(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979457
(24)【登録日】2021年11月17日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】眼科的処置を行うためのレーザシステム
(51)【国際特許分類】
A61F 9/008 20060101AFI20211202BHJP
【FI】
A61F9/008 120Z
A61F9/008 110
【請求項の数】7
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2019-532177(P2019-532177)
(86)(22)【出願日】2017年8月22日
(65)【公表番号】特表2019-526412(P2019-526412A)
(43)【公表日】2019年9月19日
(86)【国際出願番号】EP2017071085
(87)【国際公開番号】WO2018036994
(87)【国際公開日】20180301
【審査請求日】2020年7月28日
(31)【優先権主張番号】16185835.2
(32)【優先日】2016年8月26日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519064492
【氏名又は名称】フリッツ ルック オフタルモロギッシェ ジュステーメ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100117444
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【弁理士】
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】ペルピート,マルカス
【審査官】
土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】
特表2016−511057(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/144697(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0130966(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/008
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科的処置を行うためのレーザシステム(1)であって、
レーザパルスを放射するためのパルスレーザ(3)であって、ナノ秒の範囲のパルス幅を有するパルスレーザ(3)と、
患者の眼球(18)の前方領域(17)に少なくとも1つの焦点を生成するための集束光学系(5)と、
前記患者の眼球(18)の前記前方領域(17)内の前記焦点の位置を変えるための偏向装置(6)と、
前記偏向装置(6)を制御するための制御ユニットと、を含み、
前記レーザシステム(1)は、ハンドヘルド装置を形成するために前記レーザシステム(1)のハウジング(2)内に構成され、その目的のために、前記ハウジング(2)はハンドル(10)および支持点(11)を含み、前記支持点(11)は、眼科的処置の間に患者の顔の上に置かれる
ことを特徴とするレーザシステム(1)。
【請求項2】
前記レーザシステム(1)は、自由に動く眼球(18)上で前嚢切開術または後嚢切開術を行うように設計されている
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザシステム(1)。
【請求項3】
前記パルスレーザ(3)は、前記眼球(18)の後方領域(19)の手術を行うために前記レーザパルスの周波数を変化させるように設計された装置を含む
ことを特徴とする請求項1または2に記載のレーザシステム(1)。
【請求項4】
前記レーザシステム(1)は、前記眼球(18)のレンズ(4)を断片化するように設計されている
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のレーザシステム(1)。
【請求項5】
前記レーザシステム(1)はタッチスクリーン(9)を含む
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のレーザシステム(1)。
【請求項6】
前記レーザシステム(1)は、前記眼科的処置中に前記眼球(18)を照明するように設計された少なくとも1つの照明手段を有する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のレーザシステム(1)。
【請求項7】
前記レーザシステム(1)は電力供給用のケーブル(8)を有し、それを介して前記レーザシステムを電源ソケットに差し込むことができる
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のレーザシステム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
眼科的処置を行うためのレーザシステムであって、レーザパルスを放射するためのパルスレーザと、患者の眼球の前方領域に少なくとも1つの焦点を生成するための集束光学系と、患者の眼球の前方領域内の焦点の位置を変えるための偏向装置と、偏向装置を制御するための制御ユニットと、を含む。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2011/059958A2号から、眼科的処置を行うためのレーザシステムが知られており、そのレーザシステムは、集束光学系、偏向装置、およびレーザパルスを放射するためのパルスレーザを含み、パルスレーザはフェムト秒の範囲のパルス幅でレーザパルスを放射するように設計されている。そのようなパルスレーザはフェムトパルスレーザとも呼ばれる。国際公開第2011/059958A2号によれば、眼科的処置におけるフェムトパルスレーザの使用は、ナノ秒またはピコ秒の範囲のパルス幅でレーザパルスを放出する眼科的処置を実行するためのパルスレーザを含むレーザシステムを超えるあらゆる種類の利点をもたらした。そのようなレーザは、それぞれナノパルスレーザまたはピコパルスレーザとも呼ばれる。フェムトパルスレーザのレーザパルスのより短いパルス幅のために、組織へのエネルギー入力が減少し、それによって処置の正確さおよび制御性が改善され、その結果として、組織への不注意による損傷の危険性が最小化される。結果として、フェムトパルスレーザの使用が眼科学において確立された。
【0003】
しかしながら、フェムトパルスレーザが使用されるとき、組織への低エネルギー入力のために、組織への曝露時間が増加し、それにより眼球の外科的処置の継続時間がより長くなることが不利であることがわかった。
【0004】
さらに、従来技術から知られているレーザシステムでは、処置中にレーザシステムのレーザが眼球の近くに配置されている治療装置の外部に配置され、レーザと治療装置とは柔軟な光導体を介して互いに結合されているので、使用するのが非常に扱いにくいという欠点がある。さらに、柔軟な光導体のために、レーザシステムが非常に敏感であるという欠点がある。例えば、光ファイバの光ガイドが曲がっている場合には、それを直ちに交換しなければならない。さもないと、眼球の組織内へのレーザ光の規定された送達がもはや保証されないからである。ハンドピースによって形成された治療装置を含むそのようなレーザシステムは、例えば、国際公開第2014/144697A1号から知られている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、患者に対する処置の継続時間が短縮され、そして迅速で取り扱いが容易な眼科的処置のためのレーザシステムを提供することである。
【0006】
本発明の目的は、ハウジングがハンドルと支持点とを有し、眼科的処置の間に支持点が患者の鼻に置かれているハンドヘルド装置を形成するためにレーザシステムをハウジング内に構成することで達成される。
【0007】
ナノ秒の範囲のパルス幅を有するパルスレーザを使用することによって、ナノ秒の範囲のパルス幅を有するレーザパルスを放射するパルスレーザは眼科的処置ではほとんどまたは全く使用できないという、本発明に関する専門家の間の偏見が払拭される。より長いパルス持続時間の結果として、組織へのエネルギー入力が増加し、それによって、フェムトパルスレーザとは対照的に、ナノパルスレーザを使用して眼球上の処置をより迅速に実行することができる。例えば、フェムトパルスレーザでは眼球の前方領域の切断に4秒を必要とするが、ナノパルスレーザではわずか数ミリ秒でよい。これは、時間を節約し、したがって患者にとって処置をより耐えられるものにするだけでなく、眼球を固定するシステムまたは眼球を連続的に追跡し走査するシステムを省略することができるので、レーザシステムをハンドヘルド装置として設計することを可能にする。眼球を固定すると眼球が歪むおそれがあるので、処置の間に眼球を固定することはある程度のリスクを伴い、それによって、組織のレーザ処置中に合併症が引き起こされる可能性があり、あるいは最悪の場合、外科的処置が悪い結果をもたらすおそれがある。眼球を追跡するか、または走査することによって、この欠点は確かに回避されるが、そのようなシステムは依然として非常に高価である。
【0008】
さらに、ナノパルスレーザを使用することによって、フェムトパルスレーザを有するレーザシステムよりもレーザシステムが安価であるという利点が得られる。
【0009】
レーザシステムをハウジング内に構成し、同時にレーザシステムのサイズを縮小することによって、レーザシステムをハンドヘルド装置として設計することができる。これに関連して、ハンドヘルド装置は、使用中に特に片手で、有利には両手で人によって保持される装置であると考えられる。ハンドヘルド装置は、それがコンパクトで軽量の設計を有し、平均的な成人が容易に保持して持ち運ぶことができるという事実によって主に特徴付けられる。さらに、ハンドヘルド装置は、装置が保持されているときのその人間工学により、取り扱いが容易で操作が容易であるという特徴を有する。ハンドヘルド装置は持ち運び可能である。
【0010】
このようなレーザシステムは、眼球の前方部分において自由に動く眼球に前嚢切開術または後嚢切開術を実施するために有利に使用される。ハンドヘルド装置としてのレーザシステムの設計のために、眼球上の嚢切開術ならびに他の処置が同じ手術領域または手術室でそれぞれ行うことができるという利点がそれによって得られる。したがって、例えば、嚢切開術後の接眼レンズの断片化は、同じレーザシステムを用いて、または水晶体超音波乳化吸引術によって達成することができる。2つの外科手術ステップ間の患者の移動は、ハンドヘルド装置の簡単な取り扱いおよびコンパクトさのために完全に回避され、それによって合併症の可能性が減少し、処置が患者にとってさらに耐えられるものになる。
【0011】
好ましくは、パルスレーザは眼球の後方部分でも手術を行うために、レーザパルスの周波数を変化させるように設計された装置を含む。この装置は、機械的構成要素および/または電気的構成要素を含むことができる。その結果、追加の機器を省略することができ、1つの装置で多数の異なる処置を行うことができるという利点が得られる。
【0012】
さらなる実施形態の変形例では、ナノパルスレーザはハンドヘルド装置の外部に配置された装置に収容され、レーザパルスはファイバ光学系、例えば光ファイバを介してハンドヘルド装置に送信される。
【0013】
眼科的処置を行うための本発明によるレーザシステムのさらなる有利な実施形態の変形例は、図面を参照して以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明によるレーザシステムの実施形態の変形例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1によるレーザシステムのビーム経路を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、患者の片眼18または両眼に眼科的処置を実施する間にハウジング2内に設置された本発明によるレーザシステム1の実施形態の変形例を示す。レーザシステム1はハンドヘルド装置として設計されており、レーザシステム1に電力を供給するためのケーブル8によって電源ソケットに差し込むことができる。レーザシステム1は、ナノパルスレーザ3、集束光学系5、偏向装置6、および図示されていない制御ユニットを含む。ナノパルスレーザ3、集束光学系5、および偏向装置6が
図2に概略的に示されている。さらに、レーザシステム1は、タッチスクリーン9、図示されていない照明手段、ハンドル10、およびハンドヘルド装置を患者に配置するための支持点11を含む。
【0016】
図2は、
図1によるレーザシステム1のビーム経路12を示す概略図である。ナノパルスレーザ3によって生成されたレーザパルスは、偏向装置6および集束光学系5を介して手術される組織上の焦点に集束され、手術される組織上の焦点の位置は、偏向装置6によって変化させることができる。この目的のために、偏向装置6は電動モータ13を有し、円錐台形ミラー14に対するその位置は、図示されていないリニアアクチュエータによって二重矢印7に沿って変更可能である。ナノパルスレーザ3は、眼球18の前方領域17に外科的処置を行うように設計されており、ナノパルスレーザ3は、有利には、赤外領域のレーザパルスを放出するように設計されている。さらに、偏向装置6はダイクロイックミラー15を備え、レーザシステム1は画像センサ16を有する。ナノパルスレーザ3、電動モータ13、リニアアクチュエータ、照明手段、およびタッチパネル9は、図示しない制御ユニットによって通信可能に接続されている。適切には、照明手段はLEDで形成され、眼球18が照明手段の光円錐内に配置されるように、眼球18に対して方向付けられる。
【0017】
続いて、
図1によるレーザシステム1を用いた眼科的処置の実施態様をより詳細に説明する。患者が、特に水平である手術位置をとった後に、ハンドヘルド装置は外科医によって患者の顔面上に配置され、ハンドヘルド装置は支持点11を介して患者の顔面上、特に鼻の上に支持される。このために、支持点11は、軟質材料、例えばエラストマーで有利に形成されている。タッチスクリーン9上で、外科医はどの手術が行われるかを選択することができる。例えば、前嚢切開術または後嚢切開術は、ハンドヘルド装置を用いて行うことができる。この場合には、外科医は、例えば前嚢切開術を選択する。画像センサ16によって、外科医は、タッチスクリーン9を介して集束光学系5を患者の眼球18の真上に向けることができる。ハウジング2に取り付けられたスイッチ(図示されていない)を作動させることによって、またはタッチディスプレイ9上のアイコンを選択することによって、嚢切開術が開始され、ナノレーザ3の高エネルギー入力と、それに起因する、眼球18のカプセル嚢の組織に対する短い曝露時間とのために、眼球18の固定、追跡および/または走査を省略することができる。カプセル嚢を開いた後に、ハンドヘルド装置を取り外して脇に置くことができる。ここで眼球18の実際の手術を開始することができる。例えば、水晶体超音波乳化吸引術によるレンズ4の断片化の実施態様。
【0018】
さらなる実施形態の変形例では、レーザシステム1は眼球18のレンズ4を断片化するように設計されている。結果として、2つの外科手術ステップを同じ装置で実行することができ、そして処置の継続時間が再び最小化されるという利点が得られる。
【0019】
さらなる実施形態の変形例では、レーザパルスのパルス周波数を変調することができる。結果として、眼球18の後方領域19での処置も同様に実施できるという利点が得られる。
【0020】
さらなる実施形態の変形例では、レーザシステム1は、ハウジング2内に収容されている電力供給用のバッテリを有する。