【文献】
JOURNAL OF IMMUNOLOGICAL METHODS,NL,ELSEVIER SCIENCE PUBLISHERS B.V.,2008年06月10日,Volume 337, Issue 1,p. 16-23,http://dx.doi.org/10.1016/j.jim.2008.05.003
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のポリペプチドが、重鎖可変ドメイン(VH)および重鎖定常ドメイン(CH)を含み、前記第2のポリペプチドが、軽鎖可変ドメイン(VL)および軽鎖定常ドメイン(CL)を含む、請求項1に記載のキメラ膜貫通タンパク質。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明者らは、非サイトカイン結合分子の結合特異性をサイトカイン受容体のエンドドメインに移植した「キメラサイトカイン受容体」(CCR)を開発した。そのようなCCRとキメラ抗原受容体(CAR)との共発現は、CAR T細胞が、厳しい腫瘍微小環境に生着し、拡大するのを助ける。存在するべきCCRに対するリガンドならびにCARに対するリガンドに対する要件は、別の層の選択性を追加し、オンターゲットオフ腫瘍毒性の防止に役立つ。
【0027】
例えば、本発明者らは、PSAを検出してIL2/15またはIL7シグナルをCAR
T細胞に伝達するキメラサイトカイン受容体とCARとを共発現する細胞を開発した。このように、CAR T細胞は、前立腺がんの微小環境でのみ選択的に増殖するように刺激され、PSAの非存在下(すなわち、患者が緩解状態になった後)では、サイトカイン刺激は失われる。
【0028】
第1の態様において、本発明は、
腫瘍分泌因子(tumour secreted factor)、ケモカインおよび細胞表面抗原から選択されるリガンドに結合するエキソドメイン;および
サイトカイン受容体エンドドメイン
を含むキメラサイトカイン受容体(CCR)を提供する。
【0029】
本発明の第1の態様の第1の実施形態において、キメラサイトカイン受容体は、2つのポリペプチド:
(i)
(a)リガンドの第1のエピトープに結合する第1の抗原結合ドメイン
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第1の鎖
を含む第1のポリペプチド;および
(ii)
(a)リガンドの第2のエピトープに結合する第2の抗原結合ドメイン
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第2の鎖
を含む第2のポリペプチド
を含む。
図2bは、そのような配置を図示している。
【0030】
第1および第2の抗原結合ドメインの各々は、例えば、一本鎖可変フラグメント(scFv)または単一ドメインバインダーであり得る。
【0031】
本発明の第1の態様の第2の実施形態において、キメラサイトカイン受容体は、2つのポリペプチド:
(i)
(a)重鎖可変ドメイン(VH)
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第1の鎖
を含む第1のポリペプチド;および
(ii)
(a)軽鎖可変ドメイン(VL)
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第2の鎖
を含む第2のポリペプチド
を含む。
【0032】
図2cは、そのような配置を図示している。
【0033】
サイトカイン受容体エンドドメインについての第1の鎖と第2の鎖は、異なってもよく、I型サイトカイン受容体エンドドメインのα、βおよびγ鎖から選択され得る。
【0034】
あるいは、サイトカイン受容体エンドドメインについての第1の鎖と第2の鎖は、同じであってもよく、I型サイトカイン受容体エンドドメインのα、βおよびγ鎖から選択され得る。
【0035】
例えば、サイトカイン受容体エンドドメインは、
(i)IL−2受容体のβ鎖エンドドメイン
(ii)IL−7受容体のα鎖エンドドメイン;
(iii)IL−15受容体のα鎖エンドドメイン;または
(iv)共通γ鎖受容体エンドドメイン
を含み得る。
【0036】
サイトカイン受容体エンドドメインは、(i)、(ii)または(iii);および(iv)を含み得る。
【0037】
リガンドは、腫瘍分泌因子、例えば、前立腺特異的抗原(PSA)、がん胎児抗原(CEA)、血管内皮成長因子(VEGF)およびCA125から選択される腫瘍分泌因子であり得る。
【0038】
リガンドは、ケモカイン、例えば、CXCL12、CCL2、CCL4、CCL5およびCCL22から選択されるケモカインから選択されるケモカインであり得る。
【0039】
リガンドは、膜貫通タンパク質などの細胞表面分子であり得る。リガンドは、例えば、CD22であり得る。
【0040】
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様に記載のキメラサイトカイン受容体を含む細胞を提供する。
【0041】
その細胞は、同じリガンド上の異なるエピトープに結合する、第1のキメラサイトカイン受容体および第2のキメラサイトカイン受容体を含み得る。
【0042】
その細胞は、I型サイトカイン受容体エンドドメインのα鎖またはβ鎖を含む第1のキメラサイトカイン受容体、およびI型サイトカイン受容体エンドドメインのγ鎖を含む第2のキメラサイトカイン受容体を含み得、その結果、第1のキメラサイトカイン受容体および第2のサイトカイン受容体がリガンドに結合したとき、α/β鎖およびγ鎖を介して、組み合わされたシグナル伝達が生じる。
【0043】
その細胞は、キメラ抗原受容体、例えば、腫瘍関連細胞表面抗原に結合するキメラ抗原受容体も含み得る。
【0044】
キメラ抗原受容体は、前立腺がんに関連する細胞表面抗原(例えば、前立腺幹細胞抗原(PSCA)または前立腺特異的膜抗原(PSMA))に結合し得る。
【0045】
CCRが、細胞表面抗原を認識する場合、そのCCRおよびCARは、同じ標的(例えば、腫瘍)細胞上に共発現された細胞表面抗原を認識し得る。例えば、B細胞悪性疾患の場合、CARは、CD19などの細胞表面抗原を認識し得、CCRは、標的細胞表面上に共発現された分子(例えば、CD22)を認識することにより、生着が高まり得る。
【0046】
第3の態様において、本発明は、本発明の第1の態様に記載のキメラサイトカイン受容体(CCR)をコードする核酸配列を提供する。
【0047】
第4の態様において、本発明は、第1のCCRをコードする第1の核酸配列および第2のCCRをコードする第2の核酸配列を含む核酸構築物を提供し、その核酸構築物は、構造:
AgB1−スペーサー1−TM1−エンド1−coexpr−AbB2−スペーサー2−TM2−エンド2
(ここで、
AgB1は、第1のCCRの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
スペーサー1は、第1のCCRのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM1は、第1のCCRの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド1は、第1のCCRのエンドドメインをコードする核酸配列であり;
coexprは、両CCRの共発現を可能にする核酸配列であり、
AgB2は、第2のCCRの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
スペーサー2は、第2のCCRのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM2は、第2のCCRの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド2は、第2のCCRのエンドドメインをコードする核酸配列である)
を有する。
この核酸構築物は、キメラ抗原受容体(CAR)もコードし得る。この実施形態において、核酸構築物は、構造:
(i)CCRAgB1−CCRスペーサー1−CCRTM1−CCRエンド1−coexpr1−CCRAgB2−CCRスペーサー2−CCRTM2−CCRエンド2−coexpr2−CARAgB−CARスペーサー−CARTM−CARエンド;
(ii)CCRAgB1−CCRスペーサー1−CCRTM1−CCRエンド1−coexpr1−CARAgB−CARスペーサー−CARTM−CARエンド−coexpr2−CCRAgB2−CCRスペーサー2−CCRTM2−CCRエンド2;または
(iii)CARAgB−CARスペーサー−CARTM−CARエンド−coexpr1−CCRAgB1−CCRスペーサー1−CCRTM1−CCRエンド1−coexpr2−CCRAgB2−CCRスペーサー2−CCRTM2−CCRエンド2;
(ここで、
CCRAgB1は、第1のCCRの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
CCRスペーサー1は、第1のCCRのスペーサーをコードする核酸配列であり;
CCRTM1は、第1のCCRの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
CCRエンド1は、第1のCCRのエンドドメインをコードする核酸配列であり;
CCRAgB2は、第2のCCRの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
CCRスペーサー2は、第2のCCRのスペーサーをコードする核酸配列であり;
CCRTM2は、第2のCCRの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
CCRエンド2は、第2のCCRのエンドドメインをコードする核酸配列であり;
Coexpr1およびcoexpr2は、隣接する2つの配列の共発現を可能にする核酸配列であり;
CARAgBは、CARの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
CARスペーサーは、CARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
CARTMは、CARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
CARエンドは、CARのエンドドメインをコードする核酸配列である)
を有し得る。
【0048】
配列coexpr、coexpr1、coexpr2のいずれかまたはすべてが、自己切断性ペプチドを含む配列をコードし得る。
【0049】
相同組換えを回避するために、代替的コドンが、同一または類似のアミノ酸配列をコードする配列の領域で使用され得る。
【0050】
第4の態様において、本発明は、本発明の第4の態様に記載の核酸構築物を含むベクターを提供する。
【0051】
そのベクターは、例えば、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターまたはトランスポゾンであり得る。
【0052】
第6の態様において、本発明は、
i)本発明の第1の態様に記載の第1のCCRをコードする核酸配列を含むベクター;および
ii)本発明の第2の態様に記載の第2のCCRをコードする核酸配列を含むベクター
を含むキットを提供する。
【0053】
そのキットは、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列を含むベクターも含み得る。
【0054】
上記キットは、
i)本発明の第1の態様に記載のCCRをコードする核酸配列を含むベクター;および
ii)キメラ抗原受容体をコードする核酸配列を含むベクター
を含み得る。
【0055】
第7の態様において、本発明は、本発明の第2の態様に記載の細胞を作製するための方法を提供し、その方法は、本発明の第3の態様に記載の核酸配列;本発明の第4の態様に記載の核酸構築物;本発明の第5の態様に記載のベクター;または本発明の第6の態様に記載のベクターのキットを細胞に導入する工程を含む。
【0056】
細胞は、被験体から単離された試料由来であり得る。
【0057】
第8の態様において、本発明の第2の態様に記載の複数の細胞を含む医薬組成物が提供される。
【0058】
第9の態様において、疾患を処置および/または予防するための方法が提供され、その方法は、本発明の第8の態様に記載の医薬組成物を被験体に投与する工程を含む。
【0059】
上記方法は、以下の工程:
(i)被験体からの細胞含有試料の単離;
(ii)本発明の第3の態様に記載の核酸配列;本発明の第4の態様に記載の核酸構築物;本発明の第5の態様に記載のベクター;または本発明の第6の態様に記載のベクターのキットでの細胞の形質導入またはトランスフェクション;および
(iii)その被験体に(ii)からの細胞を投与すること
を含み得る。
【0060】
上記試料は、T細胞含有試料であり得る。
【0062】
疾患の処置および/または予防において使用するための本発明の第8の態様に記載の医薬組成物も提供される。
【0063】
疾患を処置および/または予防するための医薬の製造における本発明の第2の態様に記載の細胞の使用も提供される。
【0064】
本発明のさらなる態様は、以下の番号が付けられたパラグラフに要約される:
【0065】
1.二量体化ドメイン;および
サイトカイン受容体エンドドメイン
を含むキメラ膜貫通タンパク質。
【0066】
2.二量体化ドメインが、重鎖定常ドメイン(C
H)および軽鎖定常ドメイン(C
L)の二量体化部分を含む、パラグラフ1に記載のキメラ膜貫通タンパク質。
【0067】
3.2つのポリペプチド:
(i)
(a)第1の二量体化ドメイン;および
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第1の鎖
を含む第1のポリペプチド;および
(ii)
(a)第1の二量体化ドメインと二量体化する第2の二量体化ドメイン;および
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第2の鎖
を含む第2のポリペプチド
を含む、前述のいずれかのパラグラフに記載のキメラ膜貫通タンパク質。
【0068】
4.第1および第2の二量体化ドメインが、自発的に、または二量体化化学誘導物質(chemical inducer of dimerization)(CID)の存在下において、二量体化する、パラグラフ3に記載のキメラ膜貫通タンパク質。
【0069】
5.2つのポリペプチド:
(i)
(a)重鎖定常ドメイン(CH)
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第1の鎖
を含む第1のポリペプチド;および
(ii)
(a)軽鎖定常ドメイン(CL)
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第2の鎖
を含む第2のポリペプチド
を含む、パラグラフ2、3または4に記載のキメラ膜貫通タンパク質。
【0070】
6.サイトカイン受容体エンドドメインに対する第1の鎖と第2の鎖が、異なり、I型サイトカイン受容体エンドドメインのα、βおよびγ鎖から選択される、パラグラフ5に記載のキメラ膜貫通タンパク質。
【0071】
7.サイトカイン受容体エンドドメインに対する第1の鎖と第2の鎖が、同じであり、I型サイトカイン受容体エンドドメインのα、βおよびγ鎖から選択される、パラグラフ5に記載のキメラ膜貫通タンパク質。
【0072】
8.サイトカイン受容体エンドドメインが、
(i)IL−2受容体のβ鎖エンドドメイン
(ii)IL−7受容体のα鎖エンドドメイン;または
(iii)IL−15受容体のα鎖エンドドメイン;および/または
(iv)共通γ鎖受容体エンドドメイン
を含む、前述のいずれかのパラグラフに記載のキメラ膜貫通タンパク質。
【0073】
9.第1のポリペプチドが、重鎖可変ドメイン(VH)および重鎖定常ドメイン(CH)を含み;第2のポリペプチドが、軽鎖可変ドメイン(VL)および軽鎖定常ドメイン(CL)を含む、パラグラフ5に記載のキメラ膜貫通タンパク質。
【0074】
10.Fabエキソドメインを含む、パラグラフ9に記載のキメラ膜貫通タンパク質。
【0075】
11.前述のいずれかのパラグラフに記載のキメラ膜貫通タンパク質を含む細胞。
【0076】
12.キメラ抗原受容体も含む、パラグラフ11に記載の細胞。
【0077】
13.キメラ抗原受容体が、腫瘍関連細胞表面抗原に結合する、パラグラフ12に記載の細胞。
【0078】
14.パラグラフ1〜10のいずれかに記載のキメラ膜貫通タンパク質をコードする核酸配列。
【0079】
15.パラグラフ3において定義されたような第1のポリペプチドをコードする第1の核酸配列およびパラグラフ3において定義されたような第2のポリペプチドをコードする第2の核酸配列を含む核酸構築物であって、この核酸構築物は、構造:
Dim1−TM1−エンド1−coexpr−Dim2−TM2−エンド2
(ここで、
Dim1は、第1の二量体化ドメインをコードする核酸配列であり;
TM1は、第1のポリペプチドの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド1は、第1のポリペプチドのエンドドメインをコードする核酸配列であり;
coexprは、両CCRの共発現を可能にする核酸配列であり、
Dim2は、第2の二量体化ドメインをコードする核酸配列であり;
TM2は、第2のポリペプチドの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド2は、第2のポリペプチドのエンドドメインをコードする核酸配列である)
を有する。
【0080】
16.キメラ抗原受容体(CAR)もコードする、パラグラフ15に記載の核酸構築物。
【0081】
17.coexprが、自己切断性ペプチドを含む配列をコードする、パラグラフ15または16に記載の核酸構築物。
【0082】
18.相同組換えを回避するために、代替的コドンが、同一または類似のアミノ酸配列をコードする配列の領域で使用される、パラグラフ15〜17のいずれかに記載の核酸構築物。
【0083】
19.パラグラフ15〜18のいずれかに記載の核酸構築物を含むベクター。
【0084】
20.パラグラフ19に記載の、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターまたはトランスポゾン。
【0085】
21.
i)パラグラフ3において定義されたような第1のポリペプチドをコードする核酸配列を含むベクター;および
ii)パラグラフ3において定義されたような第2のポリペプチドをコードする核酸配列を含むベクター
を含む、キット。
【0086】
22.キメラ抗原受容体をコードする核酸配列を含むベクターも含む、パラグラフ21に記載のキット。
【0087】
23.
i)パラグラフ1〜10のいずれかにおいて定義されたようなキメラ膜貫通タンパク質(proetin)をコードする核酸配列を含むベクター;および
ii)キメラ抗原受容体をコードする核酸配列を含むベクターを含む、キット。
【0088】
24.パラグラフ11〜13のいずれかに記載の細胞を作製するための方法であって、この方法は、パラグラフ14に記載の核酸配列;パラグラフ15〜18のいずれかに記載の核酸構築物;パラグラフ19もしくは20に記載のベクター;またはパラグラフ21〜23のいずれかに記載のベクターのキットを細胞に導入する工程を含む、方法。
【0089】
25.細胞が、被験体から単離された試料に由来する、パラグラフ24に記載の方法。
【0090】
26.パラグラフ11〜13のいずれかに記載の複数の細胞を含む、医薬組成物。
【0091】
27.疾患を処置および/または予防するための方法であって、この方法は、パラグラフ26に記載の医薬組成物を被験体に投与する工程を含む、方法。
【0092】
28.以下の工程:
(i)被験体からの細胞含有試料の単離;
(ii)パラグラフ14に記載の核酸配列;パラグラフ15〜18のいずれかに記載の核酸構築物;パラグラフ19もしくは20に記載のベクター;またはパラグラフ21〜23のいずれかに記載のベクターのキットでの細胞の形質導入またはトランスフェクション;および
(iii)その被験体に(ii)からの細胞を投与すること
を含む、請求項27に記載の方法。
【0093】
29.前記試料が、T細胞含有試料である、パラグラフ28に記載の方法。
【0094】
30.前記疾患が、がんである、パラグラフ28または29に記載の方法。
【0095】
31.疾患の処置および/または予防において使用するための、パラグラフ26に記載の医薬組成物。
【0096】
32.疾患を処置および/または予防するための医薬の製造における、パラグラフ11〜13のいずれかに記載の細胞の使用。
詳細な説明
キメラサイトカイン受容体(CCR)
【0097】
キメラサイトカイン受容体(CCR)は、サイトカイン受容体エンドドメインおよび異種リガンド結合エキソドメインを含む分子である。その異種エキソドメインは、エンドドメインが由来したサイトカイン受容体に対して選択的であるサイトカイン以外のリガンドに結合する。このように、異種結合特異性に移植することによって、サイトカイン受容体のリガンド特異性を変更することが可能である。
【0098】
キメラサイトカイン受容体は、
(i)リガンド結合エキソドメイン;
(ii)任意選択のスペーサー;
(iii)膜貫通ドメイン;および
(iv)サイトカイン受容体エンドドメイン
を含む。
サイトカイン受容体およびシグナル伝達
【0099】
多くの細胞の機能が、サイトカイン受容体スーパーファミリーのメンバーによって制御される。これらの受容体によるシグナル伝達は、これらの受容体とJanusキナーゼ(JAK)との会合に依存する。Janusキナーゼは、リガンドの結合と、受容体複合体にリクルートされたシグナル伝達タンパク質のチロシンリン酸化とをつなぐ。これらには、サイトカイン応答の多様性に寄与する転写因子のファミリーであるシグナル伝達性転写因子(STAT)が含まれる。
【0100】
本発明のキメラサイトカイン受容体は、そのリガンドに結合すると、以下の細胞内シグナル伝達経路のうちの1つまたはそれを超える経路が惹起され得る:
(i)JAK−STAT経路
(ii)MAPキナーゼ経路;および
(iii)ホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3K)経路。
【0101】
JAK−STAT系は、3つの主要な構成要素:(1)受容体(2)Janusキナーゼ(JAK)および(3)シグナル伝達性転写因子(STAT)からなる。
【0102】
JAKは、チロシンキナーゼ活性を有し、細胞表面のサイトカイン受容体に結合する。リガンドとこの受容体との結合は、JAKの活性化を誘発する。JAKは、キナーゼ活性が高まると、受容体上のチロシン残基をリン酸化し、ホスホチロシンに結合するSH2ドメインを含むタンパク質との相互作用のための部位を作り出す。これらのホスホチロシン残基に結合することができるSH2ドメインを有するSTATは、受容体にリクルートされ、それら自体が、JAKによってチロシンをリン酸化される。次いで、これらのホスホチロシンは、他のSTATのSH2ドメインに対する結合部位として作用し、それらの二量体化を媒介する。種々のSTATが、ヘテロまたはホモ二量体を形成する。活性化されたSTAT二量体は、細胞核に蓄積し、それらの標的遺伝子の転写を活性化する。
サイトカイン受容体エンドドメイン
【0103】
本発明のキメラサイトカイン受容体は、エキソドメインがそのリガンドに結合したとき、「サイトカイン型」の細胞シグナル伝達を(単独で、または別のキメラサイトカイン受容体の存在下において)引き起こすエンドドメインを含む。
【0104】
エンドドメインは、サイトカイン受容体エンドドメインであり得る。
【0105】
エンドドメインは、I型サイトカイン受容体に由来し得る。I型サイトカイン受容体は、細胞膜に隣接する細胞外の部分において、共通のアミノ酸モチーフ(WSXWS)を共有する。
【0106】
エンドドメインは、II型サイトカイン受容体に由来し得る。II型サイトカイン受容体には、I型およびII型インターフェロンに結合するもの、ならびにインターロイキン−10ファミリーのメンバー(インターロイキン−10、インターロイキン−20およびインターロイキン−22)に結合するものが含まれる。
【0107】
I型サイトカイン受容体には、
(i)インターロイキン受容体(例えば、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−9、IL−11、IL−12、IL13、IL−15、IL−21、IL−23およびIL−27に対する受容体);
(ii)コロニー刺激因子受容体(例えば、エリトロポイエチン、GM−CSFおよびG−CSFに対する受容体);および
(iii)ホルモン受容体/神経ペプチド受容体(例えば、ホルモン受容体およびプロラクチン受容体)
が含まれる。
【0108】
I型サイトカイン受容体ファミリーのメンバーは、異なる鎖を含み、それらのうちのいくつかは、リガンド/サイトカイン相互作用に関わり、その他は、シグナル伝達に関わる。例えば、IL−2受容体は、α鎖、β鎖およびγ鎖を含む。
【0109】
IL−2受容体の共通ガンマ鎖(CD132としても知られる)は、IL−2受容体、IL−4受容体、IL−7受容体、IL−9受容体、IL−13受容体およびIL−15受容体の間で共有される。
IL−2
【0110】
IL−2は、α、βおよびγ「鎖」と称されることが多い3つの異なるタンパク質の異なる組み合わせによって生成される3つの形態を有するIL−2受容体に結合する;これらのサブユニットは、他のサイトカインに対する受容体の一部でもある。IL−2Rのβおよびγ鎖は、I型サイトカイン受容体ファミリーのメンバーである。
【0111】
これらの3本の受容体鎖は、様々な細胞型上に別々に異なって発現され、異なる組み合わせおよび順序で集合することにより、低親和性、中程度の親和性および高親和性のIL−2受容体を生成し得る。
【0112】
α鎖は、低親和性でIL−2に結合し、βおよびγの組み合わせは一体となって、主にメモリーT細胞上およびNK細胞上で中程度の親和性でIL−2に結合する複合体を形成し;3本すべての受容体鎖が、活性化T細胞上および制御性T細胞上で高親和性(Kd約10〜11M)でIL−2に結合する複合体を形成する。
【0113】
これらの3本のIL−2受容体鎖は、細胞膜にまたがり、細胞内に伸びることにより、細胞内部に生化学的シグナルを届ける。アルファ鎖は、シグナル伝達に関与せず、ベータ鎖は、チロシンホスファターゼJAK1と複合体を形成する。同様に、ガンマ鎖は、JAK3と呼ばれる別のチロシンキナーゼと複合体を形成する。これらの酵素は、IL−2Rの外部ドメインに結合するIL−2によって活性化される。
【0114】
IL−2のシグナル伝達は、初期のT細胞が抗原でも刺激されると、T細胞がエフェクターT細胞およびメモリーT細胞に分化するのを促進する。抗原によって選択されたT細胞クローンの数および機能の拡大に依存する、T細胞の免疫記憶の発生における役割を通じて、それらのT細胞クローンは、長期の細胞性免疫において鍵となる役割も果たす。
【0115】
本発明のキメラサイトカイン受容体は、IL−2受容体のβ鎖および/またはIL−2受容体(すなわち共通)のγ鎖を含み得る。
【0116】
IL−2β鎖および共通γ鎖のエンドドメインに対するアミノ酸配列を配列番号1および2として示す。
配列番号1:ヒト共通ガンマ鎖に由来するエンドドメイン:
【化1】
配列番号2:ヒトIL−2Rβに由来するエンドドメイン:
【化2】
【0117】
用語「〜に由来する」は、本発明のキメラサイトカイン受容体のエンドドメインが、内在性分子の野生型配列と同じ配列、またはJAK−1もしくはJAK−3と複合体を形成する能力および上で述べたシグナル伝達経路のうちの1つを活性化する能力を保持するその変異型を有することを意味する。
【0118】
変異型配列が、野生型配列の機能、すなわちJAK−1またはJAK−3と複合体を形成する能力、および例えば、JAK−STATシグナル伝達経路を活性化する能力を保持する限り、「変異型」配列は、野生型配列(例えば、配列番号1または2)と少なくとも80、85、90、95、98または99%の配列同一性を有する。
【0119】
2つのポリペプチド配列間のパーセンテージ同一性は、http://blast.ncbi.nlm.nih.govで自由に利用可能なBLASTなどのプログラムによって容易に測定され得る。
IL−7
【0120】
インターロイキン−7受容体は、2本の鎖:インターロイキン−7受容体−α鎖(CD127)および共通γ鎖受容体(CD132)で構成されている。この共通γ鎖受容体は、インターロイキン−2、−4、−9および−15をはじめとした様々なサイトカインと共有される。インターロイキン−7受容体は、ナイーブT細胞およびメモリーT細胞をはじめとした様々な細胞型上で発現される。
【0121】
インターロイキン−7受容体は、リンパ球の発達、特に、V(D)J組換えにおいて極めて重要な役割を果たす。IL−7Rは、STAT5およびヒストンアセチル化によって、T細胞受容体ガンマ遺伝子を含むゲノム領域の接近可能性もコントロールする。マウスでのノックアウト研究から、アポトーシスの阻止は、Tリンパ球の分化および活性化におけるこのタンパク質の必須の機能であることが示唆された。
【0122】
本発明のキメラサイトカイン受容体は、IL−7受容体のα鎖および/もしくはIL−7受容体(すなわち共通)のγ鎖、またはその変異型を含み得る。
【0123】
IL−7のα鎖のエンドドメインに対するアミノ酸配列を配列番号3として示す。
配列番号3−ヒトIL−7Rαに由来するエンドドメイン:
【化3】
【化4】
IL−15
【0124】
インターロイキン15(IL−15)は、IL−2と構造的類似性を有するサイトカインである。IL−2と同様に、IL−15は、IL−2/IL−15受容体ベータ鎖(CD122)および共通ガンマ鎖(ガンマ−C、CD132)から構成される複合体に結合し、その複合体を通じてシグナル伝達する。IL−15は、ウイルス感染後に単核食細胞(およびいくつかの他の細胞)によって分泌される。IL−15は、ナチュラルキラー細胞の細胞増殖を誘導する。
【0125】
インターロイキン−15受容体は、インターロイキン15受容体アルファサブユニットからなり、共通のベータおよびガンマサブユニットをIL−2受容体と共有する。
スペーサー
【0126】
本発明のキメラサイトカイン受容体は、抗原結合ドメインを膜貫通ドメインと接続し、抗原結合ドメインをエンドドメインと空間的に分離する、スペーサーを含み得る。フレキシブルスペーサーは、抗原結合ドメインが、抗原結合を可能にする種々の方向に向くことを可能にする。
【0127】
本発明の細胞が、2つまたはそれを超えるキメラサイトカイン受容体を含む場合、スペーサーは、同じであっても異なってもよい。本発明の細胞が、キメラサイトカイン受容体(CCR)およびキメラ抗原受容体(CAR)を含む場合、そのCCRおよびCARのスペーサーは、異なってもよく、例えば、異なる長さを有し得る。CARのスペーサーは、各CCRのスペーサーより長い場合がある。
【0128】
スペーサー配列は、例えば、IgG1 Fc領域、IgG1ヒンジまたはCD8ストークを含み得る。リンカーは、IgG1 Fc領域、IgG1ヒンジまたはCD8ストークと類似の長さおよび/またはドメインスペーシング特性を有する代替的リンカー配列を二者択一的に含み得る。
【0129】
ヒトIgG1スペーサーは、Fc結合モチーフを除去するように変更され得る。
【0130】
これらのスペーサーに対するアミノ酸配列の例を下記に示す:
配列番号4(ヒトIgG1のヒンジ−CH2CH3)
【化5】
配列番号5(ヒトCD8ストーク):
【化6】
配列番号6(ヒトIgG1ヒンジ):
【化7】
膜貫通ドメイン
【0131】
膜貫通ドメインは、膜にまたがるCCRの配列である。膜貫通ドメインは、疎水性アルファヘリックスを含み得る。膜貫通ドメインは、CD28に由来し得、良好な受容体安定性をもたらす。
【0132】
あるいは、膜貫通ドメインは、サイトカイン受容体、例えば、エンドドメインが由来するサイトカインと同じサイトカインに由来し得る。
【0133】
膜貫通ドメインは、例えば、IL−2R、IL−7RまたはIL−15Rに由来し得る。配列番号7−ヒト共通ガンマ鎖に由来する膜貫通:
【化8】
配列番号8−ヒトIL−2Rβに由来する膜貫通:
【化9】
配列番号9−ヒトIL−7Rαに由来する膜貫通:
【化10】
配列番号10−ヒトIL−15Rαに由来する膜貫通:
【化11】
リガンド結合エキソドメイン
【0134】
リガンド結合ドメインは、抗原結合ドメインを含む。抗原結合ドメインは、CCRに対する標的リガンド、すなわち、腫瘍分泌因子またはケモカインまたは細胞表面抗原に結合する。
【0135】
数多くの抗原結合ドメインが、当該分野で公知であり、それらとしては、抗体、抗体模倣物およびT細胞受容体の抗原結合部位に基づくものが挙げられる。例えば、抗原結合ドメインは、モノクローナル抗体に由来する一本鎖可変フラグメント(scFv);標的抗原の天然受容体由来の結合ドメイン;標的リガンドに対して十分な親和性を有するペプチド;単一ドメインバインダー(例えば、ラクダ科動物のもの);人工単一バインダー(artificial binder single)(例えば、Darpin);またはT細胞受容体に由来する一本鎖を含み得る。
【0136】
用語「リガンド」は、CCRの抗原結合ドメインによって特異的に認識および結合される実体を意味する「抗原」の同意語として使用される。
【0137】
リガンドが、腫瘍分泌因子である場合、抗原結合ドメインは、免疫グロブリンベースの抗原結合部位(例えば、scFvまたは単一ドメインバインダー)を含み得る。
【0138】
リガンドが、ケモカインである場合、抗原結合ドメインは、そのケモカインに対する天然の受容体のケモカイン結合部分を含み得る。
リガンド
【0139】
本発明のCCRは、リガンドに結合する。
【0140】
そのリガンドは、可溶性リガンド(例えば、腫瘍分泌因子またはケモカイン)であり得る。
【0141】
あるいは、そのリガンドは、膜結合型リガンド(例えば、細胞表面抗原)であり得る。
【0142】
用語「可溶性リガンド」は、細胞の一部ではないかまたは細胞に付着しておらず、細胞外空間で、例えば、目的の組織の体液中で自由に動くリガンドまたは抗原を表すために使用される。可溶性リガンドは、個体の血清、血漿または他の体液中において無細胞の状態で存在し得る。
【0143】
可溶性リガンドは、がんなどの特定の疾患の存在または病理に関連し得る。
【0144】
可溶性リガンドは、がんセクレトーム(cancer secretome)、すなわち腫瘍によって分泌される因子のコレクションの一部であり得、がん幹細胞、非幹細胞または周囲のストローマ由来であり得る。可溶性リガンドは、腫瘍細胞によって分泌または脱落され得る(次の項を参照のこと)。
【0145】
可溶性リガンドは、疾患または罹患組織に特徴的であり得る。可溶性リガンドは、疾患を有する被験体にもっぱら見られ得るか、または健康な被験体と比べて疾患を有する被験体において;もしくは健康な組織と比べて罹患組織においてより高いレベルで見られ得る。可溶性リガンドは、健康な被験体と比べて疾患を有する被験体において;または健康な組織と比べて罹患組織において、少なくとも2倍、5倍、10倍、100倍、1000倍、10,000倍または100,000倍高いレベルで発現され得る。
【0146】
用語「細胞表面抗原」および「細胞表面リガンド」は、細胞表面に付着されているかまたは細胞表面上に発現されるリガンドを意味する「膜結合型抗原」および「膜結合型リガンド」の同意語として使用される。細胞表面リガンドは、例えば、膜貫通タンパク質であり得る。
【0147】
細胞表面リガンドが見られる細胞は、がん細胞などの標的細胞であり得る。
【0148】
細胞表面リガンドは、がんなどの特定の疾患の存在または病理に関連し得る。あるいは、細胞表面リガンドは、必ずしも病的状態に関連することなく、標的細胞(例えば、B細胞)の細胞型に特徴的であり得る。
【0149】
細胞表面リガンドが、疾患または罹患組織に特徴的である場合、その細胞表面リガンドは、疾患を有する被験体の関連する細胞上にもっぱら見られ得るか、または健康な被験体と比べて疾患を有する被験体の関連する細胞上において;もしくは健康な組織と比べて罹患組織の関連する細胞上においてより高いレベルで見られ得る。細胞表面リガンドは、健康な被験体と比べて疾患を有する被験体の細胞上において;または健康な組織と比べて罹患組織において、少なくとも2倍、5倍、10倍、100倍、1000倍、10,000倍または100,000倍高いレベルで発現され得る。
腫瘍分泌因子
【0150】
CCRによって認識されるリガンドは、腫瘍によって分泌されたまたは腫瘍から脱落した可溶性リガンドであり得る。
【0151】
この「腫瘍分泌因子」は、例えば、前立腺特異的抗原(PSA)、がん胎児抗原(CEA)、血管内皮成長因子(VEGF)またはがん抗原−125(CA−125)であり得る。
【0152】
腫瘍分泌因子は、サイトカインではない可溶性リガンドであり得る。ゆえに、本発明のCCRは、非サイトカインリガンドに対する結合特異性をサイトカイン受容体のエンドドメイン上に移植している。
前立腺特異的抗原(PSA)
【0153】
可溶性リガンドは、前立腺特異的抗原(PSA)であり得る。
【0154】
前立腺特異的抗原(PSA)は、ガンマ−セミノプロテインまたはカリクレイン−3(KLK3)としても知られ、ヒトにおいてKLK3遺伝子によってコードされる糖タンパク質酵素である。PSAは、カリクレイン関連ペプチダーゼファミリーのメンバーであり、前立腺の上皮細胞によって分泌される。
【0155】
PSAは、健康な前立腺を有する男性の血清中に少量で存在するが、前立腺がんおよび他の前立腺障害を有する個体では増加している。
【0156】
PSAは、237残基の糖タンパク質であり、KLK2によって活性化される。その生理学的役割は、精液の凝塊成分の液化であり、精子の遊離をもたらす。がんでは、PSAは、新生物の成長および転移のプロセスに関与し得る。
【0157】
PSAは、典型的なHis−Asp−Ser三連構造、および他のカリクレイン関連ペプチダーゼの触媒ドメインに類似の触媒ドメインを有するキモトリプシン様セリンプロテアーゼである。PSAの結晶構造は、i)モノクローナル抗体(mAb)8G8F5との複合体として、およびii)2つのmAbである5D5A5および5D3D11とのサンドイッチ複合体(Sturaら(J.Mol.Biol.(2011)414:530−544)として、得られた。
【0158】
様々なモノクローナル抗体が知られており、それらとしては、Bavatら、Avicenna J.Med.Biotechnol.2015,7:2−7;およびLeinonen(2004)289:157−67に記載されているクローン2G2−B2、2D8−E8、IgG1/Kが挙げられる。
【0159】
本発明のCCRは、例えば、PSAに結合するmAb(例えば、8G8F5、5D5A5または5D3D11)由来の6つのCDRまたはVHおよび/もしくはVLドメインを含み得る。
【0160】
CCRが、PSA上の異なるエピトープに結合する2つの抗原結合特異性を含む場合、一方は、例えば、5D3D11に基づき(bsed)得、もう一方は、例えば、5D5A5に基づき得る。
【0161】
5D3D11および5D5A5のVHおよびVLに対するアミノ酸配列を下記に示す。相補性決定領域(CDR)を太字で強調している。
【化12】
【化13】
【0162】
細胞が、2つのCCRを含む場合、第1のCCRの抗原結合ドメインは、5D5A5由来の6つのCDRを含み得、第2のCCRの抗原結合ドメインは、5D3D11由来の6つのCDRを含み得る。
【0163】
第1のCCRの抗原結合ドメインは、5D5A5またはその変異型由来のVHおよび/またはVLドメインを含み得;第2のCCRの抗原結合ドメインは、5D3D11またはその変異型由来のVHおよび/またはVLドメインを含み得る。変異型のVHおよびVLドメインは、上に示した配列と少なくとも80、90、95または99%の同一性を有し得るが、但し、PSA結合活性を保持する。
【0164】
PSAに結合するCCRを発現する細胞は、前立腺がんの処置において有用であり得る。
がん胎児抗原(CEA)
【0165】
可溶性リガンドは、CEAであり得る。
【0166】
がん胎児抗原(CEA)は、細胞接着に関わる高度に近縁の一連の糖タンパク質のことを表す。CEAは、正常には、胎児発生中の胃腸組織において産生されるが、その産生は、誕生前に停止する。ゆえに、CEAは、通常、健康な成人の血液中には非常に低いレベルでしか存在しない。しかしながら、いくつかのタイプのがんにおいてその血清レベルが上昇し、これは、それを臨床検査において腫瘍マーカーとして使用できることを意味する。
【0167】
CEAは、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型の細胞表面糖タンパク質であり、その特殊なシアロフコシル化された(specialized sialofucosylated)グリコフォームは、結腸癌細胞の転移性播種にとって極めて重要であり得る機能的な結腸癌L−セレクチンおよびE−セレクチンリガンドとして働く。免疫学的には、それらは、CD66表面抗原分類のメンバーとして特徴付けられる。
【0168】
CEAおよび関連遺伝子は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属するCEAファミリーを構成する。ヒトにおいて、がん胎児抗原ファミリーは、29個の遺伝子からなり、そのうち18個は、通常、発現されている。以下は、がん胎児抗原関連細胞接着タンパク質をコードするヒト遺伝子のリストである:CEACAM1、CEACAM3、CEACAM4、CEACAM5、CEACAM6、CEACAM7、CEACAM8、CEACAM16、CEACAM18、CEACAM19、CEACAM20、CEACAM21。
【0169】
CEAを標的にする様々な抗体が、WO2011/034660に記載されている。
【0170】
CEAに対するCCRを発現する細胞は、例えば、直腸結腸がんの処置において有用であり得る。
血管内皮成長因子(VEGF)
【0171】
可溶性リガンドは、VEGFであり得る。
【0172】
血管内皮成長因子(VEGF)は、細胞によって産生される、血管発生および血管新生を刺激するシグナルタンパク質である。血管内皮成長因子は、血液循環が不十分であるときに組織への酸素供給を回復させる系の一部である。VEGFの血清濃度は、気管支喘息および真性糖尿病において高い。VEGFの通常の機能は、胚発生中に新しい血管を作ること、損傷後に新しい血管を作ること、運動後に筋肉を作ること、および遮断された脈管を迂回する新しい脈管(側副血行路)を作ることである。
【0173】
VEGFは、過剰発現されると、疾患に寄与し得る。固形がんは、十分な血液の供給がないと、限られたサイズを超えて成長できない;VEGFを発現し得るがんは、成長でき、転移できる。
【0174】
VEGFは、シスチン−ノット成長因子の血小板由来成長因子ファミリーのサブファミリーである。それらは、血管発生(胎児の循環器系のデノボ形成)と血管新生(既存の脈管構造からの血管の成長)の両方に関わる重要なシグナル伝達タンパク質である。
【0175】
VEGFファミリーは、哺乳動物において5つのメンバーを含む:VEGF−A、胎盤成長因子(PGF)、VEGF−B、VEGF−CおよびVEGF−D。
【0176】
VEGFに対する様々な抗体(例えば、ベバシズマブ(Avastin)およびラニビズマブ(Lucentis))が知られている。
がん抗原125(CA−125)
【0177】
CA−125は、卵巣がんに関連し、卵巣がんの検出のために最も高頻度で使用されるバイオマーカーである。CA−125は、卵巣がんに対するマーカーとして最もよく知られているが、子宮体がん、ファロピウス管がん、肺がん、乳がんおよび消化器がんをはじめとした他のがんでも増加していることがある。
【0178】
ヒトCA−125(ムチン−16としても知られる)の配列は、NCBIアクセッション番号078966から入手可能である。
【0179】
いくつかのCA125結合モノクローナル抗体が知られており、それらとしては、OC125およびM11が挙げられる(Nustadら、1996,Tumour Biol.17:196−329)。この研究では、CA125抗原に対する26個のモノクローナル抗体の特異性が調べられた。CA125抗原は、たった2つの主要な抗原性ドメインを有することが見出され、それらの抗原性ドメインは、抗体をOC125様(群A)またはM11様(群B)として分類する。
【0180】
本発明のキメラサイトカイン受容体は、そのような抗体由来の抗原結合ドメインを含み得る。そのようなCCRを含む細胞は、例えば、卵巣がんの処置において有用であり得る。
【0181】
腫瘍分泌因子(または膜結合型である場合、膜貫通タンパク質)は、以下の非網羅的リストから選択され得る:
【0182】
ALKタンパク質の変異型をもたらすALK遺伝子の再配列および過剰発現
アルファ−フェトプロテイン(AFP)
ベータ−2−ミクログロブリン(B2M)
ベータ−ヒト絨毛性ゴナドトロピン(ベータ−hCG)
変異したB−REFタンパク質をもたらすBRAF V600変異
C−kit/CD117
CA15−3/CA27.29
CA19−9
カルシトニン
CD20
クロモグラニンA(CgA)
サイトケラチンフラグメント21−1
EGFR遺伝子変異解析
エストロゲン受容体(ER)/プロゲステロン受容体(PR)
フィブリン/フィブリノゲン
HE4
HER2/neu遺伝子の増幅またはタンパク質の過剰発現
免疫グロブリン
KRAS遺伝子変異解析
乳酸デヒドロゲナーゼ
ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)
核マトリックスタンパク質22
プログラム死リガンド1(PD−L1)
チログロブリン
ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子(uPA)およびプラスミノーゲン活性化因子阻害剤(PAI−1)
ケモカイン
【0183】
ケモカインは、走化性サイトカインである。細胞遊走は、細胞外マトリックスに埋め込まれて固定化されたケモカインの勾配によってガイドされる。CXCL12のような正に帯電したケモカインは、負に帯電したECM分子に結合する。これらの勾配は、がん細胞および免疫細胞のホーミングのための道を提供する。T細胞に対する作用は、細胞傷害性T細胞のホーミングに対して阻害性であるとみられるが、制御性T細胞は、引きつけられるとみられる。
【0184】
ケモカインは、およそ8〜10キロダルトンの質量であり、3次元形状の形成にとって重要な保存された位置に4つのシステイン残基を有する。
【0185】
いくつかのケモカインは、炎症促進性であると考えられており、免疫応答中に誘導されて免疫系の細胞を感染部位にリクルートし得るが、その他のものは、恒常性であると考えられており、組織の維持または発生の正常なプロセスにおいて細胞の遊走の制御に関わる。
【0186】
ケモカインは、4つの主要なサブファミリーに分類される:CXC、CC、CX3CおよびXC。これらのタンパク質のすべてが、標的細胞の表面上に選択的に見られるケモカイン受容体と呼ばれるGタンパク質結合型膜貫通受容体と相互作用することによって生物学的作用を発揮する。
【0187】
ケモカインの主な役割は、細胞の遊走をガイドするための化学誘引物質として作用することである。ケモカインによって引きつけられる細胞は、ケモカインの供給源に向かって高くなっていくケモカイン濃度のシグナルに従う。いくつかのケモカインは、リンパ球をリンパ節に向かわせるなどの免疫監視機構のプロセスの間に免疫系の細胞を制御するので、それらのケモカインは、これらの組織に存在する抗原提示細胞と相互作用することによって病原体の浸潤をスクリーニングし得る。他のケモカインは、炎症性であり、細菌感染、ウイルスおよび他の作用物質に応答して多種多様の細胞から放出される。それらの放出は、インターロイキン1などの炎症促進性サイトカインによって刺激されることが多い。炎症性ケモカインは、主に、白血球に対する化学誘引物質として機能し、単球、好中球、および血液由来の他のエフェクター細胞を感染部位または組織損傷部位にリクルートする。ある特定の炎症性ケモカインは、免疫応答を惹起するかまたは創傷治癒を促進するように細胞を活性化する。それらは、多くの異なる細胞型によって放出され、自然免疫系と適応免疫系の両方の細胞をガイドするように働く。
CCケモカイン
【0188】
CCケモカイン(またはβ−ケモカイン)タンパク質は、隣接した2つのシステイン(アミノ酸)をアミノ末端付近に有する。哺乳動物について報告されているこのサブグループの異なるメンバーは、少なくとも27個あり、CCケモカインリガンド(CCL)−1から−28と呼ばれ;CCL10は、CCL9と同じである。このサブファミリーのケモカインは、通常、4つのシステインを含む(C4−CCケモカイン)が、少数のCCケモカインが、6つのシステインを有する(C6−CCケモカイン)。C6−CCケモカインとしては、CCL1、CCL15、CCL21、CCL23およびCCL28が挙げられる。CCケモカインは、単球および他の細胞型(例えば、NK細胞および樹状細胞)の遊走を誘導する。
【0189】
CCケモカインの例としては、単球が血流から離れて周囲の組織に入ることによって組織マクロファージになるように誘導する単球化学誘引物質タンパク質−1(MCP−1またはCCL2)が挙げられる。
【0190】
CCL5(またはRANTES)は、受容体CCR5を発現するT細胞、好酸球および好塩基球などの細胞を引きつける。
CXCケモカイン
【0191】
CXCケモカイン(またはα−ケモカイン)の2つのN末端システインは、この名称において「X」で表されている1つのアミノ酸によって分断されている。哺乳動物において報告されている異なるCXCケモカインは17個あり、それらは、CXCモチーフの最初のシステインの直前にグルタミン酸−ロイシン−アルギニン(または短縮してELR)という特異的なアミノ酸配列(またはモチーフ)を有するもの(ELR陽性)とELRモチーフを有しないもの(ELR陰性)という2つのカテゴリーに細分される。ELR陽性CXCケモカインは、好中球の遊走を特異的に誘導し、ケモカイン受容体CXCR1およびCXCR2と相互作用する。
Cケモカイン
【0192】
ケモカインの第3の群は、Cケモカイン(またはγケモカイン)として知られており、2つのシステイン;N末端の1つのシステインおよび下流の1つのシステインしか有しないという点において他のすべてのケモカインと異なる。このサブグループに対して2つのケモカインが報告されており、XCL1(リンホタクチン−α)およびXCL2(リンホタクチン−β)と呼ばれている。
CX3Cケモカイン
【0193】
CX3Cケモカインは、2つのシステインの間に3つのアミノ酸を有する。これまでに発見された唯一のCX3Cケモカインは、フラクタルカイン(またはCX3CL1)と呼ばれている。CX3Cケモカインは、分泌され、かつそれを発現する細胞の表面に結合され、それにより、化学誘引物質と接着分子の両方として働く。
【0194】
ケモカイン受容体は、白血球表面上に見られる7つの膜貫通ドメインを含むGタンパク質共役受容体である。およそ19個の異なるケモカイン受容体が、これまでに特徴付けられており、それらは、それらが結合するケモカインのタイプに応じて4つのファミリーに分けられる;CXCケモカインに結合するCXCR、CCケモカインに結合するCCR、唯一のCX3Cケモカイン(CX3CL1)に結合するCX3CR1、および2つのXCケモカイン(XCL1およびXCL2)に結合するXCR1。ケモカイン受容体は、多くの構造的特徴を共有する;それらは、サイズが似ており(約350アミノ酸を有する)、短い酸性のN末端、3つの細胞内および3つの細胞外の親水性ループを有する7つのヘリックス膜貫通ドメイン、ならびに受容体の制御にとって重要なセリンおよびトレオニン残基を含む細胞内C末端を有する。ケモカイン受容体の最初の2つの細胞外ループはそれぞれ、これらのループの間にジスルフィド架橋の形成を可能にする保存されたシステイン残基を有する。Gタンパク質は、ケモカイン受容体のC末端と共役して、受容体の活性化の後に細胞内のシグナル伝達を可能にするのに対して、ケモカイン受容体のN末端ドメインは、リガンド結合の特異性を決定する。
CXCL12
【0195】
CXCL12は、リンパ球に対して強い走化性を有する。CXCL12は、CXCR4依存性機構を通じて内皮前駆細胞(EPC)を骨髄からリクルートすることによって、血管新生において重要な役割を果たす。このCXCL12の機能は、CXCL12を発がん、および腫瘍進行に結びつく新生血管形成における非常に重要な因子にする。CXCL12は、腫瘍転移における役割も有し、受容体CXCR4を発現するがん細胞が、リガンドであるCXCL12を放出する転移標的組織に引きつけられる。
【0196】
CXCL12に対する受容体は、CXCR4である。本発明のCCRは、IL−2受容体などのサイトカイン受容体に由来するエンドドメインに連結された、CXCR4由来のCXCL12結合ドメインを含み得る。
【0197】
IL2とCXCR4との対になった発現は、がん治療のための治療用T細胞の生着を支持し得る。多発性骨髄腫では、そのようなCCRを発現している細胞は、細胞を動員し得、骨髄の環境を変化させ得る。そのような細胞は、固形腫瘍の微小環境を改変することによる固形がんの処置における用途も有する。
【0198】
CXCR4に対するアミノ酸配列は、配列番号17として下記に示される。
【化14】
【0199】
CXCR7は、CXCL12にも結合する。
CCL2
【0200】
ケモカイン(C−Cモチーフ)リガンド2(CCL2)は、単球走化性タンパク質1(MCP1)および小誘導性サイトカインA2とも称される。CCL2は、組織損傷または感染によってもたらされる炎症部位に単球、メモリーT細胞および樹状細胞をリクルートする。
【0201】
CCR2およびCCR4は、CCL2に結合する2つの細胞表面受容体である。
【0202】
CCR2は、配列番号18として示されるアミノ酸配列を有する。
【化15】
【0203】
CCR4は、配列番号19として示されるアミノ酸配列を有する。
【化16】
【0204】
本発明のCCRは、そのリガンド結合ドメインに、CCR2またはCCR4のCCL2結合部位を含み得る。
細胞表面抗原
【0205】
リガンドは、膜貫通タンパク質などの細胞表面抗原であり得る。
【0206】
細胞表面抗原は、CD22であり得る。
【0207】
CD22、すなわち表面抗原分類22は、レクチンのSIGLECファミリーに属する分子である。CD22は、成熟B細胞の表面上に見られ、それほどではないにせよ一部の未熟なB細胞上にも見られる。一般的に言えば、CD22は、免疫系の過剰活性化および自己免疫疾患の発生を防ぐ制御性分子である。
【0208】
CD22は、糖結合膜貫通タンパク質であり、シアル酸に特異的に結合し、N末端に免疫グロブリン(Ig)ドメインが位置している。Igドメインが存在することから、CD22は免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーとなっている。CD22は、B細胞受容体(BCR)シグナル伝達に対する阻害性受容体として機能する。
【0209】
CD22の高発現は、非ホジキンリンパ腫および他のリンパ腫に見られる。CD22を標的にする様々なモノクローナル抗体が知られており、それらとしては、エピラツズマブ、イノツズマブオゾガマイシン、m971およびm972が挙げられる。
キメラ抗原受容体(CAR)
【0210】
本発明の細胞は、1つまたはそれを超えるキメラ抗原受容体も含み得る。CARは、腫瘍関連抗原に特異的であり得る。
【0211】
古典的CARは、細胞外抗原認識ドメイン(バインダー)を細胞内シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)に結び付けるキメラI型膜貫通タンパク質である。バインダーは、典型的にはモノクローナル抗体(mAb)から誘導された1本鎖可変フラグメント(scFV)であるが、抗体様抗原結合部位またはリガンドベースの抗原結合部位を含む他のフォーマットに基づくことも可能である。膜貫通ドメインは、細胞膜にタンパク質をつなぎ止め、スペーサーをエンドドメインに結び付ける。
【0212】
初期のCAR設計は、FcεR1またはCD3ζのγ鎖のどちらかの細胞内部分から誘導されたエンドドメインを有していた。したがって、これらの第一世代受容体は、免疫学的シグナル1を伝達するもので、同種標的細胞のT細胞による致死を誘発するのに十分ではあったが、T細胞を十分に活性化して増殖および生存をもたらすことはなかった。この限界を克服するため、複合エンドドメインが構築された:T細胞共刺激分子の細胞内部分とCD3ζの細胞内部分の融合により、抗原認識後活性化シグナルおよび共刺激シグナルを同時に伝達することができる第二世代受容体がもたらされる。最も一般的に使用される共刺激ドメインは、CD28の共刺激ドメインである。これは、T細胞増殖を誘発する最も強力な共刺激シグナル、すなわち免疫学的シグナル2を供給する。また、生存シグナルを伝達する密接に関連したOX40および41BBなど、TNF受容体ファミリーのエンドドメインを含む一部の受容体も記載されている。活性化シグナル、増殖シグナルおよび生存シグナルを伝達することができるエンドドメインを有するさらにいっそう強力な第三世代CARが現在記載されている。
【0213】
CARコード核酸は、例えば、レトロウイルスベクターを用いてT細胞に移入され得る。こうして、多数の抗原特異的T細胞が、養子細胞移入のために生成され得る。CARが標的抗原と結合したとき、これにより、活性化シグナルの、それが発現されるT細胞への伝達がもたらされる。すなわち、CARは、標的抗原を発現する細胞に向けたT細胞の特異性および細胞傷害性を誘導する。
【0214】
本発明の細胞は、1つまたはそれを超えるCARを含み得る。
【0215】
上記CAR(複数可)は、抗原結合ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメインおよびエンドドメインを含み得る。エンドドメインは、T細胞の活性化シグナルを伝達するドメインを含み得るか、またはそれと会合し得る。
抗原結合ドメイン
【0216】
CAR抗原結合ドメイン
抗原結合ドメインは、抗原を認識するCARの一部である。
【0217】
数多くの抗原結合ドメインが、当該分野で公知であり、それらとしては、抗体、抗体模倣物およびT細胞受容体の抗原結合部位に基づくものが挙げられる。例えば、抗原結合ドメインは、モノクローナル抗体に由来する一本鎖可変フラグメント(scFv);標的抗原の天然リガンド;標的に対して十分な親和性を有するペプチド;単一ドメインバインダー(例えば、ラクダ科動物のもの);人工単一バインダー(artificial binder single)(例えば、Darpin);またはT細胞受容体に由来する一本鎖を含み得る。
【0218】
用語「リガンド」は、CARの抗原結合ドメインによって特異的に認識および結合される実体を意味する「抗原」の同意語として使用される。
細胞表面抗原
【0219】
CARは、細胞表面抗原、すなわち、腫瘍細胞などの標的細胞の表面上に発現される膜貫通タンパク質などの実体を認識し得る。
【0220】
CARは、腫瘍関連細胞表面抗原に特異的に結合し得る。
【0221】
様々な腫瘍関連抗原(TAA)が知られており、それらのうちのいくつかを表1に示す。本発明において使用される抗原結合ドメインは、この中に示されるTAAに結合することができるドメインであり得る。
【表1】
【0222】
CARが、B細胞リンパ腫または白血病抗原(例えば、CD19、CD20、CD52、CD160またはCD5)を認識する場合、CCRは、CD22などの別のB細胞抗原を認識し得る。
前立腺がん関連抗原
【0223】
CARは、前立腺がんに関連する細胞表面抗原(例えば、前立腺幹細胞抗原(PSCA)または前立腺特異的膜抗原(PSMA))に特異的に結合し得る。
【0224】
PSCAは、グリコシルホスファチジルイノシトールアンカー型の細胞膜糖タンパク質である。PSCAは、多くの前立腺がんにおいてアップレギュレートされ、膀胱および膵臓のがんでも検出される。
【0225】
様々な抗PSCA抗体が知られており、例えば、7F5(Morgenrothら(Prostate(2007)67:1121−1131);1G8(Hillerdalら(2014)BMC Cancer 14:30);およびHa1−4.117(Abate−Dagaら(2014)25:1003−1012)である。
【0226】
本発明のCCR発現細胞は、これらの抗体のうちの1つに基づく抗原結合ドメインを含み得る抗PSCA CARも発現し得る。
【0227】
PSMAは、膜に存在する亜鉛金属酵素である。PSMAは、ヒト前立腺において強く発現され、それは他の大抵の組織における発現よりも100倍高い。がんにおいて、PSMAは、発現がアップレギュレートされ、前立腺がんにおいて2番目に多くアップレギュレートされる遺伝子と呼ばれ、非がん性の前立腺よりも8〜12倍高い。PSMAは、ヒト前立腺および前立腺がんにおける発現に加えて、腫瘍の新生脈管構造においても高度に発現されると見出されているが、すべてのタイプの固形腫瘍(例えば、腎臓、乳房、結腸など)の正常な脈管構造では高度に発現されると見出されていない。
【0228】
様々な抗PSMA抗体が知られており、例えば、7E11、J591、J415およびHybritech PEQ226.5およびPM2J004.5であり、これらの各々が、PSMAの異なるエピトープに結合する(Changら(1999)Cancer Res 15:3192−8)。
【0229】
本発明のCCR発現細胞は、これらの抗体のうちの1つに基づく抗原結合ドメインを含み得る抗PSMA CARも発現し得る。
【0230】
例えば、CCRは、配列番号20として示される配列を有する、J591に基づくscFvを含み得る。
【化17】
CAR膜貫通ドメイン
【0231】
膜貫通ドメインは、膜にまたがるCARの配列である。CAR膜貫通ドメインは、疎水性アルファヘリックスを含み得る。膜貫通ドメインは、良好な受容体安定性をもたらすCD28に由来し得る。
【0232】
CARシグナルペプチド
本明細書に記載のCARおよびCCRはシグナルペプチドを含み得、その結果、それらがT細胞などの細胞において発現されるとき、新生タンパク質を小胞体、それに続いて細胞表面へと指向させ、そこで発現される。
【0233】
シグナルペプチドのコアは、単一アルファ−へリックスを形成する傾向を有する疎水性アミノ酸の長いストレッチを含み得る。シグナルペプチドは、アミノ酸の短い正に荷電したストレッチから始まり得、これが転位中におけるポリペプチドの適切なトポロジーを強化する助けとなる。シグナルペプチドの末端に、典型的にはシグナルペプチダーゼにより認識され、切断されるアミノ酸のストレッチが存在する。シグナルペプチダーゼは、転位中または転位完了後に切断して、遊離シグナルペプチドおよび成熟タンパク質を生成させ得る。次いで、遊離シグナルペプチドは、特異的プロテアーゼにより消化される。
【0234】
シグナルペプチドは、分子のアミノ末端に位置し得る。
【0235】
シグナルペプチドは、配列番号21、22もしくは23に示される配列、または5、4、3、2もしくは1個のアミノ酸変異(挿入、置換または付加)を有するそれらの変異型を含み得るが、ただし、そのシグナルペプチドは、CARの細胞表面発現を引き起こすようになおも機能する。
【化18】
【0236】
配列番号21のシグナルペプチドは、小型であり高効率であり、TCRβ鎖に由来する。末端グリシンの後で約95%の切断をもたらすことから、シグナルペプチダーゼによる効率的な除去をもたらすと予測される。
【化19】
【0237】
配列番号22のシグナルペプチドは、IgG1に由来する。
【化20】
【0238】
配列番号23のシグナルペプチドは、CD8aに由来する。
【0239】
CARエンドドメイン
エンドドメインは、膜の細胞内の側に位置する古典的CARの一部である。
【0240】
エンドドメインは、古典的CARのシグナル伝達部分である。抗原結合ドメインによる抗原認識の後、個々のCAR分子クラスター、天然のCD45およびCD148がシナプスから排除され、シグナルが細胞に伝達される。
【0241】
CARエンドドメインは、細胞内のシグナル伝達ドメインであり得るか、またはそれを含み得る。代替の実施形態では、本CARのエンドドメインは、細胞質に存在する細胞内のシグナル伝達分子と相互作用することができ、シグナル伝達をもたらし得る。
【0242】
上記細胞内のシグナル伝達ドメインまたは別個の細胞内のシグナル伝達分子は、T細胞シグナル伝達ドメインであり得るか、またはそれを含み得る。
【0243】
最も一般的に使用されるシグナル伝達成分は、3つのITAMを含むCD3−ゼータエンドドメインのエンドドメイン成分である。これは、抗原が結合された後、活性化シグナルをT細胞に伝達する。CD3−ゼータは、十分に適格な活性化シグナルを提供しない可能性があるので、追加の共刺激シグナル伝達が必要とされ得る。例えば、キメラCD28およびOX40は、CD3−ゼータと併用されて、増殖/生存シグナルを伝達し得るか、または3つ全部が一緒に使用され得る。
【0244】
CARは、CD3−ゼータエンドドメインのみを含み得るか、CD28もしくはOX40のエンドドメインとともにCD3−ゼータエンドドメインを含み得るか、またはCD28エンドドメインならびにOX40およびCD3−ゼータエンドドメインを含み得る。
【0245】
CARエンドドメインは、以下のうちの1つまたはそれを超えるものを含み得る:ICOSエンドドメイン、CD27エンドドメイン、BTLAエンドドメイン、CD30エンドドメイン、GITRエンドドメインおよびHVEMエンドドメイン。
【0246】
エンドドメインは、配列番号24〜32に示された配列または少なくとも80%の配列同一性を有するその変異型を含み得る。
【化21】
【化22】
【化23】
【0247】
変異型の配列は、配列番号24〜32と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%または99%の配列同一性を有し得るが、但し、その配列は、有効な細胞内のシグナル伝達ドメインを提供する。
核酸
【0248】
本発明は、本発明のCCRをコードする核酸も提供する。
【0249】
その核酸は、構造:
AgB−スペーサー−TM−エンド
(ここで、
AgB1は、CCRの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
スペーサー1は、CCRのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM1は、CCRの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド1は、CCRのエンドドメインをコードする核酸配列である)
を有し得る。
核酸構築物
【0250】
本発明はさらに、本発明の第1の態様に関連して規定されたような第1のCARをコードする第1の核酸配列;および本発明の第1の態様に関連して規定されたような第2のCARをコードする第2の核酸配列を含む核酸構築物を提供する。
【0251】
核酸構築物は、以下の構造:
AgB1−スペーサー1−TM1−エンド1−coexpr−AgB2−スペーサー2−TM2−エンド2
(ここで、
AgB1は、第1のCCRの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
スペーサー1は、第1のCCRのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM1は、第1のCCRの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド1は、第1のCCRのエンドドメインをコードする核酸配列であり;
coexprは、両CCRの共発現を可能にする核酸配列であり、
AgB2は、第2のCCRの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
スペーサー2は、第2のCCRのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM2は、第2のCCRの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
エンド2は、第2のCCRのエンドドメインをコードする核酸配列である)
を有し得る。
【0252】
核酸構築物が、T細胞などの細胞において発現されるとき、それは、第1および第2のCCRが細胞表面で共発現されるように切断部位で切断されるポリペプチドをコードする。
【0253】
第1および第2のCCRは、同じ抗原上の異なるエピトープに結合し得る。
【0254】
第1および第2のCCRは、相補的なエンドドメイン、例えば、サイトカイン受容体のαまたはβ鎖に由来するエンドドメインおよび同じサイトカイン受容体のγ鎖に由来するエンドドメインを有し得る。
【0255】
本発明は、本発明のCCRおよびCARをコードする核酸構築物も提供する。そのような構築物は、構造:
CCRAgB−CCRスペーサー−CCRTM−CCRエンド−coexpr−CARAgB−CARスペーサー−CARTM−CARエンド
またはCARAgB−CARスペーサー−CARTM−CARエンド−coexpr−CCRAgB−CCRスペーサー−CCRTM−CCRエンド
(ここで、
CCRAgBは、CCRの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
CCRスペーサーは、CCRのスペーサーをコードする核酸配列であり;
CCRTMは、CCRの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
CCRエンドは、CCRのエンドドメインをコードする核酸配列であり;
coexprは、CCRとCARの両方の共発現を可能にする核酸配列であり、
CARAgBは、CARの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
CARスペーサーは、CARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
CARTMは、CARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
CARエンドは、CARのエンドドメインをコードする核酸配列である)
を有し得る。
【0256】
本発明は、本発明の第1および第2のCCRならびにCARをコードする核酸構築物も提供する。第1および第2のCCRは、同じ抗原上の別個のエピトープに結合し得る。そのような構築物は、構造:
(i)CCRAgB1−CCRスペーサー1−CCRTM1−CCRエンド1−coexpr1−CCRAgB2−CCRスペーサー2−CCRTM2−CCRエンド2−coexpr2−CARAgB−CARスペーサー−CARTM−CARエンド;
(ii)CCRAgB1−CCRスペーサー1−CCRTM1−CCRエンド1−coexpr1−CARAgB−CARスペーサー−CARTM−CARエンド−coexpr2−CCRAgB2−CCRスペーサー2−CCRTM2−CCRエンド2;または
(iii)CARAgB−CARスペーサー−CARTM−CARエンド−coexpr1−CCRAgB1−CCRスペーサー1−CCRTM1−CCRエンド1−coexpr2−CCRAgB2−CCRスペーサー2−CCRTM2−CCRエンド2;
(ここで、
CCRAgB1は、第1のCCRの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
CCRスペーサー1は、第1のCCRのスペーサーをコードする核酸配列であり;
CCRTM1は、第1のCCRの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
CCRエンド1は、第1のCCRのエンドドメインをコードする核酸配列であり;
CCRAgB2は、第2のCCRの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
CCRスペーサー2は、第2のCCRのスペーサーをコードする核酸配列であり;
CCRTM2は、第2のCCRの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
CCRエンド2は、第2のCCRのエンドドメインをコードする核酸配列であり;
Coexpr1およびcoexpr2は、隣接する2つの配列の共発現を可能にする核酸配列であり;
CARAgBは、CARの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
CARスペーサーは、CARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
CARTMは、CARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
CARエンドは、CARのエンドドメインをコードする核酸配列である)
を有し得る。
【0257】
本明細書中で使用されるとき、用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」および「核酸」は、互いと同義であると意図されている。
【0258】
遺伝暗号の縮重の結果として、数多くの異なるポリヌクレオチドおよび核酸が同じポリペプチドをコードできることは、当業者によって理解される。さらに、本明細書に記載されるポリヌクレオチドが発現されるべき任意の特定の宿主生物のコドン使用頻度を反映するために、当業者は、日常的な手法を用いて、本明細書に記載されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド配列に影響しないヌクレオチドの置換を行うことがあることが理解されるべきである。
【0259】
本発明による核酸は、DNAまたはRNAを含み得る。それらは、一本鎖または二本鎖であり得る。それらは、それらの中に合成または修飾ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドでもあり得る。オリゴヌクレオチドに対するいくつかの異なるタイプの修飾が当該分野で公知である。これらには、メチルホスホネート骨格およびホスホロチオエート骨格、分子の3’および/または5’末端におけるアクリジン鎖またはポリリジン鎖の付加が含まれる。本明細書中に記載されるような使用の目的において、それらのポリヌクレオチドは、当該分野において利用可能な任意の方法によって修飾され得ることが理解されるべきである。そのような修飾は、目的のポリヌクレオチドのインビボ活性を高めるためまたは寿命を延長するために行われ得る。
【0260】
ヌクレオチド配列に関する用語「変異型」、「ホモログ」または「誘導体」は、その配列からのまたはその配列への1つ(またはそれを超える)核酸の任意の置換、変更、修飾、置換、欠失または付加を含む。
【0261】
上記の構造において、「coexpr」は、第1のCARと第2のCARの両方の共発現を可能にする核酸配列である。それは、切断部位をコードする配列であり得、その結果、核酸構築物は、切断部位によって連結された2つまたはそれを超えるCCRまたは1つのCCRおよび1つのCARを生成し含む。切断部位は、自己切断性であり得、その結果、ポリペプチドが生成されると、いかなる外部の切断活性も必要とせずに、直ちに個々のペプチドに切断される。
【0262】
切断部位は、第1および第2のCCRまたは1つのCCRおよび1つのCARが分断されるようになるのを可能にする任意の配列であってよい。
【0263】
用語「切断」は、便宜上、本明細書中で使用されるが、切断部位は、上記ペプチドを古典的な切断以外の機構によって個々の実体に分離させ得る。例えば、口蹄疫ウイルス(FMDV)2A自己切断性ペプチド(下記を参照のこと)の場合、「切断」活性を説明する様々なモデルが提案されている:宿主細胞のプロテイナーゼによるタンパク質分解、自己タンパク分解または翻訳効果(Donnellyら(2001)J.Gen.Virol.82:1027−1041)。切断部位が、タンパク質をコードする核酸配列の間に位置するとき、それらのタンパク質を別個の実体として発現させる限り、そのような「切断」の正確な機構は、本発明の目的にとって重要でない。
【0264】
切断部位は、フューリン切断部位であり得る。
【0265】
フューリンは、サブチリシン様プロタンパク質コンバターゼファミリーに属する酵素である。このファミリーのメンバーは、潜在型前駆体タンパク質をそれらの生物学的に活性な生成物にプロセシングするプロタンパク質コンバターゼである。フューリンは、前駆体タンパク質をそれらの対になった塩基性アミノ酸プロセシング部位で効率的に切断し得るカルシウム依存性セリンエンドプロテアーゼである。フューリンの基質の例としては、プロ副甲状腺ホルモン、トランスフォーミング成長因子ベータ1前駆体、プロアルブミン、プロ−ベータ−セクレターゼ、膜1型マトリックスメタロプロテアーゼ、プロ神経成長因子のベータサブユニットおよびフォン・ビルブラント因子が挙げられる。フューリンは、塩基性アミノ酸標的配列(標準的には、Arg−X−(Arg/Lys)−Arg’)のすぐ下流でタンパク質を切断し、ゴルジ装置において濃縮される。
【0266】
切断部位は、タバコエッチウイルス(TEV)の切断部位であり得る。
【0267】
TEVプロテアーゼは、高度に配列特異的なシステインプロテアーゼであり、キモトリプシン様プロテアーゼである。TEVプロテアーゼは、その標的切断部位に非常に特異的であるので、インビトロとインビボの両方において、融合タンパク質の制御された切断のために使用されることが多い。コンセンサスTEV切断部位は、ENLYFQ\Sである(ここで、「\」は、切断されるペプチド結合を表す)。ヒト細胞などの哺乳動物細胞は、TEVプロテアーゼを発現しない。したがって、本核酸構築物がTEV切断部位を含み、哺乳動物細胞において発現される実施形態では、外来性TEVプロテアーゼは、哺乳動物細胞においても発現されなければならない。
【0268】
切断部位は、自己切断性ペプチドをコードし得る。
【0269】
「自己切断性ペプチド」とは、そのポリペプチドが当該タンパク質を構成し、かつ自己切断性ペプチドが生成されると、そのポリペプチドは、いかなる外部の切断活性も必要とせずに、直ちに「切断」されるか、または異なる不連続の第1および第2のポリペプチドに分離されるように機能するペプチドのことを指す。
【0270】
自己切断性ペプチドは、アフトウイルスまたはカルジオウイルス由来の2A自己切断性ペプチドであり得る。アフトウイルスおよびカルジオウイルスの最初の2A/2B切断は、それ自体のC末端で「切断」する2Aによって媒介される。アフトウイルス(apthoviruses)(例えば、口蹄疫ウイルス(FMDV)およびウマ鼻炎Aウイルス)では、2A領域は、約18アミノ酸という短いセクションであり、それは、タンパク質2BのN末端残基(保存されたプロリン残基)とともに、それ自体のC末端での「切断」を媒介することができる自律エレメントになる(上記のようなDonellyら(2001))。
【0271】
「2A様」配列は、アフトウイルスまたはカルジオウイルス以外のピコルナウイルス、「ピコルナウイルス様」昆虫ウイルス、C型ロタウイルスおよびTrypanosoma
sppの中の反復配列および細菌の配列(上記のようなDonnellyら(2001))において見られる。切断部位は、これらの2A様配列のうちの1つ、例えば:
【化24】
【化25】
を含み得る。
【0272】
切断部位は、配列番号38(RAEGRGSLLTCGDVEENPGP)として示される2A様配列を含み得る。
【0273】
本発明は、本発明の第1の態様に記載の第1および第2のCCR、または本発明に記載の1つもしくはそれを超えるCCRおよび1つもしくはそれを超えるCARをコードする1つもしくはそれを超える核酸配列を含むキットも提供する。
【0274】
配列番号45および46は、抗PSMA CARと抗PSA CCRとの融合物の完全なアミノ酸配列を与える。小見出しは、その配列のそれぞれ一部を表示するために与えられているが、実際には、様々なエレメントが接続されて1つの連続した配列がもたらされる。
【0275】
本発明の核酸構築物は、配列番号45または46に示されるような融合タンパク質をコードし得る。
配列番号45−IL−2Rベータ鎖を有する例証的な構築物
ヒトCD8aに由来するシグナル配列:
【化26】
scFv aPSMA (J591 H/L)
【化27】
リンカー
SDPA
ヒトIgG1Fcスペーサー(HCH2CH3pvaa):
【化28】
ヒトCD28に由来する膜貫通:
【化29】
TCRzに由来するエンドドメイン:
【化30】
Thosea asignaウイルスキャプシドタンパク質由来の2Aペプチド:
【化31】
マウスカッパーVIIIに由来するシグナル配列:
【化32】
scFv aPSA(5D5A5 H/L):
【化33】
リンカー:
【化34】
ヒトCD8aSTKスペーサー:
【化35】
ヒト共通ガンマ鎖に由来する膜貫通:
【化36】
ヒト共通ガンマ鎖に由来するエンドドメイン:
【化37】
ウマ鼻炎Aウイルスポリプロテイン由来の2Aペプチド:
【化38】
マウスカッパーVIIIに由来するシグナル配列:
【化39】
scFv aPSA(5D3D11 H/L):
【化40】
リンカー:
【化41】
ヒトCD28STKスペーサー:
【化42】
ヒトIL−2Rβに由来する膜貫通:
【化43】
ヒトIL−2Rβに由来するエンドドメイン:
【化44】
配列番号46−IL−7Rアルファ鎖を有する例証的な構築物
ヒトCD8aに由来するシグナル配列:
【化45】
scFv aPSMA(J591 H/L)
【化46】
リンカー
SDPA
ヒトIgG1Fcスペーサー(HCH2CH3pvaa):
【化47】
ヒトCD28に由来する膜貫通:
【化48】
TCRzに由来するエンドドメイン:
【化49】
Thosea asignaウイルスキャプシドタンパク質由来の2Aペプチド:
【化50】
マウスカッパーVIIIに由来するシグナル配列:
【化51】
scFv aPSA(5D5A5 H/L):
【化52】
リンカー:
【化53】
ヒトCD8aSTKスペーサー:
【化54】
ヒト共通ガンマ鎖に由来する膜貫通:
【化55】
ヒト共通ガンマ鎖に由来するエンドドメイン:
【化56】
ウマ鼻炎Aウイルスポリプロテイン由来の2Aペプチド:
【化57】
マウスカッパーVIIIに由来するシグナル配列:
【化58】
scFv aPSA(5D3D11 H/L):
【化59】
リンカー:
【化60】
ヒトCD28STKスペーサー:
【化61】
ヒトIL−7Rαに由来する膜貫通:
【化62】
ヒトIL−7Rαに由来するエンドドメイン:
【化63】
【化64】
ベクター
【0276】
本発明は、本発明の第1の態様に記載の1つまたはそれより多くのCCRおよび必要に応じて1つまたはそれより多くのCARをコードする1つまたはそれを超える核酸配列を含むベクターまたはベクターのキットも提供する。そのようなベクターは、本発明の第1の態様に記載のCCRを発現するようにそ(れら)の核酸配列を宿主細胞に導入するために使用され得る。
【0277】
ベクターは、例えば、プラスミドまたはウイルスベクター(例えば、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクター)またはトランスポゾンベースのベクターまたは合成mRNAであり得る。
【0278】
ベクターは、T細胞またはNK細胞をトランスフェクトすることまたは形質転換することができ得る。
細胞
【0279】
本発明は、本発明の1つまたはそれを超えるCCRおよび必要に応じて1つまたはそれを超える(one of more)CARを含む細胞を提供する。
【0280】
上記細胞は、本発明の核酸またはベクターを含み得る。
【0281】
上記細胞は、T細胞またはNK細胞などの細胞溶解性の免疫細胞であり得る。
【0282】
T細胞またはTリンパ球は、細胞媒介性免疫において中心的役割を演じるリンパ球のタイプである。それらは、細胞表面におけるT細胞受容体(TCR)の存在により、B細胞およびナチュラルキラー細胞(NK細胞)など、他のリンパ球とは区別することができる。下記で概説する通り、様々なタイプのT細胞がある。
【0283】
ヘルパーTヘルパー細胞(TH細胞)は、形質細胞および記憶B細胞へのB細胞の成熟、ならびに細胞傷害性T細胞およびマクロファージの活性化を含む、免疫学的プロセスで他の白血球を補助する。TH細胞は、それらの表面でCD4を発現する。TH細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面でMHCクラスII分子によりペプチド抗原と共に提示されたときに活性化される。これらの細胞は、種々のサイトカインを分泌することにより、種々のタイプの免疫応答を促進する、TH1、TH2、TH3、TH17、Th9、またはTFHを含む、幾つかのサブタイプのうちの1つに分化し得る。
【0284】
細胞溶解性T細胞(TC細胞またはCTL)は、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、また移植拒絶でも関与する。CTLは、それらの表面でCD8を発現する。これらの細胞は、全有核細胞の表面に存在する、MHCクラスIに随伴する抗原に結合することにより標的を認識する。調節性T細胞により分泌されるIL−10、アデノシンおよび他の分子を通じて、CD8+細胞はアネルギー状態に不活化され得、実験的自己免疫脳脊髄炎などの自己免疫疾患を防止する。
【0285】
記憶T細胞は、感染の消散後長期にわたって持続する抗原特異的T細胞のサブセットである。それらは、それらの同種抗原に再曝露されると、迅速に多数のエフェクターT細胞に拡大し、過去の感染に対する「記憶」をもつ免疫系を提供する。記憶T細胞は、3つのサブタイプ:セントラル記憶T細胞(TCM細胞)および2タイプのエフェクター記憶T細胞(TEM細胞およびTEMRA細胞)を含む。記憶細胞は、CD4+またはCD8+のいずれかであり得る。記憶T細胞は、典型的には細胞表面タンパク質CD45ROを発現する。
【0286】
以前にはサプレッサーT細胞として知られていた、調節性T細胞(Treg細胞)は、免疫寛容の維持に非常に重要である。それらの主たる役割は、免疫反応の終末に向けてT細胞媒介性免疫を制止し、胸腺での負の選択のプロセスを逃れた自己反応性T細胞を抑制することである。
【0287】
CD4+Treg細胞の2つの主なクラス−天然に存在するTreg細胞および適応Treg細胞については記載されている。
【0288】
天然に存在するTreg細胞(CD4+CD25+FoxP3+Treg細胞としても知られている)は、胸腺で生じ、TSLPで活性化された骨髄性(CD11c+)樹状細胞および形質細胞様(CD123+)樹状細胞の両方と発達中のT細胞との間の相互作用に関連付けられている。天然に存在するTreg細胞は、FoxP3と呼ばれる細胞内分
子の存在により他のT細胞からは区別され得る。FOXP3遺伝子の変異は、調節性T細胞の発達を防止し得るため、致命的な自己免疫疾患IPEXが引き起こされ得る。
【0289】
適応Treg細胞(Tr1細胞またはTh3細胞としても知られている)は、正常な免疫応答中に生じ得る。
【0290】
細胞は、ナチュラルキラー細胞(またはNK細胞)であり得る。NK細胞は、先天性免疫系の一部を形成する。NK細胞は、MHC非依存的にウイルス感染細胞からの内生シグナルに対して、迅速な応答を提供する。
【0291】
NK細胞(自然リンパ球の群に属する)は、大顆粒リンパ球(LGL)として定義され、Bリンパ球およびTリンパ球を生じる共通のリンパ性前駆細胞から分化した第3の種類の細胞を構成する。NK細胞は、骨髄、リンパ節、脾臓、扁桃および胸腺で分化および成熟し、次いでそこから循環系に入ることが知られている。
【0292】
本発明のCCR発現細胞は、上記で挙げた細胞タイプのいずれでもよい。
【0293】
本保発明の第1の態様に記載のTまたはNK細胞は、患者自身の末梢血から(第1団)、またはドナー末梢血からの造血幹細胞移植の状況において(第2団)、または非関連ドナーからの末梢血(第3団)から生体外で作製され得る。
【0294】
あるいは、本発明の第1の態様によるTまたはNK細胞は、TまたはNK細胞への誘導性前駆細胞または胚性前駆細胞のエキソビボでの分化から得られ得る。あるいは、溶解機能を保持し、治療薬として作用し得る不死化されたT細胞株が使用され得る。
【0295】
これらのすべての実施形態において、CCR発現細胞は、ウイルスベクターでの形質導入、DNAまたはRNAでのトランスフェクションを含む多くの手段のうちの1つによりそのCCRまたは各々のCCRをコードするDNAまたはRNAを導入することにより生成される。
【0296】
本発明の細胞は、被験体由来のエキソビボのTまたはNK細胞であり得る。そのTまたはNK細胞は、末梢血単核球(PBMC)試料に由来し得る。TまたはNK細胞は、本発明の第1の態様によるCCRを提供する分子をコードする核酸を形質導入される前に、例えば、抗CD3モノクローナル抗体での処置によって、活性化および/または拡大され得る。
【0297】
本発明のTまたはNK細胞は、
(i)被験体または上に列挙された他の起源からのTまたはNK細胞含有試料の単離;および
(ii)CCRをコードする1つまたはそれを超える核酸配列によるTまたはNK細胞の形質導入またはトランスフェクション
によって作製され得る。
【0298】
次いで、それらのTまたはNK細胞は、抗原結合ポリペプチドの抗原結合ドメインの発現に基づいて精製され得、例えば、選択され得る。
【0299】
医薬組成物
本発明はまた、本発明による複数の細胞を含む医薬組成物に関する。
【0300】
医薬組成物は、さらに薬学的に許容し得る担体、希釈剤または賦形剤を含んでいてもよい。医薬組成物は、所望により1種またはそれより多くのさらなる医薬活性ポリペプチドおよび/または化合物を含んでいてもよい。かかる製剤は、例えば、静脈内注入に好適な形態であり得る。
【0301】
処置方法
本発明は、疾患を処置および/または予防するための方法を提供し、その方法は、本発明の細胞(例えば、上に記載されたような医薬組成物中の本発明の細胞)を被験体に投与する工程を含む。
【0302】
疾患を処置するための方法は、本発明の細胞の治療的使用に関する。本明細書中において、それらの細胞は、既存の疾患に関連する少なくとも1つの症候を和らげるか、減少させるか、もしくは改善するため、および/またはその疾患の進行を減速させるか、減少させるか、もしくは阻止するために、その疾患または症状を有する被験体に投与され得る。
【0303】
疾患を予防するための方法は、本発明の細胞の予防的使用に関する。本明細書中において、そのような細胞は、まだ疾患にかかっていないおよび/またはいかなる疾患の症候も示していない被験体に、その疾患を予防するためもしくはその疾患の原因を弱めるため、またはその疾患に関連する少なくとも1つの症候を減少させるためもしくはその発生を予防するために、投与され得る。被験体は、その疾患の素因を有し得るか、またはその疾患を発症するリスクがあると考えられ得る。
【0304】
上記方法は、
(i)TまたはNK細胞含有試料を単離する工程;
(ii)そのような細胞に、本発明によって提供される核酸配列もしくはベクターを形質導入するか、またはそのような細胞を、本発明によって提供される核酸配列もしくはベクターでトランスフェクトする工程;
(iii)被験体に(ii)からの細胞を投与する工程
を含み得る。
【0305】
TまたはNK細胞含有試料は、被験体または他の起源、例えば、上に記載されたような起源から単離され得る。TまたはNK細胞は、被験体自身の末梢血(第一者)、またはドナー末梢血由来の造血幹細胞移植の状況(第二者)、または無関係のドナー由来の末梢血(第三者)から単離され得る。
【0306】
本発明は、疾患の処置および/または予防において使用するための本発明のCCR発現細胞を提供する。
【0307】
本発明は、疾患を処置および/または予防するための医薬の製造における本発明のCCR発現細胞の使用にも関する。
【0308】
本発明の方法によって処置および/または予防される疾患は、がん性疾患(例えば、膀胱がん、乳がん、結腸がん、子宮体がん、腎臓がん(腎細胞)、白血病、肺がん、メラノーマ、非ホジキンリンパ腫、膵がん、前立腺がんおよび甲状腺がん)であり得る。
【0309】
CCRによって認識されるリガンドがPSAである場合、がんは、前立腺がんであり得る。
【0310】
本発明の細胞は、がん細胞などの標的細胞を殺すことができ得る。標的細胞は、標的細胞の近傍に腫瘍分泌リガンドまたはケモカインリガンドが存在することを特徴とし得る。標的細胞は、標的細胞表面における腫瘍関連抗原(TAA)の発現とともに、可溶性リガンドが存在することを特徴とし得る。
【0311】
本発明の細胞および医薬組成物は、上に記載された疾患の処置および/または予防において使用するためであり得る。
【0312】
本発明の細胞および医薬組成物は、上に記載された任意の方法において使用するためであり得る。
キメラ膜貫通タンパク質
【0313】
本発明は、二量体化ドメイン;およびサイトカイン受容体エンドドメインを含むキメラ膜貫通タンパク質も提供する。
【0314】
二量体化は、自発的に生じることがあり、その場合、キメラ膜貫通タンパク質は、構成的に活性である。あるいは、二量体化は、二量体化化学誘導物質(CID)の存在下においてのみ生じることがあり、その場合、膜貫通タンパク質は、CIDの存在下においてのみサイトカイン型のシグナル伝達を引き起こす。
【0315】
好適な二量体化ドメインおよびCIDは、WO2015/150771(この内容は参照により本明細書に援用される)に記載されている。
【0316】
例えば、一方の二量体化ドメインは、FK結合タンパク質12(FKBP12)のラパマイシン結合ドメインを含み得、他方は、mTORのFKBP12−ラパマイシン結合(FRB)ドメインを含み得;CIDは、ラパマイシンまたはその誘導体であり得る。
【0317】
一方の二量体化ドメインは、FK結合タンパク質12(FKBP12)のFK506(タクロリムス)結合ドメインを含み得、他方の二量体化ドメインは、シクロフィリン(cylcophilin)Aのシクロスポリン結合ドメインを含み得;CIDは、FK506/シクロスポリン融合物またはその誘導体であり得る。
【0318】
一方の二量体化ドメインは、エストロゲン結合ドメイン(EBD)を含み得、他方の二量体化ドメインは、ストレプトアビジン結合ドメインを含み得;CIDは、エストロン/ビオチン融合タンパク質またはその誘導体であり得る。
【0319】
一方の二量体化ドメインは、糖質コルチコイド結合ドメイン(GBD)を含み得、他方の二量体化ドメインは、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)結合ドメインを含み得;CIDは、デキサメタゾン/メトトレキサート融合タンパク質またはその誘導体であり得る。
【0320】
一方の二量体化ドメインは、O6−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(AGT)結合ドメインを含み得、他方の二量体化ドメインは、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)結合ドメインを含み得;CIDは、O6−ベンジルグアニン誘導体/メトトレキサート融合タンパク質またはその誘導体であり得る。
【0321】
一方の二量体化ドメインは、レチノイン酸受容体ドメインを含み得、他方の二量体化ドメインは、エクジソン(ecodysone)受容体ドメインを含み得;CIDは、RSL1またはその誘導体であり得る。
【0322】
二量体化ドメインが、自発的にヘテロ二量体化する場合、それは、抗体の二量体化ドメインに基づき得る。特に、それは、重鎖定常ドメイン(CH)および軽鎖定常ドメイン(CL)の二量体化部分を含み得る。定常ドメインの「二量体化部分」は、鎖間ジスルフィド結合を形成する配列の一部である。
【0323】
キメラサイトカイン受容体は、例えば、
図5に模式的に図示されているように、エキソドメインとして抗体のFab部分を含み得る。
【0324】
キメラ膜貫通タンパク質は、2つのポリペプチド:
(i)
(a)第1の二量体化ドメイン;および
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第1の鎖
を含む第1のポリペプチド;および
(ii)
(a)第1の二量体化ドメインと二量体化する第2の二量体化ドメイン;および
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第2の鎖
を含む第2のポリペプチド
を含み得る。
【0325】
キメラサイトカイン受容体のサイトカイン受容体エンドドメインを定義する上記の項は、本発明のキメラ膜貫通タンパク質にも当てはまる。
【0326】
核酸、ベクター、キット、細胞、医薬組成物および方法に関する上記の項は、本発明のキメラ膜貫通タンパク質にも当てはまる。
【0327】
本発明は、実施例によってさらに説明され、この実施例は、本発明を実施する際に当業者を助けるように機能すると意味されており、本発明の範囲を決して限定しないと意図されている。
【実施例】
【0328】
実施例1−インビトロ試験
T細胞に、PSMA特異的CARを形質導入するか、またはPSMA特異的CARをPSA特異的CCRと共発現する構築物を形質導入する。T細胞を、PSAを分泌するかまたは分泌しないPSMA発現標的細胞と共培養する。この共培養は、外来性IL2の存在下または非存在下で行う。この共培養は、異なるエフェクター対標的比で行う。この共培養は、反復して標的細胞でチャレンジされたT細胞を用いて連続的に繰り返す。T細胞の増殖および標的細胞の殺滅を測定する。このようにして、CCRがもたらすT細胞の増殖および生存への寄与を計測できる。さらに、連続能力を繰り返し再チャレンジする寄与能力。
実施例2−インビボ試験
【0329】
PSMAを発現し、PSAを分泌し、ホタルルシフェラーゼを発現するヒト前立腺がん細胞株をNSGマウスに移植する。T細胞に、PSMA特異的CARを形質導入するか、またはPSMA特異的CARをPSA特異的CCRと共発現する構築物を形質導入する。それらのマウスにT細胞を投与する。腫瘍量を、生物発光イメージングを用いて連続的に計測することができ、CAR T細胞への応答を評価することができる。各コホート内のマウスを種々の時点で屠殺し得、巨視的計測および免疫組織化学によって腫瘍量を直接計測し得る。さらに、腫瘍床またはリンパ系組織(例えば、リンパ節、脾臓および骨髄)内におけるT細胞の生着/拡大が、前記組織のフローサイトメトリーによって計測される。
実施例3−構成的に活性なサイトカインシグナル伝達分子の作製および試験
【0330】
構成的に活性なサイトカインシグナル伝達キメラ膜貫通タンパク質を、サイトカイン受容体エンドドメインを「Fab」型エキソドメインに連結することによって作製した(
図5)。この構造は、抗体の天然の二量体化構成要素、すなわち、重鎖定常領域および軽鎖定常領域由来の二量体化ドメインを使用する。キメラ膜貫通タンパク質は、2本の鎖;エンドドメインとして抗体軽鎖κ鎖およびIL2受容体共通γ鎖を含む第1のポリペプチド;ならびに抗体重鎖CH1およびIL2受容体β鎖(構成的に活性なIL2−シグナル伝達分子をもたらす);またはIL7受容体(構成的に活性なIL7−シグナル伝達分子をもたらす)のいずれかを含むエンドドメインを含む第2のポリペプチドを有する。この研究において試験された構成的に活性なサイトカインシグナル伝達キメラ膜貫通タンパク質は、scFvの重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含んだ。これらのドメインは、二量体化が生じるために必要ではない。そのシグナルは、抗原結合と無関係であり、その構造は、等しく「無頭部(headless)」であり得る(
図5に示されているように)か、またはタグタンパク質などの別の実体を含み得る。
【0331】
これらの2つのポリペプチドをコードする核酸配列を、2Aペプチドをコードする配列によって分断された状態でインフレームでクローニングした。
【0332】
CTLL−2(ATCC(登録商標)TIB−214
TM)は、成長のためにIL−2に依存するマウス細胞傷害性Tリンパ球細胞である。IL−2の非存在下において、それらの細胞は、アポトーシスを起こす。CTLL−2細胞に、IL2受容体エンドドメインを含むキメラタンパク質を発現するベクター(Fab_IL2エンド)もしくはIL7受容体エンドドメインを含むキメラタンパク質を発現するベクター(Fab_IL7エンド)を形質導入するか、または形質導入せずに放置した(WT)。ポジティブコントロールとして、3つすべてのタイプの細胞を100U/mlのマウスIL2と共培養した。培養の3および7日後に細胞増殖を評価し、結果を
図6に示す。
【0333】
形質導入されなかったCTLL2細胞は、いずれかの構築物(Fab_IL2エンドまたはFab_IL7エンド)を形質導入されたCTLL2細胞とともに、100U/mLのマウスIL2の存在下において増殖した(
図6、左側のパネル)。しかしながら、外因的に加えられるIL2の非存在下では、IL2Rエンドドメインを有する構築物(Fab_IL2エンド)を形質導入された細胞しか生存および増殖しなかった。これは、キメラ膜貫通受容体が、必要なIL2シグナルをCTLL2細胞に提供することを示している。
実施例4−PSAに対するキメラサイトカイン受容体の作製および試験
【0334】
PSAを標的にするキメラサイトカイン受容体のパネルを、異なるPSAエピトープに結合する2つの抗体:5D5A5および5D3D11に由来するscFvを用いて開発した。PSAの結晶構造は、これらの2つとのサンドイッチ複合体として得られた(上記のようなSturaら(2011))。
【0335】
CCRのパネルのいくつかを図示している模式図を
図7に図示する。
【0336】
そのパネルには、以下の構築物:
A5−CD8stk−IL2Rg_D11−ヒンジ−IL2Rb:共通γ鎖を有する鎖上にA5およびIL2Rβ鎖を有する鎖上にD11を有するIL−2Rエンドドメインを有するCCR;
D11−CD8stk−IL2Rg_A5−ヒンジ−IL2Rb:共通γ鎖を有する鎖上にD11およびIL2Rβ鎖を有する鎖上にA5を有するIL−2Rエンドドメインを有するCCR;
D11−CD8stk−RL_A5−ヒンジ−IL2Rb:D11−CD8stk−IL2Rg_A5−ヒンジ−IL2Rbと等価であるが、IL2Rγ鎖が堅いリンカーによって置換されている、ネガティブコントロール構築物;
D11−CD8stk−IL2Rg_A5−ヒンジ−IL7Ra:共通γ鎖を有する鎖上にD11およびIL7Rα鎖を有する鎖上にA5を有するIL−7Rエンドドメインを有するCCR;および
D11−CD8stk−RL_A5−ヒンジ−IL7Ra:D11−CD8stk−IL2Rg_A5−ヒンジ−IL7Raと等価であるが、IL2Rγ鎖が堅いリンカーによって置換されているネガティブコントロール構築物
が含まれた。
【0337】
CTLL2細胞に、これらの構築物を発現するベクターを形質導入した。細胞を、IL2の存在下または非存在下(IL2の存在はポジティブコントロールとして作用する)および5ng/mLもしくは5μg/mLのPSAの存在下または非存在下で、培養した。CTLL2細胞の増殖を3および7日後に評価し、結果を
図8に示す。
【0338】
IL7エンドドメインを有するCCRを発現するCTLL2細胞は、CTLL2細胞の生存および増殖を支持しなかった(
図8、最後の2つのパネル)。これらの細胞におけるマウスIL−2の存在は、3日目にCTLL2細胞の成長および増殖を支持したが、7日目までに、細胞の大部分がアポトーシスを起こした。
【0339】
IL2Rエンドドメインを有する抗PSAキメラサイトカイン受容体は、IL2の非存在下および5ng/mlと5μg/mlの両方のPSAの存在下においてCTLL2細胞の増殖を支持し(
図8、最初のパネル)、5μg/mlは、特に7日目において、より高い生存および増殖をもたらした。
【0340】
IL2Rエンドドメインを有する両方の抗PSAキメラサイトカイン受容体、すなわち、A5−CD8stk−IL2Rg_D11−ヒンジ−IL2RbおよびD11−CD8stk−IL2Rg_A5−ヒンジ−IL2Rbは、2つのPSA結合ドメイン:5D5A5および5D3D11の相対的なポジショニングが機能にとって重要ではないことを示唆する。
【0341】
共通γ鎖を堅いリンカーで置換することにより、CCRがCTLL2細胞の生存および増殖を支持する能力が無くなった(
図8、第3のパネル)。
【0342】
IL2シグナル伝達に対する別の読み取りとして、STAT5のY694のリン酸化を、ホスホフローを用いて調査した。
【0343】
CTLL2細胞に形質導入しなかった(WT)か;IL2Rエンドドメインを有するPSA CCR構築物(D11−CD8STK−IL2Rg_A5−ヒンジ−IL2Rb)を形質導入したか;またはIL2Rγ鎖が堅いリンカーで置換された等価なネガティブコントロール構築物(D11−CD8STK−RL_A5−ヒンジ−IL2Rb)を形質導入した。それらの細胞を、外因的に加えられたIL−2の非存在下において一晩インキュベートした。翌日、細胞を500μMの過バナジン酸(ホスファターゼを阻害し、STAT5のリン酸化(phoshorylation)をもたらすポジティブコントロール)または500ng/mLのPSAとともに1または4時間インキュベートした。インキュベーションの後、細胞を固定し、透過処理し、フローサイトメトリーによって解析した。
【0344】
結果を
図9に示す。PSA CCRを発現している細胞では、PSAの存在によって、STAT5のリン酸化が経時的に増加した(
図9、中央のパネル)。形質導入されなかったCTLL2細胞、またはIL2Rγ鎖が堅いリンカーで置換された等価な構築物を形質導入されたCTLL2細胞では、そのようなリン酸化の増加は見られなかった(
図9、右側のパネル)。
【0345】
これらの結果は、
図8に示されたCTLL2の生存/増殖データと一致し、可溶性リガンド(ここではPSA)に対するキメラサイトカイン受容体を用いることによってT細胞においてサイトカインシグナル伝達を誘発することができることを実証する。
【0346】
上記の明細書で挙げた出版物は全て、参照により本明細書に援用する。本発明の記載された方法および系の様々な修飾および変形は、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく当業者には明らかである。本発明を特定の好ましい実施形態と共に記載したが、請求されている本発明は、かかる特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことを理解するべきである。事実、分子生物学または関連分野における専門家にとって明白な、本発明を実施するために記載された方法の様々な修飾も以下の特許請求の範囲の範囲内に含まれるものとする。