【実施例】
【0031】
以下,本発明を実施例及び比較例に基づき,さらに具体的に説明するが,本発明はこれらの実施例等により制限されるものではない。
〔実施例1〕
[1]引抜用潤滑剤の調製
基油としてポリブテン(動粘度:2100mm
2/s)80.85重量%と,油性剤として,オレイン酸6.9重量%及び菜種油12重量%と,分岐オレフィンポリマーとしてポリイソブチレン(平均分子量160万)0.15重量%と,非鉄防食剤としてベンゾトリアゾール0.1重量%とを混合して,試料を調製した。
なお,実施例及び比較例において,基油,油性剤,分岐オレフィンポリマー,及び非鉄防食剤の合計を100重量%とする。
【0032】
[2]引抜用潤滑剤の評価
(1)糸引き性
25℃下,得られた試料を10mL入れた50mLビーカーに,直径φ4.0mmの円柱棒を浸漬させ,0.5m/minの速度で円柱棒を液面から垂直方向に引き上げ,形成された液柱の破断地点における液柱の伸び量(cm)を測定した。
結果を表3に示す。
【0033】
(2)潤滑性(滑り距離)
表1に示す滑り距離試験により,試料の潤滑性を評価した。
図1に示すように,アルミニウム試験板上に試料を0.5mL滴下し,鋼球を一定荷重(負荷荷重W)で押し付け,試料を一定の滑り速度で滑らせた。鋼球に働く摩擦力Pをストレインゲージにより検出し,μ=P/Wの式により摩擦係数μを算出した。
油膜切れが起きることで摩擦係数の上昇が認められることから,摩擦係数が急上昇した距離を滑り距離(mm)として測定した。
結果を表3に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
(3)引抜力及び表面性状(焼付き)
表2に示す線材の引抜き試験により,引抜力及び表面性状(焼付き)を評価した。
アルミニウム線材を試料に浸漬した後,超硬ダイスの中を速度0.5 m/minで引抜き,引抜き力(kg)をロードセルで検知した荷重の最大値で評価した。
得られた材料について焼付きの発生を目視で観察した。焼付きが発生した場合を「有」,焼付きが発生せず,線材表面が良好であった場合を「無」とした。
その結果,引抜き力においては,実施例では119〜146kg,比較例では121〜155kgであり,実施例の優位性は認められなかった。しかしながら,引抜き加工後の材料表面において,実施例は焼きつきが認められないのに対して,比較例には焼きつきが認められた。
結果を表3に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
(4)作業性
試料を線材に塗布する際の取り扱い易さについて,500mLビーカーに試料を200mL加え,攪拌時に試料が流動性を示す場合を「良」とし,流動性を示さない,あるいは固化傾向にある場合を「悪」とした。
結果を表3に示す。
【0038】
〔実施例2〕
基油としてポリブテン(動粘度:9000mm
2/s)80.9重量%と,油性剤として,オレイン酸18.9重量%と,分岐オレフィンポリマーとしてポリイソブチレン(平均分子量160万)0.1重量%と,非鉄防食剤としてベンゾトリアゾール0.1重量%とを混合して,試料を調製した。
得られた試料を実施例1と同様の方法で評価した。
結果を表3に示す。
【0039】
〔実施例3〕
基油として,ポリブテン(動粘度:24000mm
2/s)50.93重量%及びポリブテン(動粘度:9000mm
2/s)30重量%と,油性剤として,オレイン酸18.9重量%と,分岐オレフィンポリマーとしてポリイソブチレン(平均分子量160万)0.07重量%と,非鉄防食剤としてベンゾトリアゾール0.1重量%とを混合して,試料を調製した。
得られた試料を実施例1と同様の方法で評価した。
結果を表3に示す。
【0040】
〔実施例4〕
基油としてポリブテン(動粘度:24000mm
2/s)80.95重量%と,油性剤として,オレイン酸6.9重量%及び菜種油12重量%と,分岐オレフィンポリマーとしてポリイソブチレン(平均分子量160万)0.05重量%と,非鉄防食剤としてベンゾトリアゾール0.1重量%とを混合して,試料を調製した。
得られた試料を実施例1と同様の方法で評価した。
結果を表3に示す。
【0041】
〔実施例5〕
基油として,ポリブテン(動粘度:24000mm
2/s)60.98重量%及びポリブテン(動粘度:170000mm
2/s)20重量%と,油性剤として,オレイン酸18.9重量%と,分岐オレフィンポリマーとしてポリイソブチレン(平均分子量300万)0.02重量%と,非鉄防食剤としてベンゾトリアゾール0.1重量%とを混合して,試料を調製した。
得られた試料を実施例1と同様の方法で評価した。
結果を表3に示す。
【0042】
〔実施例6〕
基油として,ポリブテン(動粘度:24000mm
2/s)60.9999重量%及びポリブテン(動粘度:170000mm
2/s)20重量%と,油性剤として,オレイン酸18.9重量%と,分岐オレフィンポリマーとしてポリイソブチレン(平均分子量300万)0.0001重量%と,非鉄防食剤としてベンゾトリアゾール0.1重量%とを混合して,試料を調製した。
得られた試料を実施例1と同様の方法で評価した。
結果を表3に示す。
【0043】
〔実施例7〕
基油として,鉱油(動粘度:480mm
2/s)77重量%と,分岐オレフィンポリマーとしてポリイソブチレン(平均分子量6万)23重量%とを混合して,試料を調製した。
実施例1と同様にして,得られた試料を評価した。
結果を表3に示す。
【0044】
〔実施例8〕
基油として,ポリブテン(動粘度:24000mm
2/s)80.97重量%と,油性剤として,オレイン酸6.9重量%及び菜種油12重量%と,分岐オレフィンポリマーとしてポリイソプレン(平均分子量50万)0.03重量%と,非鉄防食剤としてベンゾトリアゾール0.1重量%とを混合して,試料を調製した。得られた試料を実施例1と同様の方法で評価した。
結果を表3に示す。
【0045】
〔実施例9〕
基油としてポリブテン(動粘度:24000mm
2/s)80.93重量%と,油性剤として,オレイン酸6.9重量%及びC14−15分岐・直鎖アルコール混合物12重量%と,分岐オレフィンポリマーとしてポリイソブチレン(平均分子量160万)0.07重量%と,非鉄防食剤としてベンゾトリアゾール0.1重量%とを混合して,試料を調製した。
得られた試料を実施例1と同様の方法で評価した。
結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
〔比較例1〕
実施例4において,分岐オレフィンポリマーを使用しなかったこと以外は,実施例4と同様にして,試料を調製した。
得られた試料を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表4に示す。
比較例1の試料は糸引き性が劣っていた。また,滑り距離も短く,焼付きの発生がみられた。
【0048】
〔比較例2〕
実施例1において,分岐オレフィンポリマーを使用しなかったこと以外は,実施例1と同様にして,試料を調製した。
得られた試料を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表4に示す。
比較例2の試料は糸引き性に劣っていた。また,滑り距離も短く,焼付きの発生がみられた。
【0049】
〔比較例3〕
基油としてポリブテン(動粘度:9000mm
2/s)75重量%と,油性剤としてダイマー酸25重量%とを混合して,試料を調製した。なお,この試料は,特許文献1の引抜き加工用潤滑油の一形態に該当する。
得られた試料を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表4に示す。
比較例3の試料は糸引き性に劣っていた。また,滑り距離も短く,焼付きの発生がみられた。
【0050】
〔比較例4〕
基油として,鉱油(動粘度480mm
2/s)9重量%及びポリブテン(動粘度:24000mm
2/s)70重量%と,油性剤として,オレイン酸10重量%及びステアリン酸ブチルエステル10重量%と,潤滑添加剤として,カルナバ蝋1重量%とを混合して,試料を調製した。なお,この試料は,特許第4783026号公報のアルミニウム管抽伸潤滑油の一形態に該当する。
得られた試料を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表4に示す。
比較例4の試料は糸引き性に劣っていた。また,滑り距離も短く,焼付きの発生がみられた。
【0051】
〔比較例5〕
基油として,ポリブテン(動粘度:2100mm
2/s)63重量%と,油性剤として,C14〜C15の分岐アルコール混合物25重量%と,分岐オレフィンポリマーとしてポリイソブチレン(平均分子量6万)12重量%とを混合して,試料を調製した。なお,この試料は,特許第4970777号公報の鋼管加工用潤滑油に近い形態である。
得られた試料を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表4に示す。
比較例5の試料は糸引き性に劣っていた。また,滑り距離も短く,焼付きの発生がみられた。
【0052】
〔比較例6〕
基油成分として,ジエチレングリコールジエチルエーテル19重量%及びポリブテン(動粘度:9000mm
2/s)80重量%と,油性剤として,カプリル酸1重量%とを混合して,試料を調製した。なお,この試料は,特開平11−209781号公報の抽伸加工用潤滑油に近い形態である。
得られた試料を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表4に示す。
比較例6の試料は糸引き性に劣っていた。また,滑り距離も短く,焼付きの発生がみられた。
【0053】
〔比較例7〕
潤滑添加剤である,2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛70重量%と脂肪酸の亜鉛塩30重量%とを混合して,試料を調製した。なお,この試料は,特許第4560174号公報の塑性加工用潤滑油組成物の一形態に該当する。
得られた試料を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表4に示す。
比較例7の試料は糸引き性に劣っていた。また,滑り距離も短く,焼付きの発生がみられた。
【0054】
〔比較例8〕
比較例4において,基油として,ポリブテン(動粘度:24000mm
2/s)の代わりに,ポリブテン(動粘度:170000mm
2/s)を使用したこと以外は,比較例4と同様にして,試料を調製した。
得られた試料を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表4に示す。
比較例4と比べて比較例8では,高い動粘度を有するポリブテンを使用したため,得られた試料も高い動粘度を有するが,糸引き性に差がなかった。この結果から,単に潤滑剤の動粘度を上げるだけでは,糸引き性が得られないことがわかる。
【0055】
〔比較例9〕
実施例5において,分岐オレフィンポリマーであるポリイソブチレン(平均分子量300万)の量を0.02重量%から0.03重量%に変更したこと以外は,実施例5と同様にして,試料を調製した。
得られた試料を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表4に示す。
実施例5に比べて,分岐オレフィンポリマーの含有量が多い比較例9では,滑り距離も充分に長く,焼付きもみられなかったが,糸引き性が45cmとなった。しかし,試料がゼリー状に固化する傾向があり,液流動性低下が認められた。なお,液流動性が低下すると,引抜用潤滑剤の洗浄性が困難となり,作業性が低下する。
【0056】
【表4】
【0057】
表3及び4に記載の材料について以下に示す。
鉱油;鉱物油(動粘度480mm
2/s)
ポリブテンA;ポリブテン(動粘度24,000mm
2/s)
ポリブテンB;ポリブテン(動粘度9,000mm
2/s)
ポリブテンC;ポリブテン(動粘度2,100mm
2/s)
ポリブテンD;ポリブテン(動粘度170,000mm
2/s)
油性剤A;オレイン酸
油性剤B;菜種油
油性剤C;C14−15分岐・直鎖アルコール 混合物
非鉄防食剤;ベンゾトリアゾール
分岐オレフィンポリマーA:ポリイソブチレン(平均分子量160万)
分岐オレフィンポリマーB;ポリイソブチレン(平均分子量6万)
分岐オレフィンポリマーC;ポリイソブチレン(平均分子量300万)
分岐オレフィンポリマーD;ポリイソプレン(平均分子量50万)
溶剤A;ジエチレングリコールジエチルエーテル
油性剤D;ダイマー酸
油性剤E;ステアリン酸ブチルエステル
油性剤F;C14−15分岐アルコール混合物
油性剤G;カプリル酸
潤滑添加剤A;カルナバ蝋
潤滑添加剤B;2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛
潤滑添加剤C;脂肪酸の亜鉛塩