【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 一般社団法人電子情報通信学会、電子情報通信学会技術研究報告、Vol.116 No.465、第43頁から第48頁、平成29年2月14日
【文献】
小野順貴,短時間フーリエ変換の基礎と応用,日本音響学会誌,日本,一般社団法人日本音響学会,2016年12月,72巻12号,pp.764-769,https://doi.org/10.20697/jasj.72.12_764
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フーリエ変換は、応答信号の周波数特性を得るための1次フーリエ変換と、トレンドを除去した波形から位置応答を得るための2次フーリエ変換とを含み、前記1次フーリエ変換は、変換する範囲をオーバーラップさせながら移動して行うことを特徴とする請求項1に記載の挟み込み検出装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態である挟み込み検出装置1の構造図である。挟み込み検出装置1は、
図1の矢印Aに示すように左右方向に移動し相互の間隔Bが増減する第1部材11と第2部材12の間に物体13が挟まれたことを検出する装置である。ここでは、たとえば両開きの引き戸のように第1部材11、第2部材12の双方が移動することを想定しているが、いずれか一方が固定されていても良い。
【0017】
挟み込み検出装置1は、導波路21、音波入力部22、信号取得部23、制御装置29を備えている。制御装置29は、制御部20、信号生成部24、A/D変換部25、データ取り込み部26、信号処理部27を備えている。
【0018】
図2は、挟み込み検出装置1の動作の概要を示す図である。各処理の詳細については後述するが、挟み込み検出装置1は、次の手順で挟み込みの検出を行う。
(1)信号生成部24から音波入力部22に電気信号(スイープ信号)を入力する。
(2)音波入力部22が電気信号を音波に変換して導波路21の内部に入力する。
(3)信号取得部23が入力波と反射波の干渉波を受信し応答信号を取得する。
(4)A/D変換部25が応答信号をデジタル化し、データ取り込み部26がデジタル信号をメモリに記憶する。
信号処理部27が次の(5)〜(9)の処理を行う。
(5)デジタル化された応答信号に、時間で分割し変換範囲をオーバーラップさせた高速フーリエ変換(以下、「オーバーラップフーリエ変換」という。また、単に「フーリエ変換」という場合、高速フーリエ変換を意味する。)を施し周波数特性を算出する(1次フーリエ変換)。
(6)周波数特性に無負荷時の信号との差分処理を行い差分波形を生成する(この処理を「粗いトレンド除去」という)。粗いトレンド除去に先立って、平滑化処理を行っても良い。
(7)差分波形からトレンド成分を多項式で近似して除去する(この処理を「精密なトレンド除去」という)。
(8)トレンドが除去されたリプルに高速フーリエ変換を施して位置応答を生成する(2次フーリエ変換)。
(9)位置応答のピーク信号の情報(たとえば振幅値)に基づいて挟み込みの有無を判定する。判定結果に基づいて、挟み込み検出装置1が取り付けられる部材に応じた所定の制御を行う。
【0019】
導波路21は、たとえば、
図3に断面図を示す円管状の部材で、内部に音波を伝搬する空間21aを有している。導波路21の外形は円形に限らず長方形等の任意の形状とすることができ、また、空間21aの形状も音波を伝搬するのに十分な断面積があれば同様に任意の形状とすることができる。導波路21の端部21b、21cは閉塞されていても開放されていても良い。導波路21は、第1部材11の第2部材12と対向する部分11aに配置され、物体13が挟み込まれたときに物体13に押圧されて弾性変形する。このときの挟み込み位置21dにおける変形量tが後述する方法で挟み込みを検出するために十分な大きさとなるように、導波路21の材質、形状を調整する。
【0020】
音波入力部22は、導波路21の一方の端部21bに配置され、信号生成部24から入力された電気信号を音波に変換して空間21aに入力する。音波入力部22としては、たとえば、スピーカー、イヤホン等を用いることができる。なお、音波入力部22の位置は導波路21の端部には限定されず、端部から離れた位置であっても良い。また、空間21aの内部に配置しても空間21aの外部に配置しても良い。
【0021】
信号取得部23は、音波入力部22により入力された音波と変形が生じた位置21dで反射された音波の干渉波を検出して電気信号である応答信号に変換する。この応答信号は、増幅器28を介してA/D変換部25に入力される。信号取得部23としては、たとえばマイクロホンを用いることができる。なお、信号取得部23の位置は導波路21の端部には限定されず、端部から離れた位置であっても良い。また、空間21aの内部に配置しても空間21aの外部に配置しても良い。
【0022】
信号生成部24は、D/A変換部を含み、導波路21に入力する所望の音波に応じた電気信号を生成し音波入力部22に入力する。この信号は、たとえば、周波数が時間的に変化するスイープ信号とすることができる。また、信号生成部24は、複数のチャンネルを有しており、チャンネルを切り替えるスイッチング機能を有している。信号生成部24としては、たとえば、ファンクションジェネレータを用いることができる。
【0023】
制御部20は、たとえばCPU(Central Processing Unit)により構成し、信号生成部24、A/D変換部25、データ取り込み部26、信号処理部27を制御する。信号生成部24は、スイープ信号の開始周波数、終了周波数、周波数間隔を決定する機能を有しており、信号生成部24へ設定する。
【0024】
増幅器28は、信号取得部23から入力された応答信号を増幅してA/D変換部25に入力する。
【0025】
データ取り込み部26は、A/D変換部25でデジタル化された応答信号を取り込み図示しないメモリに記憶する。データ取り込み部26としては、たとえば、データロガーを用いることができる。データ取り込み部26のサンプリング周波数とデータ長は制御部20が決定する。
【0026】
信号処理部27は、応答信号にトレンド除去処理と2回のフーリエ変換を施して位置応答を生成する。そして、位置応答にピークが存在する場合に挟み込みがあると判定する。ピークの有無は、たとえば、所定の閾値よりも大きい応答の有無によって判定する。信号処理部27としては、たとえば、FPGA(field-programmable gate array)等の信号処理ボードを用いることができる。
【0027】
図4は、音波による挟み込みの検出の原理を説明する図である。信号入力手段22から端部21側に入力された入射波31の一部は挟み込み位置21d及び反対側の端部21cで反射され、入射波31と反射波32が重なった干渉波となり信号取得部23により検出される。
【0028】
音波入力部22に入力される電気信号の電圧は式(1)で表される。
【0030】
導波路21をx軸の正方向に伝搬する入射波31は式(2)と表される。
【0032】
ここでp
0は音圧定数、kは波数で式(3)で表される。
【0034】
挟み込み位置21dの端部21bからの距離をx
0とすると、反射波32は反射係数をrとすると、式(4)で表される。
【0036】
端部21b(x=0)の位置における合成波は式(5)で表すことができ、これが信号取得部23により受信される。
【0038】
ここで、合成波(干渉波、応答信号)の振幅は式(6)、パワースペクトルは式(7)で表される。
【0041】
図5に合成波のパワースペクトルの一例を示す。パワースペクトルには多数のピークが表れていてこの波形をリプルと呼ぶ。また、あるピークとそれに隣接する他のピークの間を「リプルの周期」と呼ぶ。式(7)では計算しやすいようにパワースペクトル(信号振幅の絶対値の2乗)としたが、絶対値(信号振幅)で処理を行うこともできる。絶対値で処理を行うと複素数を2乗する処理が不要となるので、信号処理部27での処理時間を短縮することができる。
【0042】
合成信号に対して周波数fに関してフーリエ変換を施すことによって、式(8)で表される位置の関数である位置応答を得る。
【0044】
図6に位置応答の一例を示す。挟み込み位置21dにピーク33が、端部21b(原点)の位置にピーク34が表れている。リプルの半波長分が検出される負荷の位置に相当する。また、原点のピーク34は、導波路21、音波入力部22、信号取得部23を含む装置全体の音響特性によるものである。原理的には、ピーク33の有無により挟み込みの有無を判定することができる。しかし、挟み込み位置21dが端部21bに近い場合には、ピーク33とピーク34が重なってしまい検出できないことがある。また、ピーク34の方がピーク33よりも大きいため、最大値によっては挟み込みの検出をすることができない。
【0045】
そこで、本発明では信号処理部27で応答信号からトレンド成分を除去する処理を行って音波入力部22付近の不感帯の減少を図っている。
【0046】
図7は、音波入力部22と信号取得部23の入出力比の周波数特性の一例を示す図である。周波数特性のサンプリング間隔の向上について、波形分割方法では波形の分割を細分化していくしかないが、細分化には限界がある。そこで、信号処理部27は、フーリエ変換する範囲を
図8に示すようにオーバーラップさせて周波数特性を解析する(1次フーリエ変換)。その際、たとえば、
図8の矢印A1〜A3に示すように、スイープ波をフーリエ変換していく範囲Δtを2msとし、オーバラップ量rをΔtの95%とする。このオーバーラップ量を調整することで周波数特性のサンプリング間隔と位置応答の分解能を調整することができる。
【0047】
また、上記のオーバーラップしたフーリエ変換処理を施したデータに対してデータ平滑化処理を行っても良い。これは、たとえば、あるデータ点の前の4点と後の4点(合計9点)を含めた単純移動平均により行う。
【0048】
オーバラップフーリエ変換と平滑化処理を行った応答信号の周波数特性を
図9に示す。
図9の曲線35が挟み込みがある場合、曲線36が挟み込みのない場合である。曲線36は、
図1の第1部材11と第2部材12の間に物体13が挟み込まれていない状態で測定を行って予め取得しておく。信号処理部27は曲線35と曲線36の差分を算出し
図10に示す差分波形を生成する(粗いトレンド除去)。挟み込みがある際の周波数特性は理論的には式(7)と表されるので、差分のリプルは式(7)にr=0を代入したものを差し引けば式(9)となるが、まだr
2の直流成分が残る。
【0050】
この直流成分は一定ではなく周波数毎に変化するので平均除法では除去できないので、応答信号全体の推移を多項式で近似することでトレンド除去を行う。トレンド除去は、たとえば、応答信号のトレンドを10次式で近似することにより行う(精密なトレンド除去)。このようにすれば、特にデータの中から判別しにくい長周期信号を抽出するのに効果的である。この、精密なトレンド除去には、10次以外の次数の多項式、その他、一般的な包絡線検波のための信号処理や近似曲線を使用することもできる。
【0051】
図11は、トレンド除去を施したリプルに対してフーリエ変換(2次フーリエ変換)を施すことによって得られた位置応答の一例である。挟み込み位置21d(
図1参照)であるx=600mm付近に明瞭なピーク33が表れ、その他の部分は端部21b(x=0mm)付近を含めて0に近い平坦な波形となっている。このようにノイズの影響を除去することができるので、物体13が小さい(第1部材11と第2部材12の間隔方向の寸法が小さく変形量tが小さい(
図1参照))場合でも挟み込みを検出することができる。
【0052】
図12は、挟み込み位置が端部21bの近傍であり、差分処理及びトレンド除去を施した場合と施していない場合の位置応答を比較した図である。この例では、x=100mmの位値が挟み込み位置21dである。曲線37は差分処理及びトレンド除去を行っていない場合の位置応答で、挟み込み位置21dに表れているはずのピークが端部21b付近のピーク34のサイドローブに埋もれてしまい確認できなくなっている。曲線38は差分処理及びトレンド除去を行った場合の位置応答で、端部21付近には装置の音響特性によるピークが表れないため、挟み込み位置21dのピーク33が明瞭に表れている。
【0053】
挟み込み検出装置1では、信号処理部27が応答信号にトレンド除去処理を施した後に、フーリエ変換を行っている。そのため、音波入力部22付近の不感領域がほとんどなくなっている。また、応答信号からノイズを除去することができ検出限界が向上している。
【0054】
挟み込み検出装置1では、信号処理部27としてFPGAを用いている。そのため、周波数解析機(FRA)を用いた場合に比べて処理時間が短くなっている。
【0055】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第1の実施形態と共通する構成要素には、図面に第1の実施形態と同じ符号を付して説明を省略する。
図13は、第2の実施形態である挟み込み検出装置2の構造図である。挟み込み検出装置2では、導波路21の一方の端部21bに第1の実施形態と同様の音波入力部22aと信号取得部23a(以下、これらを「CH1」という)が配置されているのに加えて、他方の端部21cにも音波入力部22bと信号取得部23b(以下、これらを「CH2」という)が配置されている。信号取得部23aが取得した応答信号は増幅器28aを介して、信号取得部23bが取得した応答信号は増幅器28bを介して、それぞれA/D変換部25に入力される。
【0056】
信号取得部23aにより得られる応答信号を解析することにより挟み込み検出が可能な範囲(第1の検出可能範囲)は端部21bからRaの範囲、信号取得部23bにより得られる応答信号を解析することにより挟み込み検出が可能な範囲(第2の検出可能範囲)は端部21cからRbの範囲である。距離Ra、Rbは入力する音波の強度、導波路の形状、検出しようとする変形量の最小値等によって定まるが第1の検出可能範囲と第2の検出可能範囲は導波路21の中央部で重なり合っている。
【0057】
図14は、挟み込み検出装置2の動作を説明する図である。まず、CH1を所定の時間動作させ応答信号を取得する(ST1)。
次に、CH1、CH2とも動作させないインターバル時間を設け、この間にデータ取り込み部26によりデジタルデータの取り込みを行う(ST2)。このインターバル時間の長さは、データ取り込み部26の性能に応じて取り込みのために十分な時間とすれば良いが、二つのチャンネルの音波が干渉し合わない時間とする必要がある。
次に、CH2を所定の時間動作させ応答信号を取得する(ST3)。
次に、CH1、CH2とも動作させないインターバル時間を設け、データ取り込み部26によりデジタルデータの取り込みを行う。インターバル時間の長さについてはST2と同様である。
以上のST1〜ST4を繰り返す。
【0058】
第1の実施形態の挟み込み検出装置1では、条件によっては導波路21の端部21c側に挟み込みの検出ができない区間ができてしまうが、挟み込み検出装置2では、音波入力部と信号取得部の組が導波路21の両端に設けられているため、導波路21の全長X
Lに亘って挟み込みを検出することができる。音波入力部22により導波路21に入力される音波の強度を上げることによっても、ある程度検出可能な距離を伸ばすことができるが増幅器のノイズフロア等のために限界があり、また、騒音が生じる場合がある。本実施形態によれば、このような弊害が生じることがない。
【0059】
なお、チャンネル(音波入力部と信号取得部の組)は、3個以上とすることもでき、
図14と同様に各チャンネルを順番に動作させることにより、さらに検出可能な範囲を伸ばすことができる。
【0060】
図15は、本発明の挟み込み検出装置を鉄道車両の乗降口に適用した例である。乗降口には
図15の矢印B1、B2のように左右に移動する2枚のドア41、42(第1ドア又は第2ドアの一例)が配置されている。
図15は閉状態を示し、ドア41の左端とドア42の右端はごく僅かな隙間を残して近接した状態となっている。開状態では、ドア41は戸袋43に、ドア42は戸袋44にそれぞれ収容され乗客はドア41とドア42の間を通って乗降する。
【0061】
ドア41は略長方形の金属製の板状部材である戸板41aと、戸板41aの先端に設けられた戸先ゴム41bを備えている。ドア42も同様に戸板42aと戸先ゴム42aを備えている。戸先ゴム41b、42bはドア41とドア42の間に乗客の体や荷物が挟み込まれた際に引き抜きやすくするための部材で、合成ゴム等の軟質の材料で形成されている。
【0062】
図16(A)〜(D)は戸先ゴムの断面形状の例を示す図である。戸先ゴム41bについて説明するが、戸先ゴム42bの形状も同様である。
図16(A)の例では、戸先ゴム41bは馬蹄形の外形を有し、ほぼ等厚の壁部52と空洞51により構成されている。
図16(B)の例では、戸先ゴム41bは、略半円形の断面形状を有し内部に円形の空洞51が形成されている。
図16(C)の例では、戸先ゴム41bは、略半円形の断面形状を有し内部に半円形の空洞51が形成されている。空洞51の内部の戸板41aと接合される側には正方形の凸部55が形成されている。
図16(D)の例は、
図16(C)の例とほぼ同形状であるが、凸部55の先端側にV字状の切欠56が設けられている。もちろん、戸先ゴム41b、42bの断面形状は音波を伝搬できる空洞を備えていれば
図16(A)〜(D)に示したものと異なる形状とすることもできる。
【0063】
このように、戸先ゴム41b、42bは変形しやすい材料で形成され、内部に空洞を有しているので導波路として利用することができる。そこで、戸先ゴム41bの下端に音波入力部22aと信号取得部23aからなるCH1を、戸先ゴム41bの下端に音波入力部22bと信号取得部23bからなるCH2を設け、適宜の位置に設けた制御装置29(
図13参照)と接続することにより、
図13に示した挟み込み検出装置2を構成することができる。なお、ドア41、42の高さHは通常2000mm程度、戸先ゴムの内径は15mm程度であるため、ドア41、42の高さ方向の中央付近での1mm程度の微小な変位を検出できるように、上端と下端の両方に音波入力部22と信号取得部23を設けることが好ましいが、上端又は下端の一方のみに設けても良い。また、音波入力部23と信号取得部23を戸先ゴム42bに設けても良い。
【0064】
制御装置29は、ドアの近傍に配置する必要は無く、たとえば、運転室等に設けて配線により音波入力部22、信号取得部23と接続する。また、車両運行制御用の既存のコンピュータに制御装置29の各機能を追加しても良い。
【0065】
図17は、戸挟み検出装置2を鉄道車両のドアに適用した場合の動作を示すフローチャートである。
まず、測定に先立って、戸先ゴム41bと戸先ゴム42bの間に異物が挟まっておらず正常に閉じた状態の波形(
図9の曲線36)を取得しておく(S1)。この波形は、後述のS38の差分処理に用いるリファレンス波形である。
【0066】
所定の測定開始条件を満たした場合に測定を開始する(S2の判定がYES、S3)。この条件は、たとえば、戸先ゴム41aまたは戸先ゴム41bにテープスイッチを設け、このテープスイッチがドアの閉鎖を検出したときとすることができる。このようにすれば、配線の一部をテープスイッチで代替することができ、配線をドアの開閉動作に追随して伸縮できるようにする必要がなくなる。測定開始条件を満足しない場合は、待機する(S2の判定がNO、S2)
【0067】
測定開始条件を満たした場合、制御部20(
図13参照)によりスイープ信号の開始周波数、終了周波数、周波数間隔を設定し(S3)、信号生成部24(
図13参照)によりスイープ信号を発生させCH1、CH2(
図15参照)から音波を戸先ゴム41bに入力する(S4)。
【0068】
サンプリング周波数とデータ長を予め定めておき(S5)、スイープ信号の時間波形をA/D変換部25(
図13参照)で検出し、データ取り込み部26(
図13参照)で取り込む(S6)。
【0069】
信号処理部27(
図13参照)で時間波形にオーバーラップFFT(1次フーリエ変換)を施して周波数特性を取得する(S7)。
【0070】
トレンド成分を近似するための近似関数(たとえば、10次式)を予め定めておき、信号処理部27で差分処理(粗いトレンド除去)と、多項式近似によるトレンド除去処理(精密なトレンド除去)を行う(S9)。
【0071】
周波数範囲を予め定めておき(S10)、S9で求めた波形に対して信号処理部27でFFT(2次フーリエ変換)を施して位置応答を計算する(S11)。
【0072】
信号処理部27で位置応答に表れるピークの大きさを求め、閾値より大きい場合には、戸先ゴム41bと戸先ゴム42bの間に異物が挟み込まれていると判定し、その旨をドアの制御装置に通知し自動でドアを開ける(S12の判定がYES、S13)。また、挟み込みを検出した場合、ドアの制御装置への通知に替えて、あるいは加えて、視覚または聴覚による警報を乗務員や駅員に通報して手動による対応を行っても良い。ドアを開いたら待機状態に戻る。
【0073】
ピーク値がしきい値以下(S12の判定がNO)の場合は、電車が発車したか否かを判定する(S14)。電車が発車していない場合は、S6に戻り測定を続ける。電車が発車している場合は、待機状態に戻る。
【0074】
挟み込み検出装置1、2を鉄道車両のドアに適用すれば、導波路端部の不感領域が殆ど無いので、ドア41、42の端部、特に下端部にベビーカーの車輪や乗客の足等が挟まった場合でも検出することができる。また、戸板に通常備えられている戸先ゴムを導波路21として用いることができるので、低コストで挟み込み検出装置を実装することができる。
【0075】
また、上述のようにフーリエ変換のオーバーラップ量(
図8のr/Δt)によって分解能を調整することができる。オーバーラップ量を大きくすると分解能が高くなり小さな物体の検出が可能となるが処理時間は長くなる。逆に、オーバーラップ量を小さくすると分解能が低くなり小さな物体の検出ができなくなるが処理時間は短くなる。そこで、鉄道車両のドアのように物体13として想定される物の大きさに広い範囲がある場合には、最初にオーバラップ量を小さくして比較的大きな物体の挟み込みの検出を行い(第1段階処理)、次いで、オーバラップ量を大きくして比較的小さな物体の挟み込みの検出を行う(第2段階処理)ようにすると、挟み込みの検出に要する平均的時間を短縮することができる。鉄道車両の場合は、乗客の手足や鞄など比較的大きな物体が挟み込まれることが多い。そのため、上記のような2段階の処理を行い、第1段階処理で挟み込みが検出されたら直ちにドアの開放や発車の抑止といった措置を取ることで、頻繁に起こる大きな物体の挟み込みに素早く対応することできるとともに、第2段階処理により小さな物体の挟み込みも検出して対応することができる。
【0076】
また、最初は粗いトレンド除去のみを行い高速に大きな物の挟み込みを検出し、次に、粗いトレンド除去と精密なトレンド除去を行って小さな物の挟み込みも検出する2段階処理を行うこともできる。このようにしても、上記のオーバラップ量を変化させた2段階処理と同様の効果を得ることができる。
【0077】
図18(A)〜(C)は
図15とは異なるチャンネルの配置と設定の例を説明する図である。いずれも、見やすくするために戸先ゴムの幅を誇張して描いている。
図18(A)に示すように、チャンネルを戸先ゴム42bの空洞内ではなく、空洞外に設けても良い。
【0078】
図15では戸先ゴムの空洞は全長に亘って設けられているものとしたが、実際には
図18(B)に示すように端部等に充填材57を充填し空洞をなくした部分が設けられていることが多い。このような場合には、チャンネルCH1、CH2を充填材57に埋設しても良い。そして、CH1とCH2の設定を異なるものとし、CH1ではドア42の下部の範囲61でのベビーカーの車輪や杖の先端などの挟み込みを検出しやすく、CH2では上部の範囲62での紐等の挟み込みを検出しやすくする。
【0079】
図18(C)の例では、戸先ゴム41bの上端側の充填材57にCH2を、戸先ゴム42bの下端側の充填材57にCH1をそれぞれ埋設している。チャンネルの近傍とチャンネルから遠い位置は感度が低くなるため、CH2は充填材57を充填する範囲を長くしてCH2の位置を低くし紐等が挟まりやすい範囲63の感度が低下しないようにし、CH1は充填材を充填する範囲を極力短くしてCH1の位置を低くしベビーカーの車輪や杖の先端が挟まりやすい範囲64の感度が低下しないようにしている。また、両方の戸先ゴムにチャンネルを設けた場合には、両者で異なる信号処理、たとえば1次フーリエ変換におけるオーバーラップ量を変える、一方は粗いトレンド除去のみとした方は粗いトレンド除去と精密なトレンド除去の双方を行う等とすれば、上述の2段階処理と同様の効果を得ることができる。
【0080】
図19は、本発明の挟み込み検出装置を自動車のドアウインドウに適用した例である。ドアウインドウは、ドアフレーム71と上下に移動するウィンドウガラス72を備えている。ドアフレーム71のウインドウガラス72の上端と当接する部分に導波路21を設け、導波路21の一端に音波入力部23と信号取得部23を設け、適宜の位置に設けた制御装置29と接続することにより、
図1に示した挟み込み検出装置1を構成することができる。車載のコンピュータを制御装置29として利用しても良い。この例のように、導波路21は、内部に音波を伝搬する空間があれば、湾曲していても良い。
【0081】
このほか、本発明は、建物の自動ドア、工作機械の可動部分、冷蔵庫等の家電製品の扉等、二つの部材間に物の挟み込みが生じる物に適用することができる。なお、上記の各実施形態では、物体の挟み込みが生じた場合を異常な動作として、それに対処する例を記載したが、たとえば、工作機械等で送られてきたワークが2部材間に挟み込まれるのが正常な動作で、挟み込みが検出されない場合を異常として対処するようにすることもできる。
【実施例1】
【0082】
図1に示した第1の実施形態に基づく実施例について説明する。信号生成部24としてファンクションジェネレータ(エヌエフ回路設計ブロック社製、WF1974)、音波入力部22としてイヤホン(KZ ACOUSTICS社製、RX−02)、信号取得部23としてマイクロホン(DB Products Limited社製、C967BB422LFP)、増幅器(TEXAS INSTRUMENT社製、増幅率100倍)、オシロスコープ(テクトロニクス社製、デジタル・フォスファ・オシロスコープDPO 2014B)、信号解析手段として信号解析ソフトウェア(National Instrument社製、LabVIEW)が動作するパーソナルコンピュータを用いた。オシロスコープは、信号平滑化を行うために、増幅器とパーソナルコンピュータの間に接続しした。
【0083】
表1にスイープ信号の仕様を示す。なお、これは一例であり、これとは異なる仕様でも本発明を実施することができる。
【0084】
【表1】
【0085】
1回のフーリエ変換を行う範囲を2msとし、
図8の最初の範囲A1と2番目の範囲A2とを95%オーバーラップさせながら移動し、フーリエ変換をすることで、周波数領域で1801データ点(3.9Hz間隔の周波数特性)を取得した。
【0086】
導波路の全長を2000mmとし、端部から600mmの部分を8mm変形させて波形を取得した。また、データ点前後4個分(合計9点)を含めた単純移動平均を用いて平滑化処理を行った。リプルのトレンドを10次式で近似して除去を行った。なお、SN比を改善するためにフーリエ変換する帯域を広く取り、フーリエ変換した範囲は2.5〜7.0kHzとした。
【0087】
なお、最初のオーバーラップフーリエ変換(1次フーリエ変換)を行う周波数範囲と2回目の位置応答を得るためのフーリエ変換(2次フーリエ変換)を行う周波数範囲は、イヤホンの特性の影響を受けるため、所定の間隔、たとえば数日に1回、キャリブレーションを行って定めるのが好ましい。オーバーラップフーリエ変換については、たとえば、フーリエ変換後の波形が平坦となる範囲を選ぶ、または、単純に所定の閾値以上となる範囲を選ぶことにより行うことができる。2回目のフーリエ変換については、たとえば、閾値以上となる範囲を選ぶことで行うことができる。
【0088】
以上のように実施した結果、位置応答には端部付近にはピークがが認められず変形位置に明瞭なピークが現れた。また、同様の条件で荷重位置を端部から100mm、変形量を3mmとした場合でも変形を検出することができた。
【0089】
また、変形位置と検出できる変形量の下限との関係を検証したところ、
図20のようになった。その結果、端部から1100mm以下の範囲では、1mmの変形を検出できることが分かった。これは、電車の戸先ゴムのように両方の部材が変形する場合には、厚さ2mmの物体の挟み込みを検出できることを意味する。また、前述のように電車のドアの高さが2000mm程度であるので、スピーカーとマイクロホンを上下両端に配置すれば、中央付近の挟み込みを検出できることが分かった。
【実施例2】
【0090】
図13に示した第2の実施形態に基づく実施例について説明する。この実施例は、本発明を鉄道車両のドアに適用することを想定している。
【0091】
導波路として、長さが2200mm、内径が15mmの戸先ゴムを用い、両端にイヤホンとマイクロホンを配置した。他の条件は、実施例1と同様とした。
【0092】
図14のST1、ST3の時間を0.18s、ST2、ST4の時間を0.07sとした。
【0093】
応答信号を解析し、二つのチャンネルのうち片方でも変形を検出したら挟み込みありと判定するプログラムを実装した。戸先ゴムを1mm変位させた際のデータを負荷位置を100mmずつ移動させて計測した。この計測結果を
図21、
図22に示す。また、載荷位置が端部から1100mm(戸先ゴムの中央)の際の位置応答を
図23に示す。最も検出の難しい中央位置でもSN比が3以上あり検出できることが分かった。すなわち、本発明の挟み込み検出装置2を鉄道車両に適用すれば、戸挟みを検出するセンサとして機能することが示された。測定時間は2秒程度、信号処理時間を含めると検出に要する時間は9秒程度であり、従来の音波式のセンサに比べて大幅に改善することができた。