特許第6979239号(P6979239)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6979239重合体、組成物、エレクトロクロミック素子、調光装置、及び、表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979239
(24)【登録日】2021年11月17日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】重合体、組成物、エレクトロクロミック素子、調光装置、及び、表示装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 79/00 20060101AFI20211125BHJP
   C08L 85/00 20060101ALI20211125BHJP
   G02F 1/15 20190101ALI20211125BHJP
   C07D 213/53 20060101ALI20211125BHJP
   C08G 79/14 20060101ALN20211125BHJP
【FI】
   C08G79/00
   C08L85/00
   G02F1/15 502
   G02F1/15 507
   C07D213/53CSP
   !C08G79/14
【請求項の数】8
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2020-538339(P2020-538339)
(86)(22)【出願日】2019年8月15日
(86)【国際出願番号】JP2019032009
(87)【国際公開番号】WO2020040026
(87)【国際公開日】20200227
【審査請求日】2020年11月16日
(31)【優先権主張番号】特願2018-154378(P2018-154378)
(32)【優先日】2018年8月21日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進委託事業「エレクトロクロミック素材及びデバイス開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 昌芳
(72)【発明者】
【氏名】ベラ マナス クマール
【審査官】 三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−112957(JP,A)
【文献】 特開平10−081754(JP,A)
【文献】 特開2018−145244(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/207591(WO,A1)
【文献】 特開2008−150365(JP,A)
【文献】 特開2009−167162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08G75/00−75/32
C08G79/00−79/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体であって、
以下の式1で表される化合物Aが、
配位数が4である第1金属イオン、配位数が6である第2金属イオン、及び、配位数が4及び6である第3金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種の特定金属イオンと錯形成して、互いに結合してなる重合体:
【化1】

式中、Lは、アルケニレン基;アルキニレン基;アルケニレン基もしくはアルキニレン基とアリーレン基との組み合わせ;3環以上の環が縮合した縮合芳香族複素環から誘導される2価基;及びこれらを組み合わせた基からなる群から選択される2価の基を表し、BP及びBPは、それぞれ独立にビピリジン誘導体(ただし、前記ビピリジン誘導体の炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つが1価の基で置換されている場合、この1価の基にピリジル基は含まれない)を表し、同一でも異なってもよく、前記の錯形成は、この化合物Aの2つのビピリジン誘導体部分であるBP及びBPの一方と、他の化合物Aのビピリジン誘導体部分とが、特定金属イオンを介して連続的に結合することで行われる
【請求項2】
前記化合物Aが以下の式2で表される、請求項1に記載の重合体:
【化2】

式中、X10〜X14のうち、いずれか1つがNであり、それ以外は、CRであり、X15〜X19のうち、いずれか1つがNであり、他の1つがLと結合した炭素原子であり、それ以外はCRであり、X20〜X24のうち、いずれか1つがNであり、それ以外は、CRであり、X25〜X29のうち、1つがNであり、他の1つがLと結合した炭素原子であり、それ以外はCRであり、Rは、水素原子又はピリジル基以外の1価の基であり、Lアルケニレン基;アルキニレン基;アルケニレン基もしくはアルキニレン基とアリーレン基との組み合わせ;3環以上の環が縮合した縮合芳香族複素環から誘導される2価基;及びこれらを組み合わせた基からなる群から選択される2価の基である。
【請求項3】
以下の式4で表される繰り返し単位、及び、以下の式5で表される部分構造からなる群より選択される少なくとも一方を有する、請求項1又は2に記載の重合体:
【化3】

式中、Mは、前記第1金属イオン及び前記第3金属イオンであって配位数4の状態である金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種を表し、Lは、アルケニレン基;アルキニレン基;アルケニレン基もしくはアルキニレン基とアリーレン基との組み合わせ;3環以上の環が縮合した縮合芳香族複素環から誘導される2価基;及びこれらを組み合わせた基からなる群から選択される2価の基を表し、複数あるL及びMは、同一でも異なっていてもよく、それぞれの炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立にピリジル基以外の1価の基で置換されていてもよく、
【化4】

式中、Mは、前記第2金属イオン及び前記第3金属イオンであって配位数6の状態である金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種を表し、Lは、アルケニレン基;アルキニレン基;アルケニレン基もしくはアルキニレン基とアリーレン基との組み合わせ;3環以上の環が縮合した縮合芳香族複素環から誘導される2価基;及びこれらを組み合わせた基からなる群から選択される2価の基を表し、*は、結合位置を表し、複数あるM及びLは、同一でも異なっていてもよく、それぞれの炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立にピリジル基以外の1価の基で置換されていてもよい。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の重合体と、対イオンとを含有する組成物。
【請求項5】
対向して配置され、少なくとも一方が透明である一対の電極と、前記一対の電極の間に配置された請求項4に記載の組成物から形成された組成物層とを有するエレクトロクロミック素子。
【請求項6】
前記電極の一方と、前記組成物層との間に、更に固体電解質層を有する、請求項5に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項7】
前記一対の電極の両方が透明である、請求項5又は6に記載のエレクトロクロミック素子を有する調光装置。
【請求項8】
請求項5又は6に記載のエレクトロクロミック素子を有する表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体(錯体)、組成物、エレクトロクロミック素子、調光装置、及び、表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、エレクトロクロミック特性を有する化合物を用いたエレクトロクロミック素子を有する調光装置、及び、表示装置等の開発が進められている。
特許文献1には、ビスターピリジン誘導体と、金属イオンと、カウンターアニオンとを含む高分子材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−112957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の材料により形成したシートを一対の透明電極間に配置したエレクトロクロミック素子は、電位を制御することによって容易に発色及び消色を制御でき、優れた特性を有している。一方で、このエレクトロクロミック素子は、消色した際に、シートが曇って見える場合があり、改善の余地があることを本発明者らは知見した。
【0005】
そこで、本発明は、エレクトロクロミック特性を有し、更に、エレクトロクロミック素子に適用し、消色した際に、より透明にみえるシートを形成できる重合体(錯体)を提供することを課題とする。
また、本発明は、そのような重合体を含む組成物、この組成物から形成された組成物層を含むエレクトロクロミック素子、調光装置、及び、表示装置を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の諸態様は、以下のとおりである。
[1].
重合体であって、
以下の式1で表される化合物Aが、
配位数が4である第1金属イオン、配位数が6である第2金属イオン、及び、配位数が4及び6である第3金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種の特定金属イオンと錯形成して、互いに結合してなる重合体:
【化1】

式中、Lは、単結合又は2価の基を表し、BP及びBPは、それぞれ独立にビピリジン誘導体を表し、同一でも異なってもよい。
[2].
前記化合物Aが以下の式2で表される、上記[1]項に記載の重合体:
【化2】

式中、X10〜X14のうち、いずれか1つがNであり、それ以外は、CRであり、X15〜X19のうち、いずれか1つがNであり、他の1つがLと結合した炭素原子であり、それ以外はCRであり、X20〜X24のうち、いずれか1つがNであり、それ以外は、CRであり、X25〜X29のうち、1つがNであり、他の1つがLと結合した炭素原子であり、それ以外はCRであり、Rは、水素原子又は1価の基であり、Lは単結合、又は、2価の基である。
[3].
以下の式4で表される繰り返し単位、及び、以下の式5で表される部分構造からなる群より選択される少なくとも一方を有する、上記[1]又は[2]項に記載の重合体:
【化3】

式中、Mは、前記第1金属イオン及び前記第3金属イオンであって配位数4の状態である金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種を表し、Lは、単結合又は2価の基を表し、複数あるL及びMは、同一でも異なっていてもよく、それぞれの炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立に1価の基で置換されていてもよく、
【化4】

式中、Mは、前記第2金属イオン及び前記第3金属イオンであって配位数6の状態である金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種を表し、Lは、単結合又は2価の基を表し、*は、結合位置を表し、複数あるM及びLは、同一でも異なっていてもよく、それぞれの炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立に1価の基で置換されていてもよい。
[4].
上記[1]〜[3]項のいずれか1項に記載の重合体と、対イオンとを含有する組成物。
[5].
対向して配置され、少なくとも一方が透明である一対の電極と、前記一対の電極の間に配置された上記[4]項に記載の組成物から形成された組成物層とを有するエレクトロクロミック素子。
[6].
前記電極の一方と、前記組成物層との間に、更に固体電解質層を有する、上記[5]項に記載のエレクトロクロミック素子。
[7].
前記一対の電極の両方が透明である、上記[5]又は[6]項に記載のエレクトロクロミック素子を有する調光装置。
[8].
上記[5]又は[6]項に記載のエレクトロクロミック素子を有する表示装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エレクトロクロミック特性を有し、更に、エレクトロクロミック素子に適用し、消色した際に、より透明にみえるシートを形成できる重合体(錯体)を提供することができる。
また、本発明によれば、そのような重合体を含む組成物、この組成物から形成された組成物層を含むエレクトロクロミック素子、調光装置、及び、表示装置も提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係るエレクトロクロミック素子の模式図である。
図2】重合体1と対イオンとを含有する組成物1の赤外吸収スペクトルである。
図3】重合体1(BP−1−Fe2+)を含有するシートのエネルギー分散型X線分析法による元素分析結果である。
図4】重合体1(BP−1−Fe2+)を含有するシートのエネルギー分散型X線分析法による元素分析結果である。
図5】重合体2と対イオンとを含有する組成物2の赤外吸収スペクトルである。
図6】重合体2(BP−2−Fe2+)を含有するシートのエネルギー分散型X線分析法による元素分析結果である。
図7】重合体2(BP−2−Fe2+)を含有するシートのエネルギー分散型X線分析法による元素分析結果である。
図8】組成物1及び組成物2についてのサイクリックボルタンメトリー測定により得た電気化学応答である。
図9】ITO電極上に配置した組成物1(シート)の発色の変化を示す写真である。
図10】ITO電極上に配置した組成物2(シート)の発色の変化を示す写真である。
図11】組成物1及び組成物2の紫外・可視吸収スペクトルである。
図12】組成物1の紫外・可視光線に対する透過率である。
図13】組成物2の紫外・可視光線に対する透過率である。
図14】組成物1のピーク強度のスイッチング特性である。
図15】組成物2のピーク強度のスイッチング特性である。
図16】組成物1について、ピーク強度のスイッチングを300回繰り返した場合の透過光強度である。
図17】組成物2について、ピーク強度のスイッチングを300回繰り返した場合の透過光強度である。
図18】組成物1の走査型電子顕微鏡像である。
図19】組成物1の透過型電子顕微鏡像である。
図20】組成物2の走査型電子顕微鏡像である。
図21】組成物2の透過型電子顕微鏡像である。
図22】組成物1及び組成物2の粉末X線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。このことは、各化合物についても同義である。
【0011】
[重合体]
本発明の実施形態に係る重合体は、後述する式1で表される化合物(以下、「化合物A」ともいう。)が、配位数が4である第1金属イオン、配位数が6である第2金属イオン、及び、配位数が4及び6である第3金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種の特定金属イオンと錯形成して、互いに結合してなる重合体である。
上記重合体が本発明の効果を奏する機序は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のとおり推測している。なお、以下の機序は推測であり、以下の機序以外の機序により本発明の効果が得られる場合であっても、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0012】
本発明者らは、特許文献1に記載の材料により形成したシートを一対の電極間(典型的には、透明電極間)に配置したエレクトロクロミック素子において、消色した際にシートが曇って見える原因について鋭意検討してきた。
その結果、形成したシートの内部に不規則かつ微細な空孔が生ずる場合があり、この空孔によって、外部からの入射光が散乱され、シートが曇って見えることを突き止めた。
【0013】
本発明者らは、シートの内部の微細な空孔の発生をより抑制するために、様々な有機配位子同士を金属イオンを介して(配位結合により)連鎖的に結合させることによって、重合体(有機・無機ハイブリッドポリマー)を合成し、上記重合体を含有するシートを成形し、その構造及びエレクトロクロミック特性を観察する等の検討を鋭意続けてきた。
【0014】
その結果、ビス−ビピリジン誘導体である化合物Aを特定金属イオンに配位させて形成した重合体を用いたシートであれば、その内部に不規則な空孔が発生しにくく、結果として得られるシートを適用したエレクトロクロミック材料において、消色した際にも、より透明に見えることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
後述するように、本発明に係る重合体は、ビス−ビピリジン誘導体である化合物Aが、特定金属イオンに配位して、互いに結合することにより構成される。化合物Aは、特定金属イオンに配位すると平面状の構造となるものと推測される。これに起因して、上記重合体を含有するシートの内部には、不規則な空孔がより少なくなり、結果として、エレクトロクロミック素子に適用した際、消色した際により透明にみえる(外光をより透過しやすく、より散乱しにくい)ものと推測される。
【0016】
なお、上記重合体が、平面状の構造をとりやすいことは、後述するように、本発明の一実施形態に係る重合体を含有するシートが、図18または図20に示すようなナノシート構造を有する点からも支持されるものと推測される。
以下、本発明に係る重合体について詳述する。
【0017】
〔化合物A〕
上記重合体は化合物Aを特定金属イオンと錯形成して互いに結合させた重合体である。従って、化合物Aは、配位子とも言うことができ、重合体との関係ではモノマーとしての機能も有する。
【0018】
【化5】
【0019】
式中、Lは、単結合又は2価の基を表し、BP及びBPは、それぞれ独立にビピリジン誘導体を表し、同一でも異なってもよい。
【0020】
BP及びBPのビピリジン誘導体としては特に制限されないが、それぞれ独立に、2,2′−ビピリジン、3,3′−ビピリジン、4,4′−ビピリジン、2,3′−ビピリジン、2,4′−ビピリジン、3,4′−ビピリジン、及び、これらの炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つを1価の基(1価の基にはピリジル基を含まない)で置換した化合物であればよい。重合体がより優れた本発明の効果を有する点で、2,2′−ビピリジン、又は、2,2′−ビピリジンの炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つを1価の基(1価の基にはピリジル基を含まない)で置換した化合物が好ましい。1価の基としては特に制限されないが、後述する置換基Wが好ましい。
【0021】
上記式1中、Lの2価の基としては特に制限されないが、π電子による共役系がより広くなることにより、エレクトロクロミズムの応答速度がより速くなる点で、2価の不飽和炭化水素基が好ましい。
【0022】
の2価の不飽和炭化水素基の形態としては特に制限されないが、例えば、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、3環以上の環が縮合した縮合芳香族複素環から誘導される2価基、及び、これらを組み合わせた基等が好ましい。
【0023】
アルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基、1−メチルビニレン基、1−メチルプロペニレン基、2−メチルプロペニレン基、1−メチルペンテニレン基、3−メチルペンテニレン基、1−エチルビニレン基、1−エチルプロペニレン基、1−エチルブテニレン基、及び、3−エチルブテニレン基等が挙げられる。これらの中でも、ビニレン基が好ましい。
【0024】
アルキニレン基としては、例えば、エチニレン基、1−プロピニレン基、1−ブチニレン基、1−ペンチニレン基、1−ヘキシニレン基、2−ブチニレン基、2−ペンチニレン基、1−メチルエチニレン基、3−メチル−1−プロピニレン基、及び、3−メチル−1−ブチニレン基等が挙げられる。これらの中でも、エチニレン基が好ましい。
【0025】
アリーレン基としては、例えば、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、ナフタレンジイル基、アントラセンジイル基、ナフタセンジイル基、ピレンジイル基、ナフチルナフタレンジイル基、ビフェニルジイル基(例えば、[1,1′−ビフェニル]−4,4′−ジイル基、3,3′−ビフェニルジイル基、及び、3,6−ビフェニルジイル基等)、テルフェニルジイル基、クアテルフェニルジイル基、キンクフェニルジイル基、セキシフェニルジイル基、セプチフェニルジイル基、オクチフェニルジイル基、ノビフェニルジイル基、及び、デシフェニルジイル基等が挙げられる。これらの中でも、o−フェニレン基、又は、p−フェニレン基が好ましい。
【0026】
ヘテロアリーレン基としては、例えば、ヘテロ原子としてO及びSからなる群より選択される少なくとも1種の原子を含有する基が挙げられる。具体的には、チオフェン環、ジベンゾフラン環、及び、ジベンゾチオフェン環等から誘導される2価の基が挙げられる。
【0027】
3環以上の環が縮合した縮合芳香族複素環から誘導される2価基としては、O及びSからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を、縮合環を構成する元素として含有する芳香族複素縮合環であることが好ましい。具体的には、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ナフトフラン環、ナフトチオフェン環、ベンゾジフラン環、ベンゾジチオフェン環、ナフトジフラン環、ナフトジチオフェン環、アントラフラン環、アントラジフラン環、アントラチオフェン環、アントラジチオフェン環、チアントレン環、フェノキサチイン環、及び、チオファントレン環(ナフトチオフェン環)等から誘導される2価基が挙げられる。
【0028】
より具体的には、2価の不飽和炭化水素基としては、エレクトロクロミック素子に適用した場合、より早い応答速度を有する点で、例えば、ビニレン基、エチニレン基、o−フェニレン基、p−フェニレン基、チエニル基(チオフェン環から誘導される2価の基)、及び、これらを組み合わせた基からなる群より選択される少なくとも1種の基が好ましい。
【0029】
また、Lの2価の基の他の形態としては、カルコゲン原子、及び、カルコゲン原子を含有するヘテロ炭化水素基等が挙げられる。具体的には、O、S、及び、アルキレンオキシ基、アルキレンチオ基、及び、これらを組み合わせた基が挙げられる。
【0030】
また、Lの2価の基としては、以下の式で表される2価基であってもよい。なお、以下の式中、「*」は結合位置を表す。また下記の2価基において、各炭素原子に結合した水素原子は、1価の基で置換されていてもよく、1価の基としては、後述する置換基Wが挙げられる。
【化6】
【0031】
化合物Aとしては、以下の式2で表される化合物が好ましい。
【0032】
【化7】
【0033】
式中、X10〜X14のうち、いずれか1つがNであり、それ以外は、CRであり、X15〜X19のうち、いずれか1つがNであり、他の1つがLと結合した炭素原子であり、それ以外はCRであり、X20〜X24のうち、いずれか1つがNであり、それ以外は、CRであり、X25〜X29のうち、1つがNであり、他の1つがLと結合した炭素原子であり、それ以外はCRであり、Rは、水素原子又は1価の基であり、Lは単結合、又は、2価の基である。
【0034】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する重合体が得られる点で、化合物Aとしては以下式3で表される化合物がより好ましい。
【化8】
【0035】
式中、Lは単結合、又は2価の基を表し、式1におけるLとしてすでに説明したのと同様の形態である。また、上記式中、各炭素原子に結合する水素原子は、1価の基(ピリジル基を含まない)で置換されていてもよく、1価の基としては特に制限されないが、後述する置換基Wが好ましい。
【0036】
〔特定金属イオン〕
本発明に係る重合体は、化合物Aが特定金属イオンと錯形成して、言い換えれば、化合物Aが特定金属イオンを介して連続的に互いに結合して、形成される重合体である。
【0037】
特定金属イオンは、配位数が4である第1金属イオン(4配位の状態をとる金属のイオンを意味する。)、配位数が6である第2金属イオン(6配位の状態をとる金属のイオンを意味する。)、及び、配位数が4及び6である第3金属イオン(配位数4及び配位数6のいずれの状態をもとりうる金属のイオンを意味する。)からなる群より選択される少なくとも1種である。
特定金属イオンとしては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
(第1金属イオン)
第1金属イオンとしては特に制限されないが、例えば、Pd、Au、及び、Zn等が挙げられる。より具体的には、Pd(II)、Au(III)、及び、Zn(II)等のイオンが挙げられる。エレクトロクロミック特性がより発現しやすい点で、電気化学的に酸化還元が可能な金属イオンが好ましく、より具体的には、Zn(II)等が好ましい。
【0039】
(第2金属イオン)
第2金属イオンとしては特に制限されないが、例えば、Mg、Al、Cr、Mn、及び、Fe等が挙げられる。より具体的には、Mg(II)、Al(III)、Cr(III)、Mn(II)、Mn(III)、Fe(II)、及び、Fe(III)、及び、Os(II)、Os(III)等のイオンが挙げられる。エレクトロクロミック特性がより発現しやすい点で、電気化学的に酸化還元が可能な金属イオンが好ましく、より具体的には、Fe(II)、Fe(III)、Os(II)、及び、Os(III)等が好ましい。
【0040】
(第3金属イオン)
第3金属イオンは、配位数4の状態、及び、配位数6の状態のいずれをもとれる金属イオンを意味する。このような金属イオンとしては特に制限されないが、例えば、Cu、Co、及び、Pt等が挙げられる。より具体的には、Cu(I)、Cu(II)、Co(II)、Co(III)、Pt(II)、及びPt(IV)等が挙げられる。なかでも、エレクトロクロミック特性がより発現しやすい点で、電気化学的に酸化還元が可能な金属イオンが好ましく、より具体的には、Cu(I)、Cu(II)、Co(II)、及びCo(III)等が好ましい。
【0041】
〔重合体の構造〕
本発明に係る重合体は、化合物Aの2つのビピリジン誘導体部分(BP及びBP)の一方が、他の化合物Aのビピリジン誘導体部分とともに、特定金属イオンと錯形成し、結果として、ビピリジン誘導体部分同士が特定金属イオンを介して連続的に結合することで形成される。
このとき、重合体が第2金属イオン、及び/又は、第3金属イオン(配位数6の状態)を含有する場合、3つの化合物Aが上記金属イオンを中心に配位結合し、結果として分岐鎖構造が形成される。
【0042】
一方、重合体が特定金属イオンとして第1金属イオン、及び/又は、第3金属イオン(配位数4の状態)を含有する場合、2つの化合物Aが上記金属イオンを中心に配位結合し、結果として直鎖状の構造が形成される。また、上記直鎖状、及び、分岐鎖状の構造の組み合わせによって、結果的に環状構造が形成されていてもよい。
【0043】
本発明に係る重合体の構造としては、直鎖状、分岐鎖状、及び、環状のいずれであってもよい。得られるシートがより優れた耐有機溶媒性を有する点で、第2金属イオン及び/又は第3金属イオン(配位数6の状態)を含有する、すなわち、少なくとも分岐鎖構造を有することが好ましい。
【0044】
(重合体の好適形態)
より優れた本発明の効果を有する点で、重合体は、以下の式4で表される繰り返し単位(以下「単位4」ともいう。)、及び、以下の式5で表される部分構造(以下、「部分構造5」ともいう。)からなる群より選択される少なくとも一方を有することが好ましい。
【0045】
【化9】
【0046】
式中、Mは、第1金属イオン及び第3金属イオン(配位数4の状態)からなる群より選択される少なくとも1種を表し、Lは、単結合又は2価の基を表し、複数あるL及びMは、同一でも異なっていてもよく、それぞれの炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立に1価の基で置換されていてもよい。
なお、Lの2価の基としては特に制限されないが、式1のLとしてすでに説明した基が好ましい。また、Mの第1金属イオン及び第3金属イオン(配位数4の状態)の形態としては特に制限されず、すでに説明したとおりである。
より優れた本発明の効果を有する重合体が得られる点で、Mとしては、Pd、Au、Zn、Cu、Co、及び、Ptからなる群より選択される少なくとも1種の金属の金属イオン(配位数4)が好ましい。
【0047】
また、1価の基としては特に制限されないが、後述する置換基Wが好ましい。
なお、上記繰り返し単位は、化合物Aが第1金属イオン及び/又は第3金属イオン(配位数4の状態)に配位することによって形成される。
【0048】
【化10】
【0049】
式中、Mは、第2金属イオン及び/又は第3金属イオン(配位数6の状態)を表し、Lは、単結合又は2価の基を表し、*は、結合位置を表し、複数あるM及びLは、同一でも異なっていてもよく、それぞれの炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立に1価の基で置換されていてもよい。
なお、Lの2価の基としては、特に制限されないが、式1のLとしてすでに説明した基が好ましい。また、Mの第2金属イオン及び第3金属イオン(配位数6の状態)の形態としては特に制限されず、すでに説明したとおりである。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する重合体が得られる点で、Mの金属イオンとしては、Mg、Al、Cr、Mn、Fe、Cu、Co、Os、及び、Ptからなる群より選択される少なくとも1種の金属の金属イオン(配位数6)が好ましい。
また、1価の基としては特に制限されないが、後述する置換基Wが好ましい。
なお、上記部分構造は、化合物Aが第2金属イオン及び/又は第3金属イオン(配位数6の状態)に配位することによって形成される。
【0050】
本発明の一実施形態に係る重合体は、すでに説明した、単位4、及び、部分構造5からなる群より選択される少なくとも1種を有する。以下、繰り返し単位と部分構造とを合わせて「特定構造」ともいう。
【0051】
上記実施形態に係る重合体は、特定構造を有していれば、その構造は特に制限されず、単位4のみを含有していてもよく、部分構造5のみを含有していてもよい。重合体が単位4と部分構造5とを含有する場合、単位4と部分構造5との結合順としては特に制限されず、例えば、下記式6で表されるように、単位4により形成される直鎖状のオリゴマーの末端が、部分構造5とそれぞれ結合し、結果として、分岐鎖状の構造を有していてもよい。また、下記の構造を重合体分子内に複数有していてもよい。
【0052】
【化11】
【0053】
式中、M及びLは、それぞれ式4中のM及びLと同様であり、M及びLは、それぞれ式5中のM及びLと同様である。
また、n1、n2、及び、n3は、1以上の整数を表す。
【0054】
また、重合体は、部分構造5同士が連結して形成される多分岐構造を有していてもよい。多分岐構造としては例えば、以下の式7で表される構造が挙げられる。
【0055】
【化12】
【0056】
式中、M、及び、Lはそれぞれ、式5中のM、及び、Lと同様である。また、*は結合位置を表す。
なお、上記式6及び式7で表される重合体は一例であり、本発明に係る重合体は上記に制限されない。
【0057】
上記重合体は、典型的には、一般の溶媒に不溶であり、GPC(Gel Permeation Chromatography)等の一般的な分子量測定方法では測定は困難である。重合体の形状は、走査型電子顕微鏡、及び/又は、透過型電子顕微鏡などで確認できる。典型的には、重合体は、直径は数十ナノメートルから数センチメートル、厚みは0.3ナノメートル程度から数μmの、シート構造の形態で製造される。
【0058】
(置換基W)
置換基Wは、ピリジル基を含まない1価の基である。具体的には、ハロゲン原子、アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、及び、ペンタデシル等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル、及び、シクロヘキシル等)、アルケニル基(例えば、ビニル、及び、アリル等)、アルキニル基(例えば、エチニル、及び、プロパルギル等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、ドデシルオキシ等)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ、ナフチルオキシ等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、ペンチルチオ、ヘキシルチオ、オクチルチオ、ドデシルチオ等)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ、シクロヘキシルチオ等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ、ナフチルチオ等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル、エチルオキシカルボニル、ブチルオキシカルボニル、オクチルオキシカルボニル、ドデシルオキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル、ナフチルオキシカルボニル等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル、メチルアミノスルホニル、ジメチルアミノスルホニル、ブチルアミノスルホニル、ヘキシルアミノスルホニル、シクロヘキシルアミノスルホニル、オクチルアミノスルホニル、ドデシルアミノスルホニル、フェニルアミノスルホニル、ナフチルアミノスルホニル等)等が挙げられる。
【0059】
また、置換基Wは、アシル基(例えば、アセチル、エチルカルボニル、プロピルカルボニル、ペンチルカルボニル、シクロヘキシルカルボニル、オクチルカルボニル、2−エチルヘキシルカルボニル、ドデシルカルボニル、アクリロイル、メタクリロイル、フェニルカルボニル、ナフチルカルボニル等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ、エチルカルボニルオキシ、ブチルカルボニルオキシ、オクチルカルボニルオキシ、ドデシルカルボニルオキシ、フェニルカルボニルオキシ等)、アミド基(例えば、メチルカルボニルアミノ、エチルカルボニルアミノ、ジメチルカルボニルアミノ、プロピルカルボニルアミノ、ペンチルカルボニルアミノ、シクロヘキシルカルボニルアミノ、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ、オクチルカルボニルアミノ、ドデシルカルボニルアミノ、フェニルカルボニルアミノ、ナフチルカルボニルアミノ等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル、メチルアミノカルボニル、ジメチルアミノカルボニル、プロピルアミノカルボニル、ペンチルアミノカルボニル、シクロヘキシルアミノカルボニル、オクチルアミノカルボニル、2−エチルヘキシルアミノカルボニル、ドデシルアミノカルボニル、フェニルアミノカルボニル、ナフチルアミノカルボニル等)、ウレイド基(例えば、メチルウレイド、エチルウレイド、ペンチルウレイド、シクロヘキシルウレイド、オクチルウレイド、ドデシルウレイド、フェニルウレイド、ナフチルウレイド等)、スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、ブチルスルフィニル、シクロヘキシルスルフィニル、2−エチルヘキシルスルフィニル、ドデシルスルフィニル、フェニルスルフィニル、ナフチルスルフィニル等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、ブチルスルホニル、シクロヘキシルスルホニル、2−エチルヘキシルスルホニル、ドデシルスルホニル等)、アリールスルホニル基又はヘテロアリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル、ナフチルスルホニル等)、アミノ基(アミノ基、アルキルアミノ基、アルケニルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロ環アミノ基を含み、例えば、アミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ブチルアミノ、シクロペンチルアミノ、2−エチルヘキシルアミノ、ドデシルアミノ、アニリノ、ナフチルアミノ等)、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、シリル基(例えば、トリメチルシリル、トリイソプロピルシリル、トリフェニルシリル、フェニルジエチルシリル等)等であってもよい。
これらの各基は、更に置換基を有していてもよく、この置換基としては上記の置換基が挙げられる。例えば、アルキル基にアリール基が置換したアラルキル基、アルキル基にヒドロキシ基が置換したヒドロキシアルキル基等が挙げられる。なお、置換基Wが更に複数の置換基を有する場合、複数の置換基同士は互いに結合して環を形成してもよい。
【0060】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する重合体が得られる点で、置換基Wとしては、炭素数1〜10のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜6のアルキル基が更に好ましい。
【0061】
〔重合体の製造方法〕
本発明に係る重合体の製造方法として特に制限されず、公知の方法が適用できる。なかでも、より簡便に、かつ、より迅速に重合体が得られる点で、以下の工程を有する重合体の製造方法が好ましい。
【0062】
すなわち、重合体の好ましい製造方法は、以下の工程を含む:
工程1:化合物Aを合成する工程;
工程2:化合物Aと、有機溶媒とを含有する溶液と、特定金属イオンのイオン源となる化合物を含有する水溶液とを準備し、上記溶液と水溶液とを接触させて、水/油境界面を形成する工程;
工程3:上記水/油境界面で化合物Aを、特定金属イオンを介して重合させる工程。
【0063】
(工程1)
工程1は、化合物Aを合成する工程である。化合物Aの合成方法としては特に制限されず公知の方法が適用可能である。化合物Aを合成する方法としては、例えば、ウィッティヒ反応等が使用できる。より具体的には、Inorg.Chem.1995,34,473−487に記載された方法が適用可能であり、上記方法は本明細書に組み込まれる。
【0064】
(工程2)
工程2は、化合物Aと、有機溶媒とを含有する溶液(化合物A溶液)、及び、特定金属イオン源のイオン源となる化合物を含有する水溶液(金属イオン水溶液)とを準備し、上記溶液と水溶液とを接触させて、水/油境界面を形成する工程である。
【0065】
・化合物A溶液
化合物A溶液が含有する有機溶媒としては特に制限されず、化合物Aを溶解できること、及び、水と混和しにくい(好ましくは、混和しない)有機溶媒であればよい。有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン等のハロゲン化アルキルが挙げられる。
【0066】
化合物A溶液中における化合物Aの含有量としては特に制限されず、一般に化合物A溶液の全質量に対して、0.05mM(mmol/l)〜1.0M(mol/l)が好ましい。
化合物A溶液は、化合物Aの2種以上を含有していてもよい。化合物A溶液が化合物Aの2種以上を含有する場合には、その合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0067】
・金属イオン水溶液
金属イオン水溶液は、特定金属イオンを含有する水溶液であり、典型的には、イオン源となる化合物を溶解した水溶液である。なお、特定金属イオンについてはすでに説明したとおりである。
イオン源となる化合物は、特定金属イオンと、そのカウンターアニオンからなる金属塩であることが好ましい。このとき、カウンターアニオンとしては、重合体がより優れた安定性を有する観点から酢酸イオン、リン酸イオン、塩素イオン、六フッ化リンイオン、四フッ化ホウ素イオン(ホウフッ化物イオン)、及び、ポリオキソメタレートからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0068】
金属イオン水溶液中におけるイオン源となる化合物(典型的には金属塩)の含有量としては特に制限されないが、一般に、金属イオン水溶液の全質量に対して、1mM〜500mMが好ましく、10mM〜300mMがより好ましい。
【0069】
上記化合物A溶液と上記金属イオン水溶液とを接触させて、水/油境界面を形成する方法としては特に制限されないが、例えば室温にて大気圧下、上記化合物A溶液を容器に保持し、そこに上記金属イオン水溶液をゆっくりと添加する方法が挙げられる。
【0070】
(工程3)
工程3は、上記水/油境界面で化合物Aを、金属イオンを介して重合させる工程である。重合の方法としては特に制限されないが、10〜30℃で、大気圧下、2〜24時間保持して反応させる方法が挙げられる。
本発明の一実施形態に係る重合体は、化合物Aの構造に由来して、一般的に金属イオンに対する配位が速い。結果として、この重合体は、より温和な条件(例えば、室温および大気圧下)で、短時間(例えば24時間以内)で反応が進むという優れた特長を有する。
【0071】
なお、上記水/油境界面で製造方法については、J.Am.Chem.Soc.2015,137,4681?4689を参照でき、上記内容は本明細書に組み込まれる。
【0072】
[組成物]
本発明の一実施形態に係る組成物は、重合体と、対イオン(典型的には、カウンターアニオン)とを含有する。組成物は、重合体と、対イオンとを含有していればその形態は特に制限されないが、シート、及び、後述する溶媒を含有する液状物等が挙げられる。対イオンを含有する組成物中では、重合体の電荷がより中性に維持されやすく、結果として重合体の安定性がより向上する。
【0073】
対イオンとしては、特に制限されないが、酢酸イオン、リン酸イオン、塩素イオン、六フッ化リンイオン、四フッ化ホウ素イオン、及び、ポリオキソメタレートからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0074】
対イオンは、組成物に対して、意図的に添加されたものであってもよいし、重合体の合成過程で、意図せず、又は、重合体の合成原料に由来して組成物に含有されるもの(典型的には特定金属イオンのイオン源である金属塩のカウンターアニオン)であってもよい。
【0075】
組成物中における対イオンの含有量としては特に制限されない。典型的に、対イオンが、金属塩(特定金属イオンのイオン源)から供給されたものである場合、組成物中における金属塩の含有量としては特に制限されず適宜選択すればよい。
【0076】
また、組成物は重合体を含有する。重合体の形態としてはすでに説明したとおりである。組成物中の重合体の含有量としては特に制限されないが、一般に0.001〜99.9質量%が挙げられる。
【0077】
また、組成物は、溶媒を含有していてもよく、溶媒としては水、及び/又は、有機溶媒が挙げられる。組成物が溶媒を含有する場合、後述するエレクトロクロミック素子の製造がより容易となる。
【0078】
上記組成物は、エレクトロクロミック特性を有する重合体と、重合体を電気的に中性にすることで安定性を高める対イオン(典型的にはカウンターアニオン)とを含有するため、後述するエレクトロクロミック素子に好ましく適用可能である。
【0079】
[エレクトロクロミック素子]
本発明に係るエレクトロクロミック素子は、対向して配置され、少なくとも一対の電極と、電極の間に配置された上記組成物から形成された組成物層とを有するエレクロトクロミック素子である。
図1には、非限定的な例として、本発明の一実施形態に係るエレクトロクロミック素子の模式図を示す。
【0080】
エレクトロクロミック素子100は、対向して配置された一対の透明電極(第1の透明電極101、及び、第2の透明電極104)と、第1の透明電極101上に配置された、組成物層102と、組成物層102の上方に配置された第2の透明電極104とを含む。
【0081】
なお、上記エレクトロクロミック素子100においては、対向して配置された電極の両方が透明電極であり、外光を透過可能であるため、調光装置として用いることが好ましい。上記エレクトロクロミック素子を表示素子として用いる場合には、上記電極の少なくとも一方が透明電極であればよい。表示素子においては、透明電極側が視認側となることが好ましい。
【0082】
エレクトロクロミック素子100は、第2の透明電極104と、すでに説明した組成物から形成された組成物層102との間に高分子固体電解質103を有する。本発明に係るエレクトロクロミック素子としては、上記に制限されず、高分子固体電解質を有していなくてもよい。
【0083】
第1の透明電極101、及び、第2の透明電極104は、透明導電膜であれば特に制限されない。一般に、SnO膜、In膜又はInとSnOとの混合物であるITO(Indium Tin Oxide)膜が好ましい。第1の透明電極101及び第2の透明電極104は、任意の物理的又は化学的気相成長法によって、ガラス基板等の透明基板上に形成され得る。
【0084】
組成物層102は、すでに説明した重合体と対イオン(典型的にはカウンターアニオン)とを含有する組成物から形成された層である。組成物層102の形成方法としては特に制限されないが、典型的には、溶媒を含有する組成物を用いて、第1の透明電極101に塗布して形成する方法が挙げられる。塗布の方法としては、例えば、スピンコーティング、及び、ディップコーティング等が挙げられる。
また、別の実施形態において、工程3によって形成した重合体と対イオンとを含んでなる組成物のシートを、透明電極101上に直接貼り付けることで組成物層102とすることもできる。
組成物層102の厚みは、使用する組成物の色の濃さ等によって変動し得る。一実施形態において、組成物層102の厚みは、おおよそ0.02マイクロメートル以上、200マイクロメートル以下であり、より好ましくは、0.1マイクロメートル以上、10マイクロメートル以下であってよい。
【0085】
高分子固体電解質103は、マトリクス用高分子に電解質を溶解して形成される。この電解質は、コントラストを向上させるため着色剤を併用してよい。なお、コントラストを向上させる必要がない場合には、不要である。
高分子電解質を使用する場合、高分子電解質層103の厚みは、特に限定されないが、組成物層102と第2の透明電極104とがデバイス使用時において振動等で物理的に接触しないように、10マイクロメートル程度以上であることが望ましい。
【0086】
次に、エレクトロクロミック素子100の動作を説明する。
第1の透明電極101と第2の透明電極104とは、電源(図示せず)に接続されており、組成物層102と高分子固体電解質103とに所定の電圧を印加する。これにより、組成物層102中の重合体の酸化還元を制御できる。
【0087】
より具体的には所定の電圧が印加されると、組成物層102中の重合体の金属イオンの酸化還元反応を制御できる。結果として、エレクトロクロミック素子の発色、及び、消色が制御可能である。
上記エレクトロクロミック素子は、調光装置、及び、表示装置等に適用可能である。
【実施例】
【0088】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0089】
以下の実施例で使用したすべての化学薬品はアルドリッチケミカル、TCI社、和光、及び、関東化学株式会社から購入した。
インジウムスズ酸化物(ITO)被覆ガラス基板(抵抗率8〜12Ω/sq)、及び、無水過塩素酸リチウム(LiClO)は、Aldrich Chemical Co.から購入した。
無水グレードの溶媒を合成に使用し、分光光度測定グレードの溶媒をフィルム調製、分光評価、素子製造、SEM(走査型電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)、及び、AFM(原子間力顕微鏡)測定に使用した。
関東化学(株)から購入したシリカゲル60N(中性、40〜100mM)でカラムクロマトグラフィー分離を行った。水が必要な実験では、Milli−Q精製システムによる精製水を用いた。
NMR(Nuclear Magnetic Resonance)スペクトルは、JEOL AL300/BZ装置で300MHzで記録した。化学シフトはTMS(tetramethylsilane)に関連して与えられる。
1,8,9−トリヒドロキシアントラセンをマトリックスとして、AXIMA−CFR、Shimadzu/Kratos、TOF(Time Of Flight)質量分析計を用いて、MALDI質量スペクトル(MALDI−TOF)を測定した。化合物3、4、5、BP−1は、それぞれ以下の手順に従って調製した。
【0090】
(化合物3の合成)
下記スキームに基づき、化合物1から、化合物3を合成した。
【0091】
【化13】
【0092】
ジオキサン(50mL)を100mL丸底フラスコ中の化合物1(1.8g、9.7mmol)に加え、溶液を窒素で15分間パージした。次に、二酸化セレン(1.1g、9.9mmol)をフラスコに加え、窒素パージを更に20分間続けた。次に、溶液を24時間加熱還流し、固体セレン金属を反応の進行とともにフラスコの側面に沈殿させた。次に、溶液を室温に冷却した後、重力濾過し、溶媒を減圧下で除去して固体生成物を得て、これを酢酸エチルに溶解し、1時間加熱還流し、熱いうちに重力濾過した。次に、濾液を0.1M炭酸ナトリウム(2×30mL)で洗浄して、形成された酸ビピリジンを抽出し、次いで0.3Mのメタ重亜硫酸ナトリウムの溶液中に抽出した。重炭酸ナトリウムを加えて抽出液のpHを10に調整し、生成物をジクロロメタン(DCM)に抽出した。溶媒を減圧下で蒸発させて、化合物3を得た(0.82g、収率43%)。
【0093】
H−NMR(300MHz、CDCl)δ(ppm)10.19(s、1H)、8.91(d、1H)、8.84(s、1H)、8.59(d、1H)、8.28(s、1H)、7.74(d、1H)、7.21(d、1H)、2.47(s、3H)。
MALDI−TOF(m/z):[M+H]の計算値:198.23、実測値:198.87。
【0094】
(化合物4の合成)
下記スキームに基づき、化合物2から、化合物4を合成した。
【0095】
【化14】
【0096】
化合物2(0.1g、0.38mmol)、及び、過剰のPPh(トリフェニルホスフィン、1g、3.8mmol)をトルエン(5mL)に加え、溶液を60℃で2時間加熱した。
次に、混合物を室温に冷却し、濾過した。次に、残渣をトルエンで洗浄し、真空下で一晩乾燥して、更に精製することなく使用できる化合物4(0.152g、収率90%)を得た。
【0097】
H−NMR(300MHz、DMSO−d6)δ(ppm)8.54(d、1H)、8.41(d、1H)、8.17(s、1H)、8.10(s、1H)、7.89−7.73(m、12H)、7.25(m、1H)、7.16(m、1H)、5.39−5.33(d、2H)、2.51(s、3H)。
MALDI−TOF(m/z):[M+H]の計算値:445.53、実測値:445.60。
【0098】
(化合物5の合成)
下記スキームに基づき、化合物2から、化合物5を合成した。
【0099】
【化15】
【0100】
化合物2(3g、11.4mmol)、及び、亜リン酸トリエチル(20ml)を100mLのCHClに溶解し、窒素雰囲気下で80℃で24時間還流した。
次に、溶液を室温まで冷却し、続いて溶媒、及び、過剰の亜リン酸トリエチルを減圧下で除去した。これにより油状の褐色の残留物が得られ、これをカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離液としてアセトン)で精製した。最後に、透明な油状の液体が得られた(3.1g、収率85%)。
【0101】
H−NMR(300MHz、CDCl)δ(ppm)8.62(1H、d)、8.54(1H、d)、8.32(1H、s)、8.23(1H、s)、7.32(1H、d)、7.13(1H、d)、4.10(4H、m)、3.28(2H、d)、2.44(3H、s)、1.27−1.39(6H、m)。
MALDI−TOF(m/z):[M+H]の計算値:320.33、実測値:320.97。
【0102】
(BP−1の合成)
下記スキームに基づき、化合物3及び化合物4から、BP−1を合成した。
【0103】
【化16】
【0104】
化合物3(0.220g、1.12mmol)、及び、化合物4(0.670g、1.28mmol)をエタノール(EtOH;30mL)に溶解し、0℃で窒素下で20分間撹拌した。次に、0.3M NaOEt/EtOH(4mL)の溶液を5分間かけて滴下し、溶液を室温に温めた。次に、5時間後、減圧下での蒸発により体積を15mLに減少させ、HO(10mL)を添加した。
混合物を濾過して生成物を白色粉末として単離し、これを1:1 HO/EtOHで洗浄し、真空下で乾燥させ、最後にメタノール(MeOH)から再結晶させた。BP−1を0.175g(収率43%)得た。
【0105】
H−NMR(300MHz、CDCl)δ(ppm)8.70(2H、d)、8.60−8.58(4H、m)、8.27(2H、s)、7.42(2H、s)、7.40−7.17(2H、d)、2.43(6H、s)。
MALDI−TOF(m/z):[M+H]についての計算値:364.45、実測値:364.82。
IR:1590cm−1(C=C)。UV:288nm(1×10−5M、DCM)。
【0106】
(BP−2の合成)
下記スキームに基づき、化合物5及び化合物6から、BP−2を合成した。
【0107】
【化17】
【0108】
窒素雰囲気下で、化合物5(0.704mg、2.2mmol)、及び、化合物6:テレフタルアルデヒド(0.134g、1mmol)のTHF(tetrahydrofuran)溶液(50mL)に固体カリウムtert−ブトキシド(0.45g、4mmol)を一度に加えた。
次に、反応混合物を室温で10時間撹拌した。その後、反応混合物を水(25mL)でクエンチし、THFを減圧下で除去し、水性残留物をDCMで抽出した。
集めた有機層を水(50mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過した。溶媒を蒸発させた後、残留物をDCM/ヘキサン(1:2)溶媒混合物中で再結晶させ、生成物を黄色結晶固体として得た(0.30g、収率65%)。
【0109】
H−NMR(300MHz、CDCl)δ(ppm)8.67(2H、d)、8.60−8.54(4H、m)、8.28(2H、d)、7.60(4H、m)、7.50−7.41)、7.20−7.15(4H、m)、2.47(6H、sb)。
MALDI−TOF(m/z):[M+H]についての計算値:466.59、実測値:466.57。
IR:1588cm−1(C=C)。UV:358nm(1×10−5M、DCM)。
【0110】
(組成物1の調製)
1mgのBP−1を10mLのCHClに溶解することにより、CHCl中のBP−1の0.1mM溶液を調製し、この溶液を使用前に濾過した。
この溶液を直径40mmのバイアルに注ぎ、BP−1の溶液に純水(10mL)を注ぎ、水/油界面を形成した。
次に、Fe(BFの水溶液(50mM、10mL、使用前に濾過した)をゆっくりとピペッティングすることによって水相に添加した。24時間後、重合体1が紫色の膜として界面に合成された。
次に、水層を純水で置換し、続いて有機相と水相の両方を除去した。エタノール、及び、CHClを上記膜に添加し、上記膜を含有するフレークの懸濁液を得た。次いで、上記膜を濾過により集め、真空中で乾燥させて組成物1のシートを得た。
なお、上記組成物1は、BP−1をFe2+に配位して重合させた重合体である「BP−1−Fe2+」(重合体1)と、カウンターアニオン(ホウフッ化物イオン)とを含有する。
【0111】
上記組成物の赤外吸収(IR)スペクトルを測定した。測定方法については後述する。結果を図2に示した。図2中、「BP−1−Fe2+」とあるのは、重合体1を含有する組成物1を示す。
図2によれば、C=C結合に対応するピークが、BP−1(化合物A)においては1590cm−1であるところ、組成物1においては、1612cm−1にシフトしていることがわかる。
なお、組成物1における1150cm−1付近の吸収は、上記シートに含まれるカウンターアニオン(ホウフッ化物イオン)に対応するものである。
【0112】
また、図3、及び、図4には、重合体1を含有するシートのエネルギー分散型X線分析法による元素分析結果を示している。上記によれば、上記シートには、炭素、鉄、ホウ素、窒素、及び、フッ素が含有されており、「BP−1−Fe2+」(重合体1)とカウンターアニオンとを含有することが確認された。
【0113】
(組成物2の合成)
BP−1溶液に代えて、CHCl中のBP−2の0.12mM溶液を使用したことを除いては、組成物1と同様の方法により、組成物2を調製した。得られたシートは、マゼンタ色だった。
上記組成物2は、BP−2をFe2+に配位して重合させた重合体である「BP−2−Fe2+」(重合体2)と、カウンターアニオン(ホウフッ化物イオン)とを含有する。なお、組成物2についても組成物1と同様に赤外吸収スペクトルを図5に、エネルギー分散型X線分析法による元素分析結果を図6及び図7に示した。
【0114】
まず、上記組成物1及び組成物2について、後述するサイクリックボルタンメトリー測定により電気化学応答について調べた。結果を図8に示した。図8中、「BP−1−Fe2+」は重合体1を含有する組成物1、「BP−2−Fe2+」は重合体2を含有する組成物2に対応する。
図8中、20.3Vから+1.0Vへ掃引した場合に見られるピークが酸化を示し、+1.0Vから0.3Vへ掃引した場合に見られるピークが還元を示す。この酸化は、重合体中の鉄イオンが2価から3価になることに起因し、還元は、鉄イオンが3価から2価になることに起因している。
酸化、及び、還元を示すピーク電流値は同じ値であることから、上記酸化還元は、可逆的に起こっていることが分かった。なお、このような掃引を500回繰り返しても、結果は変わらず、上記重合体を含有する各組成物は、電圧印加による疲労を示さない。
【0115】
次に、各組成物の発色の変化を目視観察した。試料として透明電極(ITO電極)上に配置した各組成物(シート)を用い、電圧を印加した際の発色の変化を観察した。組成物1の結果を図9に、組成物2の結果を図10に示した。
図9に示したように、組成物1は、「BP−1−Fe2+」に由来して、還元状態では紫色透明だった(図9左側)。次いで電圧を印加すると、紫色が消え、無色透明となった(図9右側、消色状態)。組成物1は、「BP−1−Fe2+」に由来して、消色状態において、外部からの入射光の散乱がより少ないと考えられ、その結果、より透明に見え、優れた特性を有していることがわかった。
【0116】
また、図10に示したように、組成物2は、「BP−2−Fe2+」に由来して、還元状態ではマゼンタ色透明だった(図10左側)。次いで、電圧を印加するとマゼンタ色が消え、淡黄色透明となった(図10右側、消色状態)。組成物2は「BP−2−Fe2+」に由来して、消色状態において、外部からの入射光の散乱がより少ないと考えられ、その結果、より透明に見え、優れた特性を有していることがわかった。
【0117】
図11は後述する方法により測定した各組成物の紫外・可視吸収スペクトルを表す図である。
図11によれば、組成物1(図11中では「BP−1−Fe2+」と示した。)は、400nm付近にピークを有し、かつ、570nm付近により大きなピークを有していた。これは、還元状態において、「BP−1−Fe2+」が紫色(透明)を呈していることに対応している。
また、図11によれば、組成物2(図11中では「BP−2−Fe2+」と示した。)は、591nm付近に大きなピークを有していた。これは、還元状態において、「BP−2−Fe2+」がマゼンタ色(透明)を呈していることに対応している。
また、図11によれば、「BP−1−Fe2+」と「BP−2−Fe2+」の1:1混合物(図11中では、「BP−1−Fe2+:BP−2−Fe2+=1:1」と示した。)については、上記各重合体の特性を反映したスペクトルが得られた。これらの結果から、本発明の一実施形態に係る重合体を用いることにより、エレクトロクロミック素子の発色を調整できることがわかった。
【0118】
また、図12、及び、図13は、上記と同様にして測定した紫外・可視光線に対する透過率を示したものである(図12:組成物1、図13:組成物2)。これらの図では、電圧印加により、可逆的に透過光のスペクトルが変化する(発色と消色が起こる)ことが確認された。また、その際の透過率ΔTも計算された。
【0119】
図14、及び、図15には、ピーク強度のスイッチング特性を示した。図14は組成物1について、波長588.4nmにおいて、印加電圧を1.0V(vs Ag/Ag)から0.4V(vs Ag/Ag)に切り替えたときの透過光強度の変化を示している。
また、図15は、組成物2について、波長568.2nmにおいて、印加電圧を1.0V(vs Ag/Ag)から0.4V(vs Ag/Ag)Vに切り替えたときの透過光強度の変化を示している。上記によれば、各重合体において、発色状態から消色状態への切り替えは、迅速に行われることがわかった。
【0120】
図16(組成物1)、及び、図17(組成物2)には、上記のピーク強度のスイッチングを複数回繰り返した(300回)場合の透過光強度を示した。
これらの結果から、いずれの組成物も発色と消色とを繰り返しても透過光強度、及び、応答速度に変化はなく、優れた耐久性(優れた疲労特性)を有していることがわかった。
【0121】
上記により得られた結果を表1にまとめて示した。
【0122】
【表1】
【0123】
なお、表1中、「ΔT」はすでに説明したとおりであり、「tcoloring」は発色の、「tbleaching」は消色の応答速度であり、「charge/discharge」は、注入/排出電荷を表し、ηは着色効率を表している。
なお、着色効率は、単位面積に注入された電荷量あたりのΔOD(光学密度の変化)を表しており、膜の面積と上記測定値から計算できる。
表1中「BP−1−Fe2+」とあるのは、組成物1に対応し、「BP−2−Fe2+」とあるのは、組成物2に対応する。
【0124】
図18及び図19には、下記の方法により得られた、組成物1の走査型電子顕微鏡像及び透過型電子顕微鏡像を示した。
また、図20及び図21には、下記の方法により得られた、組成物2の走査型電子顕微鏡像及び透過型電子顕微鏡像を示した。
上記の結果によれば、組成物1及び組成物2はそれぞれ、シート構造が複数積層された構造(ナノシート構造)となっていることが分かった。これは本発明の一実施形態に係る重合体が、所定の化合物Aを特定金属イオンに配位して形成された重合体であることに起因して、2次元的により配列しやすいことに起因しているものと推測される。
このような構造を有する本発明の一実施形態に係る重合体を含有する組成物は、優れた耐有機溶媒性を有している。
【0125】
[比較例]
100ml二口フラスコに、配位子として1,4−ビスターピリジンベンゼン(30mg、0.054mol)を25mlの酢酸に加熱しながら溶解させた。次に、酢酸鉄(9.39mg、0.054mol)を含むメタノール溶液5mlを上記二口フラスコに加え、混合物を得た。上記混合物を、窒素雰囲気中、150℃、24時間、加熱還流した。
還流後、二口フラスコ中の反応溶液をシャーレに移し、大気中で乾燥させて、紫色の粉末の重合体Cを得た。粉末の収率は、90%であった。
上記重合体Cを用いてITO電極上に膜を形成し、消色状態としたところ、白く濁って見え、本願所望の効果を有していないことがわかった。
【0126】
上記の各評価は、具体的には以下の方法により実施した。
【0127】
(紫外可視分光測定)
Shimadzu UV−2550 UV−可視分光光度計を用いて、吸収スペクトルを記録した。
配位子BP−1及びBP−2については、DCM溶液(5×10−6M)とし、ナノシート状の組成物1、及び、ナノシート状の組成物2については、ITO基板上で測定された。
【0128】
(走査型透過型電子顕微鏡(SEM)、及び、透過型電子顕微鏡(TEM)観察)
走査型電子顕微鏡(SEM)は、プラチナコーター(E−1030イオンスパッタ、日立、東京、日本)を用いて、重合体1及び重合体2のナノシートにスパッタコーティングした後、10kVで動作するS8000(日立社製)を用いて行った。FE−SEMのためのサンプルは、DCM及びエタノール(1:1)中の重合体(カウンターアニオンを含有する)フレークの懸濁液を、新たに開裂したマイカ表面に滴下することによって調製した。透過型電子顕微鏡(TEM)分析は、JEOL JEM 2100F HRTEMを用いて行った。TEM用のサンプルは、重合体フレークのDCMとエタノール(1:1)懸濁液を150メッシュの炭素被覆銅グリッド上に滴下キャスティングし、真空下で一晩乾燥させることによって調製した。
【0129】
(赤外線(IR)分光法)
FT−IR測定は、MCT(Mercury−Cadmium Telluride)検出器を備えたNicolet 4700 FT−IR分光光度計によって実施され、透過率測定はKBr錠剤を用いてモニターされた。
【0130】
(電気化学、及び、エレクトロクロミック特性評価)
サイクリックボルタンメトリー(CV)、及び、アンペロメトリー測定を含むすべての電気化学的実験は、ALS/CHI電気化学ワークステーション(CH Instruments、Inc。)で実施した。CV測定には、従来の3電極系(作用極としてITO基板、対極として白金フラグ、参照電極としてAg/AgClを蒸着したナノシート)を用いた。
【0131】
(粉末X線回折(PXRD))
重合体1(BP−1−Fe2+)を含有するシート及び重合体2(BP−2−Fe2+)を含有するシートの粉末X線回折(PXRD)パターンを、Rigaku RINT 1200回折計により、40kVの動作電圧及び30mAのビーム電流を有するNi濾過CuKα線(λ=1.5418オングストローム)を用いて測定した。
結果を図22に示した。この結果から、重合体1(BP−1−Fe2+)を含有するシート及び重合体2(BP−2−Fe2+)を含有するシートは、非晶質(アモルファス)であることがわかった。
【符号の説明】
【0132】
100 :エレクトロクロミック素子
101 :第1の透明電極
102 :組成物層
103 :高分子固体電解質
104 :第2の透明電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
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図20
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図22