【文献】
Wanjun Li et al.,"p-Type conductivity and stability of Ag-N codoped ZnO thin films",Journal of Alloys and Compounds,2014年,Vol.609,pp.173-177
【文献】
Byung-Sub Kang et al.,"First-principles study for ferromagnetism of Cu-doped ZnO with carrier doping",Journal of Solid State Chemistry,2013年,Vol.198,pp.120-124
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
銅、銀及びその両方からなる群から選択される第1のドーパント及び窒素、燐、砒素及びこれらの二つ以上からなる群から選択される第2のドーパントがドープされているp形酸化亜鉛層と、
前記p形酸化亜鉛層と共にpn接合を形成しているn形酸化亜鉛層とを備え、
少なくとも前記第1のドーパントの前記p形酸化亜鉛層へのドープによって、可視光を吸収して電子を伝導帯に励起しうるアクセプタ準位が前記p形酸化亜鉛層のバンドギャップ内に形成され、可視光の最大透過率が40%〜94%である、ことを特徴とする光電池。
酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、ガラス、プラスチック及びこれらの二つ以上からなる群から選択される材料から構成されている基板を備え、前記n形酸化亜鉛層は、前記基板の一方の面に形成されている請求項1に記載の光電池。
酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタン、錫インジウム酸化物、金、白金及びこれらの二つ以上からなる群から選択される材料から構成されている電極が、前記p形酸化亜鉛層の一方の面に形成されている請求項1〜7のいずれか一項に記載の光電池。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明による光電池の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0023】
図1は、本発明による光電池の実施の形態の断面図である。
図1において、光電池1は、n形酸化亜鉛層2と、p形酸化亜鉛層3と、電極4,5とを備える。
【0024】
n形酸化亜鉛層2は、n形の電気伝導性を示すとともに低抵抗(例えば、0.1Ω・cm以下の抵抗率)である透明な酸化亜鉛単結晶基板によって構成され、p形酸化亜鉛層3と共にpn接合6を形成している。本実施の形態では、n形酸化亜鉛層2の抵抗を低減するために、ドナー準位を形成するためのアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)等のIII族の元素又はフッ素(F)、塩素(Cl)等のVII族の元素がドープされている。n形酸化亜鉛層2の抵抗を低減するために、熱処理等により酸素空孔又は過剰亜鉛を発生させてもよい。
【0025】
p形酸化亜鉛層3は、蒸着法(例えば、プラズマアシスト反応性蒸着)又はスパッタ法によりn形酸化亜鉛層2の一方の面に形成されている。p形酸化亜鉛層3が蒸着法又はスパッタ法によって形成されているのでp形酸化亜鉛層3にp形酸化亜鉛微粒子が存在せず、p形酸化亜鉛層3は透明である。本実施の形態では、光電池1は、1層のp形酸化亜鉛層3を有しているが、2層以上のp形酸化亜鉛層を有してもよい。
【0026】
p形酸化亜鉛層3には、後に説明するように、アクセプタ準位を形成するとともに可視光の吸収を生じる元素がドープされ、p形酸化亜鉛層3とn形酸化亜鉛層2のフェルミエネルギーの差が生じ、空乏層が形成される。
【0027】
光電池が紫外光だけでなく可視光を吸収して電力に変換できることが必要である。そのために、本実施の形態では、可視光を吸収して電子を伝導帯に励起しうるアクセプタ準位(以下、「第1のアクセプタ準位」)をp形酸化亜鉛層3のバンドギャップ内に形成するためのドーパント(以下、「第1のドーパント」)がp形酸化亜鉛層3にドープされている。第1のドーパントは、銅、銀及びその両方からなる群から選択される。また、第1のドーパントとして、亜鉛のイオン半径に近いイオン半径を有する銅がより好ましい。第1のドーパントの濃度は、1×10
17原子/cm
3〜1×10
20原子/cm
3となる。第1のドーパントの濃度が1×10
17原子/cm
3より小さくなると可視光がp形酸化亜鉛層3に十分に吸収されなくなり、第1のドーパントの濃度が1×10
20原子/cm
3より大きくなるとp形酸化亜鉛層3の結晶性が劣化する。
【0028】
本実施の形態では、p形酸化亜鉛層3がp形の電気伝導性を示すようにするために、熱により価電子帯から電子が励起しうるアクセプタ準位(以下、「第2のアクセプタ準位」)をp形酸化亜鉛層3のバンドギャップ内に形成している。そのために、ドーパント(以下、「第2のドーパント」)がp形酸化亜鉛層3にドープされている。第2のドーパントは、窒素、燐、砒素及びこれらの二つ以上からなる群から選択される。また、第2のドーパントとして、酸素のイオン半径に近いイオン半径を有する窒素がより好ましい。第2のドーパントの濃度は、1×10
17原子/cm
3〜1×10
20原子/cm
3となる。第2のドーパントの濃度が1×10
17原子/cm
3より小さくなるとp形酸化亜鉛層3の正孔濃度が低くなるためにp形酸化亜鉛層3が高抵抗となり、第2のドーパントの濃度が1×10
20原子/cm
3より大きくなるとp形酸化亜鉛層3の結晶性が劣化する。
【0029】
上述したように、第1のアクセプタ準位をp形酸化亜鉛層3のバンドギャップ内に形成するために第1のドーパント(例えば、銅)がp形酸化亜鉛層3にドープされるが、第1のアクセプタ準位は、後述するように価電子帯の上端から0.3eV〜1.7eV上にあるので、室温(例えば、25℃)では正孔がほとんど発生しない。したがって、p形酸化亜鉛層3に第1のドーパントのみをドープした場合、p形酸化亜鉛層3を低抵抗(例えば、100Ω・cm以下の抵抗率)にするのが困難になり、光電池1から電力を取り出しにくくなる。p形酸化亜鉛層3を低抵抗(例えば、100Ω・cm以下の抵抗率)にするためには、後述するように価電子帯の上端から0.2eV以下の準位である第2のアクセプタ準位を形成する第2のドーパント(例えば、窒素)を第1のドーパントとともにp形酸化亜鉛層3にドープする必要がある。
【0030】
本実施の形態では、第1のドーパント及び第2のドーパントを同時にp形酸化亜鉛層3にドープすることによって、p形酸化亜鉛層3を低抵抗(例えば、100Ω・cm以下の抵抗率)にしている。これによって、電流の流れが阻害される要因を除いて、光電池1から電力を取り出しやすくしている。
【0031】
電極4は、蒸着法(例えば、真空蒸着法)、スパッタ法等によりn形酸化亜鉛層2の一方の面に形成され、任意の導電性材料(例えば、アルミニウム薄膜)によって構成される。
【0032】
電極5は、蒸着法(例えば、真空蒸着法)、スパッタ法等によりp形酸化亜鉛層3の一方の面に形成され、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタン、錫インジウム酸化物、金、白金及びこれらの二つ以上からなる群から選択される材料から構成され、かつ、透明である。
【0033】
図2は、本発明による光電池の発電のメカニズム及びアクセプタ準位を説明するための図である。
図2に示すように、第1のアクセプタ準位は、第2のアクセプタ準位より価電子帯の上端から離れており、価電子帯の上端から0.3eV〜1.7eV上にある準位である。また、第2のアクセプタ準位は、価電子帯の上端から0.2eV以下の準位である。第1のアクセプタ準位が価電子帯の上端から0.3eV〜1.7eV上にある準位であれば、可視光に対応する400〜800nmの光を吸収して伝導帯に電子を励起することができる。また、第2のアクセプタ準位が価電子帯の上端から0.2eV以下の準位であれば、室温において正孔を放出することができる。
【0034】
光電池1による光電変換を行う際に、p形酸化亜鉛層3から直接又はp形酸化亜鉛層3の一方の面に形成された電極5から正孔が取り出されるとともにn形酸化亜鉛層2から直接又はn形酸化亜鉛層2の一方の面に形成された電極4から伝導電子が取り出される。本実施の形態によれば、可視光を吸収して電子を伝導帯に励起しうる第1のアクセプタ準位をp形酸化亜鉛層3のバンドギャップ内に形成するための第1のドーパントがp形酸化亜鉛層3にドープされているので、光電池1は、紫外光だけでなく可視光も吸収して電力に変換することができる。可視光が光電池1を透過しても視界をある程度確保するのであれば、光電池1に対する可視光の最大透過率は、少なくとも40%は必要である。光電池1は可視光を吸収するので、光電池1に入射される全ての可視光が光電池1を通過せず、光電池1に対する可視光の最大透過率は、94%より上にはならない。本実施の形態において、「可視光」とは、波長が400nm〜800nmの波長の光を意味し、「可視光の最大透過率」とは、可視光の透過率の最大値を意味する。本実施の形態では、透明なn形酸化亜鉛層2の上に透明なp形酸化亜鉛層3及び透明な電極5を順次形成することによって、最大透過率が40%〜94%である透明な光電池1を構成することができる。したがって、光電池1を、可視光が入射される様々な場所(例えば、腕時計、窓ガラス、情報端末)に設置して利用することができる。また、光電池1が有色透明である場合には、光電池1を色ガラス等に用いることができる。
【0035】
図3は、
図1に示す光電池を製造するのに用いたプラズマアシスト反応性蒸着装置の概略図である。
図3に示すプラズマアシスト反応性蒸着装置11を、n形酸化亜鉛層2の一方の面にp形酸化亜鉛層3を形成するために用いた。プラズマアシスト反応性蒸着装置11には、酸素(O
2)ガス及び窒素(N
2)ガス又は窒素酸化物(NO,NO
2,N
2O)ガスを導入するためのポート11aと、プラズマアシスト反応性蒸着装置11の真空チャンバ内を真空状態に保つための真空ポンプ(図示せず)とが取り付けられている。
【0036】
プラズマアシスト反応性蒸着装置11の真空チャンバ内には、n形酸化亜鉛層2(すなわち、酸化亜鉛単結晶基板)を保持するための基板マスク11bと、n形酸化亜鉛層2を加熱するためのヒータ11cが取り付けられており、n形酸化亜鉛層2の温度を確認するための温度センサ(図示せず)が設けられている。
【0037】
また、プラズマアシスト反応性蒸着装置11の真空チャンバ内には、亜鉛を供給するルツボ11dと、ルツボ11dを加熱して亜鉛を蒸発させるためのヒータ11eが取り付けられており、ルツボ11dの温度を確認するための温度センサ(図示せず)が設けられている。
【0038】
また、プラズマアシスト反応性蒸着装置11の真空チャンバ内には、銅を供給するルツボ11fと、ルツボ11fを加熱して銅を蒸発させるためのヒータ11gが取り付けられており、ルツボ11fの温度を確認するための温度センサ(図示せず)が設けられている。
【0039】
さらに、プラズマアシスト反応性蒸着装置11の真空チャンバ内には、ルツボ11d,11fのシャッタ11hと、プラズマ発生用のコイル11iと、排気口11jが取り付けられている。なお、プラズマアシスト反応性蒸着装置11の真空チャンバ内の成膜成長、真空度、コイル11iの出力等は、制御パネル(図示せず)によって適宜制御される。
【0040】
図1に示す光電池1の具体的な製造方法について以下に説明する。
【0041】
図3に示すプラズマアシスト反応性蒸着装置11のポート11aから導入されるガスの純度を、n形酸化亜鉛層2の一方の面に形成されるp形酸化亜鉛層3の電気的特性、結晶性等の劣化を防止するために99.99%以上にする。
【0042】
ルツボ11dに詰め込まれる亜鉛の金属片の純度を、n形酸化亜鉛層2の一方の面に形成されるp形酸化亜鉛層3の電気的特性、結晶性等の劣化を防止するために99.99%以上にする。また、ルツボ11dに詰め込まれる亜鉛の金属片のサイズを0.5〜5mmにする。
【0043】
ルツボ11dの加熱温度を300℃〜700℃の間にする。ルツボ11dの加熱温度が300℃より低い場合、ルツボ11dに詰め込まれた亜鉛が蒸発しない。ルツボ11dの加熱温度が700℃を超える場合、p形酸化亜鉛層3の成膜レートが高くなりすぎてp形酸化亜鉛層3の結晶性が著しく悪くなる。
【0044】
ルツボ11fに詰め込まれる銅の粒子の純度を、n形酸化亜鉛層2の一方の面に形成されるp形酸化亜鉛層3に銅の不純物がドープされることによってp形酸化亜鉛層3の電気的特性、結晶性等の劣化を回避するために99.99%以上にする。また、ルツボ11fの加熱温度を1000℃〜1500℃の間にする。
【0045】
プラズマアシスト反応性蒸着装置11の真空チャンバを、n形酸化亜鉛層2を基板マスク11bに取り付けた後に真空チャンバ内の不純物を取り除くために一旦10
-3Pa〜10
-6Pa程度の真空状態に保持する。プラズマアシスト反応性蒸着装置11の真空チャンバを10
-3Pa〜10
-6Pa程度の真空状態に保持しない(すなわち、真空度が低い)場合、n形酸化亜鉛層2の一方の面に形成されるp形酸化亜鉛層3の不純物の含有率が高くなり、p形酸化亜鉛層3の結晶性が悪くなる。
【0046】
プラズマアシスト反応性蒸着装置11の真空チャンバ内にプラズマを発生させる際の入力電力を20W〜300Wの間にする。入力電力が20Wより低い場合、p形酸化亜鉛層3を成膜することができない。入力電力が300Wより高い場合、発生したイオン又は電子の衝突による衝撃によりp形酸化亜鉛層3の結晶性が著しく悪くなる。
【0047】
窒素をドープしてp形酸化亜鉛層3を成膜する際、原料ガスであるO
2とドーピングするN
2ガスをガスの導入ポート11aから導入する。プラズマアシスト反応性蒸着装置11の真空チャンバの内圧は、導入するガスの流量及び排気口11jから排気する排気ガスの流量により1.0×10
-2Pa〜2.0Paに調整される。プラズマアシスト反応性蒸着装置11の真空チャンバの内圧が1.0×10
-2Paより低い場合、n形酸化亜鉛層2に供給されるO
2ガスが少なくなるためにp形酸化亜鉛層3の成膜を良好に行うことができなくなる又はp形酸化亜鉛層3にドープされる窒素の量が少なくなり、p形酸化亜鉛層3の抵抗が高くなる。また、プラズマアシスト反応性蒸着装置11の真空チャンバの内圧が2.0Paより高い場合、亜鉛が酸化して蒸発しなくなる。
【0048】
p形酸化亜鉛層3の成膜温度を300℃〜900℃の間にする。成膜温度が300℃より低い場合、n形酸化亜鉛層2の一方の面に形成されるp形酸化亜鉛層3の結晶性が悪くなる。成膜温度が900℃を超える場合、p形酸化亜鉛層3を成膜できなくなる。0.1μm〜1.0μmの膜厚のp形酸化亜鉛層3を成膜する場合、p形酸化亜鉛層3の成膜時間を20分〜180分にする。
【0049】
[実施例1]
最初に、0.5mmの層厚のn形酸化亜鉛層2を基板マスク11bに取り付け、純度99.99%以上の亜鉛の金属片をルツボ11dに詰め込み、純度99.99%以上の銅の粒子をルツボ11fに詰め込んだ。次に、プラズマアシスト反応性蒸着装置11の真空チャンバを、真空ポンプにより4×10
-5Paの真空状態に保持した。
【0050】
次に、n形酸化亜鉛層2をヒータ11cによって加熱することによってサーマルクリーニングを行い、n形酸化亜鉛層2の加熱温度を、p形酸化亜鉛層3の成膜時の温度に調整した。
【0051】
加熱温度の調整後、ルツボ11dに詰め込まれた亜鉛を加熱するためにヒータ11eによってルツボ11dを加熱した。また、ルツボ11fに詰め込まれた銅を加熱するためにヒータ11gによってルツボ11fを加熱した。
【0052】
次に、純度99.99%以上のO
2ガスをポート11aから導入し、RF電源(図示せず)を起動してプラズマアシスト反応性蒸着装置11の真空チャンバ内にプラズマを発生させた。入力電力を90Wにした。また、純度99.99%以上のN
2ガスをポート11aから導入してO
2ガスに混入させることによってp形酸化亜鉛層3に窒素をドープした。ガスの流量をマスフローコントローラ(図示せず)によって制御した。また、p形酸化亜鉛層3の成膜レートを高くし、p形酸化亜鉛層3の結晶性を良くし、かつ、p形酸化亜鉛層3に窒素を良好にドープできる条件を満足させるために、プラズマアシスト反応性蒸着装置11の真空チャンバの内圧を調整した。
【0053】
p形酸化亜鉛層3の成膜を、シャッタ11hを開けることによって開始した。O
2ガスとN
2ガスとの分圧比を、p形酸化亜鉛層3の結晶性とキャリア濃度の観点に基づいて決定される窒素のドープ量に応じて調整し、約0.1μmの層厚のp形酸化亜鉛層3を成膜した。
【0054】
成膜時間終了後、シャッタ11hを閉じ、ヒータ11e,11gの加熱を停止し、プラズマ電源をオフにし、ポート11aからの気体の導入を停止した。p形酸化亜鉛層3が形成されたn形酸化亜鉛層2及びルツボ11d,11fをプラズマアシスト反応性蒸着装置11の真空チャンバから取り出した。
【0055】
n形酸化亜鉛層2にp形酸化亜鉛層3を形成した後、真空蒸着法により0.05μmの膜厚のアルミニウムから構成された電極4をn形酸化亜鉛層2の一方の面に形成するとともに、真空蒸着法により0.02μmの膜厚の金によって構成された電極5をp形酸化亜鉛層3の一方の面に形成し、光電池1を得た。
【0056】
上述した製造方法によって得られた光電池1のn形酸化亜鉛層2、p形酸化亜鉛層3及び電極4,5の層厚は、以下の通りである。
n形酸化亜鉛層2の層厚:0.5mm
p形酸化亜鉛層3の層厚:0.1μm
電極4の層厚:0.05μm
電極5の層厚:0.02μm
【0057】
図4は、[実施例1]において得られた光電池1における電流−電圧特性を示す図である。
図4において、横軸に電圧(V)をとると共に縦軸に電流密度(μA/cm
2)をとり、破線aは、可視光を照射していないときの光電池の電流−電圧特性を示し、実線bは、可視光を照射したときの光電池の電流−電圧特性を示す。
【0058】
図示したように、実線bと横軸との交点に対応する開放電圧(Voc)は約0.2Vであり、実線bと縦軸との交点に対応する短絡電流密度(Jsc)は約2.2μA/cm
2であり、曲線因子(Fill Factor:FF)は0.31であり、製造された光電池が光起電力素子(光電変換素子)として機能しているのが確認された。
【0059】
図5は、[実施例1]において得られた光電池1における可視光の透過率を示す図である。図示したように、可視光の透過率は、概ね40%〜94%まで変化している。したがって、製造された光電池は、可視光の最大透過率が94%であることが確認された。
【0060】
[実施例2]
上述した[実施例1]と同様に、0.5mmの層厚のn形酸化亜鉛層2上にp形酸化亜鉛層3を成膜する。この際、[実施例1]の場合よりもp形酸化亜鉛層3中に銅がより多く取り込まれるように、ルツボ11dに詰め込まれた亜鉛を加熱するためのヒータ11eによってルツボ11dを、[実施例1]と同様に加熱し、ルツボ11fに詰め込まれた銅を加熱するためのヒータ11gによってルツボ11fをより高い温度になるように加熱した。
【0061】
ヒータ11gによるルツボ11fの加熱条件以外は上述した[実施例1]と同一の条件の下で、プラズマアシスト反応性蒸着装置11を用いて、約0.1μmの層厚のp形酸化亜鉛層3を成膜した。
【0062】
上述した[実施例1]と同様にしてn形酸化亜鉛層2にp形酸化亜鉛層3を形成した後、真空蒸着法により0.05μmの膜厚のアルミニウムから構成された電極4をn形酸化亜鉛層2の一方の面に形成するとともに、真空蒸着法により0.02μmの膜厚の金によって構成された電極5をp形酸化亜鉛層3の一方の面に形成し、光電池1を得た。
【0063】
上述した製造方法によって得られた光電池1のn形酸化亜鉛層2、p形酸化亜鉛層3及び電極4,5の層厚は、以下の通りである。
n形酸化亜鉛層2の層厚:0.5mm
p形酸化亜鉛層3の層厚:0.1μm
電極4の層厚:0.05μm
電極5の層厚:0.02μm
【0064】
図6は、[実施例2]において得られた光電池1における電流-電圧特性を示す図である。
図6において、横軸に電圧(V)をとると共に縦軸に電流密度(μA/cm
2)をとり、破線a’は、可視光を照射していないときの光電池の電流-電圧特性を示し、実線b’は、可視光を照射したときの光電池の電流-電圧特性を示す。
【0065】
図示したように、実線b’と横軸との交点に対応する開放電圧(Voc)は約0.03Vであり、実線b’と縦軸との交点に対応する短絡電流密度(Jsc)は約2nA/cm
2であり、曲線因子(Fill Factor:FF)は0.25であり、製造された光電池が光起電力素子(光電変換素子)として機能しているのが確認された。
【0066】
図7は、[実施例2]において得られた光電池1における可視光の透過率を示す図である。図示したように、可視光の透過率は、概ね10%〜60%まで変化している。したがって、製造された光電池は、可視光の最大透過率が60%であることが確認された。
【0067】
上述したように、可視光の最大透過率が94%である光電池([実施例1])及び可視光の最大透過率が60%である光電池([実施例2])を製造した場合について説明した。なお、例えば、[実施例1]の光電池1を有色透明にすること等によって、可視光の最大透過率が40%である光電池を製造することもできる。
【0068】
次に、本発明による光電池の他の実施の形態を、
図8〜11を参照しながら詳細に説明する。
【0069】
図8は、本発明による光電池の他の実施の形態の断面図である。
図8において、光電池21は、基板22と、n形酸化亜鉛層23と、p形酸化亜鉛層24と、電極25,26とを備え、n形酸化亜鉛層23は、p形酸化亜鉛層24と共にpn接合27を形成している。
【0070】
上述した
図1の光電池1と
図8の光電池21との差異は、後述するn形酸化亜鉛層23が後述する基板22の上に形成されている点である。
【0071】
基板22は、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、ガラス、プラスチック及びこれらの二つ以上からなる群から選択される材料から構成され、透明である。本実施の形態では、紫外光による発電も利用するために、可視光だけでなく紫外光も透過させる材料で基板22を構成するのが好ましい。また、n形酸化亜鉛層23とp形酸化亜鉛層24とのpn接合27の結晶性を良くするために、酸化亜鉛単結晶、酸化アルミニウム単結晶又は酸化ケイ素単結晶によって基板22を構成するのが好ましい。
【0072】
n形酸化亜鉛層23は、p形酸化亜鉛層24と共にpn接合27を形成し、n形の電気伝導性を示す酸化亜鉛によって構成され、透明である。本実施の形態では、光電池21は、1層のn形酸化亜鉛層23を有しているが、2層以上のn形酸化亜鉛層を有してもよい。また、本実施の形態では、n形酸化亜鉛層23の抵抗を低減するために、ドナー準位を形成するためのアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)等のIII族の元素又はフッ素(F)、塩素(Cl)等のVII族の元素がドープされている。n形酸化亜鉛層23の抵抗を低減するために、熱処理等により酸素空孔又は過剰亜鉛を発生させてもよい。
【0073】
透明な基板22の一方の面に透明なn形酸化亜鉛層23、透明なp形酸化亜鉛層24及び透明な電極26を順次形成することによって、可視光の最大透過率が40%〜94%である透明な光電池21を構成することができる。
【0074】
図9は、本発明による光電池の他の実施の形態の断面図である。
図9において、光電池31は、基板32と、n形酸化亜鉛層33と、p形酸化亜鉛層34と、電極35,36とを備え、n形酸化亜鉛層33は、p形酸化亜鉛層34と共にpn接合37を形成している。
【0075】
上述した
図1の光電池1と
図9の光電池31との差異は、
図8のn形酸化亜鉛層23と同一材料のn形酸化亜鉛層33が透明で導電性を持つ基板32の上に形成されている点及び
図1の電極4と同一材料の電極35がn形酸化亜鉛層33の側面に形成されている点である。
【0076】
透明な基板32の一方の面に透明なn形酸化亜鉛層33、透明なp形酸化亜鉛層34及び透明な電極36を順次形成することによって、可視光の最大透過率が40%〜94%である透明な光電池31を構成することができる。
【0077】
図10は、本発明による光電池の他の実施の形態の断面図である。
図10において、光電池41は、基板42と、n形酸化亜鉛層43と、p形酸化亜鉛層44と、電極45,46とを備え、n形酸化亜鉛層43は、p形酸化亜鉛層44と共にpn接合47を形成している。
【0078】
上述した
図1の光電池1と
図10の光電池41との差異は、
図8のn形酸化亜鉛層23と同一材料のn形酸化亜鉛層43が透明で導電性を持つ基板42の上に形成されている点、
図1の電極4と同一材料の電極45が基板42の他方の面に形成されている点及び
図1の電極5と同一材料の電極46がp形酸化亜鉛層44の一方の面に形成されている点である。
【0079】
透明な基板42の一方の面に透明なn形酸化亜鉛層43、透明なp形酸化亜鉛層44及び透明な電極46を順次形成するとともに透明な基板42の他方の面に透明な電極45を形成することによって、可視光の最大透過率が40%〜94%である透明な光電池41を構成することができる。
【0080】
また、本実施の形態によれば、電極45を基板42の他方の面に形成することによって、n形酸化亜鉛層43が低抵抗でなくても(例えば、n形酸化亜鉛層43の抵抗率が100Ω・cmより大きくても)、光電池41から電力を取り出すことができる。
【0081】
図11は、本発明による光電池の他の実施の形態の断面図である。
図11において、光電池51は、基板52と、n形酸化亜鉛層53と、p形酸化亜鉛層54と、電極55,56とを備え、n形酸化亜鉛層53は、p形酸化亜鉛層54と共にpn接合57を形成している。
【0082】
上述した
図1の光電池1と
図11の光電池51との差異は、
図8のn形酸化亜鉛層23と同一材料のn形酸化亜鉛層53が透明で導電性を持つ基板52の上に形成されている点、
図1の電極4と同一材料の電極55が基板52とn形酸化亜鉛層53との間に介在している点及び
図1の電極5と同一材料の電極56がp形酸化亜鉛層54の一方の面に形成されている点である。
【0083】
透明な基板52の一方の面に透明なn形酸化亜鉛層53、透明なp形酸化亜鉛層54及び透明な電極56を順次形成するとともに透明な電極55を透明な基板52とn形酸化亜鉛層53との間に介在させることによって、可視光の最大透過率が40%〜94%である透明な光電池51を構成することができる。
【0084】
また、本実施の形態によれば、電極55が基板52とn形酸化亜鉛層53との間に介在することによって、基板52とp形酸化亜鉛層54の両方が低抵抗でなくても(例えば、基板52の抵抗率とp形酸化亜鉛層54の抵抗率がいずれも100Ω・cmより大きくても)、電力を光電池51から取り出すことができる。
【0085】
図12は、本発明による光電池を用いた腕時計100の断面図である。
【0086】
腕時計100の外装ケース101の上側には、透明な風防ガラス102、
図1に示す光電池1及び保持部材103が取り付けられている。腕時計100の外装ケース101の下側には、裏蓋104が取り付けられている。
【0087】
腕時計100の中央には、コネクタ105を介して光電池1から供給される電力によって時針106、分針107及び秒針108を駆動するムーブメント109が配置されている。ムーブメント109の上には文字盤110が設けられている。文字盤110を、透明な風防ガラス102及び透明な光電池1を介して見ることができる。なお、光電池1の代わりに
図8の光電池21、
図9の光電池31、
図10の光電池41又は
図11の光電池51を用いてもよい。