【実施例】
【0073】
実施例:皮下送達のために適切な高濃度液体husFcγRIIb製剤の開発
1. 材料
husFcγRIIB(SEQ ID NO:1に示されるアミノ酸配列を有する可溶性ヒトFcγRIIB受容体)の以下の溶液を、全ての実験のため、親材料として使用した:
(a)注入用の溶液のためのhusFcγRIIB 5mg/ml濃縮物
5.3mM NaH
2PO
4、1.94mM KH
2PO
4、150mM NaCl、2%(w/v)マンニトール、0.005%ポリソルベート20(pH6.5)中の5mg/mL husFcγRIIB
(b)注入用の溶液のためのhusFcγRIIB 20mg/ml濃縮物
20mMヒスチジン、150mM NaCl、2%(w/v)ショ糖、1%(w/v)マンニトール、0.005%ポリソルベート20(pH6.5)中の20mg/mL husFcγRIIB
【0074】
少なくとも示された等級の以下の化学物質を使用した:
【0075】
2. 方法
(a)紫外可視分光法によるhusFcγRIIB含量
試料を、UVマイクロキュベット(UV cuvette micro、Plastibrand、Brand)に移し、それぞれの緩衝液をブランクとして使用して、分光光度計(Cary 100、Varian)によって吸光度を測定した。husFcγRIIB濃度を、以下の方程式によって計算した:
husFcγRIIB濃度[mg/mL]=(A
280−A
320)×DF×0.64
DF≡希釈係数
【0076】
(b)陽イオン交換クロマトグラフィによるhusFcγRIIB緩衝液交換
1000〜1800mgのhusFcγRIIB(注入用の溶液のためのhusFcγRIIB 5mg/mL濃縮物)を、伝導率が5.0±0.1mS/cmに達するまで、10mMクエン酸/NaOH(pH6.5)によって注意深く希釈した。希釈されたタンパク質を、ろ過し(0.2μm DuraporeメンブレンPVDF、親水性、47mm、Millipore)、10mMクエン酸/NaOH、20mM NaCl(pH6.5)で平衡化された57mL SP Sepharose HP陽イオン交換(CEX)樹脂(26×107mm、GE Healthcare;17.5〜31.6mgのhusFcγRIIB/mL樹脂に等しい)へ5.5mL/分でロードした。結合したタンパク質を、200mLの10mMクエン酸/NaOH、20mM NaCl(pH6.5)によって5.5mL/分で洗浄し、10mMクエン酸/NaOH(pH6.5)中20mM〜600mM NaClの範囲の300mL直線勾配によって溶出させた。OD
280が250mAU(AU:吸光単位)を越えた後、溶出液収集を開始し、200mAU未満に低下した後、中止した(1cm光路長、Akta Explorer 100、GE Healthcare)。カラムを100mLの1M NaClによって再生させ、150mLのMilliQ H
2O(超純水、Millipore Corp.)によって洗浄し、さらに使用するまで20%エタノール中に保管した。紫外可視分光法によるhusFcγRIIB含量測定の後、溶出液をろ過し(Millex 33mm、0.2μm Durapore PVDF(フッ化ポリビニリデン)、親水性、いずれもMillipore Corp.)、等分し、液体窒素中で急速凍結させ、使用するまで-70℃以下で保管した。
【0077】
10mMクエン酸/NaOH、20mM NaClおよび10mMクエン酸/NaOH、600mM NaClで測定された伝導率と、溶出液の平均伝導率を相関させることによって、NaCl含量を計算した。
【0078】
同様に、10mMヒスチジン/HClを緩衝種として使用して、ヒスチジン緩衝husFcγRIIBを調製した。
【0079】
(c)pH安定性スクリーニング
20mMヒスチジン、324mM NaCl(pH6.5)中の濃縮husFcγRIIB溶液を、適切なストック溶液を使用して、0.5mg/mL husFcγRIIB、20mMヒスチジン、150mM NaCl、2.5×Sypro Orange(DMSO中5000×、Molecular Probes(商標)、Invitrogen)に調整した。0.2M HClまたは0.2M NaOHによって、実験的滴定曲線に基づき、溶液のpHをpH4〜pH12の間に調整した。40μLの溶液を、封鎖された96穴ハーフエリアウェルプレート(μクリア、黒、中結合;Greiner BioOne)において25℃で3時間インキュベートし、Sypro Orange蛍光についてアッセイした(励起485nm、放射590nm、ゲイン60、ラグタイム0μs、インテグレーションタイム40μs;TECAN Spectrofluor plus)。
【0080】
(d)高濃度製剤の調製
ヒスチジン緩衝またはクエン酸緩衝のhusFcγRIIB(初期濃度およそ200〜300mM NaCl)の必要とされるNaCl含量を、適切な緩衝液(10mMクエン酸または10mMヒスチジン(pH6.5))による希釈およびその後の限外ろ過(Vivaspin 20、5kDa MWCO、Sartorius)によって調整した。加工体積を小さくしておくため、その手順を全部で3サイクルまで繰り返した。最終希釈の後、pHを測定し(pHメーターHI8314、pH電極HI1217、Hanna instruments)、適切な緩衝液中の0.2M NaOHまたは0.2M HClによって調整し、タンパク質溶液を濃縮した。husFcγRIIB含量をトリプリケートで紫外可視分光法によって測定し、husFcγRIIB濃度を適切な緩衝液によって調整し、溶液をろ過した(Ultrafree MC、0.2μm Durapore PVDF、親水性、Millipore)。
【0081】
(e)384穴フォーマットでのhusFcγRIIB溶解度スクリーニング
緩衝種、pH、塩濃度、および糖/ポリオール濃度に関係した高濃度husFcγRIIB溶液の溶解度を、384穴フォーマット(μクリア、白色、非結合、Greiner BioOne)において、1ウェル当たり30μLを使用して査定した。ろ過されたストック溶液の各ウェルへの直接添加によって最終製剤を調製した。以下のストック溶液を使用した:10mMクエン酸(pH7.0)または10mMヒスチジン(pH5.5)のいずれかにおける100〜195mg/mL husFcγRIIB、1.5M NaCl、および30%(w/v)ショ糖+15%(w/v)マンニトール。各溶液に、0.01%(w/w)ポリソルベート20を追加し、スクリーニングに応じて、10〜50mM NaClを追加した。
【0082】
各ウェルのpHを、0.5M〜0.75M HClまたはNaOHによって調整した。必要とされる酸または塩基の量は、husFcγRIIB(pK
a=6.00)の9個のヒスチジン残基が全て付加的な緩衝能力を提供すると仮定した理論上の滴定曲線に基づき計算された。プレートを遠心分離し(500g、1分)、接着テープ(microtest tape、permacel、neo-lab)によって封鎖し、暗所で5±3℃で保管した。
【0083】
各製剤の視覚的な外観を、光学顕微鏡法(Axiovert 25f、Carl Zeiss)によって査定し、自由尺度に従ってランク付けした(0=結晶は存在しない;1=いくつかの結晶が存在するが、ほとんど可視でない;2=いくつかの結晶が明白に可視である; 3=1ウェル当たり30個を超える結晶が明白に可視である;4=多数の結晶の不完全な層が存在する(ウェルは完全には覆われていない);5=多数の結晶の完全な層が存在する(ウェルが完全に覆われている)。
【0084】
溶解した塩、糖、およびタンパク質を考慮に入れて、各製剤の浸透圧を、以下の方程式に従って計算した:
式中、v
iは、I
th溶質の1分子の解離によって形成される粒子の数であり、m
iはI
th溶質のモル濃度である。単純のため、各溶質のモル浸透圧係数F
m,iは1に等しいと仮定した。
【0085】
(f)husFcγRIIBの小規模結晶化
10mMヒスチジン、10mM NaCl、0.01%ポリソルベート20(pH5.5)中50〜140mg/mLの10μL〜450μLのhusFcγRIIBを、1.5mLポリプロピレン反応チューブにおいて、適切な希釈剤によって、10mMヒスチジン、10mM NaCl、0.01%ポリソルベート20中40mg/mL husFcγRIIBへ希釈した。4.38〜6.23体積%(希釈剤の添加後の最終体積)の0.3M NaOHの添加によって、pHを6.5〜7.2に調整した。必要とされる酸または塩基の量は、husFcγRIIB(pK
a=6.00)の9個のヒスチジン残基が全て付加的な緩衝能力を提供すると仮定した理論上の滴定曲線に基づき計算された。
【0086】
(g)示差走査蛍光光度法
0.5mg/mL husFcγRIIBを含有している各製剤120μLを、上記の2(e)に記載された手順と同様に、1.5mL試験管において調製した。Sypro Orange(DMSO中5000×、Molecular Probes(商標)、Invitrogen)を、適切な緩衝液で、200×ストックを使用して、2.5×最終濃度で添加した。各製剤30μLをウェルプレート(MicroAmp 96穴光学反応プレート、Applied Biosystems)へトリプリケートで移し、プレートを接着テープ(MicroAmp光学接着フィルム、Applied Biosystems)によって封鎖した。プレートを、1℃/分の勾配による19℃から90℃への温度上昇に供し、610nmにおける蛍光放射を記録した(7300 Real Time PCR system、Applied Biosystems)。蛍光を時間に関して微分し、スプラインを計算し、最初の検出された極大を、husFcγRIIBの融解温度として報告した(Origin 8.0、OriginLab)。
【0087】
(h)384穴フォーマットでの濁度スクリーニング
husFcγRIIB製剤を、上記の2(3)に記載された手順と同様に、1.5mL試験管において調製した。30μLの各製剤を384穴プレート(μクリア、白色、非結合、Greiner)へデュプリケートに移し、プレートを接着テープ(microtest tape、permacel、neo-lab)によって封鎖し、インキュベータ内に置いた。対照として、それぞれのプラセボ溶液を調製した。濁度を、360nmで測定した(Spectrafluor、バンドパスフィルター360/35nm、3フラッシュ、Tecan)。水の凝縮による測定の妨害を回避するため、プレートリーダを、アッセイ温度へ予め加熱した。
【0088】
(i)圧力低下測定による動的粘度
液体がフローチャンネル(m-Vroc、Rheosense)を流れる際の圧力低下を測定することによって、husFcγRIIB含有製剤の動的粘度を決定した。各測定のため、製剤を含有している100μLを、200μLピペットによって100μL気密シリンジ(Hamilton)のシリンダに充填した。シリンジを流量計へ取り付け、80μLを、50μL/分の流速および20℃でインジェクトした。
【0089】
(j)定量的ポリソルベート20アッセイ
Brown and Hayes,(1955)Analyst 80,755-767によって最初に記載された比色定量アッセイに基づく修飾型のプロトコルによって、ポリソルベート含量を決定した。分析される溶液500μLを、1.5mLポリプロピレンチューブ(VWR)で500μLの酢酸エチルによって3回抽出した。相分離を加速するため、チューブを遠心分離した(20000g、5分、25℃)。有機上清を、HPLCバイアル(ND9、ねじ山付き、円錐底、PTFEスクリューキャップ、VWR)において合わせ、溶媒を蒸発させた(25℃、10mbar、0.5時間〜1時間)。残余固体を、800μLの試薬溶液(水中の100mM Co(N0
3)
2、2.63M NH
4SCN)に懸濁させ、150μLのCHCl
3によって抽出した。100μLのCHCl
3抽出物を石英UVマイクロキュベット(Hellma)に移し、200〜800nmからのスペクトルを測定し(8453ダイオードアレイ分光光度計、Agilent)、530nmにおける吸光度によって補正された620nmにおける吸光度を記録した。ブランクとして、ポリソルベート20を含有していない等しい溶液の抽出物を使用した。各試料をデュプリケートで調製した。それぞれの緩衝液における0〜0.006%(w/w)ポリソルベート20からの標準曲線に基づき、ポリソルベート20含量を決定した。
【0090】
(k)凍結乾燥
5mMクエン酸、10〜25mM NaCl、2〜8%(w/v)ショ糖、トレハロース、またはマンニトール、および0.005〜0.01%(w/v) ポリソルベート20中に15〜120mg/mL husFcγRIIBを含有している59の製剤を調製し、400μLを1.5mL透明HPLCバイアル(32×11.6 mm、広口径、VWR)に充填した。バイアルを、フリーズドライヤーEpsilon 2-12D FD02(Martin Christ、Osterrode、Germany)を使用して、保存的な凍結乾燥サイクルに供した。フリーズドライ過程の間の真空は、MKS Capacitance Manometerによって制御された。試料を-45℃で凍結させ、一次乾燥を45℃〜15℃、0.12mbarで15時間実施し、二次乾燥を15℃〜20℃、0.12mbarで10時間実施した。凍結乾燥物を、100〜400μLの注射用水で再構成した。その溶液を、視覚的検査、濁度測定、および蛍光顕微鏡法によって、粒子の形成に関して分析した。簡単に説明すると、蛍光顕微鏡検査のため、50μLのhusFcγRIIB含有溶液を384穴プレート(μクリア、白色、非結合、Greiner)に置き、5mMクエン酸、10mM NaCl(pH6.7)中の25×Sypro Orange(DMSO中5000×、Molecular Probes(商標)、Invitrogen)5μL と混合した。プレートを25℃で10分間インキュベートし、遠心分離し(1000g、3分)、各製剤の外観を、蛍光顕微鏡法(Axiovert25f、励起フィルター470/20nm、二色493nm、放射フィルター503〜530nm、Carl Zeiss)によって査定した。
【0091】
3. 結果
(a)高濃度husFcγRIIB溶液のためのpH範囲および緩衝種の定義
アンフォールドしたタンパク質の存在の指標としてSypro Orangeを使用して、husFcγRIIBを変性させるpH範囲を決定した。Sypro Orangeは、疎水性構造への結合後に、蛍光放射が強く増加する環境感受性色素である(Layton & Hellinga,2010,Biochemistry 49(51),10831-10841)。
図1は、変性pH範囲を決定するための実験の結果を示す。従って、20mMヒスチジン、150mM NaCl(白丸)およびブランク緩衝液(+)中の0.5mg/mL husFcγRIIBを、室温で3時間、それぞれのpHでインキュベートした。Sypro Orange蛍光の増加は、変性したhusFcγRIIBの存在を示した。
図1に示されるように、husFcγRIIBはpH5.2から少なくともpH11までアンフォールドしなかった。
【0092】
皮下投与の際の疼痛を防止するため、投与される溶液は、生理学的範囲内のpHを有しているべきである。この範囲において緩衝作用を示し、一般に安全と見なされている典型的な緩衝種には、ヒスチジン(pkaおよそ6.0)、クエン酸(pKa
3およそ6.4)、およびリン酸(pKa
2およそ7.2)が含まれる。凍結/解凍中のpHシフトを促進する傾向のため(MacKenzie,1977)、リン酸はその後の溶解度スクリーニングに含めなかった。
【0093】
タンパク質沈殿に関して限定されるhusFcγRIIB濃度を決定する初期の試みにおいて、可視の沈殿物が形成されるまで、10mMヒスチジンまたは10mMクエン酸および10mM NaClの存在下での限外ろ過によって、husFcγRIIBを濃縮した。表1に示されるように、ヒスチジン緩衝husFcγRIIBは、pH5.5から6.0までのわずかに酸性の範囲において増加した溶解度を示し、緩衝種としてのクエン酸は、pH6.5付近のほぼ中性のpH範囲において可溶性を提供した。要約すると、様々なpHにおけるhusFcγRIIBの溶解度は、概して使用される緩衝種に依存性である。顕微鏡法によって、沈殿物が針状晶から構成されていることが示された。
【0094】
(表1)低いイオン強度、pH5.5〜7.5における10mMヒスチジンまたは10mMクエン酸におけるhusFcγRIIB溶解限度(mg/mL)。溶液が濁るまで、限外ろ過によって、husFcγRIIBを濃縮した。ヒスチジン緩衝husFcγRIIBは、pH6.0、6.5、および7.0で沈殿し、クエン酸緩衝husFcγRIIBは、pH5.5およびpH6.0で沈殿した。沈降物はhusFcγRIIB結晶として同定された。
【0095】
(b)husFcγRIIBの結晶化
ヒスチジン緩衝husFcγRIIBは、低いイオン強度で、pH5.5で、100mg/mLを超えて可溶性のままであり、中和によって結晶化され得るが、反対に、クエン酸緩衝husFcγRIIBは、低いイオン強度で、中性pHで、100mg/mLを超えて可溶性のままであり、温和な酸性化によって結晶化され得る(表1)。さらなる試験において、husFcγRIIBの結晶化を、緩衝液中の糖およびNaClの存在および量への依存に関して調査した。husFcγRIIB結晶化を、NaClおよび糖(2:1ショ糖:マンニトール)の濃度の関数として、10mMヒスチジン(pH6.7)(
図2a)または10mMクエン酸(pH5.5)(
図2b)において実施した。それぞれ、10mMヒスチジン、10mM NaCl(pH5.5)または10mMクエン酸、10mM NaCl(pH7.0)中のhusFcγRIIBを、限外ろ過によって140mg/mLへ濃縮し、適切なストック溶液によって40mg/mLへ希釈した。ヒスチジン緩衝husFcγRIIBの場合には、2〜8℃で3日後に上清中のhusFcγRIIB濃度を測定することによって、結晶の収量を決定した。クエン酸緩衝husFcγRIIBの場合には、10日目まで結晶成長が検出されなかった。従って、2.8℃で14日後に結晶の収量を決定した。各溶液は、0.01%ポリソルベート20を含有していた。
【0096】
図2は、10mMクエン酸、10mM NaCl(pH5.5)と比較して、10mMヒスチジン、10mM NaCl(pH6.7)の存在下で、husFcγRIIBがより容易に結晶し、結晶の収量がはるかに高いことを示す。塩化ナトリウム濃度の10mMから5mMへのさらなる低下は、緩衝種としてヒスチジンを使用した時には、結晶収量のわずかな増加をもたらしたが、クエン酸緩衝液を使用した時には、強力な効果を示した。5mM未満への塩濃度の低下および/またはpHの低下は、クエン酸の存在下での結晶化過程をさらに刺激する可能性がある。NaCl濃度の増加、または5%を超えるポリオール、例えば、ショ糖もしくはマンニトールの添加は、結晶化過程を阻害した。
【0097】
図3は、pHの関数として、10mMヒスチジン、10mM NaClにおいてhusFcγRIIB結晶化が実施された実験を示す。10mMヒスチジン、10mM NaCl(pH5.5)中のhusFcγRIIBを、限外ろ過によって140mg/mLに濃縮し、適切なストック溶液によって40mg/mLに希釈した。2.8℃で3日後に上清中のhusFcγRIIB濃度を測定することによって、結晶収量を決定した。各溶液は0.01%ポリソルベート20を含有していた。
【0098】
少なくとも0.5単位のpH範囲内で、93%を超えるヒスチジン緩衝husFcγRIIBが結晶化され得る。40mg/mLの全husFcγRIIB濃度で、10mMヒスチジン、10mM NaCl(pH6.7〜7.2)におけるhusFcγRIIBの溶解限度は、2.8mg/mL未満である。pH6.9で、結晶化は、25℃で1時間未満で完全であった。
【0099】
(c)husFcγRIIB溶解度スクリーニング
いわゆる溶解度スイートスポット、即ち、husFcγRIIBが100mg/mLを超えて可溶性のままであり結晶化しない条件を定義するため、様々なhusFcγRIIB製剤を384穴マイクロタイタープレートにおいて調製し、2〜8℃で少なくとも4週間インキュベートした。スクリーニングに含まれたパラメータは、husFcγRIIB濃度(70、100、120、および150mg/mL)、緩衝種(ヒスチジンまたはクエン酸)、pH(5.5、6.0、6.5、7.0、7.5)、NaCl濃度(10〜225mM)、ならびに糖含量(0〜7.5%)であった。70mg/mL(表2および表5)ならびに100mg/mL husFcγRIIB(表3および表6)における一次スクリーニングを、2つの糖レベル(0%または3%)および4つの異なるNaCl濃度(10、50、225mM)で実施した。
【0100】
基本的に、これらのプレスクリーニングは、上述の濃度スクリーニング(実施例2a)および結晶化スクリーニング(実施例2b)において既に入手された結果を再現した。ヒスチジン緩衝husFcγRIIBは、pH5.5より上で結晶化し、クエン酸緩衝husFcγRIIBは、pH5.5〜6.0で結晶化する。NaClまたは糖の濃度の増加は、いずれの場合にも結晶化過程を低下させた。
【0101】
120mg/mLおよび150mg/mL husFcγRIIBにおける全てのその後のスクリーニングには、血液と等張である、即ち、308mOsmol/kg程度の計算浸透圧を有する製剤のみを含めた。その理由のため、高い糖濃度を、低いNaClの濃度とマッチさせるか、またはその逆とした。120mg/mL husFcγRIIBを含むヒスチジンに基づく製剤は、中性pHおよび高いイオン強度の下でhusFcγRIIBの結晶化を防止することができたが、150mg/mL husFcγRIIBのヒスチジンに基づく製剤は、一つの例外を除き、全て、2〜8℃で4週間後に強力な結晶成長を示した(表4)。他方、クエン酸に基づく製剤は、pH6.5〜7.5で、試験された全ての糖/塩組み合わせで、150mg/mL husFcγRIIBまで安定していた(表7)。
【0102】
従って、クエン酸緩衝husFcγRIIBは、皮下適用のために適切な、即ち、生理学的なpHおよび張度を有する高濃度液体製剤の開発の最良の基本を表す。
【0103】
(表2)70mg/mL husFcγRIIBおよび2〜8℃におけるヒスチジンに基づく溶解度スクリーニング。各製剤の視覚的な外観を、光学顕微鏡法によって査定し、自由尺度に従ってランク付けした(0=結晶は存在しない;1=いくつかの結晶が存在するが、ほとんど可視でない;2=いくつかの結晶が明白に可視である; 3=1ウェル当たり30個を超える結晶が明白に可視である;4=多数の結晶の層が存在する(ウェルは完全には覆われていない);5=多数の結晶の層が存在する(ウェルが完全に覆われている)。
【0104】
(表3)100mg/mL husFcγRIIBおよび2〜8℃におけるヒスチジンに基づく溶解度スクリーニング。各製剤の視覚的な外観を、光学顕微鏡法によって査定し、自由尺度に従ってランク付けした(0=結晶は存在しない;1=いくつかの結晶が存在するが、ほとんど可視でない;2=いくつかの結晶が明白に可視である; 3=1ウェル当たり30個を超える結晶が明白に可視である;4=多数の結晶の層が存在する(ウェルは完全には覆われていない);5=多数の結晶の層が存在する(ウェルが完全に覆われている)。
【0105】
(表4)120mg/mL/150mg/mL husFcγRIIBおよび2〜8℃におけるヒスチジンに基づく溶解度スクリーニング。各製剤の視覚的な外観を、光学顕微鏡法によって査定し、自由尺度に従ってランク付けした(0=結晶は存在しない;1=いくつかの結晶が存在するが、ほとんど可視でない;2=いくつかの結晶が明白に可視である; 3=1ウェル当たり30個を超える結晶が明白に可視である;4=多数の結晶の層が存在する(ウェルは完全には覆われていない);5=多数の結晶の層が存在する(ウェルが完全に覆われている)。
【0106】
(表5)70mg/mL husFcγRIIBおよび2〜8℃におけるクエン酸に基づく溶解度スクリーニング。各製剤の視覚的な外観を、光学顕微鏡法によって査定し、自由尺度に従ってランク付けした(0=結晶は存在しない;1=いくつかの結晶が存在するが、ほとんど可視でない;2=いくつかの結晶が明白に可視である; 3=1ウェル当たり30個を超える結晶が明白に可視である;4=多数の結晶の層が存在する(ウェルは完全には覆われていない);5=多数の結晶の層が存在する(ウェルが完全に覆われている)。
【0107】
(表6)100mg/mL husFcγRIIBおよび2〜8℃におけるクエン酸に基づく溶解度スクリーニング。各製剤の視覚的な外観を、光学顕微鏡法によって査定し、自由尺度に従ってランク付けした(0=結晶は存在しない;1=いくつかの結晶が存在するが、ほとんど可視でない;2=いくつかの結晶が明白に可視である; 3=1ウェル当たり30個を超える結晶が明白に可視である;4=多数の結晶の不完全な層が存在する(ウェルは完全には覆われていない);5=多数の結晶の完全な層が存在する(ウェルが完全に覆われている)。
【0108】
(表7)120mg/mL/150mg/mL husFcγRIIBおよび2〜8℃におけるクエン酸に基づく溶解度スクリーニング。各製剤の視覚的な外観を、光学顕微鏡法によって査定し、自由尺度に従ってランク付けした(0=結晶は存在しない;1=いくつかの結晶が存在するが、ほとんど可視でない;2=いくつかの結晶が明白に可視である; 3=1ウェル当たり30個を超える結晶が明白に可視である;4=多数の結晶の層が存在する(ウェルは完全には覆われていない);5=多数の結晶の層が存在する(ウェルが完全に覆われている)。
【0109】
(d)高濃度husFcγRIIB製剤の熱安定性
変性タンパク質の凝集物および粒子の形成は、高濃度タンパク質製剤の開発のために主要な障壁となり得る(Shire et al.,2010,Chapter 15.High-concentration antibody formulations.In Formulation and Process Development Strategies for Manufacturing Biopharmaceuticals.Jameel,F.& Hershenson,S.,eds.,John Wiley,Hoboken,NJ)。その理由のため、熱ストレスの存在下でhusFcγRIIBの未変性構造を保存し、従って、変性凝集を抑止する能力に関して、製剤候補(実施例2cを参照すること)を評価した。
【0110】
最初に、クエン酸緩衝husFcγRIIB製剤の融解温度T
mを、示差走査蛍光定量法によって測定した。
図4は、示されたpHの10mMクエン酸、4.5%糖(2:1(w/w)ショ糖:マンニトール)、75mM NaCl中の0.5mg/mL husFcγRIIB(
図4(a)および(c))、または示された量の糖(2:1(w/w)ショ糖:マンニトール)および塩が補足された10mMクエン酸(pH7.0)中の0.5mg/mL husFcγRIIB(
図4(b)および(d))を使用して入手された、それぞれの結果を示す。husFcγRIIB製剤を、Sypro Orangeの存在下で、1℃/分で、96穴マイクロタイタープレートにおいて加熱し、610nmにおける蛍光放射を記録した。蛍光対温度プロット(a)および(b)、ならびにそれらの一次導関数(c)および(d)が示される。dF/dTプロットにおける最初の極大を、husFcγRIIB融解温度として定義した。
【0111】
それぞれの製剤候補の組成に応じて、50.8℃から55.5℃までのT
m値が測定された。融解温度に対する最大の影響は、pHが有しており、pHが7.5から6.5に低下した時、T
mがおよそ3.5℃増加した。7.5%糖の添加は、およそ1℃、T
mを増加させた(10mMクエン酸におけるpH、糖、および塩濃度の関数としてのhusFcγRIIB融解温度の変化を示している
図5。3個の独立したウェルからの平均値および標準偏差が示される)。NaCl濃度は平行して低下したが、初期の実験において示されたように(示されないデータ)、そして優先的排除(preferential exclusion)の理論に従って(Timasheff,1992,Chapter 9.Stabilization of Protein Structure.In Stability of Protein Pharmaceuticals,Part B:In vivo pathways of degradation and strategies for protein stabilization.Ahern,T.J.& Manning,M.C.,eds.,Plenum Press,New York,pp.265-285)、熱安定性の増加は、明らかに、塩含量の減少ではなく糖濃度の増加の関数である。これは、6.2℃のT
m増加をもたらした7.5%から40%への糖濃度の上昇によっても例証される。
【0112】
次に、高い融解温度によって示されるような、husFcγRIIBの二次構造および三次構造の安定化が、どの程度、不溶性のタンパク質凝集物の形成を阻害するかを決定した。従って、クエン酸緩衝husFcγRIIB製剤の濁度を、測定されたT
mより十分に低い温度、37℃でのインキュベーションの後に測定した。この目的のため、37℃におけるクエン酸緩衝husFcγRIIB製剤の加速された安定性を決定した。360nmにおける光学濃度を、1時間後(a)、12時間後(b)、および7日後(c)に、husFcγRIIB濃度およびショ糖濃度の関数として測定した。全ての製剤が、10mMクエン酸(pH7.0)、25mM NaClを含有していた。緩衝液対照の光学濃度を差し引いた。40%ショ糖で、最高濃度の製剤は、60mg/mL husFcγRIIBのみを含有し、80mg/mLは含有していなかった。
【0113】
結果は
図6に示される。ショ糖濃度の増加(
図6の全てのグラフにおいて、濃度はZ軸上の後方から前方へ増加している)、即ち、タンパク質の融解温度の増加によって、濁度の上昇は遅延する。ショ糖が添加されない時、10mg/mL husFcγRIIB以上の強度を有する全ての製剤が、37℃で1時間後に既に濁ったが、40%ショ糖では、60mg/mL husFcγRIIBまで、37℃で7日後ですら、濁度の有意な増加は観察されなかった。あるタンパク質濃度より上で、絶対的な濁度は、husFcγRIIB濃度の増加と共に直線的に増加するが、その閾値未満では、不溶性のタンパク質凝集物の形成は極めて遅くなるかまたは阻害すらされる。ショ糖濃度の増加によって、この閾値はより高いhusFcγRIIB濃度にシフトするが、37℃および60mg/mLを越える濃度でhusFcγRIIBを安定化するためには、生理学的観点から許容されない高いショ糖濃度が、必要とされるであろう。
【0114】
40℃でのクエン酸緩衝husFcγRIIB製剤の加速された安定性に関して、さらなる試験を実施した。結果は
図7に示される。360nmにおける光学濃度の増加を、10%/292mMショ糖(a、白三角)、10%/292mMトレハロース(a、白四角)、5%/274mMマンニトール(a、白丸)、30%/876mMショ糖(b、白三角)、30%/876mM トレハロース(b、白四角)、15%/822mM マンニトール(b、白丸)が補足された10mMクエン酸、150mM NaCl(pH7.0)において、10mg/mL husFcγRIIBで測定した。20%ショ糖が補足された緩衝液対照も示される(黒丸)。
【0115】
これらの観察に基づき、異なる糖および糖アルコールを、不溶性のタンパク質凝集物の形成を抑制する能力に関してランク付けした。
図7に示されるように、最も効率的な安定剤はショ糖である。
【0116】
(e)必要とされる界面活性剤濃度の定義
濁度アッセイ(示されないデータ)は、発表されたデータ(Timasheff,1992,Chapter 9.Stabilization of Protein Structure.In Stability of Protein Pharmaceuticals,Part B:In vivo pathways of degradation and strategies for protein stabilization.Ahern,T.J.& Manning,M.C.,eds.,Plenum Press,New York,pp.265-285)と一致して、界面活性剤濃度の増加がhusFcγRIIBを不安定化することを示した。また、高い界面活性剤濃度の使用は、免疫原性の増加をもたらし得ると推測されている(Hermeling et al.,2003,Pharm.Res.20,1903-1907)。その理由のため、表面ストレスに対する安定化効果を損なうことなく、界面活性剤の濃度を可能な限り低く維持することは必須であろう。
【0117】
理想的には、ポリソルベート20濃度は、5〜20mg/mL husFcγRIIBを含有している既に確立されている液体husFcγRIIB製剤のために使用されている濃度、0.005%に固定されるであろう。しかし、新たに開発された製剤の強度が50mg/mLを超えており、ポリソルベート20がタンパク質に結合する可能性があるため、界面活性剤の濃度を0.005%より上に上昇させなければならないか否かが問われた。
【0118】
タンパク質による非特異的な界面活性剤結合の仮説を試験するため、0.005%ポリソルベート20を含有しているクエン酸緩衝製剤候補に、増加する濃度のhusFcγRIIBを追加し、溶液を、室温、およびhusFcγRIIBの決定されたT
mより十分に高い温度である60℃で、1時間インキュベートした。タンパク質および仮説的に結合したポリソルベート20を陽イオン交換クロマトグラフィによって除去した後、遊離のポリソルベートの量を測定した。
図8に、husFcγRIIBの存在下で遊離のポリソルベート20を決定する実験が示される。10mMクエン酸、25mMNaCl、3%ショ糖、1.5%マンニトール、0.005%ポリソルベート20(pH6.7)中のhusFcγRIIBを、25℃(未変性husFcγRIIB)および60℃(変性husFcγRIIB)で1時間インキュベートした。husFcγRIIBを陽イオン交換クロマトグラフィ(CEX)によって除去した後、ポリソルベート20の量を測定した(a)。ブランクは、husFcγRIIBまたは界面活性剤が添加されていない緩衝液を表す。システム適合性試験(SST)は、0.005%ポリソルベート20を含む緩衝液を表し、SST2はCEX処理されたもの、SST1は未処理であった。対数husFcγRIIB濃度に対するポリソルベート濃度の直線回帰(R
2>0.998)によって、0.08〜0.72mg/mL husFcγRIIBで測定されたポリソルベート含量を、10mg/mLを超えるhusFcγRIIB濃度へ外挿した(b)。
【0119】
図8に示されるように、遊離のポリソルベート含量と対数husFcγRIIB濃度との間の直線的な関係が確立された。従って、製剤の強度が20mg/mLから100mg/mLへ増加した場合、遊離のポリソルベートの濃度は、わずかに、およそ0.0001〜0.0002%しか変化しないであろうと予想される。0.005%の対照と比較された、試料中の有意に低いポリソルベート濃度は、概して、カラムローディング中に、ポリソルベート20なしで調製されたCEX平衡化緩衝液によって試料が希釈されたという事実に起因する(
図8 SST1対SST2を参照すること)。
【0120】
(f)高濃度husFcγRIIB製剤の粘度
高濃度タンパク質製剤は、高い粘度を特徴とする(Shire et al.,2010(前記))。従って、高濃度タンパク質製剤の製造可能性は、タンジェンシャルフローろ過による濃縮過程が許容されないほどに遅くなり得るため、粘度によって妨げられる可能性がある。さらなる実験において、10mMクエン酸、25mM NaCl(pH7.0)におけるhusFcγRIIBの溶液粘度を20℃で測定した。
図9(白丸)に示されるような実験データは、指数関数的増加関数(−、R
2>0.992)に適合し、製剤の溶液粘度が、少なくとも210mg/mLまで、経済的なTFF過程を実行するために十分に低いことを見出した。
【0121】
(g)husFcγRIIB含有製剤の凍結乾燥
変動するhusFcγRIIB、糖、塩、および界面活性剤の含量を含む59の製剤を、保存的な凍結乾燥サイクルに供した。最初の体積以下の体積の注射用水によって固体を再構成した後、凍結乾燥過程を行った。そうすることにおいて、再構成後のhusFcγRIIB含量を、60〜180mg/mLの名目上の含量に調整した。凍結乾燥のための様々な製剤の適合性を、再構成時間および再構成後の粒子汚染に基づき評価した。2分未満で再構成することができ、濁度の増加も、可視および可視以下の範囲の粒子の形成も示さない、いくつかの製剤が同定された。上記の凍結乾燥スクリーニングに基づき、理想的な製剤は、凍結乾燥前に少量のhusFcγRIIB(例えば、15〜60mg/mL)を含有しており、少量の注射用水によって再構成され、従って、最終界面活性剤濃度を増加させることが示された。蛍光顕微鏡法によって決定されるような選択された製剤の粒子量は、
図10に示される。全ての製剤が、5mMクエン酸(pH6.7)、ならびに示された量の塩、糖、および界面活性剤を含有していた。製剤を、凍結乾燥させ、示されたhusFcγRIIB含量へ再構成した。