(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ルーバー羽根部材には、開口部が通気経路に面するように設けられると共に第1の反射部と第2の反射部とは対向しないように配された共鳴器が含まれることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の遮音ルーバー。
開口部がルーバー羽根部材の長手方向に延びるスリット状であり、スリット状の開口部の両側には、前記共鳴器の内側の空間に延在する隔壁部が配されることを特徴とする請求項4に記載の遮音ルーバー。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。まず、遮音ルーバー1を構成するルーバー羽根部材10単体を説明する。
図1は本発明の実施形態に係る遮音ルーバー1に用いられるルーバー羽根部材10を示す図である。
【0018】
遮音ルーバー1は、複数のルーバー羽根部材10が、所定の間隔を置いて配置されることで構成されるものである。ここで、
図1乃至
図4においては、ルーバー羽根部材10や遮音ルーバー1を、長手方向に対する断面で見たものである。したがって、ルーバー羽根部材10や遮音ルーバー1は、紙面の奥行き方向に長尺体としての長さを有するものである。
【0019】
また、ルーバー羽根部材10における構成として、「直線部」などと呼称するが、実際の形状は平面部である。
【0020】
ルーバー羽根部材10は、剛性があり、音響透過損失が大きい材料によって構成することが好ましく、例えば、アルミニウムなどを用いることができる。
【0021】
ルーバー羽根部材10は、第1直線部31と、この第1直線部31と平行な第2直線部32と、第2直線部32から延在する放物線部40と、を有している。放物線部40は、音の反射部として機能する。
【0022】
第1直線部31と、第2直線部32とは第3直線部33によって連結されており、第1直線部31と、第2直線部32と、第3直線部33とによって、囲まれた空間には、補強リブ60が設けられている。
【0023】
ルーバー羽根部材10は、第1直線部31からは、第4直線部34を介して延在する円弧部50を有している。円弧部50は、音の反射部として機能する。
【0024】
上記のようなルーバー羽根部材10が複数、全てのルーバー羽根部材10の第1直線部31及び第2直線部32が平行となるように、互いに、所定の間隔を置いて配置されることで、遮音ルーバー1が構成される。
【0025】
すなわち、遮音ルーバー1においては、一のルーバー羽根部材10の第1直線部31が、他のルーバー羽根部材10の第2直線部32と、平行となるように配されている。
図2は本発明の実施形態に係る遮音ルーバー1を示す図である。
【0026】
図2に示すように、各ルーバー羽根部材10が固定されていれば、ルーバー羽根部材10を固定する方法としてはどのようなものを用いても構わない。また、図に示す遮音ルーバー1において、その左側が、設備機器などが設置されている騒音源側で、右側が受音側であるものとする。
【0027】
複数のルーバー羽根部材10を
図2に示すように配することで、隣り合うルーバー羽根部材10の間に、通気経路15が形成される。騒音源側における通気経路15の開口を、第1開口11として定義する。また、受音側における通気経路15の開口を、第2開口12として定義する。
【0028】
本発明に係る遮音ルーバー1を特徴付ける構造を以下に記す。第1として、第1直線部31及び第2直線部32によりなる平行対向する壁面で構成される通気経路(区間A)を有している。
【0029】
また、本発明に係る遮音ルーバー1の特徴的構造の第2として、放物曲面(区間B)を通気経路15の内壁として有している。
【0030】
また、本発明に係る遮音ルーバー1の特徴的構造の第3として、円弧曲面(区間C)を通気経路15の内壁として有している。
【0031】
また、本発明に係る遮音ルーバー1の特徴的構造の第4として、放物曲面(区間B)と円弧曲面(区間C)は点Dを共通の焦点とする。
【0032】
また、本発明に係る遮音ルーバー1の特徴的構造の第5として、通気経路15は騒音源側の第1開口11から区間A、区間B、区間Cの順で構成されている。
【0033】
次に、本発明による遮音ルーバー1が通気経路15を透過する騒音を低減する原理を以下に説明する。また、本発明による遮音ルーバー1の原理を説明する図を
図3、4に示す。図において、矢印は騒音の音波の流れの方向を示している。
【0034】
図3において、(0)に示すように、遮音ルーバー1における第1開口11には、様々な方向から騒音が入射する。
【0035】
(1)に示すように、通気経路15の区間Aに入射した騒音は、区間Aの幅(31と32の距離)が半波長以下となる周波数では、区間Aを平面波として伝搬する。
【0036】
次に、(2)に示すように、区間Aを平面波として伝搬し、区間Bの放物曲面で反射した音波は焦点Dに向けて収束する。
【0037】
次に、(3)に示すように、焦点Dを通過した音波は、区間Cの円弧曲面に入射する。
【0038】
次に、
図4の(4)に示すように、区間Cの円弧曲面で反射した音波は再び焦点Dに向けて収束する。
【0039】
続いて、(5)に示すように、焦点Dを通過した音波は、区間Bの放物曲面に入射する。
【0040】
次に、(6)に示すように、区間Bの放物曲面で反射した音波は、区間Aを平面波として伝搬し、騒音源側の第1開口11へ再放射される。
【0041】
以上のように、本発明に係る遮音ルーバー1によれば、遮音ルーバー1の通気経路15を伝搬する騒音を騒音源側へ再放射することで、通気経路15を透過する騒音を低減し、遮音ルーバー1の遮音性能を向上することができる。
【0042】
また、本発明に係る遮音ルーバー1によれば、必要となる部品はルーバー羽根部材10のみであり、部品点数を抑制でき、構造が単純であるので、製造や輸送、施工工数の増加に伴うコストを低減することができる。
【0043】
また、本発明に係る遮音ルーバー1によれば、様々な方向からの騒音に対処でき、十分な遮音性能を確保することが可能となる。
【0044】
本発明に係る遮音ルーバー1によれば、騒音入射角によらず、通気経路15を透過する騒音を低減することができる。
【0045】
また、本発明に係る遮音ルーバー1によれば、 ルーバー羽根部材10のみで、ルーバー壁を構成できるので、部材点数を減らし、構造を単純化できる。
【0046】
また、ルーバー羽根部材10本体は、同一断面図の長尺体であり、上記の部材点数の減少と構造の単純化と併せて、製造コストの低減、輸送コストの低減、設置が単純かつ効率的であることによる施工コストの低減などの効果が期待できる。
【0047】
ここで、以上で説明した本実施形態に係る遮音ルーバー1においては、第1開口11に入射した音波を、区間Aにおいて平面波とし、これを放物線部40よりなる区間Bの放物曲面で反射させ、いったん焦点Dを通過させた上で、円弧部50よりなる区間Cの円弧曲面で、再び焦点Dに向けて収束させ、さらに、放物線部40よりなる区間Bの放物曲面で反射させて、区間Aを平面波として伝搬させて、騒音源側の第1開口11に出射させる構成としているが、本発明に係る遮音ルーバー1の実施形態はこれに限られるものではない。
【0048】
本発明に係る遮音ルーバー1は、遮音ルーバー1の第1開口11から、入射した音波を平面波とし、それを通気経路15中の複数の反射部で反射させて、再び第1開口11から騒音源側に出射させる、という構成であれば、実施形態で説明した放物曲面や円弧曲面などからなる反射部に限定されるものではない。
【0049】
すなわち、本発明に係る遮音ルーバー1は、通気経路15中の形状に特徴を持たせることで、遮音ルーバー1の第1開口11から入射した音波を、再び第1開口11から出射させる、という技術思想一切をも含むものである。
【0050】
また、本発明に係る遮音ルーバー1は、通気経路15中の形状に特徴を持たせることで、通気経路15中に音波の焦点を形成し、この焦点を活用して遮音を図る、という技術思想も含むものである。部品点数が増えてしまうというデメリットはあるが、例えば、実施形態における焦点Dに吸音材を配して、焦点Dにおいて吸音を図ることなども、本発明に係る遮音ルーバー1に含まれるものである。
【0051】
以下、本発明に係る遮音ルーバー1による遮音効果について数値解析により確認を行ったので、以下に結果を示す。
図5は数値解析対象を示す図である。
【0052】
以下の数値計算には おいては2次元境界要素法を用いた。計算対象は、ルーバー羽根部材が一定の間隔を空けて配列されたルーバー壁である。
図5は計算対象としたルーバー壁の一部を示すものである。この例では、ルーバー羽根部材は120mm間隔で配置され、ルーバー羽根部材間の空隙、すなわち通気経路の幅は約31mmである。ルーバー羽根部材の表面は完全反射性として計算を行った。音源は、ルーバー壁から図面上左側に2m離れた位置に点音源を配置し、ルーバー壁の受音側(図面上右側)へ透過する音響エネルギーを計算により求めた。
【0053】
音源側の空間と受音側の空間は、高さ1.3mの開口で接続されており、その開口部にルーバー壁が配置される。比較対象として、ルーバー壁が配置されない単純な開口を透過する音響エネルギーを計算により求め、ルーバー壁の有無による音響エネルギーの低減量を遮音ルーバーの挿入損失、すなわち騒音低減性能として評価した。
【0054】
数値計算においては、1/15オクターブ毎の純音について行い、得られた受音側へ透過する音響エネルギーを1/3オクターブバンド中心周波数を中心とした5つずつエネルギー平均することで、1/3オクターブバンドの計算結果とした。得られた計算結果より、上記のように単純開口を基準としたルーバー壁による音響エネルギーの低減量を算出し、遮音ルーバーの挿入損失とした。
【0055】
図6に
図5に示した遮音ルーバーの挿入損失の周波数特性を示す。値が大きいほど高い騒音低減性能を持つことを示している。後述のスリット共鳴器を組み込んだ場合と区別するために、
図5に示した遮音ルーバーに基づく結果を「基本型」と称することとする。
【0056】
図6から、幅広い周波数範囲で正の挿入損失が得られており、ルーバー壁の通気性を確保しつつ透過する騒音を低減できていることが分かる。特に、2kHz以上の周波数においては5dB以上の挿入損失が得られている。ただし、1kHzを中心とした帯域で挿入損失が低下していることが分かる。この対策について以下に提案する。
【0057】
上記のように、基本型の遮音ルーバーは、1kHzを中心とした帯域で挿入損失が低下する。この帯域における挿入損失を向上させるため、音が伝搬する伝搬路における壁面を音響的に“ソフト”な状態とするスリット共鳴器を、本発明に係る遮音ルーバー1のルーバー羽根部材10に組み込むことによる騒音低減法を提案する。
【0058】
音が伝搬する伝搬路における壁面が音響的に“ソフト”な状態、すなわち、壁面の表面における音響インピーダンス比Zが0であるとき、音源側である上流側から伝搬してきた騒音は上流側へ反射され、受音側である下流側へ伝搬しないことが知られている。
【0059】
従来技術(例えば、特許第3831263号公報や特許第5454369号公報に記載の技術)では、音響管の管長が1/4波長と等しくなる周波数及びその奇数倍の周波数で、当該音響管の管口での音響インピーダンス比Zが0となることが開示されている。
【0060】
上記のような従来技術に対して、本発明に係る遮音ルーバー1では、
図7に示す背後に密閉された空洞を持つスリット構造による共鳴現象が生じるスリット共鳴器110を利用する。
図7は遮音ルーバー1に用いるスリット共鳴器を説明する図である。
図7(A)はスリット共鳴器110の斜視図である。また、
図7(B)は、
図7(A)のスリット共鳴器110のスリット状開口部150の長手方向を垂直で切って見た断面図である。
【0061】
図7に示すように、本発明に係る遮音ルーバー1に用いるスリット共鳴器110は、基本的に、内側の空間が中空である四角柱状の筐体140から構成されている。スリット共鳴器110を構成する筐体140の一面には、長手状のスリット状開口部150と、このスリット状開口部150の両側に配され、スリット共鳴器110の内側の空間に延在する隔壁部160と、を有することを特徴としている。ここで、スリット共鳴器110の各寸法は
図7に示す記号で表す。なお、スリット状開口部150が構成されている筐体140の一面と、隔壁部160とは互いに直交している。
【0062】
スリット共鳴器110の各寸法が波長に対して十分に小さい場合、スリット状開口部150における音響インピーダンス比Zは次式(1)で求めることができる。
【0064】
ただし、fは騒音の周波数、cは音速、ρは媒質(空気)密度を表す。また、V
nは、スリット状開口部150と隔壁部160とで囲まれた、
図2(B)の斜線部以外の空間の体積で、開口端補正を考慮して次式(2)で計算される。なお、式(2)における[ ]内の第2項が、開口端補正に関連する項である。また、
図7(B)で斜線部の空間は、共鳴器として機能するスリット共鳴器110の空気層に相当する。
【0066】
また、Vはスリット共鳴器110の空洞部の体積(空気層の体積)で、次式(3)で計算される。
【0068】
また、Sは、スリット状開口部150(スリット開口)の面積で、次式(4)で計算される。
【0070】
式(1)の右辺第1項のrは、共鳴器として機能するスリット共鳴器110の隔壁部160表面と空気の間に生じる摩擦などの音響抵抗である。隔壁部160を金属など表面が平滑な材料で構成する場合、音響抵抗rは極めて小さな値となり、次式を満足する共鳴周波数fにおいてスリット状開口部150の開口における音響インピーダンス比Zがほぼ0となる。
【0072】
このような共鳴器として機能する、2つのスリット共鳴器110を、音の伝搬路の壁面5に沿って対向配置すると、上記の周波数fにおいては対向するスリット部が音響的に“ソフト”な状態となり、上流側から伝搬してきた周波数fの騒音は上流側へ反射され下流側に伝搬しない。
【0073】
そこで、本実施形態に係る遮音ルーバー1では、上記のようなスリット共鳴器110を適用する。
図8にスリット共鳴器を組み込んだ遮音ルーバーの例を示す。スリット状の共鳴器の開口部はルーバー羽根部材間の通気経路に面するように設けられている。図示した共鳴器開口の寸法は、共鳴周波数が約850Hzとなるように定めている。
【0074】
前述したように、音の伝搬路(ルーバー壁においては通気経路)を挟んで2つのスリット共鳴器を対向配置することが理想ではあるが、遮音ルーバーの構造上、
図8に示すように1つのスリット共鳴器の片側配置とした。この例では、ルーバー羽根部材間の通気経路の幅は約31mmであり、スリット共鳴器の共鳴周波数850Hzにおける波長(400mm)と比較して十分に小さいため、スリット共鳴器の片側配置としても効果は期待できる。
【0075】
図6には、
図8に示したスリット共鳴器を組み込んだ遮音ルーバーの挿入損失の数値計算結果(基本型+共鳴器)が併せて示されている。
【0076】
図6によれば、共鳴周波数に近い800Hz及び1kHz帯域において、挿入損失が大きく改善しており、スリット共鳴器を遮音ルーバーに組み込むことによる効果が確認できる。
【0077】
スリット共鳴器の形状、開口寸法、配置位置は
図8に示した例に限られるものではない。ここでは、
図5に示した基本型の挿入損失の計算結果から、共鳴周波数を850Hzに設定したスリット共鳴器を組み込んだ例を示した。寸法、配置間隔等の異なる遮音ルーバーにおいても、数値計算または実験により挿入損失の周波数特性を求め、挿入損失を改善したい帯域に合わせてスリット共鳴器の共鳴周波数を設定し、スリット共鳴器の各寸法を決定する。この際、対象となる騒音の周波数特性を併せて勘案してスリット共鳴器の共鳴周波数を決定する場合もある。
【0078】
上記のようなスリット共鳴器をルーバー羽根部材10に組み込んだとしても、ルーバー羽根部材は同一断面の長尺体であるため、製造、施工におけるコスト減の効果は維持できる。