(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記インク供給路は、前記平面視において、前記第2方向に延びかつ前記第1方向に間隔をおいて配置された複数の細長矩形状インク供給路を含んでいる、請求項4に記載のインクジェットプリントヘッド。
前記圧電素子は、前記可動膜上に形成された下部電極と、前記下部電極上に形成された圧電体膜と、前記圧電体膜上に形成された上部電極とを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載のインクジェットプリントヘッド。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係るインクジェットプリントヘッドの外観を示す図解的な平面図である。
図2は、
図1の一部が切欠かれた図解的な一部切欠き平面図である。
図3は、
図2のA部を拡大して示す図解的な平面図であって、保護基板を含む部分拡大平面図である。
図4は、
図2のA部を拡大して示す図解的な平面図であって、保護基板が省略された部分拡大平面図である。
図5は、
図3のV-V線に沿う図解的な断面図である。
図6は、
図3のVI-VI線に沿う図解的な断面図である。
図7は、前記インクジェットプリントヘッドの下部電極のパターン例を示す図解的な部分拡大平面図であり、
図3に対応した平面図である。
【0017】
図5を参照して、インクジェットプリントヘッド1の構成を概略的に説明する。
インクジェットプリントヘッド1は、アクチュエータ基板2と、ノズル基板3と、保護基板4とを備えている。アクチュエータ基板2の表面には、可動膜形成層10が積層されている。アクチュエータ基板2には、インク流路(インク溜まり)5が形成されている。インク流路5は、この実施形態では、アクチュエータ基板2を貫通して形成されている。インク流路5は、
図5に矢印で示すインク流通方向41に沿って細長く延びて形成されている。インク流路5は、インク流通方向41の上流側端部(
図5では左端部)のインク流入部6と、インク流入部6に連通する圧力室7とから構成されている。
図2において、インク流入部6と圧力室7との境界を二点鎖線で示すことにする。
【0018】
ノズル基板3は、たとえばシリコン基板からなる。ノズル基板3は、アクチュエータ基板2の裏面2bに張り合わされている。ノズル基板3は、アクチュエータ基板2および可動膜形成層10とともにインク流路5を区画している。より具体的には、ノズル基板3は、インク流路5の底面部を区画している。ノズル基板3は、圧力室7に臨む凹部3aを有し、凹部3aの底面にインク吐出通路3bが形成されている。インク吐出通路3bは、ノズル基板3を貫通しており、圧力室7とは反対側に吐出口3cを有している。したがって、圧力室7の容積変化が生じると、圧力室7に溜められたインクは、インク吐出通路3bを通り、吐出口3cから吐出される。
【0019】
可動膜形成層10における圧力室7の天壁部分は、可動膜10Aを構成している。可動膜10A(可動膜形成層10)は、たとえば、アクチュエータ基板2上に形成された酸化シリコン(SiO
2)膜からなる。可動膜10A(可動膜形成層10)は、たとえば、アクチュエータ基板2上に形成されるシリコン(Si)膜と、シリコン膜上に形成される酸化シリコン(SiO
2)膜と、酸化シリコン膜上に形成される窒化シリコン(SiN)膜との積層膜から構成されていてもよい。この明細書において、可動膜10Aとは、可動膜形成層10のうち圧力室7の天面部を区画している天壁部を意味している。したがって、可動膜形成層10のうち、圧力室7の天壁部以外の部分は、可動膜10Aを構成していない。
【0020】
可動膜10Aの厚さは、たとえば、0.4μm〜2μmである。可動膜10Aが酸化シリコン膜から構成される場合は、酸化シリコン膜の厚さは1.2μm程度であってもよい。可動膜10Aが、シリコン膜と酸化シリコン膜と窒化シリコン膜との積層膜から構成される場合には、シリコン膜、酸化シリコン膜および窒化シリコン膜の厚さは、それぞれ0.4μm程度であってもよい。
【0021】
圧力室7は、可動膜10Aと、アクチュエータ基板2と、ノズル基板3とによって区画されており、この実施形態では、略直方体状に形成されている。圧力室7の長さはたとえば800μm程度、その幅は55μm程度であってもよい。インク流入部6は、圧力室7の長手方向一端部に連通している。
可動膜10Aの表面には、圧電素子9が配置されている。圧電素子9は、可動膜形成層10上に形成された下部電極11と、下部電極11上に形成された圧電体膜12と、圧電体膜12上に形成された上部電極13とを備えている。言い換えれば、圧電素子9は、圧電体膜12を上部電極13および下部電極11で上下から挟むことにより構成されている。
【0022】
上部電極13は、白金(Pt)の単膜であってもよいし、たとえば、導電性酸化膜(たとえば、IrO
2(酸化イリジウム)膜)および金属膜(たとえば、Ir(イリジウム)膜)が積層された積層構造を有していてもよい。上部電極13の厚さは、たとえば、0.2μm程度であってもよい。
圧電体膜12としては、たとえば、ゾルゲル法またはスパッタ法によって形成されたPZT(PbZr
xTi
1−xO
3:チタン酸ジルコン酸鉛)膜を適用することができる。このような圧電体膜12は、金属酸化物結晶の焼結体からなる。圧電体膜12は、上部電極13と平面視で同形状に形成されている。圧電体膜12の厚さは、1μm程度である。可動膜10Aの全体の厚さは、圧電体膜12の厚さと同程度か、圧電体膜12の厚さの2/3程度とすることが好ましい。
【0023】
下部電極11は、たとえば、Ti(チタン)膜およびPt(プラチナ)膜を可動膜形成層10側から順に積層した2層構造を有している。この他にも、Au(金)膜、Cr(クロム)膜、Ni(ニッケル)膜などの単膜で下部電極11を形成することもできる。下部電極11は、圧電体膜12の下面に接した主電極部11Aと、圧電体膜12の外方の領域まで延びた延長部11Bとを有している。下部電極11の厚さは、たとえば、0.2μm程度であってもよい。
【0024】
下部電極11の延長部11B上および圧電素子9上には、水素バリア膜14が形成されている。水素バリア膜14は、たとえば、Al
2O
3(アルミナ)からなる。水素バリア膜14の厚さは、50nm〜100nm程度である。水素バリア膜14は、圧電体膜12の水素還元による特性劣化を防止するために設けられている。
水素バリア膜14上に、絶縁膜15が積層されている。絶縁膜15は、たとえば、SiO
2、低水素のSiN等からなる。絶縁膜15の厚さは、500nm程度である。絶縁膜15上には、上部配線17および下部配線(図示略)が形成されている。これらの配線は、Al(アルミニウム)を含む金属材料からなっていてもよい。これらの配線の厚さは、たとえば、1000nm(1μm)程度である。
【0025】
上部配線17の一端部は、上部電極13の一端部(インク流通方向41の下流側端部)の上方に配置されている。上部配線17と上部電極13との間において、水素バリア膜14および絶縁膜15を連続して貫通する上部電極用コンタクト孔33が形成されている。上部配線17の一端部は、上部電極用コンタクト孔33に入り込み、上部電極用コンタクト孔33内で上部電極13に接続されている。上部配線17は、上部電極13の上方から、圧力室7の外縁を横切って圧力室7の外方に延びている。
【0026】
下部配線は、図示されていないが、平面視でインク流路5が形成されていない所定の領域において、下部電極11の延長部11Bの上方に配置されている。下部配線は、下部配線と延長部11Bとの間において、水素バリア膜14および絶縁膜15を連続して貫通する複数の下部電極用コンタクト孔(図示略)を介して、延長部11Bに接続されている。
絶縁膜15上には、上部配線17、下部配線および絶縁膜15を覆うパッシベーション膜21が形成されている。パッシベーション膜21は、たとえば、SiN(窒化シリコン)からなる。パッシベーション膜21の厚さは、たとえば、800nm程度であってもよい。
【0027】
パッシベーション膜21には、上部配線17の一部を露出させる上部電極用パッド開口35が形成されている。上部電極用パッド開口35は、圧力室7の外方領域に形成されており、たとえば、上部配線17の先端部(上部電極13へのコンタクト部の反対側端部)に形成されている。パッシベーション膜21上には、上部電極用パッド開口35を覆う上部電極用パッド42が形成されている。上部電極用パッド42は、上部電極用パッド開口35に入り込み、上部電極用パッド開口35内で上部配線17に接続されている。図示されていないが、パッシベーション膜21には、下部配線の一部を露出させる下部電極用パッド開口が形成されており、パッシベーション膜21上には、下部電極用パッド開口を覆い下部配線に接続された下部電極用パッドが形成されている。
【0028】
インク流路5におけるインク流入部6側の端部に対応する位置に、パッシベーション膜21、絶縁膜15、水素バリア膜14、下部電極11および可動膜形成層10を貫通する平面視矩形状のインク供給用貫通孔22が形成されている。下部電極11には、インク供給用貫通孔22を含み、インク供給用貫通孔22よりも大きな平面視矩形状の貫通孔23が形成されている。下部電極11の貫通孔23とインク供給用貫通孔22との隙間には、水素バリア膜14が入り込んでいる。インク供給用貫通孔22は、インク流入部6に連通している。
【0029】
保護基板4は、たとえば、シリコン基板からなる。保護基板4は、圧電素子9を覆うようにアクチュエータ基板2上に配置されている。保護基板4は、パッシベーション膜21に、接着剤50を介して接合されている。保護基板4は、アクチュエータ基板2の表面2aに対向する対向面51に収容凹所52を有している。収容凹所52内に圧電素子9が収容されている。さらに、保護基板4には、インク供給用貫通孔22に連通するインク供給路53と、上部電極用パッド42および下部電極用パッドを露出させるための開口部(電極パッド露出用開口部)54が形成されている。インク供給路53および開口部54は、保護基板4を貫通している。保護基板4上には、インクを貯留したインクタンク(図示せず)が配置されている。
【0030】
圧電素子9は、可動膜10Aを挟んで圧力室7に対向する位置に形成されている。すなわち、圧電素子9は、可動膜10Aの圧力室7とは反対側の表面に接するように形成されている。インクタンクからインク供給路53、インク供給用貫通孔22、インク流入部6を通って圧力室7にインクが供給されることによって、圧力室7にインクが充填される。可動膜10Aは、圧力室7の天面部を区画していて、圧力室7に臨んでいる。可動膜10Aは、アクチュエータ基板2における圧力室7の周囲の部分によって支持されており、圧力室7に対向する方向(換言すれば可動膜10Aの厚さ方向)に変形可能な可撓性を有している。
【0031】
上部配線17および下部配線(図示せず)は、駆動回路(図示せず)に接続されている。具体的には、上部電極用パッド42と駆動回路とは、接続金属部材(図示せず)を介して接続されている。下部電極用パッドと駆動回路とは、接続金属部材(図示せず)を介して接続されている。駆動回路から圧電素子9に駆動電圧が印加されると、逆圧電効果によって、圧電体膜12が変形する。これにより、圧電素子9とともに可動膜10Aが変形し、それによって、圧力室7の容積変化がもたらされ、圧力室7内のインクが加圧される。加圧されたインクは、インク吐出通路3bを通って、吐出口3cから微小液滴となって吐出される。
【0032】
図1〜
図7を参照して、インクジェットプリントヘッド1の構成についてさらに詳しく説明する。
図1〜
図4を参照して、インクジェットプリントヘッド1の平面視形状は、一方向(
図2の紙面の上下方向)に長い長方形状である。この実施形態では、アクチュエータ基板2、保護基板4およびノズル基板3の平面形状および大きさは、インクジェットプリントヘッド1の平面形状および大きさとほぼ同じである。
【0033】
アクチュエータ基板2には、平面視において、その長辺に沿う方向に間隔をおいてストライプ状に配列された複数のインク流路(圧力室)からなるインク流路列(圧力室列)が、その短辺に沿う方向に間隔をおいて4列分設けられている。言い換えれば、アクチュエータ基板2には、平面視において、その長辺に沿う方向に間隔をおいてストライプ状に配列された複数の圧力室からなる圧力室列が、その短辺に沿う方向に間隔をおいて4列分設けられている。
【0034】
以下において、
図2の最も左側のインク流路列を1列目のインク流路列といい、1列目のインク流路列の右隣りにあるインク流路列を2列目のインク流路列ということにする。また、2列目のインク流路列の右隣りにあるインク流路列を3列目のインク流路列といい、3列目のインク流路列の右隣りにあるインク流路列を4列目のインク流路列ということにする。
【0035】
1列目のインク流路列のパターンと2列目のインク流路列のパターンとは、それらの列の間の中央を結ぶ線分に対して左右対称のパターンとなっている。したがって、1列目のインク流路列に含まれるインク流路5においては、インク流入部6が圧力室7に対して左側にあるのに対して、2列目のインク流路列に含まれるインク流路5においては、インク流入部6が圧力室7に対して右側にある。したがって、1列目のインク流路列と2列目のインク流路列とでは、インク流通方向41は互いに逆方向になる。
【0036】
3列目のインク流路列のパターンは、1列目のインク流路列のパターンと同じであり、4列目のインク流路列のパターンは、2列目のインク流路列のパターンと同じである。
各インク流路列の複数のインク流路5毎に、インク供給用貫通孔22が設けられている。インク供給用貫通孔22は、インク流入部6上に配置されている。したがって、1列目および3列目のインク流路列に含まれるインク流路5に対するインク供給用貫通孔22は、インク流路5の左端部上に配置され、2列目および4列目のインク流路列に含まれるインク流路5に対するインク供給用貫通孔22は、インク流路5の右端部上に配置されている。
【0037】
各インク流路列の複数のインク流路5毎に、圧電素子9が配置されている。以下において、1列目のインク流路列の複数のインク流路5毎に設けられた複数の圧電素子9を1列目の圧電素子列といい、2列目のインク流路列の複数のインク流路5毎に設けられた複数の圧電素子9を2列目の圧電素子列という場合がある。同様に、3列目のインク流路列の複数のインク流路5毎に設けられた複数の圧電素子9を3列目の圧電素子列といい、4列目のインク流路列の複数のインク流路5毎に設けられた複数の圧電素子9を4列目の圧電素子列という場合がある。
【0038】
各インク流路列において、複数のインク流路5は、それらの幅方向に微小な間隔(たとえば30μm〜350μm程度)を開けて等間隔で形成されている。各インク流路5は、インク流通方向41に沿って細長く延びている。インク流路5は、インク供給用貫通孔22に連通するインク流入部6とインク流入部6に連通する圧力室7とからなる。圧力室7は、平面視において、インク流通方向41に沿って細長く延びた長方形形状を有している。つまり、圧力室7の天面部は、インク流通方向41に沿う2つの側縁と、インク流通方向41に直交する方向に沿う2つの端縁とを有している。インク流入部6は、平面視で圧力室7とほぼ同じ幅を有している。インク供給用貫通孔22は、平面視において、矩形である(特に
図4参照)。
【0040】
下部電極11は、可動膜形成層10の表面のほぼ全域に形成されている(特に
図7参照)。下部電極11は、複数の圧電素子9に対して共用される共通電極である。下部電極11は、圧電素子9を構成する平面視矩形状の主電極部11Aと、主電極部11Aから可動膜形成層10の表面に沿う方向に引き出され、圧力室7の天面部の周縁の外方に延びた延長部11Bとを含んでいる。
【0041】
主電極部11Aの長手方向の長さは、可動膜10Aの長手方向の長さよりも短い。主電極部11Aの両端縁は、可動膜10Aの対応する両端縁に対して、それぞれ、所定間隔を開けて内側に配置されている。また、主電極部11Aの短手方向の幅は、可動膜10Aの短手方向の幅よりも狭い。主電極部11Aの両側縁は、可動膜10Aの対応する両側縁に対して、所定間隔を開けて内側に配置されている。延長部11Bは、下部電極11の全領域のうち主電極部11Aを除いた領域である。
【0042】
上部電極13は、平面視において、下部電極11の主電極部11Aと同じパターンの矩形状に形成されている。すなわち、上部電極13の長手方向の長さは、可動膜10Aの長手方向の長さよりも短い。上部電極13の両端縁は、可動膜10Aの対応する両端縁に対して、それぞれ、所定間隔を開けて内側に配置されている。また、上部電極13の短手方向の幅は、可動膜10Aの短手方向の幅よりも狭い。上部電極13の両側縁は、可動膜10Aの対応する両側縁に対して、所定間隔を開けて内側に配置されている。
【0043】
圧電体膜12は、平面視において、上部電極13と同じパターンの矩形状に形成されている。すなわち、圧電体膜12の長手方向の長さは、可動膜10Aの長手方向の長さよりも短い。圧電体膜12の両端縁は、可動膜10Aの対応する両端縁に対して、それぞれ、所定間隔を開けて内側に配置されている。また、圧電体膜12の短手方向の幅は、可動膜10Aの短手方向の幅よりも狭い。圧電体膜12の両側縁は、可動膜10Aの対応する両側縁に対して、所定間隔を開けて内側に配置されている。圧電体膜12の下面は下部電極11の主電極部11Aの上面に接しており、圧電体膜12の上面は上部電極13の下面に接している。
【0044】
上部配線17は、圧電素子9の一端部(インク流通方向41の下流側の端部)の上面からそれに連なる圧電素子9の端面に沿って延び、さらに下部電極11の延長部11Bの表面に沿って、インク流通方向41に沿う方向に延びている。上部配線17の先端部は、保護基板4の開口部54内に配置されている。パッシベーション膜21には、上部配線17の先端部表面の中央部を露出させるパッド開口35が形成されている。パッシベーション膜21上に、パッド開口35を覆うようにパッド42が設けられている。パッド42は、パッド開口35内で上部配線17に接続されている。
【0045】
図1、
図2、
図3および
図5に示すように、保護基板4には、その長辺に沿って延びたインク供給路53が、その短辺に沿う方向に間隔をおいて4つ形成されている。これらのインク供給路53は、平面視で保護基板4の長辺に沿う方向に細長い矩形である。以下において、これらの4つのインク供給路53を、
図2の左から順に1例目のインク供給路53、2例目のインク供給路53、3列目のインク供給路53および4列目のインク供給路53ということにする。
【0046】
1例目のインク供給路53は、平面視において、1列目のインク流路列内の全てのインク流路5に対するインク供給用貫通孔22を取り囲むように形成されており、それらのインク供給用貫通孔22に連通している。2例目のインク供給路53は、平面視において、2列目のインク流路列内の全てのインク流路5に対するインク供給用貫通孔22を取り囲むように形成されており、それらのインク供給用貫通孔22に連通している。
【0047】
3例目のインク供給路53は、平面視において、3列目のインク流路列内の全てのインク流路5に対するインク供給用貫通孔22を取り囲むように形成されており、それらのインク供給用貫通孔22に連通している。4例目のインク供給路53は、平面視において、4列目のインク流路列内の全てのインク流路5に対するインク供給用貫通孔22を取り囲むように形成されており、それらのインク供給用貫通孔22に連通している。
【0048】
平面視において、1列目のインク供給路53と2列目のインク供給路53との間に、1列目の圧電素子列と2列目の圧電素子列とが配置され、3列目のインク供給路53と4列目のインク供給路53との間に、3列目の圧電素子列と4列目の圧電素子列とが配置されている。
保護基板4には、平面視において、1列目の圧電素子列と2列目の圧電素子列との間位置に、保護基板4の長辺に沿う方向に細長い矩形の開口部54(以下において、「第1の開口部54」という場合がある)が形成されている。第1の開口部54は、1列目の圧電素子列に対応する上部電極用パッド42、2列目の圧電素子列に対応する上部電極用パッド42およびこれらの圧電素子列に共通な1つの下部電極用パッド(図示略)を露出させるための開口部である。
【0049】
また、保護基板4には、平面視において、3列目の圧電素子列と4列目の圧電素子列との間位置に、保護基板4の長辺に沿う方向に細長い矩形の開口部54(以下において、「第2の開口部54」という場合がある)が形成されている。第2の開口部54は、3列目の圧電素子列に対応する上部電極用パッド42、4列目の圧電素子列に対応する上部電極用パッド42およびこれらの圧電素子列に共通な1つの下部電極用パッド(図示略)を露出させるための開口部である。
【0050】
図1に示すように、保護基板4の表面には、複数のアライメントマーク(検査用カメラ位置決め用アライメントマーク)81が形成されている。アライメントマーク81の構成、利用方法等については、後述する。
図10は、保護基板の
図3に示される領域の底面図である。
図2、
図3、
図5、
図6および
図10に示すように、保護基板4の対向面51には、各圧電素子列内の圧電素子9に対向する位置に、それぞれ収容凹所52が形成されている。各収容凹所52に対してインク流通方向41の上流側にインク供給路53が配置され、下流側に開口部54が配置されている。各収容凹所52は、平面視において、対応する圧電素子9の上部電極13のパターンよりも少し大きな矩形状に形成されている。そして、各収容凹所52に、対応する圧電素子9が収容されている。
【0051】
図8は、前記インクジェットプリントヘッドの絶縁膜のパターン例を示す図解的な部分拡大平面図であり、
図3に対応した平面図である。
図9は、前記インクジェットプリントヘッドのパッシベーション膜のパターン例を示す図解的な平面図であり、
図3に対応した平面図である。
この実施形態では、絶縁膜15およびパッシベーション膜21は、アクチュエータ基板2上において、平面視で保護基板4の収容凹所52の外側領域のほぼ全域に形成されている。ただし、この領域において、絶縁膜15には、インク供給用貫通孔22が形成されている。この領域において、パッシベーション膜21には、インク供給用貫通孔22および上部電極用パッド開口35および下部電極用パッド開口が形成されている。
【0052】
保護基板4の収容凹所52の内側領域においては、絶縁膜15およびパッシベーション膜21は、上部配線17が存在する一端部(上部配線領域)にのみ形成されている。この領域において、パッシベーション膜21は、絶縁膜15上の上部配線17の上面および側面を覆うように形成されている。換言すれば、絶縁膜15およびパッシベーション膜21には、平面視で収容凹所52の内側領域のうち、上部配線領域を除いた領域に、開口37が形成されている。絶縁膜15には、さらに、上部電極用コンタクト孔33が形成されている。
【0053】
図1を参照して、アライメントマーク81について説明する。
アライメントマーク81は、検査用カメラの撮像領域を位置決めするために設けられている。言い換えれば、アライメントマーク81は、インクジェットプリントヘッド1に対する検査用カメラの相対位置を位置決めするために設けられている。
本実施形態に係るインクジェットプリントヘッド1に対して、半導体装置検査用の高精度カメラ(検査用カメラ)を用いて、外観検査が行われる。具体的には、保護基板4側からインクジェットプリントヘッド1が、検査用カメラによって撮像される。そして、その撮像画像に基づいて、インクジェットプリントヘッド1の外観検査が行われる。
【0054】
この実施形態に係るインクジェットプリントヘッド1の平面形状は、例えば、10mm×30mm程度の長方形であり、検査用カメラの撮像範囲よりも広い。そこで、保護基板4側から見たインクジェットプリントヘッド1の全領域を予め複数の小領域に分割して、小領域毎に撮像を行うようにしている。この場合、小領域毎に、検査用カメラの撮像領域がその小領域の全域を含むように、インクジェットプリントヘッド1に対する検査用カメラの相対位置を位置決めする必要がある。
【0055】
そこで、この実施形態では、インクジェットプリントヘッド1に対する検査用カメラの相対位置を位置決めするためのアライメントマーク81を、小領域毎に設けるようにしている。この実施形態では、保護基板4の上面は、
図1に鎖線で示すように、横方向に3分割され、縦方向に8分割されることにより、24個の小領域Eに分けられている。各小領域Eには、アライメントマーク81が2個ずつ設けられている。各小領域Eに設けられる2つのアライメントマーク81の位置は予め決められている。ただし、これらの位置は任意に決定することができる。小領域Eの中心を基準とする2つのアライメントマーク81の位置は、小領域E毎に異なっていてもよいし、全ての小領域Eにおいて同じであってもよいし、全ての小領域Eにおいて同じではないが一部の小領域Eにおいて同じであってもよい。
【0056】
この実施形態では、全ての小領域Eにおいて、いずれかのインク供給路53の一部が存在している。そして、各小領域Eにおいて、インク供給路53を挟む両側の領域それぞれにアライメントマーク
81が形成されている。
外観検査時には、インクジェットプリントヘッド1に対する検査用カメラの相対位置を変化させながら、検査用カメラによってアライメントマーク81を撮像する。そして、撮像対象の小領域E内の2つのアライメントマーク81の撮像画像の位置に基づいて、インクジェットプリントヘッド1に対する検査用カメラの相対位置を、予め設定されている当該小領域Eの撮像に適した位置(撮像好適位置)に位置決めする。そして、当該小領域Eを撮像する。この後、同様な動作により、インクジェットプリントヘッド1に対する検査用カメラの相対位置を、次の撮像対象の小領域Eに対する撮像好適位置に位置決めする。そして、当該小領域Eを撮像する。このような動作を繰り返すことにより、全ての小領域Eを撮像する。
【0057】
このように、この実施形態では、小領域毎に設けられたアライメントマーク81を利用して、インクジェットプリントヘッド1に対する検査用カメラの相対位置を撮像好適位置に位置決めしている。これにより、この実施形態では、小領域毎に、検査用カメラの撮像領域がその小領域の全域を含むように、インクジェットプリントヘッド1に対する検査用カメラの相対位置を位置決めすることができるようになる。
【0058】
アライメントマーク81は、保護基板4の表面に形成された凹部によって構成されている。アライメントマーク81は、たとえば、保護基板4の表面に熱酸化膜を形成し、この熱酸化膜に凹部を形成することによって形成されてもよい。具体的には、保護基板4の表面に熱酸化膜を形成した後、熱酸化膜上に各アライメントマークに対応した開口を有するレジストマスクが配置される。そして、このレジストマスクをマスクとして、熱酸化膜がエッチングされることにより、所定パターンのアライメントマーク81が形成される。
【0059】
図11A〜
図11Mは、前記インクジェットプリントヘッド1の製造工程の一例を示す断面図であり、
図5に対応する切断面を示す。
まず、
図11Aに示すように、アクチュエータ基板2の表面2aに可動膜形成層10が形成される。ただし、アクチュエータ基板2としては、最終的なアクチュエータ基板2の厚さより厚いものが用いられる。具体的には、アクチュエータ基板2の表面に酸化シリコン膜(たとえば、1.2μm厚)が形成される。可動膜形成層10が、シリコン膜と酸化シリコン膜と窒化シリコン膜との積層膜で構成される場合には、アクチュエータ基板2の表面にシリコン膜(たとえば0.4μm厚)が形成され、シリコン膜上に酸化シリコン膜(たとえば0.4μm厚)が形成され、酸化シリコン膜上に窒化シリコン膜(たとえば0.4μm厚)が形成される。
【0060】
可動膜形成層10の表面には、たとえば、Al
2O
3、MgO、ZrO
2などの下地酸化膜が形成されてもよい。これらの下地酸化膜は、後に形成される圧電体膜12からの金属原子の抜け出しを防ぐ。金属電子が抜け出すと、圧電体膜12の圧電特性が悪くなるおそれがある。また、抜け出した金属原子が可動膜10Aを構成するシリコン層に混入すると可動膜10Aの耐久性が悪化するおそれがある。
【0061】
次に、
図11Bに示すように、可動膜形成層10の上(前記下地酸化膜が形成されている場合には当該下地酸化膜の上)に、下部電極11の材料層である下部電極膜71が形成される。下部電極膜71は、たとえば、Ti膜(たとえば10nm〜40nm厚)を下層としPt膜(たとえば10nm〜400nm厚)を上層とするPt/Ti積層膜からなる。このような下部電極膜71は、スパッタ法で形成されてもよい。
【0062】
次に、圧電体膜12の材料膜(圧電体材料膜)72が下部電極膜71上の全面に形成される。具体的には、たとえば、ゾルゲル法によって1μm〜3μm厚の圧電体材料膜72が形成される。このような圧電体材料膜72は、金属酸化物結晶粒の焼結体からなる。
次に、圧電体材料膜72の全面に上部電極13の材料である上部電極膜73が形成される。上部電極膜73は、たとえば、白金(Pt)の単膜であってもよい。上部電極膜73は、たとえば、IrO
2膜(たとえば40nm〜160nm厚)を下層とし、Ir膜(たとえば40nm〜160nm厚)を上層とするIr0
2/Ir積層膜であってもよい。このような上部電極膜73は、スパッタ法で形成されてもよい。
【0063】
次に、
図11Cおよび
図11Dに示すように、上部電極膜73、圧電体材料膜72および下部電極膜71のパターニングが行われる。まず、フォトリソグラフィによって、上部電極13のパターンのレジストマスクが形成される。そして、
図11Cに示すように、このレジストマスクをマスクとして、上部電極膜73および圧電体材料膜72が連続してエッチングされることにより、所定パターンの上部電極13および圧電体膜12が形成される。
【0064】
次に、レジストマスクが剥離された後、フォトリソグラフィによって、下部電極11のパターンのレジストマスクが形成される。そして、
図11Dに示すように、このレジストマスクをマスクとして、下部電極膜71がエッチングされることにより、所定パターンの下部電極11が形成される。これにより、主電極部11Aと、貫通孔23を有する延長部11Bとからなる下部電極11が形成される。このようにして、下部電極11の主電極部11A、圧電体膜12および上部電極13からなる圧電素子9が形成される。
【0065】
次に、
図11Eに示すように、レジストマスクが剥離された後、全面を覆う水素バリア膜14が形成される。水素バリア膜14は、スパッタ法で形成されたAl
2O
3膜であってもよく、その膜厚は、50nm〜100nmであってもよい。この後、水素バリア膜14上の全面に絶縁膜15が形成される。絶縁膜15は、SiO
2膜であってもよく、その膜厚は、200nm〜300nmであってもよい。続いて、絶縁膜15および水素バリア膜14が連続してエッチングされることにより、上部電極用コンタクト孔33および下部電極用コンタクト孔が形成される。
【0066】
次に、
図11Fに示すように、上部電極用コンタクト孔33内および下部電極用コンタクト孔内を含む絶縁膜15上に、スパッタ法によって、上部配線17および下部配線を構成する配線膜が形成される。この後、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、配線膜がパターニングされることにより、上部配線17および下部配線が同時に形成される。
次に、
図11Gに示すように、絶縁膜15の表面に上部配線17および下部配線を覆うパッシベーション膜21が形成される。パッシベーション膜21は、例えば、SiNからなる。パッシベーション膜21は、例えば、プラズマCVDによって形成される。
【0067】
次に、フォトリソグラフィによって上部電極用パッド開口35および下部電極用パッド開口に対応した開口を有するレジストマスクが形成され、このレジストマスクをマスクとして、パッシベーション膜21がエッチングされる。これにより、
図11Hに示すように、パッシベーション膜21に上部電極用パッド開口35および下部電極用パッド開口が形成される。レジストマスクが剥離された後に、パッシベーション膜21上に上部電極用パッド開口35および下部電極用パッド開口を介して、それぞれ上部配線17および下部配線に接続される上部電極用パッド42および下部電極用パッドが形成される。
【0068】
次に、フォトリソグラフィによって開口37およびインク供給用貫通孔22に対応した開口を有するレジストマスクが形成され、このレジストマスクをマスクとして、パッシベーション膜21および絶縁膜15が連続してエッチングされる。これにより、
図11Iに示すように、パッシベーション膜21および絶縁膜15に、開口37およびインク供給用貫通孔22が形成される。
【0069】
次に、レジストマスクが剥離される。そして、フォトリソグラフィによってインク供給用貫通孔22に対応した開口を有するレジストマスクが形成され、このレジストマスクをマスクとして、水素バリア膜14および可動膜形成層10がエッチングされる。これにより、
図11Jに示すように、水素バリア膜14および可動膜形成層10に、インク供給用貫通孔22が形成される。
【0070】
次に、
図11Kに示すように、保護基板4の対向面51に接着剤50が塗布され、インク供給路53とインク供給用貫通孔22とが一致するように、アクチュエータ基板2に保護基板4が固定される。
次に、
図11Lに示すように、アクチュエータ基板2を薄くするための裏面研削が行われる。アクチュエータ基板2が裏面2bから研磨されることにより、アクチュエータ基板2が薄膜化される。たとえば、初期状態で670μm厚程度のアクチュエータ基板2が、300μm厚程度に薄型化されてもよい。次に、アクチュエータ基板2に対して、アクチュエータ基板2の裏面からエッチング(ドライエッチングまたはウェットエッチング)を行うことによって、インク流路5(インク流入部6および圧力室7)が形成される。
【0071】
このエッチングの際、可動膜形成層10の表面に形成される下地酸化膜は、圧電体膜12から金属元素(PZTの場合は、Pb,Zr,Ti)が抜け出すことを防止し、圧電体膜12の圧電特性を良好に保つ。また、前述のとおり、可動膜形成層10の表面に形成される下地酸化膜は、可動膜10Aを形成するシリコン層の耐久性の維持に寄与する。
この後、
図11Mに示すように、ノズル基板3がアクチュエータ基板2の裏面に張り合わされることにより、インクジェットプリントヘッド1が得られる。
【0072】
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明はさらに他の実施形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、全ての小領域Eにおいて、いずれかのインク供給路53の一部が存在しているが、複数の小領域Eのなかに、インク供給路53の一部が存在していない小領域Eが含まれていてもよい。
また、前述の実施形態では、インク供給路53の一部が存在している小領域Eにおいては、インク供給路53を挟む両側の領域それぞれにアライメントマーク91が形成されている。しかし、インク供給路53の一部が存在している小領域Eであっても、インク供給路53を挟む両側の領域それぞれにアライメントマーク91が形成されていなくてもよい。
【0073】
また、前述の実施形態では、各小領域Eに2個ずつアライメントマーク91が形成されているが、各小領域Eに1個ずつアライメントマーク91が形成されていてもよいし、各小領域Eに3個以上ずつアライメントマーク91が形成されていてもよい。
また、前述の実施形態では、水素バリア膜14の表面の一部に絶縁膜15が形成されているが、水素バリア膜14の表面の全域に絶縁膜15が形成されていてもよい。
【0074】
また、前述の実施形態では、水素バリア膜14表面の一部に絶縁膜15が形成されているが、絶縁膜15はなくてもよい。
また、前述の実施形態では、圧電体膜の材料としてPZTを例示したが、そのほかにも、チタン酸鉛(PbPO
3)、ニオブ酸カリウム(KNbO
3)、ニオブ酸ノチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)などに代表される金属酸化物からなる圧電材料が適用されてもよい。
【0075】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。