特許第6979046号(P6979046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979046
(24)【登録日】2021年11月16日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】表皮係止用クリップ
(51)【国際特許分類】
   A47C 31/02 20060101AFI20211125BHJP
【FI】
   A47C31/02 B
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-57523(P2019-57523)
(22)【出願日】2019年3月26日
(65)【公開番号】特開2020-156629(P2020-156629A)
(43)【公開日】2020年10月1日
【審査請求日】2020年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135209
【氏名又は名称】株式会社ニフコ
(74)【代理人】
【識別番号】100088708
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】知野見 勇平
【審査官】 松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−132328(JP,A)
【文献】 特開2015−123329(JP,A)
【文献】 特開2016−185204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 31/02
B68G 7/052
B60N 2/58−2/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡体に保持された状態で該発泡体を覆う表皮を、該表皮裏側に設けられた被係止部を係止することで発泡体側に拘束可能にする表皮係止用クリップにおいて、
前記発泡体に保持されるベースと、前記ベースに対向して立設された一対の突出壁と、前記突出壁の側部より前記突出壁の幅方向へ延設されて前記ベースと略平行ないしは水平方向へ揺動可能な係止部とからなり、前記被係止部を前記係止部同士の間に挟み込んで弾性係止することを特徴とする表皮係止用クリップ。
【請求項2】
前記係止部は、前記突出壁の両側部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の表皮係止用クリップ。
【請求項3】
前記係止部は、互いの対向面に設けられて、前記被係止部に対し非対称の位置に突出ている係止爪を有し、前記被係止部を係止爪同士の間に係止することを特徴とする請求項1又は2に記載の表皮係止用クリップ。
【請求項4】
前記係止部は、前記突出壁との間に設けられた薄肉部を支点として揺動可能となっていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の表皮係止用クリップ。
【請求項5】
前記係止部は、前記突出壁の側部より斜めに延びたアーム部、及び前記アーム部の先端に一体化されて互いの対向面に前記係止爪を形成している張出部を有していることを特徴とする請求項3に記載の表皮係止用クリップ。
【請求項6】
対向している前記突出壁同士及び前記係止部同士は、所定の間隔を保ち、該間隔から離れる外側へ向けて次第に高くなるよう形成された案内用傾斜面を有しており、前記被係止部を前記傾斜面に伴って前記係止部同士の間に挿入し係止可能にすることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の表皮係止用クリップ。
【請求項7】
前記ベースは、略矩形状をなし、複数の厚板部と複数の薄板部で形成されており、前記発泡体の変形に追随して前記複数の薄板部ないしは肉厚変化部を介して捻れ易くなっていることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の表皮係止用クリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮側の被取付部を挿入係止した状態で表皮をパッド側に拘束可能にする場合に好適な表皮係止用クリップに関する。
【背景技術】
【0002】
図8は特許文献1に開示の表皮係止用クリップを示している。このクリップ10は、ベース(基部)14及び係止部34を有し、発泡体122にベース14を保持した状態で該発泡体を覆う不図示の表皮を、該表皮裏側に設けられた被係止部117に結合されたサスペンダ118を係止部34にて係止することで発泡体側に拘束可能にする。ここで、発泡体122は、メイン部112Aと、メイン部両側のサポート部112Bとの境目にクリップ10を配置する溝部116(126)を形成している。そして、このクリップ10において、ベース14は、発泡体122の溝部底面側に埋設状態に保持される。サスペンダ118は、左右に突出する突起118Aを有している。係止部34は、ベース14に立設されて対向している一対の延設部50と、延設部50の先端側に形成されてサスペンダ118を挟み込んで係止する係止爪52と、延設部50が互いに対向する側とは反対側に突出する突起54と、ベース14に立設されて一対の係止爪52が互いに離間する方向へ延設部50を介して弾性変形すると、突起54と当接する立上部56とを備えている。
【0003】
以上の構造では、発泡体122を成形した後のローラークラッシング処理、つまりローラーを発泡体に押し付けながら転がすことで発泡体内の気泡の大きさ等を調整するが、そのローラーによる押し付け時に押圧力が係止部34にも加わる。そして、その押圧力が係止部に作用することで、各係止爪52が互いに離間する方向へ延設部50を介して弾性変形すると、延設部先端側の突起54が立上部56と当接し、これにより、延設部50が過度に変形するのが抑制される。要は、ローラークラッシングを行う際に突起54が立上部56に当たることでクリップの破損を防ぐようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−186324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記したクリップの使い方では、クリップが発泡体の溝部内に余裕を持って配される関係で、例えば、溝部の深さ寸法がベースから係止爪までの高さ寸法に比例して大きく必要となり、仮に溝部を浅くしたり係止爪の高さを低くすると、サスペンダを係止操作する際の挿入力及び抜去力の設計仕様を満足できなくなる。換言すると、従来のクリップでは、発泡体の厚さや溝部などの深さに制約され、レイアウトの自由度に欠けていた。
【0006】
本発明の目的は、以上のような課題を解消して、クリップの高さ寸法を低くしたり減じることを可能にし、それにより発泡体の厚さ、溝部の深さなどに対する設計自由度を拡大できる表皮係止用クリップを提供することにある。他の目的は以下の内容説明の中で明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため請求項1の発明は、形態例を参照して特定すると、発泡体(2)に保持された状態で該発泡体を覆う表皮(3)を、該表皮裏側に設けられた被係止部(6,8)を係止することで発泡体側に拘束可能にする表皮係止用クリップ(1)において、前記発泡体に保持されるベース(10)と、前記ベースに対向して突設した一対の突出壁(13)と、前記突出壁の側部より前記突出壁の幅方向へ延設されて前記ベースと略平行ないしは水平方向へ揺動可能な係止部(17)とからなり、前記被係止部(6,8)を前記係止部(17)同士の間に挟み込んで弾性係止することを特徴としている。
【0008】
以上の本発明において、『突出壁の側部』とは、突出壁のうち、ベースの幅方向つまりベースの長手方向と交差する方向にある側部のことであり、クリップが図4の例だと溝部の長手方向に配置された状態で溝部と交差する側となり、また、図5(a)の例だと突出壁の左端又は右端となり、図5(b)の例だと突出壁の前端又は後端となる。『被係止部』としては、形態例に挙げたごとくワイヤを挿入した引込部材に限られず、例えば、特許文献1に開示されているような突起を有したサスペンダ、特開2013−132328号公報に開示されているような薄板状取付部の先端に張出部や膨出部などを形成した引込部材でもよい。『発泡体』は、合成樹脂中にガスを分散させ、発泡状ないしは多孔質形状に成形されたもので、ウレタンフォーム等の樹脂フォームやクッションフォームなどと称されることもある。
【0009】
以上の本発明は請求項2から7のごとく具体化されることがより好ましい。すなわち、
(ア)、前記係止部は前記突出壁の両側部に設けられている構成である(請求項2)。
(イ)、前記係止部は、互いの対向面に設けられて、前記被係止部に対し非対称の位置に突出ている係止爪を有し、前記被係止部を係止爪同士の間に係止する構成である(請求項3)。
【0010】
(ウ)、前記係止部は、前記突出壁との間に設けられた薄肉部を支点として揺動可能となっている構成である(請求項4)。この薄肉部は係止部のヒンジとして作用する。
(エ)、前記係止部は、前記突出壁の側部より斜めに延びたアーム部、及び前記アーム部の先端に一体化されて互いの対向面に前記係止爪を形成している張出部を有している構成である(請求項5)。
【0011】
(オ)、対向している前記突出壁同士及び前記係止部同士は、所定の間隔を保ち、該間隔から離れる外側へ向けて次第に高くなるよう形成された案内用傾斜面を有しており、前記被係止部を前記傾斜面に伴って前記係止部同士の間に挿入し係止可能にする構成である(請求項6)。
(カ)、前記ベースは、略矩形状をなし、複数の厚板部と複数の薄板部で形成されており、前記発泡体の変形に追随して前記複数の薄板部ないしは肉厚変化部を介して捻れ易くなっている構成である(請求項7)。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明では、ベースと、突出壁と、突出壁の側部より突出壁の幅方向へ延設されてベースと略平行ないしは水平方向へ揺動可能な係止部とからなり、被係止部を係止部同士の間に挟み込んで弾性係止するため、特許文献1の係止部のごとくベースに対し上下の角度を可変して被係止部を係止する構造に比べ高さを抑えて省スペース性に優れた態様となり、以下のような利点を有している。
【0013】
第1に、このクリップは、図4図6のごとく発泡体に設けられる溝部に配置される使用態様だと、その溝部が浅い形状にも対応可能となり、発泡体の厚さや溝部の深さに対する設計自由度を拡大できる。
第2に、このクリップは、表皮で発泡体を覆った製品のフィーリング性を向上できる。この点は、例えば、発泡体が座席を構成しているシートクッションと仮定した場合、従来のクリップに比べクリップの高さが低くなることにより、表皮からの距離が従来に比べ長く確保され、それによって着座時や手などで上から押し込んだ際にクリップによる異物感を感じ難くなるからである。
第3に、このクリップは、図4に例示した発泡体の厚さ、溝部の深さ、被係止部である引込部材などの周辺部品との間のレイアウト性の自由度を拡大し、適用製品の品質向上に寄与できる。
【0014】
請求項2の発明では、係止部が突出壁の両側部に有しているため上記した利点に加え、被係止部に対する係止力ないしは保持力を倍増できる。また、図8の従来構造に比べ一対の係止部が突出壁の両側部に連結されているため保持力の安定性に優れると共に、高さが低く抑えられているため取扱性の点でも優れている。
【0015】
請求項3の発明では、係止部同士の対向面にあって互いに非対称の位置に係止爪を突出ているため、図5から推察されるごとく被係止部を弾性的に係止するとき係止爪を介し強制変位し易く、係止状態で被係止部のこじる力に対する保持力を安定維持できる。
【0016】
請求項4の発明では、係止部が突出壁に対し薄肉部を支点として水平方向へ確実に撓むため、上記した各利点を確実に得られ、被係止部の係止操作を安定して行える。
【0017】
請求項5の発明では、係止部が斜めに延びたアーム部、及びアーム部先端の張出部を有しているため、長さ寸法を確保して係止部の揺動特性を向上できる。
【0018】
請求項6の発明では、被係止部を係止部同士の間に挟み込んで係止する操作において、図5(a)のごとく被係止部の下端膨出部(ワイヤ部分)を係止部同士の間に押圧して挿入する際、突出壁及び係止部の各傾斜面の案内作用を伴って挿入可能となるため作業性を向上できる。
【0019】
請求項7の発明では、ベースが発泡体の変形に追随して複数の薄板部ないしは肉厚変化部を介して捻れ易くなっているため、被係止部が抜け荷重を受けた際、ベースが複数の薄肉部ないしは肉厚変化部で確実かつ容易に変形し、被係止部に対する係止部の保持力を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(a)と(b)は発明形態の表皮係止用クリップの外観を示す上側より見た斜視図と下側より見た斜視図である。
図2】上記表皮係止用クリップの細部を示し、(a)はクリップの上面図、(b)は正面図、(c)は下面図である。
図3】(a)は図2(a)の右方向から見た側部図、(b)は図2(a)の左方向から見た側部図である。
図4】上記表皮係止用クリップの使用態様を示す模式説明図である。
図5】上記表皮係止用クリップの作用1として、(a)は被係止部の係止部に対する係止操作途中を示す模式図、(b)は被係止部を係止部に係止して表皮を発泡体側に拘束した態様を示す模式図である。
図6】(a)と(b)は上記表皮係止用クリップの作用2として、被係止部を係止部に係止し表皮を発泡体側に拘束した態様において、被係止部が図5(b)の状態から矢印方向へ更に強く引っ張られたときの発泡体に対するベースの変位を示す模式図である。
図7】(a)と(b)は上記表皮係止用クリップの一部を変更した変形例1と2を示す斜視図である。
図8】(a)と(b)は特許文献1の図9図5を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の最適な形態を図面を参照しながら説明する。この説明では、クリップの構造、その使用例と変形例の順に詳述する。
【0022】
(構造)表皮係止用クリップ1は、ベース10及び該ベース上に立設された一対の突出壁13並びに突出壁13の側部より延設された係止部17を一体に有している。そして、このクリップ1は、図4に例示されているごとくベース10が発泡体2に保持されて、発泡体2を覆う表皮3の裏面側に設けられた被係止部である引込部材6を係止部17に対して挿入操作により係止、つまり抜け止め係止した状態で表皮3を発泡体2側に拘束可能にするものである。
【0023】
ここで、発泡体2はポリウレタンフォーム等であり、シートないしは座席の緩衝用として背もたれを支持するシートバック、臀部を支持するシートクッション等として大小様々な厚さや形状に成形される。また、発泡体2は、メイン部と両サイド部との間に設けられた溝部2aを有し、溝部2aの内底面にベース10を埋設、つまりインサートした状態でクリップ1を保持している。これらは、特許文献1と同じため必要であれば同文献を参照されたい。
【0024】
表皮3は、発泡体2を覆うカバー状の部材であり、発泡体形状に応じて複数の表皮部3a,3b等を縫い合わせて作成される。その際、表皮部3a,3bには、図4に示されるごく表皮部同士の予め決められた接続部分に引込部材6が縫製等により取り付けられる。符号5と7はその縫製ラインである。引込部材6は、この例だと布類似の可撓性の平材(メッシュサスペンダとも言う)を二つ折りし、かつ、折り返された両端側が表皮部側に縫製ライン7で取り付けられる。引込部材6には、剛性のワイヤ8が折り返された内側に位置して長手方向に沿って挿入配置されている。引込部材6は、クリップの係止部17に対しワイヤ8の部分を介して挿入係止される。但し、引込部材6はこの例以外でも差し支えない。
【0025】
クリップの細部は以下の通りである。このクリップ1は、樹脂の射出成形品であり、略矩形板状のベース10と、ベース10の上面に立設された一対の突出壁13と、各突出壁13の両側部よりベース10と略平行に延設された係止部17とからなる。
【0026】
このうち、ベース10は、複数の厚板部11と複数の薄板部12で形成されている。また、ベース10は、図5(a)において、左右方向が溝部2aの長手方向に対応し、上下方向が溝部2aの幅方向に対応し、紙面の前後方向が同(b)のごとく溝部2aの深さ方向に対応している。符号10aはベース上面に突設されて突出壁13の対応側部に接続されている補強用リブである。このリブ10aは、ベース10の長手方向に延びた突起であり、突出壁13の両側に位置して係止部17の座屈つまり上方から加わる応力に対する折れを防止することを目的としている。
【0027】
すなわち、ベース10は、上面が平坦面に形成され、下面が複数箇所に厚板部11つまり凸部分を設けることで、板厚が厚い箇所と薄い箇所とを混在している。この例では、下面を十字形で4等分して、その4等分した内の対角線上に位置する2箇所を厚板部11に形成し、他の2箇所を薄板部12に形成している。換言すると、ベース下面には、十字形で4等分され、その対角に板厚差を持たせる形状を設定することで、肉厚変化を付与して剛性差を持たせている。これにより、このベース構造では、被係止部である引込部材6が図6(b)のごとく矢印で示した引張り方向の荷重を受けたときに、紙面手前側が右側の薄板部12の撓みにより荷重を吸収し、紙面奥側が左側の薄肉部12の撓みにより荷重を吸収する。このようにして、荷重が分散されることでベース10が発泡体2の溝部2a内底側より抜け出る虞を解消するようにしている。
【0028】
各突出壁13は、矩形板状からなり、所定間隔を保って対向していて、対向面に設けられた複数の補強用リブ13bと、上面に設けられて互いの間の間隔から離れる外側へ向かって次第に高くなるよう形成された案内用傾斜面13aとを有している。補強用リブ13bは、突出壁13の上下方向に延びた縦リブであり、突出壁13を揺動不能となるよう補強している。案内用傾斜面13aは、後述する係止部17の傾斜面17aと略面一に形成されている。
【0029】
各係止部17は、図2において、突出壁13の両側部(クリップ1が溝部2aの長手方向に配置された状態で、溝部2aと交差する側)に設けられて、ベース10(ベース10の上面に設けられた補強用リブ10a)と隙間を保ち、かつベース10に略平行となるよう設けられている。また、各係止部17は、上面が係止部同士の間隔から離れる外側へ向かって次第に高くなる案内用傾斜面17aに形成され、また、全体形状がアーム部15及びアーム部先端の張出部16にて形成されている。
【0030】
各傾斜面17aは、傾斜面13aと連続していて、対応する傾斜面13aとで逆ハ字形の案内部を区画し、その案内部により被取付部である引込部材6を係止部17同士の間に挿入し弾性係止し易くする。
【0031】
アーム部15は、突出壁13の両側部にヒンジ用の薄肉部14を介在して突出され、また、突出端が対向したアーム部同士の間隔を狭める方向つまり内側斜めに延設されている。張出部16は、アーム部15より厚肉の小ブロック状をなし、突出端面に係止爪18又は19を突出している。係止爪18と19は、図2(a)に示されるごとく対向した係止部17,17の対向面に設けられて、被係止部(6,8)に対し非対称の位置に突出されている。係止爪18,19の上面は、先端に行く程下側へ行く傾斜面18a,19aとなっている。この傾斜面18a,19aは、上記傾斜面13aや傾斜面17aと同様に被係止部である引込部材6を係止方向へ案内する。
【0032】
(使用例)以上のクリップ1は、特許文献1と同様に座席ないしはシートに用いられるが、シート以外でも緩衝用発泡体を表皮で覆うような分野に使用可能である。また、クリップ1は図6のごとく発泡体2に保持される。この場合、クリップ1は、シート用発泡体2の場合だと、例えばメイン部とサイド部との間に設けられた凹状の溝部2aの底面側に保持される。通常は、発泡体2をウレタン系の発泡樹脂などにより成形するときにクリップのベース10が溝部2aの対応底面部分にインサートされる。但し、クリップ1は発泡体2に接着や溶着により後付けするようにしてもよい。
【0033】
図4及び図6は、表皮3を発泡体2に保持されたクリップ1の係止部17同士の間から引込部材6の先端膨出部(ワイヤ8の部分)を挿入し弾性係止する構成例を示している。この操作では、引込部材6が対向している係止部17同士の間、更に係止爪18,19の間にワイヤ8の部分を押し込める。すると、この構造では、ワイヤ8の部分が傾斜面13a,13a及び傾斜面17a,17aにガイドされながら、係止爪18,19の間を乗り越えて張出部16同士の間に弾性的に挿入され係止される。この係止状態では、引込部材6が図6(a)のごとくワイヤ8の部分が係止爪18,19の平坦となった下面に当たって抜け止めされる。そして、の構造では、引込部材6が表皮3や発泡体2の形状変位に伴って図6(a)の矢印方向へ引っ張られても不用意に係止解除されない。
【0034】
また、この構造では、引込部材6が図6(b)のごとく上矢印方向へ更に強く引っ張られると、突出壁13の両側にある一対の係止部17が同図の対の斜め上向きの応力を受ける。なお、この場合、従来では、溝部の底面側に埋設されていたベースが斜め上向きの応力により発泡体内から抜け出し外れることもあった。しかし、この形態では、ベース10が同図に破線で示したごとく発泡体2の変形に追随して複数の薄板部12ないしは肉厚変化部を介して捻れ易くなっているため、ベース10が複数の薄肉部12ないしは肉厚変化部(11,12)で部分的に多方向へ変位し、それにより確実かつ容易に変形し、その多方向の変位によりベース10に加わる応力を緩和したり減衰して発泡体内からの抜け出しを防止可能にしている。
【0035】
(他の利点)形態例のクリップ1は、以上の作用に加えて以下のような点で優れている。 第1に、このクリップ1は、特に、突出壁13の側部より突出壁の幅方向へ延設されてベース10と略平行ないしは水平方向へ揺動可能な係止部17を有して、被係止部6を係止部17同士の間に挟み込んで弾性係止するため、特許文献1の構造に比べ高さを抑えて省スペース性に優れた態様となる。詳述すると、(イ)このクリップ1は、図4図6のごとく発泡体2の溝部2aに配置される使用態様だと、その発泡体2の厚さが比較的小さい場合や溝部2aが浅い形状の設計にも有効に対処可能となり、発泡体2の厚さや溝部2aの深さに対する設計自由度を拡大できる。(ロ)このクリップ1は、表皮3で発泡体2を覆った製品のフィーリング性を向上できる。理由は、従来のクリップに比べクリップの高さが低くなることにより、表皮3からの距離が従来に比べ長く確保でき、それによって着座時や手などで上から押し込んだ際にクリップ1に起因した異物感を感じ難くなるからである。(ハ)このクリップ1は、図4に例示した発泡体2の厚さ、溝部2aの深さ、被係止部(6,8)などの周辺部品との間のレイアウト性の自由度を拡大し、適用機会を拡大したり適用製品の品質向上に寄与できる。
【0036】
第2に、このグリップ1は、対向した係止部17,17が突出壁13の両側部に有しているため、被係止部(6,8)に対する弾性係止力ないしは保持力を倍増できる。また、このクリップ1は、係止部17同士の対向面にあって互いに非対称の位置に係止爪18,19を突出ているため、図5から推察されるごとく被係止部(6,8)を弾性的に係止するとき係止爪18,19を介し強制変位し易く、また、係止状態で被係止部(6,8)のこじる力に対する保持力を安定維持可能となる。
【0037】
第3に、このクリップ1は、各係止部17が突出壁13に対し薄肉部14を支点として水平方向へ確実に撓むことから、被係止部(6,8)の係止操作をワンタッチで行うことが可能となり、また、係止部17が斜めに延びたアーム部15、及びアーム部15の先端の係止爪付きの張出部16を有しているため、長さ寸法を充分に確保して係止部17の揺動特性を向上できる。
【0038】
(変形例)図7(a)のクリップ1Aは、上記したクリップ1に比べ対向している一対の突出壁13を高くした変形例1を示している。すなわち、このクリップ1Aは、発泡体2の厚さないしは溝部2aの深さに対応して高さ寸法を少し大きくした一例であり、それ以外は上記形態のものと同じ。なお、突出壁13の高さ設定は引込部材6等の被係止部の形状に左右される。一般的には、例えば、被係止部がワイヤーのような場合だと低くなり、一方従来例のようなサスペンダのような場合だと高くなる。図7(b)のクリップ1Bは、上記クリップ7や7Aに比べベース2に設けられた補強リブ10aを省いて簡略化した一例であり、それ以外は上記形態と同じである。他の変形例としては、係止部17を突出壁13の両側部に設けたが、一方側部だけに設ける構成でもよく、また、突出壁13の傾斜面13aや係止部17の傾斜面17aを省略して、突出壁13や係止部17の上面を平坦面に形成するようにしてもよい。
【0039】
以上のように、本発明は、請求項で特定される構成を備えておればよく、細部は変形例1や2のごとく必要に応じて種々変更可能なものである。また、クリップの用途も座席やシートに限られず、緩衝用発泡体を表皮で覆うような製品、例えばソファー等であっても差し支えない。
【符号の説明】
【0040】
1・・・・・クリップ
2・・・・・発泡体(2aは溝部)
3・・・・・表皮
6・・・・・引込部材(被係止部)
8・・・・・ワイヤ(被係止部)
10・・・・ベース(11は厚板部、12は薄板部)
13・・・・突出壁(13aは傾斜面)
14・・・・薄肉部
15・・・・アーム部
16・・・・張出部
17・・・・係止部(17aは傾斜面)
18・・・・係止爪
19・・・・係止爪
1A・・・・クリップ
1B・・・・クリップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8