特許第6979053号(P6979053)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6979053心室細動を検出するための装置および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979053
(24)【登録日】2021年11月16日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】心室細動を検出するための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/39 20060101AFI20211125BHJP
   A61B 5/026 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   A61N1/39
   A61B5/026 110
【請求項の数】14
【外国語出願】
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-228166(P2019-228166)
(22)【出願日】2019年12月18日
(65)【公開番号】特開2020-124471(P2020-124471A)
(43)【公開日】2020年8月20日
【審査請求日】2020年4月20日
(31)【優先権主張番号】1873536
(32)【優先日】2018年12月20日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】510166157
【氏名又は名称】ソーリン シーアールエム エス ア エス
【氏名又は名称原語表記】SORIN CRM S.A.S.
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【弁理士】
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル コルデロ アルヴァレス
(72)【発明者】
【氏名】デルフィーヌ フォイヤーシュタイン
【審査官】 安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−503280(JP,A)
【文献】 米国特許第05524631(US,A)
【文献】 特開2016−182165(JP,A)
【文献】 特開2003−204944(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0343223(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0224555(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/00− 1/39
A61B 5/026
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプラント型医療装置であって、
心臓内血流動態信号を検出するように構成された少なくとも1つのインプラント型血流動態センサを備
出された心臓内血流動態信号および/またはティーガーエネルギーオペレータ(TEO)の信号を適用することにより検出された心臓内血流動態信号から導出された信号を処理および分析するように構成されたコントローラを備え、
TEOは{x(n)}=Ψ(n)=x(n―1)―x(n―2).x(n)として定義され、
ここで、
「x(n)」は心臓内血流動態信号であり、
「Ψ(n)」は出力血流動態信号であり、
「n」は所定のサンプルを意味し、さらに
前記コントローラは少なくとも1つの出力血流動態信号を考慮することによって、除細動操作の必要性を判断するように構成された少なくとも1つのアルゴリズムをさらに備えるインプラント型医療装置。
【請求項2】
少なくとも1つの血流動態センサは、インプラント型加速度計、マイクロホン、圧電センサ、または心臓内血流動態信号を検出することができる圧力センサである請求項1に記載のインプラント型医療装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの血流動態センサは、心音を検出できる請求項2に記載のインプラント型医療装置
【請求項4】
コントローラの少なくとも1つのアルゴリズムは、出力血流動態信号の少なくとも一つの特性が心室細動現象に関連する持続時間よりも長い時間経過中に所定の閾値を超えない場合に、除細動操作の必要性を判断するよう構成される請求項12またはに記載のインプラント型医療装置。
【請求項5】
出力血流動態信号の少なくとも1つの特性は、信号の振幅、エネルギー、平均値、または中央値、または二乗平均平方根値である請求項に記載のインプラント型医療装置。
【請求項6】
出力血流動態信号の振幅および/または出力血流動態信号のそれぞれが、所定の時間経過の間に所定の閾値を超える各信号の所定の閾値および/またはピークの数を昇順または降順で交差する回数が、心室細動の有無を判定するために考慮される請求項またはに記載のインプラント型医療装置。
【請求項7】
電気除細動信号を生成するように構成された、インプラント型除細動器と、除細動操作を開始する必要性が医療装置のコントローラによって決定されたときに、電気除細動信号を患者に送るように構成されたリードによって除細動器に接続された少なくとも1つの電極とをさらに備える請求項1〜のいずれか1項に記載のインプラント型医療装置。
【請求項8】
コントローラは出力血流動態信号を少なくとも1つの電極によって心臓内血流動態信号から独立して検出された少なくとも1つの電気生理学的信号と比較することによって、除細動操作を開始する必要性を判断するように構成される請求項に記載のインプラント型医療装置。
【請求項9】
コントローラは心臓内血流動態信号のみを考慮することによって、除細動操作の必要性を判断するように構成される請求項1〜のいずれか一項に記載のインプラント型医療装置。
【請求項10】
コントローラは、検出された心臓内血流動態信号および/または1〜100Hzの範囲の検出された心臓内血流動態信号から導出された信号をバンドパスフィルタリングするように構成される請求項1〜のいずれか1項に記載のインプラント型医療装置。
【請求項11】
前記範囲は、7.5〜49Hzである請求項10に記載のインプラント型医療装置
【請求項12】
コントローラはウィンドウ機能を適用することによって、出力信号をフィルタリングするようにさらに構成される請求項1〜11のいずれか1項に記載のインプラント型医療装置。
【請求項13】
前記ウィンドウ機能がハミングウィンドウである請求項12に記載のインプラント型医療装置
【請求項14】
コントローラは定期的に再計算され心臓内血流動態信号の1つまたはそれ以上の特性からまたは前記ティーガーエネルギーオペレータによるそれらの表現から導出される予め定義された静的閾値または動的閾値に従って除細動操作の必要性を決定するために、および/または除細動操作を開始するために構成される請求項13のいずれか一項に記載のインプラント型医療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療装置、特にインプラント型医療装置ならびに心室細動を検出するための方法およびソフトウェアに関する。
【背景技術】
【0002】
先進国では心室性頻拍性不整脈による突然の心臓死が死亡の主な原因となっている。このような現象を迅速に検出することは、迅速な対応と適切な治療の提供を可能にするために極めて重要である。心室性頻拍性不整脈の生存者の心臓の状態は、通常ECGモニタリングシステムを使用して、病院で厳密にモニタリングされる。心室性頻拍性不整脈の検出のための心臓活動のモニタリングには一般に心電図(ECG)またはエレクトログラム(EGM)などの電気生理学的信号の使用が含まれる。これらの信号は心機能の電気情報を提供し、心室細動などの心室性頻拍性不整脈の発生を検出するために使用される。
【0003】
病院ベースのECGモニタリングは実行可能であり、短期間であり費用対効果の高い選択肢であるが、突然死の心臓リスクのある患者にはさまざまな長期間の治療オプションを推奨することある。これらの治療オプションには薬理学的処置および/または除細動器のインプラントが含まれている。インプラント型自動除細動器はEGMを記録する電極を備えている。皮下インプラント型除細動器はECGの記録が可能である。これらのEGM/ECGは心室細動の存在などを示す可能性のある心拍を検出するために、デバイス内のアルゴリズムによって処理される。それにもかかわらずこれらのアルゴリズムは電気生理学的雑音の他の原因によってしばしば偽陽性を発生させることがある。偽陽性は電気雑音、筋電位、広範囲QRSの二重検出、T波検出、上室頻拍、または心室性頻拍性不整脈に対応しないが不適切に検出されるその他の電気生理学的現象などの現象の検出に対応する。実際、電気生理学的背景の雑音の頻繁な存在は信号/雑音比を低減する。例えばインプラント型除細動器では僞陽性は適切な電気ショックの結果で起こり、これは心室性頻拍性不整脈を誘発することにより外傷を負うかまたは有害でさえあり得る。
【0004】
特許文献1は心壁運動および心脱分極の機械的信号に基づいて心不整脈を検出および識別するためのシステムおよび方法に関する。特許文献1のアルゴリズムは、心拍数を分類するために検出された機械的信号を検出された電気信号と比較し確認する。したがって特許文献1は、電気生理学的信号に加えて電気生理学的信号のみから通常検出される心室不整脈の検出のために心臓機械的活動信号を使用する。しかしながら特許文献1のアルゴリズムは、他のソース(例えば筋電位による)からの電気生理学的雑音の存在によりしばしば僞陽性を生じる電気生理学的信号に常に基づいているため、心室細動の検出を改善するのには適していない。
【0005】
特許文献2は特に心室性頻拍性不整脈を検出するために皮下にインプラントされる電気生理学的信号を検出する一連の電極に加えて、加速度計または音響変換器などの非電気生理学的センサの使用に関する。しかしながら、特許文献2によれば非電気生理学的信号である記録された信号(例えば皮下加速度計によって)は、「ブラインドシグナルセパレーション」プロセス(BSS)により一連の電気生理学的信号のうちの最良の可能な出力信号を選択するために使用される。BSSからの出力信号は心拍を分類し、たとえば心室性頻拍性不整脈を検出するために使用される。したがって、特許文献2の方法は心拍周期の分類のための電気生理学的信号に依存する。しかしながらこのような信号は分離プロセス中に抑制されない筋電位のような雑音によって汚染されると、偽陽性につながる可能性がある。したがって、特許文献2の装置は心室細動の検出を改善するのに適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/225332 A1号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2011/0098587A1号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tchebychevアナログフィルタ(Weinberg, Louis, Slepian, Paul (1960年6月)
【非特許文献2】「Tachahasi's Results on Tchebycheff and Butterworth Ladder Networks」、IRE Transactions on Circuit Theory: 88-101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、心事象、特に心室細動の識別特異性を改善し、偽陽性結果の発生を低減することである。すなわち電気雑音、筋電位、広範囲QRSの二重検出、T波検出、上室頻拍、または心室性頻拍性不整脈に対応しないが不適切に検出されるその他の電気生理学的現象のような現象の検出である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、少なくとも1つの心臓内血流動態信号を検出するように構成されたインプラント型または非インプラント型の血流動態センサを備える医療装置、特にインプラント型医療装置によって達成され、検出された血流動態心臓信号および/または以下で定義されるティーガーエネルギーオペレータ(TEO)に信号を適用することによって検出された心臓内血流動態信号から得られる信号を処理および分析するように構成されたコントローラを備え、この定義とはTEO{x(n)}=Ψ(n)=x(n―1)x(n―2).x(n)ここで、「x(n)」は心臓内血流動態信号であり、「Ψ(n)」は出力血流動態信号であり、「n」は所定のサンプルを意味し、このコントローラはさらに少なくとも1つの出力血流動態信号を考慮に入れて除細動操作の必要性を判断するように構成された少なくとも1つのアルゴリズムをさらに備える。
【0010】
心室細動中に心臓が発生する機械的エネルギーは、正常な洞調律のエネルギーに比べて大幅に減少する。本発明の装置はこの事実を使用して、検出された血流動態信号またはそれらの派生信号の関数として心室細動現象を検出する。TEOオペレータの適用による変換は出力信号の信号対雑音比を増加させることを可能にし、したがって検出された信号または検出された信号から導出された信号の表記を提供し、そこから心音が存在するか否か(すなわち機械的心臓活動があるか否か)を決定することがより容易である。実際TEOオペレータによる信号の処理は心音を本質的に単一のピークに集中させることを可能にする。
【0011】
誤検出の結果に関して本発明の装置は、通常、頻拍性不整脈を検出するために使用される心電図(ECG)またはエレクトログラム(EGM)のような、心室細動を検出するための電気活動に関連する電気生理学的信号を実行することができるが、特に心室細動の場合には偽陽性の結果を生成する傾向がある。したがってTEO表現のおかげで誤検出検出結果の発生を低減しながら、心室細動現象の検出をより容易に行うことができる。
【0012】
本発明は、以下の実施形態によってさらに改良することができる医療装置に関するものである。
【0013】
一実施形態によれば、少なくとも1つの血流動態センサはインプラント型または非インプラント型加速度計、マイクロフォン、圧電センサ、または心臓内血流動態信号、特に心音を検出することができる圧力センサであってもよい。加速度計は心臓内血流動態信号を検出するように構成され、心臓や皮下にインプラントされるか、または皮膚に外付けされてもよい。したがって本発明による装置の実施に使用することができる血流動態センサは、インプラント型または非インプラント型(皮下または皮膚)センサとすることができる。その結果、血流動態センサは患者の体内および/または体外の異なる位置に配置することができる。
【0014】
一実施形態によれば、もし出力血流動態信号の少なくとも1つの特性が心室細動の現象に関連する持続時間より長い持続時間の間は所定の閾値を超えない場合、コントローラの少なくとも1つのアルゴリズムは除細動操作の必要性を判断するように構成することができる。加えて出力血流動態信号の少なくとも1つの特性は、前記信号の振幅、エネルギー、平均値または中央値、または二乗平均平方根値であってもよい。したがって本発明は、電気生理学的ノイズアーチファクトが心臓の機械的活動信号に影響を及ぼす可能性がある活性の増加の存在ではなく活性の欠如に依存する。さらにたとえ類似の機械的アーチファクトが信号に存在していたとしてもそれらは偽陽性を与えない。
【0015】
一実施形態によれば、出力心臓内血流動態信号の振幅、および/または出力心臓内血流動態信号の各々が所定の閾値を増加または減少する順序で交差する回数、および/または所定の期間中に所定の閾値を超える各信号のピークの回数を心室細動が存在するか否かを決定する際に考慮にいれることができる。TEO処理は信号の鮮鋭度、したがってピークの改善を可能にし、閾値と比較した心室細動の決定を容易にする。
【0016】
一実施形態によれば、医療装置は電気除細動信号を生成するように構成された除細動器、特にインプラント型除細動器と除細動操作をトリガする必要性が医療装置のコントローラによって決定されたときに、電気除細動信号を患者に送るように構成されたリードによって除細動器に接続された少なくとも1つの電極とをさらに含むことができる。したがって本装置は除細動器による心室細動現象の検出後に心室細動を治療するようにも構成されている。
【0017】
一実施形態によれば、出力血流動態信号と少なくとも1つの電極によって心臓内血流動態信号に対して独立して検出された少なくとも1つの電気生理学的信号と比較することによって、コントローラは除細動操作を開始する必要性を判断するように構成されてもよい。互いに独立して検出される異なる(電気生理学的および血流動態的)特性の信号を考慮し比較することにより、結果の信頼性(心室細動の現象の有無)を検証し改善することが可能になる。
【0018】
一実施形態によれば、コントローラは心臓内血流動態信号のみを考慮することによって除細動操作の必要性を判断するように構成されてもよい。したがって、この装置は電気生理学的信号の検出および処理から解放され心室細動の検出を簡素化する。
【0019】
一実施形態によれば、コントローラは検出された臓内血流動態信号および/または1〜100Hz、特に7,5〜49Hzの範囲で検出された心臓内血流動態信号から得られた信号をバンドパスフィルタを通過させるように構成されてもよい。この狭い周波数帯域における血流動態信号のフィルタリングは、低周波数の呼吸への貢献および高周波数の音波の貢献を排除する。さらにこれはモーションアーチファクトが心臓信号に及ぼす可能性のある影響を制限する。このことはこのような装置をインプラントされた患者が動き、また例えば身体運動を行っているときに特に関係がある。
【0020】
一実施形態によれば、コントローラはウィンドウ機能、特にハミングウィンドウを適用することによって出力信号をフィルタリングするようにさらに構成されてもよい。ハミングウィンドウは雑音に関して出力信号のピークをより大きくすることを可能にするだけでなく、出力信号の処理および分析を容易にすることも可能にする。これは二重検出(すなわち例えば複数のピークがそれぞれ近位に存在し、一つのピークと誤解される)のリスクを低減するからである。
【0021】
一実施形態によれば、コントローラは除細動操作の必要性を判断し、および/または予め定義された静的閾値に従ってまたは定期的に再計算され、心臓内血流動態信号の1つまたは複数の特性、またはティーガーエネルギーオペレータによるそれらの表現から導出される動的閾値に従って除細動操作を開始するように構成されてもよい。したがって所定の閾値の値は事前に定義される一定値であってもよい。あるいは確立するために使用される動的閾値心室細動の有無はより特異的であり、したがって心室細動現象の検出を改良することが可能になる。
【0022】
実施形態は本発明のより有利な代替実施形態を形成するように組み合わせることができる。
【0023】
本発明の目的は少なくとも一つの医療装置の、特にインプラント型医療装置の、血流動態センサによって検出される心臓内血流動態信号を処理する方法により達成され、検出された血流動態信号および/またはティーガーエネルギーオペレータ(TEO)の適用を含む検出された心臓内血流動態信号を処理する少なくとも一つの工程を含み:TEOは{x(n)}=Ψ(n)=x(n―1)x(n―2).x(n)であり、ここで「x(n)」は検出された心臓内血流動態信号であり、「Ψ(n)」は出力心臓内血流動態信号であり、「n」は所定のサンプルを指す:さらに心室細動の有無が所定の閾値に対する出力心臓内血流動態信号を考慮することによって決定される工程を含む。
【0024】
心室細動時に心臓が発生する機械的エネルギーは正常な洞調律の場合と比較して大きく低減される。本発明の方法は、この事実を使用して検出された心臓内血流動態信号またはそれらの派生信号に応じて心室細動の現象を検出する。TEOオペレータの適用による変換は出力信号の信号対雑音比を増加させることができ、したがって検出された信号または検出された信号から導出された信号の表現を提供し、そこから心音が存在するか否か(すなわち機械的心臓活動が存在するか否か)を決定することがより容易である。
【0025】
本発明の方法に関しては以下の実施形態によってさらに改良することができる。
【0026】
偽陽性の結果に関する本発明の方法は、頻拍性不整脈を検出するために通常使用される心電図(ECG)またはエレクトログラム(EGM)のような心室細動の検出に到達するための電気活動に関する電気生理学的信号を実行することができるが、特に心室細動の場合において偽陽性の検出結果をもたらす可能性がある。したがってTEO表現により偽陽性検出結果の発生を低減しながら、心室細動現象の検出をより容易に行うことができる。
【0027】
一実施形態によれば、信号処理工程は検出された心臓内血流動態信号および/または検出された心臓内血流動態信号から導出された信号がバンドパスフィルタリングされた、特に1〜100Hz、より具体的には7,5〜49Hzの範囲でバンドパスフィルタリングされた信号前処理工程によって先導される。この狭い周波数帯域における血流動態信号のフィルタリングは低周波数呼吸のへ貢献、さらに高周波数の音響心臓波への貢献を排除する。加えて、このことはモーションアーチファクトが心臓信号に及ぼす可能性のある影響を制限する。これは特にこのような装置を装着および/またはインプラントされた患者が動いたり、例えば身体運動を行うときに関係がある。
【0028】
一実施形態によれば、信号処理工程の後に出力血流動態信号がウィンドウ機能を適用、特にハミングウィンドウを適用することによりフィルタリングされる信号後処理工程が続いてもよい。ハミングウィンドウは雑音に関して出力信号のピークを大きくすることを可能にするだけでなく、出力信号の分析と処理を容易にする。なぜなら二重検出(すなわち複数のピークがそれぞれ近位に存在し、一つのピークとして理解される)のリスクを低減するからである。
【0029】
一実施形態によれば、少なくとも一つの血流動態センサはインプラント型もしくは非インプラント型N軸加速度計(N≧1)、マイクロフォン、圧電センサまたは血流動態信号、特に特に心音を検出することができる圧力センサであってもよい。加速度計は心臓内血流動態信号を検出するように構成され、心臓または皮下にインプラントされるか、または皮膚に外付けされてもよい。
【0030】
一実施形態によれば、N軸加速度計によって検出されたN心臓信号は軸N+1に沿って新たな信号と結合することができ、軸N+1は振幅および/または信号対雑音比および/または安定性および/または新たな信号の関連する生理学上のパラメータはN+1軸に沿って最大化するように決定される。このように信号はより患者固有であり、および/または振幅、信号対雑音比および/または安定性などの検出された血流動態信号の特性を最大化する異なる信号を生成するため結合される。
【0031】
一実施形態によれば、所定の閾値は定期的に再計算され、一つもしくは複数の心臓内血流動態信号の特性から、もしくはティーガーエネルギーオペレータによるそれらの表現から導出される所定の静的閾値または動的閾値であってもよい。したがって所定の閾値の値は事前に定義された一定の値であってもよい。あるいは心室細動の有無を確定するために使用される動的閾値はさらに明確であり、したがって心室細動現象の検出を改良することを可能にする。
【0032】
一実施形態によれば、所定の閾値に応じて昇順または降順する各々の出力血流動態信号の交差の振幅、および/または回数、および/または所定の時間経過中に所定の閾値を超える各信号のピーク回数を考慮して心室細動の有無を判断でき、または判断してもよい。閾値に関する心室細動の決定は、TEO処理がピークの鋭さ、したがって信号の鋭さを改善することを可能にしたためにこのように容易になる。
【0033】
一実施形態によれば、心室細動の有無は心臓内血流動態信号のみを考慮することによって決定することができる。したがってこの方法は電気生理学的信号との検出、処理、および比較から解放され、それによって心室細動を検出するための方法を単純化することができる。
【0034】
あるいは心室細動の有無は出力血流動態信号を医療装置の電極によって検出された少なくとも1つの電気生理学的信号と比較することによって確立することができる。異なる性質(電気生理学的および血流動態的)の信号を考慮し比較することにより、結果の信頼性(心室細動の現象の有無)を検証し改善することができる。
【0035】
本発明の目的は、医療装置、特にインプラント型医療装置の少なくとも一つの血流動態センサによって検出される心臓内血流動態信号を処理するソフトウェアによっても達成され、このソフトウェアは医療装置によって実行されたときに検出された血流動態信号および/または検出された心臓内血流動態信号から導出された信号の処理をティーガーエネルギーオペレータ(TEO)の適用により実行することができる命令を備えることを特徴とし:TEOはTEO{x(n)}=Ψ(n)=x(n―1)x(n―2).x(n)であり、ここで「x(n)」は検出された血流動態信号であり、「Ψ(n)」は出力信号であり、「n」は所定のサンプルを指し、出力信号の少なくとも1つの特性を所定の閾値と比較し、出力信号の少なくとも1つの特性が所定の時間の間、所定の閾値を超えないときに警告をトリガする。
【0036】
心室細動中に心臓が発生する機械的エネルギーは、正常な洞調律のエネルギーに比べて大幅に減少する。本発明のソフトウェアはこの事実に基づいて、検出された血流動態信号またはその派生信号の関数として心室細動現象を検出する。TEOオペレータによる変換は出力信号の信号対雑音比を増加させることを可能にし、従って心音の有無(すなわち機械的な心臓活動の有無)の決定を容易である元の信号の表現を提供する。さらにウェーブレットフィルタリングのような他の方法およびアルゴリズムとは異なり、TEOオペレータはアルゴリズムのための事前信号情報または学習を必要としない。
【0037】
ソフトウェアに関する本発明は以下の実施形態によってさらに改良することができる。
【0038】
一実施形態によれば、ソフトウェアはさらに検出された心臓内血流動態信号および/またはバンドパスフィルタリングによって検出された心臓内血流動態信号、特に1〜100Hz、より詳細には7,5〜49Hzの範囲での信号の前処理を含むことができる。この狭い周波数帯域での血流動態信号の事前フィルタリングは低周波数の呼吸への貢献だけでなく高周波数の音響心臓波の貢献も排除する。さらにこれは心臓信号にモーションアーチファクトが及ぼす可能性のある影響を制限する。このことはこのような装置をインプラントされた患者が動き、例えば身体運動を行う場合に特に関係がある。
【0039】
一実施形態によれば、ソフトウェアはウィンドウ機能、特にハミングウィンドウの適用による出力信号の後処理をさらに含むことができる。ハミングウィンドウは雑音に関して出力信号のピークをより大きくすることを可能にするだけでなく、出力信号の処理および分析を容易にすることも可能にし、これは二重検出(すなわち複数のピークがそれぞれ近位に存在し、一つのピークとして理解される)のリスクを低減するからである。
【0040】
本発明およびその利点は好適な実施形態によって以下の添付の図面に特に依存して以下により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1a】本発明の第1の実施形態による心臓内血流動態センサを含む医療装置を示す図である。
図1b】本発明の第2の実施形態による心臓内血流動態センサを含む医療装置を示す図である。
図1c】本発明の第3の実施形態による心臓内血流動態センサを含む医療装置を示す図である。
図1d】本発明の第4の実施形態による心臓内血流動態センサを含むアセンブリを示す図である。
図2】心室細動中の血流動態信号を示す図である。
図3】3軸加速度計を示す図である。
図4a】本発明の第1の実施形態によるアルゴリズムを示す図である。
図4b】本発明の第2の実施形態によるアルゴリズムを示す図である。
図4c】本発明の第3の実施形態によるアルゴリズムを示す図である。
図4d】本発明の第4の実施形態によるアルゴリズムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
次に例示的な方法で有利な実施形態を使用し、図面を参照して本発明をより詳細に説明する。説明された実施形態は単純に可能な構成であり、上述のような個々の特徴は互いに独立して提供されてもよく、または本発明を実施する際に全体として省略されてもよいことに留意されたい。
【0043】
本発明によれば、血流動態信号は除細動器ハウジング内に一体化され得る加速度計のような、特にインプラント型自動除細動器内に、または様々な実施形態(図1a-1c参照)による除細動器に接続されたリード内に一体化され得る少なくとも一つの心臓内血流動態センサによって記録される。代替の実施形態によれば、心臓内血流動態センサは除細動器とは異なり、すなわち関連せず、除細動器と一体化されていない、または組み合わされていない(図1dを参照)。
【0044】
図1aは医療装置10、特に第1の実施形態によるインプラント型自動除細動器10を示しており、これは除細動器10の心臓内刺激リード13の遠位端12に一体化された単軸または多軸加速度計11によって皮下にインプラントされている。心臓内刺激リード13はまた、電気生理学的信号を記録するための一つもしくは複数の電極(図示せず)を含んでもよい。心内刺激リード13に接続されたインプラント型自動除細動器10は、ハウジング14内にマイクロコントローラおよび関連する電子回路(図示せず)を収容するように構成される。
【0045】
医療装置10は加速度計11によって検出された心臓内血流動態信号を考慮することにより心室細動を検出するように構成されたアルゴリズムを有するコントローラ(図示せず)を含む。本発明によれば、電極または心臓内刺激リード13によって検出された電気生理学的信号は、コントローラの前述のアルゴリズムによって使用されない。実際、医療装置10のコントローラは血流動態信号のみを考慮することによって心室細動現象を検出することができる。
【0046】
また本発明の第1の実施の形態によれば、医療装置10のコントローラは血流動態信号を考慮することにより除細動操作をトリガするよう構成されたアルゴリズムを含む。従って、装置10は心室細動現象に検出後に、除細動器10によって特に除細動器10の心臓内刺激リード13によって送出される除細動信号により心室細動を処理するようにも構成されている。
【0047】
図1bは医療装置20、特に第2の実施形態によるインプラント型自動除細動器20を示しており、そのハウジング21は患者の脇の下に皮下にインプラントされている。装置20のハウジング21はマイクロコントローラおよび関連する電子回路(図示せず)を備え、それ自体が1つまたは複数の電極(図示せず)を有する胸骨傍領域の皮下リード22に接続される。加速度計23のような心臓内血流動態は装置20のハウジング21内および/または皮下リード22に一体化することができる。
【0048】
医療装置20は加速度計23によって検出された心臓内血流動態信号を考慮することによって心室細動を検出するように構成されたアルゴリズムを有するコントローラ(図示せず)を含む。本発明によれば、リード22の電極によって検出された電気生理学的信号は、前述のコントローラアルゴリズムによって使用されない。実際、医療装置20のコントローラは血流動態信号のみを考慮することによって心室細動現象を検出することができる。
【0049】
さらに本発明の第2の実施形態によれば、医療装置20のコントローラはさらに血流動態信号を考慮することにより除細動操作をトリガするように構成されたアルゴリズムを含む。従って装置20はまた除細動器20によって送出される除細動信号によって、心室細動現象の検出後に心室細動を治療するように構成される。
【0050】
同様に図1cは医療装置30、特に第3の実施形態によるインプラント型自動除細動器30を示しており、そのハウジング31はチェストポケットの皮下にインプラントされている。除細動器30のハウジング31はマイクロコントローラおよび関連する電子回路(図示せず)を含む。ハウジング31は、それ自体1つもしくは複数の電極(図示せず)を有する胸骨傍領域の皮下刺激リード32に接続される。心臓内血流動態センサ、ここでは加速度計33が刺激リード32の遠位端34に一体化されている。
【0051】
医療装置30は、加速度計33によって検出された心臓内血流動態信号を考慮することによって心室細動を検出するように構成されたアルゴリズムを有するコントローラ(図示せず)を含む。本発明の第3の実施形態によれば、刺激リード32の電極によって検出された電気生理学的信号はコントローラの前述のアルゴリズムによって使用されない。実際、医療装置30のコントローラは血流動態信号のみを考慮に入れることによって心室細動現象を検出することができる。
【0052】
代替の実施形態によれば、心臓内血流動態信号と独立して検出される電気生理学的信号は、心室細動現象の検出の信頼性を向上させるために、2つのタイプ(電気生理学的および血流動態的)の信号を互いに比較するためにコントローラによって考慮される。
【0053】
さらに本発明の第3の実施形態によれば、医療装置30のコントローラは血流動態信号を考慮することによって除細動操作をトリガするように構成されたアルゴリズムも含む。したがって装置30はまた、除細動器30、特に刺激リード32によって送出される除細動信号によって、心室細動の現象の検出後に心室細動を治療するように構成される。
【0054】
図1dは第4の実施形態における、患者の胸部に接着された包帯41の中心に組み込まれた心臓内血流動態センサ40、特に加速度計を示す。この包帯41はまた、1つまたは複数の電極(図示せず)、マイクロコントローラ、および関連する電子回路(図示せず)を含んでもよい。この第4の実施形態では、心室細動が包帯41の心臓内血流動態センサ40によって検出された時、除細動操作のために外部除細動器(自動または手動)が使用されてもよい。あるいは心臓内血流動態センサ40は除細動器とは別個であり(すなわち例えば、除細動器および/またはそのペーシングリードの1つに一体化または接続されていない)、除細動器と組み合わせて使用されない。
【0055】
したがって本発明の様々な実施形態によれば、血流動態信号は心臓11の内部にインプラントされるか、皮下23、33のいずれか、または患者40の胸部の表皮に取り付けられた加速度計11、23、33、40のような少なくとも1つの血流動態センサによって検出される。
【0056】
別の実施形態では、血流動態センサはマイクロホン、圧電センサ、圧力センサなどであってもよい。
【0057】
さらに本発明の変形例によれば、血流動態信号の記録は患者の身体の様々な箇所に配置される、同じタイプ(例えば複数の加速度計)の、または異なるカテゴリ(例えば埋め込みセンサおよび皮膚センサ)の複数の血流動態センサの組み合わせから行うことができる。
【0058】
本発明の実施形態によれば、各血流動態センサは除細動器、特にインプラント型除細動器と組み合わせて使用されてもよく、または使用されなくてもよい。
【0059】
本発明の実施形態にかかわらず、本発明は心室細動の検出を著しく容易にする代替え表現に信号を変換するために、加速度計によって記録されるものよりも、心臓内血流動態信号の生成に必要なエネルギーを考慮する。このエネルギーの表現は心臓内血流動態信号に対するTEO(ティーガーエネルギーオペレータ)の適用によって提供される。
【0060】
ティーガーエネルギーオペレータ(以下TEO)は、TEO{x(n)}=Ψ(n)=x(n―1)x(n―2).x(n)で定義され、ここで「x(n)」は入力信号(この場合心臓内血流動態信号)であり、「Ψ(n)」はオペレータの出力信号である。「n」は特定のサンプルを示す。
【0061】
TEOオペレータ(ティーガーエネルギーオペレータ)は数学オペレータであり、心臓内血流動態信号を記録するために加速度計などの血流動態センサを使用して、インプラント型自動除細動器などのインプラント型心臓装置のソフトウェアまたはハードウェアに統合することができる。センサは、心臓内、皮下、または外部(すなわち患者の皮膚に取り付けられたセンサ付き)であってもよい。
【0062】
図2は心室細動現象の前(S)および間(P)の正常な洞調律信号をグラフで示している。グラフAは加速度計(A)によって取得されフィルタリングされた信号を示し、グラフBはTEO出力信号を示し、グラフCは平滑化されたTEO出力信号を示す。
【0063】
TEOオペレータによる信号の変換は入力信号を生成するために必要なエネルギーのリアルタイム推定値を生成する。このエネルギーは振幅の関数であり、元の信号の周波数である。特にエネルギーは元の信号の振幅と周波数の加重積に対応する。正常な洞調律の間、図1a〜dに示される心臓内血流動態加速度計からの信号のTEO出力は、図2のグラフAにより示されるように心音と符合する一連の明確で鋭いピークとして現れる。一般に第1の心音は通常S1音を呼ばれ、第2の心音つまりS2音よりも広域な振幅を有する。その結果、第1の心音S1に対応するTEO出力信号のピークは、そのS2よりも著しく大きい。
【0064】
心音S1、S2の間のTEO出力信号は、図2のグラフBおよびCに示されるように平坦である。これは背景雑音が心音S1、S2と比較して一般的に低い振幅および周波数であるという事実に起因する。その結果、TEOオペレータによる信号の変換は、残りの信号が雑音に反応している間、その信号対雑音信号は心臓のS1音に反応する(収縮期の開始時に左房室弁と右房室弁の閉鎖に起因した乱流によって引き起こされる)信号の信号対雑音比を大幅に改善することを可能にする。その結果本発明は、心臓現象、特に心室細動の識別の特殊性の改良を可能にする。
【0065】
実際、心室細動の間、心室の同期した協調した収縮は組織化されていない、あるいは無秩序な微動に置き換えられる。心臓の機械的機能は重度に損なわれ、心室は通常の操作時と同じエネルギーで収縮しない。これはゼロに近い長く平坦なプラトー形状を有し、図2の二重矢印Pによって表される心臓内血流動態信号のTEO出力信号に反映される。心音S1、S2(両矢印Sを参照)を反映する高い振幅の特徴的なピークは存在しない。
【0066】
図2のグラフAによって示されるように、単軸もしくは多軸の加速度計のような心臓内血流動態センサによって、すなわちN軸(ここでN≧1)で記録された信号は、10〜50Hzの周波数範囲で最初にバンドパスフィルタを通り、例えば0.05%のパスバンドリップルフィルタ(非特許文献1、非特許文献2に記載)を備えた第4次チェビシェフアナログフィルタを使用してフィルタリングされる。この狭い周波数帯域における血流動態信号をフィルタリングすることは低周波数の呼吸への貢献を排除し、また同様に高周波数の音響心臓波の貢献も排除する。さらにこれはモーションアーチファクトが心臓信号に及ぼす可能性のある影響を制限する。これは、このような装置をインプラントされた患者が動き、例えば身体運動を行う場合に特に重要である。
【0067】
フィルタリング後、心臓内血流動態センサによって記録された信号に対して追加の前処理を行うことができる。例えばシグナルは単独で分析され、価値の順序で分類され得る。このような分類は血流動態的変化に応答する振幅、周波数、信号対雑音比、安定性または信号感度を考慮することができる。信号の選択も考慮することができる。ランク付け基準に従った最良の信号を後続の処理のために選択することができる。
【0068】
あるいは信号を何らかの方法で結合して心室細動の検出のための異なるより特異的な信号を生成してもよい。
【0069】
図3は、3軸(x、y、z)加速度計50を表し、これは装置10、20、30のうちの1つに組み込むことができ、または血流動態センサ40とすることができる。図3に示す心臓収縮期の機械軸Mは通常の収縮時に心臓によって生成される最大力ベクトルに平行な軸である。x、y、z軸に沿った元の血流動態信号の成分は、この心臓収縮期の機械軸Mに沿って投影され合計されて新しい信号を生成する。M軸に沿って加速度計のような血流動態センサによって記録され得る図3に示された位置で記録された心臓内血流動態信号は、最大振幅と実質的な最大信号対雑音比を示し、この心臓機械的M軸に沿った信号はさらに生理学的で、患者特有であり、例えば単に前後軸に沿って記録された信号よりも任意ではない実質的な信号である。
【0070】
フィルタリングと前処理の後、血流動態信号はTEOへの入力信号として働く。いくつかのアルゴリズムの実施形態による、心室細動などの心室性頻拍性不整脈を検出することができる前に、TEO出力信号は図2のグラフCに示されるように、例えばハミングウィンドウ15で平滑化される。ハミングウィンドウは雑音と比較して出力信号のピークを大きくすることを可能にするが、いくつかのアルゴリズムの実施形態の出力信号の処理を容易にすることも可能にする。これは二重検出(すなわち複数のピークがそれぞれ近位に存在し、一つのピークとして理解される)のリスクを低減するからである。
【0071】
フィルタリング、前処理、および平滑化の後、平滑化されたTEO出力信号は、心室細動などの心室頻拍性不整脈の存在を検出するために、TEO出力信号の周波数および/または振幅を考慮に入れるアルゴリズムへの入力として機能する。これらのアルゴリズムのいくつかの実施形態は以下に記載される。
【0072】
図4aはアルゴリズム100の第1の実施形態を示す。
【0073】
工程101において、血流動態センサによって記録された血流動態信号のサンプルnが受信される。血流動態センサは、加速度計、マイクロホン、圧電センサ、圧力センサなどであってもよい。さらに本発明の変形例によれば、血流動態信号の記録は、患者の身体の様々な位置に配置され得る同じタイプの複数の血流動態センサ(例えば複数の加速度計)または異なるカテゴリの複数の血流動態センサ(例えばインプラント型センサおよび皮膚センサ)の組み合わせから行うことができる。
【0074】
工程102では、低周波数の呼吸への貢献および高周波数の音響心臓波への貢献を排除するために、血流動態信号は10〜50Hzの周波数範囲でバンドパスフィルタリングされる。
【0075】
工程103では、信号を前処理して心室細動の検出に関連性を高める。このような前処理について図2および図3を参照して説明される。例えば血流動態センサがN軸加速度計である場合、N軸に沿った血流動態信号の成分を投影し、N+1軸に沿って、特に収縮期心臓機械軸Mに沿って加算して、その振幅が最大化される新しい信号を生成することができる。あるいは、または組み合わせて、信号は例えば0.05%のバンドパスリップルフィルタを有する第4次チェビシェフアナログフィルタ使用して1050Hzの周波数範囲でバンドパスフィルタリングされてもよい。
【0076】
フィルタリングされ前処理された心臓内血流動態信号は、その後TEOオペレータの入力信号として使用される。工程104では、血流動態信号はこれらの信号を生成するために必要なエネルギーのリアルタイム推定値を提供するTEOオペレータの適用によって変換される。このエネルギーは元の信号の振幅と周波数の関数である。特にエネルギーは元の信号の振幅と周波数の加重積に対応する。
【0077】
工程105において、TEO出力信号は例えばハミングウィンドウを適用することによって平滑化される。
【0078】
工程106において、平滑化されたTEO出力信号が閾値107と比較される。この閾値107は静的値(すなわち事前に計算および定義された単一で不変な値)または動的値(すなわち元のまたは処理された信号の様々な値を使って定期的に再計算される)であり得る。いくつかの心臓内血流動態信号が、異なる血流動態センサ、例えば第1のインプラント型センサおよび第2の皮膚センサによって記録される実施形態によれば、閾値は第1および第2の血流動態センサの血流動態信号を交差および検証することによって計算することができる。心臓内血流動態信号がN軸血流動態センサによって記録される実施形態(図3に示される例を参照)において、閾値は各軸に沿ってそれぞれ記録された血流動態信号を交差およびチェックすることによって計算され得る。
【0079】
TEO出力信号が閾値107よりも大きい場合、工程108では何の操作も行われず、平滑化されたTEO出力信号の次のサンプルはいつでも考慮に入れることができる。しかしTEO出力信号が閾値107よりも小さい場合、現在のサンプルと閾値107よりも大きい最後のサンプルとの間の経過時間「Δt」が工程109で計算される。
【0080】
経過時間「Δt」が心室細動の特徴である特定の限界時間(図4aの限界持続時間VF)未満である場合、工程110では何の操作も行われず、次のn+1サンプルのTEO出力信号の受信が期待される。
【0081】
しかし経過時間「Δt」が「限界持続時間VF」と同等もしくはそれ以上である場合、心室細動が検出され、工程111で警告がトリガされる。閾値に関しては「VF限界持続時間」の特定の値は、静的値(すなわち事前に計算および定義された単一で不変な値)または動的値(すなわち元の信号または出力信号に従って定期的に再計算される)であってもよい。
【0082】
図4bはアルゴリズム200の第2の実施形態を示す。
【0083】
アルゴリズム100と同様の方法で、血流動態センサによって記録された血流動態信号のサンプルnが工程201で受信される。血流動態センサは加速度計、マイクロホン、圧電センサ、圧力センサなどであってもよい。さらに本発明の変形例によれば、血流動態信号の記録は患者の身体の様々な位置に配置され得る同じタイプの複数の血流動態センサ(例えば複数の加速度計)または異なるカテゴリの複数の血流動態センサ(例えばインプラント型センサおよび皮膚センサ)の組み合わせから行うことができる。
【0084】
次いで工程202において、血流動態信号は10〜50Hzの周波数範囲でバンドパスフィルタリングされ、低周波数の呼吸貢献および高周波数の音響心臓波貢献を排除する。
【0085】
工程203では、信号を前処理して心室細動の検出に関連性を高める。このような前処理について、図2図3、および図4aを参照して説明される。工程204では、血流動態信号はTEOオペレータの適用によって変換される。
【0086】
第2の実施形態によれば、工程205においてTEO出力信号はスライディングウィンドウフィルタを適用することによってフィルタリングされ、その「ウィンドウ」長は、静的値(すなわち事前に計算および定義された単一で不変の値)または動的値(すなわち元のまたは出力信号を使って定期的に再計算される)であり得る。
【0087】
「ウィンドウ」は、例えばハミングウィンドウを使用して工程206で平滑化されたTEO出力信号の最後のサンプル上でスライドされる(すなわち「ジャンプウィンドウ」の場合のように、一度に複数のサンプルを「ジャンプ」することなく、次のサンプルまたは前のサンプルに移動される)。
【0088】
工程207において、平滑化されたTEO出力信号は、「ウィンドウ」内の閾値208と比較される。この閾値208は静的値(すなわち事前に計算および定義された単一で不変な値)または動的値(すなわち平滑化した出力信号TEOを使って定期的に再計算される)であり得る。工程207では、閾値208が増加または減少のいずれかの順序で交差した回数X、または「ウィンドウ」内の閾値208を超えるピークの数Xが計算される。
【0089】
数Xが特定の限界数(図4bの「限界VF」)より大きい場合、工程209において何の操作も行われず次のn+1サンプルの信号の受信が期待される。
【0090】
数Xが特定の限界数「限界VF」よりも小さい場合、心室細動が検出され、工程210において警告がトリガされる。閾値208に関しては「限界VF」数の特定の値は静的値(すなわち事前に計算および定義された単一で不変な値)または動的値(すなわち元の信号または出力信号を使って定期的に再計算される)であってもよい。
【0091】
いくつかの心臓内血流動態信号が異なる血流動態センサ、例えば第1のインプラント型センサおよび第2の皮膚センサによって記録される実施形態によれば、閾値は
第1および第2の血流動態センサの血流動態信号を交差および検証することによって計算することができる。
【0092】
心臓内血流動態信号がN軸血流動態センサ(図3で示す例参照)によって記録される別の実施形態によれば、閾値は各軸に沿ってそれぞれ記録された血流動態信号を交差および検証することによって計算することができる。
【0093】
図4cはアルゴリズム300の第3の実施形態を示す。
【0094】
アルゴリズム200と同様の方法で、血流動態センサによって記録された血流動態信号のサンプルnが、工程301で受信される。血流動態センサは加速度計、マイクロホン、圧電センサ、圧力センサなどであってもよい。さらに本発明の変形例によれば血流動態信号の記録は、患者の身体の様々な位置に配置され得る同じタイプの(例えば複数の加速度計)または異なるカテゴリ(例えばインプラント型センサおよび皮膚センサ)の複数の血流動態センサの組み合わせから行うことができる。
【0095】
次いで工程302において、血流動態信号は10〜50Hzの周波数範囲でバンドパスフィルタリングされ、低周波数の呼吸貢献および高周波数の音響心臓波貢献を排除する。
【0096】
工程303では、信号を前処理して心室細動の検出に関連性を高める。このような前処理について、図2図3、および図4aを参照して説明される。
【0097】
第3の実施形態によれば、工程304においてバンドパスフィルタリングおよび前処理の後、「ウィンドウ」の心臓内血流動態信号の最後のサンプルがメモリに格納される。このウィンドウは「ジャンピングウィンドウ」タイプであり、「ウィンドウ」長は静的値(すなわち事前に計算および定義された単一で不変な値)または動的値(元の信号または出力信号を使って定期的に再計算される)とすることができる。
【0098】
工程305において、血流動態信号はTEOオペレータの適用によって変換される。工程305では、TEO出力信号が現在の「ウィンドウ」内で計算される。
【0099】
工程306では、TEO出力信号は例えばハミングウィンドウを使用して現在の「ウィンドウ」内で平滑化される。
【0100】
工程307において、平滑化されたTEO出力信号は「ウィンドウ」内の閾値308と比較される。この閾値308は静的値(すなわち事前に計算および定義された単一で不変な値)または動的値(すなわち平滑化されたTEO出力信号を使って定期的に再計算される)であり得る。
【0101】
いくつかの心臓内血流動態信号が、異なる血流動態センサ、例えば第1のインプラント型センサおよび第2の皮膚センサによって記録される実施形態によれば、閾値は第1および第2の血流動態センサの血流動態信号を交差して検証することによって計算することができる。
【0102】
心臓内血流動態信号がN軸血流動態センサによって記録される別の実施形態によれば(図3によって表される例を参照)、閾値は各軸に沿ってそれぞれ記録された血流動態信号を交差およびチェックすることによって計算され得る。
【0103】
工程307では、閾値308が増加または減少のいずれかの順序で交差した回数X、または「ウィンドウ」内の閾値308を超えるピーク数Xが計算される。
【0104】
数Xが特定の限界数(図4cの「限界VF」)よりも大きい場合、心室細動は検出されず、工程309においてアルゴリズム300は、次のウィンドウの処理を考慮する前に特定の数の「サンプルジャンプ」を待つ。
【0105】
数Xが特定の「限界VF」よりも小さい場合、心室細動は検出され、工程310において警告がトリガされる。閾値308に関しては、「限界VF」の特定値の数はまた静的値(すなわち事前に計算および定義された単一で不変な値)または動的値(すなわち平滑化されたTEO出力信号をもとの信号または出力信号を使って定期的に再計算される)であり得る。
【0106】
アルゴリズム300は連続的ではなく、すべての「サンプルジャンプ」についてウィンドウ内のTEO出力信号のみを計算するのでアルゴリズム100および200のものよりも低い計算コストを可能にする。
【0107】
図4dはアルゴリズム400の第4の実施形態を示す。
【0108】
以前のアルゴリズム100、200、300とは異なり、アルゴリズム400は、「スライディングウィンドウ」または「ジャンプウィンドウ」における閾値を超えるピークの数およびそれらの振幅を考慮に入れる。
【0109】
工程401において、血流動態センサによって記録された血流動態信号のサンプルnが受信される。血流動態センサは加速度計、マイクロホン、圧電センサ、圧力センサなどであってもよい。さらに本発明の変形例によれば血流動態信号の記録は、患者の身体の様々な位置に配置され得る同じタイプの(例えば複数の加速度計)または異なるカテゴリ(例えばインプラント型センサおよび皮膚センサ)の複数の血流動態センサの組み合わせから行うことができる。
【0110】
次いで工程402において、血流動態信号は10〜50Hzの周波数範囲でバンドパスフィルタリングされて、低周波数の呼吸への貢献および高周波数の音響心臓波への貢献を排除する。
【0111】
工程403では、信号を前処理して心室細動の検出に関連性を高める。このような前処理について、図2図3、および図4aを参照して説明される。
【0112】
工程404では、血流動態信号はTEOオペレータの適用によって変換される。
【0113】
第4の実施形態によれば、工程405において出力信号TEOが「スライディング」ウィンドウ内で考慮される。ウィンドウ長の値は、静的値(すなわち事前に計算および定義された単一で不変な値)または動的値(すなわち元のまたは処理された信号を使って定期的に再計算される値)とすることができる。
【0114】
工程406において、TEO出力信号は例えばハミングウィンドウを使用して前記ウィンドウ内で平滑化される。
【0115】
工程407において、ウィンドウ内のTEO閾値408を超える平滑化されたTEO出力信号のピークおよびその振幅が決定される。この閾値408は静的値(すなわち事前に計算および定義された単一で不変な値)または動的値(つまり平滑化出力信号TEOを使って定期的に再計算される値) とすることができる。
【0116】
いくつかの心臓内血流動態信号が異なる血流動態センサ、例えば第1のインプラント型センサおよび第2の皮膚センサによって記録される実施形態によれば、閾値は第1および第2の血流動態センサの血流動態信号を交差して検証することによって計算することができる。
【0117】
心臓内血流動態信号がN軸血流動態センサ(図3に示す例参照)によって記録される別の実施形態によれば、閾値は各軸に沿ってそれぞれ記録された血流動態信号を交差およびチェックすることによって計算することができる。
【0118】
特に大きな振幅を有するピークは、外部雑音および寄生雑音であると考えられ、その後の信号処理を誤る可能性がある。したがって工程409では、振幅が特定の値(図4dの「雑音限界」)を超えるすべてのピークは無視される。「雑音限界」の値は、静的値(すなわち事前に計算および定義された単一で不変な値)または動的値(すなわち平滑化されたTEO出力信号を使って定期的に再計算される値)とすることができる。
【0119】
工程410では、残りのピークの振幅が合計され、「ウィンドウエネルギー」と呼ばれる1つの値のみが与えられる。
【0120】
「ウィンドウエネルギー」の値が「限界エネルギーVF」と呼ばれる特定値よりも大きい場合、工程411において何の操作も行われず、次のn+1の信号サンプルの受信が期待される。
【0121】
「ウィンドウエネルギー」の値が特定の値「限界エネルギーVF」よりも小さい場合、心室細動が検出され、工程412で警告がトリガされる。閾値408については特定の値「限界エネルギーVF」の数値は、静的値(すなわち変更されず、事前に定義された単一の値)または動的値(すなわち元の値または出力信号に従って定期的に再計算される)であってもよい。この閾値「限界エネルギーVF」は十分な全身注入(すなわち脳内および体内における血液循環)を確実にするために必要な最小エネルギーと解釈することができる。
【0122】
本発明による装置および方法100、200、300、400の異なる実施形態は、特に手動または自動除細動器によって、「VF検出警告」111、210、310、412の工程に従って、心室細動の検出後に除細動操作をトリガするようにさらに構成されてもよい。さらに本発明の方法および装置は除細動操作が有効であること、すなわち除細動操作後に心臓の機械的活動が再確立されたかどうかを検証するように構成されてもよい。これを行うために除細動操作後の通常の心拍数の回復を可能にする所定の経過時間の後、心臓内血流動態信号が血流動態センサによって検出され、特に図4a〜4dに関して説明されるようにTEOオペレータの適用によって処理される。このようにして「後処理」出力心臓内血流動態信号が定義される。図4a図4dのうちの少なくとも1つに関して説明したのと同じ方法で、前述の「後処理」出力の心臓内血流動態信号を所定の閾値と比較して、除細動操作が心室細動の治療に有効であるかどうかを判断する。陰性の場合、新しい除細動操作が開始され、その間、治療用電気除細動信号(電気ショック)が患者に供給される。
【0123】
説明される実施形態は単に可能な構成であり、異なる実施形態の個々の特徴は互いに組み合わされてもよく、または互いに独立して提供されてもよいことを留意されるべきである。
【0124】
さらにアルゴリズム100、200、300、400のそれぞれは、図4a、4b、4cおよび4dを参照して説明された工程の前、間、または後に、さらなる工程を含んでもよい。
図1a
図1b
図1c
図1d
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図4d