(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979709
(24)【登録日】2021年11月18日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】釣り針
(51)【国際特許分類】
A01K 83/00 20060101AFI20211202BHJP
【FI】
A01K83/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-211883(P2019-211883)
(22)【出願日】2019年11月22日
(65)【公開番号】特開2021-78484(P2021-78484A)
(43)【公開日】2021年5月27日
【審査請求日】2021年8月3日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)ウェブサイトの掲載日 2019年2月9日 ウェブサイトのアドレス https://ameblo.jp/koredekimaru/entry−12438794590.html (2)ウェブサイトの掲載日 2019年2月10日 ウェブサイトのアドレス https://ameblo.jp/koredekimaru/entry−12439176556.html (3)ウェブサイトの掲載日 2019年2月18日 ウェブサイトのアドレス https://ameblo.jp/koredekimaru/entry−12441163458.html (4)ウェブサイトの掲載日 2019年2月24日 ウェブサイトのアドレス https://ameblo.jp/koredekimaru/entry−12442572582.html (5)ウェブサイトの掲載日 2019年3月3日 ウェブサイトのアドレス https://ameblo.jp/koredekimaru/entry−12444181170.html
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314008851
【氏名又は名称】有限会社太田紙工
(74)【代理人】
【識別番号】100103207
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】太田 静雄
【審査官】
吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−321021(JP,A)
【文献】
実開平4−127164(JP,U)
【文献】
米国特許第4715142(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 83/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴部と、
一端が前記胴部の下端に接続される湾曲部と、
前記湾曲部の上端部に尖って形成された針先と、
前記針先の下方であって前記湾曲部の湾曲面内側に斜め下方に向って延び、かつ下端が尖って形成されたカエシと、
前記湾曲部の湾曲面外側に形成された切欠部を備え、
前記切欠部の上面は前記湾曲部と前記カエシの境界部である前記カエシの基端部の外側の範囲内に形成され、前記切欠部は前記カエシの基端部よりも下方の位置まで形成されることを特徴とする、
釣り針。
【請求項2】
前記切欠部の上面は湾曲部外側から内側へ向けて形成され、前記切欠部の上面と、前記切欠部の上面に続く湾曲部外側における接線が形成する角度は80〜95度である、請求項1に記載の釣り針。
【請求項3】
前記切欠部の最大深さは前記切欠部の下端における軸の太さの1/4〜3/4であり、前記切欠部は上部が深く、下方ほど浅くなる形状である、請求項1または2に記載の釣り針。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣り用の釣り針に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、釣りにおいて、釣り針が水中にある岩等に引っかかり(以下、これを根がかりと言う)、それを外そうとして引っ張った時に、釣り針が外れずにナイロン製などの釣り糸が切れ、切れた釣り糸が野鳥の足に絡まったり首に巻き付いたりしてしまうことが問題となっている。特に、近年ブームとなっているルアー釣り(以下、ジギングと言う)に置いては釣り針がルアー(以下、鉛製のルアーをジグと言う)に直接装着されている為に、釣り糸が切れると釣り針、ジグ、釣り糸が永遠に水中に残ってしまい自然環境に悪影響を及ぼしてしまう。
【0003】
ジギングは、
図12に示すように、竿110、リール111、メインライン112、リーダー113、ジグ114、釣り針101(通常は2本から4本)から成る仕掛けを使用する。メインライン112としては、細くても強く伸びの少ない釣り糸であるPEラインが良く使用され、その太さや強さは号数やkgで表示され、号数が多くなるほど釣り糸は太くなり強くなる。例えば2号なら14kg、3号なら20kgの負荷まで耐えるものであり、釣り人は自分の好みや釣り物などにより号数を選択する。リーダー113は、メインラインの根ズレや歯ズレによる糸切れを防ぐために結ぶラインのことであり、2〜3メートル程度メインライン112の先に結んだものである。リーダー113としては、メインライン112の強度より強く太いフロロカーボンやナイロンラインと言ったメインライン112に使用するものとは異なった性質をもつ釣り糸を使用する。ジグ114や釣り針101はリーダー113の先に結ばれる。
【0004】
最近の釣り針は技術革新の向上により刺さり易く、魚が針にかかった場合、魚の強力な引きによって折れたり曲がったりしないように強度が向上されている。そのため根がかりした場合、外そうとして引っぱった際に、釣り針が切れずに釣り糸が切れ、ジグや糸が水中に残りやすい。
【0005】
従来から、様々な根がかりの対処法がなされてきた。ここでは、ジギングとして、「メインライン2号+リーダー8号+ジグ+下針2本」のラインシステム(
図12)を例として、
図13および
図14を参照して説明する。
図13(c)は根がかりの対策が無い場合であり、メインライン112から切れてしまい、釣り糸、ジグ、釣り針が永遠に水中に残る。それは、水中生物に絡む等して更に悪害となる。釣り人にとっても、魚が釣れないだけでなく高価な糸やジグが回収出来ずに経済的なリスクを伴う。
【0006】
一つ目の根がかりの対処法は、
図13(a)に示すように、釣り針全体を細くし強度を弱くして、根がかりの際に釣り針が伸びるか(左図)折れる(右図)ようにする方法である。しかし、この方法では、釣り針に魚が掛かった時にも魚の強い引きによって針が伸びたり折れたりして魚が逃げてしまい、釣り人にとっては非常に残念なリスクを伴う。二つ目の根がかりの対処法は、
図13(b)に示すように、リーダー113a(例えばリーダー8号)の先に、リーダー113aより弱いリーダー113b(例えばリーダー6号)を取付け、根がかり時にはリーダー113bから切れるようにする方法である。しかし、この方法ではジグ114やリーダー113bの一部が水中に残ってしまう。特にジグは鉛でできたものが多く、水中に放置されると鉛が溶け出し悪害となる。
【0007】
三つ目の根がかりの対処法として、
図14に示すように全体として強度の強い釣り針101に、切欠部(A、B、またはC)を設けたものがある。釣り針が根がかりの際に折れるようにするには、切欠部の破断強度をメインラインの強度より弱くする為の強度調節をする必要があるが、その調節は多種である。
【0008】
特許文献1は、釣り針の中間部に(
図14のAの位置)切込部を設けると共に、釣り針の表面全体に複数個の小凹部を設け、根がかりの際には切込部から折れるようにした釣り針を開示している。しかしながら、
図14の切欠部Aは、釣り針を曲げやすく折れやすくする為の場所としては適当であるが、魚がかかった後に魚の引きでも折れたり曲がったりしてしまうという課題が残る。特許文献2は、釣り針の強度を釣り糸の強度よりも弱く設定し、脆弱部をカエシ(あご)の付け根部分(
図14のBの位置)に設けることを開示している。
図14の切欠部Bは、加工と強度調整が困難で量産性も困難である。また
図14の切欠部Cのように、カエシよりも針先側に脆弱部を設けると、根がかりの際に脆弱部を含めた部分まで刺さってしまうことが多々あり折れないことがあるので、適切ではない。
【0009】
これらの問題から、未だ、根がかりを解決する釣り針は実用化されておらず、対応が求められている。
【0010】
一方、釣り針には、魚に刺さりやすいよう、貫通性能の向上が求められている。通常のカエシを備えた釣り針においては、詳細は後述するように、魚に針が刺さっていく時、カエシの部分が抵抗となっており、貫通性能を下げてしまうという課題がある。また、通常の釣り針では、魚が掛かった時、針が曲がったり折れたりしない限りは、カエシの部分で引っかかり針が魚から外れたりしないが、時々、魚の身が切れたりしてカエシを通り過ぎてしまい魚から針がはずれてしまう、所謂バラシが起こる。このバラシを防ぐことも、釣り針の課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実開平4−127164
【特許文献2】特開2001−321021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、自然環境を守り、魚がかかっても折れにくく、魚への貫通性能を向上し、バラシが抑制されやすい、釣り針の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、胴部と、一端が前記胴部の下端に接続される湾曲部と、前記湾曲部の上端部に尖って形成された針先と、前記針先の下方であって前記湾曲部の湾曲面内側に斜め下方に向って延び、かつ下端が尖って形成されたカエシと、前記湾曲部の湾曲面外側に形成された切欠部を備え、前記切欠部の上面は、前記湾曲部と前記カエシの境界部である前記カエシの基端部の外側の範囲内に形成され、前記切欠部は前記カエシの基端部よりも下方の位置まで形成されることを特徴とする、釣り針である。
【0014】
前記切欠部の上面は湾曲部外側から内側へ向けて形成され、前記切欠部の上面と、前記切欠部の上面に続く湾曲部外側における接線が形成する角度は80〜95度であることが好ましい。
【0015】
前記切欠部の最大深さは前記切欠部の下端における軸の太さの1/4〜3/4であり、前記切欠部は上部が深く、下方ほど浅くなる形状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、根がかりの際に釣り糸を引っぱり、切欠部から折損させることにより、鉛製のジグや釣り糸が海に残ることを防ぎ、環境の保全が可能となる。また、釣り人にとっては、ジグ等の仕掛けの損失を免れるという経済的な利益がある。さらに、切欠部の場所を工夫し、魚が掛かった時に力がかかりにくい位置に切欠部を形成したため、魚がかかった際に折れて魚を逃がすリスクを抑えることができる。さらに、カエシだけはなく切欠部にも魚がひっかかるためバラシが抑制される。また、カエシにおける抵抗を減らすことにより、魚への貫通性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態の釣り針1の正面図である。
【
図2】本発明の実施形態の釣り針1の先端領域付近の拡大図である。
【
図3】本発明の実施形態の釣り針1の左側面図である。
【
図4】本発明の実施形態の釣り針1の右側面図である。
【
図5】本発明の実施形態の釣り針1の平面図である。
【
図6】本発明の実施形態の釣り針1の底面図である。
【
図7】本発明の実施形態の釣り針1が根がかりした状態を説明する図である。
【
図8】従来の釣り針の先端領域付近の拡大図である。
【
図9】本発明の実施形態の釣り針1が折れた状態の写真である。
【
図10】本発明の実施形態の釣り針1に魚が掛かった状態の写真である。
【
図11】実施例2の引っ張り試験を説明する写真である。
【
図13】根がかりの対処法としての従来技術を説明する図である。
【
図14】根がかりの対処法としての従来技術を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜6に示すように、本実施形態に係る釣り針1は鉄製であって、略直線状に延びる胴部2と、胴部2の上端から連続するチモト3と、胴部2の下端から連続し、略U字形の湾曲部4と、湾曲部4の湾曲面内側に斜め下方に向って延びかつ下端が尖って形成されたカエシ6(もどし)を備える。湾曲部4は、針先8を有する先端領域5を含み、カエシ6は針先8より下方で先端領域5の下部に形成される。湾曲部4の外側には切欠部7が形成されている。
【0019】
湾曲部4は、前記胴部2の下端につながる腰曲げ部41と、腰曲げ部41の前方に形成される先曲げ部42とを含む。釣り針1は、先に説明した
図12のジギングに限定されず、餌釣りなど、様々な釣りに使用できる。この針先8と胴部2との間に、いわゆるふところ9が形成される。先端領域5は、針先8が胴部2の側に向くよう内向きに形成されている。
【0020】
図1、
図2に示されるように、切欠部7は、湾曲部4の湾曲面外側であり、かつ、カエシ6の裏側(外側)の少なくとも一部を含むように形成されている。
図2は、先端領域5付近を拡大した図であり、先端領域5の内側かつカエシ6の上方が略垂直状態となっている。カエシ6は、基端部D、すなわち前記湾曲部と前記カエシの境界部から、内側に突出するよう形成されている。
【0021】
本実施形態では、
図2において、基端部Dの外側の範囲内(
図2における基端部Dの高さ範囲内)を始点、基端部Dの外側の範囲内よりも下方の高さを終点として、軸内の内側方向へ切欠部7が形成されている。切欠部7の上面72は、カエシ6の基端部Dの外側の範囲内に形成され、切欠部7の下端部はカエシ6の基端部Dよりも下方となっている。
【0022】
切欠部7は、正面視において略4分の1楕円形状であり、上方が深く、下方に行くほど深さが小さくなる形状である。湾曲部4の先端領域5外側の切欠部7の上基端部における接線T(切欠部7上面に続く湾曲部外側における接線)と、切欠部7の上面72、すなわち1/4楕円形状の短軸とが形成する角部71の角度θは、80〜95°が好ましく、さらには85〜90°が好ましい。切欠部7は基端部Dに対応する湾曲部4外側の範囲内から内側へ略直角状に削って形成され、切欠部7の上端は、
図2において略水平な線となる。切欠部7の最も深い部分は、基端部Dの外側の範囲内に存在していることが好ましい。
【0023】
切欠部7の最大深さXは、切欠きの終点部(下端部)における軸の太さをYとすると、X/Y=1/4〜3/4が好ましい。好ましい軸の太さYや切欠部7の最大深さXは、使用する釣り糸の強度や、目的とする魚の種類によって異なる。切欠部7の高さは、3〜5mmが好ましい。
【0024】
切欠部7を上述の位置に形成することによって、釣り針1が岩などに根がかりした時に脆弱部となる切欠部7で折れるようになり、一方で、魚が掛かったときは、魚の引きによって切欠部7で折れたり曲がったりしないため、魚が逃げてしまうことを防げる。そのことについて、
図7を参照して、詳細に説明する。なお、
図7ではジグは省略してある。
【0025】
まず、釣り針1が岩などに根がかりしたとき針先8は岩の凹凸面に引っかかった状態になる。(
図7(a))その後、釣り糸を引くと図中矢印で示す方向に力が加わりフトコロ9が開いていく。(
図7(b))その後、針先は
図7(c)の状態までフトコロ9が開き、力が針先8に集中していく。このとき、針は刺さらずに引っかかっているのみである。さらに釣り糸を引くと、
図7(d)に示すように、脆弱部である切欠部7から折れるか、曲がる。このようにして、水中には僅か5ミリ程度の針先部分しか残らず、しかも針自体は殆どの物が鉄製であり、錆びて無くなるため、環境への悪影響が大幅に低減される。また、釣り人にとっては、折れて残った針先部分以外は回収できるため、高価な糸やジグも回収できる。
【0026】
一方、釣り針1の先端領域5のカエシ6の前面側(湾曲部4の外側)に切欠部7を設けることにより、魚が掛かった後も通常の切欠きのない釣り針と同程度の強度を保つ。それは、後述する貫通性能の向上により、魚が掛かれば一瞬にしてカエシ6より下方まで貫通し、魚による引っぱり強度に対しては湾曲部4の中央領域(
図1のKで表した領域)で耐える事ができるためである。従って、切欠部7を設けても、魚が掛かった際に針が折れたり曲がったりすることはなく、魚を逃がすリスクも少なくなる。
【0027】
さらに、本発明の釣り針1の他の利点として、魚への貫通性能の向上がある。それについて、
図2、
図8を参照して説明する。
【0028】
従来の切欠きのない針の場合、
図8に示すように、魚に針が(ア)´から(エ)´に向かって刺さる時、カエシの始まり部分で針径Lとなり、カエシまで貫通させるには、カエシの高さMが抵抗となる。その抵抗力の増加により、魚への貫通性能が低くなる。具体例を挙げて説明すると、(ア)´の位置における正面視における針の太さは2mmであり、(イ)´では3mm、(ウ)´では4mm、(エ)´では2mmであり、抵抗力の増加に比例すると考えられる太さの差は(4mm―2mm)により2mmとなる。
【0029】
これに対して、本発明では、
図1に示すように、切欠部7を湾曲部4の外側かつカエシ6の基端部Dの外側対応位置内を始点として設けることにより、カエシ6に抵抗が掛かり始まる頃に切欠部7により抵抗の増加を抑制し、魚は勢いよくカエシ6を一気に貫通する。具体例により説明すると、(ア)の位置における正面視における針の太さは2mmであり、(イ)では1mm、(ウ)では2.5mm、(エ)では2mmであり、抵抗力の増加に比例すると考えられる太さの差は(2.5mm−2mm)により0.5mmとなり、従来の針よりも抵抗が少ない。従って、魚への貫通性能が向上する。本発明においては、切欠部7は、カエシの基端部Dの外側の範囲内の位置から、前記カエシの基端部の外側よりも下方の位置まで形成されているため、先端領域5の強度を保ったまま、貫通性能を向上できる。
【0030】
本発明の釣り針1の更なる利点として、バラシの抑制がある。バラシとは魚が針にかかっても何かしらの要因で魚が逃げてしまう状況を言う。従来の釣り針では、魚が掛かった時、針が曲がったり折れたりしない限りは、カエシ6の部分で魚が引っかかり、針が魚から外れたりしないはずなのだが、時々、魚の身が切れたりしてカエシ6を通り過ぎてしまい魚から針がはずれてしまうことがある。本発明の釣り針1では、上述した位置に切欠部7を設け、さらに切欠部7の形状を略四分の一楕円形状とし、上述した角度θ(
図2参照)を80〜95度の範囲とすることにより、切欠部7と先端領域5の外側により形成された角部71の部分にも魚が引っかかり、カエシ6と角部71の両方によりバラシが抑制される。
【0031】
切欠部7の強度は貫通強度を保持しながら、切欠部7で針を折る為にメインラインの強度より弱くなるよう細かく調整する必要がある。本発明では切欠部7を針の外側から削り加工により形成するため、強度調節が非常に容易で量産性がある。
【実施例】
【0032】
[実施例1]
昨今、注目され人気のある釣りとして、ジギングによる深海の金目鯛釣りが知られている。フィールドは大型の金目鯛が釣れる東京都新島沖である。東京都新島沖はエサ釣りでは古くから有名なポイントで人気があり、釣れる金目鯛も「伊豆新島沖の金目鯛」として特に有名である。最近では金目鯛に限らずアブラボウズと言った50キロを超えるような巨大魚もジギングのターゲットになってきた。新島沖の金目鯛は水深が400〜600メートルと深く根が非常に荒い場所に生息し潮流も非常に速い。このような条件でジギングをするので当然根がかりも激しい。また、水深が深い為に使用するメインラインも長く、ジグの重さも800〜1500gと非常に重たく、容積の大きい鉛製のジグを使用するため、根がかりをしてメインラインが切れると、大きなジグや長いラインが水中に残ることとなり、環境にも釣り人にも悪影響を与える。この様な状況の下で、本発明の釣り針1を使用し実証試験を行った。
【0033】
株式会社オーナーばりのJF−27ジガーライトシワリを使用し、針の針径Y=1.45mmに対して最大深さXが1mmの切欠部7を形成した。切欠部7は上部が最も深く、下方ほど浅くなる形状とし、上述した角度θ(
図2参照)が80〜95度の範囲とした。釣り糸は強度14kgの糸を使用した。
図12に示すジギングの仕掛けにより、新島沖において、これまでに20日釣行し、一日12回ジグを投入した。その結果、一日約4回根がかりし、そのうち、2〜4回、切欠部7から針が折れ、それ以外の仕掛けは回収できた。平均で、約70パーセントの割合で切欠部7から釣り針1が折れ、それ以外の仕掛けは回収できた。
図9は、折れて回収された釣り針1の写真である。切欠部7から針先が折れていることが確認できる。
【0034】
本発明の釣り針は根がかり時に100%の回収率ではないが、それは根かがりする条件が多種であることが理由である。例えば、水中底には岩、サンゴ、海草、流木等の自然物やロープ、沈船等の人工物があり根がかりした時の針の状態が根がかりしたものによって違い、カエシの位置以上に針先が入ってしまう場合や、ジグ自体が引っかかってしまう場合があるためである。
【0035】
また、実証試験において、魚が掛かった後に切欠部7から折れた事は皆無だった。釣り針1は、魚の口の部分を貫通したり、魚肉の奥深くに刺さっており、切欠部7における貫通性能は向上したことが確認できた。また、魚が針にかかってからのバラシは無く、釣れた魚から針を外す時、脆弱部にも引っかかりカエシだけの時より外し難かった。それは、バラし難くなったためであると考えられる。
図10は、金目鯛が掛かった時の写真である。釣り針1(写真上)においては、切欠部7およびカエシ6を貫通し、湾曲部中央領域に魚がかかっている。釣り針1(写真下)においては、切欠部7およびカエシ6両方に魚がかかっており、バラシを抑制していることがわかる。
【0036】
[比較例1]
実施例1と同様の実証試験を、切欠部のない釣り針を用いて行った。釣り針には、株式会社オーナーばりのJF−27ジガーライトシワリを用いた。その結果、根がかると約90%の割合でメインラインとリーダーの結び目から切れたりメインライン自体から切れ、ジグの回収は不可能であった。本発明の釣り針との差は歴然であった。
【0037】
[実施例2]
実施例1と同じ装備で陸上において岩に針を掛け、釣り用のバネ測りを用いて破断試験を行った。株式会社オーナーばりのJF−27ジガーライトシワリを用い、釣り針1の切欠部7の深さは、針径に対して最大削り値である75%とした。釣り糸は強度14kgの糸を使用した。
図11の写真に示すとおり、2本の釣り針を岩に引っ掛けて、垂直方向上方へ引張荷重をかけ、針が折れるまでの最大荷重を測定した。13回試験を行ったが、2回は針が折れずに糸の結び目から切れたため、11回計測ができた。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示される通り、4〜9kgの引っ張り荷重をかけた時に釣り針は折れた。釣り針はすべて切欠部7から折れた。引っ張り荷重が4〜9キロと幅があるのは針自体の強度の誤差、切欠部7の削り具合の誤差、釣り糸自体の強度の誤差や伸び率のバラつきが考えられる。
【0040】
[比較例2]
実施例2と同様の試験を、切欠部のない釣り針を用いて行った。その結果、14kg前後の負荷をかけるとフトコロが開きだし、21kg前後の負荷で伸び折れることは無かった。ジギングに使うラインシステムでは糸が切れてしまった。
【0041】
本発明は、根がかりの際の釣り針の折れやすさ、魚が掛かった際の釣り針の折れにくさ、魚への貫通性能の向上、および、ばらしの抑制という4つの課題を同時に解決できるものであり、漁業、遊漁、レジャーにおいて、その利用価値は大である。
【0042】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において、改変等を加えることが出来るものであり、それらの改変、均等物等も本発明の技術的範囲に含まれることとなる。
【符号の説明】
【0043】
1・・・釣り針
2・・・胴部
3・・・チモト
4・・・湾曲部
5・・・先端領域
6・・・カエシ
7・・・切欠部
71・・・角部
72・・・切欠部上面
8・・・針先
D・・・基端部