【実施例】
【0068】
実施例1 − AC2抗体のキメラ化及びヒト化
AC−2ネズミ抗体を、ジェノヴァのCentro Biotecnologie Avanzateで2002年12月17日に寄託され、国際公開第03/055908号(特許文献5)に開示されたハイブリドーママザークローンNo.PD02009から単離されたハイブリドーマから産生した。全RNAを抽出し、RT−PCRを実施して、従来の手順を用いて(例えば、ネズミ抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって)抗体の可変領域をクローニングし、配列決定した。
【0069】
AC−2ネズミ抗体(アミノ酸配列に対して配列番号1及び配列番号2、及び、ヌクレオチド配列に対して配列番号9及び配列番号10)の可変領域、重鎖及び軽鎖の配列情報に基づいて、前記領域の異なるヒト化変異体を、標準の手順を用いる遺伝子合成によって得た。
【0070】
抗体変異体をコードする配列を、Evi−5発現ベクター(Evitria AG、スイス)にクローニングし、CHO−K1細胞中で発現した。
【0071】
抗体のキメラ化に対して、ネズミ定常領域をヒト定常領域で置き換えた。重鎖(HC)の1つのキメラ型(version)をIgG1コンテキスト中に作成した。
【0072】
抗体のヒト化に対して、ネズミからの相補性決定領域(CDRs)をヒト抗体フレームワークにグラフト化した。
【0073】
重鎖(HC)の24種のヒト化型(version)を、IgG1及びLC−カッパーコンテキスト中に作成した。各型をFR中の特異的点突然変異によって特徴付けた。
【0074】
実施例2 − 抗体結合活性についてのスクリーニング
キメラAb及びヒト化型を、間接ELISA試験を用いて、BAG3に結合する能力について、並行して試験した。
【0075】
材料及び方法
96ウェルマイクロプレート(NUNC Maxsorp)を、ネズミ抗体(AC−2)によって認識されるBAG3全長タンパク質(aa 385からaa 399)内の特異的配列(Pep2)を用いてコーティングした。このプレートを、リン酸緩衝液(PBS、pH7.4)中のPep2(50μl/ウェル)の1μg/mlと共に一夜インキュベートした。次いで、このプレートを洗浄溶液(PBS中の0.05%Tween−20)で2回洗浄し、非特異的部位のブロッキングを、各ウェルに対して、リン酸緩衝液(PBS、pH7.4)中0.5%フィッシュゼラチン(シグマ)の溶液の150μlを用いて室温で1時間実施した。プレートを洗浄用緩衝液で2回洗浄し、次いで抗体を装填した。ウェルの幾つかにおいて、抗体のキメラ変異体及びヒト化変異体のスカラー希釈物、500ng/ml(50μl/ウェル)を、2つ作成して、装填した。抗体をPBS中0.5%フィッシュゼラチン、0.05%Tweenの溶液(BSA/Tween)に希釈した。このプレートを室温で2時間インキュベートし、次いで洗浄用緩衝液で5回洗浄した。次に、試料を、2次抗体として50μl/ウェルのHRP標識抗マウスIgG(HRP-conjugated anti-mouse IgG)又はHRP標識抗ヒトIgG(HRP-conjugated anti-human IgG)と共に室温で30分インキュベートした。洗浄用緩衝液で6回洗浄した後、ペルオキシダーゼ基質、テトラメチルベンジジン(TMB)をウェルに加えた(50μl/ウェル)。0.5M硫酸(25μl/ウェル)を添加することによって、10分後に比色反応をブロックし、光学密度の値(OD)を、450nmの波長の分光光度計を用いて決定した(
図1)。抗体のキメラ変異体及びヒト変異体を、上記と同じプロトコルを用いた間接ELISA試験によって組換えBAG3全長タンパク質(rBAG3)でコーティングしたプレートを用いても試験した(
図2)。
【0076】
結果
異なる抗体変異体の結合を、コーティング(
図1)又は組換え全長BAG3(
図2)としてペプチド2を用いたELISAで検出した。以下の抗体変異体が、より高い結合能を示し、更なる分析用に選択された:H1L2、H1L3、H1L4、H2L2、H2L3、H2L4、H3L2、H3L3、H3L4、H4L2、H4L3、H4L4。
【0077】
実施例3 − ヒト化抗体変異体のKD決定
材料と方法
結合実験を、25℃でOctet Red96について実施した。抗体を、ディプアンドリードAHC(抗ヒトIgG Fcキャプチャー)センサーで捕捉し、次いで可変濃度でAg(E.Coli rBAG3)を結合した。抗体への抗原の結合をリアルタイムでモニターし、オン(ka)及びオフ(kd)レートを得た。平衡定数(KD)を得られたka及びkdから計算した。
【0078】
完全な動力学的分析を、100nMから0までの分析物濃度を用いて実施した。分析を、100nMの分析物濃度を用いて実施し、アッセイ緩衝液中で連続的希釈、100、50、25、12.5、6.25、3.125、1.56及び0nMで行った。カイ二乗(χ
2)検定を、実際のセンサー記録(着色線)と、Fortebio Octet分析ソフトウェア(赤線)の間で実施し、分析の精度を決定した。1〜2内の2の値は有意(正確)と見做され、1未満は非常に有意(非常に正確)である。
【0079】
注:2×8センサーを1つの完全な動力学的分析に使用し、センサーを再生し、複数回使用して、BAG−H−L、BAG−H1−L2、BAG−H1−L3、BAG−H1−L4、BAG−H2−L2、BAG−H2−L3、BAG−H2−L4、BAG−H3−L2、BAG−H3−L3、BAG−H3−L4、BAG−H4−L2、BAG−H4−L3、BAG−H4−L4で捕捉し、13種の完全な動力学を実施した。
【0080】
結果
上記のように計算された異なる変異体に対する親和性を以下に報告する。AC−2ネズミ抗体は10
-12のKD(M)を示し、一方、全てのヒト変異体は10
-9のKD(M)を示した(表1参照)。しかし、この差は、記載されているように、変異体の生物学的活性について影響を与えなかった。
【0081】
【表1】
【0082】
実施例4 − マクロファージ表面へ結合するBAG3をブロックする抗体変異体の能力の評価
BAG3はマクロファージの表面に結合し、我々は、結合がBAG3タンパク質を封鎖するネズミ抗BAG AC−2抗体によって特異的に阻害されることを示している。ここでは、我々は、マクロファージ表面への結合をブロックする該抗体のキメラ変異体及びヒト化変異体の能力を試験した。
【0083】
材料と方法
J774 A.1細胞(1×106/ml)を、ブロッキング溶液(5%FBS/0.1NaN
3を含有する%PBS)及び、FcRブロッキングマウス(Miltenyi Biotec−cod.130−092−575)(1μl/1×106細胞)を用いて、4℃で30分インキュベートした。次いで、1×105の細胞をFITC−rBAG3タンパク質(40μg/ml)単独、又は抗BAG3マウス抗体(AC2)(3200μg/ml)若しくはネズミIgG1(3200μg/ml)の存在下で、或いは、該抗体のキメラ及びヒト化変異体(3200μg/ml)、又はヒトIgG(3200μg/ml)を用いて、ブロッキング溶液中、氷上で30分インキュベートした。インキュベ−ション後、細胞をPBSで洗浄し、フローサイトメトリーで分析した。
【0084】
結果
J774 A.1マクロファージ細胞系の表面へ結合する蛍光BAG3のフローサイトメトリー評価。データを、蛍光の平均強度として報告する(
図3)。これらの結果を基にして、H4L2、H4L3、H4L4及びH2L4ヒト化抗体変異体を選択した。
【0085】
実施例5 − 1次単球活性化をブロックするヒト化AC−2抗体変異体の能力の評価
H4L2、H4L3、H4L4及びH2L4ヒト化抗体変異体を選択し、Protein A捕捉(HiTrap Protein A HP、GEヘルスケア)の手段によって精製し、1次ヒト単球の活性化をブロックするそれらの能力について更に試験した。
【0086】
我々は、BAG3が1次ヒトマクロファージを活性化できることを以前に示した。ここでは、我々は、BAG3依存性単球活性化をブロックするH4L2、H4L3及びH4L4ヒト化抗体変異体の能力を示すために、マクロファージ活性化の読み出しとしてIL6の分泌を利用する。
【0087】
材料と方法
バフィーコート(Buffy Coats)(コンポフレックス(登録商標) トリプル「トップアンドトップ」システム − フレゼニウス カービ(CompoFlex(登録商標) Triple "Top and Top" System - Fresenius Kabi))を、健常なドナーから得、4℃で一夜保存した。PBMCを、標準のフィコール−ハイパーク密度勾配(Ficoll-Hypaque density gradients)で単離した。単核細胞を単離し、血小板及び赤血球汚染物を除去するために50mlのPBS 1Xで連続的に洗浄した(I:1100gで20分間、II:800gで10分間、III:400gで10分間、IV:300gで10分間、V及びVI:100gで10分間)。全ての遠心はブレーキをかけずに行った。次に、細胞を顕微鏡下でチェックし、まだ汚染物が存在している場合、100gで10分間の追加の遠心を実施した。
【0088】
次いで、PBMCを96ウェルマイクロプレートに置き(2×10
6細胞/ml)、グルタミン(100μl/ウェル)を用いず、FBSを用いず、FcRブロッキング剤ヒト型(FcR Blocking Reagent human)(細胞100万毎に1μl)を用いたRPMI中で16時間(一夜)培養した。
【0089】
当該日の後、細胞をrBAG3(0.5μg/ml)で6時間処理した。mAbブロッキングアッセイを実施し、異なる濃度のAC−2又はそのヒト化変異体と共にrBAG3をインキュベートした。
【0090】
細胞に対して媒体を交換しないが、上記の分子を含有する各ウェルにFBSを含まないRPMI100μgを添加して、処理を実施した。全ての分子は、無菌管中の、FBSを含まないRPMI100μgに加えられ、分子はこれらの最終濃度を2回に分けて細胞に加えられた。分子を管中で室温において30分プレインキュベートした。プレインキュベートは、mAbブロッキングアッセイに必要である。処理後、400gで5分間の遠心の後、細胞培養培地を集めた。上清を、ヒトELISA IL−6キット(eバイオサイエンス、サンディエゴ、CA(eBioscience, San Diego, CA))を用いて、1:10希釈物を2つ作成してIL−6含有量について分析した。試料のODを組換えIL−6の標準曲線のものと比較することによって、IL−6濃度を評価した。
【0091】
結果
表2に報告した結果は、異なる抗体によってrBAG3により誘導されるIL−6の阻害の%として表されている。全ての変異体は、ネズミAC2抗BAG3抗体に匹敵する阻害能力を示した。H4L2及びH4L4を、異種移植片腫瘍モデルにおける腫瘍成長をブロックするこれらの能力についての、in vivoでの更なる試験用に選択した。
【0092】
【表2】
【0093】
実施例6 − in vivoでの腫瘍成長に関するヒト化AC−2抗体変異体の効果
in vitroの実験に基づいて、我々は、後続のin vivoでの有効性について、変異体H4L2及びH2L4を選択した。
【0094】
材料と方法
Mia−Paca 2細胞(2×10
6)を、PBS(200μl)に懸濁し、メスCD1マウス(6週齢、チャールズ・リバー、イタリア)の右わき腹に注射した。10日後、マウスを7匹(対照)又は6匹(処理済)マウスからなる4群(four arms)に分け、これらのそれぞれで、腫瘍の平均体積は80〜100mm
3の範囲であった。5週間、対照群にはビヒクル(PBS)を48時間毎に腹腔内注射で与え、一方、処理群には、ネズミ(AC2)又はヒト化H2L4、H4L2抗BAG3mAbsを、PBS中20mg/kgの用量で、48時間毎に腹腔内注射で与えた。動物を秤量し、腫瘍の体積を一週間に一度カリパス(Dxd
2/2)により測定した。
【0095】
結果
図4に、対照(PBS)又は示した抗体で処理した動物の、一週間間隔での腫瘍の変化を倍数で(tumor fold change)報告した。比は、示した時間点での平均体積とゼロ日での平均体積の間のものである。対照の処理動物の腫瘍は4倍の増加を示したが、処理動物はわずか2.5倍の増加であった。
【0096】
実施例7 − 腫瘍塊中の活性化された線維芽細胞数に関するヒト化AC−2 H2L4変異体の影響
腫瘍成長で得られた結果は、腫瘍の微細環境での変化を更に研究することを我々に促した。腫瘍の発達における主要なプレーヤーの1つは、腫瘍塊に関連する線維芽細胞である。
【0097】
材料と方法
実施例6で記載した実験の最後に、腫瘍をパラフィンに包埋し、抗−α sma抗体(A2547、シグマ−アルドリッチ、1:350において)を用いる免疫蛍光法によって切片(sections)を分析した。核を、1μg ml
-1のヘキスト(Hoechst)33342(モレキュラー プローブス、オレゴン、USA(Molecular Probes, Oregon, USA))で対比染色した。実験と対照材料を比較する際に、画像を、同じ取得パラメータ(レーザー強度、光電子増倍管の利得、ピンホール口径、対物レンズ×40、ズーム1)を用いて取得した。ライカ共焦点ソフトウェア及びイメージJ(Leica Confocal Software and Image J)をデータ分析(α−smaポジティブ領域の%)に使用した。
【0098】
結果
図5は、α−sma染色した2つのPBS−処理腫瘍及び2つのAC−2 H2L4処理腫瘍からのそれぞれのイメージを示す。対照動物中で成長した塊に関連する、活性化された線維芽細胞の存在はα−smaタンパク質陽性によって示されるように、非常に高かった。これに対して、AC−2 H2L4処理動物は陰性であった。
図6には、対照(PBS−処理)試料とAC−2 H2L4処理試料を比較することによって、α−sma陽性領域の定量化を報告している。
【0099】
これらの結果は、ヒト化抗−BAG3抗体が、新生物性疾患だけでなく、炎症などの他の生理学的プロセスにおいて重要な役割を持つ線維芽細胞に有効であるという証拠(Kalluri,2016(非特許文献7)を強く指示する。
【0100】
参考文献
− Ammirante M, Rosati A, Arra C, Basile A, Falco A, Festa M, Pascale M, d'Avenia M, Marzullo L, Belisario MA, De Marco M, Barbieri A, Giudice A, Chiappetta G, Vuttariello E, Monaco M, Bonelli P, Salvatore G, Di Benedetto M, Deshmane SL, Khalili K, Turco MC, Leone A. “IKK{gamma} protein is a target of BAG3 regulatory activity in human tumor growth”. Proc Natl Acad Sci U S A. 2010;107(16):7497-502.
− Clackson T, Hoogenboom HR, Griffiths AD, Winter G. Making antibody fragments using phage display libraries. Nature 1991; 15;352(6336):624-8.
− Festa M, Del Valle L, Khalili K, Franco R, Scognamiglio G, Graziano V, De Laurenzi V, Turco MC, Rosati A. “BAG3 protein is overexpressed in human glioblastoma and is a potential target for therapy”. Am J Pathol. 2011;178(6):2504-12.
− Franceschelli S, Rosati A, Lerose R, De Nicola S, Turco MC, Pascale M. “Bag3 gene expression is regulated by heat shock factor 1”. J Cell Physiol. 2008; 215(3):575-7.
− Kalluri R. The biology and function of fibroblasts in cancer. Nature Reviews Cancer. 2016; 16, 582-598
− Kettleborough CA, Saldanha J, Heath VJ, Morrison CJ, Bendig MM. “Humanization of a mouse monoclonal antibody by CDR-grafting: the importance of framework residues on loop conformation”. Protein Eng. 1991; 4(7):773-83.
− Kohler G, Milstein C. Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity. Nature 1975;256:495-497.
− Rosati A, Graziano V, De Laurenzi V, Pascale M, Turco MC. “BAG3: a multifaceted protein that regulates major cell pathways”. Cell Death Dis. 2011 Apr 7;2:e141.
− Rosati A, Bersani S, Tavano F, Dalla Pozza E, De Marco M, Palmieri M, De Laurenzi V, Franco R, Scognamiglio G, Palaia R, Fontana A, di Sebastiano P, Donadelli M, Dando I, Medema JP, Dijk F, Welling L, di Mola FF, Pezzilli R, Turco MC, Scarpa A. “Expression of the antiapoptotic protein BAG3 is a feature of pancreatic adenocarcinoma and its overexpression is associated with poorer survival”. Am J Pathol. 2012 Nov;181(5):1524-9.
− Rosati A, Basile A, D’Auria R, d’Avenia M, De Marco M, Falco A, Festa M, Guerriero L, Iorio V, Parente R, Pascale M, Marzullo L, Franco R, Arra C, Barbieri A, Rea D, Menichini G, Hahne M, Bijlsma M, Barcaroli D, Sala G, di Mola FF, di Sebastiano P, Todoric J, Antonucci L, Corvest V, Jawhari A, Firpo MA, Tuveson DA, Capunzo M, Karin M, De Laurenzi V, Turco MC. “BAG3 promotes pancreatic ductal adenocarcinoma growth by activating stromal macrophages”. Nat Commun., 6:8695 doi: 10.1038/ncomms9695.