特許第6979072号(P6979072)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979072
(24)【登録日】2021年11月16日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/40 20160101AFI20211125BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20211125BHJP
   B60K 6/543 20071001ALI20211125BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20211125BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20211125BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20211125BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20211125BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20211125BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   B60W20/40ZHV
   B60K6/442
   B60K6/543
   B60W10/02 900
   B60W10/06 900
   B60W10/08 900
   B60L50/16
   B60L15/20 K
   F02D29/02 321C
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-535109(P2019-535109)
(86)(22)【出願日】2018年7月27日
(86)【国際出願番号】JP2018028298
(87)【国際公開番号】WO2019031277
(87)【国際公開日】20190214
【審査請求日】2020年1月31日
(31)【優先権主張番号】特願2017-152497(P2017-152497)
(32)【優先日】2017年8月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 豊
(72)【発明者】
【氏名】中崎 勝啓
【審査官】 清水 康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−148290(JP,A)
【文献】 特開2011−063091(JP,A)
【文献】 特開2009−292246(JP,A)
【文献】 特開2013−023155(JP,A)
【文献】 特開2010−132074(JP,A)
【文献】 特開2012−240447(JP,A)
【文献】 特開2015−140163(JP,A)
【文献】 特開2004−229373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 − 6/547
B60W 10/00 − 10/30
B60W 20/00 − 20/50
B60L 1/00 − 3/12
B60L 7/00 − 13/00
B60L 15/00 − 15/42
B60L 50/00 − 58/40
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、電動モータと、前記エンジンと前記電動モータとの間に配置される締結要素と、駆動軸と、を有し、
前記エンジンは前記締結要素を介して前記駆動軸に接続されるとともに、前記電動モータは前記締結要素を介さずに前記駆動軸と接続される車両の制御装置であって、
前記車両の走行中に前記エンジンをアイドル回転速度に維持する維持期間を経て、前記エンジンを停止する制御部を有し、
前記制御部は、前記維持期間中に前記電動モータの発電負荷を漸増させながら前記締結要素の締結容量を漸減させて前記締結要素を解放し、前記締結要素の解放後に前記エンジンを停止する車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両の制御装置において、
前記制御部は、前記維持期間の前に、前記エンジンの回転速度の低下が開始するのと同時に前記電動モータの発電負荷を増加させる車両の制御装置。
【請求項3】
エンジンと、電動モータと、前記エンジンと前記電動モータとの間に配置される締結要素と、駆動軸と、を有し、
前記エンジンは前記締結要素を介して前記駆動軸に接続されるとともに、前記電動モータは前記締結要素を介さずに前記駆動軸と接続される車両の制御方法であって、
前記車両の走行中に前記エンジンをアイドル回転速度に維持する維持期間を経て、前記エンジンを停止し、
前記維持期間中に前記電動モータの発電負荷を漸増させながら前記締結要素の締結容量を漸減させて前記締結要素を解放し、前記締結要素の解放後に前記エンジンを停止する車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源としてエンジン及び電動モータを備える車両の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
JP2014−234064Aには、エンジンと、無段変速機のプライマリプーリに接続された電動モータとを備え、エンジンの動力を用いるエンジン走行モードと、電動モータの動力を用いる電気走行(以下、EV走行ともいう)モードと、を選択し得るハイブリッド車両が開示されている。
【0003】
ハイブリッド車両においては、エンジン走行モード中のコースト走行時に、エネルギ回生(以下、単に「回生」ともいう)を行いつつ減速し、走行中にエンジンを停止する制御が知られている。このとき、エンジンが高回転の状態で燃料噴射を停止してエンジン停止すると、排気触媒内の酸素ストレージ量が過多となり、エンジン再始動時のNOx排出量が増加するおそれがある。このNOx排出量の増加を抑制するため、エンジン回転速度がアイドル回転速度まで低下したら、その回転速度を所定時間維持することによって、排気触媒内の酸素ストレージ量を適正化してからエンジン停止する制御が知られている。
【発明の概要】
【0004】
ところで、車両走行中にエンジン停止する際の手順として、トルクコンバータのロックアップクラッチを解放してからエンジン停止し、エンジン停止と同時に電動モータによる回生を開始する、というものが考えられる。この際、ロックアップクラッチを解放することでトルクコンバータのインペラとタービンとの回転速度の差(以下、「差回転」ともいう)が変化し、これによりトルクコンバータの流体負荷が変化して、駆動輪に伝達されるトルクに変動が生じる。また、回生による負のトルクが駆動輪に入力される際にも、駆動輪に伝達されるトルクの変動が生じる。これらのトルク変動は、運転者に違和感を与える。
【0005】
しかしながら、上記文献には、エンジン走行モードから回生を伴うコースト走行への移行時におけるトルク変動の抑制に関して何ら記載がない。
【0006】
そこで本発明では、エンジン走行モードから回生を伴うコースト走行へ移行する際に、駆動輪に伝達されるトルク変動を抑制することを目的とする。
【0007】
本発明のある態様によれば、エンジンと、電動モータと、エンジンと電動モータとの間に配置される締結要素と、駆動軸と、を有し、エンジンは締結要素を介して駆動軸に接続されるとともに、電動モータは締結要素を介さずに駆動軸と接続される車両を制御する制御装置が提供される。制御装置は、車両の走行中にエンジンをアイドル回転速度に維持する維持期間を経て、エンジンを停止する制御部を有し、制御部は、維持期間中に電動モータの発電負荷を漸増させながら締結要素の締結容量を漸減させて締結要素を解放し、締結要素の解放後にエンジンを停止する。
【0008】
また、本発明の別のある態様によれば、エンジンと、電動モータと、エンジンと電動モータとの間に配置される締結要素と、駆動軸と、を有し、エンジンは締結要素を介して駆動軸に接続されるとともに、電動モータは締結要素を介さずに駆動軸と接続される車両の制御方法が提供される。この制御方法は、車両の走行中にエンジンをアイドル回転速度に維持する維持期間を経て、エンジンを停止し、維持期間中に電動モータの発電負荷を漸増させながら締結要素の締結容量を漸減させて締結要素を解放し、締結要素の解放後にエンジンを停止する。
【0009】
上記態様によれば、締結要素の解放により、締結要素解放後はトルクコンバータの流体負荷の変化の影響を除外することができる。更に、上記制御を実行することにより、締結要素の解放時のトルク変動の影響を抑制することができる。よって、エンジン走行モードから回生を伴うコースト走行へ移行する際における、駆動輪に伝達されるトルクの変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態を適用する車両の概略構成図である。
図2図2は、エンジン走行モードにおける減速中の制御の一例を示すタイミングチャートである。
図3図3は、本実施形態に係る制御ルーチンを示すフローチャートである。
図4図4は、図3の制御ルーチンを実行した場合のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、本実施形態を適用するハイブリッド車両(以下、単に「車両」ともいう)の概略構成図である。車両は、エンジン1と、無段変速機システム2と、モータジェネレータ(以下、MGともいう)3と、電動オイルポンプ6と、駆動輪8と、コントローラ100と、を備える。
【0013】
エンジン1は、ガソリン又は軽油を燃料とする内燃機関であり、コントローラ100からの指令に基づいて回転速度、トルク等が制御される。
【0014】
無段変速機システム2は、トルクコンバータ9と、締結要素としてのフォワードクラッチ(以下、Fwd/Cともいう)10と、バリエータ11と、ファイナルギヤ装置13と、オイルポンプ22と、を備える。
【0015】
トルクコンバータ9は、インペラ14と、タービン15と、ロックアップクラッチ16とを備える。ロックアップクラッチ16が締結されると、トルクコンバータ9の入力軸と出力軸とが直結状態となり、入力軸と出力軸とが同速回転する。以下、ロックアップクラッチ16をLUクラッチ16とも称する。
【0016】
バリエータ11は、プライマリプーリ11Aと、セカンダリプーリ11Bと、ベルト12と、を備える。バリエータ11では、プライマリプーリ11Aに供給される油圧と、セカンダリプーリ11Bに供給される油圧とが制御されることで、各プーリ11A、11Bとベルト12との接触半径が変更され、これにより変速比が変更される。
【0017】
フォワードクラッチ10は、トルクコンバータ9とプライマリプーリ11Aとの間に配置される。フォワードクラッチ10が締結されると、エンジン1の回転トルクが駆動軸17、18を介してプライマリプーリ11Aへ伝達される。フォワードクラッチ10の締結・解放は、コントローラ100により、運転状態に応じて切り替えられる。
【0018】
なお、図1ではフォワードクラッチ10がトルクコンバータ9とプライマリプーリ11Aとの間に配置されているが、これに限られるわけではない。フォワードクラッチ10を設ける目的は、エンジン1と駆動輪8との間の動力伝達経路を断接することなので、例えば、フォワードクラッチ10はセカンダリプーリ11Bとファイナルギヤ装置13との間に配置されてもよい。
【0019】
MG3は、ベルト及びプーリからなる伝達機構20を介してプライマリプーリ11Aの回転軸に接続されている。MG3は、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型回転電機である。MG3は、コントローラ100からの指令に基づいて、インバータ4により作り出された三相交流を印加することにより制御される。MG3は、バッテリ5からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することができる。バッテリ5は、例えば48[V]の高電圧バッテリである。このため、MG3が電動機として動作することでEV走行が可能となる。また、MG3は、ロータがエンジン1や駆動輪8から回転エネルギを受ける場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能し、バッテリ5を充電することができる。つまり、MG3は車両の運動エネルギを電力として回生することができる。回生制御は、車両減速時等に実行される。
【0020】
オイルポンプ22は、ベルト及びプーリからなる伝達機構21を介してエンジン1の出力軸と接続されている。オイルポンプ22は、エンジン1の回転が入力され、エンジン1の動力の一部を利用して駆動される。オイルポンプ22から吐出された油は、変速用回路を含む車両の油圧制御回路に供給される。
【0021】
なお、車両はオイルポンプ22の他に、電動オイルポンプ6も備える。電動オイルポンプ6は、コントローラ100からの指令に基づいて、インバータ7により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このため、電動オイルポンプ6は、エンジン1が停止している場合でも作動可能である。電動オイルポンプ6から吐出された油も、油圧制御回路に供給される。このため、無段変速機システム2は、オイルポンプ22または電動オイルポンプ6の少なくともいずれかからの供給油圧に基づき制御される。
【0022】
コントローラ100には、エンジン回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ25からの信号、アクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ23からの信号、ブレーキペダルの踏み込み量BPRに基づくブレーキ踏力を検出するブレーキセンサ24からの信号が入力される。なお、コントローラ100には、これらの他にも、図示しないプライマリプーリ11Aの回転速度を検出するセンサ、セカンダリプーリ11Bの回転速度を検出するセンサ等の各検出信号も入力される。
【0023】
コントローラ100は中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ100を複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0024】
上述した構成において、エンジン1で発生した動力は、トルクコンバータ9、駆動軸17、フォワードクラッチ10、駆動軸18、バリエータ11、駆動軸19、ファイナルギヤ装置13を介して駆動輪8へ伝達される。MG3で発生した動力は、バリエータ11、駆動軸19、ファイナルギヤ装置13を介して駆動輪8へ伝達される。
【0025】
コントローラ100は、エンジン1の動力で走行するエンジン走行モードと、MG3の動力で走行するEV走行モードと、を運転状態に応じて切り替える。コントローラ100は、エンジン走行モードにおいてはフォワードクラッチ10を締結し、EV走行モードにおいてはフォワードクラッチ10を解放する。なお、発進時や高速道路への合流時等のように、より高出力が必要な場合に、エンジン1の動力とMG3の動力とを用いるハイブリッド走行モードを実行するようにしてもよい。
【0026】
次に、エンジン走行モードにおいて、低アクセル開度で走行中にアクセルオフとなった場合の制御について説明する。なお、ここでいう低アクセル開度とは、全開を1としたときに、1/8程度の開度のことをいう。
【0027】
コントローラ100は、アクセルオフ後のコースト走行中(減速中)にエンジン1を停止させる。また、コントローラ100は、アクセルオフ後のコースト走行中にMG3による回生を行う。
【0028】
このとき、フォワードクラッチ10を締結した状態でエンジン1を停止すると、駆動軸17〜19のトルクが大きく変動して、運転者に違和感を与える。一方、フォワードクラッチ10を解放すると、エンジン1からの動力伝達が遮断され、トルク変動が発生する。
【0029】
また、エンジン停止する際には、排気対策のために、コントローラ100は上述した通りエンジン回転速度を所定回転速度(例えばアイドル回転速度)に維持することによって排気触媒内の酸素ストレージ量を適正化した後、エンジン停止する。以下の説明において、上述した所定回転速度を維持する期間を「維持期間」と称する。
【0030】
図2は、フォワードクラッチ10を締結したままエンジン停止する場合の制御の一例を説明するためのタイミングチャートである。なお、本制御例は、本発明の実施形態に含まれるものではない。
【0031】
タイミング0からタイミングT1までは、エンジン走行モードで、アクセル開度約1/8にて一定車速で走行している。このとき、LUクラッチ16は締結状態(ON)である。
【0032】
タイミングT1において、アクセル開度APOが減少を開始し、これに伴いLUクラッチ16の解放も開始する。
【0033】
タイミングT2において、アクセル開度APOがゼロ、LUクラッチ16が解放状態(OFF)になり、車速及びエンジン回転速度が低下し始める。これに伴い、タービン回転速度及びインペラ回転速度も低下し始める。
【0034】
タービン15は駆動輪8に連れ回されるため、タービン回転速度は車速に比例して低下する。これに対し、LUクラッチ16が解放されているため、インペラ回転速度はエンジン回転速度に比例して低下する。このため、インペラ回転速度の低下速度はタービン回転速度の低下速度に比べて大きくなり、タービン15とインペラ14との速度比が負になる。また、エンジン回転速度の低下に伴い、タービントルクも低下する。
【0035】
タイミングT3でエンジン回転速度がアイドル回転速度に到達したら、タイミングT5までは上述した排気対策のためにアイドル回転速度が維持される。そして、タイミングT5において、エンジン1への燃料供給が停止し、これと同時にMG3が負のトルクを発生させる、つまり回生を開始する。MG3のトルクは、タイミングT6でエンジン1が停止するまで漸減する(負の方向に大きくなる)。
【0036】
図2のD/sftトルクは、駆動輪8に伝達されるトルクである。このD/sftトルクは、図2に示す通り、タイミングT2においてアクセルオフに伴って低下し、アイドル回転速度が維持される期間の経過後のタイミングT5において、MG3の回生開始に伴いさらに低下する。運転者は、自らの操作に伴うトルク変動は許容し得るが、操作していないにもかかわらず発生するトルク変動には違和感を覚え易い。つまり、アクセルオフに伴うタイミングT2からタイミングT3にかけてのトルク低下は許容し得るが、タイミングT5からのトルク低下には違和感を覚え易い。
【0037】
そこで本実施形態では、上記の違和感を低減するために、次に説明する制御ルーチンをコントローラ100が実行する。
【0038】
図3は、コントローラ100が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。当該制御ルーチンは、エンジン走行モード中に実行される。
【0039】
ステップS10において、コントローラ100は低開度からアクセルオフされたか否かを判定する。コントローラ100は低開度からのアクセルオフであった場合にはステップS20の処理を実行し、そうでない場合には本ルーチンを終了する。
【0040】
なお、アクセルオフされた場合には、コントローラ100が本制御ルーチンと並行して実行する制御ルーチンによって、LUクラッチ16が解放される。
【0041】
ステップS20において、コントローラ100はアクセル開度がゼロであるか否かを判定する。ゼロの場合にはステップS30の処理を実行し、そうでない場合は本ルーチンを終了する。
【0042】
ステップS30において、コントローラ100は目標合計コーストトルクを設定する。合計コーストトルクとは、コースト走行時におけるトルクコンバータ9のタービンのトルク(タービントルク)と、コースト走行時におけるMG3の回生トルク(MGトルク)とを加算して得られるトルクである。換言すると、合計コーストトルクはコースト走行時に駆動輪8に伝達されるトルクである。目標合計コーストトルクとは、合計コーストトルクの目標値である。なお、後述する図4において、D/sftトルクは合計コーストトルクのことである。
【0043】
コントローラ100は、目標合計コーストトルクをコースト走行中の回生による目標発電量に応じて設定する。目標発電量は、バッテリ5のSOC(State of Charge)等に基づいて定まる。バッテリ5のSOCが小さいほど目標発電量は大きくなり、バッテリ5のSOCが大きいほど、つまり満充電状態に近いほど、目標発電量は小さくなる。目標発電量が大きいほど、MG3の回生トルクも大きくなる。MG3の回生トルクは、駆動輪8に対して負のトルクとして作用するので、目標発電量が大きいほど回生トルクは大きくなり、目標合計コーストトルクは小さくなる。
【0044】
なお、MG3の力行時におけるトルクを正とすると、回生トルクは負のトルクである。したがって、「回生トルクが大きくなる」とは、MG3の発生トルクが小さくなることを意味する。
【0045】
ステップS40において、コントローラ100はMG3の回生トルクを設定する。具体的には、エンジン回転速度がアイドル回転速度に到達したタイミングで、換言すると維持期間の開始タイミングで、合計コーストトルクが目標合計コーストトルクに到達するように回生トルクを設定する。すなわち、ここで設定される回生トルクはエンジン回転速度の低下に伴って漸増する。
【0046】
ステップS50において、コントローラ100は現在の合計コーストトルクが目標合計コーストトルクまで低下したか否かを判定し、低下している場合はステップS60の処理を実行し、低下していない場合はステップS40、S50を繰り返し実行する。
【0047】
ステップS60において、コントローラ100は、合計コーストトルクが目標合計コーストトルクに到達してから所定時間が経過したか否かを判定し、所定時間が経過したらステップS70の処理を実行する。所定時間が経過していなければステップS50の処理に戻る。ここでの「所定時間」は、予め設定された時間であり、維持期間の長さと、フォワードクラッチ10の締結容量がゼロになるまでに要する時間とに基づいて定まる。より具体的には、維持期間からフォワードクラッチ10の締結容量がゼロになるまでに要する時間を減算したものが所定時間である。
【0048】
ステップS70において、コントローラ100はフォワードクラッチ10の締結容量を低下させ始める。所定時間を上記の通り設定することで、維持期間の終了タイミングでフォワードクラッチ10の締結容量はゼロになる。
【0049】
ステップS80において、コントローラ100は、合計コーストトルクが変化しないように、フォワードクラッチ10の締結容量の低下に応じてMG3の回生トルクを増大させる。すなわち、フォワードクラッチ10の締結容量が低下すると、駆動輪8に伝達されるタービントルクが小さくなるので、合計コーストトルクの変化を抑制するために、MG3の回生トルクを増大させる。
【0050】
ステップS90において、コントローラ100はフォワードクラッチ10の締結容量がゼロになったか否かを判定し、ゼロになったらステップS100の処理を実行し、ゼロになっていなければステップS70、S80の処理を繰り返し実行する。
【0051】
ステップS100において、コントローラ100は維持期間が終了したか否かを判定し、終了したらステップS110の処理を実行する。
【0052】
ステップS110において、コントローラ100はエンジン1への燃料供給を停止して、エンジン1を停止させる。なお、図中の「Fuel/C」はFuel Cut、つまり燃料供給停止の略である。
【0053】
次に、上記の制御ルーチンを実行した場合の作用効果について説明する。
【0054】
図4は、上記の制御ルーチンを実行した場合のタイミングチャートである。図中の「MGトルク」は、MG3の発生トルクである。つまり、回生トルクが大きくなる場合には、図中のMGトルクは小さくなる。
【0055】
タイミングT1でアクセルオフになり、タイミングT2でアクセル開度がゼロになると、MG3の回生トルクが増大し始め、エンジン回転速度がアイドル回転速度になるタイミングT3で合計コーストトルクが目標合計コーストトルクになる(ステップS10〜S50)。
【0056】
タイミングT3以降、つまり維持期間が開始した後は、所定時間が経過するまで合計コーストトルクが目標合計コーストトルクから外れないように、タービントルクの変化に応じてMG3の回生トルクが変化する(ステップS30〜S50)。なお、タイミングT3からタイミングT4の期間中にタービントルクが変化するのは、エンジン回転速度がアイドル回転速度に維持されることでインペラ回転速度が一定になるのに対して、タービン回転速度は車速に比例して低下するからである。
【0057】
所定時間が経過したタイミングT4において、フォワードクラッチ10の締結容量低下が始まり、これに応じて、合計コーストトルクが目標合計コーストトルクから外れないようにMG3の回生トルクが増大する(ステップS70〜S80)。
【0058】
そして、フォワードクラッチ10の締結容量がゼロになるタイミングT5になると、エンジン1への燃料供給が停止され、タイミングT6でエンジン1が停止する(ステップS90〜S110)。
【0059】
上記の制御ルーチンによれば、合計コーストトルクは、維持期間の開始タイミングで目標合計コーストトルクとなり、維持期間中は目標合計コーストトルクにまま維持される。そして、フォワードクラッチ10を解放してからエンジン1を停止するので、エンジン停止に伴う合計コーストトルクの変動も生じない。
【0060】
アクセルオフに伴うトルク変化は、運転者が予期しているものである。つまり、タイミングT2からタイミングT3にかけての合計コーストトルクの変化は、運転者に違和感を与えることがない。
【0061】
図2のように、維持期間中のトルク変化やエンジン停止に伴うトルク変化は、運転者に違和感を与えることとなるが、本実施形態では上記の通り維持期間の開始からエンジン停止まで合計コーストトルクは一定に維持されるので、運転者への違和感を抑制することができる。
【0062】
以上のように本実施形態によれば、駆動軸18と、フォワードクラッチ10(締結要素)と、フォワードクラッチ10を介して駆動軸18と接続されるエンジン1と、フォワードクラッチ10を介さずに駆動軸18と接続されるMG3(電動モータ)と、を有する車両の制御装置が提供される。この制御装置は、車両の走行中にエンジン1を所定回転速度に維持する維持期間を経てエンジン1を停止するコントローラ100(制御部)を有する。コントローラ100は、維持期間中にMG3の回生トルク(発電負荷)を漸増させながらフォワードクラッチ10の締結容量を漸減させてフォワードクラッチ10を解放し、フォワードクラッチ10の解放後にエンジン1を停止する。
【0063】
これにより、フォワードクラッチ10の締結容量の漸減によるエンジン負荷の漸減分をMG3の回生トルクの漸増分で補われ、合計コーストトルクの変動を抑制しながらフォワードクラッチ10を解放することができる。そして、フォワードクラッチ10の解放後にエンジン停止することで、エンジン停止に伴う合計コーストトルクの変動も抑制できる。したがって、エンジン走行モード実行中の減速時に回生を伴うコースト走行を開始する際に、運転者に違和感を与えるトルク変動を抑制できる。
【0064】
なお、フォワードクラッチ10の締結容量の漸減の傾きの絶対値と、MG3の回生トルクの漸増の傾きの絶対値とが等しくなるようにすることが好ましい。
【0065】
また、上記説明ではMG3が駆動軸18に接続される構成について説明したが、MG3が接続される軸は動力伝達経路中でフォワードクラッチ10よりも下流側(駆動輪側)であればよい。例えば、セカンダリプーリ11Bとファイナルギヤ装置13とを接続する駆動軸19であってもよいし、ファイナルギヤ装置13と駆動輪8とを接続するドライブシャフトであってもよい。
【0066】
本実施形態では、コントローラ100は維持期間の前に、エンジン1の回転速度の低下が開始するのと同時にMG3の回生トルクを増加させる。すなわち、図4のタイミングT2からタイミングT3にかけて回生トルクを増加させる。これにより、タイミングT2からタイミングT3にかけてと、タイミングT4からタイミングT5にかけての、2段階で回生トルクを増大させることになる。その結果、タイミングT5まで回生トルクをゼロに維持する場合に比べて、タイミングT5以降の回生トルクを大きくすることができる。すなわち、MG3による回生量をより大きくすることができる。
【0067】
また、回生トルクを増加させることで、タイミングT2からタイミングT3にかけての合計コーストトルクの低下速度は、回生トルクを増加させない場合に比べて速くなる。しかし、アクセルオフに伴う合計コーストトルクの低下は運転者が予期しているものなので、ここでの低下速度が速くなることは、維持期間中に合計コーストトルクが変動することに比べると、運転者に与える違和感は小さい。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0069】
本願は、2017年8月7日に日本国特許庁に出願された特願2017−152497に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4