(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979173
(24)【登録日】2021年11月17日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】サージ防護素子
(51)【国際特許分類】
H01T 1/20 20060101AFI20211125BHJP
H01T 2/02 20060101ALI20211125BHJP
H01T 4/10 20060101ALI20211125BHJP
H01T 4/12 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
H01T1/20 F
H01T2/02 F
H01T4/10 F
H01T4/12 F
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-24221(P2018-24221)
(22)【出願日】2018年2月14日
(65)【公開番号】特開2019-140033(P2019-140033A)
(43)【公開日】2019年8月22日
【審査請求日】2020年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】杉本 良市
(72)【発明者】
【氏名】尾木 剛
(72)【発明者】
【氏名】田中 芳幸
【審査官】
内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−059632(JP,A)
【文献】
特開2014−154528(JP,A)
【文献】
特開2011−171189(JP,A)
【文献】
特開2010−192322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 1/00 − 4/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性管と、
前記絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極と、
前記絶縁性管内に収納され両端部が一対の前記封止電極に接触した板状絶縁性部材と、
前記板状絶縁性部材の中央に導電性材料で形成された放電補助部とを備え、
前記板状絶縁性部材の端部が、前記放電補助部が形成されている部分の厚さよりも薄く形成され、前記封止電極との接触面と前記放電補助部が形成されている部分の表面との間に、近接する前記封止電極側に向いた対向面を有し、
前記板状絶縁性部材の前記端部が、先端に向けて厚さが漸次薄くされたテーパ形状とされ、前記対向面が、前記放電補助部が形成されている部分の表面に対して傾斜した傾斜面とされていることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項2】
請求項1に記載のサージ防護素子において、
前記対向面が、前記板状絶縁性部材の両面に形成されていることを特徴とするサージ防護素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷等で発生するサージから様々な機器を保護し、事故を未然に防ぐのに使用するサージ防護素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電話機、ファクシミリ、モデム等の通信機器用の電子機器が通信線との接続する部分、電源線、アンテナ或いはCRT駆動回路等、雷サージや静電気等の異常電圧(サージ電圧)による電撃を受けやすい部分には、異常電圧によって電子機器やこの機器を搭載するプリント基板の熱的損傷又は発火等による破壊を防止するために、サージ防護素子が接続されている。
【0003】
従来、サージ防護素子として、例えば特許文献1に示すように、ガラス管と、ガラス管の両端開口部を閉塞して内部に放電ガスを封止する一対の封止電極と、両端に一対の封止電極を配してガラス管内に収納された板状碍子とを備えたサージアブソーバが記載されている。このサージアブソーバでは、板状碍子の表面中央に導電性材料であるカーボンのトリガ部が形成されているカーボントリガ型のサージ防護素子である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−192322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
従来のカーボントリガ型のサージ防護素子では、ガラス管の内径が小さくなると、放電時の封止電極から発生した金属蒸気が板状碍子の表面に付着し易く、繰り返しの寿命特性が早期に劣化してしまう問題があった。すなわち、寿命特性の劣化は、放電開始電圧Vsの低下が主であり、その要因は放電時に生じた金属蒸気が板状碍子の絶縁表面を汚損することによる。特に、ガラス管内径を小さくしてサージ防護素子を小型化しようとすると、放電時の封止電極から発生した金属蒸気が板状碍子の表面に容易に付着し、寿命特性が早期に劣化してしまう不都合があった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、放電時に生じた金属蒸気による寿命特性の劣化を抑制することができるサージ防護素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明のサージ防護素子は、絶縁性管と、前記絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極と、前記絶縁性管内に収納され両端部が一対の前記封止電極に接触した板状絶縁性部材と、前記板状絶縁性部材の中央に導電性材料で形成された放電補助部とを備え、前記板状絶縁性部材の端部が、前記放電補助部が形成されている部分の厚さよりも薄く形成され、前記封止電極との接触面と前記放電補助部が形成されている部分の表面との間に、近接する前記封止電極側に向いた対向面を有していることを特徴とする。
【0008】
すなわち、このサージ防護素子では、板状絶縁性部材の端部が、放電補助部が形成されている部分の厚さよりも薄く形成され、封止電極との接触面と放電補助部が形成されている部分の表面との間に、近接する封止電極側に向いた対向面を有しているので、端部に電界が集中し易いと共に、進展するアーク放電が対向面によって板状絶縁性部材の表面から離間する方向に向けられることで、アーク放電に伴って飛び散る金属蒸気も飛び散る方向が板状絶縁性部材の表面から離間する方向に向けられ、板状絶縁性部材の表面に金属が付着し難くなる。
したがって、板状絶縁性部材の対向面よりも内側(中心側)の表面に金属で汚損されない部分が形成されることで、放電開始電圧の低下を抑えることができる。
【0009】
第2の発明に係るサージ防護素子は、第1の発明において、前記対向面が、前記板状絶縁性部材の両面に形成されていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、対向面が、板状絶縁性部材の両面に形成されているので、板状絶縁性部材の両面で対向面による汚損抑制効果を得ることができる。
【0010】
第3の発明に係るサージ防護素子は、第1又は第2の発明において、前記板状絶縁性部材の前記端部が、先端に向けて厚さが漸次薄くされたテーパ形状とされ、前記対向面が、前記放電補助部が形成されている部分の表面に対して傾斜した傾斜面とされていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、板状絶縁性部材の端部が、先端に向けて厚さが漸次薄くされたテーパ形状とされ、対向面が、放電補助部が形成されている部分の表面に対して傾斜した傾斜面とされているので、封止電極との接触面から進展するアーク放電が傾斜面である対向面によって板状絶縁性部材の表面から離間する斜め方向に向けられることで、アーク放電に伴って飛び散る金属蒸気も飛び散る方向が板状絶縁性部材の表面から離間する方向に向けられ、板状絶縁性部材の表面に金属が付着し難くなる。
【0011】
第4の発明に係るサージ防護素子は、第1又は第2の発明において、前記板状絶縁性部材の前記端部が、段差形状を有し、前記対向面が、前記放電補助部が形成されている部分の表面に対して垂直な壁面とされていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、板状絶縁性部材の端部が、段差形状を有し、対向面が、放電補助部が形成されている部分の表面に対して垂直な壁面とされているので、垂直な壁面の対向面によりアーク放電の進展が妨げられ、進展方向が変化することで、アーク放電に伴って飛び散る金属蒸気も垂直な壁面の対向面に留まったり、飛び散る方向が板状絶縁性部材の表面から離間する方向に変わったりして、対向面よりも内側の表面に金属が付着し難くなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るサージ防護素子によれば、板状絶縁性部材の端部が、放電補助部が形成されている部分の厚さよりも薄く形成され、封止電極との接触面と放電補助部が形成されている部分の表面との間に、近接する封止電極側に向いた対向面を有しているので、端部に電界が集中し易いと共に、アーク放電が対向面によって板状絶縁性部材の表面から離間する方向に向けられることで、板状絶縁性部材の表面に金属が付着し難くなる。
したがって、本発明に係るサージ防護素子では、板状絶縁性部材の対向面よりも内側の表面に金属で汚損されない部分が形成されることで、放電開始電圧の低下を抑えることができ、寿命特性の劣化を抑制することができる。特に、小型化した際に、絶縁性管内径が小さくなった場合や、板状絶縁性部材の端部と放電補助部との距離が短くなった場合に本発明は効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るサージ防護素子の第1実施形態において、絶縁性管及び封止電極を破断した際のサージ防護素子を示す正面図である。
【
図2】第1実施形態において、板状絶縁性部材を示す平面図(a)及びA−A線断面図(b)である。
【
図3】第1実施形態において、金属蒸気の飛散を示す説明図である。
【
図4】本発明に係るサージ防護素子の第2実施形態において、板状絶縁性部材を示す平面図(a)及びB−B線断面図(b)である。
【
図5】第2実施形態において、金属蒸気の飛散を示す説明図である。
【
図6】本発明に係るサージ防護素子の第3実施形態において、板状絶縁性部材を示す平面図(a)及びC−C線断面図(b)である。
【
図7】第3実施形態において、金属蒸気の飛散を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るサージ防護素子の第1実施形態を、
図1から
図3を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0015】
本実施形態のサージ防護素子1は、
図1及び
図2に示すように、絶縁性管2と、絶縁性管2の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極3と、絶縁性管2内に収納され両端部4bが一対の封止電極3に接触した板状絶縁性部材4と、板状絶縁性部材4の中央に導電性材料で形成された放電補助部5とを備えている。
【0016】
上記板状絶縁性部材4の端部4bが、放電補助部5が形成されている部分の厚さよりも薄く形成され、封止電極3との接触面と放電補助部5が形成されている部分の表面との間に、近接する封止電極3側に向いた対向面4aを有している。
本実施形態では、板状絶縁性部材4の端部4bが、先端に向けて厚さが漸次薄くされたテーパ形状とされ、対向面4aが、放電補助部5が形成されている部分の表面に対して傾斜した傾斜面とされている。すなわち、対向面4aは、近接する封止電極3に向けて傾斜した状態で対向した傾斜面となっている。
【0017】
上記対向面4aは、板状絶縁性部材4の両端部4bの両面にそれぞれ形成されている。
対向面4aは、放電補助部5が形成されている部分の表面に対して一定の角度で傾斜している。
【0018】
上記絶縁性管2は、例えばガラス管であって、封止用ガラスあるいは鉛ガラスやソーダ石灰ガラスのような軟質ガラスで構成されており、円筒状となっている。また、絶縁性管2の両端近傍において封止電極3の外周面が絶縁性管2の内周面と溶着されている。
上記封止電極3は、例えばFe(鉄)−Ni(ニッケル)合金の表面を酸化銅で被覆した金属で形成された放電電極であり、円柱状となっている。また、封止電極3の外面にはリード線3aが溶接されている。このリード線3aは、銅覆鋼線等で形成されている。
【0019】
上記板状絶縁性部材4は、アルミナ,ムライト焼結体などのセラミックス材料で板状に形成されている碍子である。
板状絶縁性部材4の両端部4bは、中央部よりも幅が広く設定されていると共に、両端部4bの両側は、テーパ状に形成されている。
上記放電制御ガスは、放電開始電圧などの電気特性が所望の値となるように組成などを調整された封止ガスであって、He、Ar、Ne、Xe、SF
6、CO
2、C
3F
8、C
2F
6、CF
4、H
2及びこれらの混合ガス等の不活性ガスである。
【0020】
上記放電補助部5は、導電性材料であって、例えば炭素材で形成されたカーボントリガである。
放電補助部5は、板状絶縁性部材4の中央に矩形状又は軸線に沿った短い直線状に形成されている。
【0021】
この本実施形態のサージ防護素子1では、過電圧又は過電流が侵入すると、まず放電補助部5と封止電極3との間で初期放電が行われる。この初期放電をきっかけに、さらに放電が伸展して、放電電極である一対の封止電極3間でアーク放電が行われる。このアーク放電は、板状絶縁性部材4の端部4bと封止電極3との接触する部分又はその近傍から伸展し、
図3に示すように、進展途中にある対向面4aによって、進展方向が板状絶縁性部材4の表面から離間する方向に変えられる。
【0022】
このように本実施形態のサージ防護素子1のように、板状絶縁性部材4の端部4bが、放電補助部5が形成されている部分の厚さよりも薄く形成され、封止電極3との接触面と放電補助部5が形成されている部分の表面との間に、近接する封止電極3側に向いた対向面4aを有しているので、端部4bに電界が集中し易いと共に、進展するアーク放電が対向面4aによって板状絶縁性部材4の表面から離間する方向に向けられることで、
図3に示すように、アーク放電に伴って飛び散る金属蒸気Mも飛び散る方向が板状絶縁性部材4の表面から離間する方向に向けられ、板状絶縁性部材4の表面に金属が付着し難くなる。
【0023】
したがって、板状絶縁性部材4の対向面4aよりも内側(中心側)の表面に金属で汚損されない部分が形成されることで、放電開始電圧の低下を抑えることができる。
また、対向面4aが、板状絶縁性部材4の両面に形成されているので、板状絶縁性部材4の両面で対向面4aによる汚損抑制効果を得ることができる。
【0024】
次に、本発明に係るサージ防護素子の第2及び第3実施形態について、
図4から
図7を参照して以下に説明する。なお、以下の実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0025】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、対向面4aが一定の角度で傾斜した傾斜面であるのに対し、第2実施形態のサージ防護素子では、
図4及び
図5に示すように、対向面24aが曲面で構成され傾斜角度が漸次変化している点である。
すなわち、第2実施形態では、板状絶縁性部材24の端部24bが断面円弧状に形成され、封止電極3に対して対向面24aの傾斜角度が封止電極3から離間するほど大きくなっている。このため、封止電極3との接触面近傍では、非常に狭いギャップが形成され、この狭いギャップに電界が集中し易くなる。
【0026】
このように第2実施形態のサージ防護素子では、対向面24aを有しているので、第1実施形態と同様に、封止電極3との接触面から進展するアーク放電が対向面24aによって板状絶縁性部材24の表面から離間する方向に向けられることで、
図5に示すように、アーク放電に伴って飛び散る金属蒸気Mも飛び散る方向が板状絶縁性部材4の表面から離間する方向に向けられ、板状絶縁性部材24の表面に金属が付着し難くなる。
また、曲面の対向面24aによって第1実施形態よりも狭いギャップが形成されることで、電界がギャップに集中してアーク放電が発生し易くなる。
【0027】
次に、第3実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、対向面4aが傾斜面であるのに対し、第3実施形態のサージ防護素子では、
図6及び
図7に示すように、板状絶縁性部材34の端部34bが、段差形状を有し、対向面34aが、放電補助部5が形成されている部分の表面に対して垂直な壁面とされている点である。
第3実施形態の板状絶縁性部材34の端部34bは、両面に段差形状を有し、両面にそれぞれ垂直な壁面である対向面34aを有している。
【0028】
このように第3実施形態のサージ防護素子では、板状絶縁性部材34の端部34bが、段差形状を有し、対向面34aが、放電補助部5が形成されている部分の表面に対して垂直な壁面とされているので、垂直な壁面の対向面34aによりアーク放電の進展が妨げられ、進展方向が変化することで、
図7に示すように、アーク放電に伴って飛び散る金属蒸気Mも垂直な壁面の対向面34aに留まったり、飛び散る方向が板状絶縁性部材34の表面から離間する方向に変わったりして、対向面34aよりも内側の表面に金属が付着し難くなる。
【0029】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1…サージ防護素子、2…絶縁性管、3…封止電極、4,24,34…板状絶縁性部材、4a,24a,34a…対向面、4b,24b,34b…板状絶縁性部材の端部、5…放電補助部