特許第6979402号(P6979402)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979402
(24)【登録日】2021年11月17日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】有機半導体デバイス製造用組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/30 20060101AFI20211202BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20211202BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20211202BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20211202BHJP
   H01L 51/40 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
   H01L29/28 250H
   H01L29/28 100A
   H01L29/78 618B
   H01L29/78 618A
   H01L29/28 310J
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-522392(P2018-522392)
(86)(22)【出願日】2017年5月17日
(86)【国際出願番号】JP2017018473
(87)【国際公開番号】WO2017212882
(87)【国際公開日】20171214
【審査請求日】2020年4月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-115659(P2016-115659)
(32)【優先日】2016年6月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横尾 健
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽二
(72)【発明者】
【氏名】赤井 泰之
【審査官】 市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−134757(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/133402(WO,A1)
【文献】 特開2014−110347(JP,A)
【文献】 特開2003−234522(JP,A)
【文献】 特開2015−195361(JP,A)
【文献】 特開2015−185620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/00
H01L 29/786
H01L 21/336
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤としての2,3−ジヒドロベンゾフラン及び下記有機半導体材料を含有し、溶剤の含水率が0.25重量%以下である有機半導体デバイス製造用組成物。
有機半導体材料:下記式(1-1)で表される化合物、下記式(1-2)で表される化合物、下記式(1-3)で表される化合物、下記式(1-4)で表される化合物、下記式(1-5)で表される化合物、及び下記式(1-6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物
【化1】
(式中、X1、X2は、同一又は異なって、酸素原子、硫黄原子、又はセレン原子である。mは、0又は1である。n1、n2は、同一又は異なって、0又は1である。R1、R2は、同一又は異なって、フッ素原子、C1-20アルキル基、C6-13アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、又はチアゾリル基であり、前記アルキル基が含有する水素原子の1又は2以上はフッ素原子で置換されていてもよく、前記アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、及びチアゾリル基が含有する水素原子の1又は2以上はフッ素原子又は炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよい)
【請求項2】
有機半導体材料が、下記式(1-7)で表される化合物、下記式(1-8)で表される化合物、下記式(1-9)で表される化合物、及び下記式(1-10)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である請求項1に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
【化2】
(式中、R3、R4は、同一又は異なって、C1-20アルキル基、C6-13アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、又はチアゾリル基である)
【請求項3】
前記有機半導体デバイス製造用組成物全量における溶剤の含有量が、99.999重量%以下である、請求項1又は2に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
【請求項4】
前記有機半導体デバイス製造用組成物中の有機半導体材料の含有量が、前記溶剤100重量部に対して、0.005重量部以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
【請求項5】
前記有機半導体デバイス製造用組成物に含まれる溶剤全量に占める2,3−ジヒドロベンゾフランの含有量が、50重量%以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
【請求項6】
前記有機半導体デバイス製造用組成物に含まれる有機半導体材料全量における、前記式(1-1)で表される化合物、前記式(1-2)で表される化合物、前記式(1-3)で表される化合物、前記式(1-4)で表される化合物、前記式(1-5)で表される化合物、及び前記式(1-6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の含有量が、50重量%以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料である縮環パイ共役系分子を溶剤に溶解した状態で含有する組成物であって、印刷法により有機半導体デバイスを製造する用途に使用する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスタはディスプレイやコンピュータ機器に含まれる重要な半導体デバイスであり、現在、ポリシリコンやアモルファスシリコン等の無機半導体材料を使用して製造されている。無機半導体材料を用いた薄膜トランジスタの製造は、プラズマ化学気相堆積法(PECVD)やスパッタ法等により行われ、製造プロセス温度が高いこと、製造装置が高額でありコストが嵩むこと、大面積の薄膜トランジスタを形成した際に特性が不均一になりやすいことが問題であった。また、製造プロセス温度により使用できる基板が制限され、ガラス基板が主に使用されてきた。しかし、ガラス基板は、耐熱性は高いが衝撃に弱く軽量化が困難で柔軟性に乏しいため、ガラス基板を用いた場合は軽量でフレキシブルなトランジスタを形成することは困難であった。
【0003】
そこで、近年、有機半導体材料を利用した有機半導体デバイスに関する研究開発が盛んに行われている。有機半導体材料を使用すれば、塗布法等の簡便な方法により、低い製造プロセス温度で有機半導体デバイスを製造することが可能となるため、耐熱性の低いプラスチック基板を使用することができ、ディスプレイ等のエレクトロニクスデバイスの軽量化、フレキシブル化、低コスト化を実現することが可能となるからである。
【0004】
特許文献1には、キャリア移動度に優れる有機半導体材料としてN字型縮環パイ共役系分子が記載されている。そして、前記有機半導体材料を溶解する溶剤としては、o−ジクロロベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン等を使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/136827号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、有機半導体材料を用いた有機半導体デバイス製造用組成物において、同じ溶剤を用いた場合であっても、キャリア移動度が高い場合と低い場合とがあった。
【0007】
従って、本発明の目的は、安定して高いキャリア移動度を有する有機半導体デバイスを形成することができる有機半導体デバイス製造用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、含水率が特定値以下である特定の溶剤及び特定の有機半導体材料を用いると、安定して高いキャリア移動度を有する有機半導体デバイスを形成できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、溶剤としての2,3−ジヒドロベンゾフラン及び下記有機半導体材料を含有し、溶剤の含水率が0.25重量%以下である有機半導体デバイス製造用組成物を提供する。
有機半導体材料:下記式(1-1)で表される化合物、下記式(1-2)で表される化合物、下記式(1-3)で表される化合物、下記式(1-4)で表される化合物、下記式(1-5)で表される化合物、及び下記式(1-6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物
【化1】
(式中、X1、X2は、同一又は異なって、酸素原子、硫黄原子、又はセレン原子である。mは、0又は1である。n1、n2は、同一又は異なって、0又は1である。R1、R2は、同一又は異なって、フッ素原子、C1-20アルキル基、C6-13アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、又はチアゾリル基であり、前記アルキル基が含有する水素原子の1又は2以上はフッ素原子で置換されていてもよく、前記アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、及びチアゾリル基が含有する水素原子の1又は2以上はフッ素原子又は炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよい)
【0010】
有機半導体材料は、下記式(1-7)で表される化合物、下記式(1-8)で表される化合物、下記式(1-9)で表される化合物、及び下記式(1-10)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【化2】
(式中、R3、R4は、同一又は異なって、C1-20アルキル基、C6-13アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、又はチアゾリル基である)
【0011】
前記有機半導体デバイス製造用組成物全量における溶剤の含有量は、99.999重量%以下であることが好ましい。
【0012】
前記有機半導体デバイス製造用組成物中の有機半導体材料の含有量は、前記溶剤100重量部に対して、0.005重量部以上であることが好ましい。
【0013】
前記有機半導体デバイス製造用組成物に含まれる溶剤全量に占める2,3−ジヒドロベンゾフランの含有量は、50重量%以上であることが好ましい。
【0014】
前記有機半導体デバイス製造用組成物に含まれる有機半導体材料全量における、前記式(1-1)で表される化合物、前記式(1-2)で表される化合物、前記式(1-3)で表される化合物、前記式(1-4)で表される化合物、前記式(1-5)で表される化合物、及び前記式(1-6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の含有量は、50重量%以上であることが好ましい。
【0015】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1]溶剤としての2,3−ジヒドロベンゾフラン及び下記有機半導体材料を含有し、溶剤の含水率が0.25重量%以下である有機半導体デバイス製造用組成物。
有機半導体材料:下記式(1-1)で表される化合物、下記式(1-2)で表される化合物、下記式(1-3)で表される化合物、下記式(1-4)で表される化合物、下記式(1-5)で表される化合物、及び下記式(1-6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物
【化1】
(式中、X1、X2は、同一又は異なって、酸素原子、硫黄原子、又はセレン原子である。mは、0又は1である。n1、n2は、同一又は異なって、0又は1である。R1、R2は、同一又は異なって、フッ素原子、C1-20アルキル基、C6-13アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、又はチアゾリル基であり、前記アルキル基が含有する水素原子の1又は2以上はフッ素原子で置換されていてもよく、前記アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、及びチアゾリル基が含有する水素原子の1又は2以上はフッ素原子又は炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよい)
[2]前記有機半導体材料が、前記式(1-1)で表される化合物、前記式(1-4)で表される化合物、及び前記式(1-6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、[1]に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[3]前記X1、X2が、同一又は異なって、酸素原子又は硫黄原子である、[1]又は[2]に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[4]前記mが0である[1]〜[3]のいずれか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[5]前記n1、n2が1である[1]〜[4]のいずれか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[6]前記R1、R2が、同一又は異なって、C1-20アルキル基(好ましくはC4-15アルキル基、より好ましくはC6-12アルキル基、さらに好ましくはC6-10アルキル基)、C6-13アリール基(好ましくはフェニル基)、ピリジル基、フリル基、チエニル基、又はチアゾリル基(但し、前記アルキル基が含有する水素原子の1以上はフッ素原子で置換されていてもよく、前記アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、及びチアゾリル基が含有する水素原子の1以上はフッ素原子又は炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよい)である、[1]〜[5]のいずれか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[7]前記R1、R2が、同一又は異なって、C1-20アルキル基(好ましくはC4-15アルキル基、より好ましくはC6-12アルキル基、さらに好ましくはC6-10アルキル基)(但し、前記アルキル基が含有する水素原子の1以上はフッ素原子で置換されていてもよい)である、[1]〜[5]のいずれか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[8]有機半導体材料が、下記式(1-7)で表される化合物、下記式(1-8)で表される化合物、下記式(1-9)で表される化合物、及び下記式(1-10)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である[1]に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
【化2】
(式中、R3、R4は、同一又は異なって、C1-20アルキル基、C6-13アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、又はチアゾリル基である)
[9]前記R3、R4が、同一又は異なって、C1-20アルキル基(好ましくはC4-15アルキル基、より好ましくはC6-12アルキル基、さらに好ましくはC6-10アルキル基)、フェニル基、フリル基、又はチエニル基である、[8]に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[10]前記R3、R4が、同一又は異なって、C1-20アルキル基(好ましくはC4-15アルキル基、より好ましくはC6-12アルキル基、さらに好ましくはC6-10アルキル基)である、[8]に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[11]前記有機半導体デバイス製造用組成物に含まれる有機半導体材料全量における、前記式(1-7)で表される化合物、前記式(1-8)で表される化合物、前記式(1-9)で表される化合物、及び前記式(1-10)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の含有量が、50重量%以上(好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上)である、[8]〜[10]のいずれか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[12]前記有機半導体デバイス製造用組成物全量における溶剤(好ましくは2,3−ジヒドロベンゾフラン)の含有量が、99.999重量%以下である、[1]〜[11]のいずれか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[13]前記有機半導体デバイス製造用組成物全量における溶剤(好ましくは2,3−ジヒドロベンゾフラン)の含有量が、90.000重量%以上(好ましくは93.000重量%以上、より好ましくは95.000重量%以上、さらに好ましくは98.990重量%以上)である、[1]〜[12]のいずれか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[14]前記有機半導体デバイス製造用組成物中の有機半導体材料(好ましくは、前記式(1-1)で表される化合物、前記式(1-2)で表される化合物、前記式(1-3)で表される化合物、前記式(1-4)で表される化合物、前記式(1-5)で表される化合物、及び前記式(1-6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物)の含有量が、前記溶剤100重量部に対して、0.005重量部以上(好ましくは0.008重量部以上、より好ましくは0.01重量部以上)である、[1]〜[13]のいずれか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[15]前記有機半導体デバイス製造用組成物中の有機半導体材料(好ましくは、前記式(1-1)で表される化合物、前記式(1-2)で表される化合物、前記式(1-3)で表される化合物、前記式(1-4)で表される化合物、前記式(1-5)で表される化合物、及び前記式(1-6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物)の含有量が、前記溶剤100重量部に対して、1重量部以下(好ましくは0.5重量部以下、より好ましくは0.2重量部以下)である、[1]〜[14]のいずれか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[16]前記有機半導体デバイス製造用組成物に含まれる溶剤全量に占める2,3−ジヒドロベンゾフランの含有量が、50重量%以上(好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上)である、[1]〜[15]のいずれか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[17]前記有機半導体デバイス製造用組成物に含まれる有機半導体材料全量における、前記式(1-1)で表される化合物、前記式(1-2)で表される化合物、前記式(1-3)で表される化合物、前記式(1-4)で表される化合物、前記式(1-5)で表される化合物、及び前記式(1-6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の含有量が、50重量%以上(好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上)である、[1]〜[16]のいずれか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[18]前記有機半導体デバイス製造用組成物に含まれる有機半導体材料全量における、前記式(1-1)で表される化合物、前記式(1-4)で表される化合物、及び前記式(1-6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の含有量が、50重量%以上(好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上)である、[17]に記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[19]前記溶剤の含水率が0.19重量%以下(好ましくは0.08重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下)である、[1]〜[18]のいずれか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
[20]0.0005cm2/V以上(好ましくは0.001cm2/Vs以上、より好ましくは0.05cm2/Vs以上、さらに好ましくは0.1cm2/Vs以上、特に好ましくは1.0cm2/Vs以上)のキャリア移動度を有する有機半導体デバイスを形成可能である[1]〜[19]のいずれか1つに記載の有機半導体デバイス製造用組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の有機半導体デバイス製造用組成物は、安定して高いキャリア移動度を有する有機半導体デバイスを形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[有機半導体デバイス製造用組成物]
本発明の有機半導体デバイス製造用組成物(以下、単に「本発明の組成物」と称する場合がある)は、溶剤としての2,3−ジヒドロベンゾフラン及び下記有機半導体材料を含有し、且つ、溶剤の含水率が0.25重量%以下である。なお、本明細書において、下記式(1-1)〜(1-6)で表される化合物を総称して、「特定の有機半導体材料」と称する場合がある。
有機半導体材料:下記式(1-1)で表される化合物、下記式(1-2)で表される化合物、下記式(1-3)で表される化合物、下記式(1-4)で表される化合物、下記式(1-5)で表される化合物、及び下記式(1-6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物
【化3】
【0018】
(溶剤)
2,3−ジヒドロベンゾフランは、下記式(2)で表される化合物である。本発明の組成物は、溶剤として2,3−ジヒドロベンゾフランを用いる。2,3−ジヒドロベンゾフランは、上記特定の有機半導体材料に対して特に高濃度で良好な溶解性を示し、またプロセス温度に適した乾燥性、有機半導体材料を薄膜で単結晶化させやすい特性を有するため、上記特定の有機半導体材料と組み合わせて用いることで、本発明の組成物から形成された有機半導体デバイスは高いキャリア移動度を示す。
【化4】
【0019】
本発明の組成物に含まれる溶剤全量(100重量%)に占める2,3−ジヒドロベンゾフランの含有量は、特に限定されないが、50重量%以上(例えば、50〜100重量%)が好ましく、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。上記含有量が50重量%以上であると、上記特定の有機半導体材料の溶解性がより向上し、また有機半導体材料の薄膜での単結晶化をより起こりやすくすることができる傾向がある。
【0020】
本発明の組成物は、2,3−ジヒドロベンゾフラン以外の溶剤(他の溶剤)を含んでいてもよい。上記他の溶剤としては、一般的に電子材料用途に使用される溶剤であって、2,3−ジヒドロベンゾフランと相溶する溶剤等が挙げられる。上記他の溶剤は、1種又は2種以上含有してもよい。
【0021】
本発明の組成物に用いる溶剤の含水率は、上述のように0.25重量%以下である。本発明の組成物中の含水率が高い場合、上記特定の有機半導体材料の結晶化が阻害されたり、水分がキャリアトラップされたりすることによるものと推測されるが、キャリア移動度が低下する傾向がある。2,3−ジヒドロベンゾフラン及び上記特定の有機半導体材料を用いる本発明の組成物において、上記含水率が0.25重量%以下であると、安定して高いキャリア移動度を有する。上記含水率は、0.19重量%以下が好ましく、より好ましくは0.08重量%以下、さらに好ましくは0.05重量%以下である。また、2,3−ジヒドロベンゾフランの含水率が上記範囲内であることが好ましい。なお、上記含水率は、カールフィッシャー法により測定することができる。
【0022】
(有機半導体材料)
本発明の組成物は、有機半導体材料として、上記式(1-1)で表される化合物、上記式(1-2)で表される化合物、上記式(1-3)で表される化合物、上記式(1-4)で表される化合物、上記式(1-5)で表される化合物、及び上記式(1-6)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を用いる。上記特定の有機半導体材料は、有機半導体のヘリングボーン構造を形成し、π電子の二次元的な重なりを有することが特徴であり、高いキャリア移動度を発現し、有機半導体として高いトランジスタ特性を発現する。
【0023】
式(1-1)〜(1-6)中、X1、X2は、同一又は異なって、酸素原子、硫黄原子、又はセレン原子である。中でも、高いキャリア移動度を示す点で酸素原子又は硫黄原子が好ましく、特に硫黄原子が好ましい。
【0024】
mは、0又は1である。2,3−ジヒドロベンゾフランへの溶解性に優れ、且つ高いキャリア移動度を示す点で、好ましくは0である。
【0025】
1、n2は、同一又は異なって、0又は1である。2,3−ジヒドロベンゾフランへの溶解性に優れ、且つ高いキャリア移動度を示す点で、1が好ましい。
【0026】
1、R2は、同一又は異なって、フッ素原子、C1-20アルキル基、C6-13アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、又はチアゾリル基である。
【0027】
1、R2におけるC1-20アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロビル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−テトラデシル基等の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。中でも、C4-15アルキル基が好ましく、より好ましくはC6-12アルキル基、さらに好ましくはC6-10アルキル基である。なお、上記C1-20アルキルは、アルキル基が含有する水素原子の1又は2以上がフッ素原子で置換されていてもよい。
【0028】
1、R2におけるC6-13アリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル、フルオレニル、ビフェニリル基等が挙げられる。中でも、フェニル基が好ましい。
【0029】
上記ピリジル基としては、例えば、2−ピリジル、3−ピリジル、4−ピリジル基等が挙げられる。
【0030】
上記フリル基としては、例えば、2−フリル、3−フリル基等が挙げられる。
【0031】
上記チエニル基としては、例えば、2−チエニル、3−チエニル基等が挙げられる。
【0032】
上記チアゾリル基としては、例えば、2−チアゾリル基等が挙げられる。
【0033】
上記アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、及びチアゾリル基が含有する水素原子の1又は2以上は、フッ素原子又は炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよい。上記炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロビル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−デシル基基等の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。中でも、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、特に炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。例えば、アリール基が含有する水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜10のアルキル基で置換した基としては、例えば、トリル基、キシリル基等が挙げられる。
【0034】
また、アリール基が含有する水素原子の少なくとも1つをフッ素原子で置換した基としては、例えば、p−フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等が挙げられる。
【0035】
1、R2としては、中でも、2,3−ジヒドロベンゾフランに対する溶解性、及び高いキャリア移動度を有する点で、同一又は異なって、C1-20アルキル基、C6-13アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、又はチアゾリル基が好ましく、より好ましくはC1-20アルキル基である。
【0036】
上記特定の有機半導体材料の中でも、特に、上記式(1-1)で表される化合物、上記式(1-4)で表される化合物、上記式(1-6)で表される化合物が、120℃を超える高温環境下でも結晶状態を保持することができ、熱安定性に優れる薄膜結晶を得られやすい点で好ましい。
【0037】
上記特定の有機半導体材料としては、特に、下記式(1-7)で表される化合物、下記式(1-8)で表される化合物、下記式(1-9)で表される化合物、下記式(1-10)で表される化合物が好ましい。
【化5】
【0038】
上記式中、R3、R4は同一又は異なって、C1-20アルキル基、C6-13アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、又はチアゾリル基であり、上記R1、R2におけるC1-20アルキル基、C6-13アリール基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、及びチアゾリル基と同様の例が挙げられる。R3とR4は、中でも、2,3−ジヒドロベンゾフランに対する溶解性、及び高いキャリア移動度を有する点で、同一の基であることが好ましく、C1-20アルキル基、フェニル基、フリル基、又はチエニル基がより好ましく、C1-20アルキル基(中でもC4-15アルキル基が好ましく、より好ましくはC6-12アルキル基、さらに好ましくはC6-10アルキル基である)がさらに好ましい。
【0039】
上記式(1-1)で表される化合物、及び上記式(1-2)で表される化合物は、国際公開第2014/136827号に記載の製造方法等により製造することができる。また、上記特定の有機半導体材料は、例えば、商品名「C10−DNBDT−NW」、「C6−DNBDT−NW」、「C8−DNBDT」、「C6−DNT−VW」(以上、パイクリスタル(株)製)等、商品名「C10−DNTT」((株)ダイセル製)、商品名「C8−BTBT」(Sigma Aldrich社製)等の市販品を使用することもできる。
【0040】
上記特定の有機半導体材料は、カルコゲン原子による架橋部分を屈曲点としてベンゼン環が両翼に連なった分子構造を形成し、両末端のベンゼン環に置換基が導入された構成を有する。そのため、同程度の環数を有する直線型分子に比べて2,3−ジヒドロベンゾフランに対する溶解性が高く、低温環境下でも析出し難い。
【0041】
本発明の組成物は、上記特定の有機半導体材料以外の有機半導体材料を含有していてもよいが、本発明の組成物に含まれる有機半導体材料全量(100重量%)における上記特定の有機半導体材料の含有量は、特に限定されないが、50重量%以上(例えば、50〜100重量%)が好ましく、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。なお、上記特定の有機半導体材料を2種以上含む場合、上記含有量は2種以上の上記特定の有機半導体材料の合計の含有量である。
【0042】
[有機半導体デバイス製造用組成物]
本発明の組成物(有機半導体デバイス製造用組成物)は、溶剤として2,3−ジヒドロベンゾフランと、有機半導体材料として式(1-1)で表される化合物、式(1-2)で表される化合物、式(1-3)で表される化合物、式(1-4)で表される化合物、式(1-5)で表される化合物、及び式(1-6)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物を含有する。本発明の組成物は、2,3−ジヒドロベンゾフランと上記特定の有機半導体材料を組み合わせて用いることにより、本発明の組成物を塗布・乾燥後、基板の平面方向にヘリングボーン構造の薄膜単結晶を容易に作製でき、高いキャリア移動度を発現し、有機半導体として高いトランジスタ特性を発現するのに適した結晶構造が得られる。また、溶剤の含水率は0.25重量%以下である。これにより、本発明の組成物は、含水率が0.25重量%超の場合に比べて、安定して高いキャリア移動度を示す。なお、有機半導体材料は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
本発明の組成物全量(100重量%)における溶剤の含有量は、例えば99.999重量%以下である。その下限は、例えば90.000重量%、好ましくは93.000重量%、特に好ましくは95.000重量%であり、上限は、好ましくは98.990重量%である。特に、2,3−ジヒドロベンゾフランの含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0044】
本発明の組成物中の有機半導体材料の含有量は、特に限定されないが、溶剤100重量部に対して、例えば0.005重量部以上、好ましくは0.008重量部以上、より好ましくは0.01重量部以上である。有機半導体材料の含有量の上限は、例えば1重量部、好ましくは0.5重量部、より好ましくは0.2重量部である。特に、上記特定の有機半導体材料の含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0045】
本発明の組成物には、溶剤と有機半導体材料以外にも、一般的に有機半導体デバイス製造用組成物に含まれる成分(例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、ブチラール樹脂等)を必要に応じて適宜配合することができる。
【0046】
本発明の組成物によれば、ガラス基板に比べて耐熱性は低いが、衝撃に強く、軽量且つフレキシブルなプラスチック基板上に有機半導体デバイスを直接形成することができ、衝撃に強く、軽量且つフレキシブルなディスプレイやコンピュータ機器を形成することができる。さらに、本発明の組成物を基板上に塗布すると、組成物中に含まれる上記特定の有機半導体材料が自己組織化作用により結晶化して、高いキャリア移動度(例えば0.0005cm2/Vs以上、好ましくは0.001cm2/Vs以上、より好ましくは0.05cm2/Vs以上、さらに好ましくは0.1cm2/Vs以上、特に好ましくは1.0cm2/Vs以上)を有する有機半導体デバイスが得られる。
【0047】
本発明の組成物は、上記特定の有機半導体材料を高濃度に溶解することができるため、比較的低温(例えば20〜100℃、好ましくは20〜80℃)でも上記特定の有機半導体材料を高濃度に溶解することができる。そのため、ガラス基板に比べて耐熱性は低いが、衝撃に強く、軽量且つフレキシブルなプラスチック基板にも有機EL素子を直接形成することができ、衝撃に強く、軽量且つフレキシブルなディスプレイやコンピュータ機器を形成することができる。また、本発明の組成物は溶剤として2,3−ジヒドロベンゾフランを含むため、基板上に塗布すると上記特定の有機半導体材料が自己組織化作用により結晶化し、高い結晶性を有する有機半導体結晶薄膜(例えば、有機EL素子)が得られる。さらに、印刷法、スピンコート法等の簡便な塗布法で容易に前記有機半導体結晶薄膜の形成が可能であり、コストの大幅な削減が可能である。
【0048】
本発明の組成物は、例えば、2,3−ジヒドロベンゾフランと上記特定の有機半導体材料とを混合し、空気雰囲気、窒素雰囲気、又はアルゴン雰囲気下で、70〜150℃程度の温度で0.1〜5時間程度加熱することにより調製することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、2,3−ジヒドロベンゾフランの含水率は、商品名「カールフィッシャー水分計AQ−6 AQUA COUNTER」(平沼産業(株)製)により測定した。
【0050】
実施例1
25℃環境下、含水率0.04重量%の溶剤2,3−ジヒドロベンゾフラン中に、有機半導体材料としての「C10−DNTT」を、有機半導体材料濃度が0.03重量%となるように混合し、窒素雰囲気、遮光条件下、100℃で3時間加熱して、有機半導体デバイス製造用組成物(1)を得た。得られた有機半導体デバイス製造用組成物(1)について、有機半導体材料の溶解を目視で確認した。
【0051】
シリコン基板(SiO2、厚み100μm)をアセトン及びイソプロパノールにて超音波による洗浄後、室温で30分間UVオゾン処理を行った。120℃で30分間β−フェネチルトリクロロシランによるSAM被覆を行った。その後、トルエン及びイソプロパノールで超音波による洗浄を行った。有機半導体デバイス製造用組成物(1)を、国際公開第2013/125599号に記載のエッジキャスト法を用いてシリコン基板上に塗布した。その後、真空下100℃で10時間乾燥し、その上に金(40nm)を真空蒸着してソース電極及びドレイン電極を形成した。こうしてボトムゲート−トップコンタクト型有機FET(チャネル長100μm、チャネル幅2mm)を作製した。作製した素子について、半導体パラメータアナライザー(型番「keithley 4200」、ケースレーインスツルメンツ(株)製)を用いて、キャリア移動度を測定した。
【0052】
実施例2〜8
表1に示した有機半導体材料を使用し、表1に示すように溶剤及び有機半導体材料の含有量を変更した以外は実施例1と同様にして有機半導体デバイス製造用組成物を調製し、有機FETを作製しキャリア移動度を評価した。
【0053】
比較例1〜4
表1に示した有機半導体材料及び含水率の溶剤2,3−ジヒドロベンゾフランを使用し、表1に示すように溶剤及び有機半導体材料の含有量を変更した以外は実施例1と同様にして有機半導体デバイス製造用組成物を調製し、有機FETを作製しキャリア移動度を評価した。
【0054】
【表1】
【0055】
<有機半導体材料>
10−DNTT:下記式(1-11)で表される化合物、商品名「C10−DNTT」、(株)ダイセル製
【化6】
8−DNBDT:下記式(1-12)で表される化合物、商品名「C8−DNBDT」、パイクリスタル(株)製
【化7】
6−DNT−VW:下記式(1-13)で表される化合物、商品名「C6−DNT−VW」、パイクリスタル(株)製
【化8】
8−BTBT:下記式(1-14)で表される化合物、商品名「C8−BTBT」、Sigma Aldrich社製
【化9】
<溶剤>
DHBF:2,3−ジヒドロベンゾフラン、(株)ダイセル製
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の組成物は、印刷法により有機半導体デバイスを製造する用途に使用することができる。