(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6978847
(24)【登録日】2021年11月16日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】排熱回収ボイラ
(51)【国際特許分類】
F22B 37/40 20060101AFI20211125BHJP
F22B 1/18 20060101ALI20211125BHJP
F16J 15/04 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
F22B37/40
F22B1/18 J
F16J15/04 Z
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-61938(P2017-61938)
(22)【出願日】2017年3月27日
(65)【公開番号】特開2018-162959(P2018-162959A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2019年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱パワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098017
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 宏嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【弁理士】
【氏名又は名称】米山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】川手 康大
(72)【発明者】
【氏名】本山 潔
(72)【発明者】
【氏名】桐山 達夫
【審査官】
岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−163304(JP,A)
【文献】
特開2017−72342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 37/40
F22B 1/18
F16J 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横型の煙道を形成するケーシングと、前記ケーシング内に収容され、排ガスが流通される内部構造物と、前記ケーシングの内壁と前記内部構造物との間に形成される隙間を流れる前記排ガスのショートパスを遮断するシール機構とを備え、
前記シール機構は、前記内部構造物の前記排ガスの上流側の周縁部に対応させて、該周縁部の延在方向に沿って前記ケーシングの内壁に支持して設けられたバッフル部材と、該バッフル部材に片持ち支持され自由状態にて前記ケーシングの内壁に略平行に延在された弾性材からなるシール板とを有し、
前記シール板は、片持ち支持された固定端側から自由端側に向かって前記ケーシングの内壁から離れる方向に弾性の範囲内で湾曲された湾曲部を有し、該湾曲部の前記自由端側の凸側板面が前記内部構造物の周縁部の前記排ガスの上流側に対向する面に形成されたシール面に接触させて設けられてなり、
前記内部構造物の設定された位置に設けられる前記シール機構には、前記シール板の前記湾曲部を設定曲率以上の湾曲に保持する曲率保持部材を備え、
前記曲率保持部材は、前記バッフル部材に一端が支持され、他端が前記シール板の前記湾曲部の凸側の板面に当接して、前記設定曲率以上の湾曲に保持するように形成されてなることを特徴とする排熱回収ボイラ。
【請求項2】
前記内部構造物の設定された位置に設けられる前記シール機構は、前記内部構造物の前記排ガスの上流側と下流側の熱伸び差によって前記内部構造物が反り、前記バッフル部材と前記内部構造物のシール面との距離が設定値以上に達する位置に設けられるシール機構であることを特徴とする請求項1に記載の排熱回収ボイラ。
【請求項3】
前記内部構造物は、前記ケーシングの底部構造物に支持されて自立して前記ケーシングに収容され、
前記内部構造物の設定された位置に設けられる前記シール機構は、少なくとも前記ケーシングの天井壁と対向する前記内部構造物の上部周縁部に設けられるシール機構であることを特徴とする請求項1又は2に記載の排熱回収ボイラ。
【請求項4】
前記曲率保持部材は、前記内部構造物の周縁部に沿って連続して又は間隔を空けて設けられていることを特徴とする請求項1に記載の排熱回収ボイラ。
【請求項5】
前記シール板は、前記固定端から前記自由端までの長さが異なる複数のプレートを積層して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の排熱回収ボイラ。
【請求項6】
横型の煙道を形成するケーシングと、前記ケーシング内に収容され、排ガスが流通される内部構造物と、前記ケーシングの内壁と前記内部構造物との間に形成される隙間を流れる前記排ガスのショートパスを遮断するシール機構とを備え、
前記シール機構は、前記内部構造物の前記排ガスの上流側の周縁部に対応させて、該周縁部の延在方向に沿って前記ケーシングの内壁に支持して設けられたバッフル部材と、該バッフル部材に片持ち支持され自由状態にて前記ケーシングの内壁に略平行に延在された弾性材からなるシール板とを有し、
前記シール板は、片持ち支持された固定端側から自由端側に向かって前記ケーシングの内壁から離れる方向に弾性の範囲内で湾曲された湾曲部を有し、該湾曲部の前記自由端側の凸側板面が前記内部構造物の周縁部の前記排ガスの上流側に対向する面に形成されたシール面に接触させて設けられてなり、
前記内部構造物の設定された位置に設けられる前記シール機構には、前記シール板の前記湾曲部を設定曲率以上の湾曲に保持する曲率保持部材を備え、
前記バッフル部材は、前記ケーシングの内壁に略平行に延在された先端部を備え、
前記曲率保持部材は、前記バッフル部材の先端部をその先端が前記シール板の前記湾曲部の凸側の板面に当接するように折り曲げて、前記バッフル部材と一体に形成されてなることを特徴とする排熱回収ボイラ。
【請求項7】
前記バッフル部材は、断面がL字状に形成され、L字の一端側を前記ケーシングの内壁に支持させて、他端側を前記ケーシングの内壁に略平行に前記内部構造物の前記周縁部に向けて設けられ、
前記曲率保持部材は、断面がL字状に形成され、L字の一端側を前記バッフル部材の他端側に支持させて、前記ケーシングの内壁に略平行に前記内部構造物の前記周縁部に向けて設けられ、該L字の他端側の先端が前記シール板の前記湾曲部の凸側の板面に当接するように設けられてなることを特徴とする請求項1に記載の排熱回収ボイラ。
【請求項8】
前記シール板は、第1の平板部材を介して前記バッフル部材に固定され、
前記シール面は、前記内部構造物の周縁部に固定された第2の平板部材の表面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の排熱回収ボイラ。
【請求項9】
前記第1の平板部材と前記第2の平板部材は、前記内部構造物の周縁部の延在方向に沿って複数に分割して形成され、
前記シール板は、前記第1の平板部材と前記第2の平板部材の分割に合わせて複数に分割されていることを特徴とする請求項8に記載の排熱回収ボイラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービン等の排ガスの熱を回収して蒸気を発生する排熱回収ボイラに関する。
【背景技術】
【0002】
排熱回収ボイラの煙道を構成するケーシング内には、排熱を回収する過熱器、再熱器、蒸発器及び節炭器などの熱交換器を構成する伝熱管構造物が収容される。また、排ガス中の窒素酸化物等の有害物質を除去する脱硝触媒を組付けた構造物が収容される。これらの伝熱管構造物及び脱硝触媒構造物を、本明細書においては内部構造物と総称する。
【0003】
これらの内部構造物は、ケーシング内に設置して排ガスが流通される。また、ケーシングと内部構造物の熱伸び差を考慮して、内部構造物の外周壁とケーシング内壁との間に隙間が形成される。しかし、その隙間を通って排ガスが内部構造物を流通しないショートパスがあると、熱回収率が低下したり、有害物の除去率が低下するという不都合がある。そこで、その隙間を遮断するシール機構(シールシステム)が設けられている(例えば、特許文献1,2)。
【0004】
特許文献1の熱回収ボイラは、排ガスが下部から上部に向けて流通される、いわゆる縦型のダクト(煙道)内に、排ガス流に沿って複数の内部構造物である伝熱管群を順次配置して構成されている。各内部構造物は、ダクト内壁面と対向する両側面に平板状のバッフルを配置し、ダクト内壁面とバッフルとの隙間を通る排ガスの上昇流のショートパスを遮断するシール機構が設けられている。特に、シール機構は、バッフルに支持させてダクト内壁面に向けて略水平に張り出され、排ガス流に直交する方向に延在されたショートパス防止板と、このショートパス防止板の先端部に片持ち支持された弾性材からなるシール板とを備えて構成されている。シール板は、固定端に対して円弧状に湾曲させ、自由端側をダクト内壁面に向けて伸長してダクト内壁面に摺接させて設けられる。これにより、排熱回収ボイラの構造物の熱伸びによる異常応力の発生させないで、ダクトとバッフル間の排ガスのショートパスを防止することができる。なお、縦型のダクト内の排ガス流の向きが下向きの場合も、同様のシール機構を設けることが可能である。
【0005】
一方、特許文献2には、排ガスが横方向に流通される横型のダクト(煙道)の熱回収ボイラが開示されている。横型の熱回収ボイラの場合は、特許文献3に具体的に記載されているように、排ガス流に沿って複数の伝熱管構造物を順次配置する構造である。特許文献2、3では、内部構造物として、伝熱管構造物の他に脱硝触媒構造物を収容している。この場合も、煙道を形成する横型のケーシング内壁と内部構造物の外周壁との間に隙間が形成される。そこで、特許文献2には、内部構造物の排ガスの上流側の周縁部に、ケーシング内壁面と内部構造物の外周との隙間を通る排ガスのショートパスを遮断するシール機構を設けている。
【0006】
特許文献2のシール機構は、ケーシングの内壁にショートパスを遮るバッフル部材を設け、バッフル部材に弾性材からなるシール板を片持ち支持させ、シール板を円弧状に湾曲させ、湾曲させた凸面を排ガスの下流側に向けて、自由端側の板面を内部構造物の排ガスの上流側の周縁部に形成されたシール面に接触させて構成されている。このようなシール機構によれば、特許文献1と同様に、ケーシングと内部構造物の熱伸び差が生じても、弾性材からなるシール板が熱伸び差を吸収し、シール板の自由端とシール面との接触位置が摺動するので、排ガスのショートパスを遮断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許5374349号
【特許文献2】特許5581494号
【特許文献3】特開2008-082626
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、技術開発に伴って、コンバインドサイクルのガスタービンの排ガスの温度が高温化される傾向にある。また、排熱回収ボイラ内の排ガス流速も高速化(動圧増大)される傾向にある。排ガス温度が高くなると、例えば、起動時における温度変化や、負荷変化によって内部構造物の排ガスの上流側と下流側の温度差が一時的に大きくなることがある。これにより、内部構造物の上流側と下流側の温度差による一時的な熱伸び差が発生すると、この熱伸び差によって内部構造物が全体的に反る、熱反りが発生するおそれがある。従来のシール機構は、内部構造物の熱反りには、対応できないおそれがある。
【0009】
例えば、横型の熱回収ボイラの場合、内部構造物である脱硝触媒構造物は、一般に、フレーム部材に複数の触媒層を3次元状に配置して直方体状に組み付けられる。このような脱硝触媒構造物は、横型のケーシングの底部側に設けたベース部材に支持する自立型の支持構造が採用されることがある。自立型の脱硝触媒構造物の上端は自由端であるから、上流側のフレーム部材と下流側のフレーム部材の温度差が大きいと、下部の支持点から離れた上部側が下流側に大きく反り返ることになる。特に、脱硝触媒構造物の上流側と下流側の排ガスの温度差が大きくなると、排ガスの反りが極めて大きくなる。また、排ガス流の高速化により、脱硝触媒構造物に作用する動圧が増大して反りを助長するおそれがある。
【0010】
このように、自立型の脱硝触媒構造物の熱反りが極めて大きくなると、ケーシング側に支持されたバッフル部材に対して、脱硝触媒構造物の上部の周縁部に形成されたシール面との距離が大きく離れ、弾性を有するシール板の円弧状の湾曲が伸び切ってしまうことがある。シール板の自由端がシール面から離れると、排ガスのショートパスの遮断機能が失われる。なお、シール板が伸び切らないまでも、シール板の弾性力でシール面から跳ね上がって、シール面から離れてしまうことが考えられる。シール板がそのような状態になると、排ガスの温度変化が収まって、脱硝触媒構造物の熱反りが減少しても、一旦伸び切ったシール板は初期状態(湾曲)に戻らない。そのため、シール機構の機能が回復しないので、プラントを停止して修理する必要がある。
【0011】
上述のような問題は、自立型の内部構造物に限られるものではなく、横型ケーシングの上部構造部材から吊下げられた脱硝触媒構造物の場合にも起こり得る。つまり、吊下げ型の内部構造物の場合、フレーム部材の上流側と下流側の温度差が大きくなり、直方体状のフレーム部材の下端側の自由端が下流側に反り返ることになる。この反り量は、自重が作用するので自立型に比べれば小さいが、同様の問題が起こり得る。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、ケーシング内壁と内部構造物との間のショートパスを遮断する弾性材からなるシール板が内部構造物の熱反りにより機能を失っても、熱反りが回復したときに機能を回復可能な排熱回収ボイラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明の排熱回収ボイラは、横型の煙道を形成するケーシングと、前記ケーシング内に収容され、排ガスが流通される内部構造物と、前記ケーシングの内壁と前記内部構造物との間に形成される隙間を流れる前記排ガスのショートパスを遮断するシール機構とを備え、前記シール機構は、
前記内部構造物の前記排ガスの上流側の周縁部に対応させて、該周縁部の延在方向に沿って前記ケーシングの内壁に支持
して設けられたバッフル部材と、
該バッフル部材に片持ち支持され自由状態にて前記ケーシングの内壁に略平行に延在された弾性材からなるシール板とを有し
、前記シール板は、片持ち支持された固定端側から自由端側に向かって前記ケーシングの内壁から離れる方向に弾性の範囲内で湾曲された湾曲部を有し、該湾曲部の前記自由端側の凸側板面が前記内部構造物の周縁部の前記排ガスの上流側に対向する面に形成されたシール面に接触させて設けられてなり、前記内部構造物の設定された位
置に設けられる前記シール機構には、前記シール板
の前記湾曲部を設定曲率以上の湾曲に保持する曲率保持部材を備え
、前記曲率保持部材は、前記バッフル部材に一端が支持され、他端が前記シール板の前記湾曲部の凸側の板面に当接して、前記設定曲率以上の湾曲に保持するように形成されてなることを特徴とする。
【0014】
本発明のシール機構(ショートパス防止機構)によれば、次に述べる作用により、課題を解決することができる。上述したように、従来は、内部構造物の上流側と下流側の温度差が大きくなると、内部構造物の熱反りによって、シール機構が復帰できない場合がある。しかし、本発明によれば、内部構造物の熱反りによってシール面がバッフル部材から大きく離れても、シール板の円弧状の湾曲がバッフル部材に支持された曲率保持部材によって、設定曲率以上に保持される。その結果、排熱回収ボイラを流通する排ガスの温度変化が収まって内部構造物の熱反りが小さくなる過程で、シール板の自由端の板面がシール面に接触し、内部構造物の反りの復帰力でシール板が再び円弧状に湾曲される。これにより、内部構造物の反りが復帰したときにシール機構が回復して、シール機構の機能が回復する。
【0015】
つまり、本発明によれば、運転中の排熱回収ボイラにおいて、過剰な応力を発生することなく内部構造物の熱膨張に追従して、内部構造物の上流側と下流側との間に発生するガス温度差により内部構造物が下流側に反り返っても、排熱回収ボイラの排ガス温度が定常状態になれば、シール機構の機能を回復させることができる。
【0016】
この場合において、予め設定された位置の周縁部とは、内部構造物の排ガスの上流側と下流側の熱伸び差によって内部構造物が熱反りし、バッフル部材と内部構造物のシール面との距離が設定値以上に達するような内部構造物の周縁部であればよい。
【0017】
したがって、ケーシングの底部構造物に支持されて自立してケーシングに収容され自立型の内部構造物の場合は、予め設定された位置の周縁部は、少なくともケーシングの天井壁と対向する内部構造物の上部周縁部である。また、上部周縁部につながる側部の周縁部を含めてもよいが、側部の周縁部は従来型のシール機構でもよい。一方、吊下げ型の内部構造物の場合は、少なくともケーシングの底部壁と対向する内部構造物の下部周縁部である。また、下部周縁部につながる内部構造物の側部の周縁部を含めてもよいが、側部の周縁部は従来型のシール機構でもよい。
【0018】
また、曲率保持部材は、内部構造物の周縁部に沿って連続して又は間隔を空けて設けてもよい。さらに、曲率保持部材は、シール板の凸面に接する湾曲部を有し、該湾曲部は設定曲率以上の曲面に形成してもよい。
【0019】
シール板は、固定端から自由端までの長さが異なる複数のプレートを積層して形成してもよい。
【0020】
シール板の固定端は、ケーシングの内壁に平行にバッフル部材に固定することが好ましい。この場合、シール板を固定するケーシングの内壁に平行な面をバッフル部材に形成してもよく、シール板を固定するケーシングの内壁に平行な面を有する部材をバッフル部材に固定して設けてもよい。
【0021】
曲率保持部材は、バッフル部材と一体に形成してもよく、別部材により形成してバッフル部材に固定してもよい。また、バッフル部材は、断面がL字状に形成され、L字の一端をケーシングの内壁に支持され、他端を内面に略平行にして内部構造体の周縁に向けて設けられ、曲率保持部材は、バッフル部材の内面に略平行に向けた他端の先端部を内面から離れる方向に、設定曲率に応じて折り曲げて一体に形成されてなる曲率保持部であってもよい。
【0022】
シール板は、第1の平板部材を介してバッフル部材に固定され、シール面は、内部構造物の周縁部に固定された第2の平板部材の表面に形成してもよい。この場合、第1の平板部材と第2の平板部材は、内部構造物の周縁部の延在方向に沿って複数に分割して形成され、シール板は、第1の平板部材と第2の平板部材の分割に合わせて複数に分割して形成する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ケーシング内壁と内部構造物との間のショートパスを遮断する弾性材からなるシール板が内部構造物の熱反りにより機能を失っても、熱反りが回復したときに機能を回復可能な排熱回収ボイラを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の横型の排熱回収ボイラの一実施形態の一部を破断して示す外観斜視図である。
【
図2】本発明の排熱回収ボイラの一実施形態の要部断面を示す模式図である。
【
図3】本発明の排熱回収ボイラの一実施形態のシール機構を示す断面図である。
【
図4】本発明のシール機構の効果を説明する従来のシール機構の断面図である。
【
図5】本発明の排熱回収ボイラの他の実施形態のシール機構を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に示すように、本発明が適用される一実施形態の横型の排熱回収ボイラ1は、横型の煙道を形成するケーシング3内に、伝熱管群からなる複数の伝熱管構造物5が排ガス2の流れ方向に沿って収容されている。これらの伝熱管構造物5には、ガスタ−ビンで仕事をした後の排ガス2が流通され、排ガスの持つエネルギーを回収して蒸気を発生させる。発生した蒸気は、汽水分離ドラム6を介して外部の蒸気タービンに供給して発電するコンバインドサイクル発電プラントに使用される。また、複数の伝熱管構造物5の間の適度な排ガス温度領域に位置させて、脱硝触媒構造物20が収容されている。なお、ケーシング3は、鋼板からなる左右側壁面と上下壁面と、これらを補強する補強部材10などを備えて構成されている。なお、本実施形態の伝熱管構造物5は、吊り下げ型の内部構造物であるが、自立型の伝熱管構造物の場合があり、本発明を適用する対象となる場合がある。
【0026】
本実施形態の脱硝触媒構造物20には、
図2に示す断面図ように、ガスタービンから排出される高温の排ガス2が、矢印に示されるように、排熱回収ボイラ1のケーシング3で構成される煙道を上流から下流へ流通される。煙道内には、窒素酸化物等の有害物質を除去する脱硝触媒構造物20が収容されている。ケーシング3の天井壁3aの内面には断熱材3bが設けられ、底部壁3cには断熱材3dが設けられている。なお、図に表れていないが、ケーシング3の左右両側壁も同様の形成されている。また、図示していないが、脱硝触媒構造物20は、フレーム部材に複数の触媒層を3次元状に組み付けて直方体状に形成されている。直方体状の脱硝触媒構造物20は、下部を横型のケーシング3の底部側に設けたベース部材21に支持され、上部はケーシング3の天井壁3aから隙間4を離して、支持されない自立型構造となっている。本実施形態の脱硝触媒構造物20に係るシール機構が本発明の課題に顕著に対応する。
【0027】
次に、本発明の特徴部であるシール機構の詳細について説明する。本実施形態のシール機構30は、
図2に示すように、脱硝触媒構造物20の排ガスの上流側の上部の周縁部に対向させて、ケーシング3の天井壁3aと脱硝触媒構造物20との間に形成される隙間4を流れる排ガスのショートパスを遮断するように設けられている。なお、図示していないが、脱硝触媒構造物20の上流側の上部以外の周縁部にもシール機構が対向させて設けられている。しかし、本実施形態では、それらのシール機構は、基本的に従来構造のシール機構で対応可能であるとする。すなわち、本発明のシール機構30は、内部構造物である脱硝触媒構造物20の予め設定された位置の周縁部に設ければよい。
【0028】
図3に、シール機構30を排ガス2の流れに直交する方向から見た部分断面図を示す。同図(a)に示すように、シール機構30は、脱硝触媒構造物20の上部の周縁部から所定の距離を離して設けられ、ケーシング3の天井壁3aに支持して設けられたバッフル部材31と、バッフル部材31に片持ち支持された弾性材からなるシール板32と、脱硝触媒構造物20の上端部の周縁部に形成されたシール面33とを備えて構成されている。シール板32は、弾性の高い材料を使用して形成され、例えば、ステンレス鋼等の薄板を重ねた板ばね構造を用いて形成されている。しかし、これに限られるものではない。
【0029】
シール板32は、バッフル部材31に片持ち支持された固定端と、固定されていない自由端とを有する。シール板32は天井壁3aに略平行にバッフル部材31に支持され、天井壁3aから離れる方向に延在させて設けられている。特に、固定端と自由端の間を湾曲させて、その凸面を排ガスの下流側に向け、自由端側の板面をシール面33に接触させて形成されている。また、本実施形態のシール板32は、バッフル部材31に支持させて、湾曲を設定曲率以上に保持する曲率保持部材34が備えられている。
【0030】
なお、シール板32の固定端は、L字型の鋼材からなるバッフル部材31の天井壁3aの内面に平行な面に、例えばボルト・ナット35で固定されている。しかし、バッフル部材31はL字型の鋼材に限られるものではなく、天井壁3aの内面に平行な面を有する形状であればよく、要はシール板32を天井壁3aの内面に平行に固定できればよい。すなわち、シール板32は、ケーシング3の内壁に平行にバッフル部材31に固定して片持ち支持することが好ましい。この場合、シール板32を固定するケーシング3の内壁に平行な面をバッフル部材31に形成してもよく、シール板32を固定するケーシング3の内壁に平行な面を有する部材をバッフル部材31に固定して設けてもよい。
【0031】
本実施形態の曲率保持部材34は、バッフル部材31に固定され、シール面33側に延びる基部34aと、基部34aの先端からシール板32の湾曲部に向かって垂下された抑え部34bを備えて形成される。抑え部34bの先端位置は、シール板32の湾曲を設定曲率以上に保持するように設定される。つまり、図
4(b)に示すように、脱硝触媒構造物20の上流側と下流側の熱伸び差により反りが発生し、シール板32の自由端がシール面33から離れても、設定曲率以上に保持する位置に抑え部34bの先端が設けられている。
【0032】
このように構成されることから、本実施形態のショートパス防止機構であるシール機構30によれば、脱硝触媒構造物20の熱反りによってシール面33がバッフル部材31から大きく離れても、シール板32の湾曲が曲率保持部材34の抑え部34bの先端によって、シール板32の弾性力が抑えられるから、設定曲率以上に保持される。その結果、排熱回収ボイラを流通する排ガスの温度変化が収まって、脱硝触媒構造物20の熱反りが小さくなる過程で、シール板32の自由端の板面がシール面33に接触し、脱硝触媒構造物20の反りの復帰力でシール板32が再び湾曲される。これにより、
図3(c)に示すように、脱硝触媒構造物20の反りが復帰したときにシール機構が回復して、シール機構の機能が回復する。
【0033】
ここで、曲率保持部材34を設けていない従来のシール機構を
図4に示し、本実施形態の効果を説明する。
図4が
図3と異なる点は、曲率保持部材34を設けていない点だけである。したがって、
図3と同一の部品には、同一の符号を付して説明を省略する。
図4(a)の定常状態から、
図4(b)のように、脱硝触媒構造物20の熱反りが極めて大きくなると、バッフル部材31に対して、脱硝触媒構造物20の上部の周縁部に形成されたシール面33との距離が大きく離れる。その結果、
図4(c)に示すように、弾性を有するシール板32の自由端がシール面33から離れて湾曲が伸び切ってしまうことから、排ガスのショートパスの遮断機能が失われる。なお、シール板32の弾性力で自由端がシール面33から跳ね上がって、シール面から離れてしまうことも考えられる。一旦、この状態になると、排ガスの温度変化が収まって、脱硝触媒構造物20の反りが減少しても、伸び切ったシール板32は初期状態(湾曲)に戻らない。そのため、従来のシール機構の機能は回復しないので、プラントを停止して修理する他ない。
【0034】
以上説明したように、本実施形態によれば、運転中の排熱回収ボイラにおいて、過剰な応力を発生することなく内部構造物である脱硝触媒構造物20の熱膨張に追従して、内部構造物の上流側と下流側との間に発生するガス温度差により内部構造物が下流側に反り返っても、排熱回収ボイラの排ガス温度が定常状態に至れば、シール機構の機能を回復させることができる。
【0035】
ここで、上記実施形態において、予め設定された位置の周縁部とは、脱硝触媒構造物20の排ガスの上流側と下流側の熱伸び差によって脱硝触媒構造物20が熱反りし、バッフル部材31とシール面33との距離が設定値以上に達するおそれがある周縁部である。したがって、自立型の内部構造物の場合の設定される周縁部は、少なくともケーシングの天井壁と対向する内部構造物の上部周縁部である。一方、吊下げ型の内部構造物の場合は、少なくともケーシングの底部壁と対向する内部構造物の下部周縁部を検討対象とする。
【0036】
曲率保持部材34は、上記実施形態に限られるものではなく、内部構造物である脱硝触媒構造物20の周縁部に沿って連続して、又は間隔を空けて設けてもよい。さらに、曲率保持部材34は、シール板32の凸面に接する湾曲部を有し、該湾曲部は設定曲率以上の曲面に形成してもよい。また、シール板32は、固定端から自由端までの長さが異なる複数の薄板の弾性板を積層して形成してもよい。
【0037】
また、シール板は、第1の平板部材を介してバッフル部材に固定され、シール面は、内部構造物の周縁部に固定された第2の平板部材の表面に形成してもよい。この場合、第1の平板部材と第2の平板部材は、内部構造物の周縁部の延在方向に沿って複数に分割して形成され、シール板は、第1の平板部材と第2の平板部材の分割に合わせて複数に分割して形成する。
【0038】
図5に、本発明の他の実施形態のシール機構40の構成を斜視図により示す。本実施形態は、バッフル部材
41と一体に、曲率保持部44を形成した例である。図示のように、シール機構40は、脱硝触媒構造物20の上部の周縁部から所定の距離を離して設けられる。バッフル部材41
は、断面がL字状の鋼材から形成され、L字の一端を図示していないケーシングの天井壁に支持させて、他端を脱硝触媒構造物20側に向けて設けられる。弾性材からなるシール板
42は、バッフル部材41のケーシングの天井壁に平行な支持部41aと押え板46により挟持して、片持ち支持されている。また、シール板
42は、天井壁から離れる方向に湾曲して凸面側の自由端を、脱硝触媒構造物20の上部の周縁部に形成されたシール面43に接触させて設けられている。シール板
42は、弾性の高い材料を使用して形成されている。
【0039】
本実施形態の曲率保持部44は、バッフル部材41の支持部41aの先端部を天井壁3aから離れる方向に折り曲げてバッフル部材41と一体に形成されている。曲率保持部44の折り曲げ角度は、予め設定されたシール板42の湾曲を設定曲率以上に保持する角度になっている。また、曲率保持部44は、折り曲げ角度を保持するように、バッフル部材41に固定されたリブ45により補強されている。曲率保持部44は、シール板42を自由端よりも固定端に近い部位で曲げを付与するように形成されている。
【0040】
これにより、脱硝触媒構造物20の熱反りが大きくなって、シール板42の自由端側がシール面43から離れた後も、曲率保持部44によりシール板42の湾曲形状が離れたときの状態に維持される。これにより、脱硝触媒構造物20の熱反りが解消されて、脱硝触媒構造物20が元の位置に復帰したとき、シール板42の自由端側が、再び、脱硝触媒構造物20のシール面と接し、脱硝触媒構造物20の復帰力で元の湾曲状態に回復する。これにより、シール機構40の機能を回復することができる。
【0041】
以上述べたように、本発明は、内部構造物の熱反りが大きくなって、シール板の自由端側がシール面から離れた後も、曲率保持部材によりシール板の湾曲形状が離れたときの状態に維持されるから、内部構造物が元の位置に復帰したとき、内部構造物の復帰力でシール板が元の湾曲状態に回復し、シール機構の機能を回復することができる。
【0042】
上述したように、本発明は、内部構造物の熱反りが大きくなって、シール機構を構成するシール板の自由端側がシール面から離れた後も、曲率保持部材によりシール板の湾曲形状が離れたときの状態に維持することを本旨とした。これに代えて、シール板の長さを十分に長くすることにより、内部構造物の熱反りが大きくなっても、シール板の自由端側がシール面から離れないようにすれば、本発明の課題は生じない。
【0043】
しかし、弾性材からなるシール板を長くするのは、弾性材が高価であることから、経済性の点で問題がある。また、シール板を長くすると、これに合わせてシール面の長さを長くすることになり、内部構造物の排ガスを流通させる領域を侵食してシール面を形成することは好ましくない。
【0044】
以上、本発明を一実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の主旨の範囲で変形又は変更された形態で実施することが可能であることは、当業者にあっては明白なことであり、そのような変形又は変更された形態が本願の特許請求の範囲に属する。
【符号の説明】
【0045】
1 排熱回収ボイラ
2 排ガス
3 ケーシング
3a 天井壁
3b 断熱材
5 伝熱管構造物
20 脱硝触媒構造物
30 シール機構
31 バッフル部材
32 シール板
33 シール面
34 曲率保持部材