【文献】
Yoshitaka Kurosaka, et al.,“Phase-modulating lasers toward on-chip integration”,Scientific Reports,2016年07月26日,Vol.6,30138
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記X−Y平面に直交するとともに前記位相変調層の厚み方向に一致したZ方向に沿った、前記複数の第1異屈折率領域それぞれの長さが、互いに等しいことを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の半導体発光素子。
前記複数の第2異屈折率領域それぞれが、対応する前記単位構成領域R(x,y)において、その重心G2が前記格子点O(x,y)と一致するように配置されていることを特徴とする、請求項8に記載の半導体発光素子。
前記X−Y平面に直交するとともに前記位相変調層の厚み方向に一致したZ方向に沿った、前記複数の第1異屈折率領域それぞれの長さが、互いに等しいことを特徴とする、請求項11〜15の何れか一項に記載の製造方法。
前記複数の第2異屈折率領域それぞれが、対応する前記単位構成領域R(x,y)において、その重心G2が前記格子点O(x,y)と一致するように配置されていることを特徴とする、請求項18に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容それぞれを個別に列挙して説明する。
【0011】
(1) 本実施形態に係る半導体発光素子は、半導体基板の主面の法線方向、および/または、該法線方向に対して所定の傾きと広がり角を有する傾斜方向に沿って任意形状の光像を出力するデバイスであり、本実施形態に係る半導体発光素子の製造方法は、係るデバイスを製造する。このような本実施形態に係る半導体発光素子およびその製造方法における一態様において、当該半導体発光素子は、半導体基板と、第1クラッド層と、活性層と、第2クラッド層と、コンタクト層と、位相変調層と、を備える。具体的に、第1クラッド層は、半導体基板上に設けられる、活性層は,第1クラッド層上に設けられる。第2クラッド層は、活性層上に設けられるとともに、第1クラッド層の屈折率以下の屈折率を有する。コンタクト層は、第2クラッド層上に設けられる。位相変調層は、第1クラッド層と活性層との間、または、活性層と第2クラッド層との間に設けられる。また、位相変調層は、所定の屈折率を有する基本層と、該基本層の屈折率とは異なる屈折率をそれぞれが有する複数の第1異屈折率領域と、により構成されている。
【0012】
特に、本実施形態に係る半導体発光素子およびその製造方法における一態様では、第1の前提条件として、法線方向に一致するZ軸と、複数の第1異屈折率領域を含む位相変調層の一方の面に一致した、互いに直交するX軸およびY軸を含むX−Y平面と、により規定されるXYZ直交座標系において、該X−Y平面上に、それぞれが正方形状を有するM1(1以上の整数)×N1(1以上の整数)個の単位構成領域Rにより構成される仮想的な正方格子が設定される。
【0013】
第2の前提条件として、XYZ直交座標系における座標(x,y,z)は、
図67に示されたように、動径の長さrと、Z軸からの傾き角θ
tiltと、X−Y平面上で特定されるX軸からの回転角θ
rotと、で規定される球面座標(r,θ
tilt,θ
rot)に対して、以下の式(1)〜式(3)で示された関係を満たしているものとする。なお、
図67は、球面座標(r,θ
tilt,θ
rot)からXYZ直交座標系における座標(x,y,z)への座標変換を説明するための図であり、座標(x,y,z)により、実空間であるXYZ直交座標系において設定される所定平面上の設計上の光像が表現される。半導体発光素子から出力される光像に相当するビームパターンを角度θ
tiltおよびθ
rotで規定される方向に向かう輝点の集合とするとき、角度θ
tiltおよびθ
rotは、以下の式(4)で規定される規格化波数であってX軸に対応したKx軸上の座標値k
xと、以下の式(5)で規定される規格化波数であってY軸に対応するとともにKx軸に直交するKy軸上の座標値k
yに換算されるものとする。規格化波数は、仮想的な正方格子の格子間隔に相当する波数を1.0として規格化された波数を意味する。このとき、Kx軸およびKy軸により規定される波数空間において、光像に相当するビームパターンを含む特定の波数範囲が、それぞれが正方形状のM2(1以上の整数)×N2(1以上の整数)個の画像領域FRで構成される。なお、整数M2は、整数M1と一致する必要はない。同様に、整数N2は、整数N1と一致する必要もない。また、式(4)および式(5)は、例えば、Y. Kurosaka etal.," Effects ofnon-lasing band in two-dimensional photonic-crystal lasers clarified usingomnidirectional band structure," Opt. Express 20, 21773-21783 (2012)に開示されている。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【0014】
第3の前提条件として、波数空間において、Kx軸方向の座標成分k
x(1以上M2以下の整数)とKy軸方向の座標成分k
y(1以上N2以下の整数)とで特定される画像領域FR(k
x,k
y)それぞれを、X軸方向の座標成分x(1以上M1以下の整数)とY軸方向の座標成分y(1以上N1以下の整数)とで特定されるX−Y平面上の単位構成領域R(x,y)に二次元逆フーリエ変換することで得られる複素振幅F(x,y)が、jを虚数単位として、以下の式(6)で与えられる。また、この複素振幅F(x,y)は、振幅項をA(x,y)とするとともに位相項をP(x,y)とするとき、以下の式(7)により規定される。更に、第4の前提条件として、単位構成領域R(x,y)が、X軸およびY軸にそれぞれ平行であって単位構成領域R(x,y)の中心となる格子点O(x,y)において直交するs軸およびt軸で規定される。
【数6】
【数7】
【0015】
上記第1〜第4の前提条件の下、位相変調層は、以下の第1および第2条件を満たすよう構成される。すなわち、第1条件は、単位構成領域R(x,y)内において、複数の第1異屈折率領域のうち対応する何れかが、その重心G1が格子点O(x,y)から離れた状態で配置されていることである。また、第2条件は、格子点O(x,y)から対応する第1異屈折率領域の重心G1までの線分長r(x,y)がM1個×N1個の単位構成領域Rそれぞれにおいて共通の値に設定された状態で、格子点O(x,y)と対応する第1異屈折率領域の重心G1とを結ぶ線分と、s軸と、の成す角度φ(x,y)が、
φ(x,y)=C×P(x,y)+B
C:比例定数であって例えば180°/π
B:任意の定数であって例えば0
なる関係を満たすように、該対応する第1異屈折率領域が単位構成領域R(x,y)内に配置されることである。
【0016】
発明者らは、研究の結果、上述の網目状の暗部を有するノイズ光が、半導体発光素子の内部での積層方向の高次モードに起因することを突き止めた。ここで、積層方向の基本モードとは、活性層を含み第1クラッド層と第2クラッド層で挟まれた領域に亘って1つのピークが存在する強度分布を有するモードのことであり、高次モードとは、2以上のピークが存在する強度分布を有するモードのことである。なお、基本モードの強度分布のピークが活性層近傍に形成されるのに対し、高次モードの強度分布のピークは第1クラッド層、第2クラッド層、コンタクト層などにも形成される。また、積層方向のモードとしては導波モードと漏れモードとが存在するが、漏れモードは安定して存在しないので、ここでは導波モードのみに着目する。また、導波モードには、層の面内方向に電界ベクトルが存在するTEモードと、層面の垂直方向に電界ベクトルが存在するTMモードとがあるが、ここではTEモードのみに着目する。発明者らは、活性層とコンタクト層との間の第2クラッド層(上部クラッド層)の屈折率が、活性層と半導体基板との間の第1クラッド層(下部クラッド層)の屈折率よりも大きい場合に、そのような高次モードが顕著に生じることを見出した。通常、活性層およびコンタクト層の屈折率は、各クラッド層の屈折率よりも格段に大きい。したがって、第2クラッド層の屈折率が第1クラッド層の屈折率よりも大きい場合、第2クラッド層にも光が閉じ込められ、導波モードが形成される。これによって高次モードが生じる。
【0017】
上述のような構造を有する半導体発光素子では、第2クラッド層の屈折率が、第1クラッド層の屈折率以下となっている。これにより、上述のような高次モードの発生が抑制され、ビームパターンに重畳される網目状の暗部を有するノイズ光が低減され得る。
【0018】
また、位相変調層において、仮想的な正方格子を構成する各単位構成領域の中心(格子点)と、対応する異屈折率領域の重心G1との距離rは、位相変調層全体に亘って一定値であることが好ましい。これにより、位相変調層全体における位相分布(単位構成領域R(x,y)に割り当てられた複素振幅F(x,y)における位相項P(x,y)の分布)が0〜2π(rad)まで等しく分布している場合、平均すると、異屈折率領域の重心は正方格子における単位構成領域Rの格子点に一致することとなる。したがって、上記の位相変調層における二次元分布ブラッグ回折効果は、正方格子の各格子点上に異屈折率領域が配置された場合の二次元分布ブラッグ回折効果に近づくこととなるので、定在波の形成が容易となり、発振のための閾値電流低減を期待できる。
【0019】
(2)本実施形態に係る半導体発光素子およびその製造方法の一態様として、第1クラッド層、活性層、および第2クラッド層は、III族元素のGa,Al,InおよびV族元素のAsからなる群に含まれる元素により構成される化合物半導体層であるのが好ましい。また、第2クラッド層の屈折率は、第1クラッド層の屈折率よりも小さいのが好ましい。この場合も、上述のように高次モードの発生が抑制され、ビームパターンに重畳される網目状の暗部を有するノイズ光が低減され得る。
【0020】
(3)本実施形態に係る半導体発光素子およびその製造方法の一態様として、光導波路層と、該光導波路層に隣接する2層とにより構成された3層スラブ導波路構造は、以下の条件を満たすのが好ましい。具体的には、当該3層スラブ導波路構造における光導波路層は、位相変調層の屈折率が第1クラッド層の屈折率よりも小さい場合に活性層により構成される。一方、光導波路層は、位相変調層の屈折率が第1クラッド層の屈折率以上である場合に位相変調層および活性層により構成される。なお、何れの場合も、光導波路層は、第1および第2クラッド層は含まない。このような3層スラブ導波路構造において、TEモードでの規格化導波路幅V
1を以下の式(8)および(9)によって規定し、非対称パラメータa’および規格化伝搬係数bを以下の式(10)および(11)をそれぞれ満たす実数とするとき、規格化導波路幅V
1の解が1つのみ存在する範囲内に収まるよう、規格化導波路幅V
1および規格化伝搬係数bが設定されている。
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
ここで、TEモードは層厚方向の伝搬モード、n
1は活性層を含む光導波路層の屈折率、n
2は光導波路層に隣接する層のうち屈折率の高い層の屈折率、N
1はモード次数、n
cladは第1クラッド層の屈折率、n
3は光導波路層に隣接する層のうち屈折率の低い層の屈折率、n
effは3層スラブ導波路構造におけるTEモードの等価屈折率である。
【0021】
発明者らの研究によれば、活性層を含む光導波路層(高屈折率層)においても高次モードが発生することが分かった。そして、光導波路層の厚さおよび屈折率を適切に制御することにより、高次モードを抑制できることを見出した。すなわち、光導波路層の規格化導波路幅V
1の値が上述の条件を満たすことにより、高次モードの発生が更に抑制され、ビームパターンに重畳される網目状の暗部を有するノイズ光のより一層低減が可能になる。
【0022】
(4)本実施形態に係る半導体発光素子およびその製造方法の一態様として、コンタクト層と、該コンタクト層に隣接する2層とにより構成された別の3層スラブ導波路構造は、以下の条件を満たすのが好ましい。具体的に、このような別の3層スラブ導波路構造において、コンタクト層の規格化導波路幅V
2を以下の式(12)および(13)によって規定し、非対称パラメータa’および規格化伝搬係数bを以下の式(14)および(15)をそれぞれ満たす実数とするとき、規格化導波路幅V
2が解なしとなる範囲内に収まるよう、規格化導波路幅V
2および規格化伝搬係数bが設定されている。
【数12】
【数13】
【数14】
【数15】
ここで、n
4はコンタクト層の屈折率、n
5はコンタクト層に隣接する層のうち屈折率の高い層の屈折率、n
6はコンタクト層に隣接する層のうち屈折率の低い層の屈折率、N
2はモード次数、n
effは上記別の3層スラブ導波路構造におけるTEモードの等価屈折率である。
【0023】
このように、コンタクト層の厚さを適切に制御することにより、コンタクト層に起因する導波モードの発生が抑制され、レーザ素子に生じる高次モードの発生が更に抑制され得る。
【0024】
(5)本実施形態に係る半導体発光素子およびその製造方法の一態様として、X―Y平面内において、複数の第1異屈折率領域それぞれの大きさは、互いに等しいのが好ましい。また、本実施形態に係る半導体発光素子およびその製造方法の一態様として、X−Y平面に直交するとともに位相変調層の厚み方向に一致したZ方向に沿った、複数の第1異屈折率領域それぞれの長さは、互いに等しいのが好ましい。発明者らが検討した結果、例えばドライエッチングプロセスにより異屈折率領域を形成する場合、孔の大きさ(すなわちX―Y平面内における各異屈折率領域の大きさ)が異なる場合には、孔の深さ(すなわちZ方向における各異屈折率領域の長さ)も異なる場合があることを見出された。Z方向における各異屈折率領域の長さがばらつくと、意図しない位相ずれが生じるため出力ビームパターンの再現性が低下する。したがって、X―Y平面内における各異屈折率領域の大きさは位相変調層全体に亘って一定値であることが好ましく、同様の理由により、Z方向における各異屈折率領域の長さは位相変調層全体に亘って一定値であることが好ましい。
【0025】
(6)本実施形態に係る半導体発光素子およびその製造方法の一態様として、X−Y平面において、複数の第1異屈折率領域それぞれの形状は、鏡像対称性を有するのが好ましい。また、本実施形態に係る半導体発光素子およびその製造方法の一態様として、X−Y平面において、複数の第1異屈折率領域それぞれの形状は、180°の回転対称性を有しないのが好ましい。更に、本実施形態に係る半導体発光素子およびその製造方法の一態様として、X−Y平面において、複数の第1異屈折率領域は、同一形状を有するのが好ましい。発明者らが検討した結果、各異屈折率領域のX―Y平面内の形状が鏡像対称性を有する場合には、高い精度でパターニングできることが見出された。また、各異屈折率領域のX―Y平面内の形状が180°の回転対称性を有しない場合には、光出力が増大することが見出された。また、複数の異屈折率領域のX―Y平面内における形状が互いに同一である場合には、ビームパターン内におけるノイズ光およびノイズとなる0次光の発生が抑制できることが見出された。
【0026】
(7)本実施形態に係る半導体発光素子およびその製造方法の一態様として、位相変調層は、正方格子を構成する単位構成領域それぞれに設けられた、複数の第1異屈折率領域とは別の複数の第2異屈折率領域を備えてもよい。具体的には、位相変調層は、M1×N1個の単位構成領域Rそれぞれに対応して設けられた複数の第2異屈折率領域を更に有する。このとき、複数の第2異屈折率領域のうち単位構成領域R(x,y)内に設けられた第2異屈折率領域は、X−Y平面において、単位構成領域R(x,y)の格子点O(x,y)を含み、かつ、対応する第1異屈折率領域から離れた領域内に配置されるのが好ましい。更に、本実施形態に係る半導体発光素子およびその製造方法の一態様として、複数の第2異屈折率領域それぞれは、対応する単位構成領域R(x,y)において、その重心G2が格子点O(x,y)と一致するように配置されるのが好ましい。発明者らが検討した結果、位相変調層において、所望のビームパターンが得られるよう設計された第1異屈折率領域の配列を含む領域の外周部に、格子点上に形成された別の第2異屈折率領域を含む領域が設けられた場合、面内方向での光漏れが抑制され、発振閾値電流が低減することが見出された。
【0027】
(8)本実施形態に係る半導体発光素子およびその製造方法の一態様として、光像を形成するためのビームは、活性層に対して第2クラッド層側から出射されてもよい。これにより、半導体基板における光吸収が低減され、該半導体発光素子の光出力効力を高めることが可能になる。このような構成は、特に赤外領域の光像を出力する場合に有効である。
【0028】
以上、この[本願発明の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
【0029】
[本願発明の実施形態の詳細]
本願発明に係る半導体発光素子およびその製造方法の具体例を、以下に添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、これら例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図されている。また、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0030】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る半導体発光素子の一例として、レーザ素子1Aの構成を示す図である。また、
図2は、第1実施形態に係る半導体発光素子の他の例である。なお、
図1では、レーザ素子1Aの厚さ方向をZ軸とするXYZ直交座標系が定義されている。このレーザ素子1Aは、X―Y面内において定在波を形成し、位相制御された平面波をZ方向に出力するレーザ光源(2次元的な任意形状の光像を出力する光源)であって、後述するように、半導体基板10の主面10aに垂直な方向(法線方向)および該法線方向に対して所定の広がり角を有する方向に沿って、該光像を形成するためのビームを出力する。
【0031】
レーザ素子1Aは、半導体基板10上に設けられた下部クラッド層11(第1クラッド層)と、下部クラッド層11上に設けられた活性層12と、活性層12上に設けられた上部クラッド層13(第2クラッド層)と、上部クラッド層13上に設けられたコンタクト層14と、を備える。これらの半導体基板10および各層11〜14は、例えばGaAs系半導体、InP系半導体、もしくは窒化物系半導体といった化合物半導体によって構成される。下部クラッド層11のエネルギーバンドギャップ、および上部クラッド層13のエネルギーバンドギャップは、活性層12のエネルギーバンドギャップよりも大きい。
【0032】
レーザ素子1Aは、活性層12と上部クラッド層13との間に設けられた位相変調層15Aを更に備える。なお、必要に応じて、活性層12と上部クラッド層13との間、および、活性層12と下部クラッド層11との間のうち少なくとも一方に、光ガイド層が設けられてもよい。光ガイド層が活性層12と上部クラッド層13との間に設けられる場合、位相変調層15Aは、上部クラッド層13と光ガイド層との間に設けられる。
【0033】
図2に示されたように、位相変調層15Aは、下部クラッド層11と活性層12との間に設けられてもよい。さらに、光ガイド層が活性層12と下部クラッド層11との間に設けられる場合、位相変調層15Aは、下部クラッド層11と光ガイド層との間に設けられる。
【0034】
半導体基板10、および半導体基板10上に設けられる各半導体層の屈折率の関係は次の通りである。すなわち、下部クラッド層11および上部クラッド層13の各屈折率は、半導体基板10、活性層12、およびコンタクト層14の各屈折率よりも小さい。更に、本実施形態では、上部クラッド層13の屈折率は、下部クラッド層11の屈折率と等しいか、それよりも小さい。位相変調層15Aの屈折率は、下部クラッド層11(または上部クラッド層13)の屈折率より大きくてもよく、小さくてもよい。
【0035】
ここで、活性層12を含む光導波路層の好適な厚さについて説明する。前提として、位相変調層15Aの屈折率が下部クラッド層11の屈折率より小さい場合、光導波路層が活性層12のみを含むものとして(光導波路層は下部クラッド層11、上部クラッド層13、および位相変調層15Aは含まない)、このような光導波路層と、該光導波路層に隣接する上下の2層とからなる3層スラブ導波構造とみなす。一方、位相変調層15Aの屈折率が下部クラッド層11の屈折率以上の場合には、光導波路層が位相変調層15Aおよび活性層12を含むものとして(下部クラッド層11および上部クラッド層13は含まない)、このような光導波路層と、該光導波路層に隣接する上下の2層とからなる3層スラブ導波構造とみなす。なお、層厚方向の導波モードはTEモードとする。このとき、光導波路層の規格化導波路幅V
1とTEモードの規格化伝搬定数bは以下の式(16)によって規定される。
【数16】
ただし、光導波路層に導波モードが形成されるとき(モード次数はN
1)、導波モードが下部クラッド層11を経て半導体基板10に漏れないためには、TEモードの等価屈折率が下部クラッド層11の屈折率よりも高い必要があり、規格化伝搬定数bが以下の式(17)を満たす必要がある。
【数17】
このとき、上記式(16)および式(17)を満たす規格化導波路幅V
1の解が1つのみとなる範囲内であれば、光導波路層を導波するモードは単一となる。a’,bは、それぞれ3層スラブ導波路における非対称パラメータと規格化伝搬定数を表し、以下の式(18)および式(19)をそれぞれ満たす実数である。なお、式(18)および式(19)中、n
cladは下部クラッド層11の屈折率、n
1は活性層12を含む光導波路層の屈折率、n
2は光導波路層に隣接する層のうち屈折率の高い層の屈折率、n
3は光導波路層に隣接する層のうち屈折率の低い層の屈折率、n
effは光導波路層と光導波路層に隣接する上下の2層とからなる3層スラブ導波路構造に対するTEモードの等価屈折率である。
【数18】
【数19】
【0036】
また、光導波路層の規格化導波路幅V
1は以下の式(20)によって表される。
【数20】
ただし、dは光導波路層の厚さであり、また、真空中の波数k
0および比屈折率差Δは、以下の式(21)および式(22)により与えられ、λは発光波長である。
【数21】
【数22】
【0037】
コンタクト層14の好適な厚さは次の通りである。すなわち、コンタクト層14と、コンタクト層14に隣接する上下の2層とからなる3層スラブ導波路構造において、規格化導波路幅V
2およびTEモードの規格化伝搬定数bは以下の式(23)によって規定される。
【数23】
ただし、コンタクト層に導波モードが形成されるとき(モード次数はN
2)、導波モードが下部クラッド層11を経て半導体基板10に漏れないためには、TEモードの等価屈折率が第1クラッド層の屈折率よりも高い必要があり、規格化伝搬定数bが以下の式(24)を満たす必要がある。
【数24】
このとき、上記式(23)および式(24)を満たす規格化導波路幅V
2が解なしの範囲内であれば、コンタクト層14を導波するモードは基本モードすら存在しなくなる。
【0038】
a’,bは、それぞれ3層スラブ導波路における非対称パラメータと規格化伝搬定数を表し、以下の式(25)および式(26)をそれぞれ満たす実数である。なお、式(25)および式(26)中において、n
4はコンタクト層14の屈折率、n
5はコンタクト層14と隣接する層のうち屈折率の高い層の屈折率、n
6はコンタクト層14と隣接する層のうち屈折率の低い層の屈折率、n
effはコンタクト層14および隣接する上下の2層からなる3層スラブ導波路構造に対するTEモードの等価屈折率である。
【数25】
【数26】
【0039】
コンタクト層14の規格化導波路幅V
2は以下の式(27)によって表される。
【数27】
ただし、dはコンタクト層の厚さであり、また、真空中の波数k
0および比屈折率差Δは、以下の式(28)および式(29)により与えられ、λは発光波長である。
【数28】
【数29】
【0040】
位相変調層15Aは、第1屈折率媒質からなる基本層15aと、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなり、基本層15a内に存在する複数の異屈折率領域15b(第1異屈折率領域)とにより構成されている。複数の異屈折率領域15bは、略周期構造を含んでいる。位相変調層15Aの実効屈折率をnとした場合、位相変調層15Aが選択する波長λ
0(=a×n、aは格子間隔)は、活性層12の発光波長範囲内に含まれている。位相変調層(回折格子層)15は、活性層12の発光波長のうちの波長λ
0を選択し、選択された波長の光を外部に出力することができる。
【0041】
レーザ素子1Aは、コンタクト層14上に設けられた電極16と、半導体基板10の裏面10b上に設けられた電極17とを更に備える。電極16はコンタクト層14とオーミック接触しており、電極17は半導体基板10とオーミック接触している。更に、電極17は開口17aを有する。コンタクト層14上における電極16以外の部分は、保護膜18によって覆われている。なお、電極16と接触していないコンタクト層14は、取り除かれてもよい。半導体基板10の裏面10bのうち電極17以外の部分(開口17a内を含む)は、反射防止膜19によって覆われている。なお、開口17a以外の領域にある反射防止膜19は取り除かれてもよい。
【0042】
電極16と電極17との間に駆動電流が供給されると、活性層12内において電子と正孔の再結合が生じる(発光)。この発光に寄与する電子および正孔、並びに発生した光は、下部クラッド層11および上部クラッド層13の間に効率的に閉じ込められる。
【0043】
活性層12から出射されたレーザ光は、位相変調層15Aの内部に入射し、位相変調層15Aの内部の格子構造に応じた所定のモードを形成する。位相変調層15A内で散乱されて出射されるレーザ光は、電極16において反射し、裏面10bから開口17aを通って外部へ出射される。このとき、レーザ光の0次光は、主面10aに垂直な方向へ出射される。これに対し、レーザ光の信号光は、主面10aに垂直な方向(法線方向)および該法線方向に対して所定の広がり角を有する方向に沿って出射される。所望の光像を形成するのは信号光であって、0次光は本実施形態では使用されない。
【0044】
一例として、半導体基板10はGaAs基板であり、下部クラッド層11、活性層12、位相変調層15A、上部クラッド層13、およびコンタクト層14は、それぞれIII族元素のGa,Al,InおよびV族元素のAsからなる群に含まれる元素により構成される化合物半導体層である。具体的な例としては、下部クラッド層11はAlGaAs層であり、活性層12は多重量子井戸構造(障壁層:AlGaAs/井戸層:InGaAs)を有し、位相変調層15Aの基本層15aはGaAsであり、異屈折率領域15bは空孔であり、上部クラッド層13はAlGaAs層であり、コンタクト層14はGaAs層である。
【0045】
また、他の例として、半導体基板10はInP基板であり、下部クラッド層11、活性層12、位相変調層15A、上部クラッド層13、およびコンタクト層14は、III族元素のGa,Al,InおよびV族元素のAsからなる群に含まれる元素のみでは構成されない化合物半導体、例えばInP系化合物半導体からなる。具体的な例としては、下部クラッド層11はInP層であり、活性層12は多重量子井戸構造(障壁層:GaInAsP/井戸層:GaInAsP)を有し、位相変調層15Aの基本層15aはGaInAsPであり、異屈折率領域15bは空孔であり、上部クラッド層13はInP層であり、コンタクト層14はGaInAsP層である。
【0046】
更に他の例として、半導体基板10はGaN基板であり、下部クラッド層11、活性層12、位相変調層15A、上部クラッド層13、およびコンタクト層14は、III族元素のGa,Al,InおよびV族元素のAsからなる群に含まれる元素のみでは構成されない化合物半導体層であり、例えば窒化物系化合物半導体からなる。具体的な例としては、下部クラッド層11はAlGaN層であり、活性層12は多重量子井戸構造(障壁層:InGaN/井戸層:InGaN)を有し、位相変調層15Aの基本層15aはGaNであり、異屈折率領域15bは空孔であり、上部クラッド層13はAlGaN層であり、コンタクト層14はGaN層である。
【0047】
なお、下部クラッド層11には半導体基板10と同じ導電型が付与され、上部クラッド層13およびコンタクト層14には半導体基板10とは逆の導電型が付与される。一例では、半導体基板10および下部クラッド層11はn型であり、上部クラッド層13およびコンタクト層14はp型である。位相変調層15Aは、活性層12と下部クラッド層11との間に設けられる場合、半導体基板10と同じ導電型を有する。一方、位相変調層15Aは、活性層12と上部クラッド層13との間に設けられる場合、半導体基板10とは逆の導電型を有する。なお、不純物濃度は例えば1×10
17〜1×10
21/cm
3である。
【0048】
また、上述の構造では、異屈折率領域15bが空孔となっているが、異屈折率領域15bは、基本層15aとは屈折率が異なる半導体が空孔内に埋め込まれて形成されてもよい。その場合、例えば基本層15aの空孔がエッチングにより形成されてもよい。有機金属気相成長法、スパッタ法またはエピタキシャル法を用いて半導体が空孔内に埋め込まれてもよい。また、基本層15aの空孔内に半導体を埋め込むことにより異屈折率領域15bが形成された後、更に、その上に異屈折率領域15bと同一の半導体が堆積されてもよい。なお、異屈折率領域15bが空孔である場合、該空孔にアルゴン、窒素、水素といった不活性ガスまたは空気が封入されてもよい。
【0049】
反射防止膜19は、例えば、シリコン窒化物(例えばSiN)、シリコン酸化物(例えばSiO
2)などの誘電体単層膜、或いは誘電体多層膜からなる。誘電体多層膜には、例えば、酸化チタン(TiO
2)、二酸化シリコン(SiO
2)、一酸化シリコン(SiO)、酸化ニオブ(Nb
2O
5)、五酸化タンタル(Ta
2O
5)、フッ化マグネシウム(MgF
2)、酸化チタン(TiO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化セリウム(CeO
2)、酸化インジウム(In
2O
3)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)などの誘電体層群から選択される2種類以上の誘電体層が積層された膜が適用可能である。例えば、波長λの光に対する光学膜厚で、λ/4の厚さの膜が積層される。また、保護膜18は、例えばシリコン窒化物(例えばSiN)、シリコン酸化物(例えばSiO
2)などの絶縁膜である。
【0050】
図3は、位相変調層15Aの平面図である。位相変調層15Aは、第1屈折率媒質からなる基本層15aと、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなる異屈折率領域15bとを含む。ここで、位相変調層15Aに、X―Y面内における仮想的な正方格子が設定される。正方格子の一辺はX軸と平行であり、他辺はY軸と平行である。このとき、正方格子の格子点Oを中心とする正方形状の単位構成領域Rが、X軸に沿った複数列およびY軸に沿った複数行にわたって二次元状に設定され得る。複数の異屈折率領域15bは、各単位構成領域R内に1つずつ設けられる。異屈折率領域15bの平面形状は、例えば円形状である。各単位構成領域R内において、異屈折率領域15bの重心G1は、これに最も近い格子点Oから離れて配置される。具体的には、X−Y平面は、
図1および
図2に示されたレーザ素子1Aの厚さ方向(Z軸)に直交する平面であって、異屈折率領域15bを含む位相変調層15Aの一方の面に一致している。正方格子を構成する単位構成領域Rそれぞれは、X軸方向の座標成分x(1以上の整数)とY軸方向の座標成分y(1以上の整数)とで特定され、単位構成領域R(x,y)として表される。このとき、単位構成領域R(x,y)の中心、すなわち格子点はO(x,y)で表される。
【0051】
図4に示されたように、正方格子を構成する単位構成領域R(x,y)は、格子点O(x,y)において互いに直交するs軸およびt軸によって規定される。なお、s軸はX軸に平行な軸であり、t軸はY軸に平行な軸である。このように単位構成領域R(x,y)を規定するs−t平面において、格子点O(x,y)から重心G1に向かう方向とs軸との成す角度がφ(x,y)で与えられる。回転角度φ(x,y)が0°である場合、格子点O(x,y)と重心G1とを結ぶベクトルの方向はs軸の正方向と一致する。また、格子点O(x,y)と重心G1とを結ぶベクトルの長さがr(x,y)で与えられる。一例として、r(x,y)は全単位構成領域において(位相変調層15A全体に亘って)一定である。
【0052】
図3に示されたように、位相変調層15Aにおいては、異屈折率領域15bの重心G1の格子点O(x,y)周りの回転角度φ(x,y)が、所望の光像に応じて単位構成領域R毎に独立して設定される。回転角度φ(x,y)は、単位構成領域R(x,y)において特定の値を有するが、必ずしも特定の関数で表わされるとは限らない。すなわち、回転角度φ(x,y)は、所望の光像を波数空間上に変換し、この波数空間の一定の波数範囲を二次元逆フーリエ変換して得られる複素振幅の位相項から決定される。なお、所望の光像から複素振幅分布(単位構成領域Rそれぞれの複素振幅)を求める際には、ホログラム生成の計算時に一般的に用いられるGerchberg-Saxton(GS)法のような繰り返しアルゴリズムを適用することによって、ビームパターンの再現性が向上する。
【0053】
図5は、レーザ素子1Aから出力されたビームパターンに相当する光像と、位相変調層15Aにおける回転角度φ(x,y)の分布との関係を説明するための図である。具体的には、レーザ素子1Aから出射されるビームにより光像が形成される平面(XYZ直交座標系における座標(x,y,z)で表現される設計上の光像の設置面)を波数空間上に変換して得られるKx−Ky平面について考える。このKx−Ky平面を規定するKx軸およびKy軸は、互いに直交するとともに、それぞれが、ビームの出射方向を半導体基板10の主面10aの法線方向から該主面10aまで振った時の該法線方向に対する角度に、上記式(1)〜式(5)によって対応付けられている。このKx−Ky平面上において、光像に相当するビームパターンを含む特定領域が、それぞれが正方形状のM2(1以上の整数)×N2(1以上の整数)個の画像領域FRで構成されるものとする。また、位相変調層15A上のX−Y平面上において設定された仮想的な正方格子が、M1(1以上の整数)×N1(1以上の整数)個の単位構成領域Rにより構成されるものとする。なお、整数M2は、整数M1と一致する必要はない。同様に、整数N2は、整数N1と一致する必要もない。このとき、Kx軸方向の座標成分k
x(1以上M2以下の整数)とKy軸方向の座標成分k
y(1以上N2以下の整数)とで特定される、Kx−Ky平面における画像領域FR(k
x,k
y)それぞれを、X軸方向の座標成分x(1以上M1以下の整数)とY軸方向の座標成分y(1以上N1以下の整数)とで特定される単位構成領域R(x,y)に2次元逆フーリエ変換した、単位構成領域R(x,y)における複素振幅F(x,y)が、jを虚数単位として、以下の式(30)で与えられる。
【数30】
【0054】
また、単位構成領域R(x,y)において、振幅項をA(x,y)および位相項をP(x,y)とするとき、該複素振幅F(x,y)が、以下の式(31)により規定される。
【数31】
【0055】
図5に示されたように、座標成分x=1〜M1およびy=1〜N1の範囲において、単位構成領域R(x,y)の複素振幅F(x,y)における振幅項をA(x,y)の分布が、X−Y平面上における強度分布に相当する。また、x=1〜M1,y=1〜N1の範囲において、単位構成領域R(x,y)の複素振幅F(x,y)における位相項をP(x,y)の分布が、X−Y平面上における位相分布に相当する。単位構成領域R(x,y)における回転角度φ(x,y)は、後述するように、P(x,y)から得られ、座標成分x=1〜M1およびy=1〜N1の範囲において、単位構成領域R(x,y)の回転角度φ(x,y)の分布が、X−Y平面上における回転角度分布に相当する。
【0056】
なお、Kx−Ky平面上における出力ビームパターンの中心Qは半導体基板10の主面10aに対して垂直な軸線上に位置しており、
図5には、中心Qを原点とする4つの象限が示されている。
図5では、一例として第1象限および第3象限に光像が得られる場合が示されたが、第2象限および第4象限、あるいは、全ての象限で像を得ることも可能である。本実施形態では、
図5に示されたように、原点に関して点対称な光像が得られる。
図5は、一例として、第3象限に文字「A」が、第1象限に文字「A」を180°回転したパターンが、それぞれ得られる場合について示されている。なお、回転対称な光像(例えば、十字、丸、二重丸など)である場合には、重なって一つの光像として観察される。
【0057】
レーザ素子1Aから出力されたビームパターン(光像)は、スポット、直線、十字架、線画、格子パターン、写真、縞状パターン、CG(コンピュータグラフィクス)、および文字のうち少なくとも1つで表現される設計上の光像(元画像)に対応した光像となる。ここで、所望の光像を得るためには、以下の手順によって単位構成領域R(x,y)における異屈折率領域15bの回転角度φ(x、y)を決定する。
【0058】
上述のように、単位構成領域R(x,y)内では、異屈折率領域15bの重心G1が格子点O(x,y)からr(x,y)だけ離れた状態で配置されている。このとき、単位構成領域R(x,y)内には、回転角度φ(x,y)が、以下の関係を満たすように異屈折率領域15bは配置される。
φ(x,y)=C×P(x,y)+B
C:比例定数であって例えば180°/π
B:任意の定数であって例えば0
なお、比例定数Cおよび任意の定数Bは、全ての単位構成領域Rに対して同一の値である。
【0059】
すなわち、所望の光像を得たい場合、波数空間上に射影されたKx−Ky平面上に形成される光像を位相変調層15A上のX−Y平面上の単位構成領域R(x,y)に二次元逆フーリエ変換し、その複素振幅F(x,y)の位相項P(x,y)に対応した回転角度φ(x,y)を、該単位構成領域R(x,y)内に配置される異屈折率領域15bに与えればよい。なお、レーザビームの二次元逆フーリエ変換後の遠視野像は、単一若しくは複数のスポット形状、円環形状、直線形状、文字形状、二重円環形状、または、ラゲールガウスビーム形状などの各種の形状をとることができる。なお、ビームパターンは波数空間上における波数情報で表わされるものであるので(Kx−Ky平面上)、目標とするビームパターンが2次元的な位置情報で表わされているビットマップ画像などの場合には、一旦波数情報に変換した後に二次元逆フーリエ変換を行うとよい。
【0060】
二次元逆フーリエ変換で得られた、X−Y平面上における複素振幅分布から強度分布と位相分布を得る方法としては、例えば強度分布(X−Y平面上における振幅項A(x,y)の分布)については、MathWorks社の数値解析ソフトウェア「MATLAB」のabs関数を用いることにより計算することができ、位相分布(X−Y平面上における位相項P(x,y)の分布)については、MATLABのangle関数を用いることにより計算することができる。
【0061】
ここで、本実施形態において、光像の二次元逆フーリエ変換の結果から回転角度分布(X−Y平面上における回転角度φ(x,y)の分布)を求め、単位構成領域Rそれぞれにおける異屈折率領域15bの配置を一般的な離散二次元逆フーリエ変換または高速二次元逆フーリエ変換を用いて計算する場合の留意点を述べる。二次元逆フーリエ変換前の光像を、
図6(a)に示された元画像のように、A1,A2,A3,およびA4といった4つの象限に分割すると、本実施形態から得られるビームパターンは
図6(b)に示されたパターンになる。つまり、
図6(b)のビームパターンの第一象限には、
図6(a)の第一象限を180°回転したパターンと
図6(a)の第三象限のパターンが重畳したパターンが現れる。
図6(b)のビームパターンの第二象限には、
図6(a)の第二象限を180°回転したパターンと
図6(a)の第四象限のパターンが重畳したパターンが現れる。
図6(b)のビームパターンの第三象限には、
図6(a)の第三象限を180°回転したパターンと
図6(a)の第一象限のパターンが重畳したパターンが現れる。
図6(b)のビームパターンの第四象限には、
図6(a)の第四象限を180°回転したパターンと
図6(a)の第二象限のパターンが重畳したパターンが現れる。
【0062】
したがって、二次元逆フーリエ変換前の光像(元の光像)として、第一象限のみに値を有するパターンを用いた場合、得られるビームパターンの第三象限には元の光像の第一象限のパターンが現れる一方、得られるビームパターンの第一象限には元の光像の第一象限を180°回転したパターンが現れる。
【0063】
以上に説明した本実施形態によるレーザ素子1Aによって得られる効果について説明する。上述のように、位相変調層を有するレーザ素子から出射されるビームパターンには、網目状の暗部を有するノイズ光が重畳されることがある。この網目状の暗部を有するノイズ光によって、光像の品質が低下してしまう。
【0064】
発明者らは、このような網目状の暗部を有するノイズ光の発生要因について検討するため、レーザ発振後の全周方向分光測定を行い、ビームパターンが有する分光特性を調べた。そして、
図7に示されたように、発振波長近傍の波長での空間強度分布を色の濃淡によりプロットすると、実測されたビームパターンに対応する強度分布が得られた。すなわち、実測されたビームパターンに対応する強度分布は、角度情報で表された波数空間上のKx−Ky平面上の画像領域を、位相変調層上のX−Y平面の単位構成領域それぞれに二次元逆フーリエ変換することにより得られる複素振幅の振幅項Aの分布である。なお、
図7において、横軸はX軸座標であり、縦軸はY軸座標である。また、グラフの中央は、レーザ素子の基板主面に垂直な軸線上に位置する。更に、異なる波長の空間強度分布との比較を行ったところ、この網目状の暗部を有するノイズ光が、短波長側にシフトしたバンドが重なったものに由来していることが分かった。
【0065】
理解を容易にするために、波長を縦軸にとった空間強度分布を色の濃淡で表したプロット(いわゆるバンド図)が
図8(a)および
図8(b)に示されている。横軸のΓ−X方向はX方向に対応しており、Γ―M方向はXの正方向とYの正方向の間の二等分線の方向に対応している。
図8(a)はレーザ発振前のバンド構造を示し、
図8(b)がレーザ発振後のバンド構造を示す。なお、レーザ発振後において基板主面に垂直な方向(法線方向)には0次光が存在しているが、0次光の近傍では強度が強いため、該法線方向は測定範囲からは除外されている。
【0066】
図8を参照すると、レーザ発振前およびレーザ発振後共に、短波長側に何重にもバンド構造が重なっていることが分かる。また、そのようなバンド構造の重なり故に、水平方向に延びるバンドには複数箇所において切れ目が生じている。検討の結果、この短波長側に重なっているバンドの原因が、積層方向における高次モードであることが分かった。そして、そのような高次モードは、活性層とコンタクト層との間の上部クラッド層の屈折率が、活性層と半導体基板との間の下部クラッド層の屈折率よりも大きい場合に顕著に生じることを発明者らは見出した。
【0067】
図9は、上部クラッド層の屈折率が下部クラッド層の屈折率よりも大きい場合におけるモード発生の様子を示すグラフである。このグラフにおいて、縦軸は屈折率を表し、横軸は、積層方向位置(5.0μmの範囲)を表す。積層方向における区間D1は下部クラッド層である。区間D2は活性層を含む光導波路層である。区間D3は上部クラッド層である。区間D4はコンタクト層である。区間D5は空気である。また、曲線G11〜G14は高次モードを表し、曲線G15は基本モードを表す。
【0068】
通常、活性層およびコンタクト層の屈折率は、各クラッド層の屈折率よりも格段に大きい。したがって、
図9に示されたように、上部クラッド層の屈折率が下部クラッド層の屈折率よりも大きい場合、コンタクト層とその外側(例えば空気)との界面E1、および活性層と下部クラッド層との界面E2の間で高次モード(
図9中の曲線G11〜G14)が共振することとなる。
【0069】
これに対し、本実施形態のレーザ素子1Aでは、上部クラッド層13の屈折率が、下部クラッド層11の屈折率と等しいか、もしくは下部クラッド層11の屈折率よりも小さい。
図10は、このような場合のモード発生の様子を示すグラフである。縦軸は屈折率を表し、横軸は、積層方向位置(3.6μmの範囲)を表す。
図10に示されたように、このような場合、
図9に示された曲線G11〜G14の高次モードは発生せず、曲線G15の基本モードのみが顕著に生じる。したがって、本実施形態のレーザ素子1Aによれば、上述の高次モードの発生が抑制され、ビームパターンに重畳される網目状の暗部を有するノイズ光が低減され得る。
【0070】
なお、短波長側へのバンド構造の重なりは、通常のフォトニック結晶面発光レーザ(PCSEL:Photonic Crystal Surface-EmittingSemiconductor Laser)においても生じていることが確認された。しかしながら、通常のPCSELでは基板主面に垂直な軸線方向に沿った光(0次光)のみを利用するので、該軸線方向から傾斜した方向に生じる網目状の暗部を有するノイズ光は問題とならない。すなわち本実施形態の技術は、例えばS−iPMレーザやビーム偏向レーザといった、基板主面に対して2次元的な拡がりを持って出射される光を利用するレーザ素子において、大きな効果をもたらす。
【0071】
図11(a)および
図11(b)は、本実施形態のレーザ素子1Aを作製し、バンド構造を実測した結果を示す。横軸のΓ−X方向はX方向に対応しており、Γ−M方向はXの正方向とYの正方向の間の二等分線の方向に対応している。
図11(a)はレーザ発振前のバンド構造を示し、
図11(b)はレーザ発振後のバンド構造を示す。
図11に示されたように、本実施形態のレーザ素子1Aでは、
図8の結果と比較して、短波長側のバンドが観測されなかった。これは、積層方向のモードが単一(すなわち基本モードのみ)であることを示している。
【0072】
また、
図12(a)〜
図12(d)は、作製したレーザ素子1A(S−iPMレーザ)のビームパターンを実測した結果を示す。
図12(a)〜
図12(d)それぞれの中心が半導体基板10の主面10aに対して垂直な方向に対応する。これらの図に示されたように、レーザ素子1Aからのビームパターンには網目状の暗線パターンが存在しておらず、設計通りの良好なビームパターンが観測された。このように、本実施形態のレーザ素子1Aによれば、積層方向の高次モードに起因する網目状ノイズの発生を抑え、良好なビームパターンを得ることが可能となる。
【0073】
また、本実施形態では、光導波路層の規格化導波路幅V
1が上記式(16)および式(17)によって規定されたとき、該光導波路層を含む3層スラブ構造を構成する各層の屈折率が、規格化導波路幅V
1の解が1つのみとなる範囲内に収まるよう設定される。発明者らの研究によれば、活性層12を含む光導波路層(高屈折率層)においても高次モードが発生することがわかった。そして、光導波路層の厚さおよび屈折率を適切に制御することにより、高次モードを抑制できることを発明者らは見出した。後述する実施例にて説明されるように、光導波路層の規格化導波路幅V
1の解が1つのみとなる範囲内において、高次モードが更に抑えられ、ビームパターンに重畳される網目状の暗部を有するノイズ光がより一層低減され得る。
【0074】
また、本実施形態では、コンタクト層14の規格化導波路幅V
2が上記式(23)および式(24)によって規定されたとき、該コンタクト層を含む3層スラブ構造を構成する各層の屈折率が、規格化導波路幅V
2が解なしとなる範囲内に収まるよう設定される。このように、コンタクト層14の厚さおよび屈折率を適切に制御することにより、後述する例にて説明されるように、コンタクト層14に起因する導波モードの発生が抑えられ、レーザ素子1Aに生じる高次モードが更に抑制され得る。
【0075】
なお、発明者らが検討した結果、例えばドライエッチングプロセスにより異屈折率領域15bを形成する場合において、孔の大きさ(すなわちX―Y平面内における異屈折率領域15bそれぞれの大きさ)が異なるとき、孔の深さ(すなわちZ方向における異屈折率領域15bそれぞれの長さ)も異なる場合があることが見出された。Z方向における異屈折率領域15bそれぞれの長さがばらつくと、意図しない位相ずれが生じるため出力ビームパターンの再現性が低下する。したがって、X―Y平面内における異屈折率領域15bそれぞれの大きさは位相変調層15A全体に亘って一定値であることが望ましい。同様の理由により、Z方向における異屈折率領域15bそれぞれの長さは位相変調層15A全体に亘って一定値であることが望ましい。
【0076】
また、位相変調層15Aにおいて、仮想的な正方格子の各格子点Oと、対応する異屈折率領域15bの重心G1との距離rは、位相変調層15A全体に亘って一定値であることが望ましい。これにより、位相変調層15A全体における位相分布が0〜2π(rad)まで等しく分布している場合、異屈折率領域15bの重心G1は平均すると正方格子の格子点Oに一致することとなる。したがって、位相変調層15Aにおける二次元分布ブラッグ回折効果は、正方格子の各格子点O上に異屈折率領域が配置された場合の二次元分布ブラッグ回折効果に近づくこととなる。そのため、定在波の形成が容易となり、発振のための閾値電流の低減が期待できる。
【0077】
また、
図3および
図4にはX―Y平面内における異屈折率領域15bの形状が円形である例が示されている。しかしながら、異屈折率領域15bは円形以外の形状を有してもよい。例えば、X―Y平面内における異屈折率領域15bの形状は、鏡像対称性(線対称性)を有してもよい。ここで、鏡像対称性(線対称性)とは、X―Y平面に沿った任意の直線を挟んで、該直線の一方側に位置する異屈折率領域15bの平面形状と、該直線の他方側に位置する異屈折率領域15bの平面形状とが、互いに鏡像対称(線対称)となり得ることをいう。鏡像対称性(線対称性)を有する形状としては、例えば
図13(a)に示された真円、
図13(b)に示された正方形、
図13(c)に示された正六角形、
図13(d)に示された正八角形、
図13(e)に示された正16角形、
図13(f)に示された長方形、および
図13(g)に示された楕円、などが挙げられる。このように、X―Y平面内における異屈折率領域15bの形状が鏡像対称性(線対称性)を有する。この場合、位相変調層15A(仮想的な正方格子の単位構成領域それぞれにおいて)、格子点から対応する異屈折率領域15bの重心G1へ向かう方向とs軸との成す角度φを高精度に定めることができるので、高い精度でのパターニングが可能となる。
【0078】
また、X―Y平面内における異屈折率領域15bの形状は、180°の回転対称性を有さない形状であってもよい。このような形状としては、例えば
図14(a)に示された正三角形、
図14(b)に示された直角二等辺三角形、
図14(c)に示された2つの円または楕円の一部分が重なる形状、
図14(d)に示された楕円の長軸に沿った一方の端部近傍の短軸方向の寸法が他方の端部近傍の短軸方向の寸法よりも小さくなるように変形した形状(卵形)、
図14(e)に示された楕円の長軸に沿った一方の端部を長軸方向に沿って突き出る尖った端部に変形した形状(涙形)、
図14(f)に示された二等辺三角形、
図14(g)に示された矩形の一辺が三角形状に凹みその対向する一辺が三角形状に尖った形状(矢印形)、
図14(h)に示された台形、
図14(i)に示された5角形、
図14(j)に示された2つの矩形の一部分同士が重なる形状、および
図14(k)に示された2つの矩形の一部分同士が重なり且つ鏡像対称性を有さない形状、等が挙げられる。このように、X―Y平面内における異屈折率領域15bの形状が180°の回転対称性を有さないことにより、より高い光出力を得ることができる。
【0079】
(変形例)
図15は、上記実施形態の一変形例に係る位相変調層15Bの平面図である。本変形例の位相変調層15Bは、上記実施形態の位相変調層15Aの構成(
図3)に加えて、複数の異屈折率領域15bとは別の複数の異屈折率領域15c(第2異屈折率領域)を更に有する。各異屈折率領域15cは、周期構造を含んでおり、基本層15aの第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなる。異屈折率領域15cは、異屈折率領域15bと同様に、空孔であってもよく、空孔に化合物半導体が埋め込まれて構成されてもよい。ここで、
図16に示されたように、本変形例においても、単位構成領域R(x,y)において、格子点O(x、y)から重心G1に向かう方向とs軸(X軸に平行な軸)との成す角度をφ(x,y)とする。回転角度φ(x,y)が0°である場合、格子点O(x,y)と重心G1とを結ぶベクトルの方向はs軸の正方向と一致する。また、格子点O(x,y)と重心G1とを結ぶベクトルの長さをr(x,y)とする。一例では、r(x,y)は位相変調層15B全体に亘って一定である。
【0080】
異屈折率領域15cは、異屈折率領域15bにそれぞれ一対一で対応して設けられている。そして、異屈折率領域15cそれぞれは仮想的な正方格子を構成する単位構成領域Rの格子点O上に位置している。一例(
図15および
図16の例)では、異屈折率領域15cそれぞれの重心G2は、対応する単位構成領域Rにおける格子点Oに一致している。異屈折率領域15cの平面形状は例えば円形であるが、異屈折率領域15bと同様に、様々な形状を有し得る。
図17(a)〜
図17(k)には、異屈折率領域15b,15cのX―Y平面内における形状および相対関係の例が示されている。
図17(a)および
図17(b)は、異屈折率領域15b,15cが同じ形状の図形を有し、互いの重心が離間した形態を示す。
図17(c)および
図17(d)は、異屈折率領域15b,15cが同じ形状の図形を有し、互いの重心が離間し、互いの一部分同士が重なる形態を示す。
図17(e)は、異屈折率領域15b,15cが同じ形状の図形を有し、互いの重心が離間し、格子点毎に異屈折率領域15b,15cの相対角度が任意に設定された(任意の角度だけ回転した)形態を示す。
図17(f)は、異屈折率領域15b,15cが互いに異なる形状の図形を有し、互いの重心が離間した形態を示す。
図17(g)は、異屈折率領域15b,15cが互いに異なる形状の図形を有し、互いの重心が離間し、格子点毎に異屈折率領域15b,15cの相対角度が任意に設定された(任意の角度だけ回転した)形態を示す。これらのうち、
図17(e)および
図17(g)の例では、2つの異屈折率領域15b,15cが互いに重ならないように回転している。
【0081】
また、
図17(h)〜
図17(k)に示されたように、異屈折率領域15bは、互いに離間した2つの領域15b1,15b2を含んで構成されてもよい。そして、領域15b1,15b2を合わせた重心(単一の異屈折率領域15bの重心に相当)と、異屈折率領域15cの重心とが離間し、領域15b1,15b2を結ぶ直線のX軸に対する角度が格子点毎に任意に設定されてもよい。また、この場合、
図17(h)に示されたように、領域15b1,15b2および異屈折率領域15cは、互いに同じ形状の図形を有してもよい。または、
図17(i)に示されたように、領域15b1,15b2および異屈折率領域15cのうち2つの図形が他と異なっていてもよい。また、
図17(j)に示されたように、領域15b1,15b2を結ぶ直線のX軸に対する角度に加えて、異屈折率領域15cのX軸に対する角度が各格子点毎に任意に設定されてもよい。また、
図17(k)に示されたように、領域15b1,15b2および異屈折率領域15cが互いに同じ相対角度を維持したまま、領域15b1,15b2を結ぶ直線のX軸に対する角度が格子点毎に任意に設定されてもよい。なお、これらのうち、
図17(j)および
図17(k)の例では、領域15b1,15b2が異屈折率領域15cと重ならないように回転してもよい。
【0082】
異屈折率領域のX―Y平面内の形状は、各格子点間で互いに同一であってもよい。すなわち、異屈折率領域が全ての格子点において同一図形を有しており、並進操作、または並進操作および回転操作により、格子点間で互いに重ね合わせることが可能であってもよい。その場合、ビームパターン内におけるノイズ光およびノイズとなる0次光の発生を抑制できる。または、異屈折率領域のX―Y平面内の形状は格子点間で必ずしも同一でなくともよく、例えば
図18に示されたように、隣り合う格子点間で形状が互いに異なっていてもよい。
【0083】
例えば本変形例のような位相変調層の構成であっても、上記実施形態の効果を好適に奏することができる。
【0084】
(第1実施形態の具体例)
発明者らは、活性層を含む光導波路層の厚さと屈折率、コンタクト層の厚さと屈折率について、高次モードを生じない条件を検討した。その検討過程および結果を以下に説明する。
【0085】
まず、本具体例において検討対象としたレーザ素子1Aの具体的構造について説明する。
図19は、レーザ素子1AがGaAs系化合物半導体からなる場合(発光波長940nm帯)の層構造を示す表である。
図19の表には、各層の導電型、組成、層厚さ、および屈折率が示されている。なお、層番号1はコンタクト層14、層番号2は上部クラッド層13、層番号3は位相変調層15A、層番号4は光ガイド層および活性層12、層番号5は下部クラッド層11を示す。
図20は、
図19に示された層構造を備えるレーザ素子1Aの屈折率分布G21aおよびモード分布G21bを示す。なお横軸は積層方向位置(範囲は2.5μm)を表す。このとき、基本モードのみが生じており、高次モードが抑制されていることが分かる。
【0086】
図21は、レーザ素子1AがInP系化合物半導体からなる場合(発光波長1300nm帯)の層構造を示す表である。層番号1はコンタクト層14、層番号2は上部クラッド層13、層番号3は位相変調層15A、層番号4は光ガイド層および活性層12、層番号5は下部クラッド層11を示す。
図22は、
図21に示された層構造を備えるレーザ素子1Aの屈折率分布G22aおよびモード分布G22bを示す。なお横軸は積層方向位置(範囲は2.5μm)を表す。このとき、基本モードのみが生じており、高次モードが抑制されていることが分かる。
【0087】
図23は、レーザ素子1Aが窒化物系化合物半導体からなる場合(発光波長405nm帯)の層構造を示す表である。層番号1はコンタクト層14、層番号2は上部クラッド層13、層番号3はキャリア障壁層、層番号4は活性層12、層番号5は光ガイド層、層番号6は位相変調層15A、層番号7は下部クラッド層11を示す。
図24は、
図23に示された層構造を備えるレーザ素子1Aの屈折率分布G23aおよびモード分布G23bを示す。なお横軸は積層方向位置(範囲は2.5μm)を表す。このとき、基本モードのみが生じており、高次モードが抑制されていることが分かる。
【0088】
なお、上記の各構造において、位相変調層15Aのフィリングファクタ(Filling Factor:FF)は15%である。フィリングファクタとは、1つの単位構成領域R内に占める異屈折率領域15bの面積の比率である。
【0089】
次に、検討の前提条件について説明する。以下の検討では、TEモードを前提とした。すなわち、漏れモードおよびTMモードは考慮されていない。また、下部クラッド層11が十分に厚く、半導体基板10の影響は無視できるものである。また、上部クラッド層13の屈折率が、下部クラッド層11の屈折率以下である。そして、活性層12(MQW層)および光ガイド層は、特に分けて記載しない限り、平均誘電率と合計膜厚とを有する1つの光導波路層(コア層)と見なされる。更に、位相変調層15Aの誘電率は、フィリングファクタに基づく平均誘電率である。
【0090】
活性層12および光ガイド層からなる光導波路層の平均屈折率および膜厚の計算式は以下の通りである。すなわち、ε
coreは光導波路層の平均誘電率であり、以下の式(32)で規定される。ε
iは各層の誘電率であり、d
iは各層の厚さであり、n
iは各層の屈折率である。n
coreは光導波路層の平均屈折率であり、以下の式(33)で規定される。以d
coreは光導波路層の膜厚であり、下の式(34)で規定される。
【数32】
【数33】
【数34】
【0091】
また、位相変調層15Aの平均屈折率の計算式は以下の通りである。すなわち、n
PMは位相変調層15Aの平均屈折率であり、以下の式(35)で規定される。ε
PMは位相変調層15Aの誘電率であり、n
1は第1屈折率媒質の屈折率であり、n
2は第2屈折率媒質の屈折率であり、FFはフィリングファクタである。
【数35】
【0092】
以下の検討では、5層もしくは6層のスラブ型導波路によって導波路構造の近似が行われた。
図25(a)および
図25(b)は、6層のスラブ型導波路によって導波路構造を近似する場合を説明するための断面図および屈折率分布である。
図26(a)および
図26(b)は、5層のスラブ型導波路によって導波路構造を近似する場合を説明するための断面図および屈折率分布である。
図25(a)および
図25(b)に示されたように、位相変調層15Aの屈折率が下部クラッド層11の屈折率より小さい場合には位相変調層15Aに導波機能がないので、6層のスラブ型導波路について近似が行われた。すなわち、光導波路層は、活性層12および光ガイド層を含む一方、下部クラッド層11、上部クラッド層13、および位相変調層15Aを含まない構造を有する。このような近似は、例えば
図21および
図23に示された構造(本具体例ではInP系化合物半導体、もしくは窒化物系化合物半導体)に適用されることができる。
【0093】
また、
図26(a)および
図26(b)に示されたように、位相変調層15Aの屈折率が下部クラッド層11の屈折率以上の場合には位相変調層15Aに導波機能があるので、5層のスラブ型導波路について近似が行われた。すなわち、光導波路層は、位相変調層15Aおよび活性層12を含む一方、下部クラッド層11および上部クラッド層13を含まない構造を有する。このような近似は、例えば
図19に示された構造(本実施例ではGaAs系化合物半導体)に適用されることができる。
【0094】
更に、計算をより簡略化するために、レーザ素子1Aの等価屈折率よりも屈折率が高い光導波路層およびコンタクト層それぞれの周辺部分に計算範囲が限定されている。すなわち、光導波路層および該光導波路層に隣接する上下の層によって、光導波路層に関する3層スラブ構造が規定され、コンタクト層14および隣接する上下の層によって、コンタクト層14に関する3層スラブ構造が規定される。
【0095】
図27(a)および
図27(b)は、6層のスラブ型導波路(
図25(a)および
図25(b)参照)における、光導波路層に関する3層スラブ構造を説明するための断面図および屈折率分布である。この場合、
図27(b)の屈折率分布において実線で示された屈折率分布に基づいて、光導波路層の導波モードが計算される。また、
図28(a)および
図28(b)は、6層のスラブ型導波路(
図25(a)および
図25(b)参照)における、コンタクト層14に関する3層スラブ構造を説明するための断面図および屈折率分布である。この場合、
図28(b)において実線で示された屈折率分布に基づいて、コンタクト層14の導波モードが計算される。
【0096】
図29(a)および
図29(b)は、5層のスラブ型導波路(
図26参照)における、光導波路層に関する3層スラブ構造を説明するための断面図および屈折率分布である。この場合、
図29(b)において実線で示された屈折率分布に基づいて、光導波路層の導波モードが計算される。また、
図30(a)および
図30(b)は、5層のスラブ型導波路(
図26参照)における、コンタクト層14に関する3層スラブ構造を説明するための断面図および屈折率分布である。この場合、
図30(b)において実線で示された屈折率分布に基づいて、コンタクト層14の導波モードが計算される。
【0097】
なお、上述の3層スラブ構造による近似の際、下部クラッド層11を経て半導体基板10に導波モードが漏れないようにするために、下部クラッド層11の屈折率がレーザ素子1Aの等価屈折率以下であることを要する。
【0098】
ここで、3層スラブ構造の解析式について説明する。
図31(a)および
図31(b)は、下部クラッド層11、光導波路層31、および上部クラッド層13からなる3層スラブ構造30と、その屈折率分布とを示す。ここでは、下部クラッド層11の屈折率をn
2とし、光導波路層31の屈折率をn
1とし、上部クラッド層13の屈折率をn
3とする。そして、光導波路層31の規格化導波路幅V
1が上記式(16)によって規定されたとき、規格化導波路幅V
1の解が1つのみとなる範囲内であれば、導波モードは基本モードのみとなる。ただし、3層スラブ構造の解析式で、上記の5層スラブ構造および6層スラブ構造の導波モードを調べるときには、下部クラッド層11に導波モードが漏れない必要があるので、上記式(17)に示す条件も同時に満たしている必要がある。
【0099】
コンタクト層14に関しては、
図31(a)および
図31(b)において下部クラッド層11を上部クラッド層13に、光導波路層31をコンタクト層14に、上部クラッド層13を空気層に、それぞれ置き換えるとよい。そして、コンタクト層14の屈折率をn
4とし、空気層の屈折率をn
5とすると、コンタクト層14の規格化導波路幅V
2に関する上記式(23)が得られる。そして、規格化導波路幅V
2の解がない範囲内であれば、コンタクト層14に導波モードは存在しない。ただし、3層スラブ構造の解析式で、上記の5層スラブ構造および6層スラブ構造の導波モードを調べるときには、下部クラッド層11に導波モードが漏れない必要があるので、上記式(24)に示す条件も同時に満たしている必要がある。
【0100】
なお、上部クラッド層13の膜厚を変化させて発生する導波モードを解析することで、上部クラッド層13の膜厚が導波モードに影響を与えないことが確認できた。
【0101】
(レーザ素子1AがGaAs系化合物半導体からなる場合)
図32は、レーザ素子1AがGaAs系化合物半導体からなる場合の5層スラブ構造の例を示す表である。この5層スラブ構造における光導波路層(層番号4)およびコンタクト層(層番号2)の膜厚の範囲は、以下の計算によって求められる。
【0102】
図33(a)は、計算に用いられた屈折率n
1、n
2、およびn
3、非対称パラメータa’および下部クラッド層11の屈折率n
cladを示す表である。この場合、上記式(16)および式(17)によって示される光導波路層の規格化導波路幅V
1と、規格化伝搬係数bとの関係が、
図34に示されている。
図34中、グラフG31a〜G31fは、それぞれ、モード次数N=0〜5の場合を示す。このグラフにおいて、導波モードが基本モード(すなわちN=0)のみとなるのは、規格化導波路幅V
1の解が1つとなる範囲であって、範囲H
1の内側である。範囲H
1は、規格化伝搬係数bが0であるときのN=0に対応する規格化導波路幅V
1の値を下限値とし、規格化伝搬係数bが0であるときのN=1に対応する規格化導波路幅V
1の値を上限値とする範囲である。
図33(b)は、そのような下限値および上限値の計算結果を示す表である。
【0103】
また、
図35(a)は、計算に用いられた屈折率n
4、n
5、およびn
6、非対称パラメータa’および下部クラッド層11の屈折率n
cladを示す表である。この場合、上記式(23)および式(24)によって示されるコンタクト層14の規格化導波路幅V
2と、規格化伝搬係数bとの関係が、
図36に示されている。
図36中、グラフG32a〜G32fは、それぞれモード次数N=0〜5の場合を示す。このグラフにおいて、コンタクト層14に起因する導波モードが生じず、レーザ素子1Aの導波モードが光導波路層の基本モードのみとなるのは、規格化導波路幅V
2の解が無い範囲であって、範囲H
2の内側である。範囲H
2は、0を下限値とし、規格化伝搬係数bが下部クラッド層11の屈折率に対応する値b
1であるときのN=0に対応する規格化導波路幅V
2の値を上限値とする範囲である。
図35(b)は、そのような上限値の計算結果を示す表である。
【0104】
図37は、
図32に示された層構造を備えるレーザ素子1Aの屈折率分布G24aおよびモード分布G24bを示す。基本モードのみが顕著に生じており、高次モードが抑制されていることがわかる。
【0105】
(レーザ素子1AがInP系化合物半導体からなる場合)
図38は、レーザ素子1AがInP系化合物半導体からなる場合の6層スラブ構造の例を示す表である。この6層スラブ構造における光導波路層(層番号5)およびコンタクト層(層番号2)の膜厚の範囲は、以下の計算によって求められる。
【0106】
図39(a)は、計算に用いられた屈折率n
1、n
2、およびn
3、非対称パラメータa’および下部クラッド層11の屈折率n
cladを示す表である。この場合、上記式(16)および式(17)によって示される光導波路層の規格化導波路幅V
1と、規格化伝搬係数bとの関係が、
図40に示されている。
図40中、グラフG33a〜G33fは、それぞれモード次数N=0〜5の場合を示す。このグラフにおいて、導波モードが基本モード(すなわちN=0)のみとなるのは、規格化導波路幅V
1の解が1つとなる範囲であって、範囲H
1の内側である。なお、範囲H
1の定義は前述したGaAs系化合物半導体の場合と同様である。
図39(b)は、下限値および上限値の計算結果を示す表である。
【0107】
また、
図41(a)は、計算に用いられた屈折率n
4、n
5、およびn
6、非対称パラメータa’および下部クラッド層11の屈折率n
cladを示す表である。この場合、上記式(23)および式(24)によって示されるコンタクト層14の規格化導波路幅V
2と、規格化伝搬係数bとの関係は、
図42に示すグラフのようになる。
図42中、グラフG34a〜G34fは、それぞれモード次数N=0〜5の場合を示す。このグラフにおいて、コンタクト層14に起因する導波モードが生じず、レーザ素子1Aの導波モードが光導波路層の基本モードのみとなるのは、規格化導波路幅V
2の解が無い範囲であって、範囲H
2の内側である。範囲H
2の定義は前述したGaAs系化合物半導体の場合と同様である。
図41(b)は、そのような上限値の計算結果を示す表である。
【0108】
図43は、
図38に示された層構造を備えるレーザ素子1Aの屈折率分布G25aおよびモード分布G25bを示す。基本モードのみが顕著に生じており、高次モードが抑制されていることが分かる。
【0109】
(レーザ素子1Aが窒化物系化合物半導体からなる場合)
図44は、レーザ素子1Aが窒化物系化合物半導体からなる場合の6層スラブ構造の例を示す表である。この6層スラブ構造における光導波路層(層番号4)およびコンタクト層(層番号2)の膜厚の範囲は、以下の計算によって求められる。
【0110】
図45(a)は、計算に用いられた屈折率n
1、n
2、およびn
3、非対称パラメータa’および下部クラッド層11の屈折率n
cladを示す表である。この場合、上記式(16)および式(17)によって示される光導波路層の規格化導波路幅V
1と、規格化伝搬係数bとの関係が、
図46に示されている。
図46中、グラフG35a〜G35fは、それぞれモード次数N=0〜5の場合を示す。このグラフにおいて、導波モードが基本モード(すなわちN=0)のみとなるのは、規格化導波路幅V
1の解が1つとなる範囲であって、範囲H
1の内側である。範囲H
1は、規格化伝搬係数bが値b
1であるときのN=0に対応する規格化導波路幅V
1の値を下限値とし、規格化伝搬係数bが値b
1であるときのN=1に対応する規格化導波路幅V
1の値を上限値とする範囲である。
図45(b)は、下限値および上限値の計算結果を示す表である。
【0111】
また、
図47(a)は、計算に用いられた屈折率n
4、n
5、およびn
6、非対称パラメータa’および下部クラッド層11の屈折率n
cladを示す表である。この場合、上記式(23)および式(24)によって示されるコンタクト層14の規格化導波路幅V
2と、規格化伝搬係数bとの関係が、
図48に示されている。
図48中、グラフG36a〜G36fは、それぞれモード次数N=0〜5の場合を示す。このグラフにおいて、コンタクト層14に起因する導波モードが生じず、レーザ素子1Aの導波モードが光導波路層の基本モードのみとなるのは、規格化導波路幅V
2の解が無い範囲であって、範囲H
2の内側である。範囲H
2の定義は前述したGaAs系化合物半導体の場合と同様である。
図47(b)は、そのような上限値の計算結果を示す表である。
【0112】
図49は、
図44に示された層構造を備えるレーザ素子1Aの屈折率分布G26aおよびモード分布G26bを示す。基本モードのみが顕著に生じており、高次モードが抑制されていることが分かる。
【0113】
(第2実施形態)
図50は、第2実施形態に係る半導体発光素子の一例として、レーザ素子1Bの構成を示す図である。
図51は、第2実施形態に係る半導体発光素子の他の例を示す図である。このレーザ素子1Bは、X―Y面内方向において定在波を形成し、位相制御された平面波をZ方向に出力するレーザ光源であって、第1実施形態と同様に、半導体基板10の主面10aに垂直な方向およびこれに対して傾斜した方向をも含む2次元的な任意形状の光像を出力する。ただし、第1実施形態のレーザ素子1Aは半導体基板10を透過した光像を裏面から出力するが、本実施形態のレーザ素子1Bは、活性層12に対して上部クラッド層13側から光像を出力する。
【0114】
レーザ素子1Bは、下部クラッド層11、活性層12、上部クラッド層13、コンタクト層14、位相変調層15A、光反射層20、および電流狭窄層21を備える。下部クラッド層11は、半導体基板10上に設けられている。活性層12は、下部クラッド層11上に設けられている。上部クラッド層13は、活性層12上に設けられている。コンタクト層14は、上部クラッド層13上に設けられている。位相変調層15Aは、活性層12と上部クラッド層13との間に設けられている。光反射層20は、活性層12と下部クラッド層11との間に設けられている。電流狭窄層21は、上部クラッド層13内に設けられている。各層11〜14,15Aの構成(好適な材料、バンドギャップ、屈折率等)は、第1実施形態と同様である。なお、光反射層20は、半導体基板10での光吸収が問題にならない場合には省いてもよい。
【0115】
位相変調層15Aの構造は、第1実施形態において説明された位相変調層15Aの構造(
図3を参照)と同様である。または、位相変調層15Aは、変形例において示された位相変調層15B(
図15を参照)に置き換えられてもよい。必要に応じて、活性層12と上部クラッド層13との間、および活性層12と下部クラッド層11との間のうち少なくとも一方に、光ガイド層が設けられてもよい。
図51に示されたように、位相変調層15Aが、下部クラッド層11と活性層12との間に設けられてもよい。更に、当該レーザ素子1Bは、
図52(a)〜
図52(c)に示されたような構造を備えてもよい。
【0116】
レーザ素子1Bは、コンタクト層14上に設けられた電極23と、半導体基板10の裏面10b上に設けられた電極22とを更に備える。電極23はコンタクト層14とオーミック接触を成しており、電極22は半導体基板10とオーミック接触を成している。
図53は、レーザ素子1Bを電極23側(表面側)から見た平面図である。
図53に示されたように、電極23は枠状(環状)といった平面形状を呈しており、開口23aを有する。なお、
図53には正方形の枠状の電極23が例示されているが、電極23の平面形状は例えば円環状など様々な形状であることができる。また、
図53に隠れ線によって示された電極22の形状は、電極23の開口23aの形状と相似しており、例えば正方形もしくは円形である。電極23の開口23aの内径(開口23aの形状が正方形である場合は1辺の長さ)Laは、例えば20μm〜50μmである。
【0117】
再び
図50を参照する。本実施形態のコンタクト層14は、電極23と同様の平面形状を有する。すなわち、コンタクト層14の中央部は、エッチングにより除去されて開口14aとなっており、コンタクト層14は枠状(環状)といった平面形状を呈している。レーザ素子1Bから出射される光は、コンタクト層14の開口14a、および電極23の開口23aを通過する。コンタクト層14の開口14aを光が通過することにより、コンタクト層14における光吸収を回避し、光出射効率を高めることができる。ただし、コンタクト層14における光吸収を許容できる場合には、コンタクト層14は開口14aを有さずに上部クラッド層13上の全面を覆っていてもよい。電極23の開口23aを光が通過することにより、電極23に遮られることなく光をレーザ素子1Bの表面側から好適に出射することができる。
【0118】
コンタクト層14の開口14aから露出した上部クラッド層13の表面(若しくは、開口14aが設けられない場合にはコンタクト層14の表面)は、反射防止膜25によって覆われている。なお、コンタクト層14の外側にも反射防止膜25が設けられてもよい。また、半導体基板10の裏面10b上における電極22以外の部分は、保護膜24によって覆われている。保護膜24の材料は、第1実施形態の保護膜18と同様である。反射防止膜25の材料は、第1実施形態の反射防止膜19と同様である。
【0119】
なお、
図52(a)に示されたように、電極22は裏面10bの全面に設けられてもよい。その場合、保護膜24は不要となる。また、
図52(b)に示されたように、レーザ素子1Aを実装する際のハンダの回り込みを抑制するために、半導体基板10の裏面10bの周縁部に段差10cが設けられてもよい。この場合、段差10cの幅は例えば5μm〜50μm、深さは例えば5μm〜50μmとされ、好適には幅30μm程度、深さ10μm程度とされる。段差10c上には保護膜24が設けられる。電極22が裏面10bの全面に設けられる場合には、
図52(c)に示されたように、電極22は裏面10bと段差10cとの境界付近まで設けられる。
【0120】
光反射層20は、活性層12において発生した光を、レーザ素子1Bの表面側(活性層12に対して上部クラッド層13側)に向けて反射する。光反射層20は、例えば、互いに屈折率が異なる複数の層が交互に積層されたDBR(Disrtibuted Bragg Reflector)層によって構成される。なお、本実施形態の光反射層20は活性層12と下部クラッド層11との間に設けられているが、光反射層20は下部クラッド層11と半導体基板10との間に設けられてもよい。
【0121】
一例では、半導体基板10はGaAs基板であり、下部クラッド層11、活性層12、位相変調層15A、上部クラッド層13、コンタクト層14、および光反射層20は、それぞれIII族元素のGa,Al,InおよびV族元素のAsからなる群に含まれる元素により構成される化合物半導体層である。具体的に、下部クラッド層11はAlGaAs層であり、活性層12は多重量子井戸構造(障壁層:AlGaAs/井戸層:InGaAs)を有し、位相変調層15Aの基本層15aはGaAsであり、異屈折率領域15bは空孔であり、上部クラッド層13はAlGaAs層であり、コンタクト層14はGaAs層であり、光反射層20はAlGaAs層である。
【0122】
また、他の例では、半導体基板10はGaAs基板であり、下部クラッド層11、活性層12、位相変調層15A、上部クラッド層13、コンタクト層14、および光反射層20は、それぞれIII族元素のGa,Al,InおよびV族元素のAsからなる群に含まれる元素のみでは構成されない化合物半導体層である。具体的に、下部クラッド層11はAlGaInP層であり、活性層12は多重量子井戸構造(障壁層:AlGaInPもしくはGaInP/井戸層:GaInP)を有し、位相変調層15Aの基本層15aはAlGaInPもしくはGaInPであり、異屈折率領域15bは空孔であり、上部クラッド層13はAlGaInP層であり、コンタクト層14はGaAs層であり、光反射層20はAlGaInP層またはAlGaAs層である。
【0123】
また、更に他の例では、半導体基板10はInP基板であり、下部クラッド層11、活性層12、位相変調層15A、上部クラッド層13、およびコンタクト層14、および光反射層20は、III族元素のGa,Al,InおよびV族元素のAsからなる群に含まれる元素のみでは構成されない化合物半導体、例えばInP系化合物半導体からなってもよい。または、半導体基板10はGaN基板であり、下部クラッド層11、活性層12、位相変調層15A、上部クラッド層13、およびコンタクト層14、および光反射層20は、III族元素のGa,Al,InおよびV族元素のAsからなる群に含まれる元素のみでは構成されない化合物半導体層であり、例えば窒化物系化合物半導体からなってもよい。
【0124】
下部クラッド層11および光反射層20には半導体基板10と同じ導電型が付与され、上部クラッド層13およびコンタクト層14には半導体基板10とは逆の導電型が付与される。一例では、半導体基板10、下部クラッド層11および光反射層20はn型であり、上部クラッド層13およびコンタクト層14はp型である。位相変調層15Aは、活性層12と下部クラッド層11との間に設けられる場合には半導体基板10と同じ導電型を有し、活性層12と上部クラッド層13との間に設けられる場合には半導体基板10とは逆の導電型を有する。なお、不純物濃度は例えば1×10
17〜1×10
21/cm
3である。
【0125】
電流狭窄層21は、電流を通過させにくい(あるいは通過させない)構造を有し、中央部に開口21aを有する。
図53に示されたように、開口21aの平面形状は、電極23の開口23aの形状と相似しており、例えば正方形もしくは円形である。電流狭窄層21は、例えばAlを高い濃度で含む層が酸化されてなるAl酸化層である。或いは、電流狭窄層21は、上部クラッド層13内にプロトン(H
+)が注入されることにより形成された層であってもよい。または、電流狭窄層21は、半導体基板10とは逆の導電型の半導体層と半導体基板10と同じ導電型の半導体層とが順に積層されてなる逆pn接合構造を有してもよい。
【0126】
電流狭窄層21の開口21aの内径(開口21aの形状が正方形である場合は1辺の長さ)Lcは、電極23の開口23aの内径(開口23aの形状が正方形である場合は1辺の長さ)Laよりも小さい。そして、主面10aの法線方向(Z方向)から見て、電流狭窄層21の開口21aは電極23の開口23aの内部に収まっている。
【0127】
本実施形態のレーザ素子1Bの寸法例を説明する。電極23の開口23aの内径(開口23aの形状が正方形である場合は1辺の長さ)Laは、5μm〜100μmの範囲内であり、例えば50μmである。また、位相変調層15Aの厚さtaは例えば100nm〜400nmの範囲内であり、例えば200nmである。電流狭窄層21とコンタクト層14との間隔tbは、2μm〜50μmの範囲内である。言い換えると、間隔tbは、0.02La〜10Laの範囲内(例えば0.1La)であり、5.0ta〜500taの範囲内(例えば25ta)である。また、上部クラッド層13の厚さtcは、間隔tbよりも大きく、2μm〜50μmの範囲内である。言い換えると、厚さtcは、0.02La〜10Laの範囲内(例えば0.1La)であり、5.0ta〜500taの範囲内(例えば25ta)である。下部クラッド層11の厚さtdは、1.0μm〜3.0μmの範囲内(例えば2.0μm)である。
【0128】
電極22と電極23との間に駆動電流が供給されると、駆動電流は活性層12に達する。このとき、電極23と活性層12との間を流れる電流は、厚い上部クラッド層13において十分に拡散するとともに、電流狭窄層21の開口21aを通過することにより、活性層12における中央部付近に均一に拡散することができる。そして、活性層12内において電子と正孔の再結合が生じ、活性層12が発光する。この発光に寄与する電子および正孔、並びに発生した光は、下部クラッド層11および上部クラッド層13の間に効率的に閉じ込められる。活性層12から出射されたレーザ光は、位相変調層15Aの内部に入射し、位相変調層15Aの内部の格子構造に応じた所定のモードを形成する。位相変調層15A内から出射したレーザ光は、光反射層20において反射し、上部クラッド層13から開口14aおよび開口23aを通って外部へ出射される。このとき、レーザ光の0次光は、主面10aに垂直な方向へ出射する。これに対し、レーザ光の信号光は、主面10aに垂直な方向およびこれに対して傾斜した方向を含む2次元的な任意方向へ出射する。所望の光像を形成するのは信号光であって、0次光は本実施形態では使用されない。
【0129】
なお、
図50、
図51に示された実施形態のように、電極22の外径は開口21aの内径よりも小さく、主面10aの法線方向から見て電極22は開口21aの内側に収まっていてもよい。これにより、作製上のエラーによって電流狭窄層21に欠陥や孔を介したリークを生じた場合であっても、電極22が開口21aの内側に形成されているため、リーク部から電極22に流れる電流経路は高抵抗となり、電流のリークを抑制できる。これによって、開口21a直下の活性層12への電流注入において、レーザ素子1Bの信頼性を高めることができる。なお、レーザ素子1Bの作製時に十分な精度が得られる場合には、半導体基板10の裏面10bの全面に電極22が形成されてもよい 。
【0130】
以上に説明した本実施形態によるレーザ素子1Bによれば、第1実施形態のレーザ素子1Aと同様に、高次モードの発生を抑制し、ビームパターンに重畳される網目状の暗部を有するノイズ光を低減することができる。また、本実施形態のように、活性層12に対して上部クラッド層13側の表面から光像を出力することにより、半導体基板10における光吸収を回避し、レーザ素子1Bの光出力効率を高めることができる。このような構成は、半導体基板10にGaAsを用いた構成において、特に可視光領域〜近赤外領域(例えば波長600nm〜920nm)の光像を出力する場合に有効である。
【0131】
図54〜
図61は、本実施形態のレーザ素子1Bの製造方法を説明する図である。
図54(a)~
図54(c)および
図55(a)〜
図55(b)は電流狭窄層21を酸化により形成する場合の製造方法を示す。
図56(a)〜
図56(b)および
図57は電流狭窄層21をプロトン注入により形成する場合の製造方法を示す。
図58(a)〜
図58(c)および
図59(a)〜
図59(b)は電流狭窄層21を逆pn接合構造により形成する場合の第1の製造方法を示す。
図60(a)〜
図60(c)および
図61(a)〜
図61(b)は電流狭窄層21を逆pn接合構造により形成する場合の第2の製造方法を示す。
【0132】
(電流狭窄層が酸化により形成される場合)
まず、
図54(a)に示されたように、半導体基板10上に、第1積層部41をエピタキシャル成長させる(第1の成長工程)。第1積層部41は、下部クラッド層11、光反射層20、活性層12、および位相変調層15Aの基本層15aを含む。すなわち、この工程は、本実施形態の第1工程、第2工程、および第5工程の前半を含み、下部クラッド層11、光反射層20、活性層12、および位相変調層15Aの基本層15aを連続して成長させる。第1積層部41を成長する方法としては、例えば有機金属気相成長法(MOCVD)がある。なお、基本層15a上に、酸化防止用の薄い層(半導体基板10がGaAs基板である場合、例えばアンドープGaInP層)が形成されてもよい。次に、第1積層部41の最上層である位相変調層15Aの基本層15aの上に電子線描画法などの微細加工技術を用いてエッチングマスクが形成される。該エッチングマスクの開口を介して基本層15aをエッチングすることにより、
図54(b)に示された複数の異屈折率領域15bが形成される(異屈折率領域形成工程)。なお、異屈折率領域形成工程は、本実施形態の第5工程の後半に相当する。こうして、基本層15aの内部に複数の異屈折率領域15bを有する位相変調層15Aが形成される。
【0133】
続いて、
図54(c)に示されたように、位相変調層15A上に半導体層42、43および第2積層部44を連続してエピタキシャル成長させる(第2の成長工程)。第2の成長工程は、本実施形態の第3工程および第4工程を含む。半導体層42、43および第2積層部44を成長する方法としては、例えばMOCVDがある。半導体層42は、上部クラッド層13の一部となる層であって、上部クラッド層13と同じ組成を有する(第3工程の前半)。半導体層43は、電流狭窄層21を形成する為の層であり、例えばAl組成の高いAl含有層である。半導体基板10がGaAs基板である場合、半導体層43は例えばAl組成比が95%以上のAlGaAs層、若しくはAlAs層である。また、半導体層43の厚さは例えば5nm〜50nm(典型的には20nm程度以下)である。第2積層部44は、上部クラッド層13の残部(第3工程の後半)と、コンタクト層14(第4工程)とを含む。なお、半導体層42、43には上部クラッド層13と同じ導電型のドーピングをしてもよく、これにより駆動電圧の増大を抑制することができる。
【0134】
続いて、
図55(a)に示されたように、半導体層42、43および第2積層部44に対してエッチングを行うことにより、半導体層42、43および第2積層部44をメサ状に加工される。続いて、
図55(b)に示されたように、半導体層43の周囲から水蒸気酸化を行うことにより、半導体層43の中央部を除く周縁部が酸化される。これにより、絶縁性のAlOを主に含む電流狭窄層21が形成される。なお、酸化されない半導体層43の中央部は、電流狭窄層21の開口部分となり、上部クラッド層13の一部を構成する。その後、第2積層部44のコンタクト層14の一部をエッチングすることによりコンタクト層14の開口14aを形成し、コンタクト層14上に電極23を形成し、半導体基板10の裏面上に電極22を形成する。以上の工程を経て、レーザ素子1Bが作製される。
【0135】
上記のように電流狭窄層21を酸化により形成する場合、電流狭窄層21をプロトン注入により形成する場合と比較して、上部クラッド層13が厚い場合であっても、レーザ素子1Bの厚さ方向(Z方向)における電流狭窄層21の位置を高精度に制御することが可能となる。更に、上部クラッド層13およびコンタクト層14にダメージを与えることなく電流狭窄層21を形成することができる。また、電流狭窄層21を逆pn接合構造により形成する場合と比較して、上部クラッド層13へのドーパントの拡散による損失の増大およびドーピング濃度の変化を抑えることができる。
【0136】
(電流狭窄層がプロトン注入により形成される場合)
上述の「電流狭窄層が酸化により形成される場合」と同様に、
図56(a)に示されたように、複数の異屈折率領域15bを含む第1積層部41を半導体基板10上に形成する(第1の成長工程および異屈折率領域形成工程)。すなわち、第1の成長工程および異屈折率領域形成工程は、本実施形態の第1工程、第2工程、および第5工程を含む。その後、第1積層部41上に第2積層部44をエピタキシャル成長させる(第2の成長工程)。第2の成長工程は、本実施形態の第3工程および第4工程を含む。続いて、
図56(b)に示されたように、第2積層部44上にレジストマスクM1を形成する。レジストマスクM1は、電流狭窄層21の開口21aの輪郭に沿った外縁を有する。そして、レジストマスクM1から露出した第2積層部44の部分に対し、プロトン(H
+)が注入される。これにより、高濃度プロトンを含む高抵抗の領域である電流狭窄層21が形成される。このとき、プロトン注入の加速電圧を調整することで、高抵抗の領域の深さ方向の位置を制御することができる。レジストマスクM1が除去された後、
図57に示されたように、第2積層部44のコンタクト層14の一部をエッチングすることによりコンタクト層14の開口14aが形成され、コンタクト層14上に電極23が形成され、更に、半導体基板10の裏面上に電極22が形成される。以上の工程を経て、レーザ素子1Bが作製される。
【0137】
上述のように電流狭窄層21がプロトン注入により形成される場合、酸化による形成の場合と比較して、開口21aの内径を精度良く制御することができる。また、電流狭窄層21が逆pn接合構造により形成される場合と比較して、上部クラッド層13へのドーパントの拡散による損失の増大およびドーピング濃度の変化を抑えることができる。
【0138】
(電流狭窄層が逆pn接合構造により形成される場合:第1の製造方法)
まず、
図58(a)に示されたように、半導体基板10上に、第1積層部41、半導体層45、および半導体層46を連続してエピタキシャル成長させる(第1の成長工程)。第1の成長工程は、本実施形態の第1工程、第2工程、および第5工程の前半を含む。半導体層45は、半導体基板10とは反対の導電型(例えばp型)の層であり、半導体基板10がGaAs基板である場合、例えばp型AlGaInP層である。また、半導体層46は、半導体基板10と同じ導電型(例えばn型)の層であり、半導体基板10がGaAs基板である場合、例えばn型AlGaInP層である。半導体層45,46の厚さは、例えばそれぞれ100nmである。
【0139】
次に、
図58(b)に示されたように、半導体層46上に通常のフォトリソグラフィー技術を用いてエッチングマスクを形成し、該エッチングマスクの開口を介して半導体層45,46を第1積層部41が露出するまでエッチングする。これにより、逆pn接合構造を有し開口21aを有する電流狭窄層21が形成される。続いて、開口21aから露出した第1積層部41の基本層15aの上に電子線描画法などの微細加工技術を用いてエッチングマスクが形成され、該エッチングマスクの開口を介して基本層15aをエッチングすることにより、
図58(c)に示された複数の異屈折率領域15bが形成される(本実施形態の第5工程の後半)。
【0140】
続いて、
図59(a)に示されたように、電流狭窄層21上および電流狭窄層21の開口21aから露出した第1積層部41上に、第2積層部44がエピタキシャル成長される(第2の成長工程)。第2の成長工程は、本実施形態の第3工程および第4工程を含む。その後、
図59(b)に示されたように、第2積層部44のコンタクト層14の一部をエッチングすることによりコンタクト層14の開口14aが形成され、コンタクト層14上に電極23が形成され、更に、半導体基板10の裏面上に電極22が形成される。以上の工程を経て、レーザ素子1Bが作製される。
【0141】
上述のように電流狭窄層21が逆pn接合構造により形成される場合、酸化による形成の場合と比較して、開口21aの内径を精度良く制御することができる。また、電流狭窄層21がプロトン注入により形成される場合と比較して、上部クラッド層13が厚い場合であっても、レーザ素子1Bの厚さ方向(Z方向)における電流狭窄層21の位置を高精度に制御することが可能となる。また、上部クラッド層13およびコンタクト層14にダメージを与えることなく電流狭窄層21の形成が可能になる。更に、半導体の成長およびエッチングといった通常の半導体プロセスのみによって電流狭窄層21が形成し得るので、酸化やプロトン注入により電流狭窄層21が形成される場合と比較して、電流狭窄層21が容易に形成し得る。
【0142】
(電流狭窄層が逆pn接合構造により形成される場合:第2の製造方法)
上述の「電流狭窄層が酸化により形成される場合」と同様に、
図60(a)に示されたように、複数の異屈折率領域15bを含む第1積層部41を半導体基板10上に形成する(第1の成長工程および異屈折率領域形成工程)。第1の成長工程および異屈折率領域形成工程は、本実施形態の第1工程、第2工程、および第5工程を含む。次に、
図60(b)に示されたように、第1積層部41上に、半導体層45,46を連続してエピタキシャル成長させる(第2の成長工程)。第2の成長工程は、本実施形態の第3工程および第4工程を含む。半導体層45,46の構成(材料および厚さ)は、上述した第1の製造方法と同様である。続いて、半導体層46上に通常のフォトリソグラフィー技術を用いてエッチングマスクが形成され、該エッチングマスクの開口を介して半導体層45,46が、第1積層部41が露出するまでエッチングされる。これにより、
図60(c)に示されたように、逆pn接合構造を有し開口21aを有する電流狭窄層21が形成される。
【0143】
続いて、
図61(a)に示されたように、電流狭窄層21上および電流狭窄層21の開口21aから露出した第1積層部41上に、第2積層部44がエピタキシャル成長される(第3の成長工程)。その後、
図61(b)に示されたように、第2積層部44のコンタクト層14の一部をエッチングすることによりコンタクト層14の開口14aが形成され、コンタクト層14上に電極23が形成され、更に、半導体基板10の裏面上に電極22が形成される。以上の工程を経て、レーザ素子1Bが作製される。なお、この第2の製造方法による利点は、上述した第1の製造方法と同様である。
【0144】
(第2実施形態の具体例)
ここで、第2実施形態に係るレーザ素子1Bの具体例について説明する。
図62は、実施例に係るレーザ素子1Bの具体的な層構造を示す表である。
図62に示されたように、本実施例では、半導体基板10としてn型GaAsを用い、半導体基板10上に、n型GaAsバッファ層、n型(Al
0.6Ga
0.4)
0.5In
0.5Pからなる下部クラッド層11が設けられる。その上に、アンドープの(Al
xGa
1−x)
0.5In
0.5P(例えばxは0.03程度)からなる障壁層と、アンドープのGaInPからなる井戸層とが交互に積層された多重量子井戸構造を有する活性層12が設けられる。井戸層の層数は3であり、障壁層の層数は4である。この活性層12によれば、波長690nmの光を発生することができる。その上に、アンドープの(Al
0.7Ga
0.3)
0.5In
0.5Pからなるキャリアブロック層、アンドープの(Al
xGa
1−x)
0.5In
0.5P(例えばxは0.03程度)からなる基本層15aのみによって構成される位相変調層15Aの下層部分、アンドープの(Al
xGa
1−x)
0.5In
0.5P(例えばxは0.03程度)からなる基本層15aと空隙からなる異屈折率領域15bとによって構成される位相変調層15Aの上層部分を設ける。その上に、p型の(Al
0.7Ga
0.3)
0.5In
0.5Pからなる上部クラッド層13、およびp型GaAsからなるコンタクト層14を設ける。なお、これらの各層の屈折率、厚さ、ドーパントおよびドーピング濃度、並びに光閉じ込め係数Γの値は
図62に示された通りである。また、位相変調層15Aのフィリングファクタは15%である。また、表中のxは、Alの組成比を表す。
【0145】
図63は、
図62に示された層構造を備えるレーザ素子1Bの屈折率分布G27aおよびモード分布G27bを示す。縦軸は屈折率を表し、横軸は積層方向位置を表す。積層方向における区間D6は下部クラッド層11であり、区間D7は活性層12を含む光導波路層であり、区間D8は位相変調層15Aであり、区間D9は上部クラッド層13である。基本モードのみが生じており、高次モードが抑制されていることがわかる。従って、本実施例によれば、高次モードの発生を抑制し、ビームパターンに重畳される網目状の暗部を有するノイズ光を低減することができる。
【0146】
本発明による半導体発光素子は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態および実施例ではGaAs系、InP系、および窒化物系(特にGaN系)の化合物半導体からなるレーザ素子を例示したが、本発明は、これら以外の様々な半導体材料からなるレーザ素子に適用できる。
【0147】
また、本発明の半導体発光素子は、材料系、膜厚、および層構成に自由度を有する。ここで、仮想的な正方格子からの異屈折率領域の摂動が0である、いわゆる正方格子フォトニック結晶レーザに関しては、スケーリング則が成り立つ。すなわち、波長が定数α倍となった場合には、正方格子構造全体をα倍することによって同様の定在波状態を得ることが出来る。同様に、本発明においても、実施例に開示した以外の波長においてもスケーリング則によって位相変調層の構造を決定することが可能である。従って、青色、緑色、赤色などの光を発光する活性層を用い、波長に応じたスケーリング則を適用することで、可視光を出力する半導体発光素子を実現することも可能である。
【0148】
図64は、位相変調層の変形例を示す図であって、層厚方向から見た形態を示す。この変形例による位相変調層15Cは、
図3に示された位相変調層15Aと同様の構成を有する領域(すなわち、所望のビームパターンが得られるよう設計された異屈折率領域15bの配列を含む領域)15dの外周部に、正方格子の各格子点上に異屈折率領域が設けられた領域15eを有する。領域15eの異屈折率領域の形状および大きさは、位相変調層15Aの異屈折率領域15bと同一である。また、領域15eの正方格子の格子定数は、位相変調層15Aの正方格子の格子定数と等しい。このように、正方格子の各格子点上に異屈折率領域が設けられた領域15eによって領域15dを囲むことにより、面内方向への光漏れを抑制することができ、閾値電流の低減が期待できる。