特許第6979086号(P6979086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤフー株式会社の特許一覧

特許6979086情報処理装置、情報処理方法および情報処理プログラム
<>
  • 特許6979086-情報処理装置、情報処理方法および情報処理プログラム 図000002
  • 特許6979086-情報処理装置、情報処理方法および情報処理プログラム 図000003
  • 特許6979086-情報処理装置、情報処理方法および情報処理プログラム 図000004
  • 特許6979086-情報処理装置、情報処理方法および情報処理プログラム 図000005
  • 特許6979086-情報処理装置、情報処理方法および情報処理プログラム 図000006
  • 特許6979086-情報処理装置、情報処理方法および情報処理プログラム 図000007
  • 特許6979086-情報処理装置、情報処理方法および情報処理プログラム 図000008
  • 特許6979086-情報処理装置、情報処理方法および情報処理プログラム 図000009
  • 特許6979086-情報処理装置、情報処理方法および情報処理プログラム 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979086
(24)【登録日】2021年11月16日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法および情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20211125BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   G06F3/041 560
   G06F3/041 512
   G06F3/044 120
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-2685(P2020-2685)
(22)【出願日】2020年1月10日
(65)【公開番号】特開2021-111124(P2021-111124A)
(43)【公開日】2021年8月2日
【審査請求日】2020年3月2日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)電気通信回線を通じた公開 掲載日 令和元年9月18日 掲載アドレス https://www.wiss.org/WISS2019Proceedings/oral/15.pdf (2)集会による公開 開催日 令和元年9月26日 場所 ロイヤルホテル長野(長野県長野市) 集会名 WISS 2019:第27回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ (3)電気通信回線を通じた公開 掲載日 令和元年9月26日 掲載アドレス https://www.youtube.com/watch?v=rbeSv9fSmDE (4)電気通信回線を通じた公開 掲載日 令和元年10月3日 掲載アドレス https://research−lab.yahoo.co.jp/hci/20190925_ikematsu.html
(73)【特許権者】
【識別番号】319013263
【氏名又は名称】ヤフー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】池松 香
(72)【発明者】
【氏名】山中 祥太
(72)【発明者】
【氏名】坪内 孝太
【審査官】 滝谷 亮一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−041021(JP,A)
【文献】 特開2013−127755(JP,A)
【文献】 特開2010−061351(JP,A)
【文献】 特開2015−018538(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/119347(WO,A1)
【文献】 特開2012−242989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
G06F 3/044
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タッチ面に対する操作体の近接に応じた電流値を出力するタッチセンサから前記電流値を取得する電流値取得部と、
前記電流値に基づいて判定値を算出する判定値算出部と、
前記タッチ面に対する前記操作体の接触開始に応じて前記判定値が増加を開始する時点を待機開始時点として検出し、前記待機開始時点から所定の待機時間が経過したか否かを判定する待機判定部と、
前記待機判定部により前記待機時間が経過したと判定された場合、前記待機時間の経過期間における前記判定値の変化に関する判定パラメータを算出するパラメータ算出部と、
前記判定パラメータに基づいて、前記操作体の種類を判別する操作体判別部と、を備える
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の情報処理装置において、
前記判定値は、前記タッチ面におけるタッチ点に対応する単位領域の電流値である
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の情報処理装置において、
前記待機時間は、60msec以上かつ100msec以下に設定されている
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の情報処理装置において、
前記パラメータ算出部は、前記判定パラメータとして、前記判定値の最大値、前記判定値の最大変化率、または、前記判定値の積分値のうち、少なくとも1つ以上を算出する
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の情報処理装置において、
前記電流値取得部は、前記タッチセンサから前記タッチ面の単位領域ごとの前記電流値を取得し、
前記パラメータ算出部は、前記待機判定部により前記待機時間が経過したと判定された場合、前記単位領域ごとの前記電流値の分布、または、所定値以上の前記電流値に対応する前記単位領域の数の少なくとも一方を判定補助パラメータとして算出し、
前記操作体判別部は、前記判定パラメータおよび前記判定補助パラメータに基づいて、前記操作体の種類を判別する
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項6】
コンピューターにより、タッチセンサのタッチ面に接触する操作体の種類を判別する情報処理方法であって、
前記コンピューターは、電流値取得部、判定値算出部、待機判定部、パラメータ算出部および操作体判別部を備え、
前記電流値取得部が、タッチ面に対する前記操作体の近接に応じた電流値を出力するタッチセンサから前記電流値を取得するステップと、
前記判定値算出部が、前記電流値に基づいて判定値を算出するステップと、
前記待機判定部が、前記タッチ面に対する前記操作体の接触開始に応じて前記判定値が増加を開始する時点を待機開始時点として検出し、前記待機開始時点から所定の待機時間が経過したか否かを判定するステップと、
前記パラメータ算出部が、前記待機判定部により前記待機時間が経過したと判定された場合、前記待機時間の経過期間における前記判定値の変化に関する判定パラメータを算出するステップと、
前記操作体判別部が、前記判定パラメータに基づいて、前記操作体の種類を判別するステップと、を実施することを特徴とする情報処理方法。
【請求項7】
コンピューターにより読み取り実行可能な情報処理プログラムであって、
前記コンピューターを請求項1から請求項のいずれか1項に記載の情報処理装置として機能させることを特徴とする情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチセンサを介してユーザの入力操作を受け付ける情報処理装置、情報処理方法および情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静電容量方式のタッチセンサを介してユーザの入力操作を検出し、当該入力操作に応じた処理を実施する情報処理装置が存在する。このような情報処理装置では、ユーザの利便性向上のために、識別可能な入力操作の種類を拡充することが検討されている。
例えば、特許文献1に開示されるタッチパネル制御装置では、電気的特性の異なる複数種類の操作体(具体的には指と爪)を想定し、操作体の種類ごとに異なる入力操作を割り当てている。具体的には、操作体がタッチ面に接触したときに生じる静電容量の変動量を検出し、当該変動量のピーク値を閾値と比較することによって操作体の種類を判定し、当該操作体の種類に応じた入力操作を認識している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−127755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前述した特許文献1に開示される技術には以下の問題がある。
特許文献1では、操作体の種類の判定を行う際に静電容量の変動量のピーク値を利用している。このピーク値を取得するためには、操作体がタッチ面に接触開始してから接触終了するまでのタッチ期間に検出される静電容量の変動量を示すデータが必要であり、このタッチ期間、操作体の種類を判定する判定処理は待機状態になる。このため、入力操作を識別する処理をタッチ期間に実施することができず、操作体がタッチ面に接触開始してから入力操作に対応する処理が実行されるまでの遅延時間が長くなる。また、コンテンツのドラッグ操作や画像の描画操作など、操作体がタッチ面に接触しながら移動するような入力操作を行う場合、操作体がタッチ面に対する接触状態を維持している間、当該入力操作に対応する処理を行うことができないため遅延が発生する。
【0005】
本発明は、識別可能な入力操作の種類を拡充しつつ遅延時間を短縮可能な情報処理装置、情報処理方法および情報処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の情報処理装置は、タッチ面に対する操作体の近接に応じた電流値を出力するタッチセンサから前記電流値を取得する電流値取得部と、前記電流値に基づいて判定値を算出する判定値算出部と、前記判定値が増加を開始する時点を待機開始時点として検出し、前記待機開始時点から所定の待機時間が経過したか否かを判定する待機判定部と、前記待機判定部により前記待機時間が経過したと判定された場合、前記待機時間の経過期間における前記判定値の変化に関する判定パラメータを算出するパラメータ算出部と、前記判定パラメータに基づいて、前記操作体の種類を判別する操作体判別部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、操作体がタッチセンサのタッチ面に対して接触開始することに伴って、タッチセンサから出力される電流値が増加開始する。そこで、本発明では、タッチセンサから取得された電流値に基づいて算出される判定値が増加開始する時点を待機開始時点として検出し、待機開始時点から所定の待機時間が経過した場合に、操作体の種類を判別する処理(操作体判別処理)を行う。
この操作体判別処理には、待機時間の経過期間における判定値の変化に関する判定パラメータが利用される。タッチセンサから取得される電流値に基づく判定値は、操作体の種類ごとに、待機時間が経過する期間内で異なる変化を示すため、この変化に関する判定パラメータを用いることにより、操作体の種類を好適に判別できる。これにより、操作体の種類に応じた入力操作を認識することができ、識別可能な入力操作の種類を拡充することができる。
また、本発明の操作体判別処理は、前述したように、待機開始時点から所定の待機時間が経過した場合に行われ、タッチ面に対する操作体の接触が終了する(操作体がタッチ面から離れる)まで待機する必要がない。よって、操作体がタッチ面に接触開始してから入力操作に対応する処理が実行されるまでの遅延時間を短縮化できる。また、操作体がタッチ面に対する接触状態を維持している間であっても、当該入力操作に対応する処理をリアルタイムに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態にかかるタッチ入力装置を示すブロック図。
図2】前記実施形態のタッチセンサの電極構造を示す模式図。
図3】前記実施形態のタッチセンサの電極交点における等価回路を示す図。
図4】前記実施形態のタッチセンサの電極交点における等価回路を示す図。
図5】前記実施形態にかかる情報処理方法の流れを説明するフローチャート。
図6】前記実施形態のタッチセンサから出力される電流値に基づく判定値の時間変化を示すグラフ。
図7】実施例および比較例における操作体の種別判別のタイミングの違いを説明する図。
図8】前記実施形態のタッチセンサの単位領域ごとの電流値を示す模式図。
図9】前記実施形態のタッチセンサの単位領域ごとの電流値を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態のタッチ入力装置1は、操作体が接触可能なタッチ面210を有するタッチセンサ2と、タッチセンサ2を介して入力される操作に応じた各種処理を行う情報処理装置10とを備える。
なお、タッチ入力装置1は、例えばパーソナルコンピュータやスマートフォンなどの電子機器に用いられる。このタッチセンサ2は、電子機器が有する表示部に重畳して配置されるタッチパネルを構成してもよいし、当該表示部とは別に配置されるタッチパッドを構成してもよい。
【0010】
〔タッチセンサ〕
本実施形態のタッチセンサ2は、タッチ検出方式として、投影型静電容量方式のうちの相互容量方式を採用しており、タッチ面210に沿って配置される電極構造を有するタッチ部21と、タッチ部21に駆動信号Saを送信する送信部22と、タッチ部21を介して駆動信号Saを受信する受信部23とを有する。
【0011】
図2は、タッチセンサ2の具体的構造を示す模式図である。
図2に示すように、タッチ部21は、一方向に沿って配置された複数の送信電極Tx(x=1、2、・・・n)と、当該一方向に直交する方向に沿って配置された複数の受信電極Rx(x=1、2、・・・n)とを有する。送信電極Txと受信電極Rxとが交差する電極交点Piは、タッチ面210の単位領域に対応し、各電極交点Piには静電容量Cが形成される。
【0012】
送信部22は、複数の送信電極Txに対して順に、交流信号である駆動信号Saを送信する。
受信部23は、いずれかの送信電極Txに駆動信号Saが送信されている間、複数の受信電極Rxから順に駆動信号Saを受信する。これにより、受信部23は、送信電極Txから受信電極Rxへ各電極交点Piを経由して伝送された駆動信号Saを順に受信する。
【0013】
ここで、指などの接地された操作体3が電極交点Piに近接すると、操作体3に応じた容量が静電容量Cに割り込んで結合し、電極交点Piから操作体3を介して駆動信号Saの電流の一部がグランドへ流出する。これにより、受信部23が受信する駆動信号Saのレベル(電位)が減少する。
そこで、受信部23は、各電極交点Piを介して受信した駆動信号Saの電圧を検出し、駆動信号Saの検出電圧と送信部22による駆動信号Saの発振電圧との差、すなわち、駆動信号Saのレベル変化量を算出する。そして、受信部23は、電極交点Piごとの駆動信号Saのレベル変化量に対応する電流値を示す検出信号Sdを生成し、情報処理装置10に出力する。
【0014】
〔情報処理装置〕
情報処理装置10は、コンピューターにより構成され、記憶部11および制御部12等を含んで構成されている。
記憶部11は、メモリまたはハードディスク等により構成されたデータ記録装置である。記憶部11には、情報処理装置10を制御するための情報処理プログラム(ソフトウェア)が記録されている。
【0015】
制御部12は、CPU(Central Processing Unit)等の演算回路およびRAM(Random Access Memory)等の記録回路により構成される。制御部12は、記憶部11等に記録されている情報処理プログラムをRAMに展開し、RAMに展開されたプログラムとの協働により各種処理を実行する。そして、制御部12は、記憶部11に記録された情報処理プログラムを読み込み実行することで、電流値取得部121、タッチ検出部122、判定値算出部123、待機判定部124、パラメータ算出部125、操作体判別部126、入力操作識別部127、出力制御部128として機能する。
【0016】
電流値取得部121は、受信部23から出力される検出信号Sdを所定周期で取得する。
タッチ検出部122は、電流値取得部121により取得された検出信号Sdに基づいて、タッチセンサ2に対する操作体3のタッチ点を検出し、当該タッチ点の座標情報を算出する。例えば、タッチ検出部122は、検出信号Sdの出力値が閾値以上である単位領域が所定数以上である場合にタッチ点を検出し、検出信号Sdが閾値以上である複数の単位領域の重心の座標情報をタッチ点の座標情報として算出する。
【0017】
判定値算出部123は、電流値取得部121により取得された検出信号Sdの電流値に基づいて、判定値Iaを算出する。例えば、判定値算出部123は、タッチ面210が有する複数の単位領域についての検出信号Sdの合計電流値を判定値Iaとして算出してもよい。あるいは、タッチ検出部122により検出されたタッチ点に対応する検出信号Sdの電流値を判定値Iaとして算出してもよい。その他、判定値算出部123は、検出信号Sdの電流値に基づく値を判定値Iaとして利用できる。
【0018】
待機判定部124は、判定値Iaが増加を開始する時点(判定値Iaが閾値以上となる時点)を待機開始時点Pwsとして検出し、待機開始時点Pwsからの経過時間を計測することにより、待機開始時点Pwsから所定の待機時間Twが経過したか否かを判定する。
パラメータ算出部125は、待機判定部124により待機時間Twが経過したと判定された場合、待機時間Twの経過期間における判定値Iaの変化に関する判定パラメータを算出する。なお、判定パラメータの詳細は後述する。
操作体判別部126は、パラメータ算出部125により算出された判定パラメータに基づいて、操作体3の種類を判別する。
【0019】
入力操作識別部127は、操作体判別部126により判別された操作体3の種類に応じて、入力操作を識別する。
出力制御部128は、入力操作識別部127により識別された入力操作に応じた処理を実行する。
【0020】
〔操作体〕
本実施形態において、操作体3の種類とは、電気的特性ごとに分けられる分類であり、操作体3の種類が異なる場合、タッチセンサ2から操作体3を介してグランドに至るまでの経路のインピーダンスが異なる。特に、本実施形態では、操作体3の種類として、ユーザの手指の内側(指)および外側(爪)を想定している。
【0021】
図3は、操作体3が指である場合に電極交点Piに形成される等価回路を示す図であり、図4は、操作体3が爪である場合に電極交点Piに形成される等価回路を示す図である。なお、図3図4において、Z0〜Z5は、電極交点Piの周囲に存在する物質のインピーダンスであり、抵抗とコンデンサからなる等価回路に相当する。
【0022】
図3図4に示すように、送信電極Txは、インピーダンスZ4を経由して接地され、受信電極Rxは、インピーダンスZ3を経由して接地され、送信電極Txおよび受信電極Rxは、インピーダンスZ0により相互に接続される。
ここで、指および爪のいずれの操作体3も電極交点Piにタッチしていない状態では、送信電極Txと受信電極Rxとの電気的結合はインピーダンスZ0のみであり、送信電極Txから受信電極Rxへ、インピーダンスZ0を介して駆動信号Saが伝達される。
【0023】
図3に示すように、操作体3(指)がある電極交点Piにタッチすると,送信電極Txと受信電極Rxとは、タッチ面210および指の表面などのインピーダンスZ1,Z2を介して接続されると共に、人体などのインピーダンスZ5を経由して接地される。
これにより、送信電極Txから駆動信号Saの一部がグランドへと流出し、受信電極Rxへ伝送される駆動信号Saのレベルは低下する。これにより、受信部23から電極交点Piに対応して出力される検出信号Sdは増加する。
【0024】
一方、図4に示すように、操作体3(爪)がある電極交点Piにタッチすると,送信電極Txおよび受信電極Rxは、タッチ面210および指の表面などのインピーダンスZ1,Z2を介して接続されると共に、爪のインピーダンスZ6を経由した後に人体などのインピーダンスZ5を経由して接地される。
これにより、送信電極Txから駆動信号Saの一部がグランドへと流出し、受信電極Rxへ伝送される駆動信号Saのレベルは低下する。ここで、操作体3が指である場合と比較して、爪のインピーダンスZ6の分、グランドへ流出する駆動信号Sa量は減少する。これにより、受信部23から電極交点Piに対応して出力される検出信号Sdは、操作体3が指である場合よりも減少する。
【0025】
[情報処理方法]
情報処理装置10による入力操作の識別処理の流れについて図5のフローチャートを参照して説明する。なお、情報処理装置10の稼働中、電流値取得部121は、受信部23から出力される検出信号Sdを所定周期で取得し、判定値算出部123は、検出信号Sdが取得されるごとに判定値Iaを算出して記憶部11に記憶させるものとする。
【0026】
まず、待機判定部124は、判定値Iaが閾値Th以上になったか否かを判定することにより、待機開始時点Pwsを検出したか否かを判定する(ステップS1)。ここで、閾値Thは、ノイズによる誤判定を防ぎつつ、タッチセンサ2に対する操作体3の接触開始に応じて判定値Iaが増加を開始する時点を待機開始時点Pwsとして検出できるように設定される。
【0027】
ステップS1でYesの場合、待機判定部124は待機開始時点Pwsを記憶部11に記憶させる。また、待機判定部124は、待機開始時点Pwsからの経過時間を計測し、待機開始時点Pwsから所定の待機時間Twが経過したか否かを判定する(ステップS2)。なお、待機時間Twは、例えば60〜100msecの範囲の任意の時間、好ましくは60msecに設定されている。
待機判定部124は、待機時間Twが経過したと判定した場合(ステップS2;Yesの場合)、待機時間Twの終了時点を待機終了時点Pweとして記憶部11に記憶させる。その後、フローはステップS4に進む。
【0028】
なお、一般なシングルタップ操作のタッチ継続時間は150〜200msec程度である。よって、操作体3がどのようなタッチ操作を行う場合であっても、タッチ継続時間内に待機時間Tw(例えば60〜100msec)が経過する可能性が高い。しかし、待機時間Twが経過するよりも早い時点でタッチが終了する可能性も存在する。
【0029】
そこで、待機開始時点Pwsから待機時間Twが経過していない場合(ステップS2でNoの場合)、待機判定部124は、操作体3のタッチが終了しているか否かを判定する(ステップS3)。操作体3のタッチが終了している場合(ステップS3;Yesの場合)、待機判定部124は、タッチが終了していると判定した時点を待機終了時点Pweとして記憶部11に記憶させる。その後、フローはステップS4に進む。
一方、操作体3のタッチが終了していない場合(ステップS3;Noの場合)、フローはステップS2に戻る。
なお、待機判定部124は、判定値Iaが閾値Th以上から閾値Th未満になった場合、操作体3のタッチが終了していると判定できる。
【0030】
ステップS4において、パラメータ算出部125は、待機開始時点Pwsから待機終了時点Pweまでの期間における判定値Iaに関する判定パラメータを算出する。この判定パラメータについて、図6を参照して説明する。図6は、待機開始時点Pwsからの判定値Iaの時間変化を示すグラフであり、待機時間Twが60msecである例を示している。
【0031】
図6に示すように、タッチセンサ2に対して操作体3が近接する近接段階(待機開始時点Pwsから40msec経過時点)では、操作体3の種類間の判定値Iaの差異が生じにくいが、タッチセンサ2に対して操作体3が接触し始めた接触初期段階(40msec経過時点から60msec経過時点)では、操作体3の種類毎の判定値Iaの変化の様子が明らかに異なる。具体的には、操作体3が指である場合の判定値Iaは、操作体3が爪である場合の判定値Iaよりも急激に増大する。
以上により、パラメータ算出部125は、操作体3の種別を判別可能な判定パラメータとして、待機時間Twにおける判定値Iaの最大値、最大変化率、または、積分値のうち、少なくとも1つ以上を算出すればよい。
【0032】
その後、操作体判別部126は、パラメータ算出部125により算出された判定パラメータに基づいて、操作体3の種類、すなわち操作体3が指であるか爪であるかを判別する(ステップS5;操作体判別処理)。
例えば、操作体判別部126は、判定パラメータが閾値以上である場合に操作体3が指であると判別し、閾値未満である場合に操作体3が爪であると判別することができる。
また、複数の判定パラメータを利用する場合、操作体判別部126は、所定数以上の判定パラメータがそれぞれ閾値以上である場合に操作体3が指であると判別し、閾値以上である判定パラメータの数が所定数未満である場合に操作体3が爪であると判定することができる。あるいは、操作体判別部126は、すべての判定パラメータがそれぞれ閾値以上である場合に操作体3が指であると判別し、それ以外の場合に操作体3が爪であると判定してもよい。
【0033】
入力操作識別部127は、操作体判別部126により判別された操作体3の種類と、タッチ検出部122により検出されたタッチ点の座標情報(移動情報を含む)とに基づいて、入力操作を識別する(ステップS6)。なお、タッチ検出部122は、ステップS6より前の適当なタイミングで、タッチ点を検出し、当該タッチ点の座標情報を算出すればよい。
【0034】
ステップS6の例として、入力操作識別部127は、タッチ点の座標情報(移動情報を含む)に基づいてタッチ操作の種類(例えばタップ操作、スワイプ操作など)を判別し、操作体3の種類とタッチ操作の種類との組み合わせに基づいて、テーブル等を参照することにより、入力操作を識別できる。
また、タッチセンサ2のタッチ部21が複数のコマンドエリアを含むタッチパッドを構成する場合、入力操作識別部127は、操作体3が指の場合には、入力操作としてポインタ操作を識別し、操作体3が爪の場合には、タッチされたコマンドエリアに対応付けられている入力操作を識別することができる。
【0035】
以上により、情報処理装置10による入力操作の識別処理が終了する。その後、出力制御部128は、入力操作識別部127により識別された入力操作に応じた処理を実行することができる。
【0036】
〔効果〕
本実施形態では、前述したように、操作体3がタッチセンサ2のタッチ面210に対して接触開始することに伴って、タッチセンサ2から出力される検出信号Sdの電流値が増加開始する。そこで、タッチセンサ2から取得された電流値に基づいて算出される判定値Iaが増加開始する時点を待機開始時点Pwsとして検出し、待機開始時点Pwsから所定の待機時間Twが経過した場合に、操作体3の種類を判別する処理(操作体判別処理)を行う。
この操作体判別処理には、待機時間Twの経過期間における判定値Iaの変化に関する判定パラメータが利用される。タッチセンサ2から取得される電流値に基づく判定値Iaは、操作体3の種類ごとに、待機開始時点Pwsから所定の待機時間Tw内で異なる変化を示すため、この変化に関する判定パラメータを用いることにより、操作体3の種類を好適に判別できる。これにより、操作体3の種類に応じた入力操作を認識することができ、識別可能な入力操作の種類を拡充することができる。
また、本実施形態の操作体判別処理は、前述したように、待機開始時点Pwsから所定の待機時間Twが経過した場合に行われ、操作体3のタッチが終了するまで待機する必要がない。よって、操作体3がタッチ面210に接触開始してから入力操作に対応する処理が実行されるまでの遅延時間を短縮化できる。また、操作体3がタッチ面210に対する接触状態を維持している間であっても、当該入力操作に対応するリアルタイムな処理を行うことができる。
【0037】
例えば、図7は、本実施形態の効果を説明するために、本実施形態の実施例および比較例において、操作体3がタッチセンサ2に接触開始する時刻(接触開始時刻t1)から操作体判別処理が行われる時刻(操作体判別時刻t2)までの遅延時間T1,T2を示している。なお、本実施形態の待機開始時点Pwsは、接触開始時刻t1にほぼ等しいものとする。
【0038】
図7に示すように、比較例では、従来技術と同様、タッチセンサ2の特定の単位領域に対応する検出信号Sdのピーク値と閾値とを比較することにより、操作体判別処理を行う。この場合、操作体判別時刻t2は、接触終了時刻t3の後になる。このため、タッチ操作によるタッチ継続時間が長いほど、遅延時間T1が長くなる。
一方、実施例では、操作体判別時刻t2は、接触終了時刻t3に関わらず、接触開始時刻t1から所定の待機時間Twが経過した後になる。このため、実施例の遅延時間T2を比較例の遅延時間T1よりも短くすることができる。また、タッチ操作によるタッチ継続時間が長くなったとしても、遅延時間T2は一定のままである。よって、実施例では、比較例と比べてリアルタイムな処理が可能である。
【0039】
本実施形態において、待機時間Twは、例えば60〜100msecの間に設定されている。すなわち、本実施形態の待機時間Twは、一般的なシングルタップ操作のタッチ継続時間(150〜200msec)以下であって、かつ、人間が認識可能な遅延時間(100〜200msec)以下に設定されている。このため、本実施形態では、操作体3の種類に応じた処理に対して、ユーザが遅延を感じることを抑制できる。
また、前述したように、本実施形態の待機時間Twは、60msec以上に設定されているため、操作体3の種類による判定値Iaの差異が待機時間Tw内に現れる。このため、待機時間Twの経過期間内の判定値Iaの変化に関する判定パラメータを用いることにより、操作体3の種類を好適に判別できる。
【0040】
本実施形態において、パラメータ算出部125は、判定パラメータとして、判定値Iaの最大値、判定値Iaの最大変化率、または、判定値Iaの積分値のうち、少なくとも1つ以上を算出する。これにより、操作体3の種類を好適に判別できる。
【0041】
〔第2実施形態〕
前述した第1実施形態の操作体判別処理では、判定値Iaの変化に関する判定パラメータを利用することで、操作体3の種類を判別しているが、第2実施形態では、他の情報に関する判定補助パラメータを併用することで操作体3の種類を判別する。判定補助パラメータについて、図8図9を参照して説明する。
【0042】
図8図9は、タッチセンサ2のタッチ面210の単位領域ごとの検出信号Sdの電流値を示す図である。図8図9では、操作体3がタッチ面210に接触した場合の待機終了時点Pweにおける電流値を示しており、電流値が大きいほど、白く表現されている。
操作体3の種別が指である場合(図8参照)、操作体3の種別が爪である場合(図9参照)と比較して、高レベルの電流値を示す単位領域が観察されるだけでなく、所定値以上の電流値を示す単位領域の数が多い。なお、所定値とは、操作体3が近接していない単位領域との区別が可能な程度の値に設定できる。
【0043】
よって、パラメータ算出部125は、操作体3の種別を判別することを補助する判定補助パラメータとして、待機終了時点Pweにおける単位領域ごとの電流値の分布、または、待機終了時点Pweにおいて所定値以上の電流値が算出される単位領域の数の少なくとも一方を利用できる。
【0044】
なお、図8図9を参照した説明では、待機終了時点Pweの単位領域ごとの電流値のデータに基づいて、判定補助パラメータを算出しているが、待機時間Twの経過期間中の電流値を単位領域ごとに積算したデータに基づいて、判定補助パラメータを算出してもよい。
また、操作体3の種別が指である場合、操作体3の種別が爪である場合と比較して、ノイズとして電流値が現れる単位領域の数も多くなる。このため、このようなノイズを起因とする電流値を判定補助パラメータの一種として利用してもよい。
【0045】
操作体判別部126は、判定パラメータおよび判定補助パラメータに基づいて、操作体3の種類、すなわち操作体3が指であるか爪であるかを判別する。ここで、操作体判別部126は、判定補助パラメータについて、判定パラメータと同様に閾値との比較を行い、各パラメータと各閾値との比較結果に基づいて、操作体3の種類を判別できる。
また、各パラメータと各閾値との比較結果に基づく評価値を求め、当該評価値に対して各パラメータの重要度に応じた重み付けを行い、評価値の合計に基づいて操作体3の種類を判別してもよい。
以上のように、判定パラメータだけでなく、判定補助パラメータを用いることにより、操作体3の種類をより高精度に判別できる。
【0046】
〔変形例〕
前記実施形態では、操作体判別部126が各種パラメータと各閾値と比較することにより、操作体3を判別している。このような前記実施形態に対し、その変形例として、AIを用いた機械学習を利用した操作体判別処理を行ってもよい。例えば、情報処理装置10は、操作体3のタッチ操作ごとの各種パラメータを入力とし、操作体3の種類を出力としたモデルを機械学習により生成してもよい。これにより、操作体3の特性(例えば指や爪の形状等)に合わせて操作体3の種類を高精度に判別することができる。
【0047】
また、前記実施形態では、操作体3の種類として、ユーザの手指の指と爪とを例示しているが、本発明はこれに限られず、電気的特性の異なる複数種類の操作体3を利用できる。また、3種類以上の操作体3を利用する場合には、操作体3の種類ごとに閾値を設定してもよい。
また、前記実施形態では、タッチ部21が複数の電極交点Piを有することにより、タッチ面210が複数の単位領域を有するが、本発明はこれに限られず、少なくとも1つの電極交点Pi(単位領域)があればよい。
【0048】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造および手順は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などに適宜変更できる。
【符号の説明】
【0049】
1…タッチ入力装置、10…情報処理装置、11…記憶部、12…制御部、121…電流値取得部、122…タッチ検出部、123…判定値算出部、124…待機判定部、125…パラメータ算出部、126…操作体判別部、127…入力操作識別部、128…出力制御部、2…タッチセンサ、21…タッチ部、210…タッチ面、22…送信部、23…受信部、3…操作体、C…静電容量、Ia…判定値、Pi…電極交点、Pwe…待機終了時点、Pws…待機開始時点、Rx…受信電極、Tw…待機時間、Tx…送信電極。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9