【文献】
[ネット自動昇降システム],Youtube[online][video],2012年05月08日,https://www.youtube.com/watch?v=TmOeGKzILzo,特に動画時間[00:42]〜[04:22]等参照。,[2021年7月16日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
支持部材により吊られるネットを、最も高い位置である第1所定位置、前記第1所定位置よりも低く最も低い位置より高い第2所定位置、及び、最も低い位置の間で昇降するよう制御するネット昇降制御装置であって、
前記ネットを昇降させる昇降手段(3)と、
前記ネットに圧力を与える風についての風速値を測定して出力する風速測定手段(4)と、
第1管理閾値と、前記第1管理閾値よりも低い第2管理閾値と、前記第2管理閾値よりも低い第3管理閾値と、前記第1管理閾値未満であり前記第2管理閾値以上の風速値の風の検知に関する第1所定時間と第1所定回数と、前記第3管理閾値以下の風速値の風の検知に関する第2所定時間とを記憶する記憶手段(23)と、
前記昇降手段、前記風速測定手段、および前記記憶手段と接続され、前記ネットの下降および上昇の制御を行う制御手段(21)と、
を含み、
前記制御手段(21)は、
前記ネットが前記第2所定位置より高い位置にあった場合に、
前記風速測定手段により、前記第1管理閾値以上の風速値が検知された場合に、前記昇降手段を作動させて、前記ネットを前記第2所定位置へ向けて下降させる第1下降制御(S3,S6)と、
前記風速測定手段により、前記第1管理閾値未満であり前記第2管理閾値以上の風速値の風が第1所定時間内に第1所定回数検知された場合に、前記昇降手段を作動させて、前記ネットを前記第2所定位置へ向けて下降させる第2下降制御(S4,S6)と、
を行うとともに、
前記ネットが前記第1所定位置より低い位置にあった場合に、
前記風速測定手段により、前記第3管理閾値以下の風速値が前記第2所定時間の間連続して検知された場合に、前記昇降手段を作動させて、前記ネットを前記第1所定位置へ向けて上昇させる第1上昇制御(S5,S13)と、
を行う、
ネット昇降制御装置において、
前記第2所定位置、前記第1管理閾値、前記第2管理閾値、前記第1所定時間、前記第2所定時間、前記第1所定回数を複数の組で有し、
前記ネットが前記第2所定位置の中で最も低い位置より高い位置にあった場合に、前記複数ある第2所定位置の中で、前記ネットの高さより低く、前記ネットの高さに最も近い位置にある前記第2所定位置と、その第2所定位置と同じ組に含まれる前記第1管理閾値、前記第2管理閾値、前記第1所定時間、前記第2所定時間、前記第1所定回数に基づいて、前記第1下降制御及び前記第2下降制御を行うことを特徴とする、
ネット昇降制御装置。
支持部材により吊られるネットを、最も高い位置である第1所定位置、前記第1所定位置よりも低く最も低い位置より高い第2所定位置、及び、最も低い位置の間で昇降するよう制御するコンピュータによって実行されるネット昇降制御方法であって、
第1管理閾値と、前記第1管理閾値よりも低い第2管理閾値と、前記第2管理閾値よりも低い第3管理閾値と、前記第1管理閾値未満であり前記第2管理閾値以上の風速値の風の検知に関する第1所定時間と第1所定回数と、前記第3管理閾値以下の風速値の風の検知に関する第2所定時間とを有し、
前記ネットが前記第2所定位置より高い位置にあった場合に、
前記第1管理閾値以上の風速値が検知された場合に、前記ネットを前記第2所定位置へ向けて下降させる第1下降制御(S3,S6)と、
前記第1管理閾値未満であり前記第2管理閾値以上の風速値の風が第1所定時間内に第1所定回数検知された場合に、前記ネットを前記第2所定位置へ向けて下降させる第2下降制御(S4,S6)と、
を行うとともに、
前記ネットが前記第1所定位置より低い位置にあった場合に、
前記第3管理閾値以下の風速値が前記第2所定時間の間連続して検知された場合に、前記ネットを前記第1所定位置へ向けて上昇させる第1上昇制御(S5,S13)と、
を行う、
ネット昇降制御方法において、
前記第2所定位置、前記第1管理閾値、前記第2管理閾値、前記第1所定時間、前記第2所定時間、前記第1所定回数を複数の組で有し、
前記ネットが前記第2所定位置の中で最も低い位置より高い位置にあった場合に、前記複数ある第2所定位置の中で、前記ネットの高さより低く、前記ネットの高さに最も近い位置にある前記第2所定位置と、その第2所定位置と同じ組に含まれる前記第1管理閾値、前記第2管理閾値、前記第1所定時間、前記第2所定時間、前記第1所定回数に基づいて、前記第1下降制御及び前記第2下降制御を行うことを特徴とする、
ネット昇降制御方法。
【背景技術】
【0002】
支柱のような支持部材に吊されたネットには多種多様の構造のものがあるが、それらの用途も多種多様であり、例えば、ゴルフ練習場、テニスコート、サッカーコートや野球場のようなスポーツ施設等における防球、鉄道や道路等における防風、造船所等で塗装を行う際の塗料の飛散防止、塵や埃などが浮遊する場所における防塵などのために用いられる。これらのネットの中には、特公平7−93966号公報(特許文献1)にも記載されるような、ネットを昇降させる構成を付加されているものもある。
【0003】
図7は、従来の、ネットの昇降を可能とするシステムの構成の一例を示す。この構成は、ネット61と、支柱62と、支柱62の頂部近くに配される滑車63と、ネット61上部の所定部分64と結合される繊維ロープやワイヤロープ等のロープ65と、地上に配される滑車66および67と、ロープ65の巻き取りおよび送り出しを行うウインチ68と、1つの支柱62の最上部付近に取り付けられた風杯型の風速計69とを含む。
【0004】
ウインチ68は2つの巻き取りおよび送り出し用の部分(2つの出入口)を有する。ウインチ68は、滑車63を介して、一側の出入口からロープ65の一側の巻き取りおよび送り出しを行い、滑車66および67を介して、他側の出入口からロープ65の他側の巻き取りおよび送り出しを行う。ネット61は、ロープ65および滑車64を介して、支柱62に吊り下げられたような状態で支持される。ネット61の昇降は、ウインチ68を作動させてロープ65を動かすことにより行われる。
【0005】
上記の例のようにネットが張られているときに、ネットへ向けて風が吹くと、その風によりネットが押され、それによりロープが引っ張られ、ロープを支持する支柱に力が加わる。ネットが強い力で押された場合支柱にも強い力が加わり、支柱が破損することや倒壊することがある。ネットに加わる力は、ネットに対してどの方向から風が吹くかによっても変わるが、主に吹く風の風速値に関係している。
【0006】
そこで、支柱のような支持部材の破損や倒壊を防ぐために、風によりネットへ加わる力に相関関係がある風速値に応じてネットを昇降させるようにウインチを制御する技術が考え出された。
【0007】
従来の、風速値に応じてネットの昇降を制御する装置の例としては、特開平7−51423号公報(特許文献2)で開示されている「低層施設の屋上空間を利用したゴルフ練習場」における「コンピューターの指令回路」がある。
【0008】
特許文献2の第0017段落には、「そして、該ウインチ6bは風速又は風圧等を感知する風感知センサ−(図示省略)と連動して作動するようコンピュ−タ−の指令回路に連結する。その指令回路は、例えば、風速25m/sec以上の風が吹いた場合に、ネットを5メ−トル下降させ、更に6分以内に再度風速25m/sec以上の風が吹いた場合に更にネットを5メ−トル下げるという設定で、最終的に20分以内に全ての防球ネット5が下端まで降下するよう指令する回路とする。そして、もし、6分以内に同様の風が吹かなければ、単なる突風と判断して、使用を継続するようネットを元の高さに上昇させる回路とする。」という記載がある。即ち、特許文献2には、風速に関する単一の閾値以上の風速値を検知すると即座にネットを下降させる技術が開示されている。
【0009】
ネットの昇降の制御における判断基準となる閾値は、支柱、ロープ、ネット、滑車、ウインチ等のような支持部材の耐久性を考慮して決定される。一例として、ネットの昇降の制御における判断基準となる閾値は、最もネットに対して大きな力を与える方向から風が吹いたときに、支柱のような支持部材を瞬時または短時間で損傷または倒壊させ得る力をネットに加える風速値よりも低い値となるように、安全率を考慮して設定される。
特開2017−99687号公報(特許文献3)にも同様の発明が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、従来のネットの昇降の制御では、単一の閾値を、ネットを下降させるか否かを判断する際の基準として設定している。また、従来のネットの昇降の制御では、その単一の閾値を超える風速値を有する風が検知されると即座にネットを下降させる。
【0012】
従来のネットの昇降の制御では、当然ではあるが、単一の閾値よりも僅かに低い風速値を有する風を検知しても、何も行わない。しかし、この単一の閾値よりも低い風速値を有する風であっても、その風が或る期間内に継続して、または、多数回吹いた場合には、支柱、ロープ、ネット、滑車、ウインチ等のような支持部材の何れかを損傷させることがある。即ち、従来のネットの昇降の制御では、単一の閾値よりも低い風速値を有する風に対応して、支柱、ロープ、ネット、滑車、ウインチ等のような支持部材を保護することができない欠点がある。
【0013】
更に、従来のネットの昇降の制御では、単一の閾値以上の風速値を検知した時点で、即ち、単発的な測定結果に即座に応答して、ネットを下降させる。従って、このような欠点に対処するために、安全率を高めに見積もった場合、すなわち、単一の閾値を低い値に設定した場合には、不要に頻繁にネットを下降させることになる欠点がある。
【0014】
このように、単一の閾値を用いた場合には、その単一の閾値を適切に設定するのは簡単な問題ではなく、正しく設定されない場合には、上記のような支持部材の損傷を招く可能性があるほか、逆に、強風がおさまってもネットが降下したり、ネットを元のように上昇させるタイミングが正しくないことから、スポーツ施設の営業時間、鉄道や道路等の通行可能時間や造船所の作業可能時間が必要以上に短くなったりすることがある。また、このような営業時間、通行可能時間、作業可能時間の長さを維持するために、施設の管理者がオーバーライドしてネットの上昇下降の操作をするとすれば、ネットの上昇下降に関する判断ミスを起こす可能性があるとともに、施設の管理者に対する負担も無視できないものとなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様である、支持部材により吊られるネットを、最も高い位置である第1所定位置(例えば、高さ50mの位置)、前記第1所定位置よりも低く最も低い位置より高い第2所定位置(例えば、高さ45mの位置)、及び、最も低い位置の間で昇降するよう制御するネット昇降制御装置は、
前記ネットを昇降させる昇降手段(ウィンチ3等)と、
前記ネットに圧力を与える風についての風速値を測定して出力する風速測定手段(風速計4)と、
第1管理閾値と、前記第1管理閾値よりも低い第2管理閾値と、前記第2管理閾値よりも低い第3管理閾値と、前記第1管理閾値未満であり前記第2管理閾値以上の風速値の風の検知に関する第1所定時間(例えば、60秒)と第1所定回数(例えば、3回)と、前記第3管理閾値以下の風速値の風の検知に関する第2所定時間(例えば、60秒)とを記憶する記憶手段(記憶部23)と、
前記昇降手段、前記風速測定手段、および前記記憶手段と接続され、前記ネットの下降および上昇の制御を行う制御手段(制御部21)と
を含み、
前記制御手段は、
前記ネットが前記第2所定位置より高い位置にあった場合に、
前記風速測定手段により、前記第1管理閾値以上の風速値が検知された場合に、前記昇降手段を作動させて、前記ネットを前記第2所定位置へ向けて下降させる第1下降制御(ステップS3,S6)と、
前記風速測定手段により、前記第1管理閾値未満であり前記第2管理閾値以上の風速値の風が第1所定時間内に第1所定回数検知された場合に、前記昇降手段を作動させて、前記ネットを前記第2所定位置へ向けて下降させる第2下降制御(ステップS4,S6)と、
を行うとともに、
前記ネットが前記第1所定位置より低い位置にあった場合に、
前記風速測定手段により、前記第3管理閾値以下の風速値が前記第2所定時間の間連続して検知された場合に、前記昇降手段を作動させて、前記ネットを前記第1所定位置へ向けて上昇させる第1上昇制御(ステップS5,S13)と、
を行うものである。
【0016】
本発明の第2の態様であるネット昇降制御装置は、第1の態様のネット昇降制御装置において、
前記第2所定位置、前記第1管理閾値、前記第2管理閾値、前記第1所定時間、前記第2所定時間、前記第1所定回数を複数の組で有し、
前記ネットが前記第2所定位置の中で最も低い位置より高い位置にあった場合に、前記複数ある第2所定位置の中で、前記ネットの高さより低く、前記ネットの高さに最も近い位置にある前記第2所定位置と、その第2所定位置と同じ組に含まれる前記第1管理閾値、前記第2管理閾値、前記第1所定時間、前記第2所定時間、前記第1所定回数に基づいて、前記第1下降制御及び前記第2下降制御を行うことを特徴とする、
ものである。
【0017】
本発明の第3の態様であるネット昇降制御装置は、第2の態様のネット昇降制御装置において、
前記ネットが前記第2所定位置の中で特定の前記第2所定位置にあった場合には前記第1上昇制御を行わない(ステップS17)、
ものである。
【0018】
本発明の第4の態様であるネット昇降制御装置は、第3の態様のネット昇降制御装置において、
前記ネットが前記第2所定位置の中で特定の前記第2所定位置にあった場合には、前記第1上昇制御が行われない旨を報知する(ステップS17)、
ものである。
【0019】
本発明の第5の態様であるネット昇降制御装置は、第1〜4の態様のいずれかのネット昇降制御装置において、
前記記憶手段は、前記第3管理閾値以下の風速値の風の検知に関するものである第3所定時間(例えば、10秒)を更に記憶し、
前記第1下降制御及び前記第2下降制御は、それぞれ、
前記昇降手段が前記ネットを前記第2所定位置へ向けて下降させているときに、前記風速測定手段により、前記第3管理閾値以下の風速値が前記第3所定時間の間連続して検知された場合に、前記昇降手段による前記ネットの下降を停止させる第1停止制御(ステップS7,S9)と、
前記第1停止制御により前記ネットの下降が停止しているときに、前記風速測定手段により、前記第1管理閾値以上の風速値が検知された場合に、前記昇降手段を作動させて、前記ネットを前記第2所定位置へ向けて再度下降させる第3下降制御(ステップS10,S11)と、
を含む、
というものである。
【0020】
本発明の第6の態様であるネット昇降制御装置は、第1〜5の態様のいずれかのネット昇降制御装置において
前記第2下降制御(S4,S6)において、
前記第1所定時間より短い第4所定時間(例えば、3秒)の間継続して前記第1管理閾値未満であり前記第2管理閾値以上の風速値の風を検知したときに、前記第1管理閾値未満であり前記第2管理閾値以上の風速値の風を1回検知したと判断する、
ネット昇降制御装置。
【0021】
本発明の第7の態様であるネット昇降制御装置は、第1〜5の態様のいずれかのネット昇降制御装置において
前記第2下降制御(S4,S6)において、
前記第1所定時間より短い第4所定時間の間の平均の風速値が前記第1管理閾値未満であり前記第2管理閾値以上であるときに、前記第1管理閾値未満であり前記第2管理閾値以上の風速値の風を1回検知したと判断する、
ネット昇降制御装置。
【0022】
本発明の第8の態様である、支持部材により吊られるネットを、最も高い位置である第1所定位置(例えば、高さ50mの位置)、前記第1所定位置よりも低く最も低い位置より高い第2所定位置(例えば、高さ45mの位置)、及び、最も低い位置の間で昇降するよう制御するネット昇降制御方法は、
第1管理閾値と、前記第1管理閾値よりも低い第2管理閾値と、前記第2管理閾値よりも低い第3管理閾値と、前記第1管理閾値未満であり前記第2管理閾値以上の風速値の風の検知に関する第1所定時間(例えば、60秒)と第1所定回数(例えば、3回)と、前記第3管理閾値以下の風速値の風の検知に関する第2所定時間(例えば、60秒)とを有し、
前記ネットが前記第2所定位置より高い位置にあった場合に、
前記第1管理閾値以上の風速値が検知された場合に、前記ネットを前記第2所定位置へ向けて下降させる第1下降制御(ステップS3,S6)と、
前記第1管理閾値未満であり前記第2管理閾値以上の風速値の風が第1所定時間内に第1所定回数検知された場合に、前記ネットを前記第2所定位置へ向けて下降させる第2下降制御(ステップS4,S6)と、
を行うとともに、
前記ネットが前記第1所定位置より低い位置にあった場合に、
前記第3管理閾値以下の風速値が前記第2所定時間の間連続して検知された場合に、前記ネットを前記第1所定位置へ向けて上昇させる第1上昇制御(ステップS5,S13)と、
を行うものである。
【0023】
本発明の第9の態様であるネット昇降制御方法は、第8の態様のネット昇降制御方法において、
前記第2所定位置、前記第1管理閾値、前記第2管理閾値、前記第1所定時間、前記第2所定時間、前記第1所定回数を複数の組で有し、
前記ネットが前記第2所定位置の中で最も低い位置より高い位置にあった場合に、前記複数ある第2所定位置の中で、前記ネットの高さより低く、前記ネットの高さに最も近い位置にある前記第2所定位置と、その第2所定位置と同じ組に含まれる前記第1管理閾値、前記第2管理閾値、前記第1所定時間、前記第2所定時間、前記第1所定回数に基づいて、前記第1下降制御及び前記第2下降制御を行うことを特徴とする、
ものである。
【0024】
本発明の第10の態様であるネット昇降制御方法は、第9の態様のネット昇降制御方法において、
前記ネットが前記第2所定位置の中で特定の前記第2所定位置にあった場合には前記第1上昇制御を行わない(ステップS17)、
ものである。
【0025】
本発明の第11の態様であるネット昇降制御方法は、第10の態様のネット昇降制御方法において、
前記ネットが前記第2所定位置の中で特定の前記第2所定位置にあった場合には、前記第1上昇制御が行われない旨を報知する(ステップS17)、
ものである。
【0026】
本発明の第12の態様であるネット昇降制御方法は、第8〜11の態様のいずれかのネット昇降制御方法において、
前記第3管理閾値以下の風速値の風の検知に関するものである第3所定時間を更に記憶し、
前記第1下降制御及び前記第2下降制御は、それぞれ、
前記ネットを前記第2所定位置へ向けて下降させているときに、前記第3管理閾値以下の風速値が前記第3所定時間の間連続して検知された場合に、前記昇降手段による前記ネットの下降を停止させる第1停止制御(ステップS7,S9)と、
前記第1停止制御により前記ネットの下降が停止しているときに、前記第1管理閾値以上の風速値が検知された場合に、前記ネットを前記第2所定位置へ向けて再度下降させる第3下降制御(ステップS10,S11)と、
を含む、
というものである。
【0027】
本発明の第13の態様であるネット昇降制御方法は、第8〜12の態様のいずれかのネット昇降制御方法において
前記第2下降制御(S4,S6)において、
前記第1所定時間より短い第4所定時間(例えば、3秒)の間継続して前記第1管理閾値未満であり前記第2管理閾値以上の風速値の風を検知したときに、前記第1管理閾値未満であり前記第2管理閾値以上の風速値の風を1回検知したと判断する、
ネット昇降制御方法。
【0028】
本発明の第14の態様であるネット昇降制御方法は、第8〜12の態様のいずれかのネット昇降制御方法において
前記第2下降制御(S4,S6)において、
前記第1所定時間より短い第4所定時間の間の平均の風速値が前記第1管理閾値未満であり前記第2管理閾値以上であるときに、前記第1管理閾値未満であり前記第2管理閾値以上の風速値の風を1回検知したと判断する、
ネット昇降制御方法。
【0029】
本発明の第15の態様は、第8〜14の態様のいずれかのネット昇降制御方法を実行するためのプログラムであり、本発明の第16の態様は、第8〜14の態様のいずれかのネット昇降制御方法を実行するためのプログラムを記録した記録媒体である。
【発明の効果】
【0030】
本発明では、ネットの昇降の制御において複数の管理閾値および多種の条件を設定して用いるので、風速値の高い風に対応し、且つその風よりも風速値の低い風、即ち、危険度の比較的低い風にも対応して、ネット昇降制御を行うことができる。従って、様々な速度の風に対応して、支柱、ロープ、ネット、滑車、ウインチ等のような支持部材を保護することができる利点がある。更に、本発明では、危険度の比較的低い風、即ち、場合によっては支柱、ロープ、ネット、滑車、ウインチ等のような支持部材に損傷を与え得る比較的風速値の低い風に対しては、不要に頻繁にネットを下降させないようにできる利点がある。
【0031】
さらに、風速値に応じてネットが自動的に昇降するため、施設の管理者に対する負担が軽くなるという利点もある。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施形態のネット昇降システム1は、
図7に示す従来のネット昇降システムと同様の構成のネット昇降システムに適用される。より具体的には、本発明の実施形態のシステムを適用可能なネット昇降システムは、ネットと、支柱と、ネット上部の所定部分と結合されるロープ(繊維ロープやワイヤロープなど)と、支柱の頂部または頂部近くに設置されてロープを滑動可能に支持するロープ支持部(滑車など)と、ウインチなどのような、ロープの巻き取りおよび送り出しを行う巻取手段と、ネットや支柱の付近で風の速度を測定する風速計(風速測定手段)とを含むものであればよい。なお、この出願では、これら、支柱、ロープ、ロープ支持部(滑車など)と巻取手段を全体としてネットを支持するものとして支持部材と、また、この支持部材から支柱を除いた、ロープ、ロープ支持部、巻取手段のような可動部分を、ネットを昇降させるものとして昇降手段と呼ぶことがある。
これらの構成要素以外の構成要素は、個々の応用に応じて適切に組み込めばよい。例えば、
図7に示す例では、ウインチ68の一側の出入口からロープ65の一側が送り出されたときに、ウインチ68の他側の出入口からロープ65の他側が巻き取られる構成(その逆の動作も行う構成)となっているが、ロープの他側が滑車66および67を介して、ウインチ68の他側の出入口から送り出しおよび巻き取りされる構成は、本発明の実施形態のシステムを適用する際に必ず備えるべき構成ではない。
【0034】
以下の実施形態では、ネットの最大高さを50m、ネットの幅を20m、ネットを最大高さまで上昇させている状態で支柱のような支持部材やネットそのものが破損または倒壊せずに耐えられるべき風速、すなわち、耐風設計用設計風速を25m/sとして説明する。これらの値は、本発明の適用の対象となるネット昇降システム自体や、その設置場所等の諸条件に基づいて実際には変更されるべきものである。
【0036】
まず、本発明の第1実施形態のシステムの構成について説明する。
図1は、本発明のネット昇降システムの構成を概略的に示すブロック図である。ネット昇降システム1(以下、システム1という)は、システム1の全体的な制御を行う制御装置2と、ネットと接続されたロープの巻き取りおよび送り出しを行うウインチ3と、ネットが受ける風の速度を測定する風速計4とを含み、ウインチ3および風速計4はそれぞれ制御装置2と接続されている。
【0037】
制御装置2は、制御部21と、入出力部22と、記憶部23と、入力部24と、出力部25とを含む。
【0038】
制御部21は、風速値を比較するための1以上の比較手段、回数を比較するための1以上の回数比較手段、時間を比較するための1以上の時間比較手段、その他の様々な演算処理を行う演算手段などを含み、制御装置2に含まれる各部とウインチ3との制御、および様々な演算処理を行う。入出力部22は、ウインチ3との間での信号の送受信、および風速計4からの信号の受信を行う。記憶部23は、システム1の制御において用いる様々なデータ(風速値、期間の長さなどを示すデータを含む)と、データを処理するため及び各部に動作を実行させるためのプログラムを記憶する。入力部24は、制御装置2へデータを入力するために使用する手段であり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネルなどを含むことができる。
【0039】
出力部25は、制御装置2からデータを出力するために使用する手段であり、例えば、ディスプレイ、スピーカー、警告ランプ、更には、管理者が携帯している端末へのメールなどによる通知などを含むことができ、出力されるデータは、文字、音、光などの形態とすることができる。なお、以下の実施形態での説明では省略している場合があるが、制御装置2がネットの昇降に関してなんらかの検知や制御を行った場合、すなわち、現時点の風の風速値、一定以上の風速値の風を検知したこと、ネットが降下中、上昇中、一旦停止中であることなどについて、その検知や制御の内容が明らかになるように、この出力部25によって、出力される。また、どのような検知や制御をしたときに、どのような種類の通知をするかについては、設定できるようになっている。
【0040】
ウインチ3は、制御部31と、電気モーター32と、電磁ブレーキ33と、記憶部34と、入出力部35とを含み、電気モーター32、電磁ブレーキ33、記憶部34、および入出力部35はそれぞれ制御部31と接続される。
【0041】
制御部31は、ウインチ3に含まれる各部の制御および様々な演算処理を行う。電気モーター32は、ロープと係合する部材、例えば、ドラム(図示せず)と接続され、その部材を回転させることによりロープの巻き取りおよび送り出しを行う(以下では、ドラム等についての記載は省略する)。電磁ブレーキ33は、電気モーター32が停止中に回転しないようにブレーキをかけるためのものであって、通常、内部にバネ等の付勢手段を有し電力を供給すると付勢手段の力に抗してその内部の摩擦ブレーキが解除される構造となっている。記憶部34は、システム1のウインチ3の各部の制御において用いる様々なデータと、データを処理するため及び各部に動作を実行させるためのプログラムを記憶する。入出力部35は、制御装置2との間での信号の送受信を行う。
【0042】
風速計4は、制御装置2と接続され、ネットの受ける風の速度(風速)を検知し、検知した風速を表す信号を制御装置2へ送る。通常、風速計4は、ネットを支える支柱の頂部付近に設置されるが、ネットの受ける風の速度を検知できる位置であれば、何れの位置に設置してもよい。この第1実施形態では、風速計4は風杯型風速計とし、1秒毎に1つの風速値を出力するものとするが、他の形式の風速計、例えば、風車型風速計などを用いることも可能であり、また、風速値の出力間隔が1秒以外でもよい。
【0043】
ここで、日本の気象庁の定義では、風速には、10分間の風速を平均する「平均風速」や、0.25秒ごとに更新される3秒(12サンプル)平均である「瞬間風速」があるが、このような厳密な定義に従う必要はないものの、この風速計4の出力する風速値は、本発明の目的からみて、瞬間風速である。
【0044】
次に、システム1の動作について、
図2および
図3を参照して説明する。
図2は、本発明のネット昇降システムにより行われる制御の処理の一部を示すフロー・チャートである。
図3は、
図2に示す制御の処理に続く処理を示すフロー・チャートである。
【0045】
図2は、システム1を始動させた時点から、ネットの下降動作を開始させる時点までの処理の流れを示す。
【0046】
図2のステップS1において、システム1を初期状態に設定する。この設定では、ネットを上昇および/または下降させると判断する際の基準となる風速値についての閾値の設定、所定の風速値の検出回数のカウントの際の閾値となる所定回数の設定などを行う。
【0047】
第1管理閾値は、ネットを最大高さまで上昇させている状態で、支柱のような支持部材やネットそのものが破損または倒壊せずに耐えられるべき風速に対し、少し余裕を持たせた値とする。この条件を言い換えると、ネットを最大高さまで上昇させた条件で、第1管理閾値と等しい風速の突風が一回だけ吹いた場合であれば、支柱のような支持部材やネットそのものは必ず破損または倒壊しないという条件を満たす値となるよう、第1管理閾値を設定することとなる。実際には、第1管理閾値の設定は耐風設計用設計風速を元として設定する場合が多いと考えられるが、本発明では瞬間風速で判断することになるのに対し、耐風設計用設計風速が瞬間風速で定義されているとは限らないなど、風速に関する定義が異なる可能性があるので、単純な値同士の比較では、耐風設計用設計風速より第1管理閾値が小さくなるとは限らない。しかしながら、単純とするために、この実施形態では、ネットを最大高さまで上昇させている状態で支柱が破損または倒壊せずに耐えられる風速、すなわち、耐風設計用設計風速が25m/sなので、第1管理閾値を20m/sに設定したものとして説明する。
【0048】
第2管理閾値を設定する条件は、ネットを最大高さまで上昇させている状態で、第1所定時間内に、第2管理閾値と等しい風速の突風が所定回数吹いた場合であっても、支柱のような支持部材やネットそのものは必ず破損または倒壊しないという条件を満たす値である。この第2管理閾値は必ず第1管理閾値より小さい値となり、実際には、安全率等を考慮して第2管理閾値を設定することとなる。この実施形態では、第2管理閾値は18m/sに設定したものとして説明する。
【0049】
第3管理閾値を設定する条件は、ネットを最大高さまで上昇させている状態で、第3管理閾値と等しい風速の風が連続して吹いた場合であっても、支柱のような支持部材やネットそのものは必ず破損または倒壊しないという条件を満たし、且つ、第3管理閾値と等しい風速の風が吹いている条件のもとで、管理者の監視がない状態で自動的にネットを上昇させたとしても、支柱、ロープ、ネット、滑車、ウインチ等のような支持部材やネットそのものに問題が生じないというものである。この実施形態では、第3管理閾値は10m/sに設定する。なお、先にも述べたように、これら第1〜3管理閾値は、本発明の適用の対象となるネット昇降システム自体や、その設置場所等の諸条件に基づいて実際には変更されるべきものである。
【0050】
第1管理閾値、第2管理閾値、および第3管理閾値は、ステップS1において、制御装置2の入出力部22から入力され記憶部23に記憶されるのでも、予め記憶部23に記憶させておくのでも、いずれでもよい。
【0051】
また、この実施形態におけるウインチ3の初期状態では、電気モーター32および電磁ブレーキ33へは電力が供給されておらず、電磁ブレーキ33によってブレーキがかけられている状況である。電源から電気モーター32および電磁ブレーキ33への電力供給は、電力の供給および供給停止を行う手段(電源オン/オフ手段(図示せず))を介して行われる。この電源オン/オフ手段は、例えば、リレーなどのような機械的スイッチ、半導体スイッチとすることができ、ウインチ3の制御部31により制御される。
【0052】
ステップS2において、システム1の制御装置2の制御部21は、入出力部22を介して、風速計4から風速値を表す信号を受け取り、記憶部23に時刻と共に記憶する。
【0053】
次に、ステップS3において、制御部21の第1比較手段を用いて、この風速計4の風速値と、記憶部23に記憶されている第1管理閾値とを比較する。
【0054】
比較の結果として、制御部21が、風速値が第1管理閾値以上であると判定した場合(風速値≧第1管理閾値)、処理はステップS6へ進む。以下では、第1管理閾値以上である風速値の範囲を風速範囲Aと記載する。
【0055】
ステップS6では、ネットを第1所定位置(高さ50mの位置)から第2所定位置まで下降させる動作を開始させる。第1実施形態では、第2所定位置を高さ45mの位置と設定する。制御部21は、入出力部22からウインチ3の入出力部35へ、ネットを第1所定位置から第2所定位置まで下降させる命令を送る。ウインチ3の制御部31は、電源オン/オフ手段をオン状態に切り替え、電気モーター32および電磁ブレーキ33へ電力を供給する。電力が供給されると、電磁ブレーキ33はブレーキを解除し、電気モーター32は回転してロープを送り出す。電磁ブレーキ33の概要については後に説明する。また、後に
図3を参照して説明するが、ネットの下降動作は途中で止めることができる。
【0056】
なお、このステップS3における判断、ステップS6以降におけるネットの下降の制御をあわせて「第1下降制御」と呼ぶ。
【0057】
ステップS3において、風速値が第1管理閾値未満であると判定された場合(風速値<第1管理閾値)はステップS4へ進む。
【0058】
ステップS4において、制御部21は第1比較手段を用いて、その時点を含め、その時点から過去に向かって第1所定時間内に第1所定回数(例えば、3回)だけ、記憶部23に記憶されている風速値が、第1管理閾値未満であり且つ第2管理閾値以上(第1管理閾値>風速値≧第2管理閾値)であるか否かを判定する。この第1所定時間の長さは、予め設定されて記憶部23に記憶されており、この実施形態では1分(60秒)とする。第2管理閾値も同様に記憶部23に記憶されている。また、以下では、第1管理閾値未満であり且つ第2管理閾値以上(第1管理閾値>風速値≧第2管理閾値)である風速値の範囲を風速範囲Bと記載する。その時点から過去に向かって第1所定時間内に第1所定回数だけ、風速範囲Bの範囲内の風速値を検知したと判定された場合はステップS6へ進む。ステップS6での処理は上記のとおりである。
【0059】
なお、このステップS4における判断、ステップS6以降におけるネットの下降の制御をあわせて「第2下降制御」と呼ぶ。
【0060】
また、この説明では、このステップS4における判断に用いられる風速値は、記憶部23に記憶されている風速値そのもの、すなわち、風速計4から出力された風速値そのものとしている。しかしながら、その代わりに、その時点から過去に向かって第1所定時間より短い第4所定時間(例えば、3秒)の間継続して風速範囲Bの範囲内の風速値を検知したときに、ステップS4において1回風速範囲Bの範囲内の風速値を検知したと判断したとするように構成してもよい。また、同様に、その時点から過去に向かって第4所定時間の間の平均の風速値が、風速範囲Bの範囲内となったときに、ステップS4において1回風速範囲Bの範囲内の風速値を検知したと判断したとするように構成してもよい。
【0061】
以上が、ネットの下降動作を開始させる処理である。ステップS4において、その時点から過去に向かって第1所定時間内に第1所定回数だけ、風速範囲Bの範囲内の風速値を検知していないと判定した場合は、下降動作を行う必要が無い場合なので、ステップS5へ進み、上昇動作が必要であるかどうかの判断を行う。ステップS5では、その時点の風速値が第3管理閾値以下であるか否かを判定する。その風速値が、第3管理閾値以下であった場合、制御部21は第3比較手段を用いて、その時点から過去に向かって第2所定時間の間連続して第3管理閾値以下の風速値を検知したか否かを判定する。この第2所定時間の長さは、予め設定されて記憶部23に記憶されている。このステップでは、ステップS12と同様の処理を行う。第3管理閾値以下の風速値を第2所定時間の間連続して検知したと判定された場合はステップS13へ進む。
【0062】
なお、このステップS12における判断、ステップS13以降におけるネットの上昇の制御をあわせて「第1上昇制御」と呼ぶ。
【0063】
なお、ステップS5における判断は、ネットを第1所定位置まで上昇させるための判断であるので、既にネットが第1所定位置にある場合には、このステップS5による判断を行わないように構成してもよい。しかし、今まで説明してきたように、既にネットが第1所定位置にある場合においても、ステップS5における判断を行ったとしても、その後のステップS13以降における第1所定位置まで上昇させる動作が実質行われないことになるだけなので、特に問題はない。
【0064】
なお、これらステップS3、ステップS4における判断は、ネットを第2所定位置まで下降させるための判断であるので、既にネットが第2所定位置にある場合には、これらステップS3、ステップS4の判断を行わないように構成してもよい。しかし、今まで説明してきたように、既にネットが第2所定位置にある場合においても、ステップS3、ステップS4における判断を行ったとしても、その後のステップS6以降における第2所定位置まで下降させる動作が実質行われないことになるだけなので、特に問題はない。
【0065】
また、この第1実施形態では、ネットを第2所定位置まで下降させるまでの間に、ネットの下降動作を中止させることができる。次に、
図2のステップS6に続く処理について、
図3を参照して説明する。
【0066】
処理は、
図2のステップS6の次のステップである
図3のステップS7へ進む。
図3には明示はしていないが、ステップS6でネットの下降動作を開始した後も、制御装置2の制御部21は、入出力部22を介して、風速計4から風速値を表す信号を継続的に受け取り、記憶部23に時刻と共に記憶している。
【0067】
一般に、低速の風または無風の期間が続くと、それ以降は強い風が吹く可能性は低いと判断することができる。第1実施形態では、第3管理閾値以下の風速値を有する風の吹く期間(無風の期間を含む)が所定時間(第3所定時間)続いたとき、それ以降は強い風が吹く可能性が低いと判断し、下降させたネットを上昇させる構成としている。
【0068】
ネットの下降動作中、ステップS7において、制御部21は、第4比較手段を用いて、第3管理閾値以下の風速値(風速値≦第3管理閾値)を所定時間連続して検知したか否かを判定する。以下では、第3管理閾値以下である風速値を風速範囲Cと記載する。この実施形態では、第3所定時間を10秒と設定し、記憶部23に記憶しておく。
【0069】
制御部21の第4比較手段が、その時点から過去に向かって第3所定時間内に、風速値が風速範囲C以外の風が吹いたか、すなわち、第3管理閾値を超える風速値の風が吹いたかを判断する。その時点から過去に向かって第3所定時間内に風速値が連続して風速範囲Cであると判定された場合にはステップS9へ進む。その時点から過去に向かって第3所定時間内に風速値が風速範囲C以外の風が吹いていたと判断される場合には、ステップS8へ進む。
【0070】
ステップS7からステップS8へ進んだ場合、ステップS8において、制御部21は、ネットを第2所定位置まで下降させたか否かを判定する。この判断は任意の方法により行うことが可能である。例えば、電気モーター32の回転数や、ロープを送り出した動作の時間の長さなどに基づいて、送り出したロープの長さを判断することができる。また、例えば、支柱の高さ45mの位置、すなわち、第2所定位置に、ネット上部の位置を検知するセンサを設け、センサがネット上部の位置を感知したときに、それを示す信号を制御装置2へ送る構成とすることもできる。
【0071】
ステップS8において、制御部21が、ネットが第2所定位置まで下降されていないと判定すると、ステップS7へ戻り、ネットが第2所定位置まで下降していると判断した場合には、ステップS2へ戻る。
【0072】
ステップS9において、制御部21は、ネットの下降動作を中断する信号を、入出力部22から、ウインチ3の入出力部35へ送る。その信号を受け取った制御部31は、オン/オフ手段をオフ状態に切り替え、モーター32および電磁ブレーキ33への電力供給を停止して、それらの動作を停止させる。この動作は、風の様子を見るために行われる。ここで後続の処理を概略的に説明すると、ネット下降動作を中断した後も低風速または無風の状態が第2所定時間続けば停止中のネットを第1所定位置まで上昇させ、第2所定時間内に強い風が吹けば停止中のネットを第2所定位置まで下降させる。
【0073】
なお、ここでも、
図3には明示はしていないが、ステップS9でネットの下降動作を中断した後も、制御装置2の制御部21は、入出力部22を介して、風速計4から風速値を表す信号を継続的に受け取り、記憶部23に時刻と共に記憶している。ステップS9に続くステップS10では、制御部21の第1比較手段が、風速値が風速範囲A、すなわち、風速値≧第1管理閾値であると判定するとステップS11へ進み、制御部21は、ネットの下降動作を再開する信号を、入出力部22から、ウインチ3の入出力部35へ送る。このステップS10、ステップS11の動作は、ステップS3、ステップS6と同様となるので、その詳細は省略する。なお、このステップS10,ステップS11の動作について、ステップS3、ステップS4、ステップS6の動作と同様とし、第1管理閾値、第2管理閾値による制御とすることもできる。その場合には、ステップS9が終了した後にS2に戻ればよく、その結果としてステップS10〜S12が省略されることとなる。
【0074】
ステップS10において、制御部21が、風速値が風速範囲A、すなわち、風速値≧第1管理閾値ではないと判定するとステップS12へ進み、上昇動作が必要であるかどうかの判断を行う。すなわち、ここまでが、ネットの下降動作を中止させ、また、再開させるための処理である。
【0075】
なお、ステップS7における判断、ステップS9におけるネットの下降の停止をあわせて「第1停止制御」と呼び、ステップS10における判断、ステップS11におけるネットの下降の制御を「第3下降制御」と呼ぶ。
【0076】
上で述べたのと同様に、ステップS10において、所定の風速範囲内の風速値を検知していないと判定した場合、ステップS12へ進み、上昇動作が必要であるかどうかの判断を行う。
【0077】
即ち、ステップS12では、ステップS5の場合と同様に、制御部21は第3比較手段を用いて、その時点から過去に向かって所定時間(第2所定時間)の間、風速範囲C(風速値≦第3管理閾値)の風速値を連続して検知したか否かを判定する。この第2所定時間は第3所定時間より長い時間である必要があり、この実施形態では、第2所定時間を60秒とする。ここで、風速範囲Cの風速値の風を第2所定時間連続して検知した場合にはステップS13へ進み、その時点から過去に向かって第2所定時間内に風速値が風速範囲C以外の風が吹いていたと判断される場合には、S2へ戻ることとなる。
【0078】
ステップS13では、制御部21は、第2所定位置、または第1所定位置と第2所定位置との間に停止しているネットを、第1所定位置まで上昇させる信号を、入出力部22からウインチ3の入出力部35へ送る。ウインチ3の制御部31は、受け取った信号に応答してモーター32および電磁ブレーキ33を作動させ、ネットを第1所定位置まで上昇させる動作を開始する。
【0079】
ネットを第1所定位置まで上昇させる動作を開始後、ステップS14において、制御部21の第1比較手段が、検知した風速値が風速範囲A(風速値≧第1管理閾値)であると判定したとき、処理はステップS6へ進み、ネットを再び下降させる動作を開始する。なお、このステップS14の動作について、ステップS3、ステップS4の動作と同様とし、第1管理閾値、第2管理閾値による制御としてもよい。
【0080】
ステップS14において、風速値が風速範囲A、すなわち、風速値≧第1管理閾値ではないと判定されている間は、ネットは上昇を続け、最終的には第1所定位置まで上昇させる。ネットが第1所定位置まで上昇すると、制御部21は、入出力部22からウインチ3の入出力部35へ、ウインチ3を停止させる信号を送る。ウインチ3の制御部31は、受け取った信号に応答して、モーター32および電磁ブレーキ33への電力供給を停止して、それらの動作を停止させる。その後、処理はステップS2から再開される。
【0081】
なお、上記ステップS12で、第2所定時間は第3所定時間より長い時間である必要があるとしたのは、本発明において、第1所定時間、第2所定時間、第3所定時間を用いた風速値の判断は、いずれも、その時点から過去に向かって第1所定時間、第2所定時間又は第3所定時間の間に、風速値に関する条件を満たしているか判断するとし、過去に遡れる限界を設けていないためである。このように過去に遡れる限界を設けない条件で判定する場合には、第2所定時間は第3所定時間より長い時間と設定することによって、ある時点から第3所定時間の間、風速範囲Cの風速値の風が連続した時点で、ステップS7における判断がなされネットの下降が停止され、その後、このある時点から第2所定時間の間、風速範囲Cの風速値の風が連続した時点で、ステップS12における判断がなされ下降が停止されているネットの上昇が再開されるという、正常な処理となるからである。
【0082】
したがって、第3所定時間の間、風速範囲Cの風速値の風が連続し、ステップS7における判断がなされた時点を、上記ステップS12の判断において過去に遡れる限界とするのであれば、第2所定時間を第3所定時間より長い時間と限定する必要は無く、そのような処理としたとしても、同様の処理結果を得ることができる。
【0083】
以上が、本発明のネット昇降システムの第1実施形態における処理である。
【0085】
第1実施形態では、ネットを第2所定位置まで下降させた場合にも、風の条件に応じて自動的に上昇させる構成であるが、第2所定位置まで下降した場合に、ネットの上昇動作を自動的に行わせない構成とすることもできる。その場合、ステップS8のYesに続く処理として、ネットの昇降に係わる動作を停止させる処理、および停止した状態であることを示すデータを出力部25から出力させる処理を行う。更に、制御装置2が、システム1から離れた場所にある管理者側の装置と、インターネット等を介して接続されている場合、制御部21は、上記のデータを入出力部22から管理者側の装置へ向けて送る。出力部25のディスプレイから出力されたメッセージを見たり、スピーカーから出力された音を聞いたりした管理者、または上記のデータを受け取った管理者は、必要に応じて、ウインチ3を起動し、管理者の監視の下でネットを第1所定位置(高さ50mの位置)まで上昇させ、その後、システム1の処理をステップS1から再開させる。なお、インターネット等を介しての通信や、通信を可能とする技術および構成は周知であるので、それらの説明は省略する。
【0087】
次に第2実施形態について説明する。一般的に、高さの低い構造物の方が風に対してより強い傾向がある。この第2実施形態は、この特徴を活かすために、第1実施形態に追加の構成を組み込んだものである。第1実施形態では、第2所定位置は単一の高さ(高さ45mの位置)であって、その高さまで降下させる構成であるが、第2実施形態では、第2所定位置を複数有するとともに、それぞれの第2所定位置と組となる、それぞれ複数の第1管理閾値、第2管理閾値、第3管理閾値、第1所定時間、第2所定時間、第3所定時間、第1所定回数を有し、風の強さに応じて、異なる高さまでネットを下降させるものである。
【0088】
本発明の第2実施形態のネット昇降システムの構成は、システムの各部により行われる処理および動作の内容が第1実施形態とは部分的に異なるが、基本的な構成は
図1に示すネット昇降システム1の構成と同様であるので、以下の説明では
図1に記載のシステム1を用いる。
【0089】
次に、システム1の動作について、
図2および
図4を参照して説明する。
図4は第1実施形態の
図3に代わる図であって、
図3と
図4の相違点は、ステップS16を有するか否かである。ステップS1〜S15までの動作は、第1実施形態と第2実施形態で全く同一であるので省略する。
【0090】
第1実施形態では、ステップS8において、制御部21が、ネットが第2所定位置まで下降していると判断した場合、また、ステップS15において、ネットが第1所定位置まで上昇していると判断された場合は、
図3に示されるように、いずれもステップS2に戻る形となっている。
これに対し、
図4では、ステップS8とステップS15の後に、第2所定位置、第1管理閾値、第2管理閾値、第3管理閾値、第1所定時間、第2所定時間、第3所定時間、第1所定回数を再設定するステップS16が、ステップS2に戻る前に挿入されている。
【0091】
支柱を含む支持部材は、ネットの最上部がより低い位置にあればあるほど、たとえば、第1所定位置(高さ50mの位置)にある場合よりも第2所定位置(高さ45mの位置)にある場合には、より強い風に耐えることができる。したがって、ネットをこの第2所定位置から更に下降させる場合には、その判断基準としての第1管理閾値および第2管理閾値を、より大きい値に設定可能である。
【0092】
ステップS15からステップS16に処理が進んだ場合には、その時点のネットの高さは第1所定位置であり、ステップS8からステップS16に処理が進んだ場合には、その時点のネットの高さは第2所定位置である。ステップS16では、その位置からネットを下降させるときの目標の位置、すなわち、前記複数ある第2所定位置の中で、その時点のネットの高さより低く、その時点のネットの高さに最も近い位置にある前記第2所定位置を、新たな第2所定位置として設定するとともに、新たな第2所定位置と同じ組に含まれる、第1管理閾値、第2管理閾値、第3管理閾値、第1所定時間、第2所定時間、第3所定時間、第1所定回数を、それぞれ新たな、第1管理閾値、第2管理閾値、第3管理閾値、第1所定時間、第2所定時間、第3所定時間、第1所定回数として設定し、その後、ステップS2に戻って、新たな第2所定位置、第1管理閾値、第2管理閾値、第3管理閾値、第1所定時間、第2所定時間、第3所定時間、第1所定回数に基づいて、処理を行う形となっている。
【0093】
上記のとおり、新たに設定される第2所定位置が低い位置であればあるほど、第1管理閾値、第2管理閾値を高くすることができる。第3管理閾値は通常変化させる必要は無く、また、第1所定時間、第2所定時間、第3所定時間、第1所定回数は必ずしも変化させる必要はないが、これらの値を同時に変化させてもよい。
【0094】
以上が、本発明のネット昇降システムの第2実施形態における処理である。
【0097】
第2実施形態は、ネットが複数ある第2所定位置のいずれに下降している場合であっても、ステップS12における第3管理閾値に関する条件が成立すれば自動的に第1所定位置へ向けて上昇させるように構成している。しかしながら、必ずしもこのように構成する必要は無く、ある一定以上ネットが降下してしまった場合には、ネットの上昇中の事故を防ぐために、ネットの上昇を管理者のもとで行わなければならない場合など、言い換えれば、ネットが第2所定位置の中で最も高い位置にある第2所定位置以外にあった場合など、特定の第2所定位置である場合には自動的に上昇させないように構成することも、可能である。その場合の処理を、
図5を参照して説明する。
【0098】
図5に記載の処理と
図4に記載の処理は、ステップS17,ステップS18が追加されているだけが異なるので、この部分についてのみ説明する。
【0099】
図5のステップS17において、処理結果がYesの場合、即ち、特定の第2所定位置である場合には、処理はステップS18へ進む。ステップS18において、制御部21は、ネットを自動的に上昇させる機能を停止させ、ネットを自動的に上昇させる機能を停止させた旨を示すデータを出力部25から出力する。データの出力は、例えば、ディスプレイでのメッセージの表示、スピーカーからの音声や警告音、警報ランプの点灯、更には、管理者が携帯している端末へのメールなどによる通知などの形で行われる。更に、制御装置2が、システム1から離れた場所にある管理者側の装置と接続されている場合、制御部21は、入出力部22から、インターネット等を介して、上記のデータを管理者側の装置へ向けて送る。その後、管理者は、ネットを第1所定位置まで手動で上昇させ、システム1での処理をステップS1から再開させる命令を、入力部24から入力する。システム1は、その命令に応答して、ステップS1からの処理を再開する。
【0101】
第2実施形態および第2実施形態の変更例1のステップS13(
図4,
図5)以降の処理では、ネットを第1所定位置まで上昇させ、その後、ステップS2(
図3)からの処理を再開する構成とした。しかし、この処理を変更して、ネットを第2所定位置まで手動で上昇させ、その後、ステップS2(
図3)からの処理を再開させる構成とすることもできる。
【0102】
[第1実施形態および第2実施形態の変更例]
【0103】
第1実施形態及び第2実施形態では、ステップS7における判断によって、ネットの下降動作を中断する構成となっているが、ネットの下降動作を中断する構成を省略することも可能である。この場合ステップS7、ステップS9〜S12が不要となる。
【0104】
[第1実施形態および第2実施形態に付加可能な構成]
【0106】
第1実施形態、第2実施形態のステップS6、ステップS11、ステップS13、ステップS15に、ウインチ3の電気モーター32に過剰な負荷がかかっていないかを検知し、過負荷の状態であった場合にはネットの上昇動作を中止させる構成を付加することができる。以下に、この構成を備える一実施形態について説明する。
【0107】
ウインチ3には、電気モーター32にかかる負荷を検知する手段(以下、負荷検知手段)を設ける。この負荷検知手段は、電気モーター32の特性、例えば、電流や温度などの値を測定し、その測定値を制御部31へ送る。
【0108】
制御部31は、電流や温度などの測定値と、予め設定して記憶部34に記憶している所定値とを比較する。比較の結果として、測定値が所定値からずれていると判定した場合には、過負荷状態であると判定する。次に、制御部31は、過負荷状態である旨を表す信号を制御装置2の制御部21へ送り、且つ電源オン/オフ手段をオフ状態に切り替え、電気モーター32への電力の供給を停止させる。
【0109】
ウインチ3の制御部31から過負荷状態を示す信号を受け取った制御装置2の制御部21は、ネットの昇降に係わる動作を一時的に停止させ、且つウインチ3(電気モーター32)が停止したことを示す情報を出力部25から出力させる。情報の出力は、例えば、ディスプレイでのメッセージの表示、スピーカーからの音声や警告音、警報ランプの点灯、更には、管理者が携帯している端末へのメールなどによる通知などの形で行われる。
【0110】
また、制御装置2が、本システムから離れた場所にある管理者側の装置と接続されている場合、制御部21は、入出力部22から、ウインチ3(電気モーター32)が停止したことを示すデータを、管理者側の装置へ向けて送る。通信は、インターネット等を介して行うことができる。
【0111】
ウインチ3(電気モーター32)が停止したことを知らされた管理者は、ウインチ3を点検し、必要に応じて、ウインチ3を起動し、管理者の監視の下でネットを所定位置(高さ50mの位置)まで上昇させる。手動でネットを上昇させた後、システム1に問題がなければ、管理者は、制御装置2の入力部24から、停止している動作の再開を指示する命令を入力する。その命令を受け取った制御部21は、ステップS1からの処理を再開させる。
【0112】
なお、電気モーター32の過負荷を検知するための構成を制御装置2に設け、制御装置2により電気モーター32の過負荷を検知することも可能である。
【0113】
[付加可能な構成2]
第1実施形態、第2実施形態には、ウインチ3内の電磁ブレーキ33の電磁ブレーキ52の固着を防止するための構成を付加することが可能である。
【0114】
一般に、電気モーターでは、電気モーターが電力の供給を受けていない時に、電気モーターのローターの軸に、軸の回転方向や接線方向のある程度の力が加わると、軸は回転してしまう。それと同様に、上記第1実施形態、第2実施形態におけるウインチ3においても、電磁ブレーキ33が無い場合には、電気モーターのローターの軸を回転させようとする力(例えば、ロープを介して伝わるネットの重量に基づく力など)が加わったときに、ウインチ3で巻き取ったロープが送り出され、ネットを適切な高さの位置に保つことができなくなる。
【0115】
図6は、ウインチ3などのようなウインチで使用可能な電気モーター51と電磁ブレーキ52とを概略的に示す。即ち、電気モーター51および電磁ブレーキ52は、
図1の電気モーター32および電磁ブレーキ33として使用できる電気モーターおよび電磁ブレーキの例である。なお、
図6では、電気モーター51および電磁ブレーキ52に関連する配線は示していない。また、電磁ブレーキの構成および動作については周知であるので、以下の記載では、それらについての詳細な説明は省略し、この実施形態と関連する一部の構成の概略のみを記載する。
【0116】
電気モーター51と電磁ブレーキ52とは、それらの相対的な位置が動かないように互いに結合されて固定される。電磁ブレーキ52は、その内部に、中央に穴を設けた円盤状のローターと、中央に穴を設けた円盤状のプレートと、中央に穴を設けた円盤状のアーマチュアとを含む。ローターは、プレートとアーマチュアとの間に配され、且つアーマチュアとローターとプレートとは、この順に、それぞれの中心軸が重なるように配される。電磁ブレーキ52のローターの穴の部分には、ローターハブ53を介して、電気モーター51のローターの軸が結合される。プレートは、電磁ブレーキ52内の一方の側(電気モーター51から遠い側)に固定されている。アーマチュアは、電磁ブレーキ52内の他方の側(電気モーター32に近い側)で、バネ(トルクスプリング)のような付勢手段に押されることにより中心軸に沿ってローターの方へ移動可能なように設置される。
【0117】
電磁ブレーキ52へ電力が供給されていないとき、バネ(トルクスプリング)のような付勢手段は伸びた状態となり、アーマチュアをローターの方向に押し、アーマチュアはローターに接触する。更に、アーマチュアに押されたローターはプレートに接触する。即ち、バネ(トルクスプリング)のような付勢手段が伸びることにより、ローターはプレートとアーマチュアとに挟まれ、それにより、ローターに摩擦ブレーキがかけられ、従って、電磁ブレーキ52のローターと結合された電気モーター51のローターにもブレーキがかけられる。このようにして、電気モーター51は回転できなくなる。
【0118】
電磁ブレーキ52へ電力が供給されたとき、バネ(トルクスプリング)のような付勢手段は縮んだ状態となり、上記の動作とは逆の動作が行われる。即ち、アーマチュアはローターから離れる方向に移動し、それによりローターもプレートから離れる方向に移動し、アーマチュアとローターとの間、およびローターとプレートとの間に隙間ができ、ローターは回転可能とされる。その結果として、電磁ブレーキ52のローターと結合された電気モーター51のローターに対してのブレーキが解除され、電気モーター51は自由に回転できるようになる。
【0119】
この電磁ブレーキには1つの欠点がある。それは、長期にわたって電磁ブレーキへ電力を供給しない場合に、ローターと、プレートとアーマチュアとのうちの一方または双方と(以下、「ローターとプレート/アーマチュアと」と記載する)が固着する場合があることである。上記の実施形態においても、ウインチ3を長期にわたって作動させていない場合には、電磁ブレーキ52のローターとプレート/アーマチュアとが固着する可能性がある。
【0120】
上記の欠点を解消するために、ここに示す構成では、電磁ブレーキのローターとプレート/アーマチュアとが固着する前の所定の時点で、電磁ブレーキおよび電気モーターへ一時的に電力を供給して、電磁ブレーキをオン状態(ブレーキをかけない状態)にし且つ電気モーターを駆動させる。この固着防止のための構成を組み込んだ一実施形態について、簡単に説明する。
【0121】
最初に、ウインチ3の動作を停止させた時点、即ち、ウインチ3内の電気モーター32および電磁ブレーキ33への電力の供給を停止させた時点から、ウインチ3内の電磁ブレーキ33のローターとプレート/アーマチュアとの固着が生じる時点までの時間の長さを求める。次に、安全を考慮して、求めた時間の長さよりも短い時間の長さを、ウインチ3を作動停止させておいてもよい時間の長さ(停止可能時間)と設定し、その停止可能時間を表すデータ(停止可能時間データ)を、制御装置2の入力部24から入力して記憶部23に記憶させる。なお、停止可能時間は任意の方法で決定することができ、例えば、経験的に得られた数値(例えば、過去に固着を生じさせた時間の長さ)に基づいて決定することができる。
【0122】
制御装置2の制御部21は、ネットを上昇または下降させる動作をウインチ3に行わせた後、即ち、ウインチ3の制御部31から、下降および/または上昇の動作が完了して電気モーター32および電磁ブレーキ33への電力の供給を停止した旨の信号を受け取った時刻から、上記停止可能時間データの示す時間が経過したとき、入出力部22からウインチ3の制御部31へ、電磁ブレーキ33のローターとプレート/アーマチュアとの固着を防止するための動作を行わせる信号を送る。固着防止動作は、例えば、ネットを所定の高さまで下降させ、その直後に元の高さまで上昇させるような動作とすることができる。この動作は任意に設定することができ、例えば、この例示の動作を数回繰り返して行わせるというものでもよい。
【0123】
固着防止動作が完了すると、ウインチ3の制御部31は、電気モーター32の回転を停止させ(電気モーター32への電力供給停止)、電磁ブレーキ33により電気モーター32にブレーキをかけ(電磁ブレーキ33への電力供給停止)、固着防止動作が完了した旨を示す信号を、入出力部35から、制御装置2の入出力部22へ送る。その信号を入出力部22から受け取った制御部21は、受け取った時刻を基準として停止可能時間データの示す時間の経過を判定する。
【0124】
停止可能時間データの示す時間に達する前に、制御装置2の制御部21が、ウインチ3にネットを下降または上昇させる動作を行わせた場合、制御装置2の制御部21は、受け取った時刻を基準として停止可能時間データの示す時間の経過を判定する。
【0125】
また、上記の実施形態では、ウインチ3に制御部31を設けているが、制御部31の機能を制御装置2の制御部21が行う構成とすることにより、ウインチ3の構成から制御部31を省くことができる。