特許第6979142号(P6979142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6979142高分子分散剤及びその製造方法、水性顔料分散液、並びに水性インクジェットインク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6979142
(24)【登録日】2021年11月16日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】高分子分散剤及びその製造方法、水性顔料分散液、並びに水性インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
   C09B 67/20 20060101AFI20211125BHJP
   C09D 11/326 20140101ALI20211125BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20211125BHJP
   C09B 47/04 20060101ALN20211125BHJP
   C09B 48/00 20060101ALN20211125BHJP
   C09B 33/153 20060101ALN20211125BHJP
【FI】
   C09B67/20 L
   C09D11/326
   B41M5/00 120
   B41M5/00 112
   !C09B47/04
   !C09B48/00 Z
   !C09B33/153
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2021-23110(P2021-23110)
(22)【出願日】2021年2月17日
【審査請求日】2021年3月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100220205
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 伸和
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】狩野 克彦
(72)【発明者】
【氏名】久米 浩介
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 智佳子
(72)【発明者】
【氏名】村上 賀一
(72)【発明者】
【氏名】吉川 幸男
【審査官】 井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−111742(JP,A)
【文献】 特開2019−014769(JP,A)
【文献】 特開2017−214469(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/136000(WO,A1)
【文献】 特開2002−053628(JP,A)
【文献】 特開2009−024165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 67/20
C09D 11/326
B41M 5/00
C09B 47/04
C09B 48/00
C09B 33/153
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックメディア印刷用又は捺染用の水性インクジェットインクに用いる水性顔料分散液に配合される、顔料を分散させるための高分子分散剤であって、
下記要件(1)及び(2)を満たすポリマーである高分子分散剤。
[要件(1)]:
スチレンに由来する構成単位(i)10〜30質量%、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸エチルの少なくともいずれかに由来する構成単位(ii)10〜30質量%、メタクリル酸2−エチルヘキシル及びメタクリル酸ドデシルの少なくともいずれかに由来する構成単位(iii)10〜30質量%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸2−ヒドロキシプロピルの少なくともいずれかに由来する構成単位(iv)10〜20質量%、並びにメタクリル酸に由来する構成単位(v)10〜20質量%を含み、
前記構成単位(i)〜(v)の合計の含有量が90質量%以上であり、
6種以上のモノマーに由来する構成単位を含み、
カルボキシ基の少なくとも一部が、アンモニア及びジメチルアミノエタノールからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリで中和されている。
[要件(2)]:
数平均分子量が15,000〜25,000であり、
ピークトップ分子量が25,000〜50,000であり、
分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.7〜2.4であり、
ゲルパーミエーションクロマトグラフの全ての分子量ピークの面積(T)に占める、50,000以上の分子量ピークの面積(H)の割合(H/T)が、15〜30%である。
【請求項2】
前記構成単位(iii)が、メタクリル酸ドデシルに由来する構成単位、又はメタクリル酸2−エチルヘキシル及びメタクリル酸ドデシルに由来する構成単位である請求項1に記載の高分子分散剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高分子分散剤の製造方法であって、
ジエチレングリコールモノブチルエーテルを含む重合溶媒中でモノマーを溶液重合した後、アルカリを加えて水溶液化する工程を有する高分子分散剤の製造方法。
【請求項4】
製造しようとするポリマーである前記高分子分散剤の量を基準として、70質量%以上のジエチレングリコールモノブチルエーテルを含む重合溶媒中で溶液重合する請求項3に記載の高分子分散剤の製造方法。
【請求項5】
プラスチックメディア印刷用又は捺染用の水性インクジェットインクに用いる水性顔料分散液であって、
顔料、水、水溶性有機溶媒、及び前記顔料を分散させる高分子分散剤を含有し、
前記高分子分散剤が、請求項1又は2に記載の高分子分散剤である水性顔料分散液。
【請求項6】
前記水溶性有機溶媒が、ジエチレングリコールモノブチルエーテルである請求項に記載の水性顔料分散液。
【請求項7】
前記顔料の含有量が5〜60質量%であり、
前記水の含有量が20〜80質量%であり、
前記水溶性有機溶媒の含有量が30質量%以下であり、
前記高分子分散剤の含有量が0.5〜20質量%である請求項又はに記載の水性顔料分散液。
【請求項8】
請求項のいずれか一項に記載の水性顔料分散液を含有するプラスチックメディア印刷用及び捺染用の水性インクジェットインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子分散剤及びその製造方法、水性顔料分散液、並びに水性インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、高機能化により、個人用、事務用、業務用、記録用、カラー表示用、カラー写真用と多岐にわたって使用されている。さらに、近年、従来のオフィス用のコンシューマ型のインクジェットプリンタや大判印刷用ワイドフォーマットインクジェットプリンタから、産業用途としてのインクジェット印刷機へとその適用範囲が拡大している。インクジェット印刷は、画像印刷の版が不要であることから、少量多品種産業用印刷物をオンデマンドで得ることができる印刷方法として適している。なお、環境への配慮から、水性インクジェットインクによるインクジェット印刷が盛んに提案されている。
【0003】
産業用途としては、例えば、サインディスプレイ、屋外広告、施設サイン、ディスプレイ、POP広告、交通広告、パッケージング、容器、ラベル等の用途がある。
これらの用途に適用される記録媒体としては、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリエステル、ナイロン等のプラスチック材料で形成された記録媒体(プラスチックメディア)等を挙げることができる。また、布地への印刷方法は、従来のスクリーン捺染法等の手法から、インクジェット捺染法へと移行しつつあり、写真画像等を布地に捺染することが可能となっている。
【0004】
産業用途のインクジェット印刷に必要とされる水性インクジェットインクは、印刷画像の耐久性から、顔料を色材として含有するインクジェットインクが使用されている。得られる印刷画像に対しては、鮮明性、色の冴え、高発色性、高グロス性等の品質が要求されるとともに、プラスチックメディアに印刷する場合には、プラスチックメディアへの密着性の他、高密着性、耐感摩擦性、耐湿摩擦性、耐ハジキ性、耐水性、耐溶剤性、及び耐薬品性等の耐久性も要求される。また、布地に捺染する場合には、洗濯堅牢性、耐伸縮性、及び耐乾燥性等の諸特性についても要求される。さらに、産業用途の場合、大量印刷に適用可能であることが要求されるので、吐出安定性や高速印刷適正性が要求されるとともに、記録ヘッドで乾燥したインクが液媒体によって再度溶解する再溶解性やクリーニング特性についても要求される。
【0005】
そこで、耐久性を向上させた印刷画像を記録すべく、皮膜形成しうるアクリル系又はウレタン系のバインダー成分を添加したインクジェット用のインクが提案されている(特許文献1及び2)。また、水性の顔料インクジェットインクでは、顔料を安定して微分散させる必要があり、界面活性剤や高分子分散剤を用いて顔料を経時的に安定して微分散させた顔料分散液、及びこれを用いたインクジェット用のインクが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4157868号公報
【特許文献2】特表2009−515007号公報
【特許文献3】国際公開第2013/008691号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1〜3で提案された顔料分散液を用いたインクジェット用インクであっても、密着性及び耐摩擦性等の耐久性に優れた画像をプラスチックメディアや布地に記録することは困難であった。また、従来の顔料分散液を用いたインクジェット用インクであっても、インクジェット用の記録ヘッドからの吐出性は必ずしも十分であるとはいえず、さらなる改良の余地があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、顔料が安定的かつ高度に微分散されているとともに、密着性及び耐久性に優れた画像をプラスチックメディアや布地に記録可能な水性インクジェットインクを調製しうる水性顔料分散液に配合される高分子分散剤、並びにその製造方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明の課題とするところは、顔料が安定的かつ高度に微分散されているとともに、密着性及び耐久性に優れた画像をプラスチックメディアや布地に記録可能な水性インクジェットインクを調製しうる水性顔料分散液、並びにそれを用いた水性インクジェットインクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下に示す高分子分散剤が提供される。
[1]プラスチックメディア印刷用又は捺染用の水性インクジェットインクに用いる水性顔料分散液に配合される、顔料を分散させるための高分子分散剤であって、下記要件(1)及び(2)を満たすポリマーである高分子分散剤。
[要件(1)]:
スチレンに由来する構成単位(i)10〜30質量%、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸エチルの少なくともいずれかに由来する構成単位(ii)10〜30質量%、メタクリル酸2−エチルヘキシル及びメタクリル酸ドデシルの少なくともいずれかに由来する構成単位(iii)10〜30質量%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸2−ヒドロキシプロピルの少なくともいずれかに由来する構成単位(iv)10〜20質量%、並びにメタクリル酸に由来する構成単位(v)10〜20質量%を含み、前記構成単位(i)〜(v)の合計の含有量が90質量%以上であり、6種以上のモノマーに由来する構成単位を含み、カルボキシ基の少なくとも一部が、アンモニア及びジメチルアミノエタノールからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリで中和されている。
[要件(2)]:
数平均分子量が15,000〜25,000であり、ピークトップ分子量が25,000〜50,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.7〜2.4であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフの全ての分子量ピークの面積(T)に占める、50,000以上の分子量ピークの面積(H)の割合(H/T)が、15〜30%である。
[2]前記構成単位(iii)が、メタクリル酸ドデシルに由来する構成単位、又はメタクリル酸2−エチルヘキシル及びメタクリル酸ドデシルに由来する構成単位である前記[1]に記載の高分子分散剤。
【0011】
また、本発明によれば、以下に示す高分子分散剤の製造方法が提供される。
]前記[1]又は[2]に記載の高分子分散剤の製造方法であって、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを含む重合溶媒中でモノマーを溶液重合した後、アルカリを加えて水溶液化する工程を有する高分子分散剤の製造方法。
[4]製造しようとするポリマーである前記高分子分散剤の量を基準として、70質量%以上のジエチレングリコールモノブチルエーテルを含む重合溶媒中で溶液重合する前記[3]に記載の高分子分散剤の製造方法。
【0012】
さらに、本発明によれば、以下に示す水性顔料分散液が提供される。
]プラスチックメディア印刷用又は捺染用の水性インクジェットインクに用いる水性顔料分散液であって、顔料、水、水溶性有機溶媒、及び前記顔料を分散させる高分子分散剤を含有し、前記高分子分散剤が、前記[1]又は[2]に記載の高分子分散剤である水性顔料分散液。
]前記水溶性有機溶媒が、ジエチレングリコールモノブチルエーテルである前記[]に記載の水性顔料分散液。
]前記顔料の含有量が5〜60質量%であり、前記水の含有量が20〜80質量%であり、前記水溶性有機溶媒の含有量が30質量%以下であり、前記高分子分散剤の含有量が0.5〜20質量%である前記[]又は[]に記載の水性顔料分散液。
【0013】
また、本発明によれば、以下に示す水性インクジェットインクが提供される。
]前記[]〜[]のいずれか一項に記載の水性顔料分散液を含有するプラスチックメディア印刷用及び捺染用の水性インクジェットインク。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、顔料が安定的かつ高度に微分散されているとともに、密着性及び耐久性に優れた画像をプラスチックメディアや布地に記録可能な水性インクジェットインクを調製しうる水性顔料分散液に配合される高分子分散剤、並びにその製造方法を提供することができる。
【0015】
また、本発明によれば、顔料が安定的かつ高度に微分散されているとともに、密着性及び耐久性に優れた画像をプラスチックメディアや布地に記録可能な水性インクジェットインクを調製しうる水性顔料分散液、並びにそれを用いた水性インクジェットインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<高分子分散剤>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本明細書中の各種物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。以下、「水性顔料分散液」のことを単に「顔料分散液」とも記し、「水性インクジェットインク」のことを単に「インク」とも記す。
【0017】
本発明の高分子分散剤は、プラスチックメディア印刷用又は捺染用の水性インクジェットインクに用いる水性顔料分散液に配合される、顔料を分散させるための分散剤であり、下記要件(1)及び(2)を満たすポリマーである。以下、本発明の高分子分散剤の詳細について説明する。
【0018】
[要件(1)]:
スチレンに由来する構成単位(i)10〜30質量%、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸エチルの少なくともいずれかに由来する構成単位(ii)10〜30質量%、メタクリル酸2−エチルヘキシル及びメタクリル酸ドデシルの少なくともいずれかに由来する構成単位(iii)10〜30質量%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸2−ヒドロキシプロピルの少なくともいずれかに由来する構成単位(iv)10〜20質量%、並びにメタクリル酸に由来する構成単位(v)10〜20質量%を含み、
前記構成単位(i)〜(v)の合計の含有量が90質量%以上であり、
6種以上のモノマーに由来する構成単位を含み、
カルボキシ基の少なくとも一部が、アンモニア、ジメチルアミノエタノール、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリで中和されている。
[要件(2)]:
数平均分子量が15,000〜25,000であり、
ピークトップ分子量が25,000〜50,000であり、
分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.7〜2.4であり、
ゲルパーミエーションクロマトグラフの全ての分子量ピークの面積(T)に占める、50,000以上の分子量ピークの面積(H)の割合(H/T)が、15〜30%である。
【0019】
(要件(1))
高分子分散剤は、スチレンに由来する構成単位(i)を10〜30質量%、好ましくは15〜25質量%含むポリマーである。 なお、構成単位(i)〜(v)のそれぞれの割合(質量%)は、構成単位(i)〜(v)の合計(100質量%)に占める割合である。高分子分散剤はスチレンに由来する芳香族環を有するため、疎水性、π−πスタッキングによる顔料への吸着、及び塗膜の密着性等の効果が発揮される。構成単位(i)の割合が10質量%未満であると、上記の効果が発揮されない。一方、構成単位(i)の割合が30質量%超であると、ポリマーが固くなりすぎるとともに、重合性が低下するので、高分子量のポリマーを製造する際にモノマーが残存しやすくなる。
【0020】
高分子分散剤は、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸エチルの少なくともいずれかに由来する構成単位(ii)を10〜30質量%、好ましくは20〜30質量%含む。これらのモノマーを用いることで、ポリマーの分子量を容易に大きくすることができる。また、これらのモノマーは分子量が比較的小さいため、重合率を高めることができる。
構成単位(ii)の割合が10質量%未満であると、重合性が不十分になる場合がある。一方、構成単位(ii)の割合が30質量%超であると、他の構成単位の割合が相対的に減少するので、所期の効果が得られなくなることがある。
【0021】
高分子分散剤は、メタクリル酸2−エチルヘキシル及びメタクリル酸ドデシルの少なくともいずれかに由来する構成単位(iii)を10〜30質量%、好ましくは15〜25質量%含む。この構成単位(iii)を含むことで、ポリマーが可塑化されて軟質になり、柔軟な塗膜を形成することができる。構成単位(iii)の割合が10質量%未満であると、ポリマーの可塑性が不足することがある。一方、構成単位(iii)の割合が30質量%超であると、ポリマーが過度に軟質化する、他の構成単位の割合が相対的に減少する、又は疎水性が過度に高まって親水性が不足する場合がある。
【0022】
高分子分散剤は、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸2−ヒドロキシプロピルの少なくともいずれかに由来する構成単位(iv)を10〜20質量%、好ましくは15〜20質量%含む。すなわち、高分子分散剤は、これらのモノマーに由来する水酸基を有するので、プラスチックメディアや布地(布帛)等の基材と水素結合しやすく、基材への塗膜(画像)の密着性を向上させることができる。また、水酸基を有することで水と水素結合しやすくなり、親水性を向上させることができる。構成単位(iv)の割合が10質量%未満であると、上記の効果が発揮されない。一方、構成単位(iv)の割合が20質量%超であると、親水性が過度に高まるので、形成される塗膜の耐水性が低下する場合がある。
【0023】
高分子分散剤は、メタクリル酸に由来する構成単位(v)を10〜20質量%、好ましくは15〜20質量%含む。すなわち、高分子分散剤はメタクリル酸に由来するカルボキシ基を有するポリマーであるため、このカルボキシ基の少なくとも一部をアルカリで中和することで、ポリマーを水に溶解させることができるとともに、基材への塗膜(画像)の密着性を向上させることができる。構成単位(v)の割合が10質量%未満であると、高分子分散剤の水溶解性が不足する。一方、構成単位(v)の割合が20質量%超であると、高分子分散剤の親水性が過度に高くなるので、画像(塗膜)の耐水性が低下するする場合がある。
【0024】
高分子分散剤(ポリマー)は、上記の構成単位(i)〜(v)の合計の含有量が90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上である。ポリマーには、その他のモノマーに由来する構成単位を10質量%未満の割合でさらに含有させてもよい。その他のモノマーとしては、従来公知のビニル系モノマー等を用いることができる。その他のモノマーの具体例としては、ビニルトルエン、酢酸ビニル、ビニルピロリドン等のビニル系モノマー;メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸セチル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸イソステアリル、メタクリル酸ベヘニル等のメタクリル酸のアルキルエステル;メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ナフチル、メタクリル酸フェノキシエチル等の芳香環含有メタクリレート;メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸3,3,5−トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸イソボルニル等の脂環族含有メタクリレート;メタクリル酸ポリエチレングコリール、メタクリル酸ポリプロピレングリコール等の水酸基含有メタクリレート;メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸エトキシエチル、メタクリル酸エトキシエトキシエチル、メタクリル酸ブトキシエチル、メタクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル等のグリコールモノエーテルのメタクリレート;メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸t−ブチルアミノエチル、メタクリル酸トリメチルエチルアンモニウムクロライド等のアミノ基や第4級アンモニウム塩を含有するメタクリレート;等を挙げることができる。
【0025】
高分子分散剤(ポリマー)は、上記の構成単位(i)〜(v)のみで実質的に構成されていることが好ましい。
【0026】
高分子分散剤は、6種以上のモノマーに由来する構成単位を含むポリマーであり、上記の構成単位(i)〜(v)を構成するモノマーのうちから6種類以上のモノマー(但し、スチレン及びメタクリル酸は必須である)に由来する構成単位を含むポリマーであることが好ましい。6種以上のモノマーに由来する構成単位を含むポリマーとすることで、顔料分散性と塗膜性能(基材に対する塗膜(画像)の密着性等)を両立することができる。
【0027】
高分子分散剤は、メタクリル酸に由来するカルボキシ基の少なくとも一部、好ましくはカルボキシ基の10質量%以上がアルカリで中和され、イオン化しているポリマーである。カルボキシ基の少なくとも一部をアルカリで中和することで、ポリマーの親水性を向上させることができる。カルボキシ基を中和するアルカリは、アンモニア、ジメチルアミノエタノール、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも一種である。アンモニアやジメチルアミノエタノールで中和した場合、乾燥して塗膜が形成された後にアンモニアやジメチルアミノエタノールが揮発し、脱イオン化してカルボキシル基が形成されるので、塗膜の耐水性を向上させることができる。また、水酸化ナトリウムや水酸化ナトリウムで中和した場合、塗膜が形成されても脱イオン化しないが、高分子分散剤の再溶解性を向上させることができる。印刷工程や塗膜(画像)の耐久性などに応じて、アルカリを選択して用いればよい。
【0028】
(要件(2))
高分子分散剤は、前述の要件(2)を満たすポリマーである。すなわち、高分子分散剤は、高分子量の成分をより多く含むポリマーであり、このようなポリマーを高分子分散剤として用いることで、基材との密着性や耐久性に優れた塗膜(画像)を形成することができる。顔料を液媒体中に分散させるための分散剤としては、従来、分子量が数百の界面活性剤や、分子量が数千〜10,000程度のポリマーが用いられていた。これに対し、高分子量の成分をより多く含むポリマーを分散剤とすることで、基材との密着性等を向上させることができる。また、高分子量でありながらも、前述の要件(1)を満たす組成とすることで、液媒体中に顔料をより安定して微分散させることができる。
【0029】
高分子分散剤は、その数平均分子量(Mn)が15,000〜25,000、好ましくは16,000〜23,000のポリマーである。ポリマーのMnが15,000未満であると、形成される塗膜の耐久性を高めることが困難になる。一方、ポリマーのMnが25,000超であると、顔料分散液の粘度が高くなりすぎる場合がある。なお、本明細書における数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mn)は、いずれも、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値である。
【0030】
高分子分散剤は、GPCにおけるピークトップ分子量が25,000〜50,000、好ましくは28,000〜40,000のポリマーである。ポリマーのピークトップ分子量が25,000未満であると、低分子の成分が多いので、形成される塗膜の耐久性を高めることが困難になる。一方、ポリマーのピークトップ分子量が50,000超であると、顔料分散液の粘度が高くなりすぎる場合がある。
【0031】
高分子分散剤は、その分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が1.7〜2.4、好ましくは1.8〜2.1のポリマーである。その分子量分布(PDI)が上記の範囲内にあるポリマーは、低分子量の成分と高分子量の成分をバランスよく含有するために好ましい。
【0032】
高分子分散剤は、ゲルパーミエーションクロマトグラフの全ての分子量ピークの面積(T)に占める、50,000以上の分子量ピークの面積(H)の割合(H/T)が、15〜30%のポリマーである。すなわち、50,000以上の比較的高分子量の成分を所定の割合で含有することで、基材との密着性及び耐久性に優れた塗膜(画像)を形成することができる。H/Tが15%未満であると、上記の効果を得ることができない。一方、H/Tが30%超であると、高分子量の成分が多すぎるので、顔料分散液の粘度が過度に上昇することがある。顔料分散液の粘性、顔料の分散安定性、基材に対する画像の密着性、及び塗膜の耐久性等を好適に両立するためには、H/Tが15〜25%であることが好ましい。
【0033】
<高分子分散剤の製造方法>
本発明の高分子分散剤の製造方法は、前述の高分子分散剤を製造する方法であり、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを含む重合溶媒中でモノマーを溶液重合、好ましくはラジカル溶液重合した後、アルカリを加えて水溶液化する工程を有する。
【0034】
前述の高分子分散剤(ポリマー)を製造する場合、疎水性のモノマーを比較的多く用いる必要があるとともに、メタクリル酸の使用量はそれほど多くはない。さらに、目的とするポリマーは、高分子量の成分を多く含む。このため、一般的な溶液重合で用いられる溶媒中で重合した後、アルカリで中和して水溶性化しようとすると、析出や白濁等の不具合が生じやすい。さらに、得られるポリマーの顔料に対する親和性が不足しやすく、高分子分散剤として不適当になる場合がある。これに対して、本発明の高分子分散剤の製造方法では、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを含む重合溶媒中でモノマーを重合する。ジエチレングリコールモノブチルエーテルは、モノマーを溶解しやすいとともに、水への親和性が高いので、アルカリで中和してもポリマーが析出しにくい。さらに、高分子分散剤を水に溶解させた後に顔料を濡らすことができるので、高分子量の成分を多く含むとともに、疎水性が比較的高いポリマーであっても顔料を十分に分散させることができる。
【0035】
製造しようとするポリマーの量を基準として、50質量%以上のジエチレングリコールモノブチルエーテルを用いて溶液重合することが好ましく、100質量%以上のジエチレングリコールモノブチルエーテルを用いて溶液重合することがさらに好ましい。溶液重合後にはアルカリを添加し、メタクリル酸に由来するカルボキシ基の少なくとも一部を中和して水溶液化する。これにより、高分子分散剤を含有する実質的に透明な水溶液を得ることができる。なお、アルカリとしては、前述のアンモニア、ジメチルアミノエタノール、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも一種を用いることができる。
【0036】
ジエチレングリコールモノブチルエーテルを含む重合溶媒を用いること以外、従来公知の方法に準じてラジカル溶液重合を実施すればよい。例えば、過酸化物系ラジカル開始剤やアゾ系ラジカル開始剤の存在下、加温して所定時間重合することができる。過酸化物系ラジカル開始剤としては、過酸化ベンゾイル等を挙げることができる。アゾ系ラジカル開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル等を挙げることができる。また、チオール等の連鎖移動剤を用いて分子量を調整してもよい。
【0037】
重合溶媒は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル以外の有機溶媒(その他の有機溶媒)をさらに含んでいてもよい。その他の有機溶媒としては、水溶性の有機溶媒を用いることが好ましい。水不溶性又は水難溶性の有機溶媒を用いると、水性顔料分散液を調製する際に水不溶又は水難溶性の有機溶媒を除去する必要がある。
【0038】
水溶性の有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のグリコール溶媒;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のグリコールエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N−メチルピロリドン、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、及び3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド等のアミド系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどのカーボネート系溶媒;ジメチルスルホキシド;テトラメチル尿素;ジメチルイミダゾリジノン;等を挙げることができる。
【0039】
<水性顔料分散液>
本発明の水性顔料分散液は、プラスチックメディア印刷用又は捺染用の水性インクジェットインクに用いる水性顔料分散液であり、顔料、水、水溶性有機溶媒、及び顔料を分散させる高分子分散剤を含有する。そして、この高分子分散剤が、前述の高分子分散剤である。
【0040】
(顔料)
顔料としては、有機顔料や無機顔料を用いることができる。有機顔料としては、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、ジオキサジン顔料、アントラキノン顔料、ジアンスラキノニル顔料、アンスラピリミジン顔料、アンサンスロン顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、ピランスロン顔料、ジケトピロロピロール顔料等を挙げることができる。無機顔料としては、二酸化チタン、酸化鉄、五酸化アンチモン、酸化亜鉛、シリカ、硫化カドミウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、黄鉛、カーボンブラック等を挙げることができる。
【0041】
好適な顔料をカラーインデックスナンバー(C.I.)で示すと、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、15:6;C.I.ピグメントレッド122、176、254、269、291;C.I.ピグメントバイオレット19、23;C.I.ピグメントイエロ74、155、180;C.I.ピグメントグリーン36、58;C.I.ピグメントオレンジ43、71;C.I.ピグメントブラック7;C.I.ピグメントホワイト6;等の通常のインクジェットインクに用いられる顔料を挙げることができる。
【0042】
顔料としては、キナクリドン系顔料及びフタロシアニン系顔料等の有機顔料が好ましい。キナクリドン系顔料は水素結合が強く、難分散性の顔料である。また、フタロシアニン系顔料は金属錯体構造を有するために結晶化しやすく、比較的難分散性の顔料である。また、いずれの顔料も疎水性が強く、高分子分散剤が強く吸着しやすいので、乾燥後のインク滴(膜)が再溶解しにくい。これに対して、前述の高分子分散剤を用いることで、難分散性の顔料であるキナクリドン系顔料やフタロシアニン系顔料であっても容易に微分散させることができるとともに、再溶解性をも付与することができるので、高速印刷適正が良好な水性インクジェットインクを調製可能な水性顔料分散液とすることができる。
【0043】
キナクリドン系顔料及びフタロシアニン系顔料としては、一般的なインクジェットインクに用いられる顔料を用いることができる。キナクリドン系顔料の具体例としては、C.I.ピグメントレッド122、209、202、C.I.ピグメントオレンジ48、49、C.I.ピグメントレッド19等を挙げることができる。
【0044】
有機顔料の数平均粒子径(一次粒子径)は、150nm以下であることが好ましい。無機顔料の数平均粒子径(一次粒子径)は、300nm以下であることが好ましい。数平均粒子径が上記範囲内の顔料を用いることで、記録される画像の光学濃度、彩度、発色性、及び印字品質を向上させることができるとともに、インク中における顔料の沈降を適度に抑制することができる。顔料の数平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡や光散乱粒度分布計などを使用して測定することができる。
【0045】
顔料は、高分子分散剤、シランカップリング剤、無機物(シリカ、ジルコニア、硫酸等)、及び顔料誘導体(シナジスト)等の表面処理剤で表面処理されていてもよい。例えば、顔料を合成する際、顔料化する際、又は顔料を微細化する際に、これらの表面処理剤を添加又は共存させてもよい。また、キナクリドン系顔料としては、異種顔料の混合結晶化物や固溶体顔料等の複合体を用いることもできる。
【0046】
(液媒体)
水性顔料分散液は、顔料の分散媒体として、水及び水溶性有機溶媒を含む液媒体を含有する。水溶性有機溶媒としては、重合溶媒として用いることができる前述のアルコール系溶媒、グリコール系溶媒、及びアミド系溶媒等を用いることができる。なかでも、水溶性有機溶媒はジエチレングリコールモノブチルエーテルであることが好ましい。高分子分散剤(ポリマー)の製造時にジエチレングリコールモノブチルエーテルを重合溶媒として用いるので、重合して得られた高分子分散剤の溶液をそのまま用いて水性顔料分散液を調製することができるので、工程を簡略化することができるために好ましい。
【0047】
(水性顔料分散液)
水性顔料分散液中の顔料の含有量は、5〜60質量%であることが好ましい。顔料が有機顔料である場合、水性顔料分散液中の有機顔料の含有量は、5〜30質量%であることが好ましく、10〜25質量%であることがさらに好ましい。また、顔料が無機顔料である場合、無機顔料は比重が大きいので、水性顔料分散液中の無機顔料の含有量は、20〜60質量%であることが好ましく、30〜50質量%であることがさらに好ましい。
【0048】
水性顔料分散液中の水の含有量は、20〜80質量%であることが好ましい。適当量の水を含有する水性顔料分散液とすることで、水性インクジェットインクを調製することができる。
【0049】
水性顔料分散液中の水溶性有機溶媒の含有量は、水溶性有機溶媒の含有量が30質量%以下であることが好ましく、0.5〜20質量%であることがさらに好ましい。水溶性有機溶媒の含有量が30質量%超であると、記録した画像が乾燥しにくくなることがある。
【0050】
水性顔料分散液中の高分子分散剤の含有量は、高分子分散剤の含有量が0.5〜20質量%であることが好ましい。高分子分散剤の含有量が0.5質量%未満であると、顔料を安定的に分散させることがやや困難になることがある。一方、高分子分散剤の含有量が20質量%超であると、粘度が高くなりすぎるとともに、非ニュートニアン粘性を示してしまい、インクジェット方式で直線的に吐出することがやや困難になる場合がある。
【0051】
水性顔料分散液中の高分子分散剤の含有量は、顔料の種類、表面性質、及び粒子径等に応じて設定することも好ましい。具体的には、有機顔料100質量部に対して、高分子分散剤5〜50質量部とすることが好ましく、10〜30質量部とすることがさらに好ましい。また、無機顔料100質量部に対して、高分子分散剤1〜20質量部とすることが好ましく、3〜10質量部とすることがさらに好ましい。
【0052】
(その他の成分)
水性顔料分散液には、高分子分散剤を中和するため、又はpH調整のため、アルカリをさらに含有させてもよい。アルカリとしては、前述のアンモニア、ジメチルアミノエタノール、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも一種を用いることができる。水性顔料分散液中のアルカリの含有量は、0.5〜5質量%とすることが好ましい。
【0053】
水性顔料分散液には、バインダー成分として、アクリル樹脂エマルジョン及びウレタン樹脂エマルジョンの少なくともいずれかのエマルジョンをさらに含有させることができる。水性顔料分散液中のエマルジョンの固形分換算の含有量は、5〜20質量%であることが好ましい。これらのエマルジョンを含有させることで、擦過性等の耐久性及び光沢性が向上した画像を記録可能な水性インクジェットインクを調製しうる水性顔料分散液とすることができる。
【0054】
アクリル樹脂エマルジョンとしては、界面活性剤の存在下でスチレン及びアクリル酸系モノマーを重合して得られる、分散粒子径(数平均粒子径)50〜200nmのエマルジョンを用いることができる。ウレタン樹脂エマルジョンとしては、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート;ポリカーボネートジオール等のポリオール;ジエチレングリコール等のジオール;及びジメチロールプロパン酸等のジオールモノカルボン酸等を反応させ、イソホロンジアミンで鎖延長させつつ、アルカリ水で自己乳化させて得られる、分散粒子径(数平均粒子径)が50〜200nmのエマルジョンを用いることができる。
【0055】
(水性顔料分散液の物性)
水性顔料分散液の粘度は、顔料の性質や、調製しようとする水性インクジェットインクの粘度等に応じて適宜設定することができる。有機顔料を用いた場合には、水性顔料分散液の25℃における粘度は3〜20mPa・sであることが好ましい。無機顔料を用いた場合には、水性顔料分散液の25℃における粘度は5〜30mPa・sであることが好ましい。
【0056】
水性顔料分散液の25℃における表面張力は、15〜45mN/mであることが好ましく、20〜40mN/mであることがさらに好ましい。水性顔料分散液の表面張力は、例えば、水溶性有機溶媒の種類及び量によって、又は界面活性剤等を添加すること等にとって調整することができる。
【0057】
(水性顔料分散液の調製方法)
水性顔料分散液は、従来公知の方法にしたがって調製することができる。例えば、水、及び必要に応じて水溶性有機溶媒を添加して、顔料及び高分子分散剤等の混合物を調製する。そして、ペイントシェイカー、ボールミル、アトライター、サンドミル、横型メディアミル、コロイドミル、ロールミル等を使用し、顔料を微分散させて分散液を調製する。調製した分散液に、水及び水溶性有機溶媒を添加するとともに、必要に応じて、バインダー成分(エマルジョン)、その他の添加剤等を添加して所望の濃度に調整する。さらに、アルカリ等を添加してpHを調整してもよい。さらに、界面活性剤や防腐剤等の各種添加剤を必要に応じて添加することで、目的とする水性顔料分散液を得ることができる。なお、各成分の混合及び分散後には、遠心分離機やフィルターを用いて粗大粒子を除去することが好ましい。
【0058】
顔料の数平均粒子径(粒度分布)を所望の範囲とするには、例えば、用いる粉砕メディアのサイズを小さくする;粉砕メディアの充填率を大きくする;処理時間を長くする;吐出速度を遅くする;粉砕後フィルターや遠心分離機等で分級する;等の手法が採用される。また、ソルトミリング法等の従来公知の方法によって事前に微細化した顔料を用いることも好ましい。
【0059】
<水性インクジェットインク>
本発明の水性インクジェットインクは、前述の水性顔料分散液を含有する、プラスチックメディア印刷用及び捺染用のインクである。前述の水性顔料分散液を用いること以外は、従来公知の方法にしたがって本発明のインクとすることができる。なお、インク中の顔料の含有量は、4〜20質量%であることが好ましい。
【0060】
インクには、通常の水性インクジェットインクに用いられる各種の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、界面活性剤、有機溶媒・保湿剤、顔料誘導体、染料、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、エマルジョン等のバインダー成分、防腐剤、抗菌剤等を挙げることができる。
【0061】
インクの物性は、インクジェットプリンタの性能等に応じて適宜設定される。例えば、25℃におけるインクの表面張力は、20〜40mN/mであることが好ましい。
【0062】
本発明のインクは、プラスチックメディア印刷用のインクジェット印刷機(プリンタ))や、捺染用のインクジェット印刷機(プリンタ)に適用することができる。印刷対象となるメディア(記録媒体)としては、オレフィンフィルム、塩化ビニルフィルム、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム等のプラスチックフィルム;綿、化学繊維などの布地;等を挙げることができる。もちろん、一般的なインクジェット印刷に適用される紙や金属等のメディアに印刷することも可能である。
【0063】
本発明のインクを用いることで、密着性、耐水性、及び耐久性等に優れているとともに、発色性の高い画像をプラスチックメディアや布地等の媒体に高速記録することができる。さらに、本発明のインクは高速印刷に適していることから、食品パッケージや包装材料等に印刷するために使用される大量印刷用のインクジエット印刷機に好適である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0065】
<高分子分散剤の製造>
(実施合成例1)
撹拌機、逆流コンデンサー、温度計、窒素導入管、及び滴下装置を取り付けた反応容器にジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)100部を入れ、窒素雰囲気下で70℃に加温した。別容器に、スチレン(St)20部、メタクリル酸メチル(MMA)15部、メタクリル酸エチル(EMA)15部、メタクリル酸ドデシル(LMA)20部、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル(HPMA)20部、メタクリル酸(MAA)10部、及びアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.5部を混合して均一化させ、モノマー混合液を得た。得られたモノマー混合液を滴下装置に入れた。内温を70℃に保ちつつ、反応容器内にモノマー混合液の1/3を添加した。モノマー混合液の残分を2時間かけて滴下した後、70℃で8時間重合してポリマーを合成し、ポリマーを含有する液体を得た。液体の一部をサンプリングし、テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にてポリマーの分子量を測定した。その結果、ポリマーの数平均分子量(Mn)は15,800であり、分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は2.35であり、ピークトッ分子量(PT)は35,900であった。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPCチャート)の全ての分子量ピークの面積(T)に占める、50,000以上の分子量ピークの面積(H)の割合(H/T)は、21.0%であった。得られた液体の固形分は50.1%であり、重合率は約100%であった。固形分は、得られた液体の一部をアルミ皿に測りとり、150℃の送風乾燥機にて3時間乾燥させ、得られた残分から算出した。
【0066】
ポリマーを含有する溶液を50℃まで冷却した後、28%アンモニア水7.1部及び水92.9部を含有するアルカリ水溶液を添加して中和し、高分子分散剤−1の水溶液(薄黄色の透明液体)を得た。得られた液体の固形分は33.1%であった。
【0067】
(実施合成例3〜6、参考合成例、7〜9)
表1に示す種類及び量(単位:部)のモノマー、水溶性有機溶媒、及びアルカリを用いたこと以外は、前述の実施合成例1と同様にして、高分子分散剤−2〜9の水溶液を得た。得られた高分子分散剤の物性等を表1に示す。また、表1中の略号の意味を以下に示す。
・EHMA:メタクリル酸2−エチルヘキシル
・HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル
・MPG:プロピレングリコールモノメチルエーテル
・NaOH:水酸化ナトリウム
・DMAE:ジメチルアミノエタノール
【0068】
【0069】
(比較合成例1〜3)
BDGに代えて、MPG(比較合成例1)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(PPG、比較合成例2)、及びエタノール(比較合成例3)を水溶性有機溶媒としてそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施合成例1と同様にして、高分子分散剤の製造を試みた。MPG及びPPGを用いた場合(比較合成例1及び2)、重合して得られた液体はいずれも透明であった。比較合成例1で得た液体中のポリマーのMnは14,900であり、PDIは1.96であり、H/Tは16.6%であった。また、比較合成例2で得た液体中のポリマーのMnは15,100であり、PDIは2.13であり、H/Tは1.89%であった。しかし、アンモニア水溶液を添加したところ、いずれの液体も白濁して固形分が析出してしまい、高分子分散剤の透明な溶液を得ることができなかった。また、エタノールを用いた場合(比較合成例3)には、重合中に濁りが生じて固形分が析出した。
【0070】
(比較合成例4〜6)
AIBNの量を変更したこと以外は、前述の実施合成例1と同様にして、比較高分子分散剤−1〜3の溶液を得た。比較合成例4ではAIBNの量を3部とし、比較合成例5ではAIBNの量を0.8部とした。また、比較合成例6では、実施合成例1で用いた水溶性有機溶媒と同じ水溶性有機溶媒を用いるとともに、同じ種類及び量のモノマーを全量仕込み、AIBN0.1部、連鎖移動剤としてのドデシルメルカプタン1.5部を添加して4時間重合した後、AIBN0.1部をさらに添加して重合した。得られた比較高分子分散剤の物性等を表2に示す。
【0071】
【0072】
(比較合成例7〜9)
表3に示す種類及び量(単位:部)のモノマーを用いたこと以外は、前述の実施合成例1と同様にして、比較高分子分散剤−4〜6の水溶液を得た。得られた比較高分子分散剤の物性等を表3に示す。
【0073】
【0074】
<顔料分散液及びインクの調製(1)>
(実施例1)
高分子分散剤−1の溶液261.7部、プロピレングリコール70部、及び水106.4部を混合して透明の溶液を得た。得られた溶液にC.I.ピグメントブルー15:3(商品名「A−220JC」、大日精化工業社製)350部を添加し、ディスパーを使用して30分撹拌してミルベースを調製した。横型媒体分散機(商品名「ダイノミル0.6リットルECM型」、シンマルエンタープライゼス社製、ジルコニア製ビーズの径:0.5mm)を使用し、周速10m/sで分散処理してミルベース中に顔料を十分に分散させた。水316部を添加して顔料濃度が18%となるように調整した。ミルベースを遠心分離処理(7,500回転、20分間)した後、ポアサイズ10μmのメンブレンフィルターでろ過した。水で希釈して、顔料濃度14%であるインクジェットインク用の顔料分散液−1(IJD−1)を得た。
【0075】
粒度測定機(商品名「NICOMP 380ZLS−S」、インターナショナル・ビジネス社製)を使用して測定したIJD−1中の顔料の数平均粒子径は116nmであり、顔料が微分散されていることを確認した。また、IJD−1の粘度は2.9mPa・sであり、pHは9.5であった。70℃で1週間保存後のIJD−1中の顔料の数平均粒子径は116nmであり、IJD−1の粘度は2.9mPa・sであった。これにより、IJD−1の保存安定性が非常に良好であることを確認した。
【0076】
IJD−1 40部、水42.2部、1,2−ヘキサンジオール5部、グリセリン10部、及び界面活性剤(商品名「サーフィノール465」、エアープロダクト社製)1部を混合して十分撹拌した後、ポアサイズ10μmのメンブランフィルターでろ過して、インクジェット用のインク(IJI−1)を得た。
【0077】
(実施例3〜6、参考例、7〜9、比較例4〜9)
表4及び5に示す種類の高分子分散剤及び比較高分子分散剤をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、インクジェットインク用の顔料分散液−2〜9(IJD−2〜9)及び比較顔料分散液−1〜6(CIJD−1〜6)を調製した。各顔料分散液の特性(分散直後及び70℃で1週間保存後の顔料の数平均粒子径及び粘度)を表4及び5に示す。
【0078】
さらに、調製したIJD−2〜9及びCIJD−1〜6をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、インクジェット用の水性顔料インク(IJI−2〜9)及び比較水性顔料インク(CIJI−1〜6)を得た。
【0079】
<評価(1)>
調製した水性顔料インクをカートリッジにそれぞれ充填し、プレートヒーター付きインクジェット印刷機(商品名「MMP825H」、マスターマインド社製)に装着した。そして、表面温度が50℃となるようにプレートヒーターで加熱したPETフィルム(商品名「FE22001♯50」、フタムラ化学社製)にベタ画像を印刷して印刷物を得た。
【0080】
(分散性)
以下に示す評価基準にしたがって、調製した顔料分散液の分散性を評価した。結果を表4及び5に示す。
〇:微分散でき、保存安定性が良好であった。
△:微分散できているが、保存安定性が不良であった。
×:微分散できず、保存安定性も不良であった。
【0081】
(吐出性)
印刷時のインクの吐出状態を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがってインクの吐出性を評価した。結果を表4及び5に示す。
〇:問題なく吐出できた。
△:微小液滴の飛び散りが認められた。
×:吐出の際、液滴がスプラッシュして飛び散り、画像が乱れた。
【0082】
(画質)
印刷した画像を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって画質を評価した。結果を表4及び5に示す。
〇:良好な画像を記録することができた。
×:筋が入る等して画像が乱れた。
【0083】
(密着性)
印刷物を100℃で10分間乾燥させた後、画像にセロファンテープを十分に押し当ててから剥離した。PETフィルムからの画像の剥がれ具合を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがってPETフィルムに対する画像の密着性を評価した。結果を表4及び5に示す。
◎:まったく剥がれなかった。
○:僅かに剥がれた。
△:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が小さかった。
×:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が大きかった。
【0084】
(耐摩擦性(耐乾摩擦性及び耐湿摩擦性))
印刷物を100℃で10分間乾燥させた後、学振型摩擦堅牢度試験機(商品名「RT−300」、大栄科学社製)を使用し、乾燥した白布及び水で湿らせた白布により、それぞれ100gの加重で10往復する摩擦試験を行った。
摩擦試験後の画像の剥がれ具合を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって
画像の耐摩擦性(乾摩擦性及び湿摩擦性)を評価した結果を表4及び5に示す。
◎:まったく剥がれなかった。
○:僅かに剥がれた。
△:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が小さかった。
×:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が大きかった。
【0085】
【0086】
【0087】
<顔料分散液及びインクの調製(1)>
(実施例10〜12)
C.I.ピグメントブルー15:3に代えて、C.I.ピグメントレッド122(大日精化工業社製)、C.I.ピグメントエロー155(クラリアントジャパン社製)、及びC.I.ピグメントブラック7(デグサ社製)をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例5と同様にして、顔料分散液−10〜12(IJD−10〜12)及びインク(IJI−10〜12)を得た。
【0088】
<評価(2)>
得られた顔料分散液及びインクにつき、前述の評価(1)と同様の評価を行った。結果を、実施例5の結果とともに表6に示す。
【0089】
【0090】
<捺染物の製造及び評価>
(実施応用例1〜4及び比較応用例1)
IJD−5、10、11、及び12、並びにCIJD−4をそれぞれ用いてインクを調製した。具体的には、各顔料分散液20部、ウレタン樹脂の水分散体(光散乱法により測定した平均粒子径:42.2nm、固形分:25.0%)20部、水33部、プロピレングリコール26部、及び界面活性剤(商品名「サーフィノール465」、エアープロダクト社製)1部の混合物を十分撹拌した後、ポアサイズ10μmのメンブランフィルターでろ過して、インクジェット用のインクを調製した。ウレタン樹脂としては、イソホロンジイソシアネート/ポリヘキサメチレンカーボネートジオール/ジメチロールブタン酸/ヒドラジンで形成され、トリエチルアミンで中和された樹脂(酸価:34.2mgKOH/g)を用いた。
【0091】
調製したインクをカートリッジにそれぞれ充填し、インクジェット方式のプリンタ(商品名「HEATJET MMP813H」、マスターマインド社製)に装着した。
このプリンタを使用し、黒色染料で着色されたコットン製(リングスパンコットン100%)の布帛にベタ印刷して印刷物を得た。自動アイロンプレス機(商品名「SATANAS PS−4634」、ユーロポート社製)を使用し、得られた印刷物を60秒間加圧してインクを布帛に定着させて、捺染物を得た。
【0092】
小型自動洗濯機(商品名「晴晴ミニ AKS−2.5GL」、アルミス社製)を使用し、洗剤を2g/L投入した40℃の温水で、得られた捺染物を15分間×3回洗濯した。なお、水:布帛=30:1(質量比)の条件で洗濯した。洗剤としては、商品名「アタック」(花王製)を用いた。脱水後、2分間濯ぎ、さらに脱水及び乾燥した。JIS L 0805に基づき、変退色グレースケール又はブルースケールを使用して標準スケール色の変色度合いを比較し、以下に示す評価基準にしたがって洗濯堅牢性を評価した。結果を表7に示す。
A:4−5級〜5級
B:3−4級〜4級
C:2−3級〜3級
D:2級以下
【0093】
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の高分子分散剤を用いれば、プラスチックメディアへの記録や布地(布帛)の捺染に好適な水性インクジェットインクを提供することができる。そして、この水性インクジェットインクを用いれば、例えば、各種の容器、包装、ラベル、サインディスプレイ、のぼり旗、衣服等に高品質な画像をオンデマンドで高速に印刷することができる。

【要約】
【課題】顔料が安定的かつ高度に微分散されているとともに、密着性及び耐久性に優れた画像をプラスチックメディアや布地に記録可能な水性インクジェットインクを調製しうる水性顔料分散液に配合される高分子分散剤を提供する。
【解決手段】プラスチックメディア印刷用又は捺染用の水性インクジェットインクに用いる水性顔料分散液に配合される、顔料を分散させるための高分子分散剤である。
下記要件(1)等を満たすポリマーである。
[要件(1)]:
スチレンに由来する構成単位(i)、メタクリル酸メチル等に由来する構成単位(ii)、メタクリル酸2−エチルヘキシル等に由来する構成単位(iii)、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等に由来する構成単位(iv)、及びメタクリル酸に由来する構成単位(v)を含み、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されている。
【選択図】なし