(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979342
(24)【登録日】2021年11月17日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】ソフトカプセル製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/375 20060101AFI20211202BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20211202BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20211202BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20211202BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
A61K31/375
A61K47/42
A61K9/48
A61P3/02
A61P43/00 121
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-228341(P2017-228341)
(22)【出願日】2017年11月28日
(65)【公開番号】特開2019-99462(P2019-99462A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2020年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 幸子
【審査官】
新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−091963(JP,A)
【文献】
特開2002−159566(JP,A)
【文献】
特開平10−101550(JP,A)
【文献】
特開2011−079786(JP,A)
【文献】
特開昭64−068319(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0342923(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0141082(US,A1)
【文献】
特開2019−112379(JP,A)
【文献】
MINTEL GNPD ID No.1570570,検索日:2019年12月4日,2011年06月,http://www.gnpd.com
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 47/00−47/69
A61K 9/00− 9/72
A61P 3/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチンを主成分とするカプセル皮膜に、ビタミンCとアンペロプシンを内包するソフ
トカプセル製剤。
【請求項2】
アンペロプシンが藤茶抽出物由来であることを特徴とする請求項1に記載のソフトカプ
セル製剤。
【請求項3】
ビタミンCを内包するゼラチンを主成分とするソフトカプセル製剤における、アンペロプシンを有効成分とするゼラチンを主成分とするソフトカプセル皮膜の崩壊遅延抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、崩壊遅延を抑制したソフトカプセル製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ソフトカプセルの皮膜基剤としてゼラチンやカラギーナン由来の植物多糖類などが一般に用いられている。
ゼラチンは、温度変化により可逆的にゾル・ゲル変化すること、皮膜形成能に優れると共に形成された皮膜の機械的強度が高いこと、体内で崩壊又は溶解し易いこと、それ自体が栄養的価値を有し、体内に吸収され易いこと等、皮膜基剤としての利点を多く有しており、ソフトカプセルとして最も普及している。
しかし、ゼラチンソフトカプセルは、時間の経過と共に硬化して、崩壊性が低下する。また、カプセルの内包物にビタミンCやアントシアニンなどのポリフェノール化合物が含有されている場合には、カプセルの硬化がさらに促進される。その結果、胃における崩壊時間の遅延を引き起こし、極端な場合には胃でカプセルが崩壊しない場合もある。
【0003】
ゼラチンソフトカプセルの崩壊遅延を予防するために様々な技術が提案されている。
一般的には、ソフトカプセルを構成するゼラチン皮膜に種々の物質を添加するものである。例えば、クエン酸の添加(特許文献1)、ポリグルタミン酸の配合(特許文献2)、イノシトール6リン酸の配合(特許文献3)、低分子量ゼラチンの配合(特許文献4)、グリセリンと還元水飴の配合(特許文献5)などがある。
【0004】
またカプセルの皮膜ではなく、カプセルに内包される内容物に特定の物質を配合してソフトカプセルの崩壊遅延を抑制する方法が提案されている。この場合は、内包される物質のソフトカプセルの硬化作用を抑制するために配合される。
特許文献6には、中鎖脂肪酸トリグリセライドとジペプチド甘味料とメントールを配合してソフトカプセルの硬化を抑制することが記載されている。
特許文献7には、ポリフェノールを内包するソフトカプセルにおいて、さらに内容物に還元糖を配合することで、ソフトカプセルの硬化が抑制できることが記載されている。
特許文献8には、アントシアニン、プロアントシアニジン、プロシアニジンのいずれかを含む内包物にエクオールを添加することで、ソフトカプセルの硬化が抑制できることが記載されている。
特許文献9には、内包物がポリフェノール類を含有する場合、内容物にポリフェノール類とともに、界面活性剤としてレシチン、及び抗酸化剤としてビタミンEを配合することによりソフトカプセルの硬化を抑制できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−39834号公報
【特許文献2】特開2005−139152号公報
【特許文献3】特許第3790258号公報
【特許文献4】特開2011−136927号公報
【特許文献5】特開2017−100966号公報
【特許文献6】特開2015−193579号公報
【特許文献7】特開2010−90063号公報
【特許文献8】特開2016−69335号公報
【特許文献9】特開2011−79786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、ビタミンCを内容物の一成分として含有するソフトカプセル製剤の研究開発を行なっている。上記のような背景技術をもとに、ソフトカプセル製剤の研究を行なっていたが、ビタミンCを含む内容物によるゼラチンソフトカプセル皮膜の硬化の問題が解決できなかった。
本発明は、ビタミンCを含む内容物による、ゼラチンを主成分とするソフトカプセル皮膜の硬化を抑制し、崩壊遅延の抑制されたソフトカプセル製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の主な構成は以下の通りである。
(1)ゼラチンを主成分とするカプセル皮膜に、ビタミンCとアンペロプシンを内包するソフトカプセル製剤。
(2)アンペロプシンが藤茶抽出物由来であることを特徴とする(1)に記載のソフトカプセル製剤。
(3)アンペロプシンを有効成分とするゼラチンを主成分とするソフトカプセル皮膜の崩壊遅延抑制剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ビタミンCを内包成分に含有するソフトカプセル製剤であって、皮膜の崩壊時間の遅延が発生しにくい製剤が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の効果を評価する試験方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、内容物をソフトな皮膜で被覆してなるソフトカプセル製剤であって、ソフトカプセル皮膜部は、ゼラチンを含有しており、内容物成分として、少なくともビタミンCとアンペロプシンを含有することを特徴とするソフトカプセル製剤である。
【0011】
アンペロプシンは、藤茶と呼ばれる植物から抽出されるポリフェノール化合物である。藤茶は、ブドウ科蛇葡萄属の植物であり、中国名を顕歯蛇葡萄という。学名は、Ampelopsis grossedentataである。主には中国の広西、広東、雲南、貴州、湖南、湖北、江西、福建などの省並びに自治区に分布している。中国の広西、湖南などの省や自治区の壮族や瑶族の人々がこの茎および葉から作った飲料を常用しており、風邪、のどの痛みなどにも利用されている。アンペロプシンは、藤茶の示す肝臓疾患の治療作用や抗菌作用の活性本体として特定されている。
【0012】
アンペロプシンは、下記の式で表される。
【0014】
アンペロプシンは、例えば、藤茶(Ampelopsis grossedentata)、大叶蛇葡萄(Ampelopsis megalophylla)、広東蛇葡萄(Ampelopsis cantoniensis)、ケンポナシ(Hovenia dulcis)、オノエヤナギ(Salix sachalinensis)、ヨレハマツ(Pinus contorta)、Erythrophleum africanum及びカツラ(Cercidiphyllum japonicum)から選ばれる植物の抽出物から単離精製することができる。これらの中でも、藤茶が好ましい。
【0015】
具体的には、Ampelopsis属植物である藤茶(Ampelopsis grossedentata)から、下記のようにしてアンペロプシンを得ることができる。
すなわち、乾燥させた藤茶の枝葉部を含水エタノールで抽出した抽出物を濃縮し、例えば多孔性樹脂(DIAION HP−20)を用いたカラムクロマトグラフィーにかけ、80容量%含水メタノールで溶出される分画にアンペロプシンが得られる。これを逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィーや再結晶により、さらに精製することができる。精製されたアンペロプシンは、試薬としても販売されており、これを用いることもできる。
【0016】
藤茶からアンペロプシンを得るためには以下のような操作を行う。
乾燥した藤茶の葉又は茎の粉砕物又は粉末を抽出原料とし、水若しくは親水性有機溶媒又はこれらの混合溶媒に投入し、室温乃至溶媒の沸点以下の温度で任意の装置を用いて抽出することにより得ることができる。
【0017】
抽出に用いる有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコールなどが挙げられる。
また、これら親水性有機溶媒と水との混合溶媒などを用いることができる。なお、水と親水性有機溶媒との混合系溶媒を使用する場合には、低級アルコールの場合は水10質量部に対して30〜90質量部、低級脂肪族ケトンの場合は水10質量部に対して10〜40質量部、多価アルコールの場合は水10質量部に対して10〜90質量部添加することが好ましい。
【0018】
抽出溶媒を満たした処理槽に、藤茶の乾燥・粉砕物を投入し、必要に応じて時々撹拌しながら、30分〜2時間静置して可溶性成分を溶出した後、ろ過して固形物を除去し、この抽出液から抽出溶媒を留去し、乾燥することにより抽出物が得られる。抽出溶媒量は、抽出原料の通常5〜15倍量(質量比)であることが好ましく、抽出条件は、抽出溶媒として水を用いた場合には、通常50〜95℃で1〜4時間程度である。また、抽出溶媒として水とエタノールとの混合溶媒を用いる場合には、通常40〜80℃で30分〜4時間程度である。
【0019】
得られた抽出液から抽出溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られる。さらに乾燥すれば、固形の抽出物が得られる。本発明においては、アンペロプシンの含有量が10質量%以上、好ましくは20質量%以上であれば、上記抽出液又はその濃縮液の状態であっても良い。これらは、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂、液−液向流分配などの方法により精製してから用いても構わない。
したがって、上記の藤茶から抽出しアンペロプシンの濃度を高めた抽出物も本発明の組成物として使用可能である。
【0020】
組成物中のアンペロプシンの含有量は、HPLCなど公知の分析方法で分析することができる。定量方法の概略は次のとおりである。
・試料溶液の調製
試料(抽出物)約20mgを精秤し、蒸留水を加えて超音波処理して溶解し、正確に50mLとする。この溶液2mLを50mLに正確に希釈し、試料溶液とする。
・標準溶液の調製と検量線作成
標準品(Dihydromyricetin SIGMA−ALDRICH社製)2.00mgを精秤し、100%アセトニトリルを適量加えて超音波処理して溶解し、さらにアセトニトリルを加えて正確に25mLとし、アンペロプシン標準原液80μg/mLを調製する。この標準原液を蒸留水にて正確に5倍希釈して、16μg/mLアンペロプシン標準溶液を調製する。HPLCへの注入量を10、20、40μLとし、アンペロプシンのピークに基づいて検量線を作成する。
・HPLC測定条件
下記表1の条件に設定する。
【0022】
一般的にゼラチン含有ソフトカプセル内容物にポリフェノール類を含有する場合、内容物のポリフェノール類とソフトカプセル皮膜由来のゼラチンのアミノ基との反応により、カプセルの崩壊遅延が起きることが知られている。しかしアンペロプシンは他のポリフェノールと異なりビタミンCの崩壊遅延を抑制する。
このカプセル崩壊遅延発生のメカニズムは、明らかではない。
【0023】
本発明のソフトカプセル製剤の内容物としては、アンペロプシンとビタミンCを必須の構成成分とするが、これ以外の成分については、ゼラチンソフトカプセル皮膜の崩壊に悪影響を及ぼすものでなければどのような成分であっても配合可能である。
【0024】
ビタミンCが、ゼラチンソフトカプセルの崩壊遅延を引き起こすことは良く知られているが、ビタミンCとアンペロプシンがどのような相互作用でゼラチンソフトカプセル皮膜の崩壊遅延を抑制するかは判明していない。
ビタミンCによるゼラチンソフトカプセル皮膜の崩壊遅延を抑制するためには、ソフトカプセル内容物中のアンペロプシンの含有比率が重要である。ビタミンCを含む内容物当たり、アンペロプシンを0.01〜5質量%配合することが、ビタミンCによるゼラチンソフトカプセル皮膜の崩壊遅延を抑制するために好ましい。
【0025】
本発明におけるアンペロプシンは、精製したものであっても良いし、上記した藤茶から抽出されたものであっても良い。藤茶から抽出されたアンペロプシンは、アンペロプシンとして10質量%以上含有しているものであれば本発明に使用可能である。
【0026】
本発明におけるビタミンCとはL−アスコルビン酸と同義であり、L−アスコルビン酸の塩や誘導体にも適用可能である。
【実施例】
【0027】
以下に試験例及び参考試験例を示し、本発明を説明する。
<試験例>
1.試験方法
図1に試験方法の概略を示す。以下この図に沿って説明を行う。
1)ソフトカプセル皮膜の調製
水60gにグリセリン15gを混合したものに、ゼラチン35gを添加後、ゼラチンが膨潤するまで室温放置した。その後、ゼラチンが溶解するまで加温撹拌してゼラチン溶解液を得た。溶解液を脱泡後、φ90mmのシャーレに8g注ぎ、皮膜を形成させた。皮膜は水分値が約9%になるまで、室温で乾燥させた。
その後、シャーレからはがし、13mm×13mmの正方形に裁断したものをソフトカプセル皮膜として本試験に用いた。
【0028】
2)ソフトカプセル内容液の調製
ソフトカプセルの内容液として、中鎖脂肪酸トリグリセライド:ココナードMT(花王株式会社製)にミツロウを加え、加温溶解させ、この溶液を室温で放冷させた。ついで、この溶液に、アンペロプシン及びビタミンCを加え、ホモミキサーにて均一に混合した。これをソフトカプセル内容液とした。
なおアンペロプシンとして、市販の藤茶抽出物(アンペロプシン32質量%含有品:丸善製薬株式会社製)を用いた。
【0029】
3)ソフトカプセル皮膜の崩壊性試験
スクリュー瓶に内容液10gを採取し、これに裁断したゼラチンシートを入れ、密栓後50℃で1週間保存した。
その後、ゼラチンシートを取り出し、このゼラチンシートの崩壊性を崩壊試験器により確認した。なお崩壊性試験は試験液に37℃の水を用いて行い、ゼラチンシートが崩壊した時間を測定した。
表2に試験に用いたソフトカプセル内容液の組成を示した。
【0030】
2.結果
試験結果を下記の表2に示した。
【0031】
【表2】
【0032】
表2に示すように、試験例1、2が示す通り、アンペロプシンは、単独ではゼラチン皮膜の崩壊時間を延長する作用は小さいものの、崩壊時間を約3倍に遅延させた。しかしビタミンCによるゼラチンソフトカプセルの崩壊時間延長を顕著に抑制した。
【0033】
<参考試験例>
アンペロプシンの類似の構造を有するポリフェノールである緑茶カテキンを用いて試験を行った。
1.試験方法
試験例と同様にゼラチンソフトカプセル皮膜を用いて同様の条件で試験を行った。
ソフトカプセルの内容液として、中鎖脂肪酸トリグリセライド:ココナードMT(花王株式会社製)にミツロウを加え、加温溶解させ、この溶液を室温で放冷させた。ついで、この溶液に、緑茶カテキン及びビタミンCを加え、ホモミキサーにて均一に混合した。これをソフトカプセル内容液とした。
なお緑茶カテキンとして、市販の緑茶抽出物(サンフェノン30S−OP:太陽化学株式会社製、トータルポリフェノール30質量%以上含有、カテキン20質量%以上含有)を用いた。
【0034】
表3に試験に用いたソフトカプセル内容液の組成を示した。
【0035】
2.結果
試験結果を下記の表3に示した。
【0036】
【表3】
【0037】
ポリフェノール化合物を含む緑茶カテキンは、単独ではゼラチン皮膜の崩壊性を延長する作用は小さいものの、崩壊時間を約4倍に遅延させた。そして、参考試験例1の組成にカテキン0.2質量%を添加した内容物の場合、ソフトカプセル皮膜の崩壊時間は、ビタミンCのみによる崩壊時間を60分以上延長した(参考試験例3)。すなわち緑茶カテキンは、アスコルビン酸によるソフトカプセル皮膜の崩壊遅延を抑制する作用を有しないことが解った。
【0038】
試験例、参考試験例からアンペロプシンは、ポリフェノール化合物であるにも関わらず、ビタミンCによるソフトカプセル皮膜の崩壊延長を抑制する特異なポリフェノールであるということができる。