(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記インターフェース部は、複数の異なる音源に対応した複数の異なる音響信号を受け付けるとともに、前記各音源に設定された異なる指向角度に対応する制御信号を受け付け、前記音響データ処理部は、前記異なる各音響信号及び各制御信号に応じて各々異なる出力データを生成する請求項1に記載の指向性制御システム。
少なくとも、前記出力データを出力する音場の風向風速又は温度のいずれか一つを検知するセンサを備え、前記演算部は、前記センサによって検知されたデータによって変化量データを算出し、前記遅延時間データを前記算出された変化量データに基づいて算出する請求項1又は2に記載の指向性制御システム。
少なくとも、音響センサ及び画像センサから構成された監視センサによって検知された群衆の行動からイベントを解析及び判定するとともに、前記イベントが発生しているエリアを特定し、特定されたエリアに向けた指向角度を測定する群衆行動解析部と、前記イベントの発生が判定され、前記エリアを特定する指向角度が測定されると、前記測定された指向角度に対応する制御信号を生成するとともに、前記イベントが発生したエリアに向けた音源によって、前記音響信号を生成する入力部と、を有する請求項1から3までのいずれか1項に記載の指向性制御システム。
所定の音場において、所定の受音位置に前記音源の音を到達させるために設定される指向角度のデータを予め記憶させる記憶部を有し、前記記憶部から所定の指向角度のデータを読み出すと、自動的に前記インターフェース部で前記読み出された指向角度のデータが受け付けられる請求項1から5までのいずれか1項に記載の指向性制御システム。
前記スピーカブロックを複数固定結合して配列したスピーカアレイを形成し、前記スピーカブロックの指向性制御によって前記スピーカアレイ全体で指向性を制御可能とする請求項1から6までのいずれか1項に記載の指向性制御システム。
前記各スピーカユニットの配列が、少なくとも、前記スピーカブロック又は前記スピーカアレイ全体で平面状、円筒状、球面状である請求項7記載の指向性制御システム。
前記各スピーカユニットの前記出力する面にLED表示部を設置し、前記LED表示部に、前記音源の音に連動した映像を表示させる映像生成部を有する請求項1から8までのいずれか1項に記載の指向性制御システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1にかかる先行技術は、複数の平面スピーカユニットを所定の回動角θで機械的に回動するように構成されており、構造が複雑になるという不都合があった。すなわち、各平面スピーカユニットに、接続用突起とこれに相関する挿嵌孔を備える接続部材を設ける必要があり、構造が複雑になるとともに、スピーカユニット全体の重量が増し、運搬性が悪くなるという問題があった。
【0009】
また、隣り合う平面スピーカユニット同士のなす角度を所望の接続姿勢にするためには、手動で動かす必要があり、設営の作業負荷が大きくなるという不都合があった。仮に、前記手動による作業負荷を軽減するために、前記音響システムが、前記複数の平面スピーカユニットを機械的に回動させるための駆動装置を備えた場合、前記作業負荷は軽減されるものの、スピーカユニットを機械的に作動させるための駆動装置のコストが発生する。特に、所望の音場が大きい場合、前記音声信号を広域に出力する必要がある。この場合、前記平面スピーカユニットを構成する平板スピーカの数を増やそうとすると、全体の高さ、重量ともに増加し、平面スピーカユニットの回動、運搬等の負荷が大きくなるという問題があった。
【0010】
さらに、前記先行技術の各実施形態において開示されている構成によれば、スピーカユニットとは、複数のスピーカを配列形成したパネル、ロッドとして定義されており、前記回動角θで回動できる単位は、パネル、ロッド単位であることから、個々のスピーカは固定された状態である。したがって、スピーカ単位で指向性を制御できない構成になっている。仮に、スピーカ単位で前記接続部材相当の機構を設ければ、高い精度の指向性制御が可能であるが、かかるスピーカ単位の制御を前記機械的な構造で作動させるのは、製造コスト、重量、作業負荷等、いずれの観点からも現実的な解決手段とは言えない。したがって、前記先行技術では、高い精度の指向性制御が難しいという課題があった。
【0011】
たとえば、移動する聴衆をトラッキングしながら音響データを提供する場合など、受音側のターゲットの位置が流動的な場合、前記平面スピーカユニットをターゲットが動く都度回動させる必要が生じ、適時に音響データを提供することが困難であった。
【0012】
特許文献2にかかる先行技術では、モジュールコントローラによって十分に迅速に仮想音源の位置を変更することができるため、特許文献1の前記問題点は解消するが、仮想音源によって再現するための装置であり、所望の受音位置に、音源の音声を自在に到達させることができないという問題があった。
【0013】
上記課題を解消させるために、本明細書における開示の目的は、複数のスピーカで所望の音場を形成するために、簡易に音響データの指向性を制御できるとともに、高い精度の音場形成を自在かつ適時に操作可能とするスピーカの指向性制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成させるために、本明細書で開示される指向性制御システムは、固定接続された複数のスピーカユニットに対して、指向角度を設定した制御信号によって、前記各スピーカユニットを前記指向角度で仮想配列し、かかる仮想配列で音源の音を出力した場合の仮想的な遅延時間データを算出し、かかる遅延時間データを反映した出力データによって前記音源の音を出力することにより、前記スピーカユニットを機械的に回動させずに、固定状態のままで、所望の音場を形成することを最も主要な特徴とする。
【0015】
すなわち、本明細書で開示される指向性制御システムは、複数のスピーカユニットを介して多様な音場を形成する指向性制御システムであって、
平面の振動板のどの場所でも同一位相で出力可能であり、全周波数帯域の再生が可能な特質を有するスピーカユニットを複数で所定の配列によって固定接続し、グループ化したスピーカブロックと、
前記スピーカブロックを構成する複数のスピーカユニットごとに音源の音を出力するための音響信号と、少なくとも、前記スピーカユニットの設置位置を基準として水平方向の指向角度データと垂直方向の指向角度データとから前記出力する指向角度を設定した制御信号とを受け付けるインターフェース部と、
前記インターフェース部で受け付けた各制御信号から、前記設定された各指向角度で仮想配列された前記各スピーカユニットの前記水平方向については、前記各スピーカユニットの上端と下端で別々に遅延時間を算出し、前記垂直方向については、前記各スピーカユニットの左端と右端で別々に遅延時間を算出するとともに、前記上端と下端の中間部分及び左端と右端の中間部分は、前記特質に基づいて補間し、前記水平方向の指向角度から算出された水平方向遅延時間データと前記垂直方向の指向角度から算出された垂直方向遅延時間データとを加算して仮想的な遅延時間データを算出し、さらに、前記スピーカユニットを前記指向角度で物理的に配列した場合の音量、周波数特性の少なくともいずれか一つに、前記仮想配列した場合の音量、周波数特性を合わせるための特性補正量データを算出する演算部と、
前記インターフェース部で受け付けた各音響信号から音響データを生成するとともに、各音響データと各音響データに対応する前記遅延時間データ及び前記特性補正量データとから、前記スピーカブロックを擬似回転させることによって、前記設定された指向角度で、前記音源の音声を直進、拡散又は集中させ、所定の受音位置に到達可能な出力データを生成する音響データ処理部と、
前記出力データを前記各スピーカユニットに出力するために増幅する増幅部と、を有し、
前記増幅部から前記各スピーカユニットを介して前記各出力データを出力することにより、前記スピーカブロックによって所定の音場を形成することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、スピーカユニット自体を機械的に回動させることなく、仮想的な指向角度から遅延時間を算出して所望の受音位置に音源の音を到達させて音場を形成することができる。
【0018】
また、この構成によれば、前記水平方向(X軸方向)及び前記垂直方向(Y軸方向)によって細かな指向角度を指定することが可能であるとともに、算出式も2項式であることから、算出処理のスループットが短くすることができる。
【0020】
本システムでは、スピーカユニットを回動など、物理的に動かさずに、遅延時間データによって指向性を制御するため、算出された遅延時間に相当する距離を物理的に動かした場合に比べて音圧が高くなり、位相のずれが生じる可能性がある。そこで、現実に前記遅延時間データに対応する指向角度で音源の音が出力されているようにするために、前記特性補正量を算出すればよい。
【0022】
かかる構成により、音の放射を自在に制御して所望の位置に音源の音を到達させることが可能となる。
【0023】
前記インターフェース部は、複数の異なる音源に対応した複数の異なる音響信号を受け付けるとともに、前記各音源に設定された異なる指向角度に対応する制御信号を受け付け、前記音響データ処理部は、前記異なる各音響信号及び各制御信号に応じて各々異なる出力データを生成するように構成してもよい。
【0024】
この構成によれば、複数チャンネルにおいて、チャンネル数に対応する異なる音源を異なる指向性で同時に出力することが可能になる。
【0025】
少なくとも、前記出力データを出力する音場の風向風速又は温度のいずれか一つを検知するセンサを備え、前記演算部は、前記センサによって検知されたデータによって変化量データを算出し、前記遅延時間データを前記算出された変化量データに基づいて再算出してもよい。
【0026】
この構成によれば、音が伝播するときに、音場の環境によって空気吸収などによる音圧が変化するのを補正することができる。
【0027】
少なくとも音響センサ及び画像センサから構成された監視センサによって検知された群衆の行動からイベントを解析及び判定するとともに、前記イベントが発生しているエリアを特定し、特定されたエリアに向けた指向角度を測定する群衆行動解析部と、前記イベントの発生が判定され、前記エリアを特定する指向角度が測定されると、前記測定された指向角度に対応する制御信号を生成するとともに、前記イベントが発生したエリアに向けた音源によって、前記音響信号を生成する入力部と、を有する構成としてもよい。
【0028】
この構成によれば、群衆の行動の原因となったイベントが発生したエリアにいる群衆に対して、適時に情報を提供することができる。
【0029】
所定の音場において、所定の受音位置に前記音源の音を到達させるために設定された指向角度のデータを予め記憶させる記憶部を有し、前記記憶部から所定の指向角度のデータを読み出すと、自動的に前記インターフェース部で前記読み出された指向角度のデータが受け付けられるようにしてもよい。
【0030】
この構成によれば、予め指向角度が特定されている音場では、指向性制御に必要なデータの入力を簡易に行うことができる。
【0032】
前記スピーカブロックを複数固定結合して配列したスピーカアレイを形成し、前記スピーカブロックの指向性制御によって前記アレイ全体で指向性を制御可能とする構成であってもよい。
【0033】
この構成によれば、大規模な音場での指向性の制御を容易かつ細やかに行うことができる。
【0034】
前記スピーカユニットの配列が、少なくとも、前記スピーカブロック又は前記スピーカアレイ全体で平面状、円筒状、球面状であってもよい。
【0035】
この構成によれば、設置環境に応じて柔軟に音場形成ができる。
【発明の効果】
【0036】
本明細書で開示されるスピーカの指向性制御システムは、複数のスピーカで所望の音場を形成するために、簡易に音響データの指向性を制御できるとともに、高い精度の音場形成を自在かつ適時に操作することが可能になるという効果を奏する。
【0037】
特に、スピーカ自体を物理的に動かすことなく、所定の指向角度で仮想配列されたスピーカユニットの仮想的な遅延時間データを算出することにより、指向性の制御を行うことができるので、多様な角度の設定が必要な場合であっても、簡易かつ迅速に設定することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態を説明する。先に説明した実施形態に対応する構成要素を後続の実施形態が有する場合には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。また、各実施形態において構成の一部のみを説明している場合、当該構成の他の部分については先行して説明した実施形態の参照符号を使用する場合がある。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示していない場合でも、特に当該組み合わせに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組み合わせることも可能である。
【0040】
図1を参照して、1は、本明細書で開示される指向性制御システムを構成するシステムコントローラである。システムコントローラ1は、音源Asから音声等の入力を受けると、伝送路2を介して、音響信号とともに指向性制御のための制御信号をパワーアンプ3に伝送する。ここで、音響信号とは、音声信号のほか、音声以外の音源からの音信号を含む概念である。システムコントローラ1は、複数チャンネルの音響信号と制御信号を1本の伝送路で伝送可能である。なお、伝送路2は、有線回線、無線回線のいずれでもよい。例えば、伝送路2にLANケーブルを使用すると、システムコントローラ1が6チャンネルの場合、LANケーブル内のツイストペア線4対のうち、1対を制御信号、3対を音響信号に使用することができる。音響信号は、デジタル伝送した場合、1対で2チャンネル伝送可能であることから、LANケーブル1本で6チャンネルの音響信号を伝送することができる。
【0041】
パワーアンプ3は、後述するように、内蔵するDSP(Desital Signal Processor)によって前記音響信号及び制御信号をデジタル信号処理する。パワーアンプ3は、システムコントローラ1に対して複数台(3a乃至3n)接続されており、各パワーアンプ3a乃至3nは、スピーカアレイ4を構成する複数のスピーカブロック4a乃至4nをそれぞれ制御する。
【0042】
スピーカブロック4aは、スピーカユニット4a01乃至4a16から構成され、スピーカブロック4nは、スピーカユニット4n01乃至4n16で構成されている。すなわち、複数のスピーカユニットは、所定の配列によって固定接続してグループ化し、スピーカブロックを形成し、さらに、複数のスピーカブロックを固定結合することにより、スピーカアレイを形成する。本実施の形態では、例示的に、縦横ともに4つのスピーカユニット4a01乃至4a16を固定接続したスピーカブロック4a乃至スピーカユニット4n01乃至4n16を固定接続したスピーカブロック4nを形成し、スピーカブロック4a乃至4nを32ブロック固定結合してスピーカアレイ4を形成している。ただし、固定接続、固定結合する数は、本実施の形態に限定する趣旨ではない。また、固定接続、固定結合して形成する全体形状も、本実施の形態では、平面状に配列しているが、円筒状、球面状に形成するものであってもよい。さらに、スピーカブロック内の構成要素を分割して別筐体にしてもよい。
【0043】
スピーカユニットは、マルチセル型の平面スピーカ、シングルコーン型のフルレンジスピーカなどいずれで構成されていても良いが、本実施の形態では、以下、マルチセル型の平面スピーカで構成されたスピーカユニットに基づいて説明する。
【0044】
平面スピーカは、全面を駆動し平面波を発生させ、距離による音圧の減衰が少なく、音の焦点は無限遠点である。従って、複数のスピーカユニットを介して多様な音場を形成する場合に好適である。
【0045】
また、一つのスピーカユニットで全周波数帯域を再生しているため、周波数帯域によって指向性のずれが無い。さらに、以下の点で、平面スピーカを採択することにより、正確な指向性制御が可能となる。すなわち、スピーカユニットをスピーカブロックとして形成する構造を有するため、分割振動等、スピーカユニット間で相関のない音の放射が小さい点、スピーカユニットの振動板が平面で、振動板内のどの場所でも音の放射位置が同一位相音で出力できる点、スピーカユニットごとにエンクロージャを分けることで、スピーカユニット後方に放射される音が他のスピーカユニットに影響を与えない点(なお、この点については、前記シングルコーン型のフルレンジスピーカ等、平面スピーカ以外でも可能な構成ではある。)、などである。
【0046】
スピーカブロック、スピーカアレイとも、上記のような構成となっているため、設置会場など、所望する音場を形成する環境に合わせて自由な大きさを設定できるとともに、設置、撤去が簡単であることから仮設での使用も可能である。
【0047】
図2は、システムコントローラ1及びパワーアンプ3aのブロック構成図である。
図2は、説明の便宜上、パワーアンプ3aで説明しているが、
図1で説明したように、パワーアンプは、各スピーカブロックと接続されているため、実際にはシステムコントローラ1に、伝送路2を介して複数のパワーアンプ3a乃至3n(本実施の形態では32個)接続されている。
【0048】
システムコントローラ1は、複数種類の指向性パターン、すなわち、指向角度を設定したデータを選択し、制御信号として入力する。入力は、システムコントローラ1とWiFi又はUSBで接続されたパーソナルコンピュータによって行えばよい。また、音響信号は、複数チャンネル(本実施の形態では6ch)からの入力が可能である。
【0049】
前記制御信号及び音響信号は、システムコントローラ1から伝送路2を介してパワーアンプ3aに伝送される。パワーアンプ3aでは、インターフェース部31aで前記伝送された制御信号及び音響信号が受け付けられる。
【0050】
インターフェース部31aで各制御信号を受け付けると、演算部32aは、前記設定された各指向角度で仮想配列された各スピーカユニットの仮想的な遅延時間データを算出する。すなわち、演算部32aは、少なくとも、CPU(Central Processor Unit)とメモリ(図示せず)とから構成され、メモリに読み出された制御信号から、CPUによって遅延時間データを算出する。
【0051】
インターフェース部31aで受け付けた各音響信号は、音響データ処理部33a(DSP)に受け渡され、音響データを生成するとともに、各音響データと各音響データに対応する前記遅延時間データとから出力データを生成する。
【0052】
生成された前記出力データは、増幅部34aで、スピーカユニット4a01、4a02乃至4a16ごとに出力するために増幅される。増幅部34aは、スピーカユニット4a01、4a02乃至4a16各々に対応して34a01、34a02乃至34a16から構成される。すなわち、パワーアンプ3aは、スピーカユニットごとに独立しており、各制御信号及び音響信号のデジタル信号処理により、後述するように、上下左右に各スピーカユニットの指向性を制御することが可能となる。
【0053】
音響データ処理部33aにおける処理、すなわち、DSP処理に関する遅延時間データの算出等、各種パラメータの計算は、すべてスピーカブロック内(スピーカブロック内のパワーアンプ3a)で行うため、システムコントローラ1は、指向性の設定角度に関する前記制御信号と音源から得られる音響信号を伝送するだけでよく、少ないデータ量で制御を行うことができ、スピーカアレイ4を大規模にしても、低速の回線でリアルタイムに指向性を変えることが可能となる。
【0054】
なお、システムコントローラ1は、前記説明した構成を含むものであれば、形態は限定されない。したがって、既存のパーソナルコンピュータで代用してもよく、さらには、スピーカブロック自体に指向性制御用の操作つまみ、センサ類を装備させた形態で代用してもよい。
【0055】
以上、増幅部34aからスピーカユニット4a01、4a02乃至4a16を介して前記各出力データを出力することにより、スピーカブロック4aによって所定の音場を形成することができる。
【0056】
なお、前記した通り、固定接続、固定結合の配列を円筒状、球面状に形成する場合、スピーカユニットの前後の位置関係を考慮して、前記遅延時間データの算出を行えばよい。
【0057】
ところで、演算部32aにおいて、遅延時間データの算出で使用する前記制御信号は、少なくとも、スピーカユニットの設置位置を基準として、水平方向の指向角度データと垂直方向の指向角度データとから構成される。そして、演算部32aは、前記遅延時間データを前記水平方向の指向角度データから算出された水平方向遅延時間データと前記垂直方向の指向角度データから算出された垂直方向遅延時間データとを加算して算出する。
【0058】
以下、
図3を使って、演算部32aの指向性制御処理フローを説明する。前記インターフェース部31aで制御信号を受け付ける(受信する)と(S1のY)、制御信号の水平方向指向角度データから各スピーカユニットの遅延時間を算出する(S2)。なお、制御信号の受信が確認されるまで、前記S1判断はループする(S1のN)。
【0059】
水平方向指向角度から各スピーカユニットの遅延時間を算出した後、垂直方向指向角度データから各スピーカユニットの遅延時間を算出する(S3)。なお、S2の水平方向指向角度データを垂直方向指向角度データとし、S3の垂直方向指向角度データを水平方向指向角度データとしてもよい。
【0060】
次いで、各スピーカユニットの水平方向と垂直方向の遅延時間を加算する(S4)。以上の通り、水平方向(X軸方向)と垂直方向(Y軸方向)の遅延時間データを単純に加算することで、縦横に回動するような細かな指向性制御が可能になる。なお、より具体的には、水平方向については、各スピーカユニットの上端と下端で別々に遅延時間を算出し、垂直方向については、各スピーカユニットの左端と右端で別々に遅延時間を算出し、各々中間部分は補間で算出すればよい。
【0061】
なお、以上のほか、演算部32aは、少なくとも、算出された前記各遅延時間データに対応する音量、周波数特性のいずれか一つについて特性補正量を算出するようにしてもよい(S5)。上記の通り、遅延時間データによって指向性を制御するため、算出された遅延時間に相当する距離を物理的に動かした場合に比べて音圧が高くなり、さらには、位相のずれが生じる可能性がある。そこで、現実に前記遅延時間データに対応する物理的な指向角度で音源の音が出力されているようにするために、前記特性補正量を算出し、これを遅延データに反映させるようにすればよい。
【0062】
各スピーカユニットの遅延時間データと特性補正量データとを対応する音響信号の音響データ処理に移行させる(S6)。
【0063】
次に、複数の音源ごとに異なる指向性を持たせる処理を例として、
図4を使って、音響データ処理部33aの処理を説明する。
【0064】
複数の異なる音源As1、As2乃至Asnから、システムコントローラ1、伝送路2及びパワーアンプ3aのインターフェース部31aを介して(図示せず)、音響データ処理部33aで各音響データが受信される。
【0065】
受信された各音響データは、音質調整後、
図3で説明した遅延時間データ、特性補正量データとともに合成される。以下、具体的に、
図2で説明したスピーカブロック4aに対応する増幅部34a01、34a02乃至34a16に出力する場合を例として説明する。なお、音源As1、As2乃至Asnに対する音質調整33a1、33a2乃至33anは、例えば、周波数特性の調整など直接指向制御に関与する処理ではない。
【0066】
まず、音源As1については、増幅部34a01に対応する遅延処理33a1−01dと特性補正処理33a1−01cが行われる。同様にして、増幅部34a02に対応する遅延処理33a1−02dと特性補正処理33a1−02c、増幅部34a16に対応する遅延処理33a1−16dと特性補正処理33a1−16cも行われる。
【0067】
次に、音源As2については、増幅部34a01に対応する遅延処理33a2−01dと特性補正処理33a2−01cが行われる。同様にして、増幅部34a02に対応する遅延処理33a2−02dと特性補正処理33a2−02c、増幅部34a16に対応する遅延処理33a2−16dと特性補正処理33a2−16cも行われる。
【0068】
同様に、音源Asnについては、増幅部34a01に対応する遅延処理33an−01dと特性補正処理33an−01cが行われる。同様にして、増幅部34a02に対応する遅延処理33an−02dと特性補正処理33an−02c、増幅部34a16に対応する遅延処理33an−16dと特性補正処理33an−16cも行われる。
【0069】
各々の音源As1、As2乃至Asnの遅延処理、特性補正処理が終わると、各遅延処理、特性補正処理が合成処理33a―01において合成される。すなわち、増幅部34a01に送られる出力データは、音源As1についての遅延処理33a1−01d及び特性補正処理33a1−01c、音源As2についての遅延処理33a2−01d及び特性補正処理33a2−01c、音源Asnについての遅延処理33an−01d及び特性補正処理33an−01cの3つのデータである。
【0070】
同様に、増幅部34a02に送られる出力データは、音源As1についての遅延処理33a1−02d及び特性補正処理33a1−02c、音源As2についての遅延処理33a2−02d及び特性補正処理33a2−02c、音源Asnについての遅延処理33an−02d及び特性補正処理33an−02cであり、これら3つのデータを合成処理33a―02において合成する。また、増幅部34a16に送られる出力データは、音源As1についての遅延処理33a1−16d及び特性補正処理33a1−16c、音源As2についての遅延処理33a2−16d及び特性補正処理33a2−16c、音源Asnについての遅延処理33an−16d及び特性補正処理33an−16cであり、これら3つのデータを合成処理33a―16において合成する。
【0071】
以上の通り、システムコントローラ1のチャンネルごとに指向性を制御し、各増幅部34a01、34a02乃至34a16の手前で合成(ミキシング)することにより、チャンネルごとに異なる指向性の制御を行うことができる。
【0072】
以下、
図5を使って、本明細書で開示される指向性制御システムによる制御態様を説明する。
図5では、平面状に配列されたスピーカアレイ4と遅延時間データによって仮想配列された仮想スピーカアレイ4v及び受音位置Rを使って模式的に説明する。なお、
図5は、スピーカアレイ4、仮想スピーカアレイ4vの上面図であり、スピーカアレイ4の設置位置に対して、水平方向(X軸方向)の指向角度を制御する場合の説明図であるが、前記設置位置に対して、垂直方向(Y軸方向)の指向角度も同様に制御可能である。実際の制御は、前記説明の通り、X軸方向とY軸方向の指向角度に対応する遅延時間データを加算し、仮想スピーカアレイ4vが3次元で制御されているようにして音源の音を出力する。
【0073】
図5(a)は、スピーカアレイ4の両端の指向角度、指向方向が同じ場合の指向性制御の態様である。この場合は、仮想スピーカアレイ4vの放音面が、指向方向に向かうように、スピーカアレイ4の両端辺のいずれかを中心軸として背面方向にそのまま擬似回転した状態で仮想スピーカアレイ4vの放音面全体が直進的に受音位置Rに放音するように各スピーカユニットの遅延時間データを算出すればよい。
【0074】
図5(b)は、スピーカアレイ4から受音位置が一点に集中する場合の指向性制御の態様である。この場合は、仮想スピーカアレイ4vの放音面が、指向方向の一点、すなわち、受音位置Rに向かうように、スピーカアレイ4の両端のいずれかを中心軸として背面方向にそのまま擬似回転させる。さらに、かかる状態で仮想スピーカアレイ4vを、受音位置Rを中心とした扇状を形成するように弧状配列させて、受音位置Rに集中して放音するように各スピーカユニットの遅延時間データを算出すればよい。
【0075】
図5(c)は、スピーカアレイ4から受音位置Rに向けて拡散する場合であって、拡散方向と反対側の焦点F1が、スピーカアレイ4の幅方向内に位置する場合の指向性制御の態様である。この場合は、仮想スピーカアレイ4vの放音面と反対側の背面が、前記焦点F1に向かうように、スピーカアレイ4の両端のいずれかを中心軸として背面方向にそのまま擬似回転させる。さらに、かかる状態で仮想スピーカアレイ4vを、焦点F1を中心とした扇状を形成するように弧状配列させて、放音面が受音位置Rに拡散して放音するように各スピーカユニットの遅延時間データを算出すればよい。なお、この場合、焦点Fは、仮想スピーカアレイ4vの両端部の接線から前記背面側方向に垂線を引いた交点になる。
【0076】
図5(d)は、スピーカアレイ4から受音位置Rに向けて拡散する場合であって、拡散方向と反対側の焦点F2が、スピーカアレイ4の幅方向外に位置する場合の指向性制御の態様である。この場合も、仮想スピーカアレイ4vの配列は、
図5(c)と同じであるが、前記中心がスピーカアレイ4の幅方向外に位置するように設定すればよい。
【0077】
図5は、指向性制御の態様の典型例であるが、これらを応用して多様な制御が可能となる。たとえば、スピーカアレイ4の上下左右4辺で異なる指向性を設定することが可能であり、また、スピーカアレイ4の放音面手前は狭指向性とし、放音面から離れたところでは広指向性となるような設定も可能である。
【0078】
さらに、スピーカアレイ4の四隅、各辺の任意の箇所に別々の指向角度を設定し、その間の各パラメータ(遅延時間データ等)を補間することで複雑な形状の指向性を実現することもできる。また、スピーカアレイ4の一部領域のみを使用して放音することも可能である。
【0079】
また、例えば、音場を形成する会場内のエリアごとに異なる言語を放送することで、音楽ホールなどでバルコニーの下部、天井などに音が到達しないようにし、客席のみに音を出すことで反射を低減し、音の明瞭度をあげるような使い方、会場を複数のエリアに分け、異なる音波でカバーすることで、エリア内におけるスピーカアレイからの距離の差異を小さくし、音圧の均一化を図るような使い方、なども可能である。
【0080】
以上の通り、音の放射方向を直進、集中、拡散させて、指向角度を自由に制御し、自由な方向に任意の選択した箇所にのみ放音することで、所望の音場を簡単に設定することができる。
【0081】
<変形例>
なお、本明細書で開示される指向性制御システムは、少なくとも、前記出力データを出力する音場の温度又は風向風速のいずれか一つを検知する検知センサ部(図示せず)を備え、前記検知センサ部によって検知されたデータに基づいて、前記遅延時間データを算出する構成としてもよい。具体的には、前記検知センサ部は、システムコントローラ1に接続され、検知センサ部で検知された各種センサ信号は、前記制御信号、音響信号とともに、伝送路2を介してパワーアンプ3に伝送され、演算部32aで前記算出をするように構成すればよい。
【0082】
なお、前記算出は、例えば、前記検知センサ部で、温度センサによってデータが検知された場合、下記計算式によって遅延時間データを算出すればよい。
【数1】
【0083】
すなわち、音速は、温度(変数)によって変化し、指向角度のずれが生じる。そこで、温度センサで温度の変化が検知された場合に、前記計算式によって遅延時間データを再算出し、経時的な気温の変化に対応して、リアルタイムで指向性制御を実行するようにすればよい。
【0084】
また、前記算出は、例えば、前記検知センサ部で、風向風速センサによってデータが検知された場合、下記計算式によって検知されたデータに対応するベクトルを算出し、これに基づいて遅延時間データを算出すればよい。
【数2】
【0085】
すなわち、音源から受音位置までの間に風が吹く場合、空気粒子の振動で伝達される音は、風向・風速に応じて目的とした受音位置からずれが生じる。そこで、かかる風力によるずれをベクトル演算によって補正すればよい。
【0086】
以上、温度センサによって検知されたデータに基づく補正及び風向風速センサによって検知されたデータに基づく補正を個別に説明したが、前記検知センサ部は、温度センサ、風向風速センサから検知された各データに基づいて、複合的に補正して、遅延時間データを算出するようにしてもよい。
【0087】
また、少なくとも、音響センサ及び画像センサから構成された監視センサによって検知された群衆の行動からイベントを解析及び判定するとともに、前記イベントが発生しているエリアを特定し、特定されたエリアに向けた指向角度を測定する群衆行動解析部と、前記イベントの発生が判定され、前記エリアを特定する指向角度が測定されると、前記測定された指向角度に対応する制御信号を生成するとともに、前記イベントが発生したエリアに向けた音源によって、前記音響信号を生成する入力部と、を有する構成としてもよい。
【0088】
すなわち、前記監視センサと群衆行動解析によって得られる群衆の位置情報(GPS等を利用して得られる経緯度など)から、スピーカアレイの設置位置から見た前記群衆の位置の角度を前記群衆行動解析部で算出し、算出されたデータをスピーカアレイが有するパワーアンプ3の演算部32aに転送して設定すると同時に、前記群衆の位置で最適な音源を再生することで例えば避難誘導、混雑緩和を自動的に行うことができる。
【0089】
さらに、例えば、博物館などで展示物の説明など狭小エリアで複数の異なる音声案内等が必要な場合、かかる音声案内等が必要な場所に人感センサを設置し、前記人感センサが検知する位置へ前記音声案内等の音源の音を出力するための指向角度とかかる位置で出力する音源を記憶させた音声案内等の登録部、登録部に登録された音声案内等の読出し及び音声データを再生する再生部を組み合わせることにより、人感センサが人の展示物へのアクセスを検知したときに、本明細書で開示される指向性制御システムに指向角度を設定し、音源を再生するようにしてもよい。すなわち、複数の音場に人のアクセスを検知する人感センサ部と、前記複数の音場に対応する個別の音響信号及び音源の音を出力する各指向角度の制御信号を登録する登録部と、を備え、前記複数の音場のうち、前記人感センサ部によって前記アクセスを検知すると、前記検知された音場に対応する音響信号及び制御信号を登録部から読み出し、前記インターフェース部に送信する再生処理部を有する構成としてもよい。
【0090】
本明細書で開示される指向性制御システムにおいて、指向角度を入力すると、例えば、100ms以内で指向性を変更することができるので、前記のような流動的な受音ターゲットに対して、遅延することなく追尾(トラッキング)することができる。また、かかる機能によって、動画と連動した使い方も可能になる。
【0091】
以上の通り、本明細書で開示される指向性制御システムは、単一のシステムで、複数の音源を異なる複数の指向性で同時に出力することができるので、複数の前記群衆の位置、複数の前記狭小エリアに対して、その数に対応するシステムを設置する必要はない。
【0092】
所定の音場において、所定の受音位置に前記音源の音を到達させるために設定される指向角度のデータを予め記憶させる記憶部を有し、前記記憶部から所定の指向角度のデータを読み出すと、自動的に前記インターフェース部31aで前記読み出された指向角度のデータが受け付けられるようにしてもよい。
【0093】
前記スピーカユニットの前記出力する面にLED(発光ダイオード)表示部を設置し、前記音源の音に連動した映像を表示させる映像生成部を有する構成としてもよい。前記映像生成部は、例えば、システムコントローラ1からパワーアンプ3に画像データを送信し、パワーアンプ3内に設ける構成、又は、パワーアンプ3に外付けされた構成とすればよい。特に、平面スピーカの場合、コーン型スピーカと異なり、LED表示部を取り付けても、スピーカ自体の振動によって映像が乱れることもないため、スピーカユニット自体を良好なスクリーンとすることが可能になる。
【0094】
図6は、指向性制御システムをコンサート会場で使用した場合の実施例を示した図である。
図6(a)は、ステージ上のスピーカアレイを2分割して左右に配置し、各々のスピーカアレイから別音源の音(例えば、右側は英語、左側は日本語など。)を客席の2つの領域AF1、AF2に出力することが可能である。たとえば、右側の席に、英語での聴取を希望する観客を誘導し、左側の席に、日本語での聴取を希望する観客を誘導すればよい。
【0095】
(b)は、1つのスピーカアレイから別音源の音を2つの領域、AF3、AF4に出力する例を示した図である。用途としては、(a)の場合と同様であるが、スピーカアレイを分割して設置できない狭い会場の場合などに好適な使い方である。
【0096】
(c)は、1つのスピーカアレイから別音源の音を3つの領域に出力する例を示した図である。(b)のように、左右の領域AF5、AF6のほか、中央部手前部分の領域AF7にのみ、領域AF5、AF6とは異なる音源の音を出力することができる。
【0097】
以上の通り、本明細書で開示する指向性制御システムは、防音壁などで仕切られていない同一会場内であっても、所望の領域にのみ、所定の音源の音を出力すると同時に、前記領域に隣接する別領域には、前記音源の音とは別の音源の音を出力することができ、隣接する領域に出力された音源の音が、混在しないように制御することができる。すなわち、指向性制御システムは、スピーカアレイを構成する各スピーカを三次元指向性制御することにより、遠達性、明瞭性を実現する音場を提供することができる。
【0098】
この明細書で開示された技術は、前記実施形態に制限されない。すなわち、例示的に示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。また、一つの実施形態と他の実施形態との間における部品、要素の置き換え、または組み合わせを包含する。さらに、開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示される技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内での全ての変更を含むものである。