(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を、車両用のベルト式の無段変速機1の前後進切替機構2が備える遊星歯車機構のリングギアの場合を例に挙げて説明する。
【0009】
図1は、ベルト式の無段変速機1が備える前後進切替機構2周りを説明する図である。
図2は、前後進切替機構2の主要部を説明する図である。
図2の(a)は、遊星歯車組3の構成を説明する図である。
図2の(b)は、前進クラッチ4周りを説明する図である。なお、
図2の(a)では、説明の便宜上、後進ブレーキ5周りの図示を省略している。
図3は、前後進切替機構2の主要部を説明する図である。
図3の(a)は、クラッチドラム6における遊星歯車組3のリングギア32の配置を説明する要部拡大図である。
図3の(b)は、(a)におけるA−A断面図である。
【0010】
図1に示すように、ベルト式の無段変速機1では、エンジン(図示せず)の回転駆動力が、トルクコンバータ(図示せず)の出力軸(回転伝達軸9)を介して、前後進切替機構2に入力される。
前後進切替機構2は、遊星歯車組3と、前進クラッチ4と、後進ブレーキ5と、を有している。
前後進切替機構2では、前進クラッチ4が締結されると、トルクコンバータ側から入力された回転が、順回転で変速機構部(図示せず)側に出力される。後進ブレーキ5が締結されると、トルクコンバータ側から入力された回転が、逆回転で変速機構部側に出力される。
【0011】
[後進ブレーキ]
後進ブレーキ5は、変速機ケース10側の支持壁部101の内周にスプライン嵌合したドリブンプレート51と、クラッチドラム6の周壁部62の外周にスプライン嵌合したドライブプレート52と、回転軸X方向にストロークするピストン53と、を有している。
【0012】
固定側の部材である支持壁部101においてドリブンプレート51は、回転軸X回りの回転が規制された状態で、回転軸X方向に移動可能に設けられている。
周壁部62においてドライブプレート52は、回転軸X周りの周方向におけるクラッチドラム6との相対回転が規制された状態で、回転軸X方向に移動可能に設けられている。
【0013】
ドリブンプレート51とドライブプレート52は、回転軸X方向で交互に配置されている。ドリブンプレート51とドライブプレート52は、ドリブンプレート51の内径側とドライブプレート52の外径側とが重なるように配置されている。
【0014】
ドリブンプレート51とドライブプレート52とから見て、ピストン53とは反対側(図中、右側)には、スナップリング59で位置決めされたリテーニングプレート58が設けられている。
ピストン53の押圧部53aは、ドリブンプレート51とドライブプレート52の重なる領域に、ウェーブスプリング57を間に挟んで対向している。
【0015】
変速機ケース10は、前後進切替機構2を収容する空間と、変速機構部を収容する空間とを仕切る仕切壁部102を有している。この仕切壁部102におけるピストン53のリング状の基部530との対向部には、ピストン53の作動油圧が供給される油室R1が形成されている。
【0016】
この油室R1に作動油圧が供給されると、ピストン53が、スプリングリテーナ55で支持されたスプリングSp1を圧縮しながら、仕切壁部102から離れる方向(図中、右方向)に変位する。
そうすると、ドリブンプレート51とドライブプレート52とが、ピストン53の押圧部53aにより押されて、リテーニングプレート58側に変位する。
これにより、ドリブンプレート51とドライブプレート52とが、作動油圧に応じた圧力で、押圧部53aとリテーニングプレート58との間で把持される。
そして、ドリブンプレート51とドライブプレート52が相対回転不能に締結されると、後進ブレーキ5が締結状態になって、クラッチドラム6の回転が規制される。さらに、クラッチドラム6の周壁部62の内周にスプライン嵌合したリングギア32もまた、間接的に回転が規制される。
【0017】
[前進クラッチ]
前進クラッチ4は、クラッチドラム6の周壁部62の内周にスプライン嵌合したドリブンプレート41と、筒状の支持筒342の外周にスプライン嵌合したドライブプレート42と、油圧により回転軸X方向にストロークするピストン43と、を有している。
支持筒342は、いわゆるクラッチハブとしての機能を有する。
【0018】
図2の(b)に示すように、周壁部62においてドリブンプレート41は、回転軸X回りの回転が規制された状態で、回転軸X方向に移動可能に設けられている。
支持筒342においてドライブプレート42は、回転軸X周りの周方向における支持筒342との相対回転が規制された状態で、回転軸X方向に移動可能に設けられている。
【0019】
支持筒342は、外径側に位置するスプライン山部342aとスプライン谷部342bとが、回転軸X周りの周方向に交互に連なって形成されており、後記するキャリア34の側板部341と一体に形成されている(
図3の(a)参照)。
支持筒342では、スプライン山部342aの外周に、ドライブプレート42がスプライン嵌合している。
【0020】
図2に示すように、ドリブンプレート41とドライブプレート42は、回転軸X方向で交互に配置されている。ドリブンプレート41とドライブプレート42は、ドリブンプレート41の内径側とドライブプレート42の外径側とが重なるように配置されている。
【0021】
ドリブンプレート41とドライブプレート42とから見て、ピストン43とは反対側(図中、左側)には、スナップリング49で位置決めされたリテーニングプレート48が設けられている。
ピストン43の押圧部43aは、ドリブンプレート51とドライブプレート52の重なる領域に、ウェーブスプリング47を間に挟んで対向している。
【0022】
ピストン43は、クラッチドラム6の底壁部61に設けたリング状の凹部610内で、回転軸X方向に進退移動可能に設けられている。
底壁部61におけるピストン43のリング状の基部430との対向部には、ピストン43の作動油圧が供給される油室R2が形成されている。
【0023】
この油室R2に作動油圧が供給されると、ピストン43が、スプリングリテーナ45で支持されたスプリングSp2を圧縮しながら、底壁部61から離れる方向(図中、右方向)に変位する。
そうすると、ドリブンプレート41とドライブプレート42とが、ピストン43の押圧部43aにより押されて、リテーニングプレート48側に変位する。
これにより、ドリブンプレート41とドライブプレート42とが、作動油圧に応じた圧力で、押圧部43aとリテーニングプレート48との間で把持される。
そして、ドリブンプレート41とドライブプレート42が相対回転不能に締結されると、前進クラッチ4が締結状態になる。
ここで、ドライブプレート42がスプライン嵌合する支持筒342は、遊星歯車組3のキャリア34の側板部341と一体に形成されている。
そのため、前進クラッチ4が締結状態になると、クラッチドラム6と、遊星歯車組3のキャリア34との相対回転が規制される。
【0024】
[遊星歯車組]
図2の(a)に示すように、遊星歯車組3は、回転伝達軸9と一体に回転するサンギア31と、クラッチドラム6と一体に回転するリングギア32と、を有しており、サンギア31とリングギア32との間には、一対のピニオンギア33A、33Bが位置している。
【0025】
ピニオンギア33Aとピニオンギア33Bは、外周に設けた歯部同士を互い噛合させて設けられている。ピニオンギア33Aは、サンギア31の外周に噛合していると共に、ピニオンギア33Bは、リングギア32の内周に噛合している。遊星歯車組3は、ダブルピニオン式の遊星歯車機構である。なお、シングルピニオン式の遊星歯車機構であっても良い。
【0026】
ピニオンギア33Aは、ニードルベアリングNBを介して、ピニオン軸331で支持されている。ピニオン軸331の両端は、キャリア34の側板部340、341で支持されている。
遊星歯車組3では、サンギア31および/またはリングギア32が回転軸X回りに回転すると、ピニオン軸331で支持されたピニオンギア33Aと、このピニオンギア33Aに噛合するピニオンギア33Bとが、自転しながら回転軸X周りに公転する。
【0027】
図1に示すように、変速機ケース10の内部において遊星歯車組3は、前記した前進クラッチ4と共に、クラッチドラム6の内部に収容されている。
【0028】
図2の(a)に示すように、クラッチドラム6は、回転軸X方向から見てリング状を成す底壁部61と、底壁部61の外周を全周に亘って囲む外側の周壁部62と、底壁部61の内周を全周に亘って囲む内側の周壁部63と、を有している。
周壁部62は、回転軸X方向における底壁部61とは反対側(図中、左側)が、開口部60となっている。
【0029】
内側の周壁部63は、回転軸Xに沿う円筒状を成しており、この周壁部63は、カバー部11の内径側に設けられた筒状の支持壁部12に、図示しない変速機構部側(
図2における左側)から外挿されている。
この状態においてクラッチドラム6は、変速機ケース10側の固定部材である支持壁部12で、回転軸X回りの回転が許容された状態で支持されている。
【0030】
内側の周壁部63の先端には、支持壁部12を迂回して内径側(回転軸X側)に延びる連絡部64が設けられており、この連絡部64の内径側には、円筒状の支持筒65が設けられている。
【0031】
支持筒65は、連絡部64の内周端から、サンギア31から離れる方向(図中、右方向)に直線状に延びている。支持筒65の先端65aは、支持壁部12の内径側に及んでいると共に、支持壁部12の内周に圧入された円筒状のシャフト15の先端15aとの間に隙間を空けて対向している。
【0032】
支持筒65の外周と周壁部63の内周との間には、ニードルベアリングNB1が設けられている。回転軸X方向においてニードルベアリングNB1は、連絡部64と、支持壁部12の先端12aとの間に介在しており、連絡部64と支持壁部12との直接の接触を阻止している。
【0033】
支持筒65は、回転軸X方向に所定長さL1を持って形成されており、支持筒65の内周は、回転伝達軸9の外周にブッシュBS(摩擦抵抗が少ない金属リング)を介して支持されている。ブッシュBSは、クラッチドラム6の支持筒65の内周に圧入されている。この状態において支持筒65を持つクラッチドラム6は、回転軸Xに対する傾きが支持筒65により規制された状態で、支持壁部12で回転軸X回りに回転可能に支持されている。
さらに、クラッチドラム6の径方向の位置決めが、回転伝達軸9で支持されたブッシュBSでされている。
【0034】
前記したように回転伝達軸9は、図示しないトルクコンバータ側の出力軸である。回転伝達軸9は、支持壁部12の内周に圧入された円筒状のシャフト15で、回転可能に支持されている。
回転伝達軸9の先端9a側は、支持筒65の内径側を回転軸X方向に貫通しており、回転伝達軸9の先端9a側では、支持筒65との干渉を避けた位置の外周に、サンギア31が一体に形成されている。
【0035】
回転伝達軸9においてサンギア31は、先端9aからトルクコンバータ側(図中、右側)に離れた位置の外周から、回転軸Xの径方向外側に突出している。
回転軸X方向におけるサンギア31の一方の側面31aと、クラッチドラム6側の連絡部64との間には、ニードルベアリングNB2が介在している。
回転伝達軸9の先端9a側は、キャリア34の内径側に設けた筒状の連結部343の内側に挿入されている。
【0036】
回転伝達軸9の外周と、連結部343の内周との間には、ブッシュBSが設けられており、キャリア34の連結部343は、ブッシュBSを介して回転伝達軸9で支持されている。キャリア34の連結部343と回転伝達軸9は、回転軸X回りに相対回転可能である。
【0037】
キャリア34の側板部340は、連結部343のトルクコンバータ側の端部から径方向外側に延びており、側板部340には、変速機構部側の入力軸81の先端81aが、回転軸X方向から突き当てられている。
この状態において、入力軸81の内周と、連結部343の外周とがスプライン嵌合しており、キャリア34の連結部343と、変速機構部側の入力軸81とが、相対回転不能に連結されている。
【0038】
遊星歯車組3では、サンギア31が、トルクコンバータ側から回転が入力される入力部であり、キャリア34が、変速機構部側に回転を出力する出力部である。なお、無段変速機1を搭載した車両の被牽引走行時には、入力部と出力部とが逆になる。
なお、本明細書では、遊星歯車組3における入力部でも出力部でもない箇所を、「浮遊部材」と呼ぶ。本実施形態では、リングギア32が「浮遊部材」に相当する。
【0039】
遊星歯車組3のリングギア32は、クラッチドラム6の外径側の周壁部62の内周にスプライン嵌合している。
図3の(a)に示すように、クラッチドラム6の外径側の周壁部62は、底壁部61側の小径部621と、小径部621よりも大径の大径部622と、を有している。
周壁部62では、大径部622の領域が、スプライン山部622aとスプライン谷部622bとが、回転軸X周りの周方向に交互に連なって形成されている。
【0040】
これらスプライン山部622aとスプライン谷部622bは、周壁部62の先端62aから、小径部621との接続部までの範囲に形成されている。
大径部622においてスプライン山部622aとスプライン谷部622bは、回転軸X方向の全長に亘って設けられている(延在している)。
【0041】
クラッチドラム6の周壁部62では、スプライン山部622aとスプライン谷部622bが、大径部622の長手方向(回転軸X方向)の全長に亘って設けられている。
ここで、大径部622における小径部621側の領域の外周には、後進ブレーキ5側の部品が位置していない。そして、大径部622では、スプライン山部622aとスプライン谷部622bとが、回転軸周りの周方向に交互に配置されている。そのため、大径部622における小径部621側の領域の外周を、回転速度センサ120のセンサ領域(被検出部)として用いることができる。
【0042】
図3の(a)において仮想線で示す位置に回転速度センサ120を配置すると、
図3の(b)に示すように、回転速度センサ120のセンサ面120aの延長上に、スプライン山部622aとスプライン谷部622bとが位置することになる。
そうすると、回転速度センサ120は、スプライン山部622aとスプライン谷部622bに対応するオン信号とオフ信号とから成るパルス信号を、図示しない制御装置に、出力することができる。
【0043】
図3の(a)において回転速度センサ120が設けられた領域は、変速機ケース10内の前後進切替機構2が設けられる領域と、オイルポンプが設けられる領域とを区画する支持壁部101(
図1参照)の近傍領域である。そのため、回転速度センサ120を設けることができる開口が存在しており、変速機ケース10の形状変更や、変速機ケース10内でのレイアウト変更を必要とせずに、回転速度センサ120を設置できるようになっている。
【0044】
周壁部62の大径部622は、前進クラッチ4と遊星歯車組3のリングギア32の径方向外側を、回転軸X方向に横切って設けられている。
周壁部62の先端62a側の外周には、前記した後進ブレーキ5(
図1参照)のドライブプレート52がスプライン嵌合している。リングギア32は、後進ブレーキ5のドリブンプレート51とドライブプレート52とが交互に配置された領域の内径側に設けられている。
【0045】
図3の(a)に示すように、リングギア32は、内周に歯部32aを有するリング状の基部320と、基部320の外周から径方向外側に突出するスプライン嵌合部321とを有している。
リングギア32は、内歯歯車であり、内歯歯車の外周面(歯面の裏側の面)が形成された部位が2つのスナップリング(第1スナップリング38、第2スナップリング39)により支持されている。
基部320の外周においてスプライン嵌合部321は、回転軸X方向の一端側(開口部60側)の外周から径方向外側に突出している。スプライン嵌合部321は、リングギア32を、クラッチドラム6側の大径部622の内周にスプライン嵌合させるために設けられている。
【0046】
スプライン嵌合部321の回転軸方向の幅W1は、基部320の回転軸X方向の幅W2よりも短い幅で形成されており、これらの幅W1、W2は、キャリア34の側板部340、341の幅W3よりも狭い幅である。
リングギア32を大径部622の内周にスプライン嵌合させると、スプライン嵌合部321よりも前進クラッチ4側(図中右側)に、径方向の隙間CL1が形成される。
【0047】
大径部622の内周では、リングギア32のスプライン嵌合部321の両側に、第1スナップリング38と第2スナップリング39が内嵌して固定されている。
これら第1スナップリング38と第2スナップリング39は、リングギア32の回転軸X方向の位置決めのために設けられている。第1スナップリング38と第2スナップリング39は、周壁部62に設けた溝M1、M2にそれぞれ係合しており、第1スナップリング38と第2スナップリング39の回転軸X方向の厚さb1、b2は、溝M1、M2の回転軸方向の厚さと整合する厚さを有している。
【0048】
本実施形態では、第1スナップリング38は、リングギア32の径方向外側の領域から回転軸X方向に位置をずらして設けられており、第1スナップリング38は、リングギア32と径方向でオーバーラップしていない。
第1スナップリング38は、有底筒状のクラッチドラム6の開口からのリングギア32の脱落を阻止するために設けられている。
【0049】
第2スナップリング39は、リングギア32の径方向外側の領域内に位置しており、第2スナップリング39は、リングギア32と径方向でオーバーラップしている。
第2スナップリング39は、クラッチドラム6の底壁部61側へのリングギア32の移動を阻止するために設けられている。
リングギア32は、第2スナップリング39により位置決めされた状態で、前記した前進クラッチ4のスナップリング49(第3スナップリング)との干渉を避けて設けられている。そのため、リングギア32とスナップリング49との間に回転軸方向の隙間が残されている。
リングギア32とスナップリング49とが常に接していると、ピストン43(クラッチピストン)の押し力をリングギア32が受けた際に、リングギア32のサンギア31およびピニオンギア33A、33Bに対する相対的な偏心量が大きくなる。そうすると、ギアノイズを生じる可能性があるが、隙間が残されていることで、ギアノイズの発生を好適に防止できる。
【0050】
第1スナップリング38の径方向の長さa1は、第2スナップリング39の径方向の長さa2よりも大きい。
これは、第2スナップリング39を、リングギア32と径方向でオーバーラップして配置するため、リングギア32の基部320の外周と、周壁部62(スプライン谷部622b)の内周との隙間CL1に収容可能な長さである必要があるからである。
これにより、第2スナップリング39は、リングギア32の径方向外側の領域から回転軸X方向に位置をずらして設ける必要が無いので、クラッチドラム6の周壁部62の回転軸X方向への大型化を防止できる。
【0051】
第1スナップリング38の回転軸X方向の厚さb1は、第2スナップリング39の回転軸X方向の厚さb2と異なっている。これは、第1スナップリング38と第2スナップリング39とを区別できるようにするためである。
【0052】
また、第1スナップリング38の回転軸X方向の厚さb1は、第2スナップリング39の軸方向の厚さb2よりも薄くなっている。第1スナップリング38の回転軸X方向の厚さb1が厚いと、周壁部62の開口部60側に、遊星歯車組3などの部品の配置に寄与しない空間が残されてしまう。かかる空間が残されていると、クラッチドラム6の周壁部62の回転軸X方向の大きさが大きくなってしまい、好ましくない。
【0053】
クラッチドラム6において、第2スナップリング39は、第1スナップリング38よりも底壁部61側(奥側)に位置している。有底円筒形状のクラッチドラム6では、第1スナップリング38のほうが、第2スナップリング39よりも開口部60側に配置されている。
回転軸X方向の厚さが薄いスナップリング(第1スナップリング38)を開口部60側に設けることで、クラッチドラム6の周壁部62の内側の開口部60側の空間を有効に利用できる。
【0054】
第2スナップリング39から見て、クラッチドラム6の底壁部61側(奥側)には、前進クラッチ4のスナップリング49(第3スナップリング)が設けられている。スナップリング49は、第2スナップリング39およびリングギア32との間に間隔をあけて設けられている。
回転軸X方向において第2スナップリング39は、第1スナップリング38とスナップリング49との間に位置している。
【0055】
第2スナップリング39は、第1スナップリング38よりも断面が偏平な形状を有しており、径方向の長さa2が小さいので、リングギア32が前進クラッチ4側に傾く可能性がある。かかる場合には、第2スナップリング39に近接するスナップリング49で、リングギア32の傾きを阻止することができる。
また、第1スナップリング38と第2スナップリング39との間に、リングギア32のスプライン嵌合部321が位置しており、リングギア32が僅かなガタを持って配置されている。そのため、サンギア31やキャリア34が回転軸Xに対して傾いた際に、リングギア32が自立的に調心できるようになっている。
【0056】
さらに、遊星歯車組3では、リングギア32が浮遊部材として設定されており、このリングギア32が、クラッチドラム6(ドラム部材)の周壁部62に固定されている。これにより、浮遊部材であるリングギア32の支持部材を新たに設ける必要がない。
【0057】
さらに、後進ブレーキ5のドライブプレート52を、リングギア32を支持する周壁部62に支持させたので、周壁部62を二つの部品の固定および支持に共用している。これにより、専用の部品を設けて、固定/支持させる場合よりも部品点数を削減することが可能となる。これにより、無段変速機1の作製コストの低減が期待できる。
【0058】
また、周壁部62では、スプライン山部622aとスプライン谷部622bを持つ大径部622が、後進ブレーキ5と前進クラッチ4に跨がる回転軸X方向の範囲に設けられている。
これにより、大径部622では、前進クラッチ4が設けられた領域の外径側の領域のスプライン山部622aとスプライン谷部622bを、回転速度センサ120の検知面として利用できる。よって、専用の検知面を用意する場合に比べて、無段変速機1の作製コストの低減が可能になる。
【0059】
以上の通り、実施形態にかかるリングギア32(歯車)の支持構造は、以下の構成を有している。
(1)支持構造は、
遊星歯車組3のリングギア32(歯車)と嵌合するクラッチドラム6(支持部材)と、
クラッチドラム6の周壁部62に取り付けられ、且つ、リングギア32を支持する第1スナップリング38及び第2スナップリング39と、を有する。
第1スナップリング38は、リングギア32と径方向においてオーバーラップしない。
第2スナップリング39は、リングギア32と径方向においてオーバーラップする。
第1スナップリング38の径方向の長さa1は、第2スナップリング39の径方向の長さa2よりも大きい。
【0060】
このように構成すると、第2スナップリング39は、従来相当の支持能力を有する一方、第1スナップリング38は、第2スナップリング39よりも径方向に長いので、従来よりも高い支持能力を有する。これによりトータルとしての支持能力を向上することができる。
両方のスナップリング(第1スナップリング38、第2スナップリング39)を、リングギア32と径方向においてオーバーラップしないようにする場合と比較すると、本支持構造は軸長方向(回転軸X方向)を短縮できる点でメリットがある。
これにより、第1スナップリング38と第2スナップリング39により、リングギア32(歯車)の回転軸X方向の軸長を抑えつつリングギア32(歯車)を適切に支持できる。
【0061】
実施形態にかかるリングギア32(歯車)の支持構造は、以下の構成を有している。
(2)第1スナップリング38の回転軸X方向の厚さb1は、第2スナップリング39の回転軸方向の厚さb2と異なる。
【0062】
第1スナップリング38と第2スナップリング39は、回転軸X方向の側面を指で挟んだ状態で、周壁部62の内周に取り付けられる。
第1スナップリング38と第2スナップリング39の回転軸X方向の厚さb1、b2を代えることで、取付時のスナップリングの選択ミス(誤組付け)を防止できる。
これにより、第1スナップリング38を取り付けるべき場所に第2スナップリング39を誤って取り付けてしまうことや、第2スナップリング39を取り付けるべき場所に第1スナップリング38を誤って取り付けてしまうことを、好適に防止できる。
なお、当該支持構造を有する動力伝達装置(変速機、減速機等)の製造方法においては、第2スナップリング39を取り付けた後に第1スナップリング38を取り付けることになる。
【0063】
実施形態にかかるリングギア32(歯車)の支持構造は、以下の構成を有している。
(3)クラッチドラム6(支持部材)は、回転軸X方向に開口した開口部60と、開口部60から視た奥側に底壁部61(底部)と、を有する。
第1スナップリング38は、第2スナップリング39よりも開口部60側に配置されている。
【0064】
クラッチドラム6の開口部60側には空きスペースが多い。そのため、空きスペース側に軸長増加の要因となりうる第1スナップリング38を配置することにより、空きスペースを有効活用でき、トータルとしての軸長増加を抑制することができる。
【0065】
実施形態にかかるリングギア32(歯車)の支持構造は、以下の構成を有している。
(4)クラッチドラム6(支持部材)は、回転軸X方向に開口した開口部60と、開口部60から視た奥側に底壁部61(底部)と、を有する。
第1スナップリング38は、第2スナップリング39よりも開口部60側に配置されている。
第2スナップリング39の回転軸X方向の厚さb2は、第1スナップリング38の回転軸X方向の厚さb1よりも大きい。
【0066】
クラッチドラム6が、底壁部61と開口部60を有する場合、底壁部61側から順番に部品が取り付けられる。よって、先に取り付けられる第2スナップリング39の厚さb2を、後に取り付けられる第1スナップリング38の厚さb1よりも厚くすることで、誤組みを確実に防止することができる。
さらに、トータルとしての軸長増加を抑制することができる。
【0067】
即ち、第2スナップリング39を取り付けるべき時に、第2スナップリング39よりも径方向に長い第1スナップリング38を取り付けてしまうと、第1スナップリング38がリングギア32と干渉してしまうので、リングギア32の組み付けが行えなくなる。
よって、リングギア32の組み付けが行えないことをもって、第2スナップリング39を取り付けるべき場所に、第1スプリングを誤って組み付けたことを理解できる。
【0068】
また、第2スナップリング39の軸方向の長さb2は、第1スナップリング38の軸方向の長さb1よりも長く、第1スナップリング38が取り付けられる溝M1の軸方向の長さよりも長い。
そのため、第2スナップリング39とリングギア32の取り付けを適切に完了した後に、第1スナップリング38を取り付けるべき溝M1に、第2スナップリング39を取り付けようとしても、第2スナップリング39を取り付けることができない。
よって、溝M1への第2スナップリング39の取り付けを行えないことをもって、第1スナップリング38を取り付けるべき場所に、第2スナップリング39を誤って取り付けようとしていることを理解できる。
これにより、誤組みを確実に防止することができる。
【0069】
実施形態にかかるリングギア32(歯車)の支持構造は、以下の構成を有している。
(5)クラッチドラム6(支持部材)に嵌合するリテーニングプレート48(プレート)を支持するスナップリング49(第3スナップリング)を有する。
第2スナップリング39は、第1スナップリング38とスナップリング49(第3スナップリング)との間に位置する。
スナップリング49(第3スナップリング)は、リングギア32(歯車)と離間して配置されている。
【0070】
第2スナップリング39を廃止してリテーニングプレート48を支持するスナップリング49(第3スナップリング)でリングギア32を支持することも考えられる。
しかし、プレート押付け力がリングギア32に伝わり遊星歯車組3が傾くことを防止するため、スナップリング49(第3スナップリング)とリングギア32は離間して配置することが好ましい。
【0071】
実施形態にかかるリングギア32(歯車)の支持構造は、以下の構成を有している。
(6)スナップリング49(第3スナップリング)の径方向の長さa3は、第2スナップリング39の径方向の長さa2よりも大きい。
スナップリング49(第3スナップリング)は、リングギア32(歯車)と隣り合う位置に配置されている。
【0072】
スナップリング49(第3スナップリング)は、通常時はリングギア32に悪影響を与えないように離間して配置するものの、近くの位置、即ち、隣合う位置に配置する。
リングギア32とスナップリング49とが常に接していると、ピストン43(クラッチピストン)の押し力をリングギア32が受けた際に、リングギア32のサンギア31およびピニオンギア33A、33Bに対する相対的な偏心量が大きくなる。そうすると、ギアノイズを生じる可能性があるが、スナップリング49が、リングギア32から離間していることで、ギアノイズの発生を好適に防止できる。
【0073】
本実施形態では、支持部材がクラッチドラム6である場合を例示したが、変速機ケースのような他の支持部材(固定部材)であっても良い。
さらに、本実施形態では、歯車が、遊星歯車組3のリングギア32の場合を例に挙げて説明したが、歯車であればどのようなものでも本発明を適用することができる。
【0074】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。