【実施例】
【0059】
定量PCRによる接合型割合の評価に基づき、種麹を混合して製麹を行った。実施例1、及び実施例5は、従来使用している混合種麹(本発明の第1混合種麹)であり、これに換えて使用するのに好適な混合種麹(本発明の第2混合種麹)を検討した。
【0060】
[実施例1]
種麹供給メーカーから購入した種麹C及びDを1:1の割合で混合した混合種麹を、精米歩合約70%の米1(食用米、日本国産)を蒸米したもの100kgに対して麹菌胞子重量比が1/20000程度となるように種付けし、約44時間、自動製麹装置により製麹を行った。製麹工程は、30〜35℃前後から徐々に温度をあげ、38〜42℃程度まで上昇させた。当該工程は、酒造蔵1(京都市伏見区下鳥羽小柳町)にて行った。
【0061】
[実施例2]
種麹供給メーカーから購入した種麹C及びDを1:1の割合で混合した混合種麹を、精米歩合約70%の米2(食用米、日本国産)を蒸米したもの100kgに対して麹菌胞子重量比が1/20000程度となるように種付けし、実施例1と同じ条件で製麹を行った。
【0062】
[実施例3]
種麹供給メーカーから購入した種麹B及びCを1:1の割合で混合した混合種麹を、精米歩合約70%の米1(食用米、日本国産)を蒸米したもの100kgに対して麹菌胞子重量比が1/20000程度となるように種付けし、実施例1と同じ条件で製麹を行った。
【0063】
[実施例4]
種麹供給メーカーから購入した種麹B及びCを1:1の割合で混合した混合種麹を、精米歩合約70%の米2(食用米、日本国産)を蒸米したもの100kgに対して麹菌胞子重量比が1/20000程度となるように種付けし、実施例1と同じ条件で製麹を行った。
【0064】
[実施例5]
種麹供給メーカーから購入した種麹F、I及びJを1:1:1の割合で混合した混合種麹を、精米歩合約70%の米1(食用米、日本国産)を蒸米したもの100kgに対して麹菌胞子重量比が1/20000程度となるように種付けし、約44時間、自動製麹装置により製麹を行った。製麹工程は、30〜35℃前後から徐々に温度をあげ、38〜42℃程度まで上昇させた。当該工程は、酒造蔵2(京都市伏見区下鳥羽小柳町)にて行った。
【0065】
[実施例6]
種麹供給メーカーから購入した種麹E、H及びJを1:1:1の割合で混合した混合種麹を、精米歩合約70%の米3(食用米、日本国産)を蒸米したもの100kgに対して麹菌胞子重量比が1/20000程度となるように種付けし、実施例5と同じ条件で製麹を行った。
【0066】
[比較例1]
種麹供給メーカーから購入した種麹Bを、精米歩合約70%の米1(食用米、日本国産)を蒸米したもの100kgに対して麹菌胞子重量比が1/20000程度となるように種付けし、実施例1と同じ条件で製麹を行った。
【0067】
[比較例2]
種麹供給メーカーから購入した種麹Cを、精米歩合約70%の米1(食用米、日本国産)を蒸米したもの100kgに対して麹菌胞子重量比が1/20000程度となるように種付けし、実施例1と同じ条件で製麹を行った。
【0068】
[比較例3]
種麹供給メーカーから購入した種麹Dを、精米歩合約70%の米1(食用米、日本国産)を蒸米したもの100kgに対して麹菌胞子重量比が1/20000程度となるように種付けし、実施例1と同じ条件で製麹を行った。
【0069】
[比較例4]
種麹供給メーカーから購入した種麹Dを、精米歩合約70%の米2(食用米、日本国産)を蒸米したもの100kgに対して麹菌胞子重量比が1/20000程度となるように種付けし、実施例1と同じ条件で製麹を行った。
【0070】
[比較例5]
種麹供給メーカーから購入した種麹B及びDを1:1の割合で混合した混合種麹を、精米歩合約70%の米1(食用米、日本国産)を蒸米したもの100kgに対して麹菌胞子重量比が1/20000程度となるように種付けし、実施例1と同じ条件で製麹を行った。
【0071】
[比較例6]
種麹供給メーカーから購入した種麹B及びDを1:1の割合で混合した混合種麹を、精米歩合約70%の米2(食用米、日本国産)を蒸米したもの100kgに対して麹菌胞子重量比が1/20000程度となるように種付けし、実施例1と同じ条件で製麹を行った。
【0072】
[比較例7]
種麹供給メーカーから購入した種麹F及びIを1:1の割合で混合した混合種麹を、精米歩合約70%の米1(食用米、日本国産)を蒸米したもの100kgに対して麹菌胞子重量比が1/20000程度となるように種付けし、実施例5と同じ条件で製麹を行った。
【0073】
[比較例8]
種麹供給メーカーから購入した種麹E及びHを1:1の割合で混合した混合種麹を、精米歩合約70%の米1(食用米、日本国産)を蒸米したもの100kgに対して麹菌胞子重量比が1/20000程度となるように種付けし、実施例5と同じ条件で製麹を行った。
【0074】
<種麹のMAT比>
実施例1及び2における混合種麹の胞子割合(M
1:M
2)は、91:9(MAT比0.10)であった。実施例3及び4における混合種麹の胞子割合は、82:18(MAT比0.22)であり、第1混合種麹(実施例1)のMAT比との差は0.12であった。比較例5及び6における混合種麹の胞子割合は、72:28(MAT比0.39)であり、第1混合種麹(実施例1)のMAT比との差は0.29であった。
【0075】
実施例5における混合種麹の胞子割合は、22:78(MAT比3.55)であった。実施例6における混合種麹の胞子割合は、22:78(MAT比3.55)であり、第1混合種麹(実施例5)におけるMAT比との差は0であった。比較例7における混合種麹の胞子割合は、33:67(MAT比2.03)であり、第1混合種麹(実施例5)におけるMAT比との差は1.52であった。比較例8における混合種麹の胞子割合は、33:67(MAT比2.03)であり、第1混合種麹(実施例5)におけるMAT比との差は1.52であった。
【0076】
<米麹の菌体割合>
実施例1における製麹時(種付けから40時間後)の米麹の菌体割合(MAT1−1遺伝子を有する菌体と、MAT1−2遺伝子を有する菌体との含有比)は、64:36であった。実施例3における製麹時(種付けから40時間後)の米麹の菌体割合は、73:27であった。実施例5における製麹時の米麹の菌体割合は、6:94であった。実施例6における製麹時の米麹の菌体割合は、4:96であった。
【0077】
<米麹の糖化力及び状態の確認>
実施例1〜6、及び比較例1〜6で製麹された米麹の糖化力の測定は、糖化力測定キット(キッコーマンバイオケミファ株式会社製)を用いて行った。
実施例1(種麹C及びD、米1使用)では、301U/g麹であった。
実施例2(種麹C及びD、米2使用)では、288U/g麹であった。
実施例3(種麹B及びC、米1使用)では、295U/g麹であった。
実施例4(種麹B及びC、米2使用)では、280U/g麹であった。
実施例5(種麹F、I及びJ、米1使用)では、192U/g麹であった。
実施例6(種麹E、H及びJ、米3使用)では、200U/g麹であった。
比較例1(種麹B、米1使用)では、296U/g麹であった。
比較例2(種麹C、米1使用)では、296U/g麹であった。
比較例3(種麹D、米1使用)では、302U/g麹であった。
比較例4(種麹D、米2使用)では、269U/g麹であった。
比較例5(種麹B及びD、米1使用)では、286U/g麹であった。
比較例6(種麹B及びD、米2使用)では、267U/g麹であった。
また、全ての実施例で、「はぜ落ち」及び「バカ破精」していないことを、目視及び指で押しつぶして確認した。
【0078】
実施例1においては、種麹C及びDの混合種麹を使用したものであるが、比較例2の種麹Cのみを使用した場合と、比較例3の種麹Dのみを使用した場合と比べて、米麹の糖化力にほとんど差が見られなかった。実施例3は、種麹B及びCの混合種麹を使用したものであるが、比較例1の種麹Bのみを使用した場合と、比較例2の種麹Cのみを使用した場合と比べて、米麹の糖化力にほとんど差が見られなかった。このことから、種麹C及びDの混合種麹、種麹B及びCの混合種麹は、市販の種麹B、C、又はD単独よりも製麹が同等又は良好となることが明らかとなった。
【0079】
一方、比較例5は、種麹B及びDの混合種麹を使用したものであるが、比較例1の種麹Bのみを使用した場合と、比較例3の種麹Dのみを使用した場合と比べて、米麹の糖化力が低下していた。このことから、種麹B及びDの混合種麹は、市販の種麹B、又はD単独よりも製麹が不良となることが明らかとなった。
【0080】
酒造に使用する米を変えて、製麹した米麹について、夫々の糖化力を測定したところ、実施例1(米1を使用)では301U/g麹であり、実施例2(米2を使用)では288U/g麹であり、種麹C及びDを混合して種付けした場合、米麹の糖化力は、使用する米を変えても安定していた。また同様に、実施例3(米1を使用)では295U/g麹であり、実施例4(米2を使用)では280U/g麹であり、種麹B及びCを混合して種付けした場合、米麹の糖化力は、使用する米を変えても安定していた。
【0081】
一方、比較例3(米1を使用)では302U/g麹、比較例4(米2を使用)では269U/g麹であり、種麹Dのみ使用した場合、酒造に使用する米を米1から米2に変えると、糖化力が低下した。また、比較例5(米1を使用)では286U/g麹、比較例6(米2を使用)では267U/g麹であり、種麹B及びDを混合して種付けした場合、酒造に使用する米を米1から米2に変えると、糖化力が低下した。
【0082】
<米麹の安定製造性及び清酒適性>
実施例1及び3の米麹は、いずれも異なる2種の種麹を混合したものを使用している。実施例1における混合種麹の胞子割合(M
1:M
2)は91:9(MAT比0.10)であり、実施例3における混合種麹の胞子割合は、82:18(MAT比0.22)で、MAT比の差は0.12である。また、糖化力は、実施例1においては、301U/g麹であり、実施例3においては、295U/g麹であり、ほとんど差が見られなかった。さらに、実施例3において、麹の安定製造性、及び清酒適性が優れており、実施例1の混合種麹のMAT比との差が±0.15の範囲内とすることにより、第1混合種麹(実施例1)で製麹した米麹を用いる醸造工程と原料、温度等を変更することなく、第2混合種麹(実施例3)で製麹した米麹を用いて清酒官能評価が類似した清酒を醸造することができることが明らかとなった。一方、実施例1の混合種麹のMAT比と大きく数値が異なる比較例5及び6については、醸造工程における温度を変化させる必要があり、麹の安定製造性、官能試験、及び清酒適性は不良であった(データ示さず)。
【0083】
実施例5及び6は、いずれも異なる3種の種麹を混合したものを使用しており、胞子割合(M
1:M
2)は22:78(MAT比3.55)で同じある。また、糖化力は、実施例5においては、192U/g麹であり、実施例6においては、200U/g麹であり、ほとんど差が見られなかった。さらに、実施例6において、麹の安定製造性、及び清酒適性が優れており、実施例5の混合種麹と同じMAT比とすることにより、第1混合種麹(実施例5)で製麹した米麹を用いる醸造工程と原料、温度等を変更することなく、第2混合種麹(実施例6)で製麹した米麹を用いて清酒官能評価が類似した清酒を醸造することができることが明らかとなった。一方、実施例5の混合種麹のMAT比と大きく数値が異なる比較例7及び8については、醸造工程における温度を変化させる必要があり、麹の安定製造性、官能試験、及び清酒適性は不良であった(データ示さず)。
【0084】
第1混合種麹におけるMAT比を指標として、代替種麹の組み合わせを容易に見つけることができる。そのため、製麹時や清酒醸造までの試験が必要でなくなることが明らかとなった。