(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
2,3−ブタンジオールを生産する組換え微生物であって、2,3−ブタンジオールを生産する当該組換え微生物はクレブシエラ属菌(Klebsiella sp.)であり、酸性環境でも2,3−ブタンジオールを生産することができ、
2,3−ブタンジオールを生産する当該組換え微生物は、少なくとも、ウリジン二リン酸グルコースリン酸ウラニルトランスフェラーゼ遺伝子(galU)と、アセチルアルコール脱水素酵素遺伝子(acoA)と、リン酸アセチルトランスフェラーゼ遺伝子(pta)が改変され、当該改変は欠失である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】野生型株(wild−type strain)と接合完了体(transconjugant)の染色体上での、形質転換と組換えに使用される標的遺伝子とDNAフラグメントの相同組換えを示す模式図である。
【
図1B】2回の相同組換えを行った後、染色体上の標的遺伝子が除去された突然変異株(mutant strain)を示す模式図である。
【
図2】ストレプトマイシンの天然突然変異体のコロニーを示す図である。
【
図3】RT−PCRによるS1U1遺伝子の発現を示す電気泳動図である。
【
図4】RT−PCRによるS1U1D1遺伝子の発現を示す別の電気泳動図である。
【
図5】RT−PCRによるS1U1D2遺伝子の発現を示す電気泳動図である。
【
図6】RT−PCRによるS1U1D3遺伝子の発現を示す電気泳動図である。
【
図7】RT−PCRによるS1U1D4遺伝子の発現を示す電気泳動図である。
【
図8】RT−PCRによるS1U1D5遺伝子の発現を示す電気泳動図である。
【
図9】遺伝子組換え株S1U1およびS1U1−2と野生型株(S1)および復帰株(Ur1)のコロニーの外観を示す図である。
【
図10】遺伝子組換え株S1U1とその他遺伝子組換え株S1U1D1、S1U1D2、S1U1D3、S1U1D4およびS1U1D5の成長曲線図である。
【
図11】野生型株(S1)と遺伝子組換え株S1U1の成長曲線図である。
【
図12】異なる2,3−BDO濃度でのTLC−バニリン試験の色反応を示す図である。
【
図13A】TLC−バニリン試験の灰色数値曲線図である。
【
図13B】各遺伝子組換え株の2,3−BDO生産平均曲線図である。
【
図14A】野生型株(S1)と遺伝子組換え株S1U1の、5%グルコースを含むM9培養液中での異なる時間での2,3−BDO生産量を示す図である。
【
図14B】S1U1とその他遺伝子組換え株S1U1D1、S1U1D2、S1U1D3、S1U1D4およびS1U1D5の、5%グルコースを含むM9培養液中での異なる時間での2,3−BDO生産量を示す図である。
【
図15】S1U1とその他遺伝子組換え株S1U1D1、S1U1D2、S1U1D3、S1U1D4およびS1U1D5の、2,3−BDO生産量(g/L)の曲線図である。
【
図16】S1U1とその他遺伝子組換え株S1U1D1、S1U1D2、S1U1D3、S1U1D4およびS1U1D5が、5%グルコースを含むM9培養液中での発酵時間が異なることを示すpH値曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、特定の実施形態によって、本発明の実施方法を説明するが、当業者は、本明細書に開示された以外の利点や効能を理解することができる。本発明は様々な特定の実施形態によって実施または適用することができる。本開示の精神から逸脱することなく、様々な改変および変更を行うことができる。
【0016】
本文に別段の記載がない限り、本明細書および添付の特許出願の範囲で使用される単数形「one」および「that」には、複数形が含まれる。
【0017】
本文に別段の記載がない限り、本明細書および添付の特許出願の範囲で使用される「または」という用語は、「および/または」の意味を含む。
【0018】
本文に別段の記載がない限り、本明細書および添付の特許出願の範囲で使用される「微生物」という用語は、細菌、古細菌、ウイルスまたは真菌を含む顕微鏡的な生物である。本発明に記載されている「微生物」は、「細菌」を含むものと理解する。
【0019】
本発明で使用される「組換え」という用語は、互いに分離された2つのシーケンスセグメントを人工的に結合することを意味する。一般的に「組換え」という用語は、核酸、タンパク質、または微生物など多くの異なる供給源からの遺伝物質や、遺伝物質のコーディングによってコード化されることを意味する。例えば、二つ以上の異なる系統または種からの微生物などである。本発明で使用される「組換え」という用語は、微生物の突然変異した核酸やたんぱく質を意味する、それは、化学合成または遺伝子工学的技術によって得られた突然変異した内因性核酸またはタンパク質を含む。
【0020】
本発明で使用される「突然変異」という用語は、菌中の核酸またはタンパク質が、その野生型または親微生物系と比較して改変されていることを意味する。いくつかの実施形態において、突然変異は、酵素をコードする遺伝子の欠失、挿入または置換を含む。他の実施形態において、突然変異は、酵素中の一つまたは多くのアミノ酸の欠失、挿入または置換を含む。
【0021】
本発明で使用される「遺伝子組換え」という用語は、広義には微生物のゲノムまたは核酸の操作を意味する。遺伝子組換え方法として、異種遺伝子の発現、遺伝子またはプロモーターの挿入、削除、欠失またはサイレンシング、遺伝子発現の変更または遺伝子発現の不活性化または抑制、酵素工学、定向進化、知識ベース設計、ランダム突然変異誘導、遺伝子改変、コドン最適化などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
本発明はさらに配列表を開示しており、配列表で参照される配列は、実施方法の表1および表5に記載のプライマー配列である。
【0023】
本発明では、2,3−ブタンジオールを生産する組替え微生物の一種は、ウリジン二リン酸グルコースリン酸ウラニルトランスフェラーゼ遺伝子(galU)、アセチルアルコール脱水素酵素遺伝子(acoA)、リン酸アセチルトランスフェラーゼ遺伝子(pta)、グルコースリン酸アデノシルトランスフェラーゼ遺伝子(glgC)、ラクトースデヒドロゲナーゼ遺伝子(ldhA)、ホスホジエステラーゼ遺伝子(pdeC)からなるグループから選択される少なくとも3つの遺伝子が改変されたものである。その組替え微生物は微生物寄託番号BCRC 910979として、財団法人食品産業開発研究所に寄託したものである。
【0024】
実験方法
一、菌種の培養方法
特に指定しない限り、本発明の組換え菌株の培養方法は、ルリア・ベルターニ(LB)または酵母エキスペプトン(YPD)培地中で、室温または30℃で約18〜24時間培養する。
【0025】
二、全ての菌体染色体を抽出
本発明の組換え菌株を構築するため、まず初めに、標的遺伝子を含むDNAフラグメントのポリメラーゼ連鎖反応により増幅するための鋳型として、全ての菌体染色体を抽出する。全ての菌体染色体の抽出方法は、長期保存を必要とする全ての菌体染色体DNAに適している。例えば、Qiagen DNeasy Plant Mini Kitなどの市販の染色体抽出キットを使用することができる。詳しい抽出手順を以下に説明する。
【0026】
LB培養液で40時間(h)増殖させた菌体2 mLを遠心分離して収集し、65℃に予熱した400μL AP1緩衝液(4μLRNaseAを含む、植物組織用ゲノム DNA キット、Yeastern Biotech 社)で各サンプルを再構成し、菌体を振とうにより処理し懸濁後、65℃のウォーターバスに約5分間静置し、十分に混合するように時々反転させる。その後、130μLのP3緩衝液を加え、十分混合して、氷の上に5分間静置し、14,000rpmで5分間遠心分離後、上澄み液を均質な遠心分離カラム(QIAshredder spin column)で吸引する。その後、2mLのコレクションチューブに入れ、14000rpmで2分間遠心分離し、濾液を新しい遠心管に移す。沈殿物がある場合は、分散させずに、AW1緩衝液を添加し、混合物をマイクロ遠心管で慎重に繰り返し吸引する。その後、約650μLの混合液を抽出遠心分離カラム(DNeasy Mini spin column)で吸引し、2 mLのコレクションチューブに入れ、8000rpmで1分間遠心分離し、ろ液を捨て、混合液が完全にろ過されるまでこの手順を繰り返す。下部のコレクションチューブを交換し、上部の遠心管(spin column)に500μLのAW2緩衝液を加え、8000rpmで1分間遠心分離し、ろ液を捨て、AW2緩衝液で再度洗浄する。その後、14000rpmで2分間遠心分離し、ろ液を捨て、下部のコレクションチューブを慎重に取り外し、上部の遠心管のチューブ壁にろ液を残さないよう注意する。下部を新しい1.5mLマイクロ遠心管に交換し、65℃に予熱した100 μLのAE緩衝液(10 mM Tris−HCl、0.5 mM EDTA、pH 9.0)を加え、室温で約5分間静置した後、14,000rpmで1分間遠心分離すると、すべての菌体染色体の抽出が完了する。上記の方法に従い、抽出された全ゲノムDNAを分光光度計で分析および定量化し、ブランク対照群にAE緩衝液を用いて、各サンプルを4μL採取し、400μLAE緩衝液を加えて希釈し、さらに260nmおよび280nmの吸光度をそれぞれ測定する。
【0027】
三、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction,PCR)
本発明に記載されるポリメラーゼ連鎖反応は、当業者であれば容易に理解し適用可能な実験方法である。また、本発明のポリメラーゼ連鎖反応に用いられるポリメラーゼは、Phusion High Fidelity DNA Polymerase(Thermo Scientific, Vilnius, Lithuania, USA)である。反応手順として、始めに95℃で5分間反応させてから、以下の手順を35〜40回繰り返す。95℃で30秒〜3分(コロニーを直接テンプレートとして使用する場合は10分まで延長)、50〜62℃で30秒(グラジエント設定、または実験条件に応じて温度設定値を変更する)、72℃で90〜120秒(増幅されたフラグメントの長さに応じて15〜30秒/kb)。上記のサイクルの後、反応を最終的に72℃で5〜10分間行い、その後、4℃まで冷却する。
【0028】
四、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)産物の電気泳動分析
本発明に記載されるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)産物の電気泳動分析は、当業者であれば容易に理解し適用可能な実験方法である。本発明の電気泳動分析は、PCR産物を10μL採取し、1%のアガロースゲル(agarose gel)で電気泳動分析(135V)し、臭化エチジウム(ethidium bromide,0.5μL/mL)で30分間染色した後、10分間蒸留水で脱染し、紫外線イメージングで分析および記録写真を撮る。
【0029】
五、相同組換え(homologous recombination)遺伝子ノックアウト法
本発明は、相同組換え遺伝子ノックアウト法を用いて組換え株を構築するものであり、菌体内の内因性リコンビナーゼを用いて標的遺伝子の上流と下流の配列を相同組換えした後、カウンターセレクション(counter−selection)を経て、2回目の相同組換え後に改変プラスチド(抗生物質耐性遺伝子を含む)の配列が消失した組換え株を選択する。選択される組換え株の抗生物質耐性遺伝子はプラスチド消失(plasmid loss)とともに消失するため、選択される組換え株は薬剤に対して耐性がないものとなる。もし2回の相同組換え後に元の野生型株の配列が染色体上に残っている場合、プラスチドの除去後、その株は復帰株(revertant)と呼ばれる野生型株に戻る。
【0030】
本発明で用いる相同組換えノックアウト法は、安定であり、突然変異株を繰り返し選択することができる。カウンターセレクションのために、この相同組換え遺伝子ノックアウト法は、まず、ストレプトマイシン(streptomycin)耐性菌株を突然変異体親株としてランダムに突然変異させる必要があり、このランダム突然変異選択を行うことにより、菌株によっては生理的特性が変化する可能性がある。また、この相同組換えノックアウト法では、突然変異プロセスを進行させるために、標的遺伝子の上流および下流に約1000bpを含むフラグメントを突然変異体プラスチドに構築する必要があり、また、突然変異標的株は、接合による遺伝子伝達を成功させることができる必要がある。
【0031】
例えば、
図1Aを参照されたい。相同組換えが発生する前に、野生型株(wild−type strain)と接合完了体(transconjugant)の染色体上に位置する標的遺伝子を、形質転換に用いるDNAフラグメントと相同組換え後、カウンターセレクションを行い、自殺プラスチドの上流領域と下流領域の突然変異はそれぞれA、Bと表記される。続いて、
図1Bを参照されたい。2回の相同組換えを終え、突然変異株(mutant strain)染色体上の標的遺伝子は除去されており、ここでKmRはカナマイシン(kanamycin)耐性遺伝子を表す。
【0032】
本発明では、相同組換え遺伝子ノックアウト法を用いて組換え株を構築する方法は以下のステップからなる。
(a)ストレプトマイシン天然突然変異体を選択する
(b)最初の相同組換え株を選択するために接合を行う
(c)2回目の相同組換え株を得るためにカウンターセレクションを行う
(d)遺伝子突然変異の位置を確認する
【0033】
ストレプトマイシン天然突然変異体の選択方法を以下に簡単に説明する。まず、野生型株の単一コロニーを2mLのLB培養液に接種し、37℃で8時間回転培養し、その後、遠心分離して菌体を採取する。その後、生理食塩水(0.85%NaCl)で菌体を2回洗浄し、500g/mLストレプトマイシンを含むLB培地にそれぞれ均一に塗布し、37℃で一晩静置して培養する。
【0034】
続いて、本発明のストレプトマイシン天然突然変異体のコロニー図である
図2を参照されたい。500μg/mLのストレプトマイシンを含むLB培地で生育可能なコロニーを選択する(
図2の矢印は、500μg/mLのストレプトマイシンを許容できるコロニーを示す)。そして、単一のコロニーを選択し、500μg/mLのストレプトマイシンを含むLB培養液で培養し、−80℃で保存する。本発明で使用するストレプトマイシンは天然突然変異体S1である。
【0035】
ストレプトマイシンの天然突然変異体を取得した後、接合を行い、最初の相同組換え株を選択する。接合とは、ストレプトマイシンの天然突然変異体に突然変異体プラスチドを入れる方法であり、ドナー株とレシピエント株を適切な割合で混合し培養した後、ストレプトマイシン耐性を有するコロニーを選択し、遺伝子フラグメントが標的遺伝子部位にうまく埋め込まれているかをPCRで確認することである。その後、2回目の相同組換えを行い、培養後に希釈したコロニーを1個選択し、ストレプトマイシンを含むLB培地に塗布し培養する。培養後、異なるコロニーを1個選択し、カナマイシンまたはストレプトマイシン含むLB培地に塗布し、一晩培養した後、ストレプトマイシンには耐性があるがカナマイシン耐性を失ったコロニーを選択し、それぞれPCR確認を行う。この時、コロニーは、2回目の相同組換えを受け、遺伝子欠失突然変異体(gene−deletion mutant)、または野生型株に回復した復帰株(revertant)として変化するため、電気泳動分析を行い、正しい遺伝子欠失突然変異体を選択する。
【0036】
六、2,3−ブタンジオール(2,3−BDO)の定量法
本発明は、細菌培養液の成分を薄膜クロマトグラフィーで分離し、バニリン(vanillin)で着色することからなる2,3−ブタンジオール(2,3−BDO)の特定の定量法を含む。詳細な反応条件は以下の通りである。薄層クロマトグラフィー(thin layer chromatography,TLC)プレート(Pre−activated silica TLC plate,Sigma−Aldrich)を用いて、5μLのサンプルをプレートの一端に滴下し、移動相としてヘキサン:酢酸エチル:氷酢酸=70:30:1.5を用いてクロマトグラフィー分析を行う。40分後、移動相がプレートの上部に移動したら、プレートに表示剤(バニリン:硫酸:エタノール=0.5g:1ml:9ml;Sigma−Aldrich)をスプレーする。その後、110℃で5分ほど焼くと色が観察できる。試験後、2,3−BDOのみが青色を示し、グルコースは暗褐色を示し、アセチルエタノールやジアセチルなどの他のものは発色しないため、この定量法は2,3−BDOに固有のものである。
【0037】
本発明は、以下の実施形態でさらに説明するが、これらの実施形態は、例示のみを目的とするため、本発明の実施に対する制限として解釈されるべきではないことを理解されたい。
【0038】
<実施例1:突然変異体プラスチドの構築>
上記のポリメラーゼ連鎖反応により、標的遺伝子の上流と下流の約1,000塩基対(base pair,bp)のDNAフラグメントが増幅される。ポリメラーゼ連鎖反応で使用したプライマー配列を表1に示す。
表1. ポリメラーゼ連鎖反応で使用されるプライマー配列
【0039】
表2に示すように、上記の標的遺伝子の上流および下流のフラグメントを接合した後、自殺性プラスチドpKAS46を埋め込み、異なる標的遺伝子フラグメントを有する突然変異体プラスチドを構築する。ここで用いられるプラスチドの構築方法は、当該技術分野において一般的に知られている。
表2.各標的遺伝子の上流フラグメントと下流のフラグメントを結合した後、埋め込まれた自殺性プラスチド
【0040】
さらに、標的遺伝子galUを含む突然変異体プラスチドは、中山医学大学
准教授より提供された。710bpのgalU遺伝子を欠失させた1.8kbのDNAフラグメントを含むpKAS46遺伝子プラスチド(pYC094と命名)も提供された。
【0041】
表3に示すように、標的遺伝子をptaとして含む突然変異体プラスチドの構築方法は、まず、PCRにより約1700bp増加させた部分のpta遺伝子フラグメントを利用し(使用したPCRプライマー配列はpta (F):TCTAGACATCTTCCATCTGCACGACACCC (SEQ ID NO. 29)とpta (R) GAATTCAGTCGGCGTTGATGTAGTTGGC (SEQ ID NO. 30) )、その後、制限酵素KpnIを用いて、このフラグメントの中央より約300塩基対のフラグメントを切除し、自殺性プラスチドpKAS46(pKAS46−D2と命名)を埋め込む。
表3. pG−D2とpKAS46−D2の比較表。
【0042】
<実施例2:組換え菌株の構築>
実施例1における異なる標的遺伝子を有する突然変異組換えプラスチドはそれぞれ、形質転換(transformation)によって大腸菌E. coli S17−1 λpirに入れられ、突然変異のための組換えプラスチドを含む大腸菌株を得る。次に、上記の相同組換え遺伝子ノックアウト法に従って、標的遺伝子を含む組換え株を構築する。
【0043】
例えば、上記で得られたストレプトマイシン天然突然変異体(S1)を接合時にレシピエント株として使用し、ドナー株は、pYC094突然変異の組換えプラスチドを含む大腸菌E. coli S17−1 λpir(カナマイシンおよびアンピシリン耐性)とし、コロニーを抗生物質を含むLB培地で一晩培養する。遠心分離により菌体を採取し、生理食塩水で2回洗浄し、菌体を2:1(ドナー株:レシピエント株)で混合し遠心分離を行い、LB培地上の滅菌ニトロセルロース膜(nitrocellulose membrane,NC membrane)上に均一に塗布し、37℃で一晩培養する。その後、ニトロセルロース膜を滅菌ピンセットで採取し、約3mLのLB培養液が入った試験管に入れて振とうし、菌体がニトロセルロース膜からLB培養液に剥離した後、1 mLの再懸濁した菌液を吸引し遠心分離を行い、菌体を採取し、生理食塩水で2回洗浄後、生理食塩水で10倍(10倍、100倍希釈)に希釈する。次いで、M9培地(47mM Na2HPO4、22mM KH2PO4、18mM NH4Cl、8mM NaCl、2mM MgSO4、0.15mM CaCl2)、LB培地(カナマイシンおよびアンピシリンを含む)およびM9培地(カナマイシンおよびアンピシリンを含む)にそれぞれ100μLの異なる希釈率の菌液を塗布し、37℃で一晩培養する。次に、M9培地(カナマイシンとアンピシリンを含む)で生育できるコロニーを選択し、LB培地(カナマイシンとアンピシリンを含む)でそれらを精製する。この時点で、コロニーは最初の相同組換え株(transconjugant)となる。続いて、PCRを用いて、遺伝子フラグメントがgalU遺伝子の位置にうまく埋め込まれているかを確認する。
【0044】
続いて、2回目の相同組換えを行う。まず、単一コロニーを選択し、一晩37℃でLB培養液中にて培養した後、一晩培養した菌液を100倍に希釈し、LB培養液(500μg/mLストレプトマイシンを含む)に入れ、37℃で8時間回転培養する。その後、菌液を生理食塩水配列で希釈し、500μg/mLストレプトマイシンを含むLB培地に均一に塗布し、37℃で一晩培養する。その後、異なる単一コロニーを選択し、カナマイシンまたはストレプトマイシンを含むLB培地に塗布し、一晩培養した後、ストレプトマイシン耐性はあるがカナマイシン耐性を失ったコロニーを選択するためのPCR確認を行う。この時、コロニーは、2回目の相同組換えを受け、遺伝子欠失突然変異体、または野生型株に回復した復帰株(revertant)として変化するため、電気泳動分析を行い、正しい遺伝子欠失突然変異体を選択する。この遺伝子突然変異株は、galU遺伝子が欠失した組換え株である。
【0045】
例えば、p032に対してPCRプライマーを使用する。
【0046】
表4に示すように、GCCGAGCTCACTCTTGCATGGATGGCT(SEQ ID NO.17)およびp042:GTCAGCTGAATTTCATCAC(SEQ ID NO.18)をgalU遺伝子フラグメントに対してPCRし、次いで1X TAE(トリス塩基、酢酸、およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA))緩衝液を用いて1%のコロイドを作成する。2回目の相同組換え後に選択される菌株から採取した標的遺伝子フラグメントの大きさを解析するため、90Vで40分間電気泳動を行う。
図3に示すように、2から6の番号が付けられた5つのコロニーは遺伝子欠損突然変異株である(S1U1と命名)。1から7と13の番号が付けられたコロニーは復帰株である。Mは1 kbのDNAラダー、Wは一晩培養したS1株のゲノムDNAの増幅結果、PはpYC094プラスチドDNAの増幅結果である。ここで、矢印で示した位置は、それぞれ野生型株と突然変異株のフラグメントをPCRで増幅させた結果である。実施例1で得た異なる標的遺伝子突然変異に対応するプラスチドを含む菌株を、接合におけるレシピエント株またはドナー株として用いることにより、上記のような相同組換えノックアウト法における接合および選択することができ、1種または複数の標的遺伝子改変を含む組換え株を構築することができる。
表4. 異なる標的遺伝子の突然変異に使用されるプラスチドの菌株と接合におけるレシピエント株と、接合と選択により構築される組換え菌株
【0047】
上記のようにS1U1D1、S1U1D2、S1U1D3、S1U1D4およびS1U1D5の組換え株を選択した後、PCRにより標的遺伝子フラグメントを増幅させた際に使用したPCRプライマーを表5に示す。
表5. 各PCRプライマー配列と配列番号
【0048】
上記のように、PCR産物フラグメントのサイズを電気泳動で分析し、結果をそれぞれ
図4〜8に示す。
【0049】
RT−PCRを使用してS1U1遺伝子を発現した本発明の別の電気泳動図については、
図4を参照されたい。フラグメントサイズが約1094bpの7つのコロニー(番号1、6、7、10、13、17、19)は遺伝子欠損突然変異体であり、フラグメントサイズが約2048bpの15つのコロニー(番号2〜5、8〜9、11〜12、14〜16、18、20〜22)は復帰株である。Mは1 kbのDNAラダー、Wは一晩培養したS1U1株のゲノムDNAの増幅結果、PはpKAS46−D1プラスチドDNAの増幅結果である。
【0050】
RT−PCRを使用してS1U1D2遺伝子を発現した本発明の電気泳動図については、
図5を参照されたい。フラグメントサイズが約1453bpの2つのコロニー(番号3、12)は遺伝子欠損突然変異体であり、フラグメントサイズが約1758bpの20つのコロニー(番号1〜2、4〜11、13〜22)は復帰株である。Mは1 kbのDNAラダー、Wは一晩培養したS1U1株のゲノムDNAの増幅結果、PはpKAS46−D2プラスチドDNAの増幅結果である。
【0051】
RT−PCRを使用してS1U1D3遺伝子を発現した本発明の電気泳動図については、
図6を参照されたい。フラグメントサイズが約1083bpの16つのコロニー(番号1、3〜5、7〜8、10、12〜13、15〜21)は遺伝子欠損突然変異体であり、フラグメントサイズが約2337bpの6つのコロニー(番号2、6、9、11、14、22)は復帰株である。Mは1 kbのDNAラダー、Wは一晩培養したS1U1株のゲノムDNAの増幅結果、PはpKAS46−D3プラスチドDNAの増幅結果である。
【0052】
RT−PCRを使用してS1U1D4遺伝子を発現した本発明の電気泳動図については、
図7を参照されたい。フラグメントサイズが約1083bpの16つのコロニー(番号1、3〜5、7〜8、10、12〜13、15〜21)は遺伝子欠損突然変異体であり、フラグメントサイズが約2337bpの6つのコロニー(番号2、6、9、11、14、22)は復帰株である。Mは1 kbのDNAラダー、Wは一晩培養したS1U1株のゲノムDNAの増幅結果、PはpKAS46−D3プラスチドDNAの増幅結果である。
【0053】
RT−PCRを使用してS1U1D5遺伝子を発現した本発明の電気泳動図については、
図8を参照されたい。フラグメントサイズが約600bpの21つのコロニー(番号1〜12、14〜22)は遺伝子欠損突然変異体であり、フラグメントサイズが約2551bpのコロニー(番号13)は復帰株である。Mは1 kbのDNAラダー、Wは一晩培養したS1U1株のゲノムDNAの増幅結果、PはpKAS46−D5プラスチドDNAの増幅結果である。
【0054】
組換え遺伝子菌株のコロニーの外観を観察すると、
図9に示すように、遺伝子組み換え株S1U1およびS1U1−2は、未改変の親株S1と比較して、莢膜多糖類の合成に重要な遺伝子galUがないため、コロニーは明らかに小さくなり、Ur1復帰株のコロニー成長の様子は、親株S1の成長の様子と似ている。
【0055】
<実施例3:組換え株の成長の比較>
野生型株S1および実施例2の組換え株6株(S1U1、S1U1D1、S1U1D2、S1U1D3、S1U1D4、およびS1U1D5)を、それぞれ5%グルコースを含むM9培地中で、200rpm、30℃のインキュベーターで振盪し培養した。2時間ごとに菌液のOD595吸光度を測定した。成長曲線は
図10に示す。組換え株S1U1、S1U1D1、S1U1D2、S1U1D3、およびS1U1D4の成長速度に大きな差はなく、組換え株S1U1D5の成長速度だけが最初の30時間では他の菌株に比べてわずかに遅いが、30時間後の成長速度は同程度である。また、
図11に示すように、野生型株S1とS1U1の成長曲線には大きな差はなく、S1U1のみが成長後期(4時間以上)にわずかに遅れているが、これによって組換え株の成長速度は、それに含まれる遺伝子組換えの影響を受けていないことを示す。
【0056】
<実施例4:組換え株によって生産されたポリオールの収量の比較>
【0057】
2,3−BDOの異なる濃度(10mM、25mM、50mM、100mM、200mM、300mM、400mM、500mM)を用いてTLC−バニリン試験を行い、Image Jソフトウェアを用いて画像をグレースケールに変換し(
図12)、Excelで回帰曲線を描き(
図13)、この回帰曲線を標準曲線として使用し、各突然変異体の2,3−BDO生産量を算出した。
【0058】
各遺伝子の組換え株を、30℃で5%グルコースを含むM9培地で培養し、24時間、48時間、72時間、96時間ごとにサンプルを採取した後、遺伝子組換え株の2,3−BDO生産量を、TLC−バニリン法で分析した結果を
図14Aおよび
図14Bに示す。
図14Aおよび
図14BのTLC−バニリン分析で得た結果を、Image Jソフトウェアで定量し、表6に示した後、曲線で表した(
図15)。
表6. S1U1およびその他の遺伝子組換え株S1U1D1、S1U1D2、S1U1D3、S1U1D4、およびS1U1D5の、異なる時間での2,3−BDO生産量
【0059】
図15と表6に示すように、S1U1の2,3−BDOの生産量は約60時間後から減少するが、S1U1D1の2,3−BDOの生産量は約90時間まで緩やかに増加し続ける。遺伝子組換え株S1U1D2、S1U1D3、S1U1D4、S1U1D5の2,3−BDO生産量はS1U1と比較して大幅に増加し、培養初期から明らか多くの2,3−BDOを生産することができ、96時間まで生産し続ける。ここで、遺伝子組換え株S1U1D2、S1U1D3、S1U1D4、S1U1D5は48時間培養後に5.77〜6.16g/Lの2,3−BDOを生産し、S1U1の3.01g/Lと比較して91.7〜105%の増加を示した。さらに、72から96時間後には、7.08〜7.86g/Lの2,3−BDOを生産し、S1U1の3.01g/Lと比較して117〜140%の増加を示した。
【0060】
<実施例5:組換え菌株の発酵pH値の比較>
各遺伝子組換え株を、5%グルコースを含むM9培養液に30℃で培養し、菌液のpH値をサンプリングして測定した結果を
図16に示す。結果として、最初の6時間の培養では、菌株間のpH値に明らかな差はないが、菌株培養の24時間頃から、明かなpH値に差が現われる。また、S1U1D3およびS1U1D2のpH値は、平均して最も高いpH5以上であるのに対し、S1U1は最も低くpH4以下であることから、組換え株は発酵環境の酸性化を遅らせる効果があることを示している。
【0061】
図16に示すように、すべての株のpH値は、菌株培養48時間後には3から4に低下する。上記の
図15、16および表6に示すように、遺伝子組換え株S1U1D2、S1U1D3、S1U1D4、およびS1U1D5は、低pH酸性発酵環境の影響を受けず、低pH酸性発酵環境下でも2,3−BDOを高い収率で生産することができる。例えば、遺伝子組換え株S1U1D2、S1U1D3、S1U1D4、およびS1U1D5は48時間の培養後、発酵環境のpH値がpH 4未満に低下しても、生産量はS1U1株よりも著しく高く、2,3−BDOを5.77〜6.16g/L生産する。さらに、72時間および96時間まで高い生産量を示し、2,3−BDOの生産量は7.08〜7.86g/Lとなり、これはS1U1株の生産量の2倍以上である。
【0062】
しかしながら、上記は本発明の実施例の中でもより好ましい例に過ぎず、本発明の実施範囲を限定するものではない。すなわち、特許出願の範囲および本発明の説明に従って行われた全ての単純な同等の変更および改変は、本発明の範囲内に留まるものとする。
【0063】
台湾(TW)、財団法人食品産業開発研究所生物資源保存研究センター、寄託日は109年3月20日、寄託番号はBCRC910979である。