特許第6979441号(P6979441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979441
(24)【登録日】2021年11月17日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】変速制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20211202BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20211202BHJP
   F16H 63/46 20060101ALI20211202BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20211202BHJP
   F16D 13/52 20060101ALI20211202BHJP
   F16D 43/14 20060101ALI20211202BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H59/42
   F16H63/46
   F16H63/50
   F16D13/52 Z
   F16D43/14
   F02D29/00 C
   F02D29/00 G
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-205989(P2019-205989)
(22)【出願日】2019年11月14日
(65)【公開番号】特開2021-80932(P2021-80932A)
(43)【公開日】2021年5月27日
【審査請求日】2020年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】小野 惇也
(72)【発明者】
【氏名】大関 孝
(72)【発明者】
【氏名】森田 豪
(72)【発明者】
【氏名】根建 圭淳
(72)【発明者】
【氏名】竜▲崎▼ 達也
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−27743(JP,A)
【文献】 特開2007−10037(JP,A)
【文献】 特開2005−96537(JP,A)
【文献】 特開2003−240109(JP,A)
【文献】 特開平9−14420(JP,A)
【文献】 特開平3−160129(JP,A)
【文献】 特開平2−38746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/02,59/42,63/46,63/50
F16D 13/52,43/14
F02D 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(21)のクランク軸(22)と変速装置(50)との間に配設されると共に、前記クランク軸(22)が所定回転数(Ne1)を上回ることで切断状態から接続状態に切り替わって駆動力を伝達する遠心式の発進クラッチ(45)と、
前記発進クラッチ(45)と前記変速装置(50)との間に配設されると共に、前記変速装置(50)の変速動作中に接続状態から切断状態に切り替わる変速クラッチ(60)と、
前記変速装置(50)の変速動作を行うシフトモータユニット(100)と、
前記シフトモータユニット(100)を制御する制御部(300)とを含む変速制御装置において、
前記制御部(300)は、車両の減速中に前記クランク軸(22)が前記所定回転数(Ne1)を下回らないように、自動的にシフトダウンを行うオートシフトダウン制御を実行することを特徴とする変速制御装置。
【請求項2】
前記制御部(300)は、前記オートシフトダウン制御を実行する際に、前記クランク軸(22)が前記所定回転数(Ne1)を下回らないように、シフトダウン動作中に前記クランク軸(22)の回転数を上げる制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の変速制御装置。
【請求項3】
エンジン(21)のクランク軸(22)と変速装置(50)との間に配設されると共に、前記クランク軸(22)が所定回転数(Ne1)を上回ることで切断状態から接続状態に切り替わって駆動力を伝達する遠心式の発進クラッチ(45)と、
前記発進クラッチ(45)と前記変速装置(50)との間に配設されると共に、前記変速装置(50)の変速動作中に接続状態から切断状態に切り替わる変速クラッチ(60)と、
前記変速装置(50)の変速動作を行うシフトモータユニット(100)と、
前記シフトモータユニット(100)を制御する制御部(300)とを含む変速制御装置において、
前記制御部(300)は、前記遠心クラッチ(45)が切断状態で加速している際に、自動的にシフトアップを行うオートシフトアップ制御を実行することを特徴とする変速制御装置。
【請求項4】
エンジン(21)のクランク軸(22)と変速装置(50)との間に配設されると共に、前記クランク軸(22)が所定回転数(Ne1)を上回ることで切断状態から接続状態に切り替わって駆動力を伝達する遠心式の発進クラッチ(45)と、
前記発進クラッチ(45)と前記変速装置(50)との間に配設されると共に、前記変速装置(50)の変速動作中に接続状態から切断状態に切り替わる変速クラッチ(60)と、
前記変速装置(50)の変速動作を行うシフトモータユニット(100)と、
前記シフトモータユニット(100)を制御する制御部(300)とを含む変速制御装置において、
前記制御部(300)は、前記遠心クラッチ(45)が切断状態で加速している際に、前記クランク軸(22)の回転数を前記所定回転数(Ne1)まで上げて前記遠心クラッチ(45)を接続することを特徴とする変速制御装置。
【請求項5】
エンジン(21)のクランク軸(22)と変速装置(50)との間に配設されると共に、前記クランク軸(22)が所定回転数(Ne1)を上回ることで切断状態から接続状態に切り替わって駆動力を伝達する遠心式の発進クラッチ(45)と、
前記発進クラッチ(45)と前記変速装置(50)との間に配設されると共に、前記変速装置(50)の変速動作中に接続状態から切断状態に切り替わる変速クラッチ(60)と、
前記変速装置(50)の変速動作を行うシフトモータユニット(100)と、
前記シフトモータユニット(100)を制御する制御部(300)とを含む変速制御装置において、
前記制御部(300)は、前記遠心クラッチ(45)が切断状態で加速している際に、スロットル操作によって前記クランク軸(22)が前記所定回転数(Ne1)に近づくと、前記シフトモータユニット(100)を駆動して前記変速クラッチ(60)を半接続状態とする半クラッチ制御を実行することを特徴とする変速制御装置。
【請求項6】
前記クランク軸(22)の回転数を上げるためのNe制御装置(400)が、スロットルバルブ(401)またはアイドルコントロールバルブ(402)であることを特徴とする請求項2または4に記載の変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の変速制御装置に係り、特に、遠心クラッチで構成される発進クラッチとシフトモータで変速される有段変速装置とを有するパワーユニットに適用される変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンの駆動力を、遠心クラッチで構成される発進クラッチを介して有段変速装置に伝達するようにしたパワーユニットが知られている。
【0003】
特許文献1には、遠心クラッチによる発進クラッチと、前進4段の有段変速装置と、変速ギヤを切り換えるシフトモータとを備えたパワーユニットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−210088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1のパワーユニットでは、乗員の足操作により変速を行う構造である。また、遠心クラッチの駆動側部材と被動側部材との間に、ワンウェイクラッチを適用している。このワンウェイクラッチによれば、減速に伴ってエンジン回転数が低下して遠心クラッチの作動回転数を下回っても、ワンウェイクラッチによってバックトルク側の動力伝達が継続されることで適切なエンジンブレーキを得ることができる。
【0006】
これに対し、本出願人は、乗員の足操作による変速を行うことなく、また、シフトモータの制御態様により必要なエンジンブレーキを確保できるほか、自動変速とすることで生じる種々の課題を他の制御で補うことを知見し、使い勝手を向上する可能性を見出した。
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、シフトモータ等の制御態様の工夫により自動変速式車両の使い勝手を向上させた変速制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、エンジン(21)のクランク軸(22)と変速装置(50)との間に配設されると共に、前記クランク軸(22)が所定回転数(Ne1)を上回ることで切断状態から接続状態に切り替わって駆動力を伝達する遠心式の発進クラッチ(45)と、前記発進クラッチ(45)と前記変速装置(50)との間に配設されると共に、前記変速装置(50)の変速動作中に接続状態から切断状態に切り替わる変速クラッチ(60)と、前記変速装置(50)の変速動作を行うシフトモータユニット(100)と、前記シフトモータユニット(100)を制御する制御部(300)とを含む変速制御装置において、前記制御部(300)は、車両の減速中に前記クランク軸(22)が前記所定回転数(Ne1)を下回らないように、自動的にシフトダウンを行うオートシフトダウン制御を実行する点に第1の特徴がある。
【0009】
また、前記制御部(300)は、前記オートシフトダウン制御を実行する際に、前記クランク軸(22)が前記所定回転数(Ne1)を下回らないように、シフトダウン動作中に前記クランク軸(22)の回転数を上げる制御を実行する点に第2の特徴がある。
【0010】
また、エンジン(21)のクランク軸(22)と変速装置(50)との間に配設されると共に、前記クランク軸(22)が所定回転数(Ne1)を上回ることで切断状態から接続状態に切り替わって駆動力を伝達する遠心式の発進クラッチ(45)と、前記発進クラッチ(45)と前記変速装置(50)との間に配設されると共に、前記変速装置(50)の変速動作中に接続状態から切断状態に切り替わる変速クラッチ(60)と、前記変速装置(50)の変速動作を行うシフトモータユニット(100)と、前記シフトモータユニット(100)を制御する制御部(300)とを含む変速制御装置において、前記制御部(300)は、前記遠心クラッチ(45)が切断状態で加速している際に、自動的にシフトアップを行うオートシフトアップ制御を実行する点に第3の特徴がある。
【0011】
また、エンジン(21)のクランク軸(22)と変速装置(50)との間に配設されると共に、前記クランク軸(22)が所定回転数(Ne1)を上回ることで切断状態から接続状態に切り替わって駆動力を伝達する遠心式の発進クラッチ(45)と、前記発進クラッチ(45)と前記変速装置(50)との間に配設されると共に、前記変速装置(50)の変速動作中に接続状態から切断状態に切り替わる変速クラッチ(60)と、前記変速装置(50)の変速動作を行うシフトモータユニット(100)と、前記シフトモータユニット(100)を制御する制御部(300)とを含む変速制御装置において、前記制御部(300)は、前記遠心クラッチ(45)が切断状態で加速している際に、前記クランク軸(22)の回転数を前記所定回転数(Ne1)まで上げて前記遠心クラッチ(45)を接続する点に第4の特徴がある。
【0012】
また、エンジン(21)のクランク軸(22)と変速装置(50)との間に配設されると共に、前記クランク軸(22)が所定回転数(Ne1)を上回ることで切断状態から接続状態に切り替わって駆動力を伝達する遠心式の発進クラッチ(45)と、前記発進クラッチ(45)と前記変速装置(50)との間に配設されると共に、前記変速装置(50)の変速動作中に接続状態から切断状態に切り替わる変速クラッチ(60)と、前記変速装置(50)の変速動作を行うシフトモータユニット(100)と、前記シフトモータユニット(100)を制御する制御部(300)とを含む変速制御装置において、前記制御部(300)は、前記遠心クラッチ(45)が切断状態で加速している際に、スロットル操作によって前記クランク軸(22)が前記所定回転数(Ne1)に近づくと、前記シフトモータユニット(100)を駆動して前記変速クラッチ(60)を半接続状態とする半クラッチ制御を実行する点に第5の特徴がある。
【0013】
さらに、前記クランク軸(22)の回転数を上げるためのNe制御装置(400)が、スロットルバルブ(401)またはアイドルコントロールバルブ(402)である点に第6の特徴がある。
【発明の効果】
【0014】
第1の特徴によれば、エンジン(21)のクランク軸(22)と変速装置(50)との間に配設されると共に、前記クランク軸(22)が所定回転数(Ne1)を上回ることで切断状態から接続状態に切り替わって駆動力を伝達する遠心式の発進クラッチ(45)と、前記発進クラッチ(45)と前記変速装置(50)との間に配設されると共に、前記変速装置(50)の変速動作中に接続状態から切断状態に切り替わる変速クラッチ(60)と、前記変速装置(50)の変速動作を行うシフトモータユニット(100)と、前記シフトモータユニット(100)を制御する制御部(300)とを含む変速制御装置において、前記制御部(300)は、車両の減速中に前記クランク軸(22)が前記所定回転数(Ne1)を下回らないように、自動的にシフトダウンを行うオートシフトダウン制御を実行するので、車両の減速中にクランク軸が所定回転数を下回ってエンジンブレーキがかからない状態となることを防ぐことができる。これにより、減速中の適切なエンジンブレーキを確保することが可能となり、エンジンブレーキを確保するために適用されていた遠心式のワンウェイクラッチを廃止して生産コストを低減することができる。
【0015】
第2の特徴によれば、前記制御部(300)は、前記オートシフトダウン制御を実行する際に、前記クランク軸(22)が前記所定回転数(Ne1)を下回らないように、シフトダウン動作中に前記クランク軸(22)の回転数を上げる制御を実行するので、オートシフトダウン制御を実行する際に、変速クラッチが切れることでクランク軸が所定回転数を下回ることを防ぐことができる。
【0016】
第3の特徴によれば、エンジン(21)のクランク軸(22)と変速装置(50)との間に配設されると共に、前記クランク軸(22)が所定回転数(Ne1)を上回ることで切断状態から接続状態に切り替わって駆動力を伝達する遠心式の発進クラッチ(45)と、前記発進クラッチ(45)と前記変速装置(50)との間に配設されると共に、前記変速装置(50)の変速動作中に接続状態から切断状態に切り替わる変速クラッチ(60)と、前記変速装置(50)の変速動作を行うシフトモータユニット(100)と、前記シフトモータユニット(100)を制御する制御部(300)とを含む変速制御装置において、前記制御部(300)は、前記遠心クラッチ(45)が切断状態で加速している際に、自動的にシフトアップを行うオートシフトアップ制御を実行するので、遠心クラッチが切断状態で惰性による加速中に、スロットルオンに伴ってクランク軸が所定回転数に達すると、遠心クラッチが接続状態に切り替わる際に大きなエンジンブレーキがかかる可能性があるが、これに対応してオートシフトアップ制御でシフトアップしておくことで、スロットルオンに伴って発生するエンジンブレーキの効き具合を抑えることが可能となる。
【0017】
第4の特徴によれば、エンジン(21)のクランク軸(22)と変速装置(50)との間に配設されると共に、前記クランク軸(22)が所定回転数(Ne1)を上回ることで切断状態から接続状態に切り替わって駆動力を伝達する遠心式の発進クラッチ(45)と、前記発進クラッチ(45)と前記変速装置(50)との間に配設されると共に、前記変速装置(50)の変速動作中に接続状態から切断状態に切り替わる変速クラッチ(60)と、前記変速装置(50)の変速動作を行うシフトモータユニット(100)と、前記シフトモータユニット(100)を制御する制御部(300)とを含む変速制御装置において、前記制御部(300)は、前記遠心クラッチ(45)が切断状態で加速している際に、前記クランク軸(22)の回転数を前記所定回転数(Ne1)まで上げて前記遠心クラッチ(45)を接続するので、遠心クラッチが切断状態で惰性による加速中に、スロットルオンに伴ってクランク軸が所定回転数に達すると、遠心クラッチが接続状態に切り替わる際に大きなエンジンブレーキがかかる可能性があるが、これに対応してクランク軸の回転数を上げて発進クラッチを接続しておくことで、スロットルオンに伴って急にエンジンブレーキがかかることを防ぐことができる。
【0018】
第5の特徴によれば、エンジン(21)のクランク軸(22)と変速装置(50)との間に配設されると共に、前記クランク軸(22)が所定回転数(Ne1)を上回ることで切断状態から接続状態に切り替わって駆動力を伝達する遠心式の発進クラッチ(45)と、前記発進クラッチ(45)と前記変速装置(50)との間に配設されると共に、前記変速装置(50)の変速動作中に接続状態から切断状態に切り替わる変速クラッチ(60)と、前記変速装置(50)の変速動作を行うシフトモータユニット(100)と、前記シフトモータユニット(100)を制御する制御部(300)とを含む変速制御装置において、前記制御部(300)は、前記遠心クラッチ(45)が切断状態で加速している際に、スロットル操作によって前記クランク軸(22)が前記所定回転数(Ne1)に近づくと、前記シフトモータユニット(100)を駆動して前記変速クラッチ(60)を半接続状態とする半クラッチ制御を実行するので、遠心クラッチが切断状態で惰性による加速中に、スロットルオンに伴ってクランク軸が所定回転数に達すると、遠心クラッチが接続状態に切り替わる際に大きなエンジンブレーキがかかる可能性があるが、変速クラッチによる半クラッチ制御を行うことで、スロットルオンに伴って発生するエンジンブレーキの効き具合を抑えることが可能となる。
【0019】
第6の特徴によれば、前記クランク軸(22)の回転数を上げるためのNe制御装置(400)が、スロットルバルブ(401)またはアイドルコントロールバルブ(402)であるので、新たな装置を付加することなく、既存の装置を用いてクランク軸の回転数を上げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る自動二輪車の左側面図である。
図2】パワーユニットの左側面図である。
図3】パワーユニットの一部断面平面図である。
図4】シフトドラムおよびシフトスピンドルまわりの構成を示す断面図である。
図5】本実施形態に係る変速制御装置の全体構成を示すブロック図である。
図6】減速時オートシフトダウン制御の流れを示すタイムチャートである。
図7】減速時オートシフトダウン制御の手順を示すフローチャートである。
図8】惰行時オートシフトアップ制御の流れを示すタイムチャートである。
図9】惰行時オートシフトアップ制御の手順を示すフローチャートである。
図10】惰行時半クラッチ制御の手順を示すフローチャートである。
図11】惰行時遠心クラッチ接続制御の流れを示すタイムチャートである。
図12】惰行時遠心クラッチ接続制御の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る自動二輪車1の左側面図である。自動二輪車1の車体フレーム2は、ヘッドパイプ3と、メインパイプ4と、センタフレーム5と、左右一対のリヤパイプ6と、左右一対のバックステー7とを備える。メインパイプ4は、車体フレーム2の前端に位置するヘッドパイプ3から斜め後方下方に延びている。センタフレーム5は、メインパイプ4の後部から左右に広がって下方に延びている。左右一対のリヤパイプ6は、センタフレーム5よりも前方の位置で、メインパイプ4から斜め後方上方に延出した後、略水平に屈曲して後方に延びている。左右一対のバックステー7は、左右に広がったセンタフレーム5の左右側部とリヤパイプ6の後部との間に介装されている。
【0022】
ヘッドパイプ3には、ステアリングシャフト8が回転自在に軸支されている。ステアリングシャフト8の下側には、サスペンションを備えたフロントフォーク9が延設されている。フロントフォーク9の下端には、前輪WFが軸支されている。ステアリングシャフト8の上部には、左右に展開したハンドルバー8bが取り付けられている。スイングアーム11の前端部は、ピボット軸10によってセンタフレーム5に軸支されている。後方に延出するスイングアーム11の後端には、後輪WRが軸支されている。スイングアーム11の後部とリヤパイプ6との間には、リヤクッション12が介装されている。
【0023】
メインパイプ4の下方には、メインパイプ4およびセンタフレーム5に支持されるパワーユニットPが配設されている。パワーユニットPは、ユニットケース20と、ユニットケース20に一体的に構成されたエンジン21および変速装置50とを備えている。ドライブスプロケット13は、パワーユニットPの出力軸に固定されている。ドライブスプロケット13と、後輪WR側のドリブンスプロケット14との間には、ドライブチェーン15が架け渡されている。
【0024】
リヤパイプ6の傾斜部には、燃料タンク16が配設されている。シート17は、燃料タンク16およびリヤパイプ6の後側水平部の上を覆っている。車体カバー18は、車体フレーム2のほぼ全体を覆っている。センタフレーム5の下端部には、メインスタンド19の基端部が軸支されている。
【0025】
パワーユニットPは、ユニットケース20の前側にエンジン21が配置されると共に、ユニットケース20の後側に変速装置50が配置されて構成される。エンジン21は、4サイクルの空冷単気筒であり、変速装置50は4段変速の変速ギア噛合機構である。
【0026】
エンジン21は、クランクケースとして機能するユニットケース20を備える。クランク軸22は、車幅方向に指向してユニットケース20に回転自在に軸支されている。ユニットケース20の前部には、シリンダブロック23とシリンダヘッド24とが一体に締結されている。シリンダブロック23およびシリンダヘッド24は、前方に向けて突出している。シリンダヘッド24の天面には、シリンダヘッドカバー25が被せられている。
【0027】
吸気管26は、シリンダヘッド24の上面から上方に延出してエアクリーナボックス28に接続されている。エアクリーナボックス28は、スロットルボディ27を介してメインパイプ4の前部に配設されている。
【0028】
シリンダヘッド24の下面から下方に延出する排気管30は、ユニットケース20の下方を通って車体後方に伸びて、車幅方向右側のマフラ31に接続されている。ユニットケース20の下面には、ステップバー33が固定されている。ドライブスプロケット13の上方には、変速制御部の指令に伴って変速動作を行うシフトモータユニット100が配設されている。
【0029】
図2は、パワーユニットPの左側面図である。ユニットケース20に軸支されて車幅方向に指向するクランク軸22の軸線上には、発進クラッチ45が配設されている。クランク軸22の後方には、変速ギヤを軸支するメイン軸51およびカウンタ軸52が配設されている。メイン軸51の下方の位置には、シフトスピンドル55が配設されており、シフトスピンドル55の左端部はユニットケース20から突出している。
【0030】
スプロケットカバー53に取り付けられるシフトモータユニット100は、モータ部101の前部に減速機ケース102を取り付けた構成とされ、減速機ケース102の前部に出力軸103が突出している。出力軸103には、揺動アーム104を介してシフトロッド104が連結されており、出力軸103の回動動作に応じてシフトロッド104が上下動すると、シフトロッド104の下端部に連結される揺動アーム105が、シフトスピンドル55を正転側または逆転側に回動させて変速動作が行われる。
【0031】
メイン軸51の同軸上には、シフトスピンドル55の回動動作に連動して駆動力の切断および接続を行う変速クラッチ60が配設されている。変速動作の際には、シフトスピンドル55をシフトアップ側およびシフトダウン側に回動させる場合のそれぞれにおいて、回動動作に伴って変速クラッチ60を切断状態に遷移させながら、変速ギヤが1段上または1段下のギヤに切り換えられる。
【0032】
図3は、パワーユニットPの一部断面平面図である。ユニットケース20は、左ユニットケース20Lおよび右ユニットケース20Rの左右割りで構成されており、左ユニットケース20Lと右ユニットケース20Rとを一体化結合することで内空間が形成される。内空間は、前側にクランク室20cを有し、後側に変速室20mを有する。クランク室20cには、左右ユニットケース20L,20Rに主軸受22bを介してクランク軸22が回転自在に軸支されている。変速室20mには、変速装置50等の変速機構が収容される。
【0033】
シリンダブロック23内に一体成型されたシリンダライナ23cの中には、ピストン35が往復して摺動する。ピストン35とクランク軸22とは、コンロッド36によって連接されて、クランク機構を構成している。
【0034】
左ユニットケース20Lから左側方へ突出する左側クランク軸部22Lには、主軸受22bの近傍に、動弁駆動系の駆動スプロケット40が嵌着されている。左側クランク軸部22Lの左端には、ACジェネレータ41が設けられている。駆動スプロケット40とACジェネレータ41との間には、始動機構の被動ギア42が嵌着されている。左ユニットケース20Lの左側に突設されるACジェネレータ41は、左側ユニットケースカバーであるACGカバー43によって左側から覆われる。
【0035】
一方、右ユニットケース20Rから右側方へ突出する右側クランク軸部22Rには、遠心式の発進クラッチ45が設けられている。発進クラッチ45は、右側クランク軸部22Rに一体に固着されたクラッチインナ45iの周りを、クラッチアウタ45oが回転自在に支持されることで構成されている。クランク軸22の回転数Neが所定回転数Ne1(例えば、2500rpm)を越えると、クラッチインナ45iのクラッチシューがクラッチアウタ45oに圧接されて動力が伝達される。
【0036】
右側クランク軸部22Rには、クラッチアウタ45oの左側に接して共に回転するプライマリドライブギア46が、右側クランク軸部22Rに回転自在に軸支されている。ユニットケース20の後側の内空間である変速室20mにおいては、メイン軸51は、クランク軸22の後方位置においてクランク軸22と平行に延びて、左右ユニットケース20L,20Rに一対の軸受51bを介して回転自在に軸支されている。メイン軸51のさらに後方においては、カウンタ軸52は、メイン軸51と平行に延びて、左右ユニットケース20L,20Rに一対の軸受52bを介して回転自在に軸支されている。クランク軸22、メイン軸51、カウンタ軸52は、この順に前方から後方へ並んで配設されている。
【0037】
変速装置50は、メイン軸51上に配列されるギア列51Gと、カウンタ軸52上に配列されるギア列52Gとの1速段から4速段の各ギア同士が互いに、常時噛み合って構成されている。ギア列51G及びギア列52Gうちの一方は、軸と共に回転し、それらの他方は、軸に対して自由に回転する。
【0038】
そして、メイン軸51上のギア列51Gのうちのセレーション嵌合したシフタギア51gsが軸方向に移動して隣のギアと断接することと、カウンタ軸52上のギア列52Gのうちのセレーション嵌合したシフタギア52gsが軸方向に移動して隣りのギアと断接することとの組み合わせによって、1速段から4速段のいずれかの変速段またはニュートラル状態が確立する。
【0039】
右ユニットケース20Rから右側方に突出するメイン軸51の端部には、変速クラッチ60が設けられている。変速クラッチ60のクラッチアウタ61は、メイン軸51にスリーブを介して相対回転自在に軸支されている。クラッチアウタ61には、プライマリドリブンギア47が緩衝部材48を介して取り付けられている。プライマリドライブギア46は、これと噛み合うプライマリドリブンギア47をクラッチアウタ61と共に減速して回転する。
【0040】
メイン軸51の右端には、クラッチインナ62が一体に嵌着されている。クラッチインナ62の周壁部の外周にセレーション嵌合する複数の駆動摩擦板63と、クラッチアウタ61の周壁部の内周にセレーション嵌合する被駆動摩擦板64とは、交互に軸方向に配列されている。プレッシャプレート65は、プレッシャプレート65とクラッチインナ62の円板外周部との間に、駆動摩擦板63および被駆動摩擦板64を挟んだ状態で、クラッチインナ62に軸方向に摺動自在に支持されている。
【0041】
軸方向に摺動自在のプレッシャプレート65は、クラッチアウタ61の内部において、クラッチインナ62よりも軸方向内側に位置する。クラッチインナ62の円板部においては、周方向に複数穿孔された貫通孔を、プレッシャプレート65から突出した複数の支持ボス65bが貫通している。支持ボス65bの先端には、環状のレリーズフランジ66がボルト67により締結されている。
【0042】
レリーズフランジ66とクラッチインナ62との間には、皿バネ状のクラッチバネ68が介装されている。このクラッチバネ68によりレリーズフランジ66と一体に、プレッシャプレート65が右方向に付勢される。プレッシャプレート65は、クラッチインナ62との間で駆動摩擦板63および被駆動摩擦板64を挟み込む。これにより、変速クラッチ60が接続状態に保持され、クラッチアウタ61の回転がクラッチインナ62に、すなわちメイン軸51に伝達される。
【0043】
一方、シフトスピンドル55の回動動作に伴って、変速クラッチ作動機構70が軸方向に移動することでレリーズフランジ66が左方に押され、クラッチバネ68の付勢力に抗してプレッシャプレート65が左方に移動すると、プレッシャプレート65とクラッチインナ62との間隔は拡がる。これにより、駆動摩擦板63,被駆動摩擦板64の挟み込みは緩み、変速クラッチ60の接続状態は解除される。
【0044】
エンジン21のクランク軸22の回転は、発進クラッチ45および変速クラッチ60を経て、変速装置50のメイン軸51に伝達される。右側クランク軸部22Rの右端に設けられる発進クラッチ45と、メイン軸51の右端に設けられる変速クラッチ60とは、右側ユニットケースカバー49で右側から覆われる。左ユニットケース20Lを左方に貫通したカウンタ軸52の端部に嵌着されたドライブスプロケット13は、スプロケットカバー53で左側から覆われる。
【0045】
図4は、シフトドラム90およびシフトスピンドル55まわりの構成を示す断面図である。この図では、メイン軸51、カウンタ軸、シフトドラム90およびシフトスピンドル55を通る断面を示している。変速装置50は、シフトスピンドル55と、マスターアーム83と、ギアシフトアーム81と、シフトリターンスプリング85と、プリロードストッパカラー56と、蓄力スプリング57と、蓄力カラー71と、クラッチレバー72とを備える。
【0046】
シフトスピンドル55は、左右ユニットケース20L,20Rを左右方向に貫通し、さらに右側部が右側ユニットケースカバー49の軸受ボス部49aを貫通し、回転自在に軸支されている。シフトスピンドル55の回動動作は、変速クラッチ作動機構70および変速作動機構80を共に駆動する。変速クラッチ作動機構70は、変速クラッチ60を作動して変速クラッチ60の切断および接続を行う。変速作動機構80は、変速装置50を作動して変速段の切り換えを行う。クラッチレバー72は、右側ユニットケースカバー49の軸受ボス部49aの近傍の位置でシフトスピンドル55に固定されている。
【0047】
変速クラッチ60の環状のレリーズフランジ66の内周面には、ボールベアリング75の外輪が嵌着されている。ボールベアリング75の内輪には、作動レバー74の回動中心の基端突出部74aが嵌入して固着されている。基端突出部74aは、先端小径部と大径部とからなる2段構造を有する。基端突出部74aの先端小径部は、ボールベアリング75の内輪に嵌入されている。作動レバー74の回動する係合カム孔74cには、クラッチレバー72の先端に突設されたローラ73が係合している。
【0048】
クラッチ調整ボルト76は、右側ユニットケースカバー49のメイン軸51の延長上に固着されている。クラッチ調整ボルト76は、作動レバー74の基端突出部74aの大径部に右側から挿入され、作動レバー74を回動自在に且つ軸方向に摺動自在に支持している。作動レバー74の基端突出部74aの周囲の基端円板部74bには、クラッチリフタプレート77が、右側ユニットケースカバー49に回動を規制されると共にクラッチ調整ボルト76に支持されている。作動レバー74は、回動を規制されたクラッチリフタプレート77に対して相対的に回動自在であり、軸方向に移動可能である。作動レバー74は、変速クラッチ60のクラッチバネ68の付勢力がボールベアリング75を介して作用することで、右方向に付勢されている。
【0049】
変速クラッチ作動機構70は、変速クラッチ60の外側(右側)でかつ右側ユニットケースカバー49の内側(左側)に配設されている。一方、変速装置50を作動して変速段の切り換えを行う変速作動機構80は、変速クラッチ60の内側(左側)に配設される。
【0050】
シフトフォーク91,92は、変速装置50のメイン軸51上のシフタギア51gsおよびカウンタ軸52上のシフタギア52gsを軸方向に移動する。シフトフォーク91,92は、メイン軸51とカウンタ軸52との間の上方位置において、左右ユニットケース20L,20Rの間に回動自在に架設されたシフトドラム90の回動に伴って動作する。
【0051】
シフトフォーク91,92は、基端部において、シフトドラム90に相対的に回動自在に軸支される。シフトフォーク91,92は、基端部に突設された係合ピン91p,92pを、シフトドラム90の外周面に形成された所定形状のシフト溝に摺動自在に係合している。シフトフォーク91,92の各先端部は、シフタギア51gs,52gsにそれぞれ係合している。これにより、シフトドラム90が回動すると、シフト溝に案内されて軸方向に移動する係合ピン91p,92pを介して、シフトフォーク91,92が軸方向に移動し、変速装置50の変速段の切り換えが行われる。
【0052】
シフトドラム90の右端は、外周面において、右ユニットケース20Rに摺動自在に支持されている。シフトドラム90の右側壁90rは、右ユニットケース20Rの軸受開口から右側に露出している。右側壁90rの中央ボス部には、星型プレート93がボルト94により固定されている。右側壁90rのボルト94の周りには、5本の係止ピン95が植設されている。係止ピン95は、右側壁90rと星型プレート93との間に設けられる。変速作動機構80と変速クラッチ作動機構70の双方を駆動させるシフトスピンドル55は、シフトモータユニット100(図2参照)によって回動される。
【0053】
右側ユニットケースカバー49の軸受ボス部49aを貫通したシフトスピンドル55の右端部には、シフトスピンドル55の回動角度を検出するシフトスピンドルセンサ202が設けられている。一方、シフトスピンドル55の左ユニットケース20Lを貫通した左側部には、シフトロッド104を連結するための揺動アーム105が固定される。
【0054】
上記した構成によれば、シフトモータユニット100によってシフトスピンドル55が回動されると、変速クラッチ作動機構70が変速クラッチ60を一時的に切断すると共に、変速作動機構80が変速装置50を駆動して変速段の切換えが行われる。
【0055】
図5は、本実施形態に係る変速制御装置の全体構成を示すブロック図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。制御部としての変速制御部300は、エンジン21の回転数Neを制御するNe制御部301と、車速、エンジン回転数NeおよびTh(スロットル)開度と変速タイミングとの関係を規定する変速マップ301とを含む。本実施形態に係る自動二輪車1は、変速マップ301に基づいて自動的にシフトアップおよびシフトダウンを行うオートマチック変速のほか、ハンドルバー8bの近傍に設けられたシフトスイッチ(不図示)によって変速操作が行えるセミオートマチック変速が可能とされている。
【0056】
変速制御部300には、エンジン回転数Neを検出するNeセンサ200、シフトドラム90の回動角度から変速装置の変速段位を検出するギヤポジションセンサ201、シフトスピンドル55の回動角度を検出するシフトスピンドルセンサ202、自動二輪車1の車速を検出する車速センサ203、運転者が操作するスロットルグリップの回動角度を検出するTh開度センサ204からの情報が入力される。
【0057】
変速制御部300は、Neセンサ200等からの情報および変速マップ302に基づいてシフトモータユニット100を駆動する。シフトモータユニット100によって回動されるシフトスピンドル55は、回動動作に伴って変速クラッチ60を切断すると共に変速装置50の変速ギヤを1段上または1段下に切り換える。変速が終了してシフトスピンドル55が中立位置に戻る動作に合わせて、変速クラッチ60も接続状態に復帰する。
【0058】
一方、本実施形態に係る変速制御部301は、Ne制御部301によってNe制御装置400を駆動することで、運転者のスロットル操作に関わらず、エンジン21のエンジン回転数Neを任意に上昇させることを可能とする。Ne制御装置400は、スロットルバイワイヤによるスロットルバルブ401またはアイドルコントロールバルブ402とすることができる。
【0059】
本実施形態に係るパワーユニットPは、遠心クラッチ405の駆動側部材と被動側部材との間に、遠心作動式のワンウェイクラッチを適用していない。このようなワンウェイクラッチを備えたパワーユニットPでは、減速に伴ってエンジン回転数Neが低下し、遠心クラッチが切断されても、ワンウェイクラッチでバックトルクが伝達されることでエンジンブレーキが確保されていた。これに対し、ワンウェイクラッチを廃止すると、減速に伴って遠心クラッチが切れると同時にエンジンブレーキが作用しなくなるので、早い段階で空走感が生じることとなる。このような、ワンウェイクラッチを廃止することによる影響が他にも複数あるところ、本願発明では、変速制御装置300による制御態様の工夫によって、その影響を抑えることを可能としている。以下、図6〜12を参照して、変速制御部300の動作を説明する。
【0060】
図6は、減速時オートシフトダウン制御の流れを示すタイムチャートである。また、図7は減速時オートシフトダウン制御の手順を示すフローチャートである。
【0061】
減速時オートシフトダウン制御とは、スロットルオフでの減速に伴ってエンジン回転数Neが低下する際に、ワンウェイバルブを有する場合に比して早いタイミングでエンジンブレーキが効かなくなることを防ぐために、自動的にシフトダウンを行う制御である。
【0062】
図6のタイムチャートでは、上から順に、車速V、エンジン回転数Ne、Ne上昇手段の作動状態、変速クラッチ容量C、ギヤ段の状態を示している。
【0063】
時刻t=0では、2速ギヤが選択された状態で、車両が減速中である。時刻t1では、エンジン回転数Neがオートシフトダウン開始回転数Ne3を下回ることでシフトモータユニット100によるオートシフトダウン動作が開始され、変速クラッチ60が切断容量C1に向かって駆動を開始する。次に、時刻t2では、ギヤ段が2速から1速へ変速を開始する。
【0064】
時刻t3では、エンジン回転数Neが、Ne上昇制御開始回転数Ne2を下回ることで、Ne上昇手段としてのNe制御装置400の駆動が開始される。これにより、変速クラッチ60が切断されている間のエンジン回転数Neの低下が防止される。その結果、変速クラッチ60が切断されてエンジン回転数Neが低下することで発進クラッチ45が切断されることを防ぐことができる。
【0065】
時刻t4では、ギヤ段の1速への切り替えが完了し、時刻t5では、変速クラッチ60が接続方向に駆動を開始する。これにより、1速ギヤでの駆動力伝達が開始されてエンジンブレーキによりエンジン回転数Neが上昇することとなる。その結果、二点鎖線で示すようにエンジン回転数Neが遠心クラッチ接続回転数Ne1を下回ることがなくなり、減速中のエンジンブレーキが維持されることとなる。
【0066】
図7のフローチャートを参照して、ステップS1では、ギヤポジションセンサ201により、変速ギヤが2速または3速または4速であるか否かが判定される。ステップS1で肯定判定されると、ステップS2では、エンジン回転数Neがオートシフトダウン開始回転数Ne3を下回ったか否かが判定される。ステップS2で肯定判定されると、ステップS3に進み、オートシフトダウン制御が開始される。
【0067】
次に、ステップS4では、オートシフトダウン制御に伴って変速クラッチ45が切断されたことが判定される。変速クラッチ45の切断状態は、クランク軸22とメイン軸51との回転差や変速クラッチ45の作動レバー74の移動量等により判定できる。
【0068】
ステップS5では、変速クラッチ45が接続されたか否かが判定され、否定判定されるとステップS6に進む。ステップS6では、エンジン回転数NeがNe上昇制御開始回転数Ne2を下回ったか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS7に進む。ステップS6で否定判定されると、ステップS5の判定に戻る。
【0069】
ステップS7では、Ne制御装置400によるNe上昇制御が開始される。そして、ステップS8で変速クラッチ60の接続判断が行われると、ステップS9でNe上昇制御が終了し、一連の制御を終了する。なお、ステップS1,S2で否定判定される、または、ステップS5で肯定判定されると、そのまま一連の制御を終了する。
【0070】
図8は、惰行時オートシフトアップ制御の流れを示すタイムチャートである。また、図9は惰行時オートシフトアップ制御の手順を示すフローチャートである。また、図10は惰行時半クラッチ制御の手順を示すフローチャートである。
【0071】
ここで、惰行時オートシフトアップ制御とは、遠心クラッチが切断された状態で下り坂を惰性加速している際に、スロットル操作が行われて遠心クラッチが接続されると急なエンジンブレーキがかかることに備えて、スロットル操作が行われてもエンジンブレーキの影響を小さくするために予めシフトアップしておく制御である。
【0072】
また、惰行時半クラッチ制御とは、遠心クラッチが切断された状態で下り坂を惰性加速している際に、スロットル操作が行われて遠心クラッチが接続されることで急なエンジンブレーキがかかることを防ぐために、スロットル操作に伴って遠心クラッチが接続される際に発進クラッチを半クラッチ状態として、エンジンブレーキの影響を小さくする制御である。
【0073】
図8のタイムチャートでは、上から順に、車速V、エンジン回転数Ne、Th開度、クランク軸トルクT、変速クラッチ容量C、ギヤ段の状態を示している。
【0074】
時刻t=0では、1速ギヤが選択され、かつ発進クラッチ45が切断された状態で、下り坂で車両が加速中である。時刻t10では、車速Vがオートシフトアップ開始車速V1を上回ることでシフトモータユニット100によるシフトアップ動作が開始され、変速クラッチ60が切断容量C1に向かって駆動を開始する。次に、時刻t11では、ギヤ段が1速から2速へ変速を開始する。そして、時刻t12では、2速への変速が完了し、時刻t13では、変速クラッチ60が接続状態に復帰する。これにより、オートシフトアップ制御が完了し、運転者によるスロットルオン操作があった場合にも急に大きなエンジンブレーキがかかることを防ぐことができる。
【0075】
次に、時刻t14では、運転者によるスロットルオン操作が開始される。本実施形態では、オートシフトアップ制御に併せて、スロットルオン操作があった際には、変速クラッチ60を半クラッチ制御することで、さらにエンジンブレーキの影響を低減できるように構成されている。
【0076】
時刻t14でスロットルオン操作がなされてエンジン回転数Neが上昇を開始すると、時刻t15において、遠心クラッチ接続回転数Ne1を上回ってエンジンブレーキがかかり始める。これに合わせて、変速制御部300は、シフトモータユニット100を駆動してシフトスピンドル55を少しだけ回動させて変速クラッチ60を半クラッチ状態とする。この惰性時半クラッチ制御によれば、二点鎖線で示すようなエンジン回転数Neおよびクランク軸トルクTの大きな変動を抑えることができ、スロットルオンに伴うエンジンブレーキの影響が低減される。時刻t16では、惰行時半クラッチ制御の終了に伴い、変速クラッチ60が接続状態に復帰する。
【0077】
図9のフローチャートを参照して、ステップS10では、発進クラッチ45が切断状態にあるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS11に進む。ステップS11では、車速Vがオートシフトアップ開始車速V1(例えば、15km/h)を上回ったか否かが判定される。そして、ステップS12では、オートシフトアップ制御が実行される。なお、ステップS10,S11で否定判定されると、そのまま一連の制御を終了する。
【0078】
次に、図10のフローチャートを参照して、ステップS20では、発進クラッチ45が切断中かつ車速Vが惰行時半クラッチ制御許可車速V2以上であるか否かが判定される。ステップS20の判定は、エンジンブレーキが強く発生する可能性がある高車速領域でのみ惰行時半クラッチ制御を実行するための判定である。
【0079】
ステップS20で肯定判定されると、ステップS21では、運転者によるスロットル操作によりスロットル開度Thが所定開度Th1(例えば、20度)を上回ったか否かが判定される。ステップS21で肯定判定されるとステップS22に進み、惰行時半クラッチ制御による変速クラッチ60の半クラッチ制御が開始される。ステップS23では、半クラッチ状態から徐々に変速クラッチ60が接続されることでクランク軸22とメイン軸51との回転差が収束したことが判定され、ステップS24に進む。ステップS24では、惰行時半クラッチ制御が完了し、一連の制御を終了する。なお、ステップS20,S21で否定判定されると、そのまま一連の制御を終了する。
【0080】
図11は、惰行時遠心クラッチ接続制御の流れを示すタイムチャートである。また、図12は、惰行時遠心クラッチ接続制御の手順を示すフローチャートである。
【0081】
惰行時遠心クラッチ接続制御とは、遠心クラッチが切断された状態で下り坂を惰性加速している際に、スロットル操作が行われて遠心クラッチが接続されることで急なエンジンブレーキがかかることを防ぐために、惰性加速をし始めた際に自動的にエンジン回転数Neを上昇させて発進クラッチ45を接続する制御である。
【0082】
図11のタイムチャートでは、上から順に、車速V、エンジン回転数Ne、Ne上昇手段の作動状態、クランク軸トルクTの状態を示している。
【0083】
時刻t=0では、発進クラッチ45が切断された状態で、下り坂で車両が加速中である。時刻t20では、車速Vが惰行時遠心クラッチ接続制御開始車速V3を上回ることで、Ne制御装置400によるエンジン回転数Neの上昇制御が開始される。時刻t21では、惰行時遠心クラッチ接続制御により、エンジン回転数Neが遠心クラッチ接続回転数Ne1を上回ってエンジンブレーキがかかり始め、クランク軸トルクTがマイナスに転じる。時刻t22では、クランク軸22とメイン軸51の回転差が収束してエンジンブレーキの影響が弱まったことで、エンジン回転数Neの上昇制御が終了する。
【0084】
図12のフローチャートを参照して、ステップS30では、発進クラッチ45が切断中であるか否かが判定される。ステップS30で肯定判定されると、ステップS31に進み、車速Vが惰行時遠心クラッチ接続制御開始車速V3を上回ったか否かが判定される。ステップS31で肯定判定されると、ステップS32に進んで、Ne制御装置400によるNe上昇制御が実行される。そして、ステップS33で発進クラッチ45の接続判断がなされると、ステップS34においてNe上昇制御を完了し、一連の制御が終了する。
【0085】
なお、自動二輪車の形態、パワーユニット、エンジンおよび変速装置の形態、遠心クラッチや遠心クラッチの形状や構造、シフトモータユニットの形態等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。本発明に係る変速制御装置は、鞍乗型の三輪車や四輪車等に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0086】
1…自動二輪車、21…エンジン、22…クランク軸、45…発進クラッチ、50…変速装置、60…変速クラッチ、100…シフトモータユニット、300…制御部、400…Ne制御装置、401…スロットルバルブ、402…アイドルコントロールバルブ、Ne1…遠心クラッチ接続回転数(所定回転数)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12