特許第6979356号(P6979356)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルケマ フランスの特許一覧

<>
  • 特許6979356-Li−S電池用活性電極材料 図000005
  • 特許6979356-Li−S電池用活性電極材料 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979356
(24)【登録日】2021年11月17日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】Li−S電池用活性電極材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20211202BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 A
【請求項の数】25
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-533420(P2017-533420)
(86)(22)【出願日】2015年12月21日
(65)【公表番号】特表2018-503945(P2018-503945A)
(43)【公表日】2018年2月8日
(86)【国際出願番号】FR2015053682
(87)【国際公開番号】WO2016102865
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2017年10月19日
【審判番号】不服2019-14945(P2019-14945/J1)
【審判請求日】2019年11月7日
(31)【優先権主張番号】1463052
(32)【優先日】2014年12月22日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】コルツヘンコ, アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサンドー, クリストフ
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 粟野 正明
【審判官】 村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−533862(JP,A)
【文献】 特開2013−137981(JP,A)
【文献】 特開2014−143038(JP,A)
【文献】 特開2007−234338(JP,A)
【文献】 特開2006−93066(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/155038(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/178930(WO,A1)
【文献】 特表2013−539193(JP,A)
【文献】 特開2014−231445(JP,A)
【文献】 特開2013−80603(JP,A)
【文献】 W.Zheng et al.,Novel nanosized adsorbing sulfur composite cathode materials for the advanced secondary lithium batteries,Electrochimica Acta,2005年8月2日,Vol.51,p.1330−1335
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極の製造のための活物質であって:
−硫黄系材料;
−硫黄系材料の本体に均一に分散されている1から25重量%の炭素系ナノフィラー
を含む電極活物質であって、
150μm未満の平均サイズ、10から60μmのメジアン径d50、及び100μm未満のメジアン径d90を呈する粒子を含む粉末の形態であることを特徴とする、活物質
【請求項2】
−硫黄系材料;
−硫黄系材料の本体に均一に分散されている1から25重量%の炭素系ナノフィラー
を含み、40%未満の空隙率を呈することを特徴とする電極活物質であって、
150μm未満の平均サイズ、10から60μmのメジアン径d50、及び100μm未満のメジアン径d90を呈する粒子を含む粉末の形態であることを特徴とする、活物質
【請求項3】
−硫黄系材料;
−硫黄系材料の本体に均一に分散されている1から25重量%の炭素系ナノフィラー
を含み、1.6g/cmを上回る密度を呈することを特徴とする電極活物質であって、
150μm未満の平均サイズ、10から60μmのメジアン径d50、及び100μm未満のメジアン径d90を呈する粒子を含む粉末の形態であることを特徴とする、活物質
【請求項4】
炭素系ナノフィラーが炭素系フィラーであり、その最小寸法が、光散乱により測定して、0.1から200nmであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の活物質
【請求項5】
炭素系ナノフィラーが、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン又はあらゆる割合でのこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の活物質
【請求項6】
炭素系ナノフィラーが、カーボンナノチューブであることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の活物質
【請求項7】
硫黄系材料が、天然硫黄、硫黄系有機化合物若しくはポリマー、又は硫黄系無機化合物、又はあらゆる割合でのこれらの混合物から選択される、硫黄供与性硫黄系化合物であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の活物質
【請求項8】
硫黄系無機化合物が、アルカリ金属アニオン性ポリスルフィドであることを特徴とする、請求項7に記載の活物質
【請求項9】
硫黄系無機化合物が、式Li(n≧1)により表されるリチウムポリスルフィドであることを特徴とする、請求項7に記載の活物質
【請求項10】
硫黄系材料が、有機ポリスルフィド、有機ポリチオレート、芳香族ポリスルフィド、ポリエーテル−ポリスルフィド、ポリスルフィド酸の塩、チオスルホネート[−S(O)−S−]、チオスルフィナート[−S(O)−S−]、チオカルボキシレート[−C(O)−S−]、ジチオカルボキシレート[−RC(S)−S−]、チオホスフェート、チオホスホネート、チオカーボネート、有機金属系ポリスルフィド又はこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項に記載の活物質
【請求項11】
硫黄系材料が、以下の一般式(I):
[式中、
−RからRは、同一若しくは異なる様式で、水素原子、−OH若しくは−Oラジカル、1から20の炭素原子を含む飽和若しくは不飽和炭素系鎖、又は−OR10基を表し、ここでR10は、1から20の炭素原子を含むアルキル、アリールアルキル、アシル、カルボキシアルコキシ、アルキルエーテル、シリル又はアルキルシリルラジカルであり、
−Mは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表し、
−n及びn’は、各々が1以上でありかつ8以下である、同じか又は異なる二の整数であり、
−pは、0から50の整数であり、
−Aは、窒素原子、単結合又は1から20の炭素原子の飽和若しくは不飽和炭素系鎖である]
に対応する芳香族ポリスルフィドであることを特徴とする、請求項10に記載の活物質
【請求項12】
硫黄系材料が少なくとも天然硫黄を含むことを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の活物質
【請求項13】
レオロジー調節剤、結合剤、イオン伝導体、炭素系電気伝導体、電子供与性成分又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも一の添加剤を追加的に含むことを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の活物質
【請求項14】
レオロジー調節剤が、単独の又はあらゆる割合での二つ以上の混合物としての、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、ジブチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジエチルジスルフィド、ジプロピルジスルフィド、ジブチルジスルフィド、これらの三硫化同族体、これらの四硫化同族体、これらの五硫化同族体、これらの六硫化同族体であることを特徴とする、請求項13に記載の活物質
【請求項15】
結合剤が、ハロゲン化ポリマー、官能性ポリオレフィン、及びポリエーテル、又はあらゆる割合でのこれらのブレンドから選択されることを特徴とする、請求項13に記載の活物質
【請求項16】
結合剤が、ポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF)、ポリ(トリフルオロエチレン)(PVF3)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ビニリデンフルオリドとヘキサフルオロプロピレン(HFP)又はトリフルオロエチレン(VF3)又はテトラフルオロエチレン(TFE)又はクロロトリフルオロエチレン(CTFE)とのコポリマー、フルオロエチレン/プロピレン(FEP)コポリマー、エチレンとフルオロエチレン/プロピレン(FEP)又はテトラフルオロエチレン(TFE)又はクロロトリフルオロエチレン(CTFE)とのコポリマー、ペルフルオロプロピル ビニルエーテル(PPVE)、ペルフルオロエチル ビニルエーテル(PEVE)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、及びエチレンとペルフルオロメチル ビニルエーテル(PMVE)とのコポリマー、又はこれらのブレンドから選択されるフッ素化ポリマーであることを特徴とする、請求項13に記載の活物質
【請求項17】
結合剤が、ポリ(アルキレンオキシド)又はポリアルキレングリコールから選択されるポリエーテルであることを特徴とする、請求項13に記載の活物質
【請求項18】
イオン伝導体が、リチウム有機塩、亜硫酸リチウム又はポリ(アルキレンオキシド)であることを特徴とする、請求項13に記載の活物質
【請求項19】
リチウム有機塩が、リチウムイミダゾレート塩であることを特徴とする、請求項18に記載の活物質
【請求項20】
炭素系電気伝導体が、カーボンブラック、グラファイト又はグラフェンであることを特徴とする、請求項13に記載の活物質
【請求項21】
電子供与性成分が、粉末形態又は塩形態の、周期表のIVa族、Va族及びVIa族由来の成分であることを特徴とする、請求項13に記載の活物質
【請求項22】
硫黄系材料及び炭素系ナノフィラーが、活物質の総重量に対して20重量%から100重量%を占めることを特徴とする、請求項1から21のいずれか一項に記載の活物質
【請求項23】
電極における、請求項1から22のいずれか一項に記載の活物質の使用。
【請求項24】
請求項1から22のいずれか一項に記載の活物質を含む電極。
【請求項25】
請求項1から22のいずれか一項に記載の活物質を用いることを含む、電極の製造のための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Li−S電池の分野に関する。具体的には、本発明は、硫黄系材料の本体に均一に分散した炭素系ナノフィラーを含む、電極の製造のための活物質に関し、この活物質は、溶融方式による方法に従って得ることが可能である。
【背景技術】
【0002】
リチウム/硫黄電池(以降Li−S電池という)は、元素硫黄又は別の電気活性硫黄系材料の正極(カソード)と、リチウム金属又はリチウム系金属合金から形成される負極(アノード)と、さらには有機液体電解質とからなる。
【0003】
典型的には、正極は、元素硫黄S(以降天然硫黄という)と、溶媒及び結合剤と混合される複数の異なる任意選択的添加剤とを含む活物質から調製されてペーストを形成し、これが集電コレクタに適用され、次いで溶媒を除去するために乾燥させられる。形成される複合構造は、任意選択的に圧縮工程に供され、次いで所望のサイズのカソードに切断される。
【0004】
Li−S電池は、カソード上にセパレータを堆積させることにより得られ、次いでリチウムアノードがセパレータ上に堆積される。次いで、通常溶媒中に溶解した少なくとも一のリチウム塩を含む電解質が、電池に導入される。
【0005】
Li−S電池は、2000年代以来多数の調査研究の主題となっており、従来のLi−イオン電池の有望な代替品と考えられている。この種の電池の利点は、硫黄電極の高いバルク貯蔵能に基づくものであり、これは最大500Wh.kg−1に及びうるエネルギー密度の達成を可能にする。加えて、天然硫黄は、豊富であり、低コストで非毒性であるという小さくない利点を呈し、これにより大規模なLi−S電池の開発を考慮することが可能である。
【0006】
Li−S電池を放電及び充電するためのメカニズムは、カソードにおける硫黄の還元/酸化(S+2e<−>S2−)と、アノードにおけるリチウムの酸化/還元(Li<−>Li+e)とに基づいている。
【0007】
放電の間に、硫黄分子Sは還元されて、有機電解質中に溶解した、一般式Li(n≧)のリチウムポリスルフィド鎖を形成する。硫黄の還元の最終工程は、有機電解質から沈殿してアノード上に堆積する硫化リチウムLiSの形成からなる。充電の際に逆電気化学反応が起こる。
【0008】
電極において電気化学反応を迅速に起すために、カソード及びアノードの全体は良好な電子伝導体でなければならない。実際には、硫黄が電子絶縁体であるとき(25℃においてσ=5.10−30S.cm−1)、放電速度は比較的低い。
【0009】
活物質のこのような低い電子伝導性を標的とした様々な改善方式が考案され、特に炭素系伝導材料といった電子伝導性添加剤の付加が考慮される。しかしながら、硫黄/添加剤混合物が最適なものでない場合、又は添加剤の含有量が小さすぎる場合、カソードにおける反応の動力学には依然として限界がある。
【0010】
伝導性添加剤の中でも、カーボンブラック、活性炭素、炭素繊維又はカーボンナノチューブが一般に用いられる。従来カーボンブラックが使用される。
【0011】
活物質と伝導性添加剤の混合は、様々な方法で実施することができる。
【0012】
例えば、混合は、電極の調製の間に直接実施することができる。その場合、硫黄は、電極の成形の前に、伝導性添加剤及び結合剤と機械的撹拌により混合される。このような均一化工程により、炭素系添加剤は硫黄粒子の周りに分配され、それにより浸透網を形成すると考えられる。粉砕工程も用いることができ、これにより材料をさらに均質に混合することができる。しかしながら、このような付加的工程は、電極の多孔性を破壊することがある。
【0013】
活物質を炭素系添加剤と混合する別の方法は、硫黄を炭素でコーティングするために、硫黄及び炭素系添加剤を乾燥方式により粉砕することである。
【0014】
同じ観点から、炭素を、気相での堆積により硫黄粒子の周りに堆積させることができる。反対に、コアシェル構造をカーボンブラックから調製することができ、この上に、例えばカーボンブラックナノ粒子上への硫黄の堆積により、硫黄の層が堆積される。
【0015】
例として、文献FR2948233に、硫黄と炭素の化学処理から得られる伝導性複合材料の記載があり、この場合、硫黄及び炭素は、密閉された反応容器に、外部から反応容器内部の圧力を制御することなしに導入され、化学処理は115℃から400℃の温度で、硫黄が溶融して平衡に到達するために十分な時間にわたって行われる。このような材料は、低比表面積を呈する炭素で覆われた硫黄粒子の形態で存在する。しかしながら、この文献に記載される硫黄中に炭素を導入するための方法は、形状因子又は粒団を持たない炭素系ナノフィラーにのみ適用されるもので、この方法により硫黄本体に均一に分散した炭素系ナノフィラーは得られない。
【0016】
米国特許出願公開第2013/0161557号には、希土類リチウム−硫黄電池のための電極活物質の調製のための方法が記載されている。この方法により、高温及び減圧下でカーボンナノチューブに吸収された溶解硫黄を含む複合材料が得られる。この複合材料は、電極活物質を形成するために、続いてアルコール中における溶解、粉砕、乾燥及びか焼を含む様々な処理に供される。この文献に記載された方法は、比較的実施が複雑である。
【0017】
カーボンブラックと異なり、カーボンナノチューブ(CNT)タイプの添加剤は、電解質中での溶解を制限することにより、活物質にとって有益な吸着効果を付与し、従ってサイクル性の向上を促進するという利点も呈する。
【0018】
例えば、論文Electrochimica Acta, 51 (2006), pp 133-1335, Zheng W. et al.には、長い滞留時間にわたる高温での溶融混合による硫黄/カーボンナノチューブ(CNT)複合材料の調製が記載されている。しかしながら、この材料を用いて実施されたサイクリング試験は60サイクル程度しか行われておらず、これでは、電極の使用寿命全体にわたる効果を得るために、カーボンナノチューブが硫黄の本体に本当に均一に分散していることを示すことは不可能である。
【0019】
また、電極を構成する配合組成へのCNTの導入は、多くの問題を生じさせる。これは、CNTが、サイズが小さく、粉末であることと、化学蒸着(CVD)により得られたものであるときには場合により絡み合った構造を有し、さらには分子間に強いファンデルワース相互作用を生成することから、取扱い及び分散が困難であることが分かっているためである。CNTの低分散により、正極と電解質の間の電荷移動の有効性が制限され、したがって伝導材料の付加にも関わらずLi−S電池の性能が制限される。
【0020】
これが、調合剤に、使用可能な活物質の形態の、硫黄、さらに一般的には硫黄系材料によく分散されており、電子伝導性を効果的に高める目的でLi−S電池用の電極の製造のための配合組成に直接使用することのできる、CNTを含む活物質を利用できることが有利である理由である。
【0021】
本出願人は、硫黄系材料、例えば硫黄の本体に均一に分散したカーボンナノチューブを含む活物質が、伝導性充填剤/硫黄界面を増大させ、したがってこの活物質を組み込んだ電池の充電及び放電能を増大させることができることを見出した。
【0022】
本出願人はまた、この活物質が、CNTと硫黄系材料とを、例えば調合装置内において溶融方式により接触させ、それにより、電極の調製に使用することのできる改善された活物質を形成することにより得られることを見出した。
【0023】
さらに、本発明が、CNT以外に炭素系ナノフィラー、特にカーボンナノファイバー及びグラフェン、又はあらゆる割合でのこれらの混合物にも適用可能であることが明らかなになった。
【発明の概要】
【0024】
本発明の主題は:
−硫黄系材料;
−硫黄系材料の本体に均一に分散されている1から25重量%の炭素系ナノフィラー
を含む、電極の製造のための活物質である。
【0025】
一実施態様によれば、電極活物質は、硫黄系材料の本体に均一に分散されている5から25重量%の炭素系ナノフィラーを含む。
【0026】
本発明の別の主題は:
−硫黄系材料;
−硫黄系材料の本体に均一に分散されている1から25重量%の炭素系ナノフィラー
を含み、40%未満の空隙率を呈することを特徴とする電極活物質である。
【0027】
本発明の別の主題は:
−硫黄系材料;
−1から25重量%の、硫黄系材料の本体に均一に分散した炭素系ナノフィラー
を含み、1.6g/cmを上回る密度を呈することを特徴とする電極活物質である。
【0028】
本発明の一実施態様によれば、前記活物質は、特に活物質1kgあたり0.05kWhから1kWh、好ましくは0.2から0.5kWh/kgでありうる機械的エネルギーを有する溶融方式により得られ,る。
【0029】
「炭素系ナノフィラー」は、その最小寸法が光散乱により測定して0.1から200nm、好ましくは0.1から160nm、さらに好ましくは0.1から50nmである炭素系充填剤を意味する。
【0030】
「炭素系ナノフィラー」は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー及びグラフェン、又はあらゆる割合でのこれらの混合物からなる群由来の少なくとも一の成分を含む充填剤を意味することができる。好ましくは、炭素系ナノフィラーは少なくともカーボンナノチューブを含む。
【0031】
「硫黄系材料」は、天然(又は元素の)硫黄、硫黄系有機化合物又はポリマー及び硫黄系無機化合物から選択される硫黄供与性化合物を意味する。
【0032】
本発明による好ましい実施態様によれば、硫黄系材料は、少なくとも天然硫黄を含み、天然硫黄のみであるか又は少なくとも一の他の硫黄系材料との混合物である。
【0033】
本発明による活物質は、溶融した硫黄系マトリックス中によく浸透した炭素系ナノフィラーを含み、炭素系ナノフィラーは硫黄系材料の本体全体に均一に分配されており、これは例えば電子顕微鏡法により可視化可能である。硫黄系材料/ナノフィラーの混合物は、Li−S電池電極の機能性の最適化に適した形態を有する。
【0034】
したがって、本発明による活物質は、電極の集電コレクタからの電気の効率的な移動を提供し、電池作動中に電気化学反応に対して能動的なインターフェースを提供することができる。
【0035】
したがって、本発明は、硫黄の電気化学反応へのアクセスを容易にするために、硫黄供与性材料と炭素系ナノフィラーの粒子とのよりよい組み合わせを呈する活物質を提供する。加えて、本発明による活物質を組み込んだ電極は、長期間にわたり電池の動作を良好に維持する。
【0036】
本発明の一実施態様によれば、活物質は、レオロジー調節剤、結合剤、イオン伝導体、炭素系電気伝導体、電子供与性成分又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも一の添加剤を追加的に含む。炭素系ナノフィラーと同様に、一又は複数の添加剤は、溶融方式により材料中に組み込まれる。
【0037】
本発明の別の態様は、電極、特にLi−S電池カソードにおける上記活物質の使用である。本発明による活物質は、電極の配合組成の電子伝導性を改善することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明により実施例1において得られる粉末の粒度分布を示している。
図2】本発明により実施例1において得られる電極活物質の形態をSEMにより示している。
【発明を実施するための形態】
【0039】
ここから、本発明について詳細に且つ非限定的に記載する。
【0040】
炭素系ナノフィラー
本発明によれば、炭素系ナノフィラーは、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン又はあらゆる割合でのこれらの混合物とすることができる。炭素系ナノフィラーは、好ましくは、単独の又は少なくとも一の他の炭素系ナノフィラーとの混合物での、カーボンナノチューブである。
【0041】
活物質の組成に参画するカーボンナノチューブ(CNT)は、単一壁、二重壁又は多重壁のタイプのもの、好ましくは多重壁(MWNT)タイプのものとすることができる。
【0042】
本発明により採用されるカーボンナノチューブは通常、0.1から200nm、好ましくは0.1から100nm、さらに好ましくは0.4から50nm、さらによいのは1から30nmであって、実際には10から15nmの範囲の平均直径を有し、有利には、0.1μmを上回る長さであって、有利には0.1から20μm、好ましくは0.1から10μm、例えば約6μmの長さを有する。その長さ/直径比は、有利には10より大きく、通常は100より大きい。その比表面積は、例えば、100から300m2/g、有利には200から300m2/gであり、その見掛け密度は特に0.01から0.5g/cm、さらに好ましくは0.07から0.2g/cmとすることができる。MWNTは、例えば、5から15のシート、さらに好ましくは7から10のシートを含みうる。
【0043】
カーボンナノチューブは、特に化学蒸着により、例えば国際公開第06/082325号に記載の方法に従って得られる。好ましくは、カーボンナノチューブは、特に植物由来の、特許出願EP1980530に記載されているような再生可能な出発材料から得られる。
【0044】
これらナノチューブは、処理されてもされなくてもよい。
【0045】
粗製カーボンナノチューブの例は、特にアルケマ社の商標名Graphistrength(登録商標)C100である。
【0046】
これらナノチューブは、精製及び/又は処理(例えば酸化)及び/又は粉砕及び/又は官能化することができる。
【0047】
ナノチューブの粉砕は、特に低温条件下又は高温条件下において実施することができ、ボール、ハンマー、エッジランナー、ナイフ又はガスジェットミルといったデバイス又は絡み合ったナノチューブ網のサイズを低減できる他のいずれかの粉砕システムに利用できる既知の技術に従って実施することができる。このような粉砕工程は、ガスジェット粉砕技術及び特にエアジェットミルに従って実施することが好ましい。
【0048】
粗製の又は粉砕されたナノチューブは、存在しうる残留した無機及び金属不純物、例えば、その調製仮定から生じた鉄を除去するために、硫酸溶液を用いた洗浄により精製することができる。ナノチューブ:硫酸の重量比は、特に1:2から1:3である。精製工程はさらに、90℃から120℃の温度で、例えば5から10時間にわたり実施することができる。この工程の後に、有利には、精製されたナノチューブを水ですすぎ、乾燥させる工程を行うことができる。代替的に、ナノチューブを、高温、典型的には1000℃を上回る温度での熱処理により精製することができる。
【0049】
ナノチューブの酸化は、有利には、ナノチューブを、0.5重量%から15重量%のNaOCl、好ましくは1重量%から10重量%のNaOClを含む次亜塩素酸ナトリウム溶液であって、例えばナノチューブ:次亜塩素酸ナトリウムの重量比が1:0.1から1:1の範囲である次亜塩素酸ナトリウム溶液と接触させることにより実施される。酸化は、有利には、60℃未満の温度、好ましくは室温で、数分から24時間にわたって実施される。この酸化工程の後に、有利には、酸化したナノチューブを濾過及び/又は遠心分離し、洗浄し、乾燥させる工程を行うことができる。
【0050】
ナノチューブの官能化は、反応性単位、例えばビニルモノマーを、ナノチューブの表面にグラフティングすることにより実施することができる。
【0051】
本発明においては、好ましくは粗製カーボンナノチューブ、即ち酸化も精製も官能化もされておらず、他のいずれの化学的及び/又は熱処理にも供されていない、粉砕されていてもよいナノチューブが使用される。
【0052】
本発明において炭素系ナノフィラーとして使用することのできるカーボンナノファイバーは、カーボンナノチューブと同様に、水素の存在下における500℃から1200℃の温度での、遷移金属(Fe、Ni、Co、Cu)を含む触媒上で分解された炭素系ソースから出発する化学蒸着(即ちCVD)により生成されたナノフィラメントである。しかしながら、これら二の炭素系充填剤は構造において異なり、カーボンナノファイバーはある程度組織化されたグラファイト領域(又は乱層のスタック)からなり、その平面は繊維の軸に対して可変の角度で傾斜している。これらスタックは、通常100nmから500nmの範囲であって、実際にはもっと大きな直径を有する構造を形成するために積層された、板状晶、フィッシュボーン又は皿の形態をとることができる。
【0053】
使用可能なカーボンナノファイバーの例は、特に100から200nm、例えば約150nmの直径と、有利には100から200μmの長さを有する。例えば、昭和電工株式会社のVGCF(登録商標)ナノファイバーを使用することができる。
【0054】
グラフェンは、単離及び分離された平坦なグラファイトシートだけでなく、その延長で、一から数十のシートを含み、平坦な又はある程度波状の構造を呈する集合体も意味する。したがって、このような定義は、FLG(数層グラフェン)、NGP(ナノサイズグラフェン板)、CNS(カーボンナノシート)及びGNR(グラフェンナノリボン)を包含する。一方、この定義には、それぞれ一又は複数のグラフェンシートを同軸上に巻き付けたもの及びこれらシートの乱層のスタックからなるカーボンナノチューブ及びナノファイバーは含まれない。さらに、本発明により使用されるグラフェンは、好ましくはさらなる化学的酸化又は官能化工程を経ていない。
【0055】
本発明により使用されるグラフェンは、化学蒸着即ちCVDにより、好ましくは混合酸化物に基づく粉末状触媒を用いる方法に従って得られる。グラフェンは、特徴的に、50nm未満、好ましくは15nm未満、さらに好ましくは5nm未満の厚さを有し、1ミクロン未満、好ましくは10nmから1000nm未満、さらに好ましくは50から600nmであって、実際には100から400nmの横寸法を有する粒子の形態で提供される。これら粒子の各々は通常、1から50シート、好ましくは1から20シート、さらに好ましくは1から10シート、実際には1から5シートを含み、これらシートは、例えば超音波処理の間に、独立したシートの形態に互いから分離することができる。
【0056】
硫黄系材料
硫黄系材料は、天然硫黄、硫黄系有機化合物若しくはポリマー、硫黄系無機化合物又はあらゆる割合でのこれらの混合物とすることができる。
【0057】
天然硫黄の様々なソースが市販されている。硫黄粉末の粒子サイズは、広い範囲で変えることができる。硫黄はそのままで使用することができるか、又は製錬、昇華又は沈降といった複数の異なる技術により事前に精製することができる。硫黄又はさらに一般的には硫黄系材料は、粒子のサイズを低減してその分布を狭めるために、粉砕及び/又はふるい分けの準備工程に供することもできる。
【0058】
硫黄系材料として使用することのできる硫黄系無機化合物は、例えば、アルカリ金属のアニオン性ポリスルフィド、好ましくは式Li(n≧1)により表されるリチウムポリスルフィドである。
【0059】
硫黄系材料として使用できる硫黄系有機化合物又はポリマーは、有機ポリスルフィド、例えば官能基を含む有機ポリチオレート、例えばジチオアセタール、ジチオケタール又はトリチオオルソカーボネート、芳香族ポリスルフィド、ポリエーテル−ポリスルフィド、ポリスルフィド酸の塩、チオスルホネート[−S(O)−S−]、チオスルフィナート[−S(O)−S−]、チオカルボキシレート[−C(O)−S−]、ジチオカルボキシレート[−RC(S)−S−]、チオホスフェート、チオホスホネート、チオカーボネート、有機金属系ポリスルフィド又はこれらの混合物から選択することができる。
【0060】
このような有機硫黄系化合物の例は、特に国際公開第2013/155038号に記載されている。
【0061】
本発明の特定の実施態様によれば、硫黄系材料は、芳香族ポリスルフィドである。
【0062】
芳香族ポリスルフィドは、以下の一般式(I):
[式中、
−RからRは、同一又は異なる様式で、水素原子、−OH又は−Oラジカル、1から20の炭素原子を含む飽和又は不飽和炭素系鎖、又は-OR10基を表し、ここでR10は、1から20の炭素原子を含むアルキル、アリールアルキル、アシル、カルボキシアルコキシ、アルキルエーテル、シリル又はアルキルシリルラジカルである可能性があり、
−Mは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表し、
−n及びn’は、各々が1以上でありかつ8以下である、同じか又は異なる二の整数であり、
−pは、0から50の整数であり、
−Aは、窒素原子、1から20の炭素原子の単結合又は飽和若しくは不飽和炭素系鎖である]
に対応する。
【0063】
好ましくは、式(I)において:
−R、R及びRは、Oラジカルであり、
−R、R及びRは、水素原子であり、
−R、R及びRは、1から20の炭素原子、好ましくは3から5の炭素原子を含む飽和又は不飽和炭素系鎖であり、
−n及びn’の平均値は約2であり、
−pの平均値は、1から10、好ましくは3から8であり(これら平均値は、プロトンNMRデータに基づき、重量により硫黄をアッセイすることにより、当業者によって計算される)、
−Aは、硫黄原子を芳香族間に接続する単結合である。
【0064】
このような式(I)のポリ(アルキルフェノール)ポリスルフィドは、既知であり、例えば、以下の二工程で調製することができる:
1)一塩化硫黄又は二塩化硫黄とアルキルフェノールとを、100から200℃の温度で、以下の反応に従って反応させること:
(式(II)の化合物は、特にアルケマ社によりVultac(登録商標)という名称で販売されている。)
2)Oラジカルを得るために、化合物(II)と、金属Mを含む金属誘導体、例えば、この金属の酸化物、水酸化物、アルコキシド又はジアルキルアミドとを反応させること。
【0065】
さらに好ましい代替形態によれば、Rは、tert−ブチル又はtert−ペンチルラジカルである。
【0066】
本発明の別の好ましい代替例によれば、各芳香族単位上に存在するRラジカルのうちの2が、Rを芳香族核に接続する少なくとも一の第三炭素を含む炭素系鎖である、式(I)の化合物の混合物が使用される。
【0067】
活物質
活物質中の炭素系ナノフィラーの量は、活物質の総重量に対して1重量%から25重量%、好ましくは10重量%から15重量%、例えば12重量%から14重量%を占める。
【0068】
本発明による活物質は、粒子の完全混和物、硫黄系材料の本体に均一に分散した炭素系ナノフィラーを含む固体状態の完成品である。
【0069】
活物質は、有利には、標準のNF EN ISO 1183−1により決定して、1.6g/cmを上回る密度を呈する。密度は通常2g/cm未満である。
【0070】
また、有利には、活性生物は、40%未満の空隙率、好ましくは20%未満の空隙率を呈する。空隙率は、理論的密度と測定された密度の差異に基づいて決定することができる。
【0071】
本発明により定義される電極活物質は、より密度の高い、電極の比容量を増大させることができ、電極の充電及び放電能を高めることができる。
【0072】
均一な粒子の混合物は、電極の製造方法を容易化するために、100μmより大きなサイズ、好ましくは50μmより大きなサイズを有する粒子を呈さない粉末を得るために、その後粉砕することができる。
【0073】
CNTのような炭素系ナノフィラーは、硫黄系材料、特に硫黄と、好ましくは溶融方式により混合される。しかしながら、混合物の溶融は、CNT(0.1g/cm)と硫黄(2g/cm)の密度の差異により制限されるため、通常、このような混合を実施するために、強い機械的エネルギーを加えることが必要であり、このエネルギーは、活物質1kgあたり0.05kWhから1kWh、好ましくは0.2から0.5kWhでありうる。したがって、炭素系ナノフィラーは、粒子の本体全体に均一に分散し、文献FR2948233に記載のように、硫黄系粒子の表面のみに見出されるということはない。
【0074】
これを行うために、好ましくは調合装置、即ち、複合材を生産することを目的とした熱可塑性ポリマーと添加剤の溶融混合のために、プラスチック産業において従来使用される設備が使用される。
【0075】
したがって、本発明による活物質は、以下の工程を含む方法により調製することができる:
(a)少なくとも一の硫黄系材料及び炭素系ナノフィラーの、調合装置への導入;
(b)硫黄系材料の溶融;
(c)溶融した硫黄系材料及び炭素系ナノフィラーの混練;
(d)塊状となった固体物理形態で得られる混合物の回収;
(e)粉末形態の混合物の粉砕。
【0076】
調合装置において、硫黄系材料と炭素系ナノフィラーは、高せん断デバイス、例えば共回り二軸押出機又は共混練機を用いて混合される。溶融材料は通常、冷却後に塊状となった固体物理形態、例えば粒状体の形態又はロッドの形態で装置から出て、粒状体へと切断される。
【0077】
使用できる共混練機の例は、Buss AGにより販売される、Buss(登録商標)MDK 46共混練機、及びBuss(登録商標)MKS又はMXシリーズの共混練機であり、これらはすべて、任意選択的に複数の部品からなる加熱シリンダー内に配置される、フライト付きのスクリューシャフトからなり、その内壁には、フライトと相互作用して混練された材料のせん断を生じさせる混練歯が設けられている。シャフトは、回転駆動されて、モーターにより軸方向に振動運動を受ける。これら共混練機は、粒状体を製造するためのシステムに装着することができ、例えば押出成形スクリュー又はポンプからなるその出口オリフィスに取り付けることができる。
【0078】
使用できる共混練機は、好ましくは、7から22、例えば10から20の範囲のスクリュー比L/Dを有し、共回り押出機は、有利には、15から56、例えば20から50の範囲のL/D比を有する。
【0079】
調合工程は、硫黄系材料の融点を上回る温度で実施される。硫黄の場合、調合温度は、120℃から150℃の範囲とすることができる。他の種類の硫黄系材料の場合、調合温度は、特に使用される材料に応じて決まり、その融点は通常材料の供給者により示される。滞留時間も、硫黄系材料の性質に合わせて調節されるであろう。
【0080】
この方法は、活物質の組成間の密度の違いに関係なく、硫黄系材料中の大量の炭素系ナノフィラーを効率的に且つ均一に分散させることを可能にする。
【0081】
本発明の一実施態様によれば、活物質は、レオロジー調節剤、結合剤、イオン伝導体、炭素系電気伝導体、電子供与性成分又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも一の添加剤を追加的に含む。これら添加剤は、均一な活物質を得るために、有利には、調合段階の間に導入される。
【0082】
この実施態様では、硫黄系材料及び炭素系ナノフィラーは、このとき活物質の総重量に対して20重量%から100重量%、好ましくは20重量%から80重量%を占める。
【0083】
特に、調合装置内での混合物の自己加熱を低減するために、混合の間、調合工程の間に、溶融状態の硫黄のレオロジーを調節する添加剤を加えることが可能である。液体硫黄に対して流動化効果を有するこのような添加剤は、国際公開第2013/178930号に記載されている。例として、単独の又はあらゆる割合での二つ以上の混合物としての、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、ジブチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジエチルジスルフィド、ジプロピルジスルフィド、ジブチルジスルフィド、これらの三硫化同族体、これらの四硫化同族体、これらの五硫化同族体又はこれらの六硫化同族体を挙げることができる。
【0084】
レオロジー調節添加剤の量は、通常、活物質の総重量に対して、0.01重量%から5重量%、好ましくは0.1重量%から3重量%である。
【0085】
活物質は、例えば、ハロゲン化ポリマー、好ましくはフッ素化ポリマー、官能性ポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリアクリル酸類及びこれらの誘導体、ポリビニルアルコール及びポリエーテル、又はあらゆる割合でのこれらのブレンドから選択される、結合剤、特にポリマー結合剤を含むことができる。
【0086】
例として、フッ素化ポリマー、ポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF)、好ましくはα形態のもの、ポリ(トリフルオロエチレン)(PVF3)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ビニリデンフルオリドとヘキサフルオロプロピレン(HFP)又はトリフルオロエチレン(VF3)又はテトラフルオロエチレン(TFE)又はクロロトリフルオロエチレン(CTFE)とのコポリマー、フルオロエチレン/プロピレン(FEP)コポリマー、エチレンとフルオロエチレン/プロピレン(FEP)又はテトラフルオロエチレン(TFE)又はクロロトリフルオロエチレン(CTFE)とのコポリマー、ペルフルオロプロピル ビニルエーテル(PPVE)、ペルフルオロエチル ビニルエーテル(PEVE)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、及びエチレンとペルフルオロメチル ビニルエーテル(PMVE)とのコポリマー、又はこれらのブレンドが挙げられる。
【0087】
ポリエーテルの例として、ポリ(アルキレンオキシド)、例えばポリ(エチレンオキシド)PEO、ポリアルキレングリコール、例えばポリエチレングリコールPEG、ポリプロピレングリコールPPG、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)などが挙げられる。
【0088】
好ましくは、結合剤はPVDF又はPEOである。
【0089】
活物質は、活物質のイオン伝導性を高めるために、硫黄系材料の表面との好ましい相互作用を有するイオン伝導体を含むことができる。イオン伝導体の例として、非限定的に、リチウム有機塩、例えばリチウムイミダゾレート塩又は亜硫酸リチウムが挙げられる。また、その結合剤としての役割を別にして、活物質にイオン伝導性特性を付与することができる、ポリ(アルキレンオキシド)が挙げられる。
【0090】
活物質は、電気伝導体、有利にはカーボンブラック、グラファイト又はグラフェンといった炭素系電気伝導体を、通常、硫黄系材料に対して1%から10%の範囲にわたりうる割合で含むことができる。好ましくは、カーボンブラックは電気伝導体として使用される。
【0091】
活物質は、充電中に、電子交換を改善するため、及びポリスルフィドの長さを制御するために、電子供与性成分を含むことができ、これにより電池の充電/放電サイクルが最適化される。
【0092】
有利には、電子供与性成分として、粉末形態又は塩形態の、周期表のIVa族、Va族及びVIa族由来の、好ましくはSe、Te、Ge、Sn、Sb、Bi、Pb、Si又はAsから選択される成分が使用される。
【0093】
本発明による活物質は、有利には、150μm未満、好ましくは100μm未満の平均サイズ、1から60μm、好ましくは10から60μm、さらに好ましくは20から50μmのメジアン径d50、100μm未満のメジアン径d90、好ましくは50μm未満の径d100(これら特徴はレーザ光回折により決定される)を呈する粒子を含む粉末の形態で提供される。
【0094】
このような粉末形態を得るために、通常、ハンマーミル、ピンミル、又はビードミル型の装置、エアジェットミル又は固体材料の微粒子化のための他の方法が使用される。
【0095】
好ましくは上記に特徴付けられた粉末形態を有し、有利には20%未満の空隙率及び/又は1.6g/cmを上回る密度を呈する本発明による活物質は、Li−S電池電極の調製に使用することができ;通常、電極の全配合組成に対して20重量%から95重量%のオーダー、好ましくは35重量%から80重量%のオーダーを占める。
【0096】
ここで、本発明を以下の実施例により説明する。この説明の目的は、特許請求の範囲により定義される本発明の範囲を限定することではない。
【実施例】
【0097】
実施例1:S/CNT活物質の調製
CNT(アルケマ社のGraphistrength(登録商標)C100)及び固体の硫黄(50〜800μm)を、回収押出成形スクリュー及び粒状化デバイスを備える、Buss(登録商標)MDK 46(L/D=11)共混練機の第1の供給ホッパーに導入した。
【0098】
共混練機内部の設定温度の値は以下の通りであった:ゾーン1:140℃;ゾーン2:130℃;スクリュー:120℃。
【0099】
ダイの出口において、87.5重量%の硫黄及び12.5重量%のCNTからなる混合物は、ペレタイジングにより得られた粒状体の形態であり、空気により冷却される。
【0100】
続いて粒状体はハンマーミルで粉砕され、冷却は窒素により行われた。
【0101】
走査型電子顕微鏡(SEM)による観察は、CNTが硫黄によく分散していることを示した。
【0102】
粒状体は、高速ピンミル(12000〜14000rpm)で粉砕され、冷却は、ミルの供給スクリュー内の粒状体上に導入される−30℃の液体窒素を用いて行われた。粉末を、円筒状の80μmスクリーンを用いてふるいに掛けた。Malvernタイプの装置でのレーザ光回折により決定された粒度分布を図1に示す。最大粒子のサイズは100μm未満であり、メジアン径d50は20から50μmである。
【0103】
粉末のふるい分けを、円筒状の50μmスクリーンを用いる第2の試験において実施した。粒度分布は、径d100が50μm未満であることを示す。このようにして得られる電極活物質の形態を、図2に示す。
【0104】
87.5重量%の硫黄及び12.5重量%のCNTからなるこの粉末は、Li−S電池用電極の調製に使用される活物質である。
【0105】
実施例2:S/DMDS/CNT活物質の調製
CNT(アルケマ社のGraphistrength(登録商標)C100)及び固体の硫黄(50〜800μm)を、回収押出成形スクリュー及び粒状化デバイスを備える、Buss(登録商標)MDK 46(L/D=11)共混練機の第1の供給ホッパーに導入した。
【0106】
液体ジメチルジスルフィド(DMDS)を、共混練機の第1のゾーンに注入した。
【0107】
共混練機内部の設定温度の値は以下の通りであった:ゾーン1:140℃;ゾーン2:130℃;スクリュー:120℃。
【0108】
ダイの出口において、83重量%の硫黄、2重量%のDMDS及び15重量%のCNTからなるマスターバッチは、ペレタイジングにより得られた粒状体の形態であり、ウォータージェットで冷却される。
【0109】
得られた粒状体を、水分含有量<100ppmまで乾燥させた。
【0110】
続いて乾燥粒状体をハンマーミルで粉砕し、窒素による冷却を行った。
【0111】
30から60μmのメジアン径d50を呈する粉末が得られた。これはLi−S電池の電極の調製に使用できる。
【0112】
実施例3:S/ポリ(tert−ブチルフェノール)ジスルフィド/CNT活物質の調製
CNT(アルケマ社のGraphistrength(登録商標)C100)及び固体の硫黄(50〜800μm)を、回収押出成形スクリュー及び粒状化デバイスを備える、Buss(登録商標)MDK 46(L/D=11)共混練機の第1の供給ホッパーに導入した。
【0113】
液体ジメチルジスルフィド(DMDS)を、共混練機の第1のゾーンに注入した。
【0114】
アルケマ社によりVultac−TB7(登録商標)の名称で販売されるポリ(tert−ブチルフェノール)ジスルフィドを、アルケマ社によりLOA(リチウム 4,5−ジシアノ−2−(トリフルオロメチル)イミダゾール)の名称で販売されるLi塩と事前混合し、次いで第3の計量デバイスを用いて第1のホッパーに導入した。
【0115】
共混練機内部の設定温度の値は以下の通りであった:ゾーン1:140℃;ゾーン2:130℃;スクリュー:120℃。
【0116】
ダイの出口において、混合物は、ペレタイジングにより得られた粒状体の形態であり、ウォータージェットにより冷却される。
【0117】
得られた粒状体を、水分含有量<100ppmまで乾燥させた。
【0118】
続いて乾燥粒状体をハンマーミルで粉砕し、窒素による冷却を行った。
【0119】
77重量%の硫黄、2重量%のDMDS、15重量%のCNT、5%のVultac−TB7(登録商標)及び1%のLOAからなる粉末が得られた。これはLi−S電池用の電極の調製に使用される。
【0120】
実施例4:S/POE/LiS/CNT活物質の調製
CNT(アルケマ社のGraphistrength(登録商標)C100)及び固体の硫黄(50〜800μm)を、回収押出成形スクリュー及び粒状化デバイスを備える、Buss(登録商標)MDK 46(L/D=11)共混練機の第1の供給ホッパーに導入した。
【0121】
ポリエチレンオキシドPOLYOX(登録商標)WSR N−60K(Dowにより生産された)を、Sigma社により供給されたLiSと事前混合した。この混合物を、第3の計量デバイスを介して第1のホッパーに導入した。
【0122】
共混練機内部の設定温度の値は以下の通りであった:ゾーン1:140℃;ゾーン2:130℃;スクリュー:120℃。
【0123】
ダイの出口において、70重量%の硫黄、15重量%のCNT、10重量%のPolyox(登録商標)WSR N−60K及び5%のLiSからなる混合物は、ロッドの目盛器により得られた粒状体であり、水分と接触することなくコンベヤベルトと交差する。
【0124】
続いて乾燥粒状体をハンマーミルで粉砕し、窒素による冷却を行った。
【0125】
150μm未満の平均サイズ、Li−S電池のカソード活物質として使用される粉末に適したメジアン径d50及びd90を呈する粒子を含む、70重量%の硫黄、15重量%のCNT、10重量%のPolyox(登録商標)WSR N−60K及び5重量%のLiSからなる粉末が得られた。
【0126】
実施例5:活物質の評価
活物質評価試験を、以下を含むLi−S電池モデルで実施した:
1)Li金属から作製された、厚さ100μmのアノード
2)セパレータ/膜(20μm)
3)1MのLiを含むスルホランに基づく電解質
4)Alから作製されたコレクタにより支持される硫黄系配合組成に基づくカソード。
【0127】
二のカソード配合組成を試験した:
−先行技術を代表する、70重量%の硫黄、10重量%のカーボンブラック、及び20重量%のPEO(Polyox(登録商標)WSR N−60K)を含む参照配合組成、
−80重量%の実施例1の活物質、5重量%のカーボンブラック及び15重量%のPEOを含む配合組成。
【0128】
カソード配合組成を、溶媒中のペーストを介して電極に適用した後乾燥させた。
【0129】
試験セルのカソードの容量は1.5から3mAh/cmである。
【0130】
試験セルを、充電/放電条件下に置いた。
【0131】
カソードの性能を、150サイクル後に評価した:
−参照配合組成から調製したカソード:初期容量に対して78%
−本発明による活物質を含む配合組成から調製したカソード:初期容量に対して88%。
【0132】
これらの結果は、炭素系ナノフィラーを含む本発明による活物質が、Li−S電池の使用寿命を改善し、従って有用性を向上させることができることを裏付けるものである。
図1
図2