(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
質量%で、Si:1.3%〜1.6%、Fe:0.30%〜0.70%、Mn:1.8%〜2.3%、Zn:0.5%〜2.0%、Ti:0.002%〜0.10%を含み、さらに不純物としてのMgを0.05%以下、Cuを0.06%以下に限定し、残部不可避的不純物とAlからなり、
最終板厚30〜80μm、抗張力が260MPa以下、固相線温度615℃以上であり、更にろう付け加熱し冷却した後に測定したときの抗張力が170MPa以上且つ自然電位−780mV〜−700mVであることを特徴とする耐座屈性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材。
【技術分野】
【0001】
アルミニウム製熱交換器には、アルミニウム製の作動流体通路構成材料などにアルミニウム合金フィン材をろう付けしたものが用いられる。熱交換器の性能特性を向上させるため、このアルミニウム合金フィン材として、作動流体通路構成材料を防食するために犠牲陽極効果が要求されるとともに、ろう付け時の高温加熱により変形したり、ろうが浸透したりしないように優れた耐サグ性、耐エロージョン性が要求される。
【0002】
熱交換器の軽量化とともに、作動流体通路を構成するフィン材の薄肉化が要求されている。薄肉化が進む状況の中で、熱交換器用フィン材は他の熱交換器用部材に組み付けた後にろう付けされるため、ろう付け加熱前の強度や耐高温座屈性についても検討されている。
【0003】
特許文献1には、Mn0.8〜2.0%(重量%、以下同じ)、Si0.2〜0.6%、Zn0.4〜2.0%を含有し、かつCuが0.03%以下、Feが0.2%以下にそれぞれ規制され、残部がAlおよび不可避的不純物よりなり、しかも0.02〜0.3μmの範囲内の径の金属間化合物を600個/μm
3 以上含むとともに、3μm以上の径の金属間化合物が500個/mm
2 以下に規制され、ろう付け加熱後の表面の平均結晶粒径が0.4mm以上であり、さらに板厚が0.03〜0.10mmの範囲内で、引張強さが200N/mm
2 以上であることを特徴とする、高強度・高耐熱性を有する熱交換器用アルミニウム合金製フィン材が提案されている。
【0004】
特許文献1で提案されている熱交換用フィン材は、ろう付け前の強度(元板強度)が高く、板厚が0.1mm以下と薄肉であっても、熱交換器組立時において変形、座屈するおそれが極めて少なく、しかも耐高温座屈性も優れていて、ろう付け時の高温によって座屈するおそれも少ない、とのことである。
【0005】
また、熱交換器用フィン材は、フィン材と他の熱交換器用部材とをろう付けする前に、コルゲート加工等によって、所定の形状に成形されるため、成形性についても要求が厳しくなっている。さらに、フィン材には、上記したような基本的な特性を満足するために、Mn、Fe、Si、Zn等が添加されているが、最近では、製造プロセスに工夫を凝らして、ろう付け前の抗張力が低く、ろう付け後の抗張力及び熱伝導度が高い熱交換器用高強度アルミニウム合金フィンが開発されている。
【0006】
特許文献2には、Si0.5〜1.4wt%、Fe0.15〜1.0wt%、Mn0.8〜3.0wt%、Zn0.5〜2.5wt%を含み、さらに不純物としてのMgを0.05wt%以下に限定し、残部通常の不純物とAlからなる溶湯を、双ベルト式鋳造機により厚さ5〜10mmの薄スラブを連続的に鋳造してロールに巻き取った後、板厚0.08〜2.0mmまで冷間圧延し、保持温度350〜500℃で中間焼鈍を施し、冷延率50〜96%の冷間圧延を行って最終板厚を40μm〜200μmとすることを特徴とする熱交換器用高強度アルミニウム合金フィン材の製造方法が提案されている。
【0007】
特許文献2で提案されているフィン材は、ろう付け後において高い強度と熱伝導度を有し、耐サグ性、耐エロージョン性、自己耐食性、犠牲陽極効果に優れている、とのことである。
【0008】
前述のように、熱交換器用フィン材は、フィン材と他の熱交換器用部材とをろう付けする前に、コルゲート加工等によって、所定の形状に成形される。この際、フィン材の金属組織中に存在する硬度の高い第2相粒子によって成形用金型の摩耗が進行し、金型の寿命が短くなるという問題があった。
【0009】
特許文献3には、この金型摩耗特性を改善するため、フィン材の金属組織中に存在する1μm以上の第2相粒子の単位面積当たり個数を規定する技術が開示されている。具体的には、特許文献3には、化学組成が、質量%で、Si:0.8〜1.0%、Fe:1.1〜1.4%、Mn:0.6〜0.7%、Zn:0.5〜0.9%、但しFe+Mn:2.0%以下、残部Alおよび不可避的不純物から成り、該不可避的不純物としてのMg:0.05%以下であり、固相線温度が620℃以上であり、ろう付け後の状態において、耐力が40MPa以上、導電率が49.5%IACS以上、自然電位が−740mV以下であり、金属組織中で観察される円相当径1μm以上の第2相粒子の単位面積当たり個数が6千個/mm
2以下であることを特徴とする、高強度で且つ伝熱特性、犠牲腐食性、ろう付け性および金型の耐摩耗性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材が提案されている。
【0010】
特許文献3で提案されているフィン材では、金型摩耗特性を向上させるため、フィン材の金属組織中に存在する硬度の高い第2相粒子の粒子密度を制御しているものの、フィン材中のSi、Mnの含有量が少ないため、フィン材の薄肉化を図ると、ろう付け後の作動流体構成材としてのフィン材が座屈しやすくなるということが懸念される。
【0011】
特許文献4には、質量%で、Si:0.9〜1.2%、Fe:0.8〜1.1%、Mn:1.1〜1.4%、Zn:0.9〜1.1%を含み、不純物としてのMgを0.05%以下、Cuを0.03%以下、(〔Si〕+〔Fe〕+2〔Mn〕)/3を1.4%〜1.6%に限定し、残部不可避的不純物とAlからなり、板厚が35〜50μm、ろう付け前抗張力が215MPa以下、固相線温度が620℃以上、ろう付後抗張力が140MPa以上、ろう付け後導電率が45%IACS以上、ろう付け後自然電位が−730mV〜−760mVであるフィン材が提案されている。
【0012】
特許文献4で提案されているフィン材によると、スプリングバック量が小さく、フィン成形が容易な適度のろう付け前強度を有し、しかもろう付け後には高い強度を有し、且つ金型摩耗特性、耐エロージョン性、自己耐食性、犠牲陽極効果にも優れる熱交換器用アルミニウム合金フィン材とすることができる、とのことである。
【0013】
特許文献4で提案されているフィン材では、スプリングバック量が小さく、フィン成形が容易な適度のろう付け前強度を有しているものの、特定の組成において、(〔Si〕+〔Fe〕+2〔Mn〕)/3を1.4%〜1.6%に限定しているため、フィン材の薄肉化を図ると、ろう付け後の作動流体構成材としてのフィン材が座屈しやすくなるということが懸念される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<熱交換器用アルミニウム合金フィン材>
以下に、本願の第1発明である熱交換器用アルミニウム合金フィン材について、組成を限定した理由、並びに最終板厚、抗張力、固相線温度、ろう付け加熱後の抗張力、及びろう付け加熱後の自然電位について説明する。本願明細書において、特に限定のない限り、%は質量%を意味するものとする。
【0023】
〔Si:1.3%〜1.6%〕
Siは、Fe、Mnと共存して、ろう付け時にサブミクロンレベルのAl−(Fe・Mn)−Si系の化合物を生成し、ろう付け後の抗張力、座屈強度を高める効果がある。Siの含有量が1.3%未満ではその効果が十分でなく、1.6%を超えると、固相線温度が低下するため、ろう付け時にフィン材にエロージョンを発生させるおそれがある。したがって、Si含有量は1.3%〜1.6%の範囲である。好ましいSi含有量は1.4%〜1.55%の範囲である。さらに好ましいSi含有量は1.4%超え〜1.5%の範囲である。
【0024】
〔Fe:0.30%〜0.70%〕
Feは、Mn、Siと共存して、ろう付け時にサブミクロンレベルのAl−(Fe・Mn)−Si系の化合物を生成し、分散強化に寄与し、ろう付け後の強度を高める。この効果を得るためには、Fe含有量0.30%以上が必要である。Fe含有量が0.30%未満では強度が低下する。一方、Fe含有量が0.70%を超えると、合金の鋳造時に粗大なAl−(Fe・Mn)−Si系晶出物が生成して板材の製造が困難となる。したがって、Fe含有量は0.30%〜0.70%の範囲である。好ましいFe含有量は0.30%〜0.65%の範囲である。さらに好ましいFe含有量は0.30%〜0.60%の範囲である。
【0025】
〔Mn:1.8%〜2.3%〕
Mnは、Fe、Siと共存させることによりろう付け時にサブミクロンレベルのAl−(Fe・Mn)−Si系化合物として高密度に析出して、ろう付け後の抗張力、座屈強度を高める効果がある。また、サブミクロンレベルのAl−(Fe・Mn)−Si系析出物は強い再結晶阻止作用を有するため再結晶粒が200μm以上となり、耐エロージョン性を確保でき、ろう付け性が向上する。この効果を得るためにはMn含有量1.8%以上が必要である。Mn含有量が2.3%を超えると、ろう付け前の抗張力が高くなりすぎて成形性が低下する。したがって、Mn含有量は1.8%〜2.3%の範囲である。好ましいMn含有量は1.9%〜2.3%の範囲である。さらに好ましいMn含有量は2.0%超え〜2.3%の範囲である。
【0026】
〔Zn:0.5%〜2.0%〕
Znは、フィン材のろう付け後の自然電位を卑にするため、犠牲陽極効果を与える。この効果を得るためにはZn含有量0.5%以上が必要である。ただし、Zn含有量が2.0%を超えると自然電位が過剰に卑となり、材料の自己耐食性が劣化する。したがって、Zn含有量は0.5%〜2.0%の範囲である。好ましいZn含有量は0.5%〜1.9%の範囲である。さらに好ましいZn含有量は0.5%〜1.8%の範囲である。
【0027】
〔Ti:0.002%〜0.10%〕
Tiは、スラブ鋳造時に結晶粒微細化剤として作用し、鋳造時のスラブの割れを防止する。この効果を得るためにはTi含有量0.002%以上が必要である。ただし、Ti含有量が0.10%を超えると、鋳造時に粗大な金属間化合物TiAl
3が晶出して、冷間圧延中にTiAl
3が起点となって欠陥となるおそれがある。したがって、Ti含有量は0.002%〜0.10%の範囲である。好ましいTi含有量は0.002%〜0.07%の範囲である。さらに好ましいTi含有量は0.005%〜0.05%の範囲である。
【0028】
〔Mg:0.05%以下〕
Mgは、ろう付け性に影響し、その含有量が0.05%を超えると、ろう付け性を害するおそれがある。特にフッ化物系フラックスを用いたろう付けの場合、フラックスの成分中のフッ素(F)と合金中のMgとが反応し易く、MgF
2 などの化合物が生成する。そのため、ろう付け時に有効に作用するフラックスの絶対量が不足し、ろう付け不良が生じ易くなる。したがって、不可避的不純物のうち特にMgの含有量を0.05%以下に限定する。
【0029】
〔Cu:0.06%以下〕
Cuは電位を貴にして、ろう付け後の抗張力を向上させるものの、0.06%を超えると、ろう付け前の抗張力が高くなりすぎて成形性を劣化させるおそれがある。したがって、不可避的不純物のうち特にCuの含有量を0.06%以下に限定する。
【0030】
〔その他の不可避的不純物〕
不可避的不純物は原料地金、返り材等から不可避的に混入する元素である。それらの元素のうち、特にCr、Zr、Niは、微量であっても熱伝導性(導電率)を低下させるので、それぞれ各0.05質量%未満に規制する。Bは、その含有量が増加すると、Ti含有量にもよるが結晶粒の微細化効果が低下するおそれがあるので、0.03%未満に規制する。その他の管理外元素のうち、許容できる含有量(例えば、Pb、Bi、Sn、Na、Ca、Sr)については、それぞれ0.02%未満に規制し、その他(例えば、Ga、V、Co、Nb、Mo、W)については、それぞれ各0.05%未満に規制する。なお、これらの範囲で管理外元素を含有しても本発明の効果を妨げるものではない。
【0031】
〔最終板厚が30〜80μm〕
薄肉軽量化のため、最終板厚は80μm以下に制限する。また、最終板厚30μm未満では、フィンろう付け後の熱交換器自体の強度不足を招来する。したがって、フィン材の最終板厚は30〜80μmに限定する。
【0032】
〔抗張力が260MPa以下〕
ろう付け前の抗張力が260MPaを超えると、板厚30〜80μmの薄肉フィン材の場合、フィン成形時の成形性が低下して所定の形状が得られなくなるおそれがあるため好ましくない。したがって、ろう付け前の抗張力は260MPa以下に限定する。
【0033】
〔固相線温度が615℃以上〕
固相線温度が615℃未満の場合、ろう付け時にエロージョンが発生する可能性が高まるため、好ましくない。したがって、固相線温度は615℃以上に限定する。
【0034】
〔更にろう付け加熱し冷却した後に測定したときの抗張力が170MPa以上〕
本願の第1発明であるフィン材は、チューブ等にろう付けされて熱交換器として使用される。このため、熱交換器全体として所定の要求強度を満足させる必要があり、ろう付け後の作動流体構成材としてのフィンの座屈荷重も高い方が好ましい。したがって、ろう付け加熱後の抗張力は170MPa以上に限定する。
【0035】
〔更にろう付け加熱し冷却した後に測定したときの自然電位が−780mV〜−700mV〕
本願の第1発明であるフィン材における自然電位は、銀塩化銀照合電極(SSE:Ag/AgCl/5%NaCl水溶液)を基準とした電位をいう。ろう付け後の自然電位が−780mV未満であると電位が卑になりすぎて、フィン材の自己耐食性が低下するため好ましくない。ろう付け後の自然電位が−700mVを超えると電位が貴になりすぎて、フィン材の犠牲陽極効果が低下するため好ましくない。したがって、ろう付け加熱後の自然電位は−780mV〜−700mVの範囲である。好ましいろう付け加熱後の自然電位は−760mV〜−700mVの範囲である。さらに好ましいろう付け加熱後の自然電位は−750mV〜−700mVの範囲である。
【0036】
<熱交換器用アルミニウム合金フィン材の製造方法>
次に、本願の第2発明である熱交換器用アルミニウム合金フィン材の製造方法について、スラブの鋳造条件、第1次冷間圧延工程、第1次中間焼鈍工程、第2次冷間圧延工程、第2次中間焼鈍工程、及び最終冷間圧延工程、のそれぞれについての、製造条件等について、説明する。
【0037】
[スラブの鋳造工程]
(双ベルト鋳造機を用いること)
双ベルト鋳造機は、エンドレスベルトを備え上下に対峙する一対の回転ベルト部と、当該一対の回転ベルト部の間に形成されるキャビティーと、上記回転ベルト部の内部に設けられた冷却手段とを備え、耐火物からなるノズルを通して上記キャビティー内に金属溶湯が供給されて連続的にスラブを鋳造するもの等を使用することができる。このような双ベルト鋳造機を用いることで、面削工程、均質化処理工程、及び熱間圧延工程を省略することができる。
【0038】
(スラブ厚みを6〜15mmとすること)
本願の第2発明においては、鋳造するスラブの厚さは6〜15mmに限定する。この厚さであると、板厚中央部の凝固速度が速く、均一組織でしかも本発明範囲の組成であると、粗大な化合物の少なく、ろう付け後において結晶粒径の大きい優れた諸性質を有するフィン材とすることができる。スラブ厚さが6mm未満であると、単位時間当たりに双ベルト鋳造機を通過するアルミニウム量が小さくなりすぎて、鋳造が困難になる。厚さが15mmを超えると、鋳造スラブをそのまま巻き取ることが困難となる。よって、スラブ厚さを6〜15mmに限定する。
【0039】
双ベルト鋳造機を用いて、厚み6〜15mmのスラブを鋳造する場合、スラブ1/4厚みの位置におけるスラブ冷却速度は、20〜200℃/sec程度である。このように比較的速い冷却速度で溶湯が凝固することによって、本発明の化学組成の範囲内において、鋳造時にAl−(Fe・Mn)−Siなどの粗大な金属間化合物の晶出を抑制することが可能となり、Fe、Si、Mnなどの元素のマトリックスへの固溶量を高めることができる。
【0040】
本願の第2発明においては、スラブ厚みが6〜15mmであり、そのままコイルに巻き取ることも可能であるが、例えば、熱間圧延機により圧下率5〜10%程度のスキンパス圧延を行うこともできる。このようにすれば、表面の平胆度を改善することができ、コイルの表面品質も向上する。
【0041】
〔第1次冷間圧延工程〕
第1次冷間圧延工程では、コイルに巻き取ったスラブに対して、冷間圧延機によって、複数パスの冷間圧延を施し、板厚1.0〜6.0mmとする。板厚6.0mmを超えると、冷間圧延率が低すぎて不適切である。板厚1.0mm未満とすると、加工硬化が激しくなりすぎて、冷間圧延を続行することが困難となる。
【0042】
〔第1次中間焼鈍工程〕
第1次中間焼鈍の保持温度は360〜460℃とする。第1次中間焼鈍の保持温度が360℃未満の場合、十分な軟化状態を得ることができない。第1次中間焼鈍の保持温度が460℃を超えると、中間焼鈍時にマトリックス中に析出するAl−(Fe・Mn)−Si系化合物が粗大となるため、分散強化の効果が小さくなり、所望のろう付け後の抗張力が得られないおそれがあり、好ましくない。第1次中間焼鈍の保持温度は、380〜440℃とすることが好ましい。
【0043】
第1次中間焼鈍の保持時間は特に限定する必要はないが、1〜5hrの範囲とすることが好ましい。第1次中間焼鈍の保持時間が1hr未満では、コイル全体の温度が不均一なままで、板中における均一な軟化状態が得られない可能性があるので、好ましくない。第1次中間焼鈍の保持時間が5hrを超えると、処理に時間が掛かりすぎて生産性が低下するため、好ましくない。
【0044】
第1次中間焼鈍処理時の昇温速度および冷却速度は特に限定する必要はないが、30℃/hr以上とすることが好ましい。第1次中間焼鈍処理時の昇温速度および冷却速度が30℃/hr未満の場合、処理に時間が掛かりすぎて生産性が低下するので、好ましくない。
【0045】
〔第2次冷間圧延工程〕
第2次冷間圧延工程では、第1次中間焼鈍処理を施した板に対して、冷間圧延機によって複数パスの冷間圧延を施し、板厚0.05〜0.12mmとする。板厚0.12mmを超えると、冷間圧延によって板に蓄積される歪量が少なすぎて、第2次中間焼鈍工程後に所定の金属組織を有する板を得ることができない。板厚0.05mm未満であると、第2次中間焼鈍工程後に最終冷延率20〜50%の最終冷間圧延工程を行うことが困難となり、所定の調質を施したフィン材を得ることが難しくなる。
【0046】
〔第2次中間焼鈍工程〕
第2次中間焼鈍の保持温度は200〜350℃とする。第2次中間焼鈍の保持温度が200℃未満の場合、十分な軟化状態を得ることができない。これに対し、第2次中間焼鈍の保持温度が350℃を超えると、マトリックス中に析出しているAl−(Fe・Mn)−Si系化合物が粗大化してしまうため、分散強化の効果が小さくなり、所望のろう付け後の抗張力が得られないおそれがある。第2次中間焼鈍の保持温度は、220〜330℃とすることが好ましい。
【0047】
第2次中間焼鈍の保持時間は特に限定する必要はないが、1〜5hrの範囲とすることが好ましい。第2次中間焼鈍の保持時間が1hr未満では、コイル全体の温度が不均一なままで、十分な軟化の得られない可能性があるので好ましくない。第2次中間焼鈍の保持時間が5hrを超えると、処理に時間が掛かりすぎて生産性が低下するため、好ましくない。
【0048】
第2次中間焼鈍処理時の昇温速度および冷却速度は特に限定する必要はないが、30℃/hr以上とすることが好ましい。第2次中間焼鈍処理時の昇温速度および冷却速度が30℃/hr未満の場合、処理に時間が掛かりすぎて生産性が低下するので、好ましくない。
【0049】
〔最終冷延率20〜50%の最終冷間圧延工程〕
最終冷間圧延工程では、最終冷延率は20〜50%に限定する。最終冷延率が20%未満の場合、冷間圧延で蓄積される歪エネルギーが少なく、ろう付け時の昇温過程で再結晶が完了しないため、耐サグ性と耐エロージョン性が低下する。最終冷延率が50%を超えると、製品強度が高くなり過ぎて、フィン成形において所定のフィン形状を得ることが困難になる。
【0050】
このようにして製造されたアルミニウム合金フィン材(最終板厚を30〜80μm)は、所定幅にスリッティングした後コルゲート加工して、作動流体通路用材料、例えば、ろう材を被覆した3003合金などからなるクラッド板からなる偏平管と交互に積層し、ろう付け接合することにより熱交換器ユニットとすることができる。
【実施例】
【0051】
(実施例A)
この実施例Aでは、本願の第1発明である熱交換器用アルミニウム合金フィン材の成分組成について検討した結果について説明する。
11水準の組成の合金溶湯を#10坩堝中で溶解し、小型ランスを用いて不活性ガスを5分間吹き込んで脱ガス処理を行なった。分析用サンプルをディスクに採取した後、各合金溶湯を内寸法200×200×16mmの水冷金型に鋳込み、スラブを作製した。各供材(11水準)の発光分光分析による組成分析値(成分組成)を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
これらのスラブの両面に各3mmの面削を施した後、第1段の冷間圧延を施して板厚を4.0mmとし、焼鈍炉内で昇温速度50℃/hrで昇温し、400℃×2hr保持した後、空冷する第1次中間焼鈍処理を施した。さらに第2段の冷間圧延を施して板厚を0.083mmとし、焼鈍炉内で昇温速度50℃/hrで昇温し、300℃×2hr保持した後、空冷する第2中間焼鈍処理を施した。さらに最終冷間圧延率40%の冷間圧延を施して最終板厚が50μmのフィン材(調質記号:H
14)とした。
【0054】
上記得られた合金No.1〜合金No.11の組成のフィン材について、下記(1)乃至(3)の試験測定を行った。
【0055】
(1)ろう付け加熱前の諸特性
〔試験項目〕
[1]抗張力(MPa)
ろう付け加熱前の抗張力として、上記得られた合金No.1〜合金No.11の組成のフィン材の抗張力を測定した。得られた抗張力の測定結果を表2に示す。
【0056】
[2]固相線温度(℃)
上記得られた合金No.1〜合金No.11の組成のフィン材について、示差熱分析によって固相線温度を測定した。得られた固相線温度の測定結果を表2に示す。
【0057】
(2)ろう付け加熱後の諸特性
〔ろう付け加熱条件〕
実際のろう付け加熱の条件を想定して、上記得られた合金No.1〜合金No.11の組成のフィン材について、室温から600℃近傍まで平均昇温速度50℃/minで昇温し、600℃近傍で2分間程度保持後、平均冷却速度100℃/minで冷却する熱処理を行った。すなわち、ろう材を用いることなく、上記得られた合金No.1〜合金No.11の組成のフィン材に上記熱処理を施した。
【0058】
〔試験項目〕
[1]抗張力〔MPa〕
ろう付け加熱後の抗張力として、上記熱処理を施した後の合金No.1〜合金No.11の組成のフィン材の抗張力を測定した。得られた抗張力の測定結果を表2に示す。
【0059】
[2]自然電位〔mV〕
ろう付け加熱後の自然電位として、上記熱処理を施した後の合金No.1〜合金No.11の組成のフィン材について、銀塩化銀電極(飽和)を照合電極として、5%食塩水中で60min浸漬後の自然電位(mV)を測定した。得られた自然電位の測定結果を表2に示す。
【0060】
(3)座屈荷重の測定
上記得られた合金No.1〜合金No.11(計11水準)の組成のフィン材のそれぞれについて、高さ2.3mm×幅21mm×ピッチ3.4mm(8山)のコルゲート状に加工した(各水準3個作製)。次に非腐食性フッ化物系フラックスを塗布した厚さ0.25mmのブレージングシート(ろう材4045合金、クラッド率8%)を準備した。コルゲート状のフィン材の上下にブレージングシートを設置し、室温から600℃近傍まで平均昇温速度50℃/minで昇温し、600℃近傍で2分間程度保持後、平均冷却速度100℃/minで冷却することで、ろう付試験体を作製した。ろう付試験体の外観を
図1に示す。このろう付試験体を用いて圧縮試験を行って、
図2に示すように、その時の最大荷重を測定して、これを座屈荷重とした。各水準につき3回試験を行って、3回測定した座屈荷重の平均値を算出し、この平均値で評価を行った。得られた座屈荷重の測定結果およびその平均値(n=3)を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
実施例1〜3(合金No.1〜3)のフィン材は、本願発明の組成範囲内であったため、固相線温度が615℃以上でろう付け性(耐エロージョン性)が良好であり、ろう付加熱前の抗張力が260MPa以下で成形性が良好であり、ろう付加熱後の抗張力が170MPa以上で高強度であり、ろう付け加熱後の自然電位が−700mV〜−780mVで適度な自己耐食性と犠牲陽極効果を示し、座屈荷重(平均値)が290N以上で耐座屈性に優れたものであった。
【0063】
比較例1(合金No.4)のフィン材は、Siの含有量が低すぎたため、ろう付け加熱後の抗張力が170MPa未満であり強度が不足しており、座屈荷重(平均値)が290N未満であり耐座屈性に劣っていた。
比較例2(合金No.5)のフィン材は、Si、Mnの含有量が低すぎたため、ろう付け加熱後の抗張力が170MPa未満であり強度が不足しており、自然電位が−780mV未満であり、座屈荷重(平均値)が290N未満であり耐座屈性に劣っていた。
比較例3(合金No.6)のフィン材は、Feの含有量が高く、Si、Mnの含有量が低すぎたため、ろう付け加熱後の抗張力が170MPa未満であり強度が不足しており、座屈荷重(平均値)が290N未満であり耐座屈性に劣っていた。
【0064】
比較例4(合金No.7)のフィン材は、Feの含有量が高く、Si、Mnの含有量が低すぎたため、ろう付け加熱後の抗張力が170MPa未満であり強度が不足しており、座屈荷重(平均値)が290N未満であり耐座屈性に劣っていた。
比較例5(合金No.8)のフィン材は、Cu含有量が高すぎたものの、Si含有量が低すぎたため、ろう付け加熱前の抗張力が260MPaを超えており、ろう付け加熱後の抗張力が170MPa未満であり強度が不足していた。
比較例6(合金No.9)のフィン材は、Mn含有量が低すぎたため、固相線温度が615℃未満であり、ろう付け加熱後の抗張力が170MPa未満であり強度が不足しており、座屈荷重(平均値)が290N未満であり耐座屈性に劣っていた。
【0065】
比較例7(合金No.10)のフィン材は、Si、Mn含有量が低すぎたため、ろう付け加熱後の抗張力が170MPa未満であり強度が不足しており、座屈荷重(平均値)が290N未満であり耐座屈性に劣っていた。
比較例8(合金No.11)フィン材は、Feの含有量が高く、Si、Mnの含有量が低すぎたため、ろう付け加熱後の抗張力が170MPa未満であり強度が不足しており、座屈荷重(平均値)が290N未満であり耐座屈性に劣っていた。
【0066】
(実施例B)
この実施例Bでは、本願の第2発明における第1次中間焼鈍条件、第2次中間焼鈍条件等の製板条件について検討した結果について説明する。
実施例Aで作製した面削済みスラブ(合金No.1,厚さ10mm)に第1段の冷間圧延を施して板厚を4.0mmとし、焼鈍炉内で昇温速度50℃/hrで昇温し、280,400,500℃×2hr保持した後、空冷する第1次中間焼鈍処理を施した。さらに第2段の冷間圧延を施して板厚を0.083,0.091,0.110mmとし、焼鈍炉内で昇温速度50℃/hrで昇温し、150,250,300,450℃×2hr保持した後、空冷する第2中間焼鈍処理を施した。さらに最終冷間圧延率40%,45%の冷間圧延を施して最終板厚が50,60μmのフィン材(調質記号:H
14)とした。
【0067】
得られた4水準のフィン材(比較例9,10,11,12)について、実際のろう付け加熱の条件を想定して、室温から600℃近傍まで平均昇温速度50℃/minで昇温し、600℃近傍で2分間程度保持後、平均冷却速度100℃/minで冷却する熱処理を行った。
【0068】
得られた供試材について、実施例Aと同様に、抗張力(MPa)、自然電位(mV)等の諸特性を測定した。得られた諸特性の測定結果を中間焼鈍条件等の製板条件とともに表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
実施例1(合金No.1)のフィン材は、本願発明の範囲内の成分組成を有するとともに、本願発明の範囲内の製板条件下で製造されたため、固相線温度が615℃以上でろう付け性(耐エロージョン性)が良好であり、ろう付加熱前の抗張力が260MPa以下で成形性が良好であり、ろう付加熱後の抗張力が170MPa以上で高強度であり、且つろう付け加熱後の自然電位が−700mV〜−780mVで適度な自己耐食性と犠牲陽極効果を示した。
【0071】
比較例9(合金No.1)のフィン材は、本願発明の組成範囲内であったが、1次中間焼鈍温度が500℃と高すぎたため、ろう付け加熱後の抗張力が170MPa未満であり強度が不足していた。
比較例10(合金No.1)のフィン材は、本願発明の組成範囲内であったが、1次中間焼鈍温度が280℃と低すぎたため、ろう付け加熱前の抗張力が260MPaを超えており、成形性に劣っていると判断された。
比較例11(合金No.1)のフィン材は、本願発明の組成範囲内であったが、2次中間焼鈍温度が450℃と高すぎたため、ろう付け加熱後の抗張力が170MPa未満であり強度が不足していた。
比較例12(合金No.1)のフィン材は、本願発明の組成範囲内であったが、2次中間焼鈍温度が150℃と低すぎたため、ろう付け加熱前の抗張力が260MPaを超えており、成形性に劣っていると判断された。
【0072】
以上のことから、本願発明の範囲内の成分組成を有するとともに、本願発明の範囲内の製板条件下で製造された熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、抗張力が260MPa以下、固相線温度が615℃以上であり、更にろう付け加熱し冷却した後に測定したときの抗張力が170MPa以上であり且つ自然電位が−780mV〜−700mVであるため、最終板厚30〜80μmに薄肉化されても、コルゲート加工時の成形性に優れており、フィン成形が容易な適度のろう付け前強度を有するとともに、適度な自己耐食性と犠牲陽極効果を示し、作動流体通路を構成する材料として高強度で耐座屈性に優れていることが理解できる。