(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979082
(24)【登録日】2021年11月16日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】キッシュグラファイトから還元酸化グラフェンを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/192 20170101AFI20211125BHJP
C01B 32/215 20170101ALI20211125BHJP
【FI】
C01B32/192
C01B32/215
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-553269(P2019-553269)
(86)(22)【出願日】2018年3月26日
(65)【公表番号】特表2020-512263(P2020-512263A)
(43)【公表日】2020年4月23日
(86)【国際出願番号】IB2018052041
(87)【国際公開番号】WO2018178845
(87)【国際公開日】20181004
【審査請求日】2019年11月18日
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2017/000348
(32)【優先日】2017年3月31日
(33)【優先権主張国】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブー,ティ・タン
(72)【発明者】
【氏名】カバナス・コラレス,マリア
(72)【発明者】
【氏名】アルバレス−アルバレス,アベル
【審査官】
廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】
韓国登録特許第10−1109961(KR,B1)
【文献】
特開平10−017313(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2014−0017082(KR,A)
【文献】
米国特許第05672327(US,A)
【文献】
特表2016−506448(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/145155(WO,A1)
【文献】
特開2013−006909(JP,A)
【文献】
国際公開第2017/048711(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キッシュグラファイトから還元酸化グラフェンを製造するための方法であって、
A.キッシュグラファイトの提供、
B.以下の連続したサブステップ:
i.前記キッシュグラファイトが、サイズによって
a)50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイト、
b)50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイト
に分類される篩分けステップであって、
50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)が除去されるステップ、
ii.50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイトの画分b)による浮選ステップ、
iii.重量比(酸量)/(キッシュグラファイト量)が0.25〜1.0の間になるように酸が添加される酸浸出ステップ、
iv.任意選択的に前記キッシュグラファイトを洗浄及び乾燥させるステップ
を含む、前記キッシュグラファイトの前処理ステップ、
C.酸化グラフェンを得るための、ステップB)の後に得られた前処理キッシュグラファイトの酸化ステップ、並びに
D.酸化グラフェンの還元酸化グラフェンへの還元
を含み、
ステップC)が、以下のサブステップ:
i.前処理されたキッシュグラファイト、酸、及び任意選択で硝酸ナトリウムを含む混合物の調製であって、当該混合物は5°C未満の温度に維持される調製、
ii.ステップC.i)で得られた前記混合物への酸化剤の添加、
iii.酸化反応を停止させる要素の追加、
iv.任意選択で、ステップC.iii)で得られた前記混合物からの酸化グラファイトの分離、
v.任意選択で、前記酸化グラファイトの洗浄、
vi.任意選択で、前記酸化グラファイトの乾燥、並びに
vii.酸化グラフェンへの剥離
を含み、
ステップC.i)において、酸が以下の要素:塩化物酸、リン酸、硫酸、硝酸又はそれらの混合物から選択され、
ステップC.ii)において、酸化剤が、過マンガン酸ナトリウム、H2O2、O3、H2S2O8、H2SO5、KNO3、NaClO又はそれらの混合物から選択され、
ステップC.iii)において、酸化反応を停止させる要素が、酸、非脱イオン水、脱イオン水、H2O2又はそれらの混合物から選択され、
ステップC.vii)において、超音波又は熱剥離を使用することにより剥離が行われ、
ステップD)において、以下のサブステップ:
i.還元剤による酸化グラフェンの還元酸化グラフェンへの還元、
ii.ステップD.i)で得られた混合物の攪拌、
iii.任意選択で、前記還元酸化グラフェンの洗浄、及び
iv.任意選択で、前記還元酸化グラフェンの乾燥
を含み、
ステップD.i)において、酸が、アスコルビン酸、尿素又はヒドラジン水和物から選択され、
ステップD.ii)において、混合物が、50〜120℃の間の温度に維持され、
ステップD.ii)において、攪拌が、24時間未満の間行われる、
方法。
【請求項2】
キッシュグラファイトから還元酸化グラフェンを製造するための方法であって、
A.キッシュグラファイトの提供、
B.以下の連続したサブステップ:
i.前記キッシュグラファイトが、サイズによって
a)55μm未満のサイズを有するキッシュグラファイト、
b)55μm以上のサイズを有するキッシュグラファイト
に分類される篩分けステップであって、
55μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)が除去されるステップ、
ii.55μm以上のサイズを有するキッシュグラファイトの画分b)による浮選ステップ、
iii.重量比(酸量)/(キッシュグラファイト量)が0.25〜1.0の間になるように酸が添加される酸浸出ステップ、
iv.任意選択的に前記キッシュグラファイトを洗浄及び乾燥させるステップ
を含む、前記キッシュグラファイトの前処理ステップ、
C.酸化グラフェンを得るための、ステップB)の後に得られた前処理キッシュグラファイトの酸化ステップ、並びに
D.酸化グラフェンの還元酸化グラフェンへの還元
を含み、
ステップC)が、以下のサブステップ:
i.前処理されたキッシュグラファイト、酸、及び任意選択で硝酸ナトリウムを含む混合物の調製であって、当該混合物は5°C未満の温度に維持される調製、
ii.ステップC.i)で得られた前記混合物への酸化剤の添加、
iii.酸化反応を停止させる要素の追加、
iv.任意選択で、ステップC.iii)で得られた前記混合物からの酸化グラファイトの分離、
v.任意選択で、前記酸化グラファイトの洗浄、
vi.任意選択で、前記酸化グラファイトの乾燥、並びに
vii.酸化グラフェンへの剥離
を含み、
ステップC.i)において、酸が以下の要素:塩化物酸、リン酸、硫酸、硝酸又はそれらの混合物から選択され、
ステップC.ii)において、酸化剤が、過マンガン酸ナトリウム、H2O2、O3、H2S2O8、H2SO5、KNO3、NaClO又はそれらの混合物から選択され、
ステップC.iii)において、酸化反応を停止させる要素が、酸、非脱イオン水、脱イオン水、H2O2又はそれらの混合物から選択され、
ステップC.vii)において、超音波又は熱剥離を使用することにより剥離が行われ、
ステップD)において、以下のサブステップ:
i.還元剤による酸化グラフェンの還元酸化グラフェンへの還元、
ii.ステップD.i)で得られた混合物の攪拌、
iii.任意選択で、前記還元酸化グラフェンの洗浄、及び
iv.任意選択で、前記還元酸化グラフェンの乾燥
を含み、
ステップD.i)において、酸が、アスコルビン酸、尿素又はヒドラジン水和物から選択され、
ステップD.ii)において、混合物が、50〜120℃の間の温度に維持され、
ステップD.ii)において、攪拌が、24時間未満の間行われる、
方法。
【請求項3】
ステップB.i)及びB.ii)において、キッシュグラファイトの画分b)が、300μm以下のサイズを有し、300μmを超えるサイズを有するキッシュグラファイトのいかなる画分も、ステップB.ii)の前に除去される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップB.iii)において、酸量/キッシュグラファイト量の重量比が、0.25〜0.9の間である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップB.iii)において、酸量/キッシュグラファイト量の重量比が、0.25〜0.8の間である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップB.iii)において、酸が、以下の要素:塩化物酸、リン酸、硫酸、硝酸又はそれらの混合物から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップC.iii)において、ステップC.ii)で得られた混合物が、酸化反応を停止させる要素に徐々に注入される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップC.iv)において、酸化グラフェンが、遠心分離、デカンテーション又は濾過により分離される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップC.iv)及びC.v)が、互いに独立して少なくとも2回行われる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キッシュグラファイトから還元酸化グラフェンを製造するための方法に関する。特に、還元酸化グラフェンは、鉄鋼、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、銅合金、チタン、コバルト、金属複合材、ニッケル産業を含む金属産業において、コーティング又は冷却試薬としての用途がある。
【背景技術】
【0002】
キッシュグラファイトは、製鋼工程、特に高炉工程又は製鉄工程中に生成される副産物である。実際に、キッシュグラファイトは通常、その冷却中に溶鉄の自由表面上に生成される。これは、1300〜1500℃の溶鉄に由来し、混銑車で運搬する場合は0.40℃/分〜25℃/時の冷却速度で、又は取鍋輸送中はより高い冷却速度で冷却される。毎年大量のトン数のキッシュグラファイトが製鋼所で生産されている。
【0003】
キッシュグラファイトは、通常50重量%を超える大量の炭素を含むため、グラフェンベースの材料を製造するのに適している。通常、グラフェンベースの材料には、グラフェン、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン又はナノグラファイトが含まれる。
【0004】
還元酸化グラフェンは、いくつかの酸素官能基を含むグラフェンシートの1つ又はいくつかの層で構成される。疎水性である還元酸化グラフェンには、高い熱伝導率及び高い電気伝導率等の興味深い特性があるため、上記のように多くの用途がある。
【0005】
通常、還元酸化グラフェンは、キッシュグラファイトから合成され、中間生成物は酸化グラフェンである。この方法は、
− キッシュグラファイトからの酸化グラフェンの合成、及び
− 還元酸化グラフェンを得るための酸化グラフェンの還元
のステップを含む。
【0006】
特許KR101109961は、グラフェンの製造方法であって、
− キッシュグラファイトを前処理するステップ、
− 前処理したキッシュグラファイトを酸性溶液で酸化することにより、酸化グラファイトを製造するステップ;
− 酸化グラファイトを剥離することにより、酸化グラフェンを製造するステップ、及び
− 酸化グラフェンを還元剤で還元することにより、還元酸化グラフェンを製造するステップ
を含む方法を開示している。
【0007】
この韓国特許において、キッシュグラファイトの前処理は、フラッシング工程、化学的前処理組成物を使用した精製工程、及び機械的分離工程(サイズによる分離)を含む。精製工程の後、精製されたキッシュグラファイトはサイズによって分離され、40メッシュ以下、すなわち420μm以下の粒子サイズを有するキッシュグラファイトは、酸化グラフェンの製造のために保持される。
【0008】
しかしながら、キッシュグラファイトの前処理は、化学組成物を使用した2つのステップ、すなわちフラッシングステップ及び精製ステップを含む。KR101109961の例では、水、塩酸及び硝酸を含む水溶液を使用してフラッシングステップが行われる。次いで、キレート剤、酸化鉄除去剤、界面活性剤、アニオン性及び非イオン性ポリマー分散剤、並びに蒸留水を含む前処理組成物を使用して、精製工程が行われる。工業規模では、多くの化学廃棄物を処理する必要があり、またそのような組成物の安定性を制御するのが難しいため、2つの化学処理は管理が困難である。さらに、前処理組成物には長い調製時間が必要である。したがって、生産性が低下する。さらに、前処理組成物を使用した精製工程を含むキッシュグラファイトの前処理は、環境に優しいものではない。最後に、実施例では、酸化グラフェンの還元酸化グラフェンへの還元は、24時間行われるため非常に長い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国登録特許第10−1109961号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、高純度キッシュグラファイトから還元酸化グラフェンを製造するための実行が容易な方法を提供することである。特に、対象とするのは、良質の還元酸化グラフェンを得るための環境に優しい方法を提供することである。
【0011】
これは、請求項1に記載の方法を提供することにより達成される。方法はまた、単独で、又は組み合わせて考慮される、請求項2〜22の任意の特徴を含み得る。
【0012】
本発明はまた、請求項23に記載の前処理されたキッシュグラファイトを包含する。
【0013】
本発明はまた、請求項24に記載の酸化グラフェンを包含する。
【0014】
本発明はまた、請求項25に記載の還元酸化グラフェンを包含する。
【0015】
本発明はまた、請求項26に記載の、得ることができる還元酸化グラフェンの金属基板上への堆積のための使用を包含する。
【0016】
最後に、本発明は、請求項27に記載の冷却試薬としての還元酸化グラフェンの使用を包含する。
【0017】
以下の用語が定義される:
− 酸化グラフェンとは、少なくとも25重量%の酸素官能基を含むグラフェンの1つ又はいくつかの層を意味し、
− 還元酸化グラフェンとは、還元された酸化グラフェンを意味する。還元酸化グラフェンは、25重量%未満の酸素官能基を有するグラフェンの1つ又はいくつかの層を含み、
− 酸素官能基とは、ケトン基、カルボキシル基、エポキシ基及びヒドロキシル基を意味し、
− 浮選ステップとは、疎水性材料であるキッシュグラファイトを親水性材料から選択的に分離する工程を意味する。
【0018】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の発明を実施するための形態から明らかとなる。
【0019】
本発明を例示するために、様々な実施形態及び限定されない例の試験が、特に以下の図を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明による還元酸化グラフェンの1つの層の例を示す図である。
【
図2】本発明による還元酸化グラフェンのいくつかの層の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、キッシュグラファイトから還元酸化グラフェンを製造するための方法であって、
A.キッシュグラファイトの提供、
B.以下の連続したサブステップ:
i.キッシュグラファイトが、サイズによって
a)50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイト、
b)50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイト
に分類される篩分けステップであって、
50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)が除去されるステップ、
ii.50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイトの画分b)による浮選ステップ、
iii.重量比(酸量)/(キッシュグラファイト量)が0.25〜1.0の間になるように酸が添加される酸浸出ステップ、
iv.任意選択的にキッシュグラファイトを洗浄及び乾燥させるステップ
を含む、前記キッシュグラファイトの前処理ステップ、
C.酸化グラフェンを得るための、ステップB)の後に得られた前処理キッシュグラファイトの酸化ステップ、並びに
D.酸化グラフェンの還元酸化グラフェンへの還元
を含む方法に関する。
【0022】
いかなる理論にも束縛されるつもりはないが、本発明による方法は、高純度の前処理されたキッシュグラファイトから良質の酸化グラフェンの製造を可能にすると思われる。実際に、ステップB)の後に得られるキッシュグラファイトの純度は、少なくとも90%である。さらに、前処理ステップB)は、工業規模での実施が容易であり、従来の方法よりも環境に優しい。
【0023】
好ましくは、ステップA)において、キッシュグラファイトは、製鋼工程の残留物である。例えば、キッシュグラファイトは、高炉工場、製鉄工場、混銑車、取鍋輸送中に見出される。
【0024】
ステップB.i)において、篩い分けステップは篩い機で行うことができる。
【0025】
篩い分け後、サイズが50μm未満のキッシュグラファイトの画分a)が除去される。実際に、いかなる理論にも束縛されるつもりはないが、50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトは、非常に少量の、例えば10%未満のグラファイトを含むと考えられる。
【0026】
好ましくは、ステップB.ii)において、浮選ステップは、水溶液中の浮選試薬を用いて行われる。例えば、浮選試薬は、メチルイソブチルカルビノール(MIBC)、パイン油、ポリグリコール、キシレノール、S−ベンジル−S’−n−ブチルトリチオカーボネート、S,S’−ジメチルトリチオカーボネート及びS−エチル−S’−メチルトリチオカーボネートから選択される発泡剤である。有利には、浮選ステップは、浮選デバイスを使用して行われる。
【0027】
好ましくは、ステップB.i)において、55μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)が除去され、ステップB.ii)において、キッシュグラファイトの画分b)は、55μm以上のサイズを有する。より好ましくは、ステップB.i)において、60μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)が除去され、ステップB.ii)において、キッシュグラファイトの画分b)は、60μm以上のサイズを有する。
【0028】
好ましくは、ステップB.i)及びB.ii)において、キッシュグラファイトの画分b)は、300μm以下のサイズを有し、300μmを超えるサイズを有するキッシュグラファイトのいかなる画分も、ステップB.ii)の前に除去される。
【0029】
より好ましくは、ステップB.i)及びB.ii)において、キッシュグラファイトの画分b)は、275μm以下のサイズを有し、275μmを超えるサイズを有するキッシュグラファイトのいかなる画分も、ステップB.ii)の前に除去される。
【0030】
有利には、ステップB.i)及びB.ii)において、キッシュグラファイトの画分b)は、250μm以下のサイズを有し、250μmを超えるサイズを有するキッシュグラファイトのいかなる画分も、ステップB.ii)の前に除去される。
【0031】
ステップB.iii)において、重量比(酸量)/(キッシュグラファイト量)は、0.25〜1.0の間、有利には0.25〜0.9の間、より好ましくは0.25〜0.8の間である。例えば、(酸量)/(キッシュグラファイト量)の重量比は、0.4〜1.0の間、0.4〜0.9の間、又は0.4〜1の間である。実際に、いかなる理論にも束縛されるつもりはないが、(酸量)/(キッシュグラファイト量)比が本発明の範囲を下回る場合、キッシュグラファイトが多くの不純物を含むリスクがあると思われる。さらに、(酸量)/(キッシュグラファイト量)比が本発明の範囲を超える場合、膨大な量の化学廃棄物が生成されるリスクがあると考えられる。
【0032】
好ましくは、ステップB.iii)において、酸は、以下の要素:塩化物酸、リン酸、硫酸、硝酸又はそれらの混合物から選択される。
【0033】
本発明による方法のステップB)の後に得られる前処理されたキッシュグラファイトは、50μm以上のサイズを有する。前処理されたキッシュグラファイトは、高純度、すなわち少なくとも90%である。さらに、結晶化度は従来の方法と比較して改善され、より高い熱伝導率及び電気伝導率、ひいてはより高い品質が実現される。
【0034】
好ましくは、ステップCは、以下のサブステップ:
i.前処理されたキッシュグラファイト、酸、及び任意選択で硝酸ナトリウムを含む混合物の調製であって、混合物は5℃未満の温度に維持される調製、
ii.ステップC.i)で得られた混合物への酸化剤の添加、
iii.目標の酸化レベルに達した後の、酸化反応を停止させる要素の追加、
iv.任意選択で、ステップC.iii)で得られた混合物からの酸化
グラファイトの分離、
v.任意選択で、酸化
グラファイトの洗浄、
vi.任意選択で、酸化
グラファイトの乾燥、並びに
vii.酸化グラフェン
への剥離
を含む。
【0035】
好ましくは、ステップC.i)において、酸は、以下の要素:塩化物酸、リン酸、硫酸、硝酸又はそれらの混合物から選択される。好ましい実施形態において、混合物は、前処理されたキッシュグラファイト、硫酸及び硝酸ナトリウムを含む。別の好ましい実施形態において、混合物は、前処理されたキッシュグラファイト、硫酸及びリン酸を含む。
【0036】
好ましくは、ステップC.ii)において、酸化剤は、過マンガン酸ナトリウム(KMnO
4)、H
2O
2、O
3、H
2S
2O
8、H
2SO
5、KNO
3、NaClO又はそれらの混合物から選択される。好ましい実施形態において、酸化剤は、過マンガン酸ナトリウムである。
【0037】
次いで、有利には、ステップC.iii)において、酸化反応を停止させるために使用される要素は、酸、非脱イオン水、脱イオン水、H
2O
2又はそれらの混合物から選択される。
【0038】
好ましい実施形態において、反応を停止させるために少なくとも2つの要素が使用される場合、それらは連続的に又は同時に使用される。好ましくは、脱イオン水を使用して反応が停止され、次いでH
2O
2を使用して酸化剤の残りが排除される。別の好ましい実施形態において、塩酸を使用して反応が停止され、次いでH
2O
2を使用して酸化剤の残りが排除される。別の好ましい実施形態において、以下の反応によって、H
2O
2を使用して反応が停止され、酸化剤の残りが排除される:
2KMnO
4+H
2O
2+3H
2SO
4=2MnSO
4+O
2+K
2SO
4+4H
2O。
【0039】
いかなる理論にも束縛されるつもりはないが、反応を停止させる要素が混合物に添加されると、この添加が過度に発熱を生じさせて爆発又は飛散を引き起こすリスクがあると思われる。したがって、好ましくは、ステップC.iii)において、反応を停止させるために使用される要素は、ステップC.ii)で得られた混合物にゆっくりと添加される。より好ましくは、ステップC.ii)で得られた混合物は、酸化反応を停止させるために使用される要素に徐々に注入される。例えば、ステップC.ii)で得られた混合物は、反応を停止させるために脱イオン水に徐々に注入される。
【0040】
任意選択で、ステップC.iv)において、ステップC.iii)で得られた混合物から酸化グラファイトが分離される。好ましくは、酸化グラフェンは、遠心分離、デカンテーション又は濾過により分離される。
【0041】
任意選択で、ステップC.v)において、酸化グラファイトが洗浄される。例えば、酸化グラフェンは、脱イオン水、非脱イオン水、酸又はそれらの混合物から選択される要素で洗浄される。例えば、酸は、以下の要素:塩化物酸、リン酸、硫酸、硝酸又はそれらの混合物から選択される。
【0042】
好ましい実施形態において、ステップC.iv)及びC.v)は連続的に行われる、すなわちステップC.iv)に続いてステップC.v)が行われる。別の好ましい実施形態において、ステップC.v)は、ステップC.iv)の前に行われる。
【0043】
例えば、ステップC.iv)及びC.v)は、互いに独立して少なくとも2回行われる。
【0044】
任意選択で、ステップC.vi)において、酸化グラファイトは、例えば空気で、又は真空状態での高温で乾燥される。
【0045】
好ましくは、ステップC.vii)において、剥離は、超音波又は熱剥離を使用することにより行われる。好ましくは、ステップC.iii)で得られた混合物は、酸化グラフェンの1つ又はいくつかの層に剥離される。
【0046】
ステップC)の後、少なくとも1つの層シートを含む、5〜50μmの間、好ましくは10〜40μmの間、より好ましくは20〜35μmの間の平均横サイズを有する酸化グラフェンが得られる。
【0047】
次いで、好ましくは、ステップD)において、0.4%〜25重量%、より好ましくは1〜20%の酸素基を有する還元酸化グラフェンを得るために、酸化グラフェンが部分的又は完全に還元される。
【0048】
好ましくは、ステップD)は、以下のサブステップ:
i.還元剤による酸化グラフェンの還元、
ii.ステップD.i)で得られた混合物の攪拌、
iii.任意選択で、還元酸化グラフェンの洗浄、及び
iv.任意選択で、還元酸化グラフェンの乾燥
を含む。
【0049】
ステップD.i)において、好ましくは、還元剤は、酸アスコルビン酸、尿素又はヒドラジン水和物から選択される。より好ましくは、アスコルビン酸はより環境に優しいため、還元剤はアスコルビン酸である。
【0050】
有利には、ステップD.ii)において、混合物は、50〜120℃、より好ましくは60〜95℃、有利には80〜95℃の温度に維持される。好ましくは、攪拌は、24時間未満、より好ましくは15時間未満、有利には1〜10時間行われる。
【0051】
本発明による方法を適用することにより、少なくとも1つの層シートを含む、5〜50μmの間、好ましくは10〜40μmの間、より好ましくは20〜35μmの間の平均横サイズを有する還元酸化グラフェンが得られる。
【0052】
図1は、本発明による還元酸化グラフェンの1つの層の例を示す。横方向のサイズは、X軸を通る層の最大長さを意味し、厚さは、Z軸を通る層の高さを意味し、ナノプレートレットの幅は、Y軸を通して示されている。
【0053】
図2は、本発明による還元酸化グラフェンのいくつかの層の例を示す。横方向のサイズは、X軸を通る層の最大長さを意味し、厚さは、Z軸を通る層の高さを意味し、ナノプレートレットの幅は、Y軸を通して示されている。
【0054】
得られた還元酸化グラフェンは、本発明の前処理されたキッシュグラファイトから製造されるため、良質である。さらに、還元酸化グラフェンは、酸素官能性のほとんどの喪失、高い熱伝導率及び電気伝導率のために、疎水性で、高温で安定である。
【0055】
好ましくは、金属基板の耐食性等のいくつかの特性を改善するために、金属基板鋼上に還元酸化グラフェンが堆積される。
【0056】
別の好ましい実施形態において、還元酸化グラフェンは、冷却試薬として使用される。実際に、酸化グラフェンは、冷却液に添加され得る。好ましくは、冷却流体は、水、エチレングリコール、エタノール、油、メタノール、シリコーン、プロピレングリコール、アルキル化芳香族化合物、液体Ga、液体In、液体Sn、ギ酸カリウム及びそれらの混合物から選択され得る。この実施形態では、冷却流体は、金属基板を冷却するために使用される。例えば、金属基板は、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、銅合金、チタン、コバルト、金属複合材、ニッケルの中から選択される。
【0057】
ここで、情報のみを目的として行われる試験において、本発明を説明する。これらの試験は限定的ではない。
【実施例】
【0058】
試験品1及び2を、製鋼所からキッシュグラファイトを提供することによって調製した。次いで、キッシュグラファイトを篩い分けして、以下のようにサイズ別に分類した。
【0059】
a)63μm未満のサイズを有するキッシュグラファイト
b)63μm以上のサイズを有するキッシュグラファイト。
【0060】
63μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)を除去した。
【0061】
試験1については、63μm以上のサイズを有するキッシュグラファイトの画分b)での浮選ステップを行った。浮選ステップは、MIBCを発泡剤としてHumboldt Wedag浮選機で行った。次の条件を適用した。
【0062】
− セル容積(l):2
− ロータ速度(rpm):2000、
− 固形分濃度(%):5〜10、
− 発泡剤、種類:MIBC、
− 発泡剤、添加(g/T):40、
− 調整時間(秒):10、及び
− 水条件:自然のpH、室温。
【0063】
次いで、試験品1及び2を、水溶液中の塩酸で浸出させた。次いで、試験品を脱イオン水で洗浄し、90℃の空気中で乾燥させた。
【0064】
その後、試験品1及び2を、氷浴で硝酸ナトリウム及び硫酸と混合した。過マンガン酸カリウムをゆっくりと試験品1及び2に添加した。次いで、混合物を水浴に移し、35℃で3時間保持してキッシュグラファイトを酸化させた。
【0065】
3時間後、試験品を徐々に脱イオン水に注入した。混合物の温度は70℃であった。
【0066】
酸化反応を停止させた後、熱を除去し、水溶液中のH
2O
2約10〜15mLをガス生成がなくなるまで添加し、混合物を10分間攪拌してH
2O
2の残りを排除した。
【0067】
次いで、酸化グラフェンの1つ又は2つの層を得るために、超音波を使用して試験品を剥離した。試験品1及び2の酸化グラフェンを遠心分離により混合物から分離し、水で洗浄し、空気で乾燥させた。
【0068】
L−アスコルビン酸を試験品1及び2の水溶液と混合した。反応混合物を90℃で3時間攪拌し、酸化グラフェンシートを還元した。
【0069】
次いで、試験品1及び2を洗浄及び乾燥して、還元酸化グラフェン粉末を得た。
【0070】
試験3は、韓国特許KR101109961の方法に従って調製された開示された実施例である。
【0071】
表1は、試験1〜3で得られた結果を示す。
【0072】
【表1】
【0073】
試験1で、すなわち本発明による方法を適用することにより得られた前処理されたキッシュグラファイトは、試験品2及び3と比較してより高い純度を有する。さらに、試験1の方法は、試験3に使用された方法よりも環境に優しい。最後に、試験1で得られた還元酸化グラフェンは、高純度及び高品質である。