特許第6979634号(P6979634)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6979634
(24)【登録日】2021年11月18日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】圧縮装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20211202BHJP
   C25B 1/02 20060101ALI20211202BHJP
   C25B 13/02 20060101ALI20211202BHJP
   C25B 13/05 20210101ALI20211202BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20211202BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20211202BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20211202BHJP
【FI】
   C25B9/00 Z
   C25B1/02
   C25B13/02 302
   C25B13/05
   C25B13/08 305
   C01B3/00 Z
   H01M8/04 N
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2021-526305(P2021-526305)
(86)(22)【出願日】2020年11月27日
(86)【国際出願番号】JP2020044133
【審査請求日】2021年5月13日
(31)【優先権主張番号】特願2020-1664(P2020-1664)
(32)【優先日】2020年1月8日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 修
(72)【発明者】
【氏名】嘉久和 孝
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−086454(JP,A)
【文献】 特開2017−218668(JP,A)
【文献】 特開2019−096468(JP,A)
【文献】 特表2017−517837(JP,A)
【文献】 米国特許第06235168(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00−15/08
H01M 8/00−8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の主面に設けられたアノードと、
前記電解質膜の他方の主面に設けられたカソードと、
前記アノード上に設けられたアノードセパレーターと、
前記カソード上に設けられたカソードセパレーターと、
前記アノードと前記カソードとの間に電圧を印加する電圧印加器と
を備え、
前記電圧印加器が前記電圧を印加することで、前記アノードに供給されたアノード流体から取り出されたプロトンを、前記電解質膜を介して前記カソードに移動させ、圧縮された水素を生成する圧縮装置であって、
前記アノードセパレーターは、前記アノード側の主面に設けられた、前記アノード上を流れる前記アノード流体の流体流路と、前記アノードセパレーターを貫通する貫通孔であり、前記流体流路に前記アノード流体を供給するマニホールド孔と、前記アノード側の主面に設けられた、前記マニホールド孔と前記流体流路とを連絡する連絡路とを有し、
前記アノードセパレーターのアノード側の主面の前記アノードに対向する領域の外周上に設けられ、前記連絡路を覆い、かつ前記マニホールド孔を覆わない面シール材を備え、前記面シール材は金属シートの両方の主面のそれぞれに、前記金属シートよりも低剛性かつ高弾性の弾性シートが設けられた3層構造である圧縮装置。
【請求項2】
前記アノードセパレーターおよび前記カソードセパレーターは、接合により一体化されている請求項1に記載の圧縮装置。
【請求項3】
前記金属シートは、ステンレス鋼である請求項1または2に記載の圧縮装置。
【請求項4】
前記ステンレス鋼は、SUS316またはSUS316Lである請求項3に記載の圧縮装置。
【請求項5】
前記ステンレス鋼は、4401−316−00−Iまたは4436−316−00−I、もしくは、4404−316−03−I、4432−316−03−Iまたは4436−316−91−Iである、請求項3に記載の圧縮装置。
【請求項6】
前記ステンレス鋼は、1.4401または1.4436、もしくは、1.4404、1.4432または1.4435である、請求項3に記載の圧縮装置。
【請求項7】
前記ステンレス鋼は、S31600またはS31603である、請求項3に記載の圧縮装置。
【請求項8】
前記ステンレス鋼は、S31608またはS31603である、請求項3に記載の圧縮装置。
【請求項9】
前記金属シートは、厚みが0.3mm以上である請求項1−8のいずれか1項に記載の圧縮装置。
【請求項10】
前記弾性シートが、フッ素ゴムである請求項1−9のいずれか1項に記載の圧縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は圧縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の温暖化などの環境問題、石油資源の枯渇などのエネルギー問題から、化石燃料に代わるクリーンな代替エネルギー源として水素が注目されている。水素は燃焼しても基本的に水しか排出せず、地球温暖化の原因となる二酸化炭素が排出されず、かつ窒素酸化物などもほとんど排出されないので、クリーンエネルギーとして期待されている。また、水素を燃料として高効率に利用する装置としては燃料電池があり、自動車用電源向け、家庭用自家発電向けに開発および普及が進んでいる。
【0003】
例えば、燃料電池車の燃料として使用される水素は、一般的に、数十MPaに圧縮された高圧状態で車内の水素タンクに貯蔵される。そして、このような高圧の水素は、一般的に、低圧(常圧)の水素を機械式の圧縮装置によって圧縮することで得られる。
【0004】
ところで、来るべき水素社会では、水素を製造することに加えて、水素を高密度で貯蔵し、小容量かつ低コストで輸送または利用し得る技術開発が求められている。特に、燃料電池の普及促進には水素供給インフラを整備する必要があり、水素を安定的に供給するために、高純度の水素を製造、精製、高密度貯蔵する様々な提案が行われている。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1では、電解質膜を挟んで配されたアノードおよびカソード間に所望の電圧を印加することによって、水素含有ガス中の水素の精製および昇圧が行われる電気化学式水素ポンプが提案されている。なお、カソード、電解質膜およびアノードの積層体を膜−電極接合体(以下、MEA:Membrane Electrode Assembly)という。このとき、アノードに供給される水素含有ガスは、不純物が混入していてもよい。例えば、水素含有ガスは、製鉄工場などからの副次生成の水素ガスでもよいし、都市ガスを改質した改質ガスでもよい。
【0006】
また、例えば、特許文献2では、水の電気電解で発生した低圧の水素がMEAを用いて昇圧される差圧式の水電解装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−117139号公報
【特許文献2】特許第6129809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、一例として、従来に比べて、アノード流体に対する面シール材のシール性を改善するとともに装置のコストを低減し得る圧縮装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本開示の一態様(aspect)の圧縮装置は、電解質膜と、前記電解質膜の一方の主面に設けられたアノードと、前記電解質膜の他方の主面に設けられたカソードと、前記アノード上に設けられたアノードセパレーターと、前記カソード上に設けられたカソードセパレーターと、前記アノードと前記カソードとの間に電圧を印加する電圧印加器とを備え、前記電圧印加器が前記電圧を印加することで、前記アノードに供給されたアノード流体から取り出されたプロトンを、前記電解質膜を介して前記カソードに移動させ、圧縮された水素を生成する圧縮装置であって、前記アノードセパレーターの前記アノード側の主面に、前記アノード上を流れる前記アノード流体の流体流路と、前記流体流路に前記アノード流体を供給するマニホールド孔と、前記マニホールド孔と前記流体流路とを連絡する連絡路が設けられ、前記アノードセパレーターのアノード側の主面の前記アノードに対向する領域の外周上に設けられ、かつ前記連絡路を覆う面シール材を備え、前記面シール材は金属シートの両方の主面のそれぞれに、弾性シートが設けられた3層構造である。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様の圧縮装置は、従来に比べて、アノード流体に対する面シール材のシール性を改善するとともに装置のコストを低減し得るという効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、電気化学式水素ポンプの一例を示す斜視図である。
図2図2は、第1実施形態の電気化学式水素ポンプの水素ポンプユニットの一例を示す図である。
図3図3は、第2実施形態の電気化学式水素ポンプの水素ポンプユニットの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記の圧縮装置の一例である電気化学式水素ポンプについて、低圧の水素含有ガスに対するシール材のシール性の改善とともに、装置の低コスト化のための検討が行われ、以下の知見が得られた。
【0013】
図1は、電気化学式水素ポンプの一例を示す斜視図である。
【0014】
図1に示すように、電気化学式水素ポンプ100は、複数のMEA(セル)を積層した積層体100A(スタック)を備える。
【0015】
各セルでは、一対のセパレーターのそれぞれが、セルのアノードおよびカソードのそれぞれを外側から挟んでいる。この場合、アノードに接触するセパレーターは、アノードに水素含有ガスを供給するための導電性の板状の部材である。この板状の部材は、アノードに供給する水素含有ガスが流れるガス流路を備える。カソードに接触するセパレーターは、カソードから水素(H)を外部に排出するための導電性の板状の部材である。この板状の部材は、カソードと外部とを連結するための連通経路を備える。なお、アノードセパレーターのガス流路は、セパレーターと別に設けることもできるが、セパレーターの表面にガス流路の溝を、例えば、サーペンタイン状に加工することが一般的である。
【0016】
そして、セルの外側には、これを機械的に固定するとともに、隣接するセル同士を互いに電気的に直列に接続するための上記のセパレーターが配置されている。
【0017】
セルとセパレーターを交互に重ねて、セルを10〜200個程度、積層して、その積層体100A(スタック)を両側から、一対の給電板11、12および一対の絶縁板13、14を介して一対の端板15、16で挟み、両端板15、16を複数の締結器17で締め付けるのが一般的な積層締結構造である。
【0018】
なお、この場合、アノードセパレーターのそれぞれのサーペンタイン状のガス流路に適量の水素含有ガスを供給するには、アノードセパレーターのそれぞれにおいて、適宜の管路から溝状の連絡路を分岐させ、連絡路の下流端が、アノードセパレーターのそれぞれのガス流路の端部と連結するように構成する必要がある。このような管路のことをアノードマニホールドといい、このアノードマニホールドは、積層体100Aの各部材のそれぞれの適所に設けられた貫通孔の連なりにより構成されている。
【0019】
また、カソードセパレーターのそれぞれのカソードから高圧の水素を排出するには、カソードセパレーターのそれぞれにおいて、適宜の管路と上記の連通経路とが連結するように構成する必要がある。このような管路のことをカソードマニホールドといい、このカソードマニホールドは、積層体100Aの各部材のそれぞれの適所に設けられた貫通孔の連なりにより構成されている。
【0020】
ここで、電気化学式水素ポンプ100では、カソードおよびカソードマニホールドを流れる高圧の水素、および、アノードおよびアノードマニホールドを流れる低圧の水素含有ガスなどが外部に漏れないように、適宜のシール部材が設けられ、セルと一体化して予め組み立てられる。このようなシール部材は、例えば、セパレーターの両主面に設けられたOリングなどが使用されることが多い。このとき、Oリングは、一般的に、アノードセパレーターおよびカソードセパレーターの両主面に設けられている。そして、このことが、電気化学式水素ポンプ100の組立および加工のコストアップの要因となり得る場合がある。
【0021】
具体的には、セパレーターの両主面にOリング溝を加工する必要があるので、セパレーターの一方の主面のみにOリング溝を加工する場合に比べて、セパレーターの加工コストが上がる。
【0022】
また、セパレーターの両主面に加工されたOリング溝にOリングを配置する場合、積層体100Aの組立時には、Oリングの落下または位置ずれなどが起きないように注意する必要がある。
【0023】
例えば、セパレーターの一方の主面に加工された第1のOリング溝内にOリングを配置したまま、セパレーターの他方の主面に加工された第2のOリング溝内にOリングを配置するには、セパレーターを裏返す必要がある。このとき、第1のOリング溝内のOリングの落下または位置ずれなどが起きないように、例えば、Oリングを仮止めする必要がある。すると、積層体100Aの組立時の工数が増えるので、積層体100Aの組立コストが上がる。
【0024】
なお、以上の問題は、例えば、特許文献2に開示された水電解装置などにおいても同様に発生すると考えられる。つまり、水電解装置のアノードセパレーター、カソードセパレーター、樹脂枠を積層する際には、これらの部材間には流体の漏れ防止のためのシール部材が、各部材の両主面に配置される可能性がある。
【0025】
ところで、積層体100Aの高圧の水素が存在する領域の部材間は、高い気密性が必要とされる。よって、かかる部材間を適切にシールするには、シール信頼性が高いOリングを設けることが有効である。
【0026】
これに対して、本開示者らは、積層体100Aの低圧の水素含有ガスが存在する領域の部材間は、Oリングを設けずに、面シール材を挟むことが組立および加工のコストダウンにおいて有効であると判断しているが、部材間に、単にゴムシートを挟むだけでは、水素含有ガスに対するゴムシートのシール性が不十分であることを見出して、以下の本開示の一態様に想到した。
【0027】
具体的には、アノードセパレーターは、上記のとおり、アノードマニホールドから分岐した溝状の連絡路の下流端が、アノードセパレーターのガス流路の端部と連結するように構成されている。よって、ゴムシートは、必然的に、上記の連絡路を上方から覆うこととなる。すると、例えば、電気化学式水素ポンプの動作時に発生するカソードおよびアノード間の差圧(高圧)によって、ゴムシートが連絡路内に落ち込む可能性がある。そして、この現象は、水素含有ガスに対するゴムシートのシール性の悪化を招く可能性があり、ひいては、水素含有ガスが外部に漏れやすくなる。
【0028】
すなわち、本開示の第1態様の圧縮装置は、電解質膜と、電解質膜の一方の主面に設けられたアノードと、電解質膜の他方の主面に設けられたカソードと、アノード上に設けられたアノードセパレーターと、カソード上に設けられたカソードセパレーターと、アノードとカソードとの間に電圧を印加する電圧印加器とを備え、電圧印加器が上記の電圧を印加することで、アノードに供給されたアノード流体から取り出されたプロトンを、電解質膜を介してカソードに移動させ、圧縮された水素を生成する圧縮装置であって、アノードセパレーターのアノード側の主面に、アノード上を流れるアノード流体の流体流路と、流体流路にアノード流体を供給するマニホールド孔と、マニホールド孔と流体流路とを連絡する連絡路が設けられ、アノードセパレーターのアノード側の主面のアノードに対向する領域の外周上に設けられ、かつ連絡路を覆う面シール材を備え、面シール材は金属シートの両方の主面のそれぞれに、弾性シートが設けられた3層構造である。
【0029】
かかる構成によると、本態様の圧縮装置は、従来に比べて、アノード流体に対する面シール材のシール性を改善するとともに装置のコストを低減し得る。
【0030】
具体的には、本態様の圧縮装置は、低圧のアノード流体が存在する領域の部材間は、Oリングを設けずに面シール材を挟むことで、このような部材間にOリングを設ける場合に比べて、組立および加工のコストダウンを図ることができる。
【0031】
また、本態様の圧縮装置は、面シール材を、金属シートおよび一対の弾性シートの3層構造とすることで、例えば、面シール材を単一の弾性シートで構成する場合に比べて剛性を向上することができる、これにより、本態様の圧縮装置は、圧縮装置の動作時に発生するカソードおよびアノード間の差圧(高圧)によって、面シール材が連絡路内に落ち込むことを抑制することができ、その結果、アノード流体が外部に漏れにくくなる。
【0032】
本開示の第2態様の圧縮装置は、第1態様の圧縮装置において、アノードセパレーターおよびカソードセパレーターは一体化されていてもよい。
【0033】
かかる構成によると、本態様の圧縮装置は、部品点数を削減することで、組立作業の効率化を図ることができる。また、本態様の圧縮装置は、例えば、カソードセパレーターとアノードセパレーターとが拡散接合で一体化されることで、互いの接合部の空隙が消失するので、両者間の接触抵抗を低減することができる。
【0034】
本開示の第3態様の圧縮装置は、第1態様または第2態様の圧縮装置において、金属シートは、ステンレス鋼であってもよい。
【0035】
かかる構成によると、本態様の圧縮装置は、金属シートをステンレス鋼で構成することで、剛性とコスト性の両立を図りやすくなる。
【0036】
本開示の第4態様の圧縮装置は、第3態様の圧縮装置において、ステンレス鋼は、SUS316またはSUS316Lであってもよい。
【0037】
日本工業規格(JIS)のSUS316またはSUS316Lが、様々な種類のステンレスの中で耐酸性および耐水素脆性などの視点で高い特性を備えるので、本態様の圧縮装置は、金属シートの基材としてSUS316またはSUS316Lを選択すると都合がよい。
本開示の第5態様の圧縮装置は、第3態様の圧縮装置において、ステンレス鋼は、4401−316−00−Iまたは4436−316−00−I、もしくは、4404−316−03−I、4432−316−03−Iまたは4436−316−91−Iであってもよい。
ここで、日本工業規格(JIS)のSUS316は、国際規格(ISO)15510では、4401−316−00−Iまたは4436−316−00−Iが対応する。日本工業規格のSUS316Lは、ISO15510国際規格では、4404−316−03−I、4432−316−03−Iまたは4436−316−91−I4401−316−00−Iが対応する。
本開示の第6態様の圧縮装置は、第3態様の圧縮装置において、ステンレス鋼は、1.4401または1.4436、もしくは、1.4404、1.4432または1.4435によって構成されていてもよい。
ここで、日本工業規格(JIS)のSUS316は、欧州規格(EN)では、1.4401または1.4436が対応する。日本工業規格のSUS316Lは、欧州規格では、1.4404、1.4432または1.4435が対応する。
本開示の第7態様の電気化学デバイスは、第3態様の圧縮装置において、金属基材シートは、S31600またはS31603によって構成されていてもよい。
ここで、日本工業規格(JIS)のSUS316は、米国規格(UNS)では、S31600が対応する。日本工業規格のSUS316Lは、米国規格では、S31603が対応する。
本開示の第8態様の電気化学デバイスは、第3態様の圧縮装置において、金属基材シートは、S31608またはS31603によって構成されていてもよい。
ここで、日本工業規格(JIS)のSUS316は、中国規格(GB)では、S31608が対応する。日本工業規格のSUS316Lは、中国規格では、S31603が対応する。
【0038】
本開示の第9態様の圧縮装置は、第1態様から第8態様のいずれか一つの圧縮装置において、金属シートは、厚みが0.3mm以上であってもよい。
【0039】
かかる構成によると、本態様の圧縮装置は、金属シートの厚みが0.3mm未満である場合に比べて、面シール材の剛性を改善することができる。
【0040】
本開示の第10態様の圧縮装置は、第1態様から第9態様のいずれか一つの圧縮装置において、弾性シートが、フッ素ゴムであってもよい。
【0041】
フッ素ゴムが、様々な種類のゴムの中で耐酸性などの化学的安定性の視点で高い特性を備えるので、本態様の圧縮装置は、弾性シートの基材としてフッ素ゴムを選択すると都合がよい。
【0042】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。なお、以下で説明する実施形態は、いずれも上記の各態様の一例を示すものである。よって、以下で示される形状、材料、構成要素、および、構成要素の配置位置および接続形態などは、あくまで一例であり、請求項に記載されていない限り、上記の各態様を限定するものではない。また、以下の構成要素のうち、上記の各態様の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面において、同じ符号が付いたものは、説明を省略する場合がある。図面は理解しやすくするために、それぞれの構成要素を模式的に示したもので、形状および寸法比などについては正確な表示ではない場合がある。
【0043】
(第1実施形態)
上記の圧縮装置のアノード流体は、様々な種類のガス、液体が想定される。例えば、圧縮装置が電気化学式水素ポンプである場合、アノード流体として、水素含有ガスを挙げることができる。また、例えば、圧縮装置が水電解装置である場合、アノード流体として、液体の水を挙げることができる。
【0044】
そこで、以下の実施形態では、アノード流体が水素含有ガスである場合において、圧縮装置の一例である電気化学式水素ポンプの構成および動作について説明する。
【0045】
[装置構成]
図2は、第1実施形態の電気化学式水素ポンプの水素ポンプユニットの一例を示す図である。なお、図2には、図1の電気化学式水素ポンプ100の平面視において、積層体100Aの中心と、アノードガス導入マニホールド30の中心と、アノードガス導出マニホールド31の中心と、を通過する直線を含む積層体100Aの垂直断面が示されている(図3も同じ)。
【0046】
なお、積層体100Aの中心と、カソードガス導出マニホールド(図示せず)の中心と、を通過する直線を含む積層体100Aの垂直断面の図示および説明は、図2を参酌することで容易に理解できるので省略する。
【0047】
図2に示す例では、電気化学式水素ポンプ100は、少なくとも一つの水素ポンプユニット10を備える。
【0048】
なお、電気化学式水素ポンプ100には、複数段の水素ポンプユニット10が積層されている。例えば、図2では、3段の水素ポンプユニット10が積層されているが、水素ポンプユニット10の個数はこれに限定されない。つまり、水素ポンプユニット10の個数は、電気化学式水素ポンプ100が圧縮する水素量などの運転条件をもとに適宜の数に設定することができる。
【0049】
水素ポンプユニット10は、電解質膜21と、アノードANと、カソードCAと、カソードセパレーター27と、アノードセパレーター26と、絶縁体28と、面シール材40と、を備える。そして、水素ポンプユニット10において、電解質膜21、アノード触媒層24、カソード触媒層23、アノード給電体25、カソード給電体22、アノードセパレーター26およびカソードセパレーター27が積層されている。
【0050】
アノードANは、電解質膜21の一方の主面上に設けられている。アノードANは、アノード触媒層24と、アノード給電体25とを含む電極である。なお、平面視において、アノードANの周囲を囲むように環状の面シール材40が設けられている。これにより、アノードANが、面シール材40で適切にシールされているが、面シール材40の詳細な構成は後で説明する。
【0051】
カソードCAは、電解質膜21の他方の主面上に設けられている。カソードCAは、カソード触媒層23と、カソード給電体22とを含む電極である。なお、カソードセパレーター27のカソードCA側の主面に設けられた凹部内には、平面視において、カソードCAの周囲を囲むようにOリング45が設けられている。これにより、カソードCAが、Oリング45で適切にシールされている。
【0052】
以上により、電解質膜21は、アノード触媒層24およびカソード触媒層23のそれぞれと接触するようにして、アノードANとカソードCAとによって挟持されている。
【0053】
電解質膜21は、プロトン伝導性を備える高分子膜である。電解質膜21は、プロトン伝導性を備えていれば、どのような構成であってもよい。例えば、電解質膜21として、フッ素系高分子電解質膜、炭化水素系高分子電解質膜を挙げることができるが、これらに限定されない。具体的には、例えば、電解質膜21として、Nafion(登録商標、デュポン社製)、Aciplex(登録商標、旭化成株式会社製)などを用いることができる。
【0054】
アノード触媒層24は、電解質膜21の一方の主面に接するように設けられている。アノード触媒層24は、触媒金属として、例えば、白金を含むが、これに限定されない。
【0055】
カソード触媒層23は、電解質膜21の他方の主面に接するように設けられている。カソード触媒層23は、触媒金属として、例えば、白金を含むが、これに限定されない。
【0056】
カソード触媒層23およびアノード触媒層24の触媒担体としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛などのカーボン粒子、導電性の酸化物粒子などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
なお、カソード触媒層23およびアノード触媒層24では、触媒金属の微粒子が、触媒担体に高分散に担持されている。また、これらのカソード触媒層23およびアノード触媒層24中には、電極反応場を大きくするために、プロトン伝導性のイオノマー成分を加えることが一般的である。
【0058】
カソード給電体22は、カソード触媒層23上に設けられている。また、カソード給電体22は、多孔性材料で構成され、導電性およびガス拡散性を備える。さらに、カソード給電体22は、電気化学式水素ポンプ100の動作時にカソードCAおよびアノードAN間の差圧で発生する構成部材の変位、変形に適切に追従するような弾性を備える方が望ましい。なお、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、カソード給電体22として、カーボン繊維で構成した部材が用いられている。例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルトなどの多孔性のカーボン繊維シートでもよい。なお、カソード給電体22の基材として、カーボン繊維シートを用いなくもよい。例えば、カソード給電体22の基材として、チタン、チタン合金、ステンレススチールなどを素材とする金属繊維の焼結体、これらを素材とする金属粒子の焼結体などを用いてもよい。
【0059】
アノード給電体25は、アノード触媒層24上に設けられている。また、アノード給電体25は、多孔性材料で構成され、導電性およびガス拡散性を備える。さらに、アノード給電体25は、電気化学式水素ポンプ100の動作時にカソードCAおよびアノードAN間の差圧で発生する構成部材の変位、変形を抑制可能な高剛性であることが望ましい。
【0060】
具体的には、アノード給電体25の基材として、例えば、チタン、チタン合金、ステンレススチール、カーボンなどを素材とした繊維焼結体、粉体焼結体、エキスパンドメタル、金属メッシュ、パンチングメタルなどを用いてもよい。
【0061】
アノードセパレーター26は、アノードAN上に設けられた部材である。カソードセパレーター27は、カソードCA上に設けられた部材である。具体的には、アノードセパレーター26のアノードAN側のアノードANに対向する領域(中央部)には、アノード給電体25が接触している。また、カソードセパレーター27の中央部には凹部が設けられ、この凹部内に、カソード給電体22が収容されている。
【0062】
以上のアノードセパレーター26およびカソードセパレーター27は、例えば、チタン、ステンレスなどの金属シートで構成されていてもよい。この金属シートをステンレスで構成する場合、SUS316またはSUS316Lは、様々な種類のステンレスの中で、耐酸性および耐水素脆性などの特性に優れている。
【0063】
このようにして、カソードセパレーター27およびアノードセパレーター26で上記のMEAを挟むことにより、水素ポンプユニット10が形成されている。
【0064】
なお、カソードセパレーター27および面シール材40の間には、電解質膜21の周囲を囲むように設けられた環状かつ平板状の絶縁体28が挟み込まれていてもよい。絶縁体28の基材として、例えば、フッ素ゴムなどを挙げることができるが、これに限定されない。これにより、水素ポンプユニット10内におけるカソードセパレーター27およびアノードセパレーター26間の短絡を適切に防止することができる。
【0065】
図1に示すように、電気化学式水素ポンプ100は、水素ポンプユニット10における、積層方向の両端上に設けられた一対の端板15、16と、一対の端板15、16を積層方向に締結する締結器17と、を備える。
【0066】
締結器17は、複数段の水素ポンプユニット10および一対の端板15、16を積層方向に締結することができれば、どのような構成であってもよい。
【0067】
例えば、締結器17として、ボルトおよび皿ばね付きナットなどを挙げることができる。
【0068】
これにより、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、複数段の水素ポンプユニット10が、上記の積層方向において、締結器17の締結圧により積層状態で適切に保持される。すると、水素ポンプユニット10の各部材間でシール部材(Oリング、面シール材40)のシール性が適切に発揮されるとともに、各部材間の接触抵抗が低減する。
【0069】
ここで、図1の端板15の適所には、アノードガス導入経路(図示せず)が設けられている。アノードガス導入経路は、例えば、アノードANに供給される水素含有ガスが流通する配管で構成されていてもよい。
【0070】
そして、アノードガス導入経路は、筒状のアノードガス導入マニホールド30(図2)に連通している。なお、アノードガス導入マニホールド30は、水素ポンプユニット10の各部材に設けられた貫通孔の連なりによって構成されている。
【0071】
本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、水素ポンプユニット10のそれぞれにおいて、アノードセパレーター26のアノードAN側の主面に、アノードAN上を流れる水素含有ガスのアノードガス流路33と、アノードガス流路33に水素含有ガスを供給するアノードガス導入マニホールド孔30Aと、アノードガス導入マニホールド孔30Aとアノードガス流路33とを連絡する第1連絡路32Aが設けられている。
【0072】
アノードガス導入マニホールド孔30Aは、アノードガス導入マニホールド30の一部を構成する、アノードセパレーター26のアノードAN側の主面に形成された開口に相当する。
【0073】
アノードガス流路33は、平面視において、例えば、複数のU字状の折り返す部分と複数の直線部分とを含むサーペンタイン状の流路溝であってもよい。なお、ここでは、アノードガス流路33の直線部分は、図2の紙面に垂直な方向に延伸している。
【0074】
ただし、以上のアノードガス流路33は、例示であって、本例に限定されない。例えば、アノードガス流路は、複数の直線状の流路溝により構成されていてもよい。
【0075】
第1連絡路32Aは、アノードセパレーター26のアノードAN側の主面に設けられた流路溝である。この流路溝は、アノードガス流路33の一方の端部とアノードガス導入マニホールド孔30Aとの間を延伸している。
【0076】
このようにして、アノードガス導入マニホールド30は、水素ポンプユニット10のそれぞれのアノードガス流路33の一方の端部と、第1連絡路32Aのそれぞれを介して連通している。これにより、アノードガス導入経路からアノードガス導入マニホールド30に供給された水素含有ガスは、図2の点線で示すように、水素ポンプユニット10のそれぞれの第1連絡路32Aを通じて、水素ポンプユニット10のそれぞれに分配される。そして、分配された水素含有ガスがアノードガス流路33を通過する間に、アノード給電体25からアノード触媒層24に水素含有ガスが供給される。
【0077】
また、図1の端板16の適所には、アノードガス導出経路(図示せず)が設けられている。アノードガス導出経路は、例えば、アノードANから排出される水素含有ガスが流通する配管で構成されていてもよい。
【0078】
そして、アノードガス導出経路は、筒状のアノードガス導出マニホールド31(図2)に連通している。なお、アノードガス導出マニホールド31は、水素ポンプユニット10の各部材に設けられた貫通孔の連なりによって構成されている。
【0079】
本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、水素ポンプユニット10のそれぞれにおいて、アノードセパレーター26のアノードAN側の主面に、アノードガス導出マニホールド孔31Aと、アノードガス導出マニホールド孔31Aとアノードガス流路33とを連絡する第2連絡路32Bが設けられている。
【0080】
アノードガス導出マニホールド孔31Aは、アノードガス導出マニホールド31の一部を構成する、アノードセパレーター26のアノードAN側の主面に設けられた開口に相当する。
【0081】
第2連絡路32Bは、アノードセパレーター26のアノードAN側の主面に設けられた流路溝である。この流路溝は、アノードガス流路33の他方の端部とアノードガス導出マニホールド孔31Aとの間を延伸している。
【0082】
このようにして、アノードガス導出マニホールド31は、水素ポンプユニット10のそれぞれのアノードガス流路33の他方の端部と、第2連絡路32Bのそれぞれを介して連通している。これにより、水素ポンプユニット10のそれぞれのアノードガス流路33を通過した水素含有ガスが、図2の点線で示すように、第2連絡路32Bのそれぞれを通じてアノードガス導出マニホールド31に供給され、ここで合流される。そして、合流された水素含有ガスが、アノードガス導出経路に導かれる。
【0083】
なお、図示を省略するが、カソードセパレーター27の適所には、カソードセパレーター27の凹部内とカソードマニホールド内とを連通する連通経路が設けられている。これにより、電気化学式水素ポンプ100の動作時に、カソードCAの高圧の水素ガスが、図示しない連通経路およびカソードマニホールドを介して電気化学式水素ポンプ100外に排出される。
【0084】
また、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、カソードセパレーター27と絶縁体28とが接触する領域およびカソードセパレーター27とアノードセパレーター26とが接触する領域のそれぞれの平面視において、アノードガス導入マニホールド30を囲むようにOリング41およびOリング42がそれぞれ設けられている。Oリング41は、カソードセパレーター27の絶縁体28側の主面に設けられたOリング溝内に配置されている。Oリング42は、アノードセパレーター26のカソードセパレーター27側の主面に設けられたOリング溝内に配置されている。
【0085】
これにより、アノードガス導入マニホールド30における上記の部材間が、Oリング41およびOリング42で適切にシールされている。
【0086】
また、カソードセパレーター27と絶縁体28とが接触する領域およびカソードセパレーター27とアノードセパレーター26とが接触する領域のそれぞれの平面視において、アノードガス導出マニホールド31を囲むようにOリング43およびOリング44がそれぞれ設けられている。Oリング43は、カソードセパレーター27の絶縁体28側の主面に設けられたOリング溝内に配置されている。Oリング44は、アノードセパレーター26のカソードセパレーター27側の主面に設けられたOリング溝内に配置されている。
【0087】
これにより、アノードガス導出マニホールド31における上記の部材間が、Oリング43およびOリング44で適切にシールされている。
【0088】
また、カソードセパレーター27とアノードセパレーター26とが接触する領域の平面視において、熱媒体流路60が設けられている。ここでは、熱媒体流路60は、カソードセパレーター27のアノードセパレーター26側の主面に設けられた流路溝で構成されているが、これに限定されない。熱媒体流路60は、アノードセパレーター26の主面に設けられていてもよい。
【0089】
これにより、電気化学式水素ポンプ100の動作時において、熱媒体流路60を流れる熱媒体の温度、流量などを制御することで、水素ポンプユニット10の温調を適切に行うことができる。なお、熱媒体として、例えば、液体の水、不凍液などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0090】
ここで、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、図2に示す如く、面シール材40が、アノードセパレーター26のアノードAN側の主面のアノードANに対向する領域の外周上に、第1連絡路32Aおよび第2連絡路32Bを覆うように設けられている。なお、面シール材40の適所に、複数の貫通孔が設けられている。そして、これらの貫通孔は、上記のアノードガス導入マニホールド30およびアノードガス導出マニホールド31の一部を構成している。
【0091】
面シール材40は、金属シート40Aの両方の主面のそれぞれに、弾性シート40Bが設けられた3層構造である。これにより、面シール材40は剛性およびシール性を備える。
【0092】
つまり、面シール材40の金属シート40Aによって、面シール材40に剛性を適切に付与することができる。なお、金属シート40Aの材料として、例えば、ステンレス、チタン、チタン合金、アルミ合金、マグネシウム合金などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0093】
また、面シール材40の弾性シート40Bによって、面シール材40に水素含有ガスに対するシール性を適切に付与することができる。さらに、弾性シート40Bを絶縁材料で構成することによって、水素ポンプユニット10内におけるカソードセパレーター27およびアノードセパレーター26間の絶縁性を向上させることができる。なお、弾性シート40Bの材料として、例えば、フッ素ゴム、シリコンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ブタジエンゴムなどのゴムを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0094】
図1に示すように、電気化学式水素ポンプ100は、電圧印加器50を備える。
【0095】
電圧印加器50は、アノードANとカソードCAとの間に電圧を印加する装置である。具体的には、電圧印加器50の高電位が、アノードANに印加され、電圧印加器50の低電位が、カソードCAに印加されている。電圧印加器50は、アノードANおよびカソードCA間に電圧を印加できれば、どのような構成であってもよい。例えば、電圧印加器50は、アノードANおよびカソードCA間に印加する電圧を調整する装置であってもよい。このとき、電圧印加器50は、バッテリ、太陽電池、燃料電池などの直流電源と接続されているときは、DC/DCコンバータを備え、商用電源などの交流電源と接続されているときは、AC/DCコンバータを備える。
【0096】
また、電圧印加器50は、例えば、水素ポンプユニット10に供給する電力が所定の設定値となるように、アノードANおよびカソードCA間に印加される電圧、アノードANおよびカソードCA間に流れる電流が調整される電力型電源であってもよい。
【0097】
なお、図1に示す例では、電圧印加器50の低電位側の端子が、給電板11に接続され、電圧印加器50の高電位側の端子が、給電板12に接続されている。給電板11は、上記の積層方向において一方の端に位置するカソードセパレーター27と電気的に接触しており、給電板12は、上記の積層方向において他方の端に位置するアノードセパレーター26と電気的に接触している。
【0098】
このようにして、電気化学式水素ポンプ100は、電圧印加器50が上記の電圧を印加することで、アノードANに供給された水素含有ガスから取り出されたプロトンを、電解質膜21を介してカソードCAに移動させ、圧縮された水素を生成する。
【0099】
図示を省略するが、上記の電気化学式水素ポンプ100を備える水素供給システムを構築することもできる。この場合、水素供給システムの水素供給動作において必要となる機器は適宜、設けられる。
【0100】
例えば、水素供給システムには、アノードANから排出される高加湿状態の水素含有ガスと、外部の水素供給源から供給される低加湿状態の水素含有ガスとが混合された混合ガスの露点を調整する露点調整器(例えば、加湿器)が設けられていてもよい。このとき、外部の水素供給源の水素含有ガスは、例えば、水電解装置で生成されてもよい。
【0101】
また、水素供給システムには、例えば、電気化学式水素ポンプ100の温度を検出する温度検出器、電気化学式水素ポンプ100のカソードCAから排出された水素を一時的に貯蔵する水素貯蔵器、水素貯蔵器内の水素ガス圧を検出する圧力検出器などが設けられていてもよい。
【0102】
なお、上記の電気化学式水素ポンプ100の構成、および、水素供給システムにおける図示しない様々な機器は例示であって、本例に限定されない。
【0103】
例えば、アノードガス導出マニホールド31を設けずに、アノードガス導入マニホールド30を通してアノードANに供給する水素含有ガス中の水素を全てカソードCAで圧縮するデッドエンド構造が採用されてもよい。
【0104】
[動作]
以下、電気化学式水素ポンプ100の水素圧縮動作の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0105】
以下の動作は、例えば、図示しない制御器の演算回路が、制御器の記憶回路から制御プログラムを読み出すことにより行われてもよい。ただし、以下の動作を制御器で行うことは、必ずしも必須ではない。操作者が、その一部の動作を行ってもよい。
【0106】
まず、電気化学式水素ポンプ100のアノードANに低圧の水素含有ガスが供給されるとともに、電圧印加器50の電圧が電気化学式水素ポンプ100に給電される。
【0107】
すると、アノードANのアノード触媒層24において、酸化反応で水素分子がプロトンと電子とに分離する(式(1))。プロトンは電解質膜21内を伝導してカソード触媒層23に移動する。電子は電圧印加器50を通じてカソード触媒層23に移動する。
【0108】
そして、カソード触媒層23において、還元反応で水素分子が再び生成される(式(2))。なお、プロトンが電解質膜21中を伝導する際に、所定水量の水が、電気浸透水としてアノードANからカソードCAにプロトンと同伴して移動することが知られている。
【0109】
このとき、図示しない流量調整器を用いて、水素導出経路の圧損を増加させることにより、カソードCAで生成された水素(H)を圧縮することができる。なお、流量調整器として、例えば、水素導出経路に設けられた背圧弁、調整弁などを挙げることができる。
【0110】
アノード:H(低圧)→2H+2e ・・・(1)
カソード:2H+2e→H(高圧) ・・・(2)
このようにして、電気化学式水素ポンプ100では、電圧印加器50で電圧を印加することで、アノードANに供給される水素含有ガス中の水素がカソードCAにおいて圧縮される。これにより、電気化学式水素ポンプ100の水素圧縮動作が行われ、カソードCAで圧縮された水素は、例えば、図示しない水素貯蔵器に一時的に貯蔵される。また、水素貯蔵器で貯蔵された水素は、適時に、水素需要体に供給される。なお、水素需要体として、例えば、水素を用いて発電する燃料電池などを挙げることができる。
【0111】
以上のとおり、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、従来に比べて、水素含有ガスに対する面シール材40のシール性を改善するとともに装置のコストを低減し得る。
【0112】
具体的には、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、低圧の水素含有ガスが存在する領域の部材間は、Oリングを設けずに面シール材40を挟むことで、このような部材間にOリングを設ける場合に比べて、組立および加工のコストダウンを図ることができる。
【0113】
また、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、面シール材40を、金属シート40Aおよび一対の弾性シート40Bの3層構造とすることで、例えば、面シール材40を単一の弾性シート(例えば、ゴムシート)で構成する場合に比べて剛性を向上することができる、これにより、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、電気化学式水素ポンプ100の動作時に発生するカソードCAおよびアノードAN間の差圧(高圧)によって、面シール材40が第1連絡路32Aおよび第2連絡路32B内に落ち込むことを抑制することができ、その結果、水素含有ガスが外部に漏れにくくなる。
【0114】
(実施例)
本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、以下に説明する面シール材40の構成以外、第1実施形態の電気化学式水素ポンプ100と同様である。
【0115】
面シール材40の金属シート40Aは、ステンレス鋼であることが望ましい。これにより、本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、剛性とコスト性の両立を図りやすくなる。
【0116】
また、上記のステンレス鋼は、SUS316またはSUS316Lであることが望ましい。SUS316またはSUS316Lが、様々な種類のステンレスの中で耐酸性および耐水素脆性などの視点で高い特性を備えるので、本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、金属シート40Aの基材としてSUS316またはSUS316Lを選択すると都合がよい。
【0117】
また、面シール材40の金属シート40Aは、厚みが、0.3mm以上であることが望ましい。これにより、本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、金属シート40Aの厚みが0.3mm未満である場合に比べて、面シール材40の剛性を改善することができる。
【0118】
また、面シール材40の弾性シート40Bは、フッ素ゴムであることが望ましい。フッ素ゴムが、様々な種類のゴムの中で耐酸性などの化学的安定性の視点で高い特性を備えるので、本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、弾性シート40Bの基材としてフッ素ゴムを選択すると都合がよい。
【0119】
本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、上記特徴以外は、第1実施形態の電気化学式水素ポンプ100と同様であってもよい。
【0120】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態の電気化学式水素ポンプの水素ポンプユニットの一例を示す図である。
【0121】
図3に示すように、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100の水素ポンプユニット10のそれぞれにおいて、アノードセパレーター26およびカソードセパレーター27は一体化されている。これにより、電気化学式水素ポンプ100の部品点数を削減することができる。例えば、セパレーターの個数を削減できるとともに、セパレーター間に設けられたシール部材(例えば、図2のOリング42およびOリング44)を無くすことができる。
【0122】
具体的には、バイポーラプレート(双極板)29が、水素ポンプユニット10Aのアノードセパレーター26として機能するとともに、水素ポンプユニット10Bのカソードセパレーター27として機能する。
【0123】
アノードセパレーター26およびカソードセパレーター27の接合は、どのような構成であってもよい。例えば、アノードセパレーター26およびカソードセパレーター27は、拡散接合、ボルト締結などの機械的な接合、接着、溶接などの様々な手法で接合することができる。また、バイポーラプレート29は、例えば、3Dプリンタ工法などによって製作してもよい。
【0124】
ただし、アノードセパレーター26およびカソードセパレーター27を接合する前には、カソードセパレーター27の主面に熱媒体流路60を構成する流路溝が設けられている。なお、図示を省略するが、アノードセパレーター26の主面に、かかる流路溝を設けてもよい。
【0125】
以上により、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、部品点数を削減することで、組立作業の効率化を図ることができる。また、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、例えば、アノードセパレーター26とカソードセパレーター27とが拡散接合で一体化されることで、互いの接合部の空隙が消失するので、両者間の接触抵抗を低減することができる。
【0126】
本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、上記特徴以外は、第1実施形態または第1実施形態の実施例の電気化学式水素ポンプ100と同様であってもよい。
【0127】
なお、第1実施形態、第1実施形態の実施例および第2実施形態は、互いに相手を排除しない限り、互いに組み合わせても構わない。
【0128】
また、上記説明から、当業者にとっては、本開示の多くの改良および他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本開示を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本開示の精神を逸脱することなく、その構造および/または機能の詳細を実質的に変更することができる。
【0129】
例えば、電気化学式水素ポンプ100の面シール材40は、水電解装置などの他の圧縮装置にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本開示の一態様は、従来に比べて、アノード流体に対する面シール材のシール性を改善するとともに装置のコストを低減し得る圧縮装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0131】
10 :水素ポンプユニット
10A :水素ポンプユニット
10B :水素ポンプユニット
11 :給電板
12 :給電板
13 :絶縁板
14 :絶縁板
15 :端板
16 :端板
17 :締結器
21 :電解質膜
22 :カソード給電体
23 :カソード触媒層
24 :アノード触媒層
25 :アノード給電体
26 :アノードセパレーター
27 :カソードセパレーター
28 :絶縁体
29 :バイポーラプレート
30 :アノードガス導入マニホールド
30A :アノードガス導入マニホールド孔
31 :アノードガス導出マニホールド
31A :アノードガス導出マニホールド孔
32A :第1連絡路
32B :第2連絡路
33 :アノードガス流路
40 :面シール材
40A :金属シート
40B :弾性シート
41 :Oリング
42 :Oリング
43 :Oリング
44 :Oリング
45 :Oリング
50 :電圧印加器
60 :熱媒体流路
100 :電気化学式水素ポンプ
100A :積層体
AN :アノード
CA :カソード
【要約】
本開示の圧縮装置は、電解質膜と、前記電解質膜の一方の主面に設けられたアノードと、前記電解質膜の他方の主面に設けられたカソードと、前記アノード上に設けられたアノードセパレーターと、前記カソード上に設けられたカソードセパレーターと、前記アノードと前記カソードとの間に電圧を印加する電圧印加器とを備え、前記電圧印加器が前記電圧を印加することで、前記アノードに供給されたアノード流体から取り出されたプロトンを、前記電解質膜を介して前記カソードに移動させ、圧縮された水素を生成する圧縮装置であって、前記アノードセパレーターの前記アノード側の主面に、前記アノード上を流れる前記アノード流体の流体流路と、前記流体流路に前記アノード流体を供給するマニホールド孔と、前記マニホールド孔と前記流体流路とを連絡する連絡路が設けられ、前記アノードセパレーターのアノード側の主面の前記アノードに対向する領域の外周上に設けられ、かつ前記連絡路を覆う面シール材を備え、前記面シール材は金属シートの両方の主面のそれぞれに、弾性シートが設けられた3層構造である。
図1
図2
図3