(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979768
(24)【登録日】2021年11月18日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】土壌舗装材料
(51)【国際特許分類】
E01C 7/10 20060101AFI20211202BHJP
E01C 15/00 20060101ALI20211202BHJP
E01C 7/36 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
E01C7/10
E01C15/00
E01C7/36
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-583(P2017-583)
(22)【出願日】2017年1月5日
(65)【公開番号】特開2018-109323(P2018-109323A)
(43)【公開日】2018年7月12日
【審査請求日】2019年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
(72)【発明者】
【氏名】寺島 勲
(72)【発明者】
【氏名】笠原 美里
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 晃
【審査官】
柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−014114(JP,A)
【文献】
特開昭60−215901(JP,A)
【文献】
特開2014−201502(JP,A)
【文献】
特開2005−139841(JP,A)
【文献】
特開2000−109832(JP,A)
【文献】
特開2015−120624(JP,A)
【文献】
特開2012−218977(JP,A)
【文献】
特開2015−124141(JP,A)
【文献】
特開2005−133064(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0145044(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 7/10
E01C 15/00
E01C 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメントと、潜在水硬性物質と土壌とを含有し、さらに、カルシウム類を含有し、前記アルミナセメント100質量部に対して前記カルシウム類を2〜30質量部含む土壌舗装材料。
【請求項2】
さらに、アルカリ金属類を含有する請求項1に記載の土壌舗装材料。
【請求項3】
前記アルミナセメント100質量部に対して前記土壌を50〜1000質量部含む請求項1又は2に記載の土壌舗装材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌舗装材料に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌舗装は天然の土壌が持つ弾力性や保水性を残し、衝撃の吸収や路面温度の安定化や防草性に寄与する舗装である。特に路面温度の上昇を抑える効果が高く、ヒートアイランド現象の対策として注目されている。また周囲の自然環境に調和しやすいため、公園や遊歩道、河川の土手、田畑の畦畔、鉄道、電気設備施設の周辺、道路、歴史的建造物の周囲など景観を重視する用途や雑草の生育を抑制する用途でも採用されている。
【0003】
従来、土壌舗装の材料としては、生石灰系、セメント系またはマグネシア系の固化剤を土壌に対して添加したものが知られている。
【0004】
セメントに土質材料を一定量加え、均一に混合した後、特定の無機硬化剤を含有する添加水を配合した舗装用組成物が記載されている(特許文献1)。また、真砂土に対してセメント及び炭酸カルシウムと珪石粉を主成分とする透水性土壌硬化混和剤を混練して舗装基礎上に敷設することが記載されている(特許文献2)。天然土、セメント及び少量の硬化剤を水練りする舗装組成物において、硬化剤として塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムを含むものを用いてなる天然土舗装組成物が記載されている(特許文献3)。
【0005】
これらのセメント系または生石灰系を用いた土壌舗装材料による舗装は、硬化に時間を要するため、早期開放ができない課題があり、特に低温時には固まらず、初期凍害をうけてしまうという課題、収縮量が大きくひび割れが生じるという課題、及び六価クロム溶出量が高いという課題がある。
【0006】
また、マグネシア系の固化剤を土壌に対して添加するものが提案されている。酸化マグネシウムと異種金属塩とを含有する土壌舗装材料(特許文献4)や、平均ペリクレース結晶子径が330〜430Åの酸化マグネシウムと、土壌とを予め混合した舗装材料(特許文献5)、さらに、マグネシア系固化剤、セメント混和用ポリマー及び水を含有する透水性舗装材組成物混合物(特許文献6)などの土壌改良剤がある。
【0007】
これらのマグネシアを含有する固化剤(硬化剤)を用いた土壌舗装材料による舗装は、硬化時間が長く、低温時には固まらず、凍害を受けてしまうという課題や防草効果が低い課題があった。
【0008】
また、カルシウムアルミネート系スラグを用いた土系固化材が提案されている(特許文献7)。このカルシウムアルミネート系スラグは、不純物が多く、さらにガラス化率が低いことから、CaO/Al
2O
3モル比を高くし反応活性を上げているが、セメント系や生石灰系やマグネシアを含有する固化剤と同様、硬化時間が長く、低温時には固まらず、凍害を受けてしまうといった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−10305号公報
【特許文献2】特開平6−306814号公報
【特許文献3】特開平9−87621号公報
【特許文献4】特開2005−154735号公報
【特許文献5】特開2014−51849号公報
【特許文献6】特開2005−290679号公報
【特許文献7】特許第5561921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のセメント系固化剤(硬化剤)やマグネシア系固化剤、さらにカルシウムアルミネート系スラグを用いた場合には、硬化時間が長く、低温時に固まらず凍害を受けてしまうという課題、収縮量が大きくひび割れが生じるという課題や防草効果が低く、六価クロム溶出量が高い課題というがあった。
本発明は、速硬性で凍害への抵抗性に優れ、かつ、防草性に優れ、六価クロム溶出量の少ない土壌舗装材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は、(1)アルミナセメントと、潜在水硬性物質と、土壌とを含有する土壌舗装材料、(2)さらに、カルシウム類を含有する(1)の土壌舗装材料、(2)さらに、アルカリ金属類を含有する(1)または(2)の土壌舗装材料、である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の土壌舗装材料は、速硬性であることから早期開放でき、寒冷地や低温環境下でも安定した舗装ができ、耐ひび割れや六価クロム溶出量が低く、さらに防草性に優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明で使用する部や%は、特に規定しない限り質量基準である。
【0014】
本発明で使用するアルミナセメントは、市販のいかなる種類のアルミナセメントも使用することが可能であるが、旧JIS R 2511:1995「耐火物用アルミナセメント」に規定されるものが好ましい。
【0015】
本発明で使用する潜在水硬性物質は、特に限定されるものではなく、いかなるものでも使用可能である。具体的には、高炉水砕スラグ等の急冷スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、及びライスハスクアッシュ(籾殻灰)、粘土鉱物、シラス灰、石炭灰、貝殻、及び各種焼却灰等が挙げられ、本発明ではこれらのうち一種又は二種以上の使用が可能である。
【0016】
潜在水硬性物質の使用量は、アルミナセメント100質量部に対して、5〜150質量部が好ましい。5質量部未満では、収縮の低減効果が十分でなく耐ひび割れ性が得られない場合がある。一方、150質量部を超えると、初期強度発現性が劣る場合がある。
【0017】
本発明に使用するカルシウム類は、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化酸カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、フッ化カルシウム、過マンガン酸カルシウム、ギ酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウムなどが挙げられ、1種又は2種以上使用することが可能である。これらの中では水酸化カルシウムが初期強度発現性の面で最も好ましい。
【0018】
カルシウム類の使用量は、アルミナセメント100質量部に対して、2〜30質量部が好ましい。2質量部未満であったり30質量部を超えると、初期強度発現性が劣る場合がある。
【0019】
本発明に使用するアルカリ金属類は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、さらに炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、亜硫酸塩、塩化物、塩化酸塩、酢酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、ケイ酸塩、フッ化塩、過マンガン酸塩、ギ酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩などが挙げられ、1種又は2種以上使用することが可能である。これらの中では炭酸塩が初期強度発現性の面で最も好ましい。
【0020】
アルカリ金属類の使用量は、アルミナセメント100質量部に対して、1〜30質量部が好ましい。1質量部未満であったり30質量部を超えると、初期強度発現性が劣る場合がある。
【0021】
本発明で使用する土壌は、砂利、砂、礫、粘土のいずれか1種又は2種以上を含むもので特に限定されるものではない。山砂、川砂、海砂等のサンド質土壌やシルト質土壌、クレイ質土壌、工事から発生する残土、軽量骨材、再生骨材や防草処理を行う箇所の土をそのまま用いることなどいずれも使用できる。一般には、天然土である真砂土や赤玉土や鹿沼土や乾燥砂は品質が安定しており、より好ましい。
【0022】
本発明の土壌舗装材料において、土壌の使用量は、特に限定されるものではないが、アルミナセメント100質量部に対して、50〜1000質量部が好ましく、100〜700質量部がより好ましい。土壌の使用量が50質量部より低いと、強度発現性は高いが経済的に好ましくない。一方、1000質量部より高いと強度が低く、凍害融解抵抗性に劣り、凹んでしまう可能性がある。
【0023】
水の使用量は、本発明の土壌舗装材料100質量部に対して5〜100質量部が好ましい。5質量部未満では混合が困難となる場合があり、一方、100質量部を超えると十分な強度が得られない場合がある。
【0024】
本発明では、凝結調整剤を本発明の効果に影響しない範囲で使用することが可能である。凝結調整剤は、カルシウムアルミネートの凝結を促進、遅延するものであれば特に限定されるものではない。具体的には、オキシカルボン酸又はその塩、リン酸又はその塩、デキストリン、ショ糖、ポリアクリル酸又はその塩、減水剤、高性能減水剤などを1種又は2種以上、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0025】
本発明では、酸化マグネシウムなどの低pHの固化材、ゴムチップ、ウッドチップ、もみ殻などの嵩をあげる増量材、石灰石微粉末などの混和材料、発泡剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、減水剤、流動化剤、ポリマー、中空微粒子、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体、着色剤、ゴムチップなどを1種又は2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0026】
本発明に係る土壌舗装材料を施工するには、各土壌舗装材料が均一に混合されれば、特に施工方法が限定されるものではない。土壌舗装材料を敷き詰めてジョウロや散水機で散水して被覆する方法、また事前に水と練混ぜた土壌舗装材料を被覆する方法があり、草刈してその後に除草剤を散布してから被覆するとより好ましい。さらに本発明の土壌舗装材料の土壌を除いたものを地面に敷設し、地面の土と混合攪拌して被覆することも可能である。
なお、土壌舗装を行うには、施工個所の基礎地盤上に当該土壌舗装材料を投入し、レーキ等を使用して均一に敷設を行うのが好ましい。この際転圧が有効に及ぼされるように、施工個所の周囲を境界ブロックや木枠等で予め囲っておいて、外部に土壌舗装材料が流出、拡散するのを防止するのが望ましい。
【0027】
上記のようにして土壌舗装材料の均一な敷設を行った後は、施工個所周縁部をハンド振動機等で強く締め固め、次いでプレート・ローラー等を用いて全面的に締め固めを充分に行うのが望ましい。
【0028】
このような本件発明に係る土壌舗装材料は、例えば公園や遊歩道、河川の土手、田畑の畦畔、鉄道、電気設備施設の周辺、道路、歴史的建造物の周囲など景観を重視する箇所に好適に適用される。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実験例に基づいて説明する。
【0030】
(実験例1)
アルミナセメント100質量部に対して、潜在水硬性物質とカルシウム類とアルカリ金属類と土壌の割合を変えて舗装材料を調製した。この舗装材を型枠に敷設後、土壌舗装材料100質量部に対して水を20部散水して舗装材料を調製し、硬化時間、初期凍害抵抗性、収縮量及び六価クロム溶出量の測定、並びに、防草試験及びひび割れ試験を行った。結果を表1に示す。
【0031】
<使用材料>
アルミナセメント:アルミナセメント、市販品、ブレーン値4,750cm
2/g、密度3.01g/cm
3
潜在水硬性物質A:高炉水砕スラグ微粉末、市販品、ブレーン値6,200cm
2/g、密度2.90g/cm
3
潜在水硬性物質B:フライアッシュ、市販品、ブレーン値4,400cm
2/g、密度2.35g/cm
3
潜在水硬性物質C:シリカフューム、市販品、ブレーン値135,000cm
2/g、密度2.30g/cm
3
潜在水硬性物質D:潜在水硬性物質Aと潜在水硬性物質Bを質量比1:1で混合したもの
カルシウム類A:水酸化カルシウム、一級試薬
カルシウム類B:硫酸カルシウム、一級試薬
カルシウム類C:炭酸カルシウム、一級試薬
アルカリ金属類A:炭酸ナトリウム、一級試薬
アルカリ金属類B:塩化カリウム、一級試薬
アルカリ金属類C:水酸化カリウム、一級試薬
土壌A:新潟県産川砂乾燥品、1.2mm篩下
土壌B:愛知県産真砂土、5mm篩下
土壌C:新潟県産砕石、30mm篩下
水:水道水
比較として、アルミナセメントを含有しないモルタル、マグネシア系固化材を調整した。モルタルの配合は、水セメント比50%、(一社)セメント協会製標準砂と普通ポルトランドセメントの割合を3/1として、JISR 5201に記載のモルタルを調製した。マグネシア系固化材は、中国産マグネシウムを焼成した市販の酸化マグネシウム100質量部に対して、土壌を600質量部、水を20質量部加えて舗装材料とした。
【0032】
<測定方法>
硬化時間:練り混ぜた土壌舗装材を指で押してもへこまない時間を測定した。
初期凍害抵抗性:「安定処理混合物の一軸圧縮試験方法(舗装試験法便覧 日本道路協会)」 に準拠し、20℃・相対湿度60%の環境下で、直径100 mm 、高さ127mm の円柱状供試体を作製した。供試体は、型枠に3 層に分けて詰め、各層25回突き棒で突いて作製し、直ちに−10℃の環境下で材齢7日まで養生した。その後、材齢28日まで20℃・相対湿度60%の環境下で気乾養生した後、圧縮強度を測定した。
20℃・相対湿度60%の環境下で材齢28日まで養生した供試体の圧縮強度に対する、強度低減割合を算出した。
収縮量:JIS A 6202の膨張コンクリートの拘束膨張及び収縮試験方法に準拠し、温度20℃・相対湿度60%の環境下で、4×4×16cmの供試体を作製した。材齢1日後に脱型し、20℃・相対湿度60%の環境下で材齢30日まで養生し、収縮量を測定した。
六価クロム溶出量:20℃・相対湿度60%の環境下で、5×5×20cmの供試体を作製した。材齢7日まで20℃・相対湿度60%の環境下で養生し、環境庁告示46号法に基づき測定した。
防草試験・ひび割れ試験:30cm×40cmのトレーに田畑の土を15cm敷きならし、芝生の種であるトールフェスク、ケンタッキーブルーグラス、ペレニアルライグラスの混合品を40g/m
2撒き、その上に土壌舗装材料を均一に厚み3cm敷設した後、土壌舗装材料100質量部に対して水を15質量部散水した。材齢1日後、1日間−10℃の恒温室に入れた後、1日間20℃の恒温室に入れ、これを10サイクル繰り返した後、屋外に置き、100日後のひび割れの本数、防草材表面から生えた芝の本数を測定した。
【0033】
【表1】
【0034】
表1より、本発明の土壌舗装材料は、優れた硬化特性、凍害抵抗性、防草性を有し、六価クロム溶出量が低いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の土壌舗装材料は、速硬性であることから早期開放でき、寒冷地や低温環境下でも安定した舗装ができる。さらに六価クロム溶出量が少なく、防草効果、ひび割れ抵抗性に優れるので、建築、土木分野などで広範に使用される。