(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6978877
(24)【登録日】2021年11月16日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】インプリント装置および物品製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20211125BHJP
B29C 59/00 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/00 Z
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-169780(P2017-169780)
(22)【出願日】2017年9月4日
(65)【公開番号】特開2019-47002(P2019-47002A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】特許業務法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金戸 裕介
【審査官】
田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−246729(JP,A)
【文献】
特開2017−028173(JP,A)
【文献】
特開2011−100952(JP,A)
【文献】
特開2012−094818(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/118006(WO,A1)
【文献】
特開2015−115370(JP,A)
【文献】
特開2012−004463(JP,A)
【文献】
特開2009−220559(JP,A)
【文献】
特開2012−023092(JP,A)
【文献】
特開2017−143229(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/142958(WO,A1)
【文献】
特開2008−183731(JP,A)
【文献】
特開2007−266053(JP,A)
【文献】
特開2006−289505(JP,A)
【文献】
特開2004−351527(JP,A)
【文献】
特開平10−128690(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第2003−0045602(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
B29C 59/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上の硬化性組成物に型を接触させる接触処理、該硬化性組成物に硬化用のエネルギーを与えることにより該硬化性組成物を硬化させる硬化処理および該硬化性組成物の硬化物からなるパターンと前記型とを分離する分離処理を含むインプリント処理を行うインプリント装置であって、
前記接触処理および前記分離処理が行われるように前記基板と前記型との相対位置を変更する駆動機構と、
前記パターンと前記型との結合力に逆らって前記分離処理が行われている期間に発生する状態量に基づいて前記分離処理が完了するかどうかを予測し、前記分離処理が完了しないと予測される場合に、前記分離処理が完了するように前記分離処理における前記駆動機構の制御を変更する制御部と、を備え、
前記状態量は、真空吸引によって前記型を保持するための第1真空ラインの圧力、および、真空吸引によって前記基板を保持するための第2真空ラインの圧力のうち少なくとも1つを含む、
ことを特徴とするインプリント装置。
【請求項2】
前記駆動機構は、真空吸引によって前記型を保持する型チャックを更に含み、前記第1真空ラインは、前記型チャックに接続された真空ラインである、
ことを特徴とする請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項3】
前記駆動機構は、前記型を駆動する型駆動機構を含み、前記状態量は、前記型駆動機構が発生する駆動力を含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のインプリント装置。
【請求項4】
前記型駆動機構は、前記型を駆動するアクチュエータと、前記アクチュエータを駆動するドライバとを含み、前記制御部は、前記ドライバに提供される操作量に基づいて前記駆動力を取得する、
ことを特徴とする請求項3に記載のインプリント装置。
【請求項5】
前記型駆動機構は、前記型の位置を検出するセンサを含み、前記センサの出力に基づいて前記型の位置をフィードバック制御する、
ことを特徴とする請求項4に記載のインプリント装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記駆動力を時間で積分して得られる積分値に基づいて、前記分離処理が完了するかどうかを予測する、
ことを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項7】
前記駆動機構は、前記型に加えられる力を検出するロードセルを含み、
前記制御部は、前記ロードセルからの出力に基づいて前記駆動力を取得する、
ことを特徴とする請求項3に記載のインプリント装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記分離処理が完了しないと予測される場合に、前記型チャックが前記型を真空吸引する力が大きくなるように前記第1真空ラインの圧力の制御を変更する、
ことを特徴とする請求項2に記載のインプリント装置。
【請求項9】
前記駆動機構は、真空吸引によって前記基板を保持する基板チャックを更に含み、前記第2真空ラインは、前記基板チャックに接続された真空ラインである、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記分離処理が完了しないと予測される場合に、前記基板チャックが前記基板を真空吸引する力が大きくなるように前記基板チャックの制御を変更する、
ことを特徴とする請求項9に記載のインプリント装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記分離処理が完了しないと予測される場合に、前記基板と前記型とを引き離す速度を低下させるように前記駆動機構の制御を変更する、
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記分離処理が完了しないと予測される場合に、前記基板および前記型の少なくとも一方を振動させるように前記駆動機構の制御を変更する、
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項13】
前記制御部は、前記分離処理が完了しないと予測される場合に、前記基板および前記型の少なくとも一方の姿勢を変更するように前記駆動機構の制御を変更する、
ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項14】
前記駆動機構は、前記型の側面に力を加えることによって前記型を変形させる変形機構を更に含み、
前記制御部は、前記分離処理が完了しないと予測される場合に、前記変形機構が前記型の側面に加える力が大きくなるように前記変形機構の制御を変更する、
ことを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか1項に記載のインプリント装置を用いて基板の上にパターンを形成する工程と、
前記工程において前記パターンが形成された基板の処理を行う工程と、
を含み、前記処理が行われた前記基板から物品を製造することを特徴とする物品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント装置および物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インプリント装置は、基板の上のインプリント材に型を接触させる接触処理、該インプリント材を硬化させる硬化処理および該インプリント材の硬化物からなるパターンと前記型とを分離する分離処理を含むインプリント処理を行う。分離処理において、インプリント材の硬化物と型との結合力が強いと、硬化物と型とを分離することができない場合がある。
【0003】
特許文献1には、成型がなされたインプリント材からの離型のために基板保持部および型保持部のうちの少なくとも一方を駆動する駆動部と、駆動部による離型の完了を検出する検出部とを備えるインプリント装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−115370公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分離処理において、インプリント材の硬化物と型との結合力が強いと、硬化物と型とを分離することができない場合がある他、型が型チャックから外れる場合や、基板が基板チャックから外れる場合がある。硬化物と型とを分離することができない場合において、特許文献1に記載されたインプリント装置では、再び離型(分離)のための駆動を行う必要があり、スループットが低下する。また、型が型チャックから外れる場合には型を型チャックで保持しなおす必要があり、基板が基板チャックから外れる場合には基板を基板チャックで保持し直す必要がある。この場合、アライメント計測からやり直す必要があり、スループットが更に低下する。
【0006】
本発明は、上記の課題認識を契機としてなされたものであり、スループットの向上に有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの側面は、基板の上の
硬化性組成物に型を接触させる接触処理、該
硬化性組成物に硬化用のエネルギーを与えることにより該硬化性組成物を硬化させる硬化処理および該
硬化性組成物の硬化物からなるパターンと前記型とを分離する分離処理を含むインプリント処理を行うインプリント装置に係り、前記インプリント装置は、前記接触処理および前記分離処理が行われるように前記基板と前記型との相対位置を変更する駆動機構と、前記パターンと前記型との結合力に逆らって前記分離処理が行われている期間に発生する状態量に基づいて前記分離処理が完了するかどうかを予測し、前記分離処理が完了しないと予測される場合に、前記分離処理が完了するように前記分離処理における前記駆動機構の制御を変更する制御部と、を備え、
前記状態量は、真空吸引によって前記型を保持するための第1真空ラインの圧力、および、真空吸引によって前記基板を保持するための第2真空ラインの圧力のうち少なくとも1つを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スループットの向上に有利な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態のインプリント装置の構成を示す図。
【
図2】インプリント装置におけるインプリント処理を模式的に示す図。
【
図3】分離工程において作用する力を模式的に示す図。
【
図4】インプリント処理の制御システムの構成例を示す図。
【
図6】ロードセルによって計測されうる駆動力の時間変化を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明をその例示的な実施形態を通して説明する。
【0011】
図1には、本発明の一実施形態のインプリント装置100の構成が示されている。インプリント装置100は、インプリント処理によって基板Sの上にインプリント材IMの硬化物からなるパターンを形成するように構成される。インプリント処理は、基板Sの上のインプリント材IMに型M(のパターン面P)を接触させる接触処理、インプリント材IMを硬化させる硬化処理およびインプリント材IMの硬化物からなるパターンと型M(のパターン面P)とを分離する分離処理を含む。
【0012】
インプリント材としては、硬化用のエネルギーが与えられることにより硬化する硬化性組成物(未硬化状態の樹脂と呼ぶこともある)が用いられる。硬化用のエネルギーとしては、電磁波、熱等が用いられうる。電磁波は、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される光、例えば、赤外線、可視光線、紫外線などでありうる。硬化性組成物は、光の照射により、あるいは、加熱により硬化する組成物でありうる。これらのうち、光の照射により硬化する光硬化性組成物は、少なくとも重合性化合物と光重合開始剤とを含有し、必要に応じて非重合性化合物または溶剤を更に含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。インプリント材は、液滴状、或いは複数の液滴が繋がってできた島状又は膜状となって基板上に配置されうる。インプリント材の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下でありうる。基板の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂等が用いられうる。必要に応じて、基板の表面に、基板とは別の材料からなる部材が設けられてもよい。基板は、例えば、シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ、石英ガラスである。
【0013】
本明細書および添付図面では、基板Sの表面に平行な方向をXY平面とするXYZ座標系において方向を示す。XYZ座標系におけるX軸、Y軸、Z軸にそれぞれ平行な方向をX方向、Y方向、Z方向とし、X軸周りの回転、Y軸周りの回転、Z軸周りの回転をそれぞれθX、θY、θZとする。X軸、Y軸、Z軸に関する制御または駆動は、それぞれX軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向に関する制御または駆動を意味する。また、θX軸、θY軸、θZ軸に関する制御または駆動は、それぞれX軸に平行な軸の周りの回転、Y軸に平行な軸の周りの回転、Z軸に平行な軸の周りの回転に関する制御または駆動を意味する。また、位置は、X軸、Y軸、Z軸の座標に基づいて特定されうる情報であり、姿勢は、θX軸、θY軸、θZ軸の値で特定されうる情報である。位置決めは、位置および/または姿勢を制御することを意味する。位置合わせは、基板および型の少なくとも一方の位置および/または姿勢の制御を含みうる。
【0014】
インプリント装置100は、基板Sを保持し駆動する基板駆動機構SDM、基板駆動機構SDMを支持するベースフレームBF、型Mを保持し駆動する型駆動機構MDM、および、型駆動機構MDMを支持する構造体STを備えうる。基板駆動機構SDMは、真空吸引によって基板Sを保持する基板チャックSCを含む基板ステージSSと、基板ステージSAを位置決めすることによって基板Sを位置決めする基板位置決め機構SAとを含みうる。型駆動機構MDMは、真空吸引によって型Mを保持する型チャックMCと、型チャックMCを位置決めすることによって型Mを位置決めする型位置決め機構MAとを含みうる。型駆動機構MDMは、型Mの4つの側面に力を加えることによって型Mを変形させる変形機構MAGを含んでもよい。型駆動機構MDMは、型Mに加えられる力を検出するロードセルLCを含んでもよい。型駆動機構MDMは、更に、接触処理において、型Mのパターン面Pが基板Sに向かって凸形状になるように型Mのパターン面Pを変形させるようにパターン面Pの反対側の面に圧力を加える圧力機構を備えうる。
【0015】
基板駆動機構SDMおよび型駆動機構MDMは、基板Sと型Mとの相対位置が変更されるように基板Sおよび型Mの少なくとも一方を駆動する駆動機構DMを構成する。駆動機構DMによる相対位置の変更は、基板Sの上のインプリント材に対する型M(のパターン面P)の接触、および、硬化したインプリント材(硬化物のパターン)からの型の分離のための駆動を含む。換言すると、駆動機構DMによる相対位置の変更は、接触処理および分離処理が行われるように基板Sと型Mとの相対位置を変更することを含む。基板駆動機構SDMは、基板Sを複数の軸(例えば、X軸、Y軸、θZ軸の3軸、好ましくは、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸、θZ軸の6軸)について駆動するように構成されうる。型駆動機構MDMは、型Mを複数の軸(例えば、Z軸、θX軸、θY軸の3軸、好ましくは、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸、θZ軸の6軸)について駆動するように構成されうる。
【0016】
インプリント装置100は、更に、ディスペンサDSPを備えうる。ただし、ディスペンサDSPは、インプリント装置100の外部装置として構成されてもよい。ディスペンサDSPは、基板Sのショット領域にインプリント材IMを配置する。基板Sのショット領域へのインプリント材IMの配置は、基板駆動機構SDMによって基板Sが駆動されている状態で、該駆動と同期してディスペンサDSPがインプリント材IMを吐出することによってなされうる。ここで、ディスペンサDSPが基板Sの上の1つのショット領域にインプリント材IMを配置する度に接触処理、硬化処理および分離処理が実行されうる。あるいは、ディスペンサDSPが基板Sの上の複数のショット領域にインプリント材IMを配置した後に、該複数のショット領域の各々に対して接触処理、硬化処理および分離処理が実行されてもよい。
【0017】
インプリント装置100は、更に、硬化部CUを備えうる。硬化部CUは、基板Sの上のインプリント材IMに型M(のパターン面P)が接触した状態でインプリント材IMに硬化用のエネルギーを照射することによってインプリント材IMを硬化させる。これによって、インプリント材IMの硬化物からなるパターンが基板Sの上に形成される。
【0018】
インプリント装置100は、更に、基板Sのマークの位置、型Mのマークの位置、基板Sのマークと型Mのマークとの相対位置等を検出するアライメントスコープASと、基板Sのマークの位置を検出するオフアクシススコープOASとを備えうる。インプリント装置100は、更に、制御部CNTを備えうる。制御部CNTは、基板Sの上のインプリント材IMの硬化物からなるパターンと型Mとの結合力に逆らって分離処理が行われている期間に駆動機構MDMにおいて発生する状態量に基づいて分離処理が完了するかどうかを予測する。そして、制御部CNTは、分離処理が完了しないと予測される場合に、分離処理が完了するように、分離処理における駆動機構MDMの制御を変更する。制御部CNTは、インプリント装置100における他の動作の制御も行うように構成されうる。
【0019】
制御部CNTは、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、又は、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)、又は、プログラムが組み込まれた汎用コンピュータ、又は、これらの全部または一部の組み合わせによって構成されうる。取得部DETおよび制御部CNTは、単一の構成要素として構成されてもよい。
【0020】
図2には、インプリント装置100におけるインプリント処理が模式的に示されている。
図2に示されるインプリント処理は、制御部CNTによって制御されうる。
図2に示されたインプリント処理は、基板Sの上にインプリト材IMを配置する配置処理を含んでいるが、配置処理は、他の装置によって実行されてもよい。
【0021】
まず、
図2(a)の工程(配置処理)では、基板Sの1又は複数のショット領域の上にディスペンサDSPによってインプリント材IMが配置される。次いで、
図2(b)の工程では、基板Sのパターン形成対象のショット領域と型Mとが位置合わせされるように駆動機構DM(MDM、SDM)が制御される。次いで、
図2(c)の工程(接触処理)では、基板Sのパターン形成対象のショット領域の上のインプリント材IMと型Mとが接触するように駆動機構DM(MDM、SDM)が制御される。この接触処理は、型Mのパターン面Pに形成されたパターンの凹部にインプリント材IMを充填させる充填処理を含みうる。
【0022】
次いで、
図2(d)の工程(硬化処理)では、硬化部CUによって型Mのパターン領域Pの下のインプリント材IMに硬化用のエネルギーEが照射され、これによってインプリント材IMが硬化し、インプリント材IMの硬化物からなるパターンが形成される。次いで、
図2(e)の工程(分離処理)では、基板Sのショット領域の上のインプリント材IMの硬化物からなるパターンと型M(のパターン面P)とが分離されるように駆動機構DM(MDM、SDM)が制御される。これにより、基板Sのショット領域の上には、型Mから分離されたパターンが残る。分離処理では、基板Sの上のインプリント材IMの硬化物からなるパターンと型M(のパターン面P)との結合力に逆らって基板Sと型Mとが引き離されるように駆動機構MDが基板Sおよび型Mの少なくとも一方が駆動される。
【0023】
図3には、
図2(e)の分離工程において作用する力が模式的に示されている。基板Sと型Mとが引き離されるように駆動機構DMが基板Sおよび型Mの少なくとも一方が駆動力FDで駆動されると、基板Sの上のインプリント材IMの硬化物と型Mのパターン面Pとの間には、駆動力FDとは逆向きに抗力(反力)FRが発生する。駆動力FD(抗力FR)がインプリント材IMの硬化物と型Mのパターン面Pとの結合力FBを超えると、インプリント材IMの硬化物と型Mのパターン面Pとが分離される。抗力FRは、型チャックMCと型Mとの間、基板チャックSCと基板Sとの間、基板Sとインプリント材IMの硬化物との間にも発生する。駆動力FD(抗力FR)が型チャックMCの保持力(吸引力)を超えると、型チャックMCから型Mが外れる。駆動力FD(抗力FR)が基板チャックSCの保持力(吸引力)を超えると、基板チャックSCから基板Sが外れる。
【0024】
基板チャックSCは、後述のように互いに独立した複数の吸引部を有しうる。分離処理は、インプリント処理(分離処理)の対象のショット領域が型Mに向かって凸形状になることが許容されるように複数の吸引部が制御された状態でなされうる。
【0025】
制御部CNTは、基板Sの上のインプリント材IMの硬化物からなるパターンと型M(のパターン面P)との結合力FBに逆らって分離処理が行われている期間に駆動機構MDMにおいて発生する状態量を取得する。制御部CNTは、取得した状態量に基づいて、分離処理が完了するかどうかを予測し、分離処理が完了しないと予測される場合に、分離処理が完了するように、分離処理における駆動機構MDMの制御を変更する。
【0026】
図4には、制御部CNTおよび駆動機構DMによって構成されるインプリント処理の制御システムの構成例が示されている。型駆動機構MDMの型チャックMCは、型Mを保持する保持部に設けられた吸引部101(吸引溝)と、吸引部101に接続された真空ライン105とを含む。また、型チャックMCは、真空ライン105の圧力を検出する圧力センサ102と、真空ライン105と真空源104との間に配置され真空ライン105の圧力を調整する圧力調整部103とを含む。圧力センサ102は、検出した圧力を示す情報を制御部CNTに提供する。圧力調整部103は、制御部CNTからの圧力指令値または開度指令値等の指令値に従って真空ライン105の圧力を調整する。
【0027】
型駆動機構MDMの型位置決め機構MAは、制御部CNTからの位置指令値等の指令値に従って型M(型チャックMC)を位置決めする。
図5に例示されるように、型位置決め機構MAは、制御部CNTからの位置指令値TPに従って型M(型チャックMC)の位置をフィードバック制御するように構成されうる。型位置決め機構MAは、演算器501、補償器502、ドライバ503、アクチュエータ504およびセンサ505を含みうる。
【0028】
演算器501は、位置指令値TPとセンサ505の出力との偏差ERを演算し、補償器502に提供する。補償器502は、偏差ERに基づいて操作量MV(例えば、電流指令値、電圧値)を生成しドライバ503に提供する。ドライバ503は、操作量MVに従った駆動力を発生するようにアクチュエータ504を駆動する。アクチュエータ504は、操作量MVに従った駆動力で型チャックMCを駆動する。センサ505は、型チャックMCによって保持された型Mの位置を検出し、その位置を示す情報を演算器501に提供する。アクチュエータ504は、例えば、ボイスコイルモータまたは圧電素子でありうる。あるいは、型位置決め機構MAは、制御部CNTからの位置指令値に従って型M(型チャックMC)の位置をフィードフォワード制御するように構成されうる。型駆動機構MDMのロードセルLCは、型Mに加わる力(駆動力FD)を検出し、その力を示す情報を制御部CNTに提供する。
【0029】
基板駆動機構SDMの基板チャックSCは、基板Sを保持する保持部に設けられた吸引部111(吸引溝)と、吸引部111に接続された真空ライン115とを含む。また、基板チャックSCは、真空ライン115の圧力を検出する圧力センサ112と、真空ライン115と真空源114との間に配置され真空ライン115の圧力を調整する圧力調整部113とを含む。圧力センサ112は、検出した圧力を示す情報を制御部CNTに提供する。圧力調整部113は、制御部CNTからの圧力指令値または開度指令値等の指令値に従って真空ライン115の圧力を調整する。基板チャックSCは、互いに独立した複数の吸引部111を有し、各吸引部111に対して圧力センサ112および圧力調整部113が設けられうる。
【0030】
制御部CNTは、分離処理が行われている期間に駆動機構MDMにおいて発生する状態量を示す情報として、圧力センサ102、ロードセルLC、補償器502、圧力センサ112からの情報を取得する。制御部CNTは、それらの状態量の少なくとも1つに基づいて分離処理が完了するかどうかを予測し、分離処理が完了しないと予測される場合に、分離処理が完了するように、分離処理における駆動機構MDMの制御を変更する。
【0031】
状態量が圧力センサ102の出力、即ち、真空ライン105の圧力である場合は、制御部CNTは、該圧力が第1基準値より高い場合(即ち、第1基準値よりも大気圧に近い場合)に、分離処理が完了しないと予測(判断)する。ここで、真空ライン105の圧力が第1基準値より高いことは、結合力FBが大きいために、型チャックMCの吸引力が不足しており、型チャックMCの保持部と型Mとの間に隙間が生じ、空気が真空ライン105に流入していることを意味する。
【0032】
状態量がロードセルLCの出力、即ち、型Mに加えられている駆動力FDである場合、制御部CNTは、駆動力FDが第2基準値より高い場合に、分離処理が完了しないと予測(判断)する。
図6には、ロードセルLCによって計測されうる力である駆動力FDの時間変化が例示されている。THは第2基準値を示している。曲線401は、正常な場合における駆動力FDの時間変化を例示している。曲線402は、分離処理が完了しない場合における駆動力FDの時間変化を例示している。曲線402で示される力が第2基準値THを越えた場合に、制御部CNTは、分離処理が完了しないと予測(判断)することができる。ここで、駆動力FDが第2基準値より大きいことは、結合力FBが大きいために、駆動力FDが不足しており、現在の駆動力FDでは、分離処理が完了しないことを意味する。
【0033】
曲線403は、駆動力FDが第2基準値THを越えないが、正常な場合よりも分離処理に長時間を要する場合における駆動力FDの時間変化を例示している。このような状態を検出するために、制御部CNTは、例えば、駆動力FDを時間で積分し、これによって得られる積分値が第3基準値を超えた場合に、分離処理が完了しないと予測(判断)するように構成されてもよい。
【0034】
状態量が補償器502の出力(操作量MV)であり、該出力がアクチュエータ504に発生させる駆動力FDである場合には、状態量がロードセルLCの出力である場合と等価である。制御部CNTは、補償器502の出力(駆動力FD)が第2基準値より高い場合、分離処理が完了しないと予測(判断)する。あるいは、制御部CNTは、補償器502の出力である駆動力FDを時間で積分し、これによって得られる積分値が第3基準値を超えた場合に、分離処理が完了しないと予測(判断)するように構成されてもよい。
【0035】
状態量が圧力センサ112の出力、即ち、真空ライン115の圧力である場合、制御部CNTは、該圧力が第4基準値より高い場合(即ち、第4基準値よりも大気圧に近い場合)、分離処理が完了しないと予測(判断)する。ここで、真空ライン115の圧力が第4基準値より高いことは、結合力FBが大きいために、基板チャックSCの吸引力が不足しており、基板チャックSCの保持部と基板Sとの間に隙間が生じ、空気が真空ライン115に流入していることを意味する。
【0036】
次に、制御部CNTが取得部DETから提供される状態量に基づいて分離処理が完了しないと予測した場合に、分離処理が完了するように、分離処理における駆動機構MDMの制御を変更する例を例示的に説明する。
【0037】
第1の例では、制御部CNTは、分離処理が完了するように、真空ライン105、115の圧力が低くなるように(即ち、吸引力が大きくなるように)、圧力調整部103および圧力調整部113の制御を変更する。圧力調整部103および圧力調整部113の制御は、圧力調整部103、113に送る指令値を制御することによってなされる。ここで、制御部CNTが圧力センサ102の出力に基づいて分離処理が完了しないと予測した場合、制御部CNTは、真空ライン105、115のうち真空ライン105の圧力が低くなるように、圧力調整部103の制御を変更してもよい。また、制御部CNTが圧力センサ112の出力に基づいて分離処理が完了しないと予測した場合、制御部CNTは、真空ライン105、115のうち真空ライン115の圧力が低くなるように、圧力調整部113の制御を変更してもよい。
【0038】
第2の例では、制御部CNTは、分離処理が完了するように、基板Sと型Mとを引き離す速度を低下させるように駆動機構DMを制御する。例えば、制御部CNTは、型Mを上昇させる速度を低下させるように駆動機構DMを制御することができる。あるいは、制御部CNTは、基板Sを下降させる速度を低下させるように駆動機構DMを制御することができる。
【0039】
第3の例では、制御部CNTは、分離処理が完了するように、基板Sおよび型Mの少なくとも一方を振動させるように駆動機構DMを制御する。この振動は、インプリント材IMの硬化物からなるパターンの損傷および型Mの損傷を抑えるために、Z軸方向の振動を主成分とすることが望ましい。
【0040】
第4の例では、制御部CNTは、分離処理が完了するように、基板Sおよび型Mの少なくとも一方の姿勢を変更するように駆動機構DMを制御する。この姿勢の変更は、インプリント材IMの硬化物からなるパターンの損傷および型Mの損傷を抑えるために、θX軸およびθY軸の少なくとも一方に関する姿勢の変更であることが望ましい。
【0041】
第5の例では、制御部CNTは、分離処理が完了するように、変形機構MAGを制御する。この制御は、変形機構MAGが型Mの側面(例えば、対向する2側面、又は、4側面)を押圧する力を大きくすることによって型チャックMCから型Mが外れることを抑制する制御でありうる。
【0042】
上記の第1の例から第5の例は、それらのうちの少なくとも2つを組み合わせて採用されうる。また、上記の第1の例から第5の例は、他の方法と組み合わせて採用されうる。
【0043】
インプリント装置を用いて形成した硬化物のパターンは、各種物品の少なくとも一部に恒久的に、或いは各種物品を製造する際に一時的に、用いられる。物品とは、電気回路素子、光学素子、MEMS、記録素子、センサ、或いは、型等である。電気回路素子としては、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ、MRAMのような、揮発性或いは不揮発性の半導体メモリや、LSI、CCD、イメージセンサ、FPGAのような半導体素子等が挙げられる。型としては、インプリント用のモールド等が挙げられる。
【0044】
硬化物のパターンは、上記物品の少なくとも一部の構成部材として、そのまま用いられるか、或いは、レジストマスクとして一時的に用いられる。基板の加工工程においてエッチング又はイオン注入等が行われた後、レジストマスクは除去される。
【0045】
次に、インプリント装置によって基板にパターンを形成し、該パターンが形成された基板を処理し、該処理が行われた基板から物品を製造する物品製造方法について説明する。
図7(a)に示すように、絶縁体等の被加工材2zが表面に形成されたシリコンウエハ等の基板1zを用意し、続いて、インクジェット法等により、被加工材2zの表面にインプリント材3zを付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材3zが基板上に付与された様子を示している。
【0046】
図7(b)に示すように、インプリント用の型4zを、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材3zに向け、対向させる。
図7(c)に示すように、インプリント材3zが付与された基板1と型4zとを接触させ、圧力を加える。インプリント材3zは型4zと被加工材2zとの隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を型4zを透して照射すると、インプリント材3zは硬化する。
【0047】
図7(d)に示すように、インプリント材3zを硬化させた後、型4zと基板1zを引き離すと、基板1z上にインプリント材3zの硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、型の凹部が硬化物の凸部に、型の凹部が硬化物の凸部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材3zに型4zの凹凸パターンが転写されたことになる。
【0048】
図7(e)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材2zの表面のうち、硬化物が無いか或いは薄く残存した部分が除去され、溝5zとなる。
図7(f)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材2zの表面に溝5zが形成された物品を得ることができる。ここでは硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子等に含まれる層間絶縁用の膜、つまり、物品の構成部材として利用してもよい。
【符号の説明】
【0049】
100:インプリント装置、DM:駆動機構、MDM:型駆動機構、MC:型チャック、MA:型駆動機構、LC:ロードセル、SDM:基板位置決め機構、SC:基板チャック、SS:基板ステージ、SA:基板位置決め機構、M:型、S:基板、CNT:制御部