【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)環境省委託事業「平成29年度セルロースナノファイバー活用製品の性能評価事業委託業務(多機能性・竹ナノセルロースの低エネルギー型生産プロセスの確立)」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記解繊処理工程によって得られたナノ天然高分子分散液にカルボキシル基を有する化合物及び/又は湿潤紙力剤を添加したことを特徴とする請求項5に記載のナノコンポジットの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。ただし、以下の実施形態は、発明内容の理解を助けるためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0021】
(ナノ天然高分子)
本発明に用いるナノ天然高分子としては、直径が1〜1000nm未満の繊維状物質であり、長さが直径の100倍以上である天然高分子ナノファイバー、又は直径が10〜50nm、長さが100〜500nm以下の棒状、あるいは紡錘形をした超微細結晶である天然高分子ナノクリスタルである。
また、本発明に用いる天然高分子としては、特に限定しないが、セルロース(微生物生産物を含む)、キチン、キトサン等の多糖類、コラーゲン、ゼラチン等のタンパク質、ポリ乳酸、ポリカプロラクタム等が挙げられる。
【0022】
本発明のナノコンポジットを製造する方法には少なくとも以下の工程が含まれ、各工程を連続的に行うことが好ましい。
(1)解繊処理工程
(2)被覆工程
(3)ふるい工程
(4)乾燥工程
(5)プレ成形工程
(6)成形工程
以下、上記各工程について詳細に説明する。なお、(5)プレ成形工程と(6)成形工程の間にコンパウンド工程を追加しても良い。さらに(5)プレ成形工程を(6)成形工程の中で実施しても良い。
【0023】
(解繊処理工程)
解繊処理工程は、多糖を解繊処理してナノ天然高分子を得る工程である。
以下、天然高分子としてセルロースを用いた場合のセルロースナノファイバー及びセルロースナノクリスタル水溶液の調製方法について説明する。本発明において、セルロースナノファイバーとしては例えば、木材繊維、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維、葉繊維等の天然の植物を含む多糖由来のセルロースナノファイバー又は酢酸菌をはじめとする微生物が生産するバクテリアセルロース(多糖)由来の100%セルロースのゲル状物質であるペリクルが挙げられる。これらセルロースナノファイバーは一種を単独で又は二種以上を混合して用いてもよい。また、ペリクル以外を多糖として用いる場合には、α-セルロース含有率60%〜99質量%のパルプを用いるのが好ましい。これ以外の主な成分はヘミセルロースであり、少量のリグニンを含むこともある。α-セルロース含有率60質量%未満の純度の場合はセルロースの持つ高強度・耐熱性・高剛性・高耐衝撃性・高酸素バリア性などの特性を十分に引き出せないほか、着色による品質の劣化や熱によるガスの発生などの問題を生じる。従ってα-セルロース含有率は60%以上であることが好ましい。一方、99質量%以上のものを用いた場合、ヘミセルロース成分が少ないために繊維同士が水素結合により強く結びついているため、繊維をナノレベルに解繊することが困難になる。
【0024】
多糖を高圧水流にて解繊してセルロースナノファイバーとする手法としては、特開2005-270891号公報に記載された水中対向衝突法(水中カウンターコリジョン(Aqueous Counter Collison )以下、ACC法という。)がある。これは、水に懸濁した天然セルロース繊維をチャンバー(
図1:107)内で相対する二つのノズル(
図1:108a,108b)に導入し、これらのノズルから一点に向かって噴射、衝突させる手法である(
図1)。この手法によれば、天然微結晶セルロース繊維(例えば、フナセル)の懸濁水を対向衝突させ、その表面をナノフィブリル化させて引き剥がし、キャリアーである水との親和性を向上させることによって、最終的には溶解に近い状態に至らせることが可能となる。
図1に示される装置は液体循環型となっており、タンク(
図1:109)、プランジャ(
図1:110)、対向する二つのノズル(
図1:108a,108b)、必要に応じて熱交換器(
図1:111)を備え、水中に分散させた微粒子を二つのノズルに導入し50〜400MPa程度の高圧下で合い対するノズル(
図1:108a,108b)から噴射して水中で対向衝突させる。この手法では天然セルロース繊維の他には水しか使用せず、繊維間の相互作用のみを解裂させることによってナノ微細化を行うためセルロース分子の構造変化がなく、解裂に伴う重合度低下を最小限にした状態でセルロースナノファイバーを得ることが可能となる。
【0025】
以上のようにして得るセルロースナノファイバーは、天然セルロース繊維間の相互作用のみを解裂させることによってナノ微細化を行うためセルロース分子の構造変化がなく、以下の化学式1に表わされる構造式を有する。換言すると、本願発明で用いるセルロースナノファイバーは、化学式1中のセロビオースユニット内に水酸基6個を有し、化学修飾されていないことを意味する。これは、FT-IRを使用してセルロースのIRスペクトルと本願発明に使用するセルロースナノファイバーとを比較することで確認することができる。 本ACC法により、セルロース繊維の平均粒子長を1/4以下又は10μmにまで粉砕することができ、その結果、平均太さ4〜200nmであり、平均長さ0.1μm以上であるセルロースナノファイバーが得られる。一方で、対向衝突処理においては、加えられるエネルギーが共有結合を切断するエネルギーには、はるかに及ばず(推定1/300以下)、セルロースの重合度の低下は生じない。
本ACC法によって得られたセルロースナノファイバーは、親水サイトと疎水サイトが共存し、両親媒性を示す(
図2を参照)。
【0027】
水中対抗衝突処理は、回数を重ねるに従い、処理物の温度が上昇するので、一度衝突処理された後の処理物は、必要に応じ、例えば、4〜20℃、又は5〜15℃に冷却してもよい。また、対向衝突処理装置に、冷却のための設備を組み込むこともできる。さらに、処理条件(処理圧力、処理回数、その他ノズル径、処理温度等)を調節することにより、得られるセルロースナノファイバーの平均繊維幅、平均繊維長さ、透過率、粘度等を調節できる。
【0028】
なお、本発明においては、他のセルロースナノファイバーの製造方法として公知であるTEMPO酸化触媒、リン酸処理、オゾン処理、酵素処理、マレイン酸処理、無水アルケニルコハク酸による疎水変性、アルキルケテンダイマーによる疎水変性、アセチル化による疎水変性などの化学的処理をする方法によって得られるセルロースナノファイバー又はグラインダー(石臼型粉砕機)、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナーなどの機械的作用を利用する湿式粉砕でセルロース系繊維を細くする物理的方法によって得られるセルロースナノファイバーであっても、使用することができる。上記製造方法で得たCNFの表面を部分的にアセチル化などの疎水化を行うことで効率良く樹脂表面に吸着することができる。尚、アセチル化の場合の酢化度は0.4〜0.8程度が好ましく、さらに好ましくは0.5〜0.7である。
【0029】
(樹脂)
本発明において使用することのできる樹脂としては、特に制限されることはないが、シロキサン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)、ポリビニルフルオライド(PVF)、ポリイミド(PI)、ポリスチレン(PS)、ポリアクリル酸メチル(PMA)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリブタジエン(PB)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリルニトリル(PAN)、ポリアクリルアミド(PAAm)、PLA等を例示することができる
以下、例として樹脂としてポリプロピレンを用いた場合について説明する。ポリプロピレンは、主にプロピレンを重合させた熱可塑性樹脂で、高い強度を有し、耐薬品性に優れ、耐熱性が高いという性質を有する。また、比重が小さいことから、容器、文具、包装用材料、自動車用部材等の各種用途で用いられている。
【0030】
(被覆工程)
被覆工程は、ポリプロピレン粒子表面にセルロースナノファイバーを吸着させ被覆する工程である。すなわち、疎水性を有するポリプロピレン粒子表面に、(疎水面を有する)セルロースナノファイバーを吸着させ被覆する。被覆工程を経たセルロースナノファイバー分散液を「CNF表面被覆PP分散液」と称する。本工程の被覆方法は特に制限されないが、通常、セルロースナノファイバー水分散液中にポリプロピレン粒子を投入し、5〜60分程度振とうすることにより行う。本工程の結果、前記粒子表面は、ポリプロピレンとセルロースナノファイバーとが部分相溶しているCNF表面被覆PP分散液が得られる。
【0031】
被覆工程において使用するポリプロピレン粒子の形状は、特に制限されない。数ミクロンのサイズの粒子径からある程度の大きさを持ったポリプロピレン粒子をも使用することができる。好ましくは、10〜5000μm、より好ましくは、50〜1000μmの粒子径を使用するとよい。ここで、一般的に粒子径が小さい程、ポリプロピレン表面へのセルロースナノファイバーの被覆が容易となり、また、ポリプロピレンへのセルロースナノファイバーの添加量も多くなるため、粒子径が小さいものを使用するとセルロースの特性を付与しやすい。
ここで、水分散液中のCNF濃度としては、粒子径に依存するが、0.01〜10%程度の希薄濃度でよい。また、PP粒子へ吸着したCNFの量を測定するためには、熱重量減少あるいはガス吸着率法により測定することができる。また、500μmのPP粒子を用いた場合、1%の濃度になると衝撃強度が無添加のニートPPよりも低下し、逆に希薄なCNF濃度の0.04%の場合は衝撃強度が50%向上することが確認できている。
【0032】
(セルロースナノファーバー分散液)
被覆工程において使用するセルロースナノファイバー水分散液の濃度は特に制限されない。すなわち、濃縮したセルロースナノファイバー水分散液も使用することが可能であるし、0.1%程度のセルロースナノファイバー水分散液も問題なく使用することができる。
なお、セルロースナノファイバーとポリプロピレンの重量比は、ポリプロピレンの粒子径に依存する。ポリプロピレン粒子径が小さい程、その表面への被覆は容易であるし、ポリプロピレンへの添加量も多くできる。セルロースナノファイバー分散液はチキソトロピー性を有する。そのため振とう中の分散液内の粘性は低いが、樹脂表面に一度吸着されると流動性が低下して保持される。
【0033】
(他の添加剤)
本発明において、以下の(A)及び/又は(B)を目的として他の添加剤をセルロースナノファイバー分散液に追加することができる。
(A)樹脂の機能性を強化する目的
(B)CNF骨格の機能性を強化する目的
【0034】
(A)樹脂の機能性を強化する目的として添加する他の添加剤としては、公知の染料、顔料、フィラー、燃えやすいプラスチックを燃えにくくする難燃剤、離型剤、耐久性向上を目的とした酸化防止剤に代表される高分子用安定剤、透明化剤、柔軟性を付与する可塑剤、静電気の帯電による弊害を除去する帯電防止剤、潤滑性向上を目的とする滑剤、紫外線吸着などを抑制する耐候性改良、金属による酸化劣化防止を目的とした金属不活性化剤、加工時の安定性改良を目的とする添加剤等を例示することができる。
【0035】
(B)CNF骨格の機能性を強化する目的として添加する他の添加剤としては、カルボキシル基を有する化合物が挙げられる。具体的には、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のカルボキシル基を有する公知のセルロース誘導体を例示することができる。以下、その理由について説明する。樹脂とCNFを使用して本願発明に係るナノコンポジットを製造した場合には、ナノコンポジット内に形成される三次元規則連結構造は、セルロースナノファイバー間の水酸基間の水素結合により、多数のCNF同士が結合した結果として、CNF骨格構造が形成される。ここで、Naイオンなどの陽イオンを対イオンとして有しないCMC等のカルボキシル基を有する化合物を加えると、
図3に示すように、CNF中の水酸基とCMCのカルボキシル基の脱水縮合により、CNFとCMCとが結合する。その結果、CNFとCMCとが脱水縮合してできた共有結合によりCNF間を結びつけた高強度結合で連結した骨格構造が形成されることとなる。つまり、前述のCNF骨格構造が水素結合で出来た結合であるのに対してより強い結合力で連結された性質を付与することが可能となる。
また、他には、ポリアミドポリアミン・エピクロロヒドリン系、メラミン・ホルマリン系、尿素・ホルマリン系等の公知の湿潤紙力剤を挙げることができる。
【0036】
(ふるい工程)
ふるい工程は、前記CNF表面被覆PP分散液中に存在するPP粒子表面へ被膜することのなかった未吸着のセルロースナノファイバーと水分を除去する工程である。ふるい工程を経たCNF表面被覆PP分散液を「CNF表面被覆PP」と称する。本工程では、CNF表面被覆PPと未吸着のセルロースナノファイバー及び水分とを分離することが可能であれば、その分離手段は特に制限されない。未吸着のCNFが存在すると破断時の界面剥離の起点として働いてしまう。ふるい工程で用いる設備は特に制限されない。平織のステンレス網やPET製の網などを用いて自重落下によりふるうことも出来るし、振動式のふるい機を用いることもできる。またプレス脱水機や遠心脱水機を利用することもできる。また紙漉きで利用されているプラスチックワイヤーを張ったワイヤーパートを利用することも出来る。最も簡便に行うには、ナイロンネット内にCNF表面被覆PP分散液を投入して入り口を縛り洗濯脱水槽等に入れてふるうこともできる。ふるいに使うメッシュも特に制限されないが用いる樹脂粒子の大きさよりも小さな目開きのメッシュを用いることで効率良く回収することができる。
【0037】
(乾燥工程)
乾燥工程は、前記ふるい工程で得られたCNF表面被覆PPを乾燥させる工程である。乾燥工程を経たCNF表面被覆PPを「乾燥CNF表面被覆PP」と称する。
本工程における乾燥方法は特に制限されず、樹脂の融点を超えない範囲であれば、加熱乾燥、強制乾燥、常温乾燥及び/又は凍結乾燥により行うことができる。
【0038】
(プレ成形工程)
プレ成形工程を経た乾燥CNF表面被覆PPを「複合シート」と称する。プレ成型工程は、前記乾燥工程で得られた前記乾燥CNF表面被覆PPをポリプロピレンの融点以下の温度で加熱(「プレ・ヒーティング」ということもある。)すると同時にその温度において前記乾燥CNF表面被覆PPをプレスする(「プレ・プレス」と称することもある。)工程である。前記プレ成形工程に使用するプレスには市販されているプレス機を用いることができる。プレス圧力は、特に制限されないが、概ね100MPa以下の範囲において行うとよい。
このプレス工程では圧力を付与することが目的ではなく、次にあげる2つの目的で行うものである。第1の目的は、加熱により融解するPP粒子の表面部分(概ね粒子表面から5μm以下の層)とPPを被覆しているCNF繊維との融合(移動・混和)を行うことを目的としている。さらに第2の目的は、融合した表面部分と隣接する別のPP粒子の同部分を融合(移動・混和)させることを目的としている。この2つの目的を達成するための最低減の圧力で十分であり、最低自己の重力以上の力で良い。圧力が強過ぎると圧力によるPP粒子の発熱により融点降下していないコア部分のPPへも影響を与えてしまう。そのため100MPa以下、好ましくは20MPa以下、さらに好ましくは2MPa以下で加圧することが望ましい。
また、この工程において上記2つの目的を達成したPPは三次元的に連結した内部構造を有することができる
ここで、プレ成型工程において、ポリプロピレンの融点以下において加熱するのは、ポリプロピレン表面とセルロースナノファイバーとを融点より低い温度で吸熱する部分融解をさせるためである。
また、融点以下において加熱するとは、樹脂にナノ天然高分子を被膜したことに起因する融点降下が生じた時の温度において加熱するということを意味する。また、別の観点からは、樹脂粒子のコア部分が軟化しない温度或いは拘束されない温度のことを意味する。
【0039】
(成形工程)
成形工程は、前記プレ成形工程で得られた複合シートを融点付近の温度において成形する工程である。
本発明のナノコンポジットを用いた成形品は、例えば、OA機器、情報・通信機器、自動車部品又は建材分野等で好適に用いることができる。
【0040】
(コンパウンド化工程)
また、プレ成形工程と成形工程の間に以下のコンパウンド工程を追加して行ってもよい。コンパウンド化工程は、前記成形工程で得られた前記複合シートを裁断する工程である。コンパウンド化工程を経た前記複合シートを「コンパウンド」と称する。なお、本工程における裁断方法は特に制限されない。各種裁断方法を使用することができる。コンパウンド化工程を実施するのは、加熱・押し出し時のPP流体形成温度を下げ、なおかつ、その流速がPP単独よりも速くする(すなわち、チクソ性を示させる)ためである。また、射出成形機に代表される成形機への供給(投入)を容易にするメリットもある。
【0041】
ここで、被膜工程から成形工程におけるポリプロピレン粒子とセルロースナノファイバーの状態変化をより理解するために、
図4及び
図5の二次元模式図、立体模式図を用いて説明する。
被膜工程において得られたCNF表面被覆PP2(PP粒子1にCNF3が吸着したもの
図4(b)、
図5(a))に対して、PPの融点以下の熱プレス圧力を加える。すると、CNF表面被覆PPの表面が溶融し、その溶融した部分5にCNFが入り込んだ状態となる。次いで、あるいは同時に、隣接するCNF表面被膜PPの溶融部分が相互に融合し始める(
図4(c)〜(d))。このとき、極小の間隙6が部分的に存在している。なお、コア部分4は、固体の状態のままである。次いで、融点以上の熱プレス圧力を加えると、前記コア部分4が溶融する。次いで、あるいは同時に、前記間隙6は、CNF表面被膜PPの相互の融合により消滅する(
図4(e)、
図5(c))。その結果、CNF8は、ナノコンポジット内にハニカム骨格状に形成される。なお、実際には、ナノコンポジット内において、CNF8は、3次元的にハニカム骨格状を形成していることは言うまでもない。次いで、冷却すると、前記コア部分4は、再度固化したコア部分7となる。
【0042】
本発明の製造方法によれば、ナノ天然高分子からなる三次元規則連結構造を有するナノコンポジットを得ることができる。ここで、
図6に、本発明における三次元規則連結構造をより理解するために、本発明に係るナノコンポジット中の樹脂を描くことが出来ないが樹脂が存在するものと想定して描いた、ナノ天然高分子のみからなる骨格構造を示した模式図を示す。この模式図から、本発明に係る三次元規則連結構造は、ハニカム状の立体構造を最小単位とすると、これが三次元的に無限に規則的に連結した構造、すなわち、ジャイロイド構造と解釈することもできる。なお、同図における骨格構造は、前記被膜工程において樹脂粒子に被膜したナノ天然高分子に由来するものである。さらに、本発明におけるナノコンポジットは、前記骨格構造が樹脂中に存在しているから、ナノ天然高分子からなるハニカム状の立体構造が樹脂中の中芯となる。
【0043】
また、本発明の製造工程を経て得られるナノコンポジットは、実質的に、セルロースナノファイバーとポリプロピレンとの2成分からなるナノコンポジットである。本発明において得られるナノコンポジットは、高強度・高弾性率に加えて高耐衝撃強度を有する。この衝撃特性はPP粒子の結晶性に由来しており、特にβ晶によるものと考えられる。なお、本発明において、「実質的に、〜2成分」とは、相溶化剤、分散剤等を添加することなく、且つ樹脂との馴染みを改善することを目的とした化学修飾を施していないセルロースナノファイバーとポリプロピレンとの2成分からなることを意味する。
【0044】
さらに、これまでの本技術以外の一般的な方法で得られるCNFのランダム配合したコンポジット樹脂の場合は、CNFが断続した状態で存在するため途切れた部分には多くの異種界面が存在し、そこにエネルギーが集中し界面剥離が生じてしまう。さらに、ランダム配合の場合は粗密の差が大きくなり、粗の部分が強度低下の原因となる。さらには、密の箇所には凝集物が存在するためこの凝集物が欠陥状態として働き応力集中を招き、強度を低下させる。これに対して三次元規則連結構造の場合は、この構造が植物細胞壁と同様に機能するため、弾性体であるCNFが変形に伴い力を受けとめ、さらにCNFが足場となり、相手樹脂の結晶化などを促進させるため、効果的に補強効果を発揮することができる。またポリプロピレンの表面を被覆するCNF膜は完全な壁ではなく、繊維ネットワークに由来する無数の穴の開いた状態であり、そのために上記の結晶化はCNF壁で途切れることなく隣接するポリプロピレンとの間で連続した結晶として存在することもできる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づき、本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
ACC法によって得られた竹繊維由来の0.01%CNF分散液、バクテリア由来の0.3wt%BNC分散液に対するACC処理物及び木材由来の1.5wt%分散水に対するACC処理物とPP粒子、LLDPE(低密度ポリエチレン)粒子、HDPE粒子,PS(ポリスチレン)粒子、PVC(ポリ塩化ビニル)粒子、PET、PC(ポリカーボネート)粒子及びPLA粒子(全ての粒子は直径500μm)を振とう機を用いて30分間混合した。次いで、金属ふるい(孔直径180μm)を用いて未吸着のCNFと水分を除去した。次いで、50℃に設定した乾燥機を用いて乾燥させた。
乾燥後の検体(PP particles coated with ACC-nanocellulose)とNeat PPとをFE-SEMを用いて観察したところ、すべての粒子の表面に、CNFが被膜している様子を確認することができた。PP粒子についての電子顕微鏡写真を
図7に示す。また、
図8に、ACC−CNFで被膜したPP試料を0.001%カルコフロールホワイトで染色し、共焦点レーザー走査型顕微鏡用いて撮影した図を示す。断面図よりPPによる膜厚が5μm以下であることが分かった。
【0047】
(実施例2)
−示差走査熱量測定−
実施例1の乾燥後の検体を120℃〜180℃の範囲において示差走査熱量測定を行った。その結果、竹繊維由来のCNFで表面が被膜されたPP粒子は、PPの融点(165℃)以前の155℃で一部が融解した。測定結果を
図9に示す。
【0048】
(実施例3)
実施例1の乾燥後の検体及びポリプロピレン粒子を155℃(20MPa、5分)にてプレス(プレ・プレス)を行い光学顕微鏡及び共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。次いで、180℃(20MPa、3分)にて熱プレスを行い、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。その結果、PP粒子表面が融解し、CNF凝集が軽減されたことが確認できた。これにより、融点より低い温度で吸熱されることが明らかとなった。このときの光学顕微鏡写真をポリプロピレン粒子と共に
図10に示す。また、共焦点レーザー顕微鏡による155℃、180℃の観察結果を
図11、
図12に示す。ここで、
図4の二次元模式図と対応させると、
図11と対応するのは、
図4(d)であり、
図12と対応するのは、
図4(e)である。
図11において、CNF3,コア部分4、極小の間隙6をそれぞれ確認することができる。また、
図12において、
図11において存在していた極小の間隙は確認されない。また、コア部分は溶解した後、再度固化しており、
図11とは明らかに異なる状態であることが確認できる。また、
図12から本発明に係るナノコンポジットは、ハニカム状の構造を有していることが確認できる。
【0049】
(実施例4)
ACC法によって得られた竹繊維由来のCNF分散液を0.04wt%となるように調製し、PP粒子(直径500μm)を添加した後、振とう機を用いて30分間混合した。次いで、金属ふるい(孔直径180μm)を用いて未吸着のCNFと水分を除去した。次いで、50℃に設定した乾燥機を用いて乾燥させた。次いで、プレ・ヒーティングと同時にプレ・プレス(155℃、20MPa,5分)を行った。次いで、熱プレス(180℃、20MPa、5分)を行い試験片を得た。
【0050】
(実施例5)
広葉樹由来のCNF分散液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして試験片を得た。
【0051】
(実施例6)
バクテリアナノセルロースを用いたこと以外は、実施例4と同様にして試験片を得た。
【0052】
(比較例1)
実施例4と同一のPP粒子を使用し、熱プレス(200℃、20MPa、5分)を行い、試験片を得た。
【0053】
−引張試験−
以上の本発明の実施例4〜6、比較例1の試験片を厚み0.8−0.9mm、幅7mm、長さ30mmの大きさに調整し、引張試験によって力学的特性の比較を行い、その機能性の差異を検証した。引張試験は卓上型材料試験機(STA−1225:(株)オリエンテック製)を使用し、荷重レンジ500N(20%)、つかみ間長20mm、試験引張速度1mm/min、記録速度50mm/minの条件で行った。測定結果を表1、
図13に示す。なお、括弧内の数値は、標準偏差である。
【0054】
【表1】
【0055】
表1よりから分かるように、実施例4〜実施例6のヤング率及び引張強度は、比較例1に対して大幅に増加している。CNF等の配合量が非常に少ない量であるにも関わらず、引張強度等の値の増加は、非常に驚くべき結果である。また、通常のポリプロピレンの射出成型時の温度は200℃から290℃であるから、本願発明に係るナノコンポジットの製造方法は、低エネルギー樹脂成型化が可能であることも明らかとなった。
【0056】
(実施例7)
ACC法によって得られた竹繊維由来のCNF分散液を0.04wt%となるように調製し、PP粒子(直径500μm)を添加した後、振とう機を用いて30分間混合した。次いで、金属ふるい(孔直径180μm)を用いて未吸着のCNFと水分を除去した。次いで、50℃に設定した乾燥機を用いて乾燥させた。次いで、プレ・ヒーティングと同時にプレ・プレス(155℃、20MPa,5分)を行った。次いで、200℃の炉中で10分間保持し、次いで、80℃のダンベル金型へ一軸射出を行い、次いで、60℃まで冷却して取り出した後、試験片として切り出した。なお、使用したダンベル型金型の加重受け面積は126cm
2(21cm×6cm)、その成形物の面積は、23.5cm
2である。
【0057】
(実施例8)
ACC法によって得られた竹繊維由来のCNF分散液を0.04wt%となるように調製し、PP粒子(直径500μm)を添加した後振とう機を用いて30分間混合した。次いで、金属ふるい(孔直径180μm)を用いて未吸着のCNFと水分を除去した。次いで、50℃に設定した乾燥機を用いて乾燥させた。次いで、200℃の炉中で10分間保持し、次いで、80℃のダンベル金型へ一軸射出を行い、次いで、60℃まで冷却して取り出した後、試験片として切り出した。なお、使用したダンベル型金型の加重受け面積は126cm
2(21cm×6cm)、その成形物の面積は、23.5cm
2である。
【0058】
(比較例2)
実施例7と同一のPP粒子を使用し、200℃の炉中で10分間保持し、次いで、80℃のダンベル金型へ一軸射出を行い、次いで、60℃まで冷却して取り出した後、試験片として切り出した。
【0059】
−衝撃試験−
実施例7,8及び比較例2の試験片を、JIS K7111−1:2012に従い、アイゾット/シャルピー衝撃試験機(株式会社安田精機製作所 型式「195−R」、ハンマー容量:5.5J)を用いて衝撃試験を行った。比較例2を基準とした結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2よりから分かるように、実施例7、実施例8の衝撃値は、比較例2に対して大幅に増加している。1万分の1添加のCNFによる被膜で無添加PPよりも衝撃性が約50%弱向上することが明らかとなった。従って、本発明に係る製造方法は、射出成形においても有効であることが明らかとなった。そのため、他の樹脂と混ぜて利用することも可能である。
【0062】
(実施例9)
ACC法によって得られた竹繊維由来のCNF分散液を0.04wt%となるように調製し、PP粒子(直径500μm)を添加した後振とう機を用いて30分間混合した。次いで、金属ふるい(孔直径180μm)を用いて未吸着のCNFと水分を除去した。次いで、50℃に設定した乾燥機を用いて乾燥させた。次いで、プレ・ヒーティングと同時にプレ・プレス(155℃、20MPa,5分)を行った。次いで、金型プレス機に受け皿(焼結金属(アルミ製)300mmポア)を設置し、200℃、2MPaの条件下で保持し、次いで、室温まで水冷した後、試験片とした。なお、使用した金型の加重受け面積は80cm
2(16cm×5cm)、その成形物の面積は、8cm
2であった。
【0063】
(比較例3)
実施例9と同一のPP粒子を使用し、200℃の炉中で10分間保持し、次いで、金型プレス機に受け皿(焼結金属(アルミ製)300mmポア)を設置し、200℃、2MPaの条件下で保持し、次いで、室温まで水冷した後、試験片とした。なお、使用した金型の加重受け面積は80cm
2(16cm×5cm)、その成形物の面積は、8cm
2であった。
【0064】
−衝撃試験−
実施例7,8及び比較例2と同様に、実施例9及び比較例3について衝撃試験を行った。比較例3を基準とした結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
表3よりから分かるように、実施例9の衝撃値は、比較例2に対して大幅に増加している。したがって、ナノコンポジット内にCNFハニカム構造を保持したまま、衝撃性が約30%向上することが明らかとなった。