(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、鋳造方法において、溶湯を上方に引き上げて鋳造物を鋳造する垂直上方連続鋳造がある。一般的に金属を溶解する際、溶湯の上面にスラグが浮遊するが、この鋳造方法では、鋳造に使用するノズルを溶湯中へ上方から挿入する必要があるため、ノズルの先端にスラグが付着し、溶湯の中に巻き込むことで介在物となり、後の鋳造の際、介在物がノズルを通じて侵入し、鋳造材内部に取り込まれることによって、品質を低下させることが問題となっていた。また、スラグ以外にも、耐火物や断熱材等が金属溶湯表面に落下し、それを溶湯中に巻き込むことで介在物となることもある。これに対して、この特許文献1に記載された鋳造物の製造方法では、例えば、ノズルにスラグ混入を防止する板を取り付けて溶湯中に挿入することにより、ノズル内へのスラグの混入を防ぐとしているものの、まだ十分でなく、更なる改良による清浄化の向上が望まれていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、垂直上方連続鋳造において、鋳造物への溶湯中に存在する介在物の混入をより抑制することができるノズル、鋳造装置及び鋳造物の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した主目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、側面側から溶湯を取り入れると共に、その下方に突出した鍔部を形成するものとすると、介在物は通常上方へ浮上するため、介在物が直接ノズル内に浸入することを避け、鋳造物への介在物の混入をより抑制することができることを見いだし、本開示の
ノズル、鋳造装置及び鋳造物の製造方法を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示するノズルは、
溶湯を上方に引き上げて鋳造物を鋳造する垂直上方連続鋳造の該溶湯に挿入されるノズルであって、
前記溶湯を取り入れる取入孔が側面に形成されたノズル本体と、
前記取入孔の下方側に前記ノズル本体よりも突出して形成された鍔部と、
を備えたものである。
【0008】
また、本明細書で開示する鋳造装置は、
溶湯を上方に引き上げて鋳造物を鋳造する垂直上方連続鋳造を行う鋳造装置であって、
溶湯を収容する収容部と、
前記収容部に挿入され前記溶湯に不活性ガスでバブリングを行い前記溶湯に含まれる介在物を浮上させる介在物除去部と、
前記収容部に挿入され前記溶湯を取り入れる上述のノズルと、
前記ノズルの上方に配設され前記取り入れた溶湯を急冷させる冷却部と、
を備えたものである。
【0009】
更に、本明細書で開示する鋳造物の製造方法は、
溶湯を上方に引き上げて鋳造物を鋳造する垂直上方連続鋳造を行う鋳造物の製造方法であって、
前記溶湯に不活性ガスでバブリングを行い前記溶湯に含まれる介在物を浮上させる介在物除去工程と、
前記介在物除去工程後に上述のノズルを前記溶湯へ下方に向かって挿入したのち該ノズルから前記溶湯を取り入れて前記鋳造物を鋳造する鋳造工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示のノズル、鋳造装置及び鋳造物の製造方法は、垂直上方連続鋳造において、鋳造物への介在物の混入をより抑制することができる。この理由は、以下のように推察される。例えば、このノズルは、側面側に取入孔が形成され、且つその下方には、ノズル本体よりも突出した鍔部が形成されている。このため、上面にスラグが浮いている溶湯にこのノズルを下方へ向かって挿入した場合、鍔部によってスラグの取入孔への接近を妨げることができる。また、このノズルは、鋳造中に下方から介在物が浮き上がってきた場合においても、側面側から溶湯を取り込み、且つ突出して形成された鍔部によって介在物の取入孔への接近を妨げることができる。したがって、垂直上方連続鋳造において、鋳造物への介在物の混入をより抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本開示を実施するための形態を図面を用いて説明する。
図1は、本開示の一実施形態である鋳造装置10の一例の概略を表す説明図であり、
図1Aが介在物除去部15の装着図であり、
図1Bが鋳造部20の装着図である。
図2は、ノズル30及びキャップ部材35の一例を表す説明図である。
図3は、別のノズル30B及びキャップ部材35Bの一例を表す説明図である。
図4は、別のノズル30C及びキャップ部材35Cの一例を表す説明図である。
【0013】
鋳造装置10は、溶湯を上方に引き上げて鋳造物を鋳造する垂直上方連続鋳造を行う鋳造装置である。鋳造装置10の鋳造する鋳造物の原料としては、例えば、純金属や合金を用いることができる。純金属としては、例えば、無酸素銅や、タフピッチ銅、脱酸胴などが挙げられる。合金としては、例えば、銅合金、アルミニウム合金などが挙げられる。銅合金としては、例えば、Cu−Zr合金やCu−Sn、Cu−Fe、Cu−Ag及びこれらの元素を含む多元系銅合金のうち1以上が挙げられる。なお、「多元系銅合金」とは、上記2元系銅合金に第3元素を含有するものを含むものとする。第3元素としては、例えば、Ni、Si、Alなどのうち1以上が挙げられる。ここでは、Cu−Zr合金を主として説明する。Cu−Zr合金は、例えば、亜共晶組成であるCu−xZr合金(xは0.5at%以上5.0at%以下)としてもよい。この合金では、微細なデンドライト組織が得られ、伸線加工するとα−Cu相と、共晶相(CuとCu−Zr系化合物の複相)のナノ層状組織が得られ、高強度、高導電率を有するものとすることができる。Cu−xZr合金については、特許第5800300号に詳しいので、ここではその詳細な説明は省略する。
【0014】
鋳造装置10は、第1収容部12及び第2収容部13と、介在物除去部15と、鋳造部20とを備えている。また、鋳造装置10は、筐体11と、原料供給部14と、加熱部18とを備えている。筐体11は、第1収容部12及び第2収容部13をその内部に収容している。この筐体11は、原料供給部14や鋳造部20を挿入する開口部を有するが閉鎖板などにより、この開口部を閉鎖してその内部を密閉状態とすることができる。第1収容部12及び第2収容部13は、溶湯19を収容する収容部である。第1収容部12は、原料の供給側の収容部であり、原料供給部14がその上部に配設される。第2収容部13は、溶湯19を引き上げて鋳造物を得る鋳造側の収容部であり、鋳造部20がその上部に配設される。第1収容部12と第2収容部13とは、その下部に配設された流路で連通している。第1収容部12及び第2収容部13には、図示しない不活性ガス供給部が接続されており、その内部を不活性ガス雰囲気とすることができる。不活性ガスとしては、例えば、Arなどの希ガスや窒素ガスなどが挙げられ、このうちArが好ましい。
【0015】
原料供給部14は、溶湯19の原料を供給するユニットである。この原料供給部14は、例えば、合金の主成分や添加成分のワイヤーを送り出すものとしてもよい。例えば、Cu−Zr合金の鋳造物を製造する際は、原料供給部14は、Cu線と、Zrを含む原料を内包した銅管とを所定のZr含有量となるように調整して第1収容部12へ送り込むものとしてもよい。なお、銅管に内包させる原料としては、Cu−50質量%Zr母合金とすることが好ましい。この母合金は、Zr金属の融点(2125K)よりも低い融点(1168K)であるからである。この原料供給部14は、鋳造部20で鋳造して外部に取り出された量に該当する原料を順次第1収容部12へ送り込むものとしてもよい。
【0016】
介在物除去部15は、溶湯19中に存在する介在物を除去するものである。介在物としては、原料に含まれる不純物の成分、溶湯中に巻き込んだスラグ、るつぼや耐火材などの鋳造装置10の構成物の一部が溶湯19に混入したものなどが挙げられる。介在物除去部15は、第2収容部13に挿入され溶湯19に不活性ガスでバブリングを行い溶湯19に含まれる介在物を浮上させるものとしてもよい。介在物除去部15は、固定された状態で不活性ガスをバブリングするものとしてもよいし、先端に羽根を設けた状態で、軸回転により、不活性ガスを撹拌しながら、不活性ガスをバブリングするものとしてもよい。この介在物除去部15は、多孔質プラグ16と、ガス供給管17とを備えている。多孔質プラグ16は、ガス供給管17から送り込まれた不活性ガスを泡状にして排出する多孔質部材である。この多孔質プラグ16の材質は、溶湯19との反応性が低く多孔質であるものが好ましく、例えば、セラミックやカーボンなどとしてもよい。セラミックとしては、溶湯19との反応性が低く、溶湯19の温度に耐えられる材質であればよく、例えば、アルミナ、ジルコニア、シリカ、窒化ケイ素などのうち1以上が挙げられる。鋳造装置10では、介在物除去部15によりバブリングを行ったのち、鋳造を行う。この鋳造装置10では、介在物除去部15を用いて介在物を浮上させたのち、介在物除去部15を鋳造部20に取り替えて鋳造物Wの鋳造を行うものとする。この介在物は、溶湯19よりも軽いことが多く、浮上しやすいが、微細なものは浮上速度が遅く、溶湯中に残りやすい。バブリングを行うとその泡に介在物が付着して浮上するため、より安定的に介在物が溶湯中から除去され、溶湯19を清浄化することができる。なお、溶湯19の上部にはこの介在物が浮かんだスラグ層が形成される。
【0017】
加熱部18は、第1収容部12及び第2収容部13の外周に配設されている。加熱部18は、原料である金属を溶融可能な温度に加熱可能なヒータである。この加熱温度は、例えば、1500K以上2000K以下の範囲としてもよい。
【0018】
鋳造部20は、溶湯19を引き上げて急冷し、鋳造物である線材を形成するユニットである。鋳造部20は、上下動可能であり、鋳造時には第2収容部13へ挿入され、鋳造が終了すると第2収容部13から取り出される。この鋳造部20は、ダイス21と、モールド22と、冷却部23と、キャップ24と、ローラー25と、ノズル30とを備えている。ダイス21は、モールド22の内部に配設されており、モールド22と共に鋳造物Wの型を構成する。ダイス21は、例えばカーボンなどで形成された円筒部材である。このダイス21の内径形状に合わせた形状で鋳造物Wが形成される。モールド22は、例えば、Cuなどで形成された円筒部材である。このダイス21の先端にノズル30が取外し可能に装着されている。冷却部23は、モールド22を冷却するユニットであり、ノズル30の上方に配設されている。冷却部23は、ノズル30から取り入れた溶湯19を急冷させる。この冷却部23は、図示しない循環ユニットから冷却水が供給され、モールド22を冷却したのち循環ユニットへこの冷却水を排出する。キャップ24は、モールド22及びノズル30を溶湯19から保護する部材であり、例えば、セラミックやカーボンなどの材質としてもよい。ローラー25は、モールド22の上方に配設されている。このローラー25は、冷却後の鋳造物Wを挟み込んで回転することにより引き上げるものであり、図示しないモータにより駆動される。
【0019】
ノズル30は、溶湯19を上方に引き上げて鋳造物Wを鋳造する垂直上方連続鋳造に用いられるものである。このノズル30は、溶湯19に直接挿入される部材である。このノズル30の材質は、溶湯19の種類により適宜選択されるが、例えば、カーボンや、アルミナ、ジルコニア、シリカ、窒化ケイ素などのセラミックなどとしてもよい。溶湯19が銅合金である場合は、カーボンであることが好ましい。ノズル30は、ノズル本体31と、キャップ部材35とにより構成される。ノズル本体31は、円筒状の部材であり、モールド22の先端に差し込まれて固定される。このノズル本体31の内部空間は、ダイス21の内部空間と連通している。ノズル本体31は、溶湯19を取り入れる取入孔32が側面に形成されている。また、
図2に示すように、ノズル本体31の下方の開口は、キャップ部材35により閉鎖されている。したがって、このノズル本体31では、側面側から溶湯19を取り入れる。このため、ノズル本体31は、下方の開口から溶湯19を取り入れるのに比して、溶湯19よりも軽く浮上しやすい介在物を取り入れにくい構造である。鋳造開始前において、ノズル本体31には、開始棒26(
図5参照)が挿入されており、この開始棒26を引き上げることにより、溶湯19がダイス21に引き上げられ、鋳造材Wが鋳造される。
【0020】
キャップ部材35は、溶湯19に含まれる介在物のノズル30への侵入を抑制する部材である。キャップ部材35は、取入孔32の下方側にノズル本体31よりも突出して形成された鍔部36を有している。鍔部36は、ノズル本体31の外周側の全体に亘って形成されているものとしてもよい。ノズル30は、溶湯19へ挿入される際に介在物が浮遊したスラグ層29(
図1参照)を通り抜けるが、この鍔部36は、このノズル30の挿入の際に、取入孔32への介在物の侵入を抑制する大きさに形成するものとしてもよい。また、鍔部36は、キャップ24など鋳造部20の本体よりも小さいサイズであることが好ましい。第2収容部13への挿入、取り出し時に操作性がよいからである。
図2に示すように、この鍔部36には、その外周縁37とノズル本体31との間に取入孔32側に向かって立設された立壁部38が形成されている。この立壁部38の存在により、取入孔32への介在物の接近をより抑制することができる。この立壁部38は、ノズル本体31の外周側の全体に亘って立設されているものとしてもよい。この立壁部38は、取入孔32の半分を覆い隠す程度の高さとしてもよいし、取入孔32の開口の下端まで覆い隠す高さとしてもよいし、取入孔32の全体を覆い隠す高さとしてもよい。立壁部38の高さは、取入孔32からの溶湯19の取り入れやすさと、介在物の取入孔32への侵入抑制効果との兼ね合いで適宜設定するものとすればよい。また、キャップ部材35の下面側には、中央部の厚さが厚く(外周部の厚さが薄く)なるような段差部39が形成されている。この段差部39により、ノズル30の溶湯19への挿入時のスラグ層29の巻き込みなどを抑制することができる。
【0021】
ここで、ノズル30は、立壁部38が形成されたキャップ部材35を備えるものとしたが、例えば、
図3に示すように、これを省略するものとしてもよい。ノズル30Bは、鍔部36のみが形成されたキャップ部材35Bを備える。このノズル30Bによっても、介在物の取入孔32への接近をより抑制することができる。あるいは、ノズル30は、ノズル本体31と外周縁37との間に立壁部38が形成されたキャップ部材35を備えるものとしたが、例えば、
図4に示すように、鍔部36の外周縁37に外縁壁34が形成されたものとしてもよい。ノズル30Cは、取入孔32側へ向かって立設された外縁壁34が外周縁37に形成されたキャップ部材35Cを備える。この外縁壁34の存在により、取入孔32への介在物の接近をより抑制することができる。この外縁壁34は、ノズル本体31の外周側の全体に亘って立設されているものとしてもよい。この外縁壁34の高さは、立壁部38と同様に適宜設定すればよい。このノズル30Cによっても、介在物の取入孔32への接近をより抑制することができる。なお、ノズル30において、段差部39が形成されていないものとしてもよいし、ノズル30B,30Cにおいて、段差部39が形成されているものとしてもよい。また、ノズル30,30B,30Cのいずれかにおいて、取入孔32の下方以外の一部に鍔部36が形成されていない部分があってもよい。また、ノズル30,30Cのいずれかにおいて、取入孔32の側方以外の一部に、外縁壁34や立壁部38が形成されていない部分があってもよい。あるいは、ノズル30の外周縁37に外縁壁34が更に形成されているものとしてもよい。また、ノズル30,30B,30Cでは、キャップ部材が別部材としたが、ノズル本体31とキャップ部材35,35B,35Cとのいずれかが一体成形されているものとしてもよい。一体成形品であっても上記と同様の効果を得ることができる。
【0022】
次に、溶湯19を上方に引き上げて鋳造物Wを鋳造する垂直上方連続鋳造を行う鋳造物の製造方法について説明する。この製造方法は、鋳造装置10を用いて行うものとして説明する。この鋳造物の製造方法は、例えば、(1)加熱工程と、(2)介在物除去工程と、(3)鋳造工程とを含むものとしてもよい。
図5は、垂直上方連続鋳造により鋳造物Wを製造する工程の説明図であり
図5Aが介在物除去工程、
図5Bがノズル30の挿入、
図5Cが鋳造開始の説明図である。
【0023】
(1)加熱工程
この工程では、第1収容部12及び第2収容部13に原料を収容し、この原料を加熱することにより溶解して溶湯を作製する処理を行う。原料としては、上述した合金又は純金属とすることができる。加熱温度は、原料に応じて適宜定めることができる。亜共晶組成のCu−Zr合金では、例えば、1573K以上とすればよい。
【0024】
(2)介在物除去工程
この工程では、溶湯19に不活性ガスでバブリングを行い溶湯に含まれる介在物を浮上させる処理を行う(
図5A)。この処理により、溶湯を清浄化することができる。介在物除去部15は、加熱工程後に第2収容部13へ挿入されるものとしてもよい。この工程の処理時間は、溶湯19の種類や量に応じて適宜設定すればよい。また、供給するガス量についても溶湯19の種類や量に応じて適宜設定すればよい。バブリングに用いる不活性ガスは、Arなどの希ガスや窒素ガスなどが挙げられ、このうちArガスが好ましい。
【0025】
(3)鋳造工程
この工程では、鋳造部20に装着されたノズル30を下方に向かって移動させ溶湯19へ挿入したのちノズル30から溶湯を取り入れて鋳造物Wを鋳造する処理を行う。また、この工程では、ノズル30から引き上げられた溶湯19をノズル30の上方に配設された冷却部23で冷却する処理(急冷処理)も行う。ノズル30の溶湯19への挿入時には、ダイス21及びノズル本体31には、開始棒26が挿入されている。この処理において、ノズル30を溶湯19へ挿入する際にスラグ層29を通過するが、ノズル30の下端にはキャップ部材35が配設されており、鍔部36によって、介在物の取入孔32への接近をより抑制することができる(
図5B)。また、ノズル本体31には側面に取入孔32が形成されているため、介在物が取入孔32へ近づきにくい。そして、開始棒26をローラー25により引き上げると、開始棒26により溶湯19が引き上げられ、冷却部23により急冷されて鋳造物Wが鋳造される(
図5C)。このときに、溶湯19に存在する介在物がスラグ層29側に浮上することがあるが、取入孔32はノズル本体31の側面に形成され、且つ鍔部36がその下方に存在するため、この介在物をノズル30の内部に取り入れにくい。
【0026】
以上説明した鋳造装置10において、ノズル30は、側面側に取入孔32が形成され、且つその下方にはノズル本体よりも突出した鍔部36が形成されている。このため、ノズル30の溶湯19への挿入時において、介在物の取入孔32への接近を妨げることができる。また、このノズル30は、鋳造中に下方から介在物が浮き上がってきた場合においても、側面側から溶湯を取り込み、且つ突出して形成された鍔部36によって介在物の取入孔への接近を妨げることができる。したがって、鋳造装置10では、垂直上方連続鋳造において、鋳造物への介在物の混入をより抑制することができる。
【0027】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0028】
例えば、上述した実施形態では、鋳造装置10は、介在物除去部15を用いて介在物を浮上させたのち、介在物除去部15を鋳造部20に取り替えて銅合金の鋳造を行うものとしたが、特にこれに限定されない。
図6は、別の鋳造装置10Bの一例の概略を表す説明図である。
図6に示すように、介在物除去部15を常設してもよく、常設した介在物除去部15で介在物を浮上させたのち、鋳造部20で鋳造物Wの鋳造を行うものとしてもよい。この鋳造装置10Bにおいても、垂直上方連続鋳造において、鋳造物への介在物の混入をより抑制することができる。
【0029】
また、上述した実施形態では、鋳造装置10として説明したが、ノズル30としてもよい。ノズル30によっても、鋳造装置10と同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0030】
以下には、鋳造装置10及びノズル30を具体的に製造した例を実験例として説明する。上述した鋳造装置10を作製し、ノズルの形状、キャップ部材の形状を変更してその介在物の鋳造物への侵入性について検討した。なお、実験例3〜5、7が実施例に相当し、実験例1,2、6が比較例に相当する。
【0031】
[実験例1]
ノズル本体を側面に取入孔を設けない円筒部材とし、この円筒の開口内部を詰めるキャップ部材とした(
図7参照)。鋳造前には開始棒をノズル本体に挿入し、鋳造開始時に、この開始棒によりキャップ部材を押し出して落下させ、開始棒を引き上げて鋳造物を得た。
【0032】
[実験例2]
ノズル本体を側面に取入孔を設けない円筒部材とし、この円筒の開口を蓋により閉じるキャップ部材とした(
図7参照)。鋳造前には開始棒をノズル本体に挿入し、鋳造開始時に、この開始棒によりキャップ部材を押し外して落下させ、開始棒を引き上げて鋳造物を得た。
【0033】
[実験例3]
ノズル本体を側面に取入孔を設けた円筒部材とし、この円筒の下方の開口をノズル本体よりも外周側に突出した鍔部を有するキャップ部材で閉鎖した(
図3、
7参照)。鋳造前には開始棒をノズル本体に挿入し、鋳造開始時に、このキャップ部材をノズル本体に配設したまま開始棒を引き上げて鋳造物を得た。なお、
図7の写真は、鋳造後に取り出したものであり、この取り出しの際にスラグが付着したものである。
【0034】
[実験例4]
ノズル本体を側面に取入孔を設けた円筒部材とし、この円筒の下方の開口を外周縁に外縁壁を形成した鍔部を有するキャップ部材で閉鎖した(
図4、
7参照)。鋳造前には開始棒をノズル本体に挿入し、鋳造開始時に、このキャップ部材をノズル本体に配設したまま開始棒を引き上げて鋳造物を得た。
【0035】
[実験例5]
ノズル本体を側面に取入孔を設けた円筒部材とし、この円筒の下方の開口を、外周縁とノズル本体との間に立壁部を形成した鍔部を有するキャップ部材で閉鎖した(
図2、6参照)。鋳造前には開始棒をノズル本体に挿入し、鋳造開始時に、このキャップ部材をノズル本体に配設したまま開始棒を引き上げて鋳造物を得た。
【0036】
(鋳造処理、評価)
実験例1〜5のノズルを用いて垂直上方連続鋳造処理を行った。原料の組成をCu−5at%Zr合金とし、原料供給部から銅線とCu−50質量%Zr母合金を内包した銅管とを供給した。加熱部により1573Kで第1収容部及び第2収容部を加熱し、Arガスを流入させて酸化を抑制した状態で溶湯を作製した。連続鋳造は、内径14mmのダイスを用い、サーボ駆動のピンチローラで引き上げる動作を間欠的に行って、平均鋳造速度が600mm/分となる条件で連続鋳造を行った。ノズルの挿入時のスラグ付着防止については、スラグの付着が極めて少ないものを「AA」とし、スラグの付着が特に少ないものを「A」とし、スラグの付着が比較的少ないものを「B」と評価した。また、鋳造中の介在物侵入防止については、介在物の侵入が極めて少ないものを「AA」とし、介在物の侵入が特に少ないものを「A」とし、介在物の侵入が比較的少ないものを「B」とし、介在物の侵入が多いものを「D」として評価した。
【0037】
(結果と考察)
図7は、実験例1〜5を用いた際のノズル挿入時のスラグ付着防止、及び鋳造中の介在物侵入防止の実験結果の説明図である。
図7に示すように、実験例1〜2では、ノズルの溶湯への挿入時のスラグ付着防止に対して効果があったものの、鋳造時には、下方から浮上してくる介在物を取り込んでしまい、鋳造物に介在物が混入した。
図8は、介在物が侵入した鋳造物の電子顕微鏡写真であり、
図8Aはアルミナが混入した鋳造物であり、
図8Bはカーボンが混入した鋳造物である。実験例1,2では、介在物の混入により、鋳造物に切れなどが発生した。一方、実験例3〜5では、鋳造中の介在物侵入がより抑制され、好適な鋳造物が得られることがわかった。特に、実験例5のノズルを用いると、より好ましいことがわかった。また、Cu−Zr合金では、高強度及び高導電率のナノ層状組織を形成するため、介在物の侵入を防止する必要が高く、実験例3〜5のノズルを適用する意義が極めて高いものと推察された。
【0038】
[実験例6、7]
次に、介在物除去工程におけるバブリングの効果について検討した。上記鋳造処理評価試験において、実験例5のノズルを用いて垂直上方連続鋳造処理を行う前にArガスによるバブリングを行わなかった鋳造物の製造方法を実験例6とした。また、上記鋳造処理評価試験において、実験例5のノズルを用いて垂直上方連続鋳造処理を行う前に、ランスパイプ(多孔質カーボン)からArガスを供給してバブリングを行った鋳造物の製造方法(
図5参照)を実験例7とした。鋳造物が直径80μmのCu−Zrワイヤーとなるように圧延及びダイス伸線加工を行った。製造評価結果を表1にまとめた。表1に示すように、鋳造工程の前にバブリングを行わない実験例6では、断線数が40と多く、平均長さが2.1万mであった。これに対して、鋳造処理前にバブリングを行った実験例7では、断線数が9、平均長さが9.5万mであり、ノズルとの組み合わせにおいてその大きな効果が確認された。
【0039】
【表1】
【0040】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0041】
本出願は、2017年3月31日に出願された日本国特許出願第2017−070975号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。