範囲を挙げることができる。制限されないものの、予備発泡された発泡性樹脂ビーズの体積は、未発泡粒子である原料粒子の体積の例えば10〜90倍(発泡倍率)の範囲を挙げることができる。好ましくは20〜70倍であり、より好ましくは40〜70倍である。発泡性樹脂ビーズは、ほぼ球状の粒子であり、その平均粒径(モード径、篩い法)は、制限されないものの、例えば0.5〜5mmの範囲を挙げることができる。好ましくは0.5〜4mmであり、より好ましくは1〜3mmである。
【0016】
なお、「予備発泡」とは、後述するように発泡成形体を製造する際に、被覆発泡性樹脂ビーズを更に発泡(本発泡)させるため、このときの発泡と区別するための便宜上の用語である。
【0017】
(B)コーティング組成物
コーティング組成物は、少なくともフェノール樹脂、硬化促進剤、及びアミノ基含有化合物である硬化緩和剤を含有する。また、コーティング組成物は、前記成分に加えて、無機粉末などの任意成分を含有することもできる。以下に、これらの成分について説明する。
【0018】
(B1)フェノール樹脂
本発明で使用されるフェノール樹脂は、好ましくはレゾール型フェノール樹脂である。レゾール型フェノール樹脂は、公知のものを使用することができ、例えば、好ましくはフェノール、クレゾール、キシレノール、パラアルキルフェノール、パラフェニルフェノール、レゾルシン等のフェノール類及びその変性物と、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラール、アセトアルデヒド等のアルデヒド類とを、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ、又はトリメチルアミンやトリエチルアミン等の脂肪族アミンの存在下で反応させて得られるフェノール樹脂を挙げることができる。こうしたレゾール型フェノール樹脂は、例えば旭有機材株式会社、群栄化学工業株式会社、明和化成株式会社等から、商業的に入手することができる。
【0019】
コーティング組成物100質量%におけるフェノール樹脂の含有割合としては、本発明の効果を損なわない範囲であればよく、特に制限されないものの、乾燥物換算で、例えば30〜98質量%の範囲から設定することができる。好ましくは40〜96質量%、より好ましくは45〜60質量%の範囲である。なお、制限されないものの、フェノール樹脂は、不揮発分濃度が50〜80質量%の水溶液として調製された状態で使用される。
【0020】
(B2)硬化促進剤
硬化促進剤は、前記フェノール樹脂の硬化反応を促進するように作用するものである。硬化促進剤には、かかる作用を有する化合物が含まれ、例えばパラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、シュウ酸等の有機酸;塩酸、硫酸、及びリン酸等の無機酸を挙げることができる。これらは一種または二種以上を任意に組み合わせて用いることができる。好ましくは有機酸であり、より好ましくはパラトルエンスルホン酸を含んでいることが望ましい。こうした硬化促進剤は、例えば、楠本化成株式会社、明和化成株式会社等から、商業的に入手することができる。
【0021】
コーティング組成物中の硬化促進剤の含有割合としては、本発明の効果を損なわない範囲であればよく、特に制限されないものの、例えば前記フェノール樹脂100質量部に対して1〜6質量部の範囲内で設定することができる。好ましくは3〜5質量部、より好ましくは4〜5質量部の範囲である。なお、硬化促進剤は、濃度が50〜70質量%の水溶液として調製された状態で使用される。
【0022】
(B3)硬化緩和剤
本発明が対象とする硬化緩和剤は、アミノ基を有する化合物である。かかる化合物には、アミノ酸やその重合物(ペプチド、タンパク質)以外の低分子化合物が含まれ、具体的には、尿素、メラミン、メチルアミン、アニリン、リン酸グアニル尿素等の1〜3つのアミノ基を有する低分子化合物を例示することができる。好ましくは2又は3つのアミノ基を有する尿素やメラミン等の低分子化合物である。これらは一種または二種以上を任意に組み合わせて用いることができる。
【0023】
コーティング組成物中の硬化緩和剤の含有割合としては、本発明の効果を損なわない範囲であればよく、特に制限されないものの、例えば、前記フェノール樹脂100質量部に対して0.1〜25質量部の範囲内で設定することができる。好ましくは1〜15質量部、より好ましくは1〜10質量部である。特に硬化緩和剤として尿素やメラニンを用いる場合は、前記フェノール樹脂100質量部に対して好ましくは1〜8質量部の範囲、より好ましくは1〜6質量部の範囲に設定することができる。なお、硬化緩和剤は、制限されないものの、粉末状態のものを用いることができる。
【0024】
使用する粉末の粒径は、制限されないものの、10メッシュパス品(JIS試験篩い)、つまり粒径が1.7mm以下であることが望ましい。
【0025】
前記硬化促進剤100質量部に対する硬化緩和剤の割合(乾燥物換算)としては、本発明の効果を発揮する範囲であればよく、例えば10〜350質量部の範囲を挙げることができる。好ましくは10〜150質量部、より好ましくは25〜140質量部である。
【0026】
硬化緩和剤は、被覆発泡性樹脂ビーズのポットライフの長期化、又は/及び、発泡成形体製造時における被覆発泡性樹脂ビーズ同士を融着性改善に有効に寄与する成分である。理論に制限されないものの、硬化緩和剤は、前述する硬化促進剤と組み合わせて配合することで、フェノール樹脂の硬化反応が過度に進行することを抑制し、反応速度を適度に調節する作用を有するものと考えられる。
【0027】
(B4)無機粉末
無機粉末は、任意成分であるものの、コーティング組成物から形成されるコーティング層を難燃化するために使用することができる。無機粉末をコーティング組成物の一成分として使用することで、当該コーティング組成物から形成されるコーティング層で被覆された発泡性樹脂ビーズに難燃性を付与または強化することができるため、難然性の発泡性樹脂ビーズ及び発泡成形体を調製するうえでは、好適に使用される成分である。
【0028】
無機粉末は、前記効果を奏するものであればよく、その限りにおいて特に制限されるものではない。こうした機能が知られている無機粉末の一例として、水酸化アルミニウム、赤リン、ホウ酸、ホウ酸亜鉛、水酸化マグネシウム、リン酸アルミニウム、ポリリン酸アンモニウム、酸化アンチモン、及び二酸化ケイ素などを挙げることができる。これらは一種単独で使用してもよいし、二種以上を任意に組み合わせて用いることもできる。無機粉末は、特に、少なくとも水酸化アルミニウム及び赤リンのうちいずれか一方又は双方を含むことが好ましい。水酸化アルミニウム及び赤リンの少なくとも一種を配合することで、高い難燃性を有するコーティング層を形成することができる。また、これらの無機粉末は、フェノール樹脂の硬化反応を阻害しにくいという特性を有する。
【0029】
より好ましい組み合わせ態様としては、水酸化アルミニウム、及びホウ酸の組み合わせである。この場合、制限はされないものの、好適な配合比として、水酸化アルミニウム100質量部に対して、ホウ酸1〜30質量部、好ましくは5〜15質量部の範囲を例示することができる。
【0030】
使用する無機粉末の平均粒径は、制限されないものの、コーティング組成物中、ひいてはコーティング層内に良好に分散しやすい点から1μm以上、好ましくは1〜100μmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは平均粒径1〜50μmの範囲内である。なお、ここで平均粒径は、レーザー回折散乱法による測定結果から算出される体積基準の算術平均値である。
【0031】
コーティング組成物に無機粉末(総量)を配合する場合のその含有割合としては、本発明の効果を損なわない範囲であればよく、特に制限されないものの、例えば、前記フェノール樹脂100質量部(乾燥物換算)に対して10〜200質量部の範囲内で設定することができる。無機粉末を配合する場合、前述する効果を発揮しながら、難燃性を付与するという観点から、好ましくは30〜150質量部であり、より好ましくは75〜125質量部の範囲を例示することができる。
【0032】
(B5)他成分
コーティング組成物は、前記成分に加えて、溶媒を含有することができる。かかる溶媒は、前述する溶媒以外の成分が良好に分散又は溶解できるものであればよく、制限されないものの、好ましくは、例えば、水、親水性有機溶媒、又は水と親水性溶媒とを含有する混合溶媒である。親水性有機溶媒としては、制限されないものの、例えばメタノール、エタノールまたはプロパノールなどの低級アルコールを挙げることができる。好ましくは水、メタノール、又はこれらの混合物であり、より好ましくは水を含む水性溶媒である。なお、前述するように、フェノール樹脂及び硬化促進剤は、水を溶媒とした水溶液の状態で使用することができる。
【0033】
コーティング組成物には、前記成分に加えて、本発明の効果を妨げないことを限度として、例えば、二酸化チタン、酸化鉄、ウルトラマリン、カーボンブラック等の顔料を配合することもできる。
【0034】
コーティング組成物の調製は、制限されないが、例えば前述するフェノール樹脂含有水溶液中に、前述する硬化促進剤含有水溶液、硬化促進剤、硬化緩和剤、及び無機粉末、並びに必要に応じて任意成分を加えて撹拌することで行うことができる。
【0035】
斯くして、コーティング組成物は、好ましくは水性溶媒中にフェノール樹脂、硬化促進剤、及び硬化緩和剤、並びに必要に応じて無機粉末を始めとする任意成分が溶解または分散された状態のものとして調製することができる。なお、当該コーティング組成物における水性溶媒(溶媒総量)の割合は、制限されないものの、湿重量換算で5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%の範囲を挙げることができる。かかるコーティング組成物によれば、後述する付着工程において、予備発泡された発泡性樹脂ビーズの表面に満遍なくコーティング組成物を付着させることができ、また一定の厚さでコーティング層を形成することが可能になる。
【0036】
(C)被覆発泡性樹脂ビーズの製造方法
被覆発泡性樹脂ビーズは、下記の工程を有する方法で製造することができる。
(1)前述する予備発泡された発泡性樹脂ビーズの表面に、前述のコーティング組成物を付着させる工程(付着工程)、
(2)前記工程で調製したコーティング組成物付着発泡性樹脂ビーズを乾燥する工程(乾燥工程)。
【0037】
(付着工程)
付着は、制限されず、例えば前記発泡性樹脂ビーズと前記コーティング組成物とを混合して撹拌する方法、また前記発泡性樹脂ビーズの表面に前記コーティング組成物を噴霧するなど、任意の方法で、行うことができる。混合や噴霧は、自体公知の方法で実施することができ、制限されないが、例えば混練機(例えば、ブレンダー、またはミキサー等)や噴霧機を用いて行うことができる。
【0038】
発泡性樹脂ビーズに対して配合するコーティング組成物の割合は、発泡性樹脂ビーズ100質量部に対するフェノール樹脂の割合が30〜150質量部の範囲になるように適宜調整設定することができる。好ましくは50〜120質量部、より好ましくは60〜110質量部の範囲になるように調製される。
【0039】
付着は、制限されないが、少なくとも目視により発泡性樹脂ビーズの地肌が見えない状態になるまで実施される。
【0040】
(乾燥工程)
前記工程で調製されたコーティング組成物付着発泡性樹脂ビーズは、次いで乾燥工程に供される。
乾燥は、特に制限されず、例えば、送風乾燥、乾燥器内での乾燥、またはメッシュドラム乾燥器やトンネル型振動乾燥器などの乾燥装置を用いた乾燥方法を採用することができる。好ましくは、コーティング組成物付着発泡性樹脂ビーズを、混練機(例えば、ブレンダー、またはミキサー等)内で撹拌しながら送風することで乾燥する方法を例示することができる。乾燥は、発泡性樹脂ビーズの本発泡に影響を与えない温度であることが好ましく、例えば80℃以下の条件で実施することが望ましい。硬化反応が進みすぎず、適度に硬化反応を進行させることから、好ましくは40〜70℃、より好ましくは50〜70℃を挙げることができる。なお、制限されないが、乾燥時間としては、5〜30分間、好ましくは6〜15分間を挙げることができる。
【0041】
かかる乾燥処理により、予備発泡された発泡性樹脂ビーズの表面に付着したコーティング組成物を硬化させることができ、被覆発泡性樹脂ビーズを調製することができる。なお、この乾燥処理による硬化は、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂の硬化反応が完全に完了していない点において、半硬化ともいうことができる。
【0042】
フェノール樹脂の硬化反応が完全に完了せず、半硬化状態にある被覆発泡性樹脂ビーズは、それ自体粘着性を有さず、被覆発泡性樹脂ビーズ同士が塊化し難い状態である。しかし、これを後述する発泡成形体の製造工程に供することで、当該製造条件下では被覆発泡性樹脂ビーズ同士が接着して、多数の被覆発泡性樹脂ビーズの一体集合物(発泡成形体)が形成される。このため、前述する半硬化状態の被覆発泡性樹脂ビーズを安定して製造することで、それを用いた発泡成形体製造の歩留まりを上げることができる。
【0043】
なお、乾燥工程は、被覆発泡性樹脂ビーズが粘着性を有さず、被覆発泡性樹脂ビーズ同士が塊化しにくい状態まで乾燥したことを目安として、終了することができる。
【0044】
斯くして調製される被覆発泡性樹脂ビーズは、予備発泡された発泡性樹脂ビーズの表面に半硬化されたコーティング層が形成されている。
【0045】
本発明の被覆発泡性樹脂ビーズは、コーティング組成物の成分として硬化促進剤と組み合わせて硬化緩和剤を用いることで、保存安定性が改善され、硬化緩和剤を用いない場合と比べて、ポットライフを延長することができるという特徴を有する。なお、ポットライフとは、被覆発泡性樹脂ビーズを製造した後(乾燥処理後)、発泡成形することが可能な保存期間(貯蔵期間)を意味する。例えば硬化緩和剤を用いないで被覆発泡性樹脂ビーズを製造した場合、室温下でも硬化反応が進行し、時間経過とともに硬化が完了していく。このため、一般に、被覆発泡性樹脂ビーズの保存期間(貯蔵期間)が長く経過するほど、発泡成形が困難になる。
【0046】
被覆発泡性樹脂ビーズについて、発泡成形が可能か否か(発泡成形が困難か否か)は、対象とする被覆発泡性樹脂ビーズを用いて製造した発泡成形体を折り曲げることで破断させて、その破断面を目視で観察し、ビーズ破断率(%)を求めることで評価することができる。なお、ビーズ破断率(%)の求め方は、後述する実施例の記載に従うことができる。発泡成形が可能か否かの判断指標になりえるビーズ破断率(%)は、制限されないものの一例として50%を挙げることができる。ビーズ破断率(%)が50%を大きく下回る場合は、発泡成形が困難であると判断することができる。通常は、ビーズ破断率(%)が60%以上であれば、発泡成形体中における被覆発泡性樹脂ビーズ同士の融着性は高く、良好な品質の発泡成形体を製造することができる(歩留まりがよい)。
【0047】
また被覆発泡性樹脂ビーズについてポットライフが長いか否かは、コーティング組成物の成分として硬化緩和剤を用いない場合との比較で、相対的に評価される。具体的には、コーティング組成物の成分として硬化促進剤とともに硬化緩和剤を配合して製造した被覆発泡性樹脂ビーズを用いた発泡成形体(被験成形体)と、硬化緩和剤を配合しないで製造した被覆発泡性樹脂ビーズを用いた発泡成形体(比較成形体)とで、経時的にビーズ破断率を評価した場合に、被覆発泡性樹脂ビーズの保存時間の経過とともに、被験成形体よりも比較成形体のビーズ破断率のほうが低下する場合(比較成形体よりも被験成形体のビーズ破断率が高く維持される場合)、被覆発泡性樹脂ビーズについて、硬化緩和剤の使用により、ポットライフが長くなったと判断することができる。また、これは同時に硬化緩和剤の使用により、被覆発泡性樹脂ビーズの保存安定性が改善され良好でなったことを意味するものでもある。
【0048】
また、本発明の被覆発泡性樹脂ビーズは、後述する発泡成形体の製造時において、ビーズ同士の融着性に優れており、良質な発泡成形体を収率良く(歩留まりよく)製造することができるという利点を有する。
【0049】
(II)被覆発泡性樹脂ビーズの発泡成形体、及びその製造方法
本発明の発泡成形体は、前述する本発明の被覆発泡性樹脂ビーズを用いることで製造することができる。
【0050】
具体的には、本発明の被覆発泡性樹脂ビーズを、所望の成形型に充填して加熱することで、樹脂ビーズを発泡させるとともに、その表面に形成されたコーティング層同士を融着させて、発泡成形体を製造することができる。つまり、本発明の発泡成形体は、本発明の被覆発泡性樹脂ビーズ同士が表面のコーティング層を介して接着して構成されてなる、所定形状を有する集合体である。被覆発泡性樹脂ビーズの加熱は、制限されないものの、好適には、例えば加熱水蒸気を用いて行うことができる。加熱温度は好ましくは100〜130℃の範囲内であり、より好ましくは110〜120℃の範囲内である。加熱時間は、所定形状を有する成形体が形成できる時間であればよく、制限されないものの、好ましくは20〜180秒の範囲内、好ましくは60〜12秒の範囲内である。
【0051】
硬化緩和剤として、尿素及び/又はメラミンを含むコーティング組成物から形成されたコーティング層を有する被覆発泡性樹脂ビーズを用いることで、200℃もの高温下に置いた場合でも歪みが生じにくい発泡成形体を製造することができる。さらにコーティング組成物に無機粉末を配合することで、さらに高温条件下で歪みが生じにくく良好な形状保持性を有する発泡成形体を製造することができる。
【0052】
なお、発泡成形体は、制限されないものの、難燃性、断熱性、及び/又は衝撃吸収性を有する部材として、防火帽などを始めとする各種ヘルメットのライナー;壁材、天井材または建具の心材などとして好適に使用することができる。
【0053】
(III)被覆発泡性樹脂ビーズの特性改善方法
本発明はまた発泡成形体に使用する被覆発泡性樹脂ビーズのポットライフを長期化するか、及び/又は、発泡成形時の被覆発泡性樹脂ビーズ同士の融着性を改善する方法を提供する。
【0054】
当該方法は、前記被覆発泡性樹脂ビーズのコーティング層を形成する組成物の成分として、フェノール樹脂、及び硬化促進剤に加えて、アミノ基含有化合物である硬化緩和剤を用いることによって実施することができる。任意成分として、さらに無機粉末を配合することもできる。
【0055】
本発明で使用する発泡性樹脂ビーズ、そのコーティング層を形成する組成物(コーティング組成物)の構成成分である、フェノール樹脂、硬化促進剤、硬化緩和剤、及び任意成分である無機粉末の種類やその使用割合は、前記(I)の欄で説明した通りである。硬化緩和剤として、好ましくは、尿素及び/又はメラミンである。発泡性樹脂ビーズとコーティング組成物を用いた被覆発泡性樹脂ビーズの調製方法も前記(I)の欄で説明した通りである。
【0056】
本発明において、被覆発泡性樹脂ビーズのポットライフを長期化するとは、コーティング組成物の成分として、フェノール樹脂、及び硬化促進剤に加えて硬化緩和剤を用いることで、硬化緩和剤を用いない場合と比べて、ポットライフが長くなることを意味する。当該判断は、前記(I)に記載した通り、一定期間保存した被覆発泡性樹脂ビーズを用いて製造した発泡成形体について、ビーズ破断率を測定し、被覆発泡性樹脂ビーズの保存期間による経時的変化を評価することで行うことができる。こうした被覆発泡性樹脂ビーズの特性(ポットライフ、発泡成形時の被覆発泡性樹脂ビーズ同士の融着性)の評価方法は、具体的には下記の実験例において詳述するので、具体的には、その記載に従って実施することができる。
【0057】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0059】
下記の実験例で使用した材料は下記の通りである。
(A)予備発泡された発泡性樹脂ビーズ
発泡性樹脂ビーズとして、発泡性ポリスチレンビーズを使用した。具体的には、スチレンモノマーの重合工程において、ブタンガスを、質量含有率が5〜7%になるような割合で圧入することで製造された発泡性ポリスチレンビーズ原粒(直径0.7〜1.0mm)を原料として、これを予備発泡機で60倍の倍率で予備発泡することで、平均粒径(モード径、篩い法)が約3mmの発泡性ポリスチレンビーズを調製した。
【0060】
(B1)フェノール樹脂
フェノール樹脂として、明和化成株式会社製の工業用フェノール樹脂レゾールタイプ(品番XMWF−2520−LV)(不揮発分約75%の水溶液)を使用した。
【0061】
(B2)硬化促進剤
硬化促進剤として、パラトルエンスルホン酸とリン酸の混合液(不揮発分約65%の水溶液)を用いた。具体的には、明和化成株式会社製の品番MWA−70POを使用した。
【0062】
(B3)硬化緩和剤
硬化緩和剤として、下記のものを使用した。
(a)尿素:平均粒径が1mmの粉末製品(高杉製薬株式会社製)
(b)メラミン:平均粒径35μmの粉末製品(キシダ化学株式会社)
(c)メチルアミン:液体製品(キシダ化学株式会社)
(d)アニリン:液体製品(キシダ化学株式会社)
(e)リン酸グアニル尿素:粉末製品アピノン-405(株式会社三和ケミカル)
また比較対象品として、グリシン(結晶性粉末、キシダ化学株式会社製)を使用した。
【0063】
(B4)無機粉末
無機粉末として、実験例1では水酸化アルミニウム粉末(平均粒径8μm)と、赤リン粉末(平均粒径30μm)と、ホウ酸粉末(平均粒径80μm)との混合物(水酸化アルミニウム粉末:ホウ酸粉末=125:8[質量比])を、実験例2では前記水酸化アルミニウム粉末と前記ホウ酸粉末との混合物(水酸化アルミニウム粉末:ホウ酸粉末=10:1[質量比])を使用した。
【0064】
実験例1 被覆発泡性樹脂ビーズ、及び発泡成形体の製造、並びにその評価
(1)被覆発泡性樹脂ビーズの製造
容量250mLの容器にいれて、撹拌混練機を用いて、表1に記載する割合でコーティング組成物の全原料を撹拌しながら混合して、無機粉末が水に分散した懸濁状のコーティング組成物を調製した。なお、表1に記載する各成分の配合量はすべて固形換算量である。
【表1】
【0065】
次いで、各コーティング組成物1−1〜1−7の中に、フェノール樹脂75質量部に対して100質量部の割合になるように予備発泡した発泡性樹脂ビーズを添加し、室温条件で、撹拌しながら混合して、発泡性樹脂ビーズの表面に前記コーティング組成物を付着させた。続いて、得られた発泡性樹脂ビーズを撹拌しながら、これに温度70℃、相対湿度12%の乾燥した空気を8分間程度、吹きかけて、発泡性樹脂ビーズ表面上のコーティング組成物を乾燥させた。
【0066】
斯くして調製した、表面に単一のコーティング層を有する被覆発泡性樹脂ビーズを、5メッシュの篩い(JIS規格)にかけて、粒径が3〜4mmの範囲にある被覆発泡性樹脂ビーズ(被験ビーズ1−1〜1−7)を回収した。
【0067】
(2)発泡成形体の製造
上記で得られた各被覆発泡性樹脂ビーズ(被験ビーズ1−1〜1−7)を、後述する期間(1〜20日間)、30℃及び相対湿度17.5%の暗所条件で保存した後、その被覆発泡性樹脂ビーズ(体積800cm
3:軽くタップした状態で測定した粒子間空隙容積を含むビーズ集合物の体積)を、25mm×160mm×200mmの型容器(成形金型)にすり切れいっぱい充填し、蒸気加熱成形機を用いて、加熱温度120℃、加熱時間1分30秒の条件で加圧成形することで、25mm(厚み)×160mm(横幅)×200mm(縦幅)の寸法の平板状の発泡成形体を製造した。
【0068】
(3)発泡成形体の評価
製造日から、30℃で所定の期間(1〜20日間)保存した被覆発泡性樹脂ビーズを用いて製造した発泡成形体(被験成形体1−1〜1−7)の各々について、下記の方法により、成形金型からの離型性、ビーズ粒子間同士の融着性、及びポットライフを評価した。
【0069】
(イ)成形金型からの離型性
加熱成形して製造した発泡成形体を、成形金型に入った状態で冷水中で冷却した後、発泡成形体の浮力を利用して離型した。離型後の発泡成形体の破損の有無を目視で観察し、その結果から、下記の基準に従って、成形金型からの離型性を評価した。
[評価]
○(良好):発泡成形体に亀裂、破損が存在しない
×(不良):発泡成形体に亀裂、破損が1つ以上存在する
【0070】
(ロ)ビーズ粒子間同士の融着性(発泡成形体表面からの評価)
成形金型から押し出して離型した発泡成形体を、70℃、相対湿度12%の暗所条件で24時間放置した後、その表面状態を目視で観察して、下記の基準に従って、ビーズ粒子同士の融着性を評価した。
[評価]
○(良好):発泡成形体表面のビーズ粒子間に0.5mmを超える隙間が生じていない
△(やや不良):発泡成形体表面のビーズ粒子間に0.5mm以上の隙間が生じており、隙間を有するビーズが占める面積が発泡成形体表面の面積の10%以下である
×(不良):発泡成形体表面のビーズ粒子間に0.5mm以上の隙間が生じており、隙間を有するビーズが占める面積が発泡成形体表面の面積の10%を超える。
【0071】
(ハ)ポットライフ
被覆発泡性樹脂ビーズのポットライフは、当該樹脂ビーズを25℃以下の環境下で20日間保管できることが要求される。この評価は、被覆発泡性樹脂ビーズを所定温度条件下(本実験では30℃)で所定期間(本実験では1〜20日間)保存した後、それを用いて発泡成形し、形成された発泡成形体中における各ビーズ粒子同士の融着性を判定することで実施することができる。発泡成形体中における各ビーズ粒子同士の融着性は、成形金型から押し出して離型した発泡成形体を、70℃、相対湿度12%の暗所条件で24時間放置した後、人の手で、長手方向のほぼ中間地点を折り曲げることで破断させ、その破断面を目視で観察することで実施した。ビーズ粒子同士の融着性が悪ければ、ビーズ粒子本体自体は破断せず、ビーズ粒子同士の接着面(コーティング層)のところで剥離破壊する割合が高くなる。具体的には、破断面に現れている被覆発泡性樹脂ビーズの粒子総数100%に対する、ビーズ本体が破断したビーズの総数の割合(%)から評価することができる。ビーズ破断率(%)が多いほど、発泡成形体中でのビーズ粒子同士の融着性は高くなり、ポットライフが良好になる。好ましくは、ビーズ破断率(%)が60%以上であれば、発泡成形体中でのビーズ粒子同士の融着性は高いと評価することができ、また、その状態を維持する期間(被覆発泡性樹脂ビーズの保存期間)が長くなるほど、保存安定性が良好でポットライフが長いと評価することができる。
【0072】
被験成形体1−1〜1−7について上記離型性、ビーズ粒子間同士の融着性(表面評価)、及びビーズ破断率を測定し評価した結果を表2に示す。
【表2】
【0073】
表2の結果から、発泡成形体の離型性は、硬化緩和剤配合の有無に関わらず、被覆発泡性樹脂ビーズを製造後一定期間保存することで改善することが確認された。一方、発泡成形体の製造時の樹脂ビーズ同士の融着性は、硬化緩和剤を配合しないと、被覆発泡性樹脂ビーズを製造後一定期間保存することで低下する傾向が認められた(被覆発泡性樹脂ビーズの保存安定性低下)。また、その傾向は硬化促進剤の配合割合を多くするほど強く認められた(被験成形体1−1〜1−3)。
【0074】
これに対して、硬化促進剤と組み合わせて硬化緩和剤を配合することで、発泡成形体の製造時の樹脂ビーズ同士の融着性を有意に改善することができた(被験成形体1−4〜1−7)。また硬化促進剤と硬化緩和剤を併用することで、被覆発泡性樹脂ビーズを製造後一定期間保存した場合でも、高い融着性を維持することが確認された(保存安定性の改善、ポットライフ長期化)。
【0075】
実験例2 被覆発泡性樹脂ビーズ、及び発泡成形体の製造、並びにその評価
(1)被覆発泡製樹脂ビーズの製造
表3〜6に記載する組成からなるコーティング組成物を用いて、実験例1と同様にして被覆発泡製樹脂ビーズを製造した。なお、表3〜6に記載する各成分の配合量はすべて固形換算量である。具体的には、表3〜6に記載する処方をもとに実験例1と同様にして調製したコーティング組成物2−1〜2−30の中に、フェノール樹脂75質量部に対して100質量部の割合になるように予備発泡した発泡性樹脂ビーズを添加し、室温で撹拌することで各コーティング組成物を樹脂ビーズ表面に付着させ、次いで実験例1と同様に乾燥処理を行い、表面に単一のコーティング層を有する被覆発泡性樹脂ビーズを調製した。これを実験例1と同様に篩いに掛けて、粒径3〜4mmの範囲にある被覆発泡性樹脂ビーズ(被験ビーズ2−1〜2−30)を回収した。
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
【表5】
【0079】
【表6】
【0080】
(2)発泡成形体の製造
前記で製造した各被覆発泡性樹脂ビーズ(被験ビーズ2−1〜2−30)を、後述する期間(1〜20日間)、30℃及び相対湿度17.5%の暗所条件で保存した後、実験例1と同様の条件で、蒸気加熱成形機を用いて加圧成形することで、25mm(厚み)×160mm(横幅)×200mm(縦幅)の寸法の平板状の発泡成形体を製造した。
【0081】
(3)発泡成形体の評価
各被覆発泡性樹脂ビーズを用いて製造した発泡成形体(被験成形体2−1〜2−30)の各々について、実験例1と同様に、成形金型からの離型性、ビーズ粒子間同士の融着性、及びポットライフ(ビーズ破断率)を評価した。
また、1日間保存した被覆発泡性樹脂ビーズを用いて製造した発泡成形体を、70℃、相対湿度12%の暗所条件で24時間放置した後、25mm×100mm×150mmの寸法にカットし、恒温乾燥器に入れて、200℃条件で20分間放置し、恒温乾燥器から取り出し常温に戻した後に形状保持性を評価した。形状保持性は、下記方法で体積保持率(%)を測定するとともに、目視で歪発生の有無を確認することで、評価した。
[体積保持率(%)の測定]
恒温乾燥器に入れる前後の寸法を測定し、入れる前の体積を100%とした場合の体積保持率(%)を計算した。
【0082】
結果を表7〜10に示す。
【0083】
【表7】
【0084】
【表8】
【0085】
【表9】
【0086】
【表10】
【0087】
表7に示すように、コーティング組成物に硬化緩和剤として尿素やメラミンのようにアミノ基を2以上有する低分子化合物を配合することで、硬化緩和剤を配合しない場合(被験成形体2−1〜2−3)と比較して、発泡成形体の製造時の樹脂ビーズ同士の融着性が有意に改善するとともに、被覆発泡性樹脂ビーズを製造後一定時間保存した後でも高い融着性を維持することができること(ポットライフの長期化)が確認された(被験成形体2−4〜2−9)。なお、硬化緩和剤を配合した場合でも、発泡成形体を高温加熱処理した際に歪みの発生はなく、また所望の体積保持率(85%以上)を維持しており、高温雰囲気下での形状保持性に優れていることが確認された。これらの結果は、表8に示すように、コーティング組成物に更に無機粉末を配合した場合でも同様に得られた(被験成形体2−13〜2−18)。特に、無機粉末を配合することで、硬化促進剤の配合量の増加に伴うビーズ粒子間も融着性の低下(ビーズ破断率の低下)が抑制され、さらに発泡成形体を高温加熱処理した際の体積保持率が高く維持できることが確認された。
【0088】
表9に示すように、コーティング組成物に硬化緩和剤としてメチルアミン、アニリン、又はリン酸グアニル尿素のようにアミノ基を1つ有する低分子化合物を配合することで、硬化緩和剤を配合しない場合(被験成形体2−1〜2−3)と比較して、発泡成形体の製造時の樹脂ビーズ同士の融着性が有意に改善することが確認された(被験成形体2−19〜2−27)。中でもリン酸グアニル尿素は、被覆発泡性樹脂ビーズを製造後一定時間保存した後でも高い融着性を維持することができ、ポットライフの長期化に効果を発揮することが確認された(被験成形体2−25〜2−27)。但し、これらの硬化緩和剤を使用すると、発泡成形体を高温加熱処理した際に歪みが発生し、また体積保持率が低下する現象が認められた。
【0089】
一方、表10に示すように、アミノ基を有する低分子化合物であってもグリシン等のようにアミノ酸を配合しても、前述する本発明の効果は得られなかった(表10参照、被験成形体2−28〜2−30)。
これらのことから、本発明のコーティング組成物に配合する硬化緩和剤として、アミノ基を1〜3つ、好ましくは2〜3つ有する低分子化合物であって、アミノ酸やその重合物以外の化合物が、本発明の効果を発揮するうえで有用であることが確認された。