(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979154
(24)【登録日】2021年11月17日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】カレー風味食品およびカレー風味調味料
(51)【国際特許分類】
A23L 23/00 20160101AFI20211125BHJP
A23L 27/20 20160101ALI20211125BHJP
A23L 27/10 20160101ALN20211125BHJP
【FI】
A23L23/00
A23L27/20 F
A23L27/20 D
!A23L27/10 C
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-76505(P2017-76505)
(22)【出願日】2017年4月7日
(65)【公開番号】特開2018-174753(P2018-174753A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月27日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年10月8日に第31回日本香辛料研究会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000201733
【氏名又は名称】曽田香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】和田 布美子
(72)【発明者】
【氏名】安心院 崇
(72)【発明者】
【氏名】安永 元樹
【審査官】
澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−527639(JP,A)
【文献】
特開2005−013138(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/133051(WO,A1)
【文献】
レシピサイト「cookpad」に掲載されたレシピ「夏野菜のサンバル☆本格インドカレー」, レシピID : 2245525,2013年 6月 6日,[オンライン], 検索日:2021年 2月 2日,URL,https://cookpad.com/recipe/2245525
【文献】
レシピサイト「cookpad」に掲載されたレシピ「さば缶で☆インド風カレー」, レシピID : 3382616,2016年 3月13日,[オンライン], 検索日:2021年 2月 2日,URL,https://cookpad.com/recipe/3382616
【文献】
レシピサイト「cookpad」に掲載されたレシピ「サグチキンカレー」, レシピID : 1287479,2012年11月 7日,[オンライン], 検索日:2021年 2月 2日,URL,https://cookpad.com/recipe/1287479
【文献】
Journal of Agricultural and Food Chemistry,2017年02月22日,65,pp.2141-2146
【文献】
Progress in Essential Oils,Perfumer & Flavorist,2016年,41,pp.48-52
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,C11B
CAPlus/REGISTRY/FSTA(STN),
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII),
Cookpad
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1−フェニルエタンチオール(ただし、カレーリーフ由来のものを除く。)を質量比で1ppt〜1ppb添加してなるカレー風味が向上したカレー風味食品。
【請求項2】
さらにα−フェランドレンを質量比で1ppt〜10ppm及び/又はβ−ミルセンを質量比で0.1〜1ppm添加してなる請求項1に記載のカレー風味食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカレー風味食品及びカレー風味食品に使用されるカレー風味調味料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本においては特にカレーの風味は一般に好まれており、調理食品や調味料の他、ベーカリー製品や菓子などにも幅広く使用されている。従来からカレー風味の嗜好性を高めるために様々な方法が提案されている。特にカレー風味の特徴は混合スパイスの風味とされるため、例えばスパイス系の香料組成物のカレー風味用途が特許文献1に記載されており、また特許文献2にはレトルトカレーの香味増強の目的で種子香辛料を油脂とともに100〜160℃に加熱処理した後に磨砕して得られる組成物が提案されている。しかしながら、カレー風味は単にスパイスの風味の混合物ではなく、調理の過程を経て変化もしくは生成する風味を含めた極めて繊細なバランスのうえに成立するものであって、スパイスの香味を追加することで嗜好性が向上するものとは限らず、むしろ特定のスパイスの香味が突出するなどして本来求めていた風味とは異なるものとなる場合もある。
【0003】
1−フェニルエタンチオールは香料として使用できる化合物として知られており、その香気特性は焼けた、焦げた様な香気、硫黄様香気、樹脂様香気である。特許文献3に1−メルカプト−1−フェニルアルカン類が香料化合物として使用可能であることが示され、1例として1−メルカプト−1−フェニル−エタン(1−フェニルエタンチオール)をカレーに使用することができることも示されている。しかしながら、特許文献3類似構造の一連の化合物群が香料化合物として使用可能なことを開示しているにとどまるため、当該化合物群の香気を上乗せするイメージとなっている。実際に特許文献3に記載されている例に従うと1−フェニルエタンチオールの香気が突出するため元のカレーとは異なる風味の食品となり、元のカレーらしさが感じられるものではなくなってしまう。そのため、1−フェニルエタンチオールが有する香気イメージに対する嗜好に左右され、カレーの特徴づけとしての可能性は読み取れるものの、カレー全般の風味を向上させるものとは考えられなかった。
【0004】
一方、カレーリーフはミカン科のオオバゲッキツの葉で、カレーと柑橘類を合わせたような独特な香気を有しており、料理の香りづけに利用されている。カレーリーフは乾燥すると香気が弱まるため一般に生葉が使用される。そのため、食品製造において工業的な利用はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-13138公報
【特許文献2】特許第4020350号公報
【特許文献3】特許第4098232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、工業的に生産される食品に対して、より好ましいカレー風味を付与し、もしくは調整するための手段を提供することでより嗜好性の高いカレー風味食品を製造することを可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、スパイスとしてのカレーリーフの香気を分析し、その成分をスパイス系香料に利用することを目的に研究を重ねてきた。その結果、特徴成分として1−フェニルエタンチオール、α−フェランドレン、β−ミルセンを有効成分として特定した。さらにカレー風味に対する添加効果を検証するため、その添加量を検討したところ、通常考えられる範囲より低い添加量においては、特徴付けとしての風味付与効果ではなく、元のカレー風味のイメージを変えることなく嗜好性を高める効果があることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明によればカレー風味食品に1−フェニルエタンチオールを質量比で1ppt〜1ppb添加することでカレーらしいロースト感を風味のバランスを崩すことなく強調し嗜好性の高いカレー風味食品とすることが可能となる。さらに、α−フェランドレンを質量比で1ppt〜10ppm及び/又はβ−ミルセンを質量比で0.1〜1ppm添加することでスパイスの風味に含まれるシトラスのさわやかなイメージや甘さを強調することでさらに嗜好性を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カレー風味食品の風味バランスを崩すことなく、元のカレー風味食品の風味イメージを保ったままで嗜好性をより高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明にいうカレー風味食品とは、そのまま喫食されるか加熱されるだけで湯を加えるなどの風味が希釈される操作を加えずに喫食されるものをいう。具体的には例えばレトルトカレー、冷凍チャーハン、冷凍麺類、レトルトスープ、缶入りスープなどの調理食品、レトルトカレーなどに希釈されずに使用されるカレーソース、饅頭、パン、ピザなどのベーカリー製品もしくはその具材などの中間原料、焼き菓子、スナック菓子などが挙げられる。
【0011】
本発明にいうカレー風味調味料とは、カレー粉やカレールー、インスタント食品の香味料などのように、そのままで喫食されず、湯を加えるなどの調理過程を経て喫食される状態においては希釈されること、またはシーズニングパウダーやソース、ドレッシングなどのように喫食状態の食品に対して風味付与のために使用される調味料が少ないことを想定して、風味が強い状態で調整されたものをいう。具体的には例えば、カレー粉、カレールウ、シーズニングパウダー、調味油、ドレッシング、ソース、固形スープ、粉末スープ、濃縮スープ、インスタント麺類の香味料やスープ、インスタント米飯類の香味料などが挙げられる。
【0012】
本発明の有効成分である1−フェニルエタンチオールは香料化合物として知られているものであり、この化合物自体の香気は焼けた、焦げた様な香気、硫黄様香気、樹脂様香気である。1−フェニルエタンチオールの製造方法は公知であり、例えば特許第4098232号公報に記載された方法で得ることができる。本発明において1−フェニルエタンチオールはカレー風味食品のロースト感をエンハンスすることで自然な調理感を付与するために使用され、その添加量はカレー風味食品において質量比で1ppt〜1ppbが提示される。添加量が1ppt未満では添加効果が感じ難くなり嗜好性の向上効果が得られず、1ppbを超えると1−フェニルエタンチオール独特の香気が強く風味の調和が崩れることにより嗜好性の向上効果が広くは得られなくなる。カレー風味調味料においては喫食時に希釈される割合を勘案して他の香味成分と同様に添加量が増量される。すなわち、カレー風味調味料を使用した食品の喫食時において、前記カレー風味食品と同等の添加量となるように調整される。この場合、カレー風調味料の喫食時の使用形態によって異なるため、それぞれの使用形態に応じて対象のカレー風味調味料全体の風味に合わせて調整される。一般的にはカレー風味調味料に対して質量比で5ppt〜50ppbの添加量が提示される。
【0013】
また、本発明の追加の有効成分であるα−フェランドレンは香料化合物として知られているものであり、この化合物自体の香気はシトラス、グリーン、ペッパー、ウッディ―、ミント様香気である。α−フェランドレンは市販されているものを使用することができ、また公知の方法で合成することもできる。本発明においてα−フェランドレンはカレー風味食品のスパイスの香気中に見られるシトラス系のさわやかさを強調するために使用され、その添加量はカレー風味食品において質量比で1ppt〜10ppmが提示される。添加量が1ppt未満では添加効果が感じ難くなり嗜好性の向上効果が得られず、10ppmを超えるとα−フェランドレンの独特の香気が強く風味の調和が崩れることにより嗜好性の向上効果が広くは得られなくなる。カレー風味調味料においては喫食時に希釈される割合を勘案して他の香味成分と同様に添加量が増量される。すなわち、カレー風味調味料を使用した食品の喫食時において、前記カレー風味食品と同等の添加量となるように調整される。一般的にはカレー風味調味料に対して質量比で5ppt〜500ppmの添加量が提示される。
【0014】
さらに、本発明の他の有効成分であるβ−ミルセンは香料化合物として知られているものであり、この化合物自体の香気はバルサム、ハーブ、ゼラニウム、フルーツ様香気である。市販されているものを使用することができ、また公知の方法で合成することもできる。本発明においてβ−ミルセンはカレー風味食品のスパイスの香気中に見られるシトラス系の甘さを強調するために使用され、その添加量はカレー風味食品において質量比で0.1〜1ppmが提示される。添加量が0.1ppm未満では添加効果が感じ難くなり嗜好性の向上効果が得られず、1ppmを超えるとβ−ミルセンの独特の香気が強く風味の調和が崩れることにより嗜好性の向上効果が広くは得られなくなる。カレー風味調味料においては喫食時に希釈される割合を勘案して他の香味成分と同様に添加量が増量される。すなわち、カレー風味調味料を使用した食品の喫食時において、前記カレー風味食品と同等の添加量となるように調整される。一般的にはカレー風味調味料に対して質量比で0.5〜50ppmの添加量が提示される。
【0015】
本発明のカレー風味食品及びカレー風味調味料は、本発明の有効成分を添加すること以外は公知のものとの違いはなく、公知の方法で製造される。
【0016】
本発明のカレー風味食品及びカレー風味調味料における有効成分である1−フェニルエタンチオールはα−フェランドレン及び/又はβ−ミルセンと混合して食品もしくは調味料に添加することもできる。さらには、香料、呈味剤、呈味増強剤、香気もしくは呈味のマスキング剤、抗酸化剤、保存料などのその他の添加物とあらかじめ混合した添加剤として調整したものとしてから食品もしくは調味料に添加してもよい。
【0017】
本発明のカレー風味食品及びカレー風味調味料における前記有効成分の添加は、対象となる食品、もしくは例えば饅頭、パン、ピザなどの具材のようにカレー風味を付与する部分が一部である場合はその風味を付与する部分の製造工程における最終工程付近で添加することが好ましい。
【実施例】
【0018】
1−フェニルエタンチオール、α−フェランドレン、β−ミルセンをそれぞれ食品用精製加工油脂で希釈し、市販のレトルトカレー(中辛)にカレー中の各成分濃度を変えて添加した。各成分を添加したカレーをよく訓練された専門パネルが試食し、嗜好性の評価をブランク(無添加)の評価を1として5段階で評価し、風味のバランスが崩れるなど無添加の物よりも嗜好性が低下するものについては特に評価を0とした。
【0019】
表1に評価結果を記載する。
【0020】
【表1】
【0021】
表1に示す通り、1−フェニルエタンチオールの添加によりカレー風味の嗜好性は向上した。また、α−フェランドレン、β−ミルセンをさらに添加することでさらに嗜好性が向上することが確認された。1−フェニルエタンチオールの適正添加量は1ppt〜1ppbであり、10ppb以上になると1−フェニルエタンチオール自体の風味が強くカレーの風味として感じられなくなった。同様にβ−ミルセンの適正添加量は0.1〜1ppmであり、添加量が10ppm以上になるとβ−ミルセン自体の風味が強く風味向上効果は得られなかった。また、α−フェランドレンの適正添加量は1ppt〜10ppmであった。